【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 最先端研究開発支援プログラム 低炭素社会実現に資する有機系太陽電池の開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エレクトロクロミック材料は、Ti、V、Mn、Fe、Co、Cr、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Rh、In、W、Irから選ばれる元素の酸化物、複合酸化物、水酸化物および窒化物のいずれか1つ以上であることを特徴とする請求項4記載のエネルギー貯蔵型色素増感太陽電池。
前記光電極と前記電荷蓄積電極とが前記導電性基板の表面上で前記カチオン交換膜を介して接していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のエネルギー貯蔵型色素増感太陽電池。
前記エレクトロクロミック材料は、Ti、V、Mn、Fe、Co、Cr、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Rh、In、W、Irから選ばれる元素の酸化物、複合酸化物、水酸化物および窒化物のいずれか1つ以上であることを特徴とする請求項7記載のエネルギー貯蔵型色素増感太陽電池。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
1.第1実施形態
(1)エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池の構成
図1に示す第1実施形態に係るエネルギー貯蔵型色素増感太陽電池1は、光電極2と電荷蓄積電極3と触媒4で覆われた対向電極9とを備えている。光電極2は導電性基板5の表面上に形成されている。さらに当該導電性基板5の表面上には、電荷蓄積電極3が形成されている。対向電極9は、光電極2及び電荷蓄積電極3と対向するように配置されている。
【0016】
光電極2は、色素7を担持した色素担持用半導体6である。色素担持用半導体6は、表面積の大きな多孔質体であることが望ましい。色素担持用半導体6としては、例えば、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化スズ、酸化タングステン、酸化インジウム、ガリウムヒ素等から選ばれる1種以上が用いられる。色素担持用半導体6は、上記材料でなる粒子が積み重なって形成されている。光電極2では、当該粒子が色素7を担持している。
【0017】
色素7としては、可視光領域、赤外光領域、紫外光領域の少なくとも一つの領域の光を吸収でき、その励起準位が色素担持用半導体6の伝導帯のエネルギー準位よりも高いものが用いられる。例えば、ルテニウム系色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ローダミン系色素、キサンテン系色素、クロロフィル系色素、トリフェニルメタン系色素、アクリジン系色素、クマリン系色素、オキサジン系色素、インジゴ系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、ロダシアニン系色素、エオシン系色素、マーキュロクロム系色素等が色素7として用いられる。特に、ルテニウム−トリス(2,2’−ビスピリジル−4,4’−ジカルボキシレート)、ルテニウム−cis−ジチオシアノ−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシレート)、ルテニウム−cis−ジアクア−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシレート)、ルテニウム−シアノ−トリス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシレート)、シス−(SCN)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシレート)、ルテニウム等のルテニウムビピリジル錯体が望ましい。
【0018】
電荷蓄積電極3は、導電性基板5の表面上で、カチオン交換膜8を介して光電極2に接している。本実施形態の場合、電荷蓄積電極3は、表面と側面がカチオン交換膜8で覆われている。カチオン交換膜8は、光電極2の側面2aと電荷蓄積電極3の側面3aの間にも形成されており、カチオン交換膜8と光電極2の側面2aが接している。
【0019】
光電極2への光照射により生じた電子を電荷蓄積電極3に蓄積するには、電荷蓄積電極3の酸化還元電位が色素担持用半導体6のフラットバンド電位より正側であることが必要である。一方、電荷蓄積電極3に蓄えた電子を取り出すには、後述する電解質中に存在する還元体及び酸化体の酸化還元電位より電荷蓄積電極3の酸化還元電位が負側であることが必要である。
【0020】
また、電荷蓄積電極3は、酸化還元反応に伴い可視光領域で色が変化するエレクトロクロミック材料を含むことができる。エレクトロクロミック材料として、例えば、Ti、V、Mn、Fe、Co、Cr、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Rh、In、W、Irから選ばれる元素の酸化物、複合酸化物、水酸化物および窒化物のいずれか1つ以上の無機材料、又は、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリビニルカルバゾール、ポリビオロゲン、ポリポルフィリン、ポリフタロシアニン、ポリフェロセン、ポリアミン及びそれらのポリマーの誘導体、カーボンナノチューブ、フラーレン、並びにキノリン含有ポリマーから選ばれる1つ以上の有機材料を用いることができる。また、無機材料と有機材料とを組み合わせて用いることもできる。カチオン交換膜8としては、例えばデュポン社製のナフィオン(登録商標)、旭硝子社製のセレミオン(登録商標)等が用いられている。この他にも、フレミオン(登録商標)、ゴアテックス(登録商標)等を用いることができる。
【0021】
導電性基板5は、ガラスやプラスチック等の透明性を有する基板と、当該基板表面上に形成された透明性を有する導電膜とからなり、導電性基板5は透明性を有している。この導電膜の表面上に光電極2及び電荷蓄積電極3が形成されている。導電膜としては、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化タンタルから選ばれる1以上及びスズをドープした酸化インジウム(ITO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)等が用いられる。
【0022】
対向電極9は、ガラスやプラスチック等の透明性を有する基板と、当該基板表面上に形成された透明性を有する導電膜とからなり、導電膜の表面が触媒4で覆われている。
【0023】
触媒4は、後述する電解質に含まれている還元体の酸化反応又は酸化体の還元反応に対する触媒作用を有する物質、例えばプラチナ(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)やカーボン材料等で形成されている。
【0024】
導電性基板5と対向電極9の間には、例えば三井・デュポンポリケミカル社製ハイミラン(登録商標)等の樹脂で形成されたスペーサー12が設置されている。当該スペーサー12、導電性基板5、及び対向電極9に囲まれた内部空間11は、密閉されており、電解質が充填されている。
【0025】
電解質は、還元体、酸化体、及びカチオンを含む溶液である。電解質としては、キノンとハイドロキノンとを含む溶液、ヨウ化イオンとヨウ素とを含む溶液、臭化イオンと臭素とを含む溶液等が用いられる。カチオンとしては、リチウムイオンのようなアルカリ金属イオン等が用いられる。また、これらの溶液の溶媒としては、これらの物質が溶解する溶媒、例えばアセトニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、メタノール、エタノール、ブタノール、メトキシプロピオニトリル、N−メチルオキサゾリジノン、N−メチルホルムアミド、スルホラン、メトキシアセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ニトロメタン等が用いられる。
【0026】
(2)エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池の製造方法
図1との対応部分に同様の符号を付した
図2を参照して、エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池1の製造方法を説明する。まず、導電性基板5の表面上の所定の位置に、所定の形状の色素担持用半導体6を、スクリーン印刷技術により形成する(
図2A)。
【0027】
次に、色素担持用半導体6が形成された導電性基板5の表面上の所定の位置に、色素担持用半導体6と所定の隙間を空けて所定の形状の電荷蓄積電極3を、スクリーン印刷技術により形成する(
図2B)。
【0028】
次いで、色素担持用半導体6と電荷蓄積電極3とを形成した導電性基板5を、ホットプレート等を用いて所定温度で所定時間、加熱処理する。加熱処理された導電性基板5を室温に冷却後、色素7を混合したエタノール等の溶液に所定時間浸する。その後、導電性基板5を取り出して乾燥させることで、色素担持用半導体6に色素7を担持させる。この工程により、導電性基板5の表面上に光電極2を形成する(
図2C)。
【0029】
続いて、導電性基板5の表面上の光電極2の表面にカチオン交換膜8の原料が溶解された溶液を塗布し、常温で乾燥させた後、所定温度で所定時間加熱処理をする。このようにして、電荷蓄積電極3の表面と側面とをカチオン交換膜8で覆う。これにより、カチオン交換膜8は、光電極2の側面2aと接するように形成される。その後、導電性基板5を過塩素酸リチウムのアセトニトリル溶液に所定時間浸漬してカチオン交換膜8内のプロトンをLi
+に交換する処理を行う(
図2D)。
【0030】
触媒4が形成された対向電極9と、光電極2及びカチオン交換膜8で覆われた電荷蓄積電極3が形成された導電性基板5を、スペーサー12を間に挟んで熱圧着等により貼り合わせる。この工程では、導電性基板5、対向電極9、及びスペーサー12によって形成される内部空間11に電解質を充填してから導電性基板5と対向電極9とを貼り合わせて内部空間11を密閉する(
図2E)。以上のようにして、エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池1を製造する。
【0031】
(3)作用及び効果
図1を参照して、エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池1の充電時及び放電時の動作を説明する。まず、充電時の動作について説明する。
図1に示すように、光電極2に光が照射されると、光電極2の色素7が励起する。色素7の励起準位が色素担持用半導体6の伝導帯のエネルギー準位よりも高いため、色素7から色素担持用半導体6の伝導帯へ電子が注入され、色素7が酸化される。色素担持用半導体6の伝導帯へ注入された電子は、当該伝導帯、導電性基板5を伝導し、電荷蓄積電極3に到達する。
【0032】
電荷蓄積電極3に到達した電子は、カチオン交換膜8を通過してきたカチオン及び電荷蓄積電極3と反応して、電荷蓄積電極3に蓄積される。例えば、電荷蓄積電極3としてWO
3、カチオンとしてLi
+を用いた場合、電荷蓄積電極3では、WO
3+xLi
++xe
−→LixWO
3という反応が生じ、電荷蓄積電極3が還元されて電子が電荷蓄積電極3に蓄積される。電荷蓄積電極3にエレクトロクロミック材料が含まれている場合は、この反応によりエレクトロクロミック材料の色が変化する。
【0033】
また、光電極2では、電解質に含まれる還元体と色素7とが反応し、色素7が還元され、励起前の状態に戻る。一方で、還元体は酸化され、酸化体となる。
【0034】
この反応が繰り返し生じることで、エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池1は充電される。電荷蓄積電極3にエレクトロクロミック材料が含まれている場合は、充電により電荷蓄積電極3の色が変化する。
【0035】
次に、放電時の動作について説明する。
図1に示すように、電荷蓄積電極3が形成された導電性基板5と対向電極9の間に外部負荷10を接続すると、電荷蓄積電極3では、電荷蓄積電極3が酸化されて電子とカチオンが発生する。例えば、電荷蓄積電極3としてWO
3、カチオンとしてLi
+を用いた場合、電荷蓄積電極3では、LixWO
3→WO
3+xLi
++xe
−という反応が生じる。電荷蓄積電極3にエレクトロクロミック材料が含まれている場合、この反応によってエレクトロクロミック材料の色が変化する。
【0036】
発生したカチオンは、カチオン交換膜8を通って、電解質中に放出される。発生した電子は、導電性基板5を伝導し、外部負荷10に供給される。外部負荷10に供給された電子は、触媒4で覆われた対向電極9に到達する。触媒4で覆われた対向電極9に到達した電子は、電解質中の酸化体を還元する。当該還元反応により、酸化体は還元体となる。このとき、例えば、触媒4を構成するPtが触媒として作用する。
【0037】
この反応が繰り返し生じることで、エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池1は放電される。電荷蓄積電極3にエレクトロクロミック材料が含まれている場合は、放電により電荷蓄積電極3の色が変化する。
【0038】
以上の構成において、本実施形態のエネルギー貯蔵型色素増感太陽電池1は、電荷蓄積電極3と光電極2とを同一の導電性基板5の表面上に形成して一つの電極としたので、当該電極と触媒4で覆われた対向電極9との二つの電極でエネルギー貯蔵型色素増感太陽電池1を構成でき、構成を簡略化することができる。
【0039】
また、エレクトロクロミック材料を含む電荷蓄積電極3を、透明性を有する導電性基板5の表面上に形成することで、電荷蓄積電極3の酸化・還元反応に応じてエレクトロクロミック材料の色が変化し、それに伴い電荷蓄積電極3の色も変化するので、充電状態を電荷蓄積電極3の色の変化から容易に確認できる。
【0040】
さらに、光電極2と電荷蓄積電極3とを同一の透明性を有する導電性基板5の表面上に形成しているので、充電時に受光面から充電状態を確認できる。
【0041】
また、導電性基板5と対向電極9とを共に透明性を有するようにすることで、対向電極9の側からも充電状態を確認することができる。
【0042】
2.第2実施形態
(1)エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池の構成
図1との対応部分に同様の符号を付した
図3を参照して、第2実施形態に係るエネルギー貯蔵型色素増感太陽電池13を説明する。エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池13は、導電性基板5の表面上に集電体14が形成されている点が上記第1実施形態と異なる。他の部分の構成は、第1実施形態と同様なので、説明を省略する。
【0043】
図3に示すように、エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池13の導電性基板5は、表面上に光電極2と電荷蓄積電極3と集電体14とが設けられている。集電体14は、光電極2と電荷蓄積電極3の間に形成されており、保護膜15で覆われている。そして、集電体14は、導電性基板5の表面上で、保護膜15を介して、一側面14aが光電極2と接し、他側面14bが電荷蓄積電極3のカチオン交換膜8と接している。集電体14は、例えばAg、Au、Cu、Pt、Al等の導電性を有する金属で形成されている。保護膜15は、例えばガラス、無機絶縁材料、ポリオフィレン、熱可塑性樹脂等で形成されている。
【0044】
(2)エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池の製造方法
図3との対応部分に同様の符号を付した
図4を参照して、エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池13の製造方法を説明する。まず、導電性基板5の表面上の所定の位置に、所定の形状をした集電体14を、スクリーン印刷技術により形成する(
図4A)。
【0045】
次に、集電体14が形成された導電性基板5の表面上の所定の位置に、集電体14と所定の隙間を空けて所定の形状の色素担持用半導体6を、スクリーン印刷技術により形成する(
図4B)。
【0046】
次いで、集電体14と色素担持用半導体6を形成した導電性基板5の表面上の所定の位置に、集電体14と所定の隙間を空けて電荷蓄積電極3を形成する(
図4C)。
【0047】
続いて、集電体14の表面に保護膜15を形成する。保護膜15は、スクリーン印刷等の方法により、保護膜15が色素担持用半導体6と接するように形成する(
図4D)。
【0048】
次いで、第1実施形態と同じ方法で、導電性基板5の表面上に形成された色素担持用半導体6に色素7を担持させて光電極2を形成する(
図4E)。
【0049】
続いて、第1実施形態と同じ方法で、電荷蓄積電極3の表面にカチオン交換膜8を形成する。カチオン交換膜8は、保護膜15と接するように形成する(
図4F)。
【0050】
最後に、触媒4が形成された対向電極9と導電性基板5とをスペーサー12を間に挟んで熱圧着等により貼り合わせる。この工程では、導電性基板5、対向電極9、及びスペーサー12によって形成される内部空間11に電解質を充填してから導電性基板5と対向電極9とを貼り合わせて内部空間11を密閉する(
図4G)。以上のようにして、エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池13を製造する。
【0051】
(3)作用及び効果
第2実施形態のエネルギー貯蔵型色素増感太陽電池13は、光電極2と電荷蓄積電極3とが同一の透明性を有する導電性基板5上に形成されているので、第1実施形態のエネルギー貯蔵型色素増感太陽電池1と同様に動作し、同様の効果を奏する。
【0052】
また、エレクトロクロミック材料を含む電荷蓄積電極3を、透明性を有する導電性基板5の表面上に形成することで、電荷蓄積電極3の酸化・還元反応に応じてエレクトロクロミック材料の色が変化し、それに伴い電荷蓄積電極3の色も変化するので、充電状態を電荷蓄積電極3の色の変化から容易に確認できる。
【0053】
さらに、光電極2と電荷蓄積電極3の間に集電体14を備えているので、導電性基板5の電気伝導度を高めることができ、より効率的に蓄電を行うことができる。
【0054】
3.第3実施形態
(1)エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池の構成
図1との対応部分に同様の符号を付した
図5を参照して、第3実施形態に係るエネルギー貯蔵型色素増感太陽電池16を説明する。エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池16は、光電極2と電荷蓄積電極3とが異なる基板上に形成され、対向電極17が内部空間11に形成されて三電極構造をしている点が、第1実施形態と異なる。他の部分の構成は、第1実施形態と同様なので、説明を省略する。
【0055】
図5に示すように、エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池16では、光電極2が導電性基板5の表面上に形成されている。エレクトロクロミック材料を含む電荷蓄積電極3は、導電性基板5に対向するように設けられた導電性基板22の表面上に形成されている。導電性基板22は、透明性を有する基板と、透明性を有する導電膜とでなり、当該導電膜の表面上に電荷蓄積電極3が形成されている。
【0056】
また、対向電極17は、電解質に含まれている還元体の酸化反応又は酸化体の還元反応に対する触媒作用を有する物質、例えばPtで形成されており、メッシュ形状をしている。対向電極17は、内部空間11において、光電極2と電荷蓄積電極3の間に、メッシュの面が導電性基板5の表面と略平行になるように配置されており、光電極2及び電荷蓄積電極3と対向している。対向電極17としては、金メッシュ、銀メッシュ、カーボンメッシュ、パラジウムメッシュ、多孔性ダイヤモンド等を用いることができる。
【0057】
(2)作用及び効果
図5を参照して、エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池16の充電時及び放電時の動作を説明する。まず、充電時の動作について説明する。
図5に示すように、光電極2に光が照射されると、光電極2の色素7が励起する。色素7の励起準位が色素担持用半導体6の伝導帯のエネルギー準位よりも高いため、色素7から色素担持用半導体6の伝導帯へ電子が注入され、色素7が酸化される。色素担持用半導体6の伝導帯へ注入された電子は、当該伝導帯、導電性基板5、導線19、20、導電性基板22を伝導し、電荷蓄積電極3に到達する。
【0058】
電荷蓄積電極3に到達した電子は、カチオン交換膜8を通過してきたカチオン及び電荷蓄積電極3に含まれるエレクトロクロミック材料と反応して、電荷蓄積電極3に蓄積される。すなわち、エレクトロクロミック材料が還元されて電荷蓄積電極3に電子が蓄積される。この反応によりエレクトロクロミック材料は色が変化する。
【0059】
また、光電極2では、電解質に含まれる還元体と色素7とが反応し、色素7が還元され、励起前の状態に戻る。一方で、還元体は酸化され、酸化体となる。
【0060】
この反応が繰り返し生じることで、エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池16は充電され、電荷蓄積電極3の色が変化する。
【0061】
次に、放電時の動作について説明する。
図5に示すように、電荷蓄積電極3が形成された導電性基板22と対向電極17の間に外部負荷10を接続すると、電荷蓄積電極3では、エレクトロクロミック材料が酸化され、電子とカチオンが発生する。この反応によって、エレクトロクロミック材料の色が変化する。発生したカチオンはカチオン交換膜8を通って、電解質中に放出される。発生した電子は、導電性基板22、導線20、18を伝導して外部負荷10に供給される。外部負荷10に供給された電子は、外部負荷10から導線21を伝導して対向電極17に到達する。対向電極17に到達した電子は、電解質中の酸化体を還元する。当該還元反応により、酸化体は還元体となる。このとき、例えば、対向電極17を構成するPtが触媒として作用する。
【0062】
この反応が繰り返し生じることで、エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池16は放電され、電荷蓄積電極3の色が変化する。
【0063】
以上の構成において、電荷蓄積電極3にエレクトロクロミック材料を含むように構成したので、電荷蓄積電極3の酸化・還元反応に応じてエレクトロクロミック材料の色が変化し、それに伴い電荷蓄積電極3の色も変化するので、充電状態を電荷蓄積電極3の色の変化から容易に確認できる。
【0064】
また、透明性を有する導電性基板22の表面上に電荷蓄積電極3を形成することで、導電性基板22の側から充電状態を確認することができる。
【0065】
4.実施例
(1)エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池の形状
実施例1として、第1実施形態のエネルギー貯蔵型色素増感太陽電池を作製し、実施例2として、第2実施形態のエネルギー貯蔵型色素増感太陽電池を作製した。
【0066】
実施例1のエネルギー貯蔵型色素増感太陽電池(以下、実施例1の太陽電池と呼ぶ。)は、
図6Aに示すように、ロ字型をした光電極2の内側に、略四辺形状の電荷蓄積電極3が形成されている。実施例1の太陽電池は、光電極2としてRu錯体色素を担持したTiO
2、電荷蓄積電極3としてWO
3、触媒4としてPt、カチオン交換膜8としてナフィオン(登録商標)、電解質として、I
−、I
3−及びLi
+を含むアセトニトリル、導電性基板5として、表面にFTOを形成したガラス基板、対向電極9として、表面にITOを形成したガラス基板を用いて、上記の製造方法により作製した。
【0067】
実施例2のエネルギー貯蔵型色素増感太陽電池(以下、実施例2の太陽電池と呼ぶ。)は、
図6Bに示すように、集電体14が格子状に形成されており、当該格子の内側に、略四辺形状をした光電極2又は電荷蓄積電極3が形成されている。光電極2と電荷蓄積電極3は交互に配置されている。実施例2の太陽電池は、光電極2としてRu錯体色素を担持したTiO
2、電荷蓄積電極3としてWO
3、触媒4としてPt、カチオン交換膜8としてナフィオン、集電体14としてAg、保護膜15、電解質として、I
−、I
3−及びLi
+を含むアセトニトリル、導電性基板5として、表面にFTOを形成したガラス基板、対向電極9として、表面にITOを形成したガラス基板を用いて、上記の製造方法により作製した。
【0068】
(2)エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池の特性評価
まず、実施例1の太陽電池及び実施例2の太陽電池の電流電圧特性を測定した。測定した電流電圧特性の結果から短絡電流密度Jscと開放電圧Vocを求め、JscとVocの値から曲線因子FF、変換効率ηを算出した。この結果を
図7に示す。
図7は、縦軸が電流密度、横軸が電圧である。実施例1の太陽電池の変換効率ηが2.5%であり、実施例2の太陽電池の変換効率ηが4.5%であるので、実施例1の太陽電池及び実施例2の太陽電池は発電能力を有することが確かめられた。
【0069】
次に、実施例1の太陽電池及び実施例2の充電性能を評価した。放電した太陽電池にソーラーシミュレータを光源に使用して光を照射し、光照射開始からの経過時間に対する太陽電池の電荷量の変化を測定した。その結果を
図8に示す。
図8は、縦軸が太陽電池の電荷量、横軸が太陽電池に光を照射した時間である。実施例1の太陽電池及び実施例2の太陽電池は共に、光の照射時間が長くなるにしたがって、電荷量も増加しており、5分経過した時点で電荷量がほぼ飽和していることがわかる。この結果から、実施例1の太陽電池及び実施例2の太陽電池は、光の照射により充電できることが確かめられた。
【0070】
次いで、放電性能を評価するために、充電した実施例1の太陽電池と実施例2の太陽電池に負荷を接続して0.1mA/cm
2の電流密度で放電し、放電開始からの経過時間に対する太陽電池の出力電圧の変化を測定した。なお、実施例1の太陽電池と実施例2の太陽電池は、ソーラーシミュレータを光源に使用して光を30分間照射することで充電した。その結果を
図9に示す。
図9は、縦軸が太陽電池の出力電圧で、横軸が放電開始からの経過時間と放電時の電流値の積である放電容量である。この結果から、実施例1の太陽電池と実施例2の太陽電池は、負荷を接続して放電できることが確かめられた。
【0071】
最後に、実施例2の太陽電池における、充電時の電荷蓄積電極3の色の変化を評価した。放電した実施例2の太陽電池に、ソーラーシミュレータを光源に使用して光を照射して充電し、充電開始からの経過時間に対する電荷蓄積電極3の光の透過率の変化を測定した。その結果を
図10に示す。
図10は、縦軸が光の透過率で、横軸が透過した光の波長である。
図10から、充電時間が長くなるほど、光の透過率が低くなっていることがわかる。この結果は、充電時間によって電荷蓄積電極3の色が変化することを意味している。よって、電荷蓄積電極3の色の変化から充電状態を確認できることが確かめられた。
【0072】
5.変形例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0073】
上記の第1実施形態では、対向電極9が透明性を有する基板を用いて形成された場合について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、当該基板が透明性を有していなくてもよい。
【0074】
また、上記の実施形態では、導電性基板5、22及び対向電極9として透明性を有する導電膜を表面に形成したガラス基板に用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、透明性と導電性とを有する基板を導電性基板5、22及び対向電極9として用いてもよい。
【0075】
さらに、上記の実施形態では、電荷蓄積電極3に含まれるエレクトロクロミック材料として、1つのエレクトロクロミック材料を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限られず、電荷蓄積電極3を複数の領域に分割し、それぞれの領域に異なるエレクトロクロミック材料を用いて、電荷蓄積電極3の色彩を多色にしてもよい。
【0076】
また、上記の第3実施形態では、透明性を有する導電性基板22の表面上に電荷蓄積電極3を形成した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、導電性基板22が透明性を有していなくてもよい。この場合は、導電性基板5の所定の領域に、光電極2を形成しないようにすることで、エネルギー貯蔵型色素増感太陽電池16の充電状態を受光面から確認することができる。