(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222642
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】乳化剤、エマルション、乳化剤の製造方法、及び乳化剤製造用原料
(51)【国際特許分類】
B01F 17/48 20060101AFI20171023BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20171023BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20171023BHJP
A23L 29/262 20160101ALI20171023BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20171023BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20171023BHJP
A61K 8/31 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
B01F17/48
A61K8/73
A61K47/38
A23L29/262
A61K8/06
A61K9/10
A61K8/31
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-87956(P2012-87956)
(22)【出願日】2012年4月6日
(65)【公開番号】特開2013-216607(P2013-216607A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 和夫
(72)【発明者】
【氏名】今井 洋子
【審査官】
池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】
再公表特許第2000/059948(JP,A1)
【文献】
国際公開第2012/035978(WO,A1)
【文献】
特開平09−087130(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/001757(WO,A1)
【文献】
国際公開第2008/001902(WO,A1)
【文献】
特表2011−506556(JP,A)
【文献】
特開平04−288092(JP,A)
【文献】
特表2013−527795(JP,A)
【文献】
特開2006−239666(JP,A)
【文献】
特開2013−199453(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/127163(WO,A1)
【文献】
特開2007−070304(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/162094(WO,A1)
【文献】
耐塩性に優れた高分子配合O/W乳化剤 NIKKOL ニコムルス LH,NIKKOL ニコムルス LH ,日本,日本ケミカルズ株式会社,2010年11月,第1頁〜第9頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00− 5/30
A23L 29/00−29/10
A61K 8/00− 8/99
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61Q 1/00−90/00
B01F 17/00−17/56
B01J 13/02−13/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を有しかつ一部に疎水性基が導入された粒径が8nm〜500nmである重縮合ポリマー粒子からなり、
前記疎水性基が、置換又は非置換の炭素数が8以上22以下であるアルキル基を含み、
前記重縮合ポリマー粒子を構成する重縮合ポリマーが、糖ポリマーであり、
三相乳化に用いられる乳化剤。
【請求項2】
前記重縮合ポリマー中の疎水化されていない水酸基に対する疎水性基のモル比が0.2〜2.0である請求項1記載の乳化剤。
【請求項3】
水相、油相、及び請求項1又は2記載の乳化剤を含む三相乳化エマルションであって、
前記乳化剤は、水酸基を有しかつ一部に疎水性基が導入された粒径が8nm〜500nmである重縮合ポリマー粒子からなり、
前記疎水性基が、置換又は非置換の炭素数が8以上22以下であるアルキル基を含み、
前記重縮合ポリマー粒子を構成する重縮合ポリマーが、糖ポリマーであるエマルション。
【請求項4】
前記重縮合ポリマーは、エマルションに対し0.01質量%以上5質量%以下の量で含まれる請求項3記載のエマルション。
【請求項5】
前記油相が、水に対して25mN/m以上又は20mN/m以下の平均界面張力を有する油からなる請求項3又は4記載のエマルション。
【請求項6】
水酸基を有しかつ一部に疎水性基が導入された粒径が8nm〜500nmである重縮合ポリマー粒子の結合体を含む粉末を水に分散させ、前記重縮合ポリマー粒子を分離する工程を有し、
前記疎水性基が、置換又は非置換の炭素数が8以上22以下であるアルキル基を含み、
前記重縮合ポリマー粒子を構成する重縮合ポリマーが、糖ポリマーであり、
三相乳化に用いられる乳化剤の製造方法。
【請求項7】
前記重縮合ポリマー中の疎水化されていない水酸基に対する疎水性基のモル比が0.2〜2.0である請求項6記載の方法。
【請求項8】
水酸基を有しかつ一部に疎水性基が導入された粒径が8nm〜500nmである重縮合ポリマー粒子の結合体を含み、
前記疎水性基が、置換又は非置換の炭素数が8以上22以下であるアルキル基を含み、
前記重縮合ポリマー粒子を構成する重縮合ポリマーが、糖ポリマーであり、
粒径が8nm〜500nmである重縮合ポリマー粒子からなる三相乳化に用いられる乳化剤の、製造用原料。
【請求項9】
前記重縮合ポリマー中の疎水化されていない水酸基に対する疎水性基のモル比が0.2〜2.0である請求項8記載の製造用原料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化剤、
エマルション、乳化剤の製造方法、及び乳化剤製造用原料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機能性油性基剤又は機能性粉末を水に乳化分散させる場合には、機能性油性基剤の所要HLBや粉末表面の性質に応じて界面活性剤を選択し、乳化分散を行っていた。また、乳化剤として用いられる界面活性剤の所要HLB値は、O/W型エマルションを作る場合とW/O型エマルションを作る場合とのそれぞれに応じて使い分ける必要があり、しかも、熱安定性や経時安定性が十分でないため、多種多様な界面活性剤を混合して用いていた(非特許文献1〜4等参照)。
【0003】
しかしながら、界面活性剤は、生分解性が低く、泡立ちの原因となるので、環境汚染等の深刻な問題となっている。また、機能性油性基剤の乳化製剤の調製法として、HLB法、転相乳化法、転相温度乳化法、ゲル乳化法等の物理化学的な乳化方法が一般に行われているが、いずれも油/水界面の界面エネルギーを低下させ、熱力学的に系を安定化させる作用をエマルション調製の基本としているので、最適な乳化剤を選択するために非常に煩雑かつ多大な労力を有しており、まして、多種類の油が混在していると、安定に乳化させることは殆ど不可能であった。
【0004】
そこで、特許文献1には、自発的に閉鎖小胞を形成する両親媒性物質により形成され、200nm〜800nmの粒度分布を有する親水性ナノ粒子を含有する乳化剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3855203号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“Emulsion Science” Edited by P. Sherman, Academic Press Inc. (1969)
【非特許文献2】“Microemulsions−Theory and Practice” Edited by Leon M. price, Academic Press Inc. (1977)
【非特許文献3】「乳化・可溶化の技術」 辻薦,工学図書出版(1976)
【非特許文献4】「機能性界面活性剤の開発技術」 シー・エム・シー出版(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に示される親水性ナノ粒子を用いても、水に対する界面張力が大きい油性成分の場合、良好な乳化状態が十分に得られない場合がある。逆に、水に対する界面張力が小さい油性成分の場合にも、良好な乳化状態が十分に得られない場合がある。
【0008】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、油性成分の水に対する界面張力にかかわらず、良好に乳化状態を与えることができる乳化剤、その製造方法、及び乳化剤製造用原料を提供することを目的とする。また、本発明は、そのような乳化剤によって乳化された
エマルションを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、水酸基を有しかつ一部に疎水性基が導入された重縮合ポリマー粒子が、油性成分の水に対する界面張力にかかわらず良好に乳化できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) 水酸基を有しかつ一部に疎水性基が導入された重縮合ポリマー粒子からなる乳化剤。
【0011】
(2) 前記疎水性基は、置換又は非置換の長鎖アルキル基を含む(1)記載の乳化剤。
【0012】
(3) 前記長鎖アルキル基は、炭素数8以上22以下のアルキル基である(2)記載の乳化剤。
【0013】
(4) 水相、油相、及び(1)から(3)いずれか記載の乳化剤を含む
エマルション。
【0014】
(5) 前記油相が、水に対して25mN/m以上又は20mN/m以下の平均界面張力を有する油からなる(4)記載の
エマルション。
【0015】
(6) 水酸基を有しかつ一部に疎水性基が導入された重縮合ポリマー粒子の結合体を含む粉末を水に分散させ、前記重縮合ポリマー粒子を分離する工程を有する乳化剤の製造方法。
【0016】
(7) 前記疎水性基は、置換又は非置換の長鎖アルキル基を含む(6)記載の方法。
【0017】
(8) 前記長鎖アルキル基は、炭素数8以上22以下のアルキル基である(7)記載の方法。
【0018】
(9) 水酸基を有しかつ一部に疎水性基が導入された重縮合ポリマー粒子の結合体を含む乳化剤製造用原料。
【0019】
(10) 前記疎水性基は、置換又は非置換の長鎖アルキル基を含む(9)記載の乳化剤製造用原料。
【0020】
(11) 前記長鎖アルキル基は、炭素数8以上22以下のアルキル基である(10)記載の乳化剤製造用原料。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、水酸基を有しかつ一部に疎水性基が導入された重縮合ポリマー粒子を用いることで、油性成分の水に対する界面張力にかかわらず良好に乳化状態を与えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を説明するが、これらに本発明が限定されるものではない。
【0023】
<乳化剤>
本発明に係る乳化剤は、水酸基を有しかつ一部に疎水性基が導入された重縮合ポリマー粒子からなる。かかる重縮合ポリマーは、親水性部分である水酸基が外側に、疎水性部分である疎水性基が内側に向くことで、強固な構造体になるため、油相の水に対する界面張力が大きくても、粒子構造を保持し、乳化能力を損ないにくいと推測される。また、重縮合ポリマーに疎水性基が導入されることで、重縮合ポリマー全体の親水性の程度が下がる結果、重縮合ポリマー粒子の周囲の水相が薄くなる。この結果、重縮合ポリマー粒子と油相との間の分子間力が高まり、界面張力が小さい油相であっても、長期間に亘って安定に重縮合ポリマー粒子が油相の周囲に配置され続ける。これにより、油相の水に対する界面張力が小さくても、乳化能力を損ないにくいと推測される。なお、「疎水性基が導入された」は、疎水性基を有しない重縮合ポリマーに疎水性基を事後的に導入してなるものに限られず、元来疎水性基を有する重縮合ポリマーも包含するが、水酸基と疎水性基とによるエステル結合を有することは必須である。なお、本発明に係る乳化剤は、重縮合ポリマー粒子が水に分散された形態を有する。
【0024】
疎水性基は、疎水結合により重縮合ポリマー粒子の構造を強固にし、また重縮合ポリマー全体の親水性の程度を下げるものであり、このような機能を有する疎水性基自体は従来周知であり、強固にすべき程度に応じ適宜選択されてよい。中でも、疎水性基は、乳化性能の向上効果に優れる点で、置換又は非置換の長鎖アルキル基を含むことが好ましい。長鎖アルキル基は、直鎖又は分岐鎖のいずれでもよく、炭素数が8以上、10以上、12以上、14以上、16以上、18以上であってよく、炭素数が8以上22以下であることが好ましく、例えばステアリル基が挙げられる。なお、重縮合ポリマーに導入される疎水性基は、1種でもよく、2種以上であってもよい。
【0025】
疎水性基の導入量は、過小であると、重縮合ポリマー粒子の構造強固が不十分になりやすく、過大であると、水酸基が不足し、油相になじみすぎて乳化性能が不十分になりやすい。具体的な疎水性の導入量は、用いる疎水性基及び重縮合ポリマーによって適宜選択されてよく、例えば重縮合ポリマー中の水酸基(疎水化されていない水酸基)に対する疎水性基のモル比が、0.2〜2.0(具体的には、0.24〜1.63)質量%程度であってよい。
【0026】
水酸基を有する重縮合ポリマーは、天然高分子又は合成高分子のいずれであってもよく、乳化剤の用途に応じて適宜選択されてよい。ただし、安全性に優れ、一般的に安価である点で、天然高分子が好ましく、乳化機能に優れる点で以下に述べる糖ポリマーがより好ましい。
【0027】
糖ポリマーは、セルロース、デンプン等のグルコシド構造を有するポリマーである。例えば、リボース、キシロース、ラムノース、フコース、グルコース、マンノース、グルクロン酸、グルコン酸等の単糖類の中からいくつかの糖を構成要素として微生物が産生するもの、キサンタンガム、アラビアゴム、グアーガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、フコイダン、クインシードガム、トラントガム、ローカストビーンガム、ガラクトマンナン、カードラン、ジェランガム、フコゲル、カゼイン、ゼラチン、デンプン、コラーゲン等の天然高分子、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、セルロース結晶体、デンプン・アクリル酸ナトリウムグラフト重合体、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の半合成高分子、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキシド等の合成高分子が挙げられる。
【0028】
水酸基の一部に疎水性基が導入された重縮合ポリマーは、一般式1で示される化合物を含んでよい。
【化1】
一般式1
式中、Rは、各々独立して、水素、メチル、−[R’O]
mH(式中、R’はアルキル基、mは1以上の整数である)、又は−R’’OC
pH
2p+1(式中、R’’は側鎖に水酸基を有するアルキル基、pは8以上22以下の整数である)であり、nは100以上の整数である。nは、過小であると安定な粒子を形成しにくいが、本発明では疎水性基が導入されて安定な粒子が形成されやすいため、従来よりも低い値もとり得る。具体値は、適宜設定されてよく、例えば500以上、1000以上、1500以上、2000以上であってよい。R’及びR’’は、一般式1の化合物を合成する際に用いられる基にすぎず、種々のものであってよく、例えばR’は炭素数1〜3程度のアルキル基であってよく、R’’はヒドロキシプロピル基であってよい。
【0029】
具体的には、例えば、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(例えば、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース)が挙げられ、大同化成社製「サンジェロース」(商標)「60L」、「90L」や、「60M」、「90M」等の市販品も使用できる。
【0030】
重縮合ポリマー粒子は、粒度分布測定装置FPAR(大塚電子(株)社製)で測定される粒径が8nm〜500nmの範囲であり、これにより均質かつ優れた乳化機能を有する。
【0031】
(製造方法)
本発明に係る乳化剤の製造方法は、その重縮合ポリマーの粉末を、水に分散して分散液を調製した後、加熱して重縮合ポリマー粒子を水中に分離する工程を有する。
【0032】
具体的には、まず、水酸基を有する重縮合ポリマー粒子の結合体を含む粉末を、水に分散して分散液を調製する。粉末の凝集体が残留すると、以後の膨潤等の工程の効率が悪化するため、粉末を水に分散することで、粉末の凝集体をなくす、若しくはその量を減らす。分散は、用いる重縮合ポリマーに応じ常法に沿って行えばよい。
【0033】
なお、分散液における粉末の量は、操作性及び量産化の要請を考慮して適宜設定してよい。即ち、粉末の量が過大であると、粉末膨潤後の高粘性化によって撹拌等の操作が困難になりやすい一方、過小であると、量産の面で不都合である。従って、粉末の量は、これらの事情を考慮し、用いる重縮合ポリマーに応じて適宜設定してよく、通常は1質量%以下程度である。
【0034】
次に、粉末を膨潤し、さらに粉末に由来する水素結合を可逆的条件下で切断することで、結合体の高次構造が緩和された緩和物を生成する。これにより、高次構造が緩和され、重縮合ポリマー粒子を分離しやすい状況が整いつつ、水素結合を回復させることで、重縮合ポリマー粒子の乳化機能を維持できる。
【0035】
粉末を膨潤することで、重縮合ポリマー粒子が水和し、水素結合の切断等の作用を効率的に与えることができる。粉末の膨潤は、通常、粉末の透明化、分散液の粘度の上昇等によって確認できる。なお、膨潤は、用いる重縮合ポリマーに応じ常法に沿って行えばよい。
【0036】
水素結合の可逆的条件下での切断は、水素結合が回復し得るような穏和な条件での切断である。結合体において相対的に切断されやすいのは、順に、高次構造を形成する水素結合、粒子間の水素結合、粒子内の結合、重縮合ポリマー内の結合であると考えられる。本発明では、穏和な条件で水素結合を切断するので、重縮合ポリマー内の結合の切断は回避され、重縮合ポリマー粒子の乳化機能を維持できる。なお、水素結合の切断は、分散液の粘度の下降、顕微鏡による結合体の高次構造の緩和の観察等によって、確認することができる。
【0037】
水素結合の切断は、加熱及び撹拌等の物理的処理、及び/又は製剤(例えば、尿素、チオ尿素)処理等の化学的処理により行うことができる。水素結合の切断が可逆的となるように、加熱温度、撹拌速度、製剤添加量、処理時間等を調節する。具体的な条件は、用いる重縮合ポリマーに応じ適宜設定してよいが、糖ポリマーの場合には、70〜90℃、好ましくは約80℃で、20〜40分、好ましくは30分間程度に亘り、穏やかに撹拌すればよい。なお、水素結合の切断が可逆的であったことは、温度変化に応じた粘度の可逆的変化によって確認することができる。
【0038】
本発明では、切断された水素結合を部分的に回復させる第1回復工程を有することが好ましい。これにより、粒子間の水素結合が回復するため、後述の粒子分離工程における粒子同士の水素結合の切断分布が一様化し、得られる粒子の径のばらつきを抑制できる。また、粒子内の水素結合も回復するため、粒子の乳化特性が損なわれることを予防できる。
【0039】
第1回復工程における回復は、非処理条件(例えば、常温、非撹拌、化学製剤非存在下)の下、数時間に亘り放置することで行うことができる。水素結合の回復は、温度変化に応じた粘度の可逆的変化によって確認することができる。なお、この工程は、製造ラインにおいて積極的に行ってもよく、乳化剤製造用材料の保管、流通の期間中に受動的に行わせてもよい。
【0040】
このようにして製造される乳化剤製造用材料は、結合体の高次構造が緩和されつつ、粒子間及び粒子内の水素結合が回復可能であるため、後述の工程で分離される重縮合ポリマーの粒子径のばらつきを抑制でき、重縮合ポリマー粒子の乳化機能の低下を抑制できる。
【0041】
次に、乳化剤製造用材料に含有される結合体内の水素結合を切断し、重縮合ポリマー粒子を水中に分離する。粒子間の水素結合が回復されているので、切断される水素結合の分布が略均質になり、結果的に分離される重縮合ポリマー粒子の径のばらつきが抑制される。なお、重縮合ポリマー粒子の分離は、重縮合ポリマー粒子が1個ずつ単離されることに限らず、数個の重縮合ポリマー粒子の塊として分離されることも包含する。
【0042】
この工程における水素結合の切断は、重縮合ポリマー内の共有結合を実質的に切断しない条件である限りにおいて、特に限定されず、典型的には前述の緩和物生成工程における水素結合の切断と同様であってよい。つまり、水素結合の切断は、加熱及び撹拌等の物理的処理、及び/又は製剤(例えば、尿素、チオ尿素)処理等の化学的処理により行うことができる。重縮合ポリマー内の共有結合が切断されないように、加熱温度、撹拌速度、製剤添加量、処理時間等を調節する。具体的な条件は、用いる重縮合ポリマーに応じ適宜設定してよく、例えば70〜90℃、好ましくは約80℃で、20〜40分、好ましくは30分間程度に亘り、穏やかに撹拌すればよい。
【0043】
このような水素結合の切断は、粒度分布測定装置FPAR(大塚電子(株)社製)で測定される粒径が50nm〜800nmの範囲である親水性ナノ粒子(重縮合ポリマー粒子1個又は複数個の塊の総称)が所望の収率で得られるまで行ってよい。このような粒径の親水性ナノ粒子は、優れた乳化機能を呈することが分かっている(例えば、特開2006−239666号公報)。ただし、水素結合の切断を過剰に行うと、重縮合ポリマー粒子内の結合に悪影響を及ぼすおそれがある点を考慮すべきである。
【0044】
乳化剤製造用材料は、その製造及び搬送等の効率化の観点から、ある程度高濃度の粉末を水中に分散させて製造されることが好ましいが、この場合、結合体の緩和物が高密度に存在するため、結合体内の水素結合の切断効率が低下する。そこで、本発明に係る乳化剤の製造方法は、粒子分離工程の前に乳化剤製造用材料を水で希釈する工程をさらに有することが好ましい。これにより、乳化剤製造用材料の製造及び搬送等の効率化を図りつつ、粒子分離工程の効率化を図ることができる。ただし、用いる乳化剤製造用材料中の緩和物が希薄である場合には、さらに希釈を行う必要性は小さい。なお、希釈倍率は、用いる乳化剤製造用材料中の緩和物の密度に応じて適宜設定してよい。
【0045】
本発明に係る乳化剤の製造方法は、切断された水素結合を部分的に回復させる第2回復工程をさらに有することが好ましい。これにより、重縮合ポリマー粒子内の水素結合が回復し、本来の乳化機能を回復できる。
【0046】
第2回復工程における回復は、特に限定されず、典型的には前述の第1回復工程と同様であってよい。つまり、非処理条件(例えば、常温、非撹拌、化学製剤非存在下)の下、数時間に亘り放置することで行うことができる。水素結合の回復は、温度変化に応じた粘度の可逆的変化によって確認することができる。なお、この工程は、製造ラインにおいて積極的に行ってもよく、乳化剤の保管、流通の期間中に受動的に行わせてもよい。
【0047】
<
エマルション>
本発明に係る乳化剤は、強固な構造を有する点で従来の三相乳化剤と異なるものの、他の特性については大きく異ならない。このため、乳化剤は、O/W型エマルション、W/O型エマルション等のあらゆる型のエマルションの形成に好適に使用することができる。本発明は、水相、油相、及び前述の乳化剤を含む
エマルションも包含する。
【0048】
乳化の対象となる油相は、従来公知の油剤を含んでよく、本発明では、油相の水に対する大きい又は小さい界面張力にも耐えられることから、軽油、A重油、C重油、タール、バイオディーゼル燃料、再生重油、廃食油、化粧油、食用油、工業用油剤(例えばシリコン油、灯油)等の幅広い油剤を使用することができる。具体的には、ジメチルポリシロキサン、トリメチルシロキサン、環状シリコーン、スクワラン、パラフィン、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸イソステアリル、トリエチルヘキサン酸グリセリル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル、ぶどう種子油、ローズヒップ油、ヒマワリ油、オリーブ油、アボカド油、マカダミアナッツ油、メドホーム油、シア脂、ホホバ油、ミツロウ、水素添加パーム油、ステアリン酸コレステリル、フィトステロール、トリミリスチン酸グリセリル、トリステアリン酸グリセリル、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸)ジペンタエリスリトール、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソトリデシル、トリオクタノイン、テトラオクタン酸ペンタエリスリトール等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0049】
油相は、水に対して25mN/m以上又は20mN/m以下の平均界面張力を有する油からなってよく、上記平均界面張力は、30mN/m以上又は15mN/m以下であることがより好ましい。なお、平均界面張力は、
エマルションから回収した油相成分について、懸滴法により測定される。中でも、大きい界面張力を与えることが知られるスクワランが、安全性に優れる点で好ましく用いられる。油相は、特に限定されないが、
エマルションに対し5質量%〜95質量%の量であってよく、具体的には1.0〜40質量%である。
【0050】
水相は、従来公知の水溶性成分を含んでよく、本発明では、幅広い水溶性成分を使用することができる。このような水溶性成分については、従来周知(例えば、特開2007−70304号公報)であるため、省略する。水相は、特に限定されないが、
エマルションに対し5質量%〜95質量%の量であってよい。
【0051】
重縮合ポリマーの量は、過小であると、上記乳化が不十分になりやすく、過大であると、粘性が高すぎになる場合がある。重縮合ポリマーの量は、
エマルションに対し0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、0.10質量%以上である。また、重縮合ポリマーの量は、
エマルションに対し5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2.0質量%以下である。また、重縮合ポリマーは、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0052】
重縮合ポリマーとして人体無害な高分子を用いて得られる乳化剤は、安全性により優れるため、経口投与組成物(例えば飲食品、経口投与製剤)、外用剤、化粧品、農薬等の生体に使用される物の乳化に好ましく使用される。
【実施例】
【0053】
<実施例1>
水59.75質量部に表1に示す成分0.25質量部を加えて撹拌した。この撹拌液60質量部を80℃に加熱し、スクワラン40質量部を添加し、ホモミキサーにより6000rpm、80℃、10分間に亘って撹拌した後、冷却し、O/Wエマルション型の乳化物を調製した。この乳化物を顕微鏡で観察し、油滴の粒子径の範囲を大まかに求めた。また、乳化物の外観(油膜や視認可能な程の油滴)を目視で観察した結果を、表1に併せて示す。なお、外観(油膜及び油滴)の評価において、×から◎の順で、油膜及び油滴が多いものから、見られないものである。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示されるように、疎水基(ステアリル基)が導入されたヒドロキシプロピルメチルセルロースが、乳化性能の点で顕著に優れ、スクワランという水に対する界面張力が大きい油性成分であっても、油相を分離させずに乳化できることが分かった。そこで、疎水基(ステアリル基)が導入されたヒドロキシプロピルメチルセルロースの配合量を、表2〜5に示すように変更した点を除き、上と同様に乳化物を調製した。
【0056】
【表2】
DW: 精製水
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
表2〜5に示されるように、乳化剤を構成する重縮合ポリマー粒子は、1種又は2種以上の重縮合ポリマーにより構成されてよい。重縮合ポリマーの量は、
エマルションに対し0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、0.10質量%以上であった。また、重縮合ポリマーは、
エマルションに対し2.0質量%以下の量で良好に乳化した。
【0061】
<実施例2>
乳化剤としてアセチル化澱粉又はエーテル化澱粉(ヒドロキシプロピル基を導入)を用い、実施例1と同様に、O/Wエマルション型の乳化物を調製した。また、比較例として、馬鈴薯澱粉を用い、O/Wエマルション型の乳化物を調製した。調製の直後及び一月経過後において、乳化状態を確認した結果を表6に示す。
【0062】
【表6】
【0063】
表6に示されるように、疎水性基が導入された澱粉を用いた実施例では、比較例に比べ、スクワレンという水に対する界面張力の小さい油の乳化状態が、長時間に亘って安定に維持されていた。