(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222643
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】ボトリオコッカス・ブラウニー属の新規株
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20171023BHJP
C12P 5/02 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
C12N1/12 CZNA
C12P5/02
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-117778(P2012-117778)
(22)【出願日】2012年5月23日
(65)【公開番号】特開2013-243943(P2013-243943A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年5月22日
【微生物の受託番号】IPOD FERM P-22238
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(73)【特許権者】
【識別番号】510154039
【氏名又は名称】藻バイオテクノロジーズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 信
(72)【発明者】
【氏名】彼谷 邦光
(72)【発明者】
【氏名】白岩 善博
(72)【発明者】
【氏名】河地 正伸
(72)【発明者】
【氏名】志甫 諒
(72)【発明者】
【氏名】村松 正善
【審査官】
小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−009953(JP,A)
【文献】
特開平09−234055(JP,A)
【文献】
特開2011−050279(JP,A)
【文献】
Enzyme Microb. Technol. 2004, Vol.35, p.46-50
【文献】
J. Phycol., 2004, Vol. 40, p.412-423
【文献】
Database GenBank [online], Accesion No. AJ581911,<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AJ581911>2004.04.20, [検索日 2016.08.15],Definition: Botryococcus braunii 18S rRNA gene (partial), ITS1, 5.8S rRNA gene, ITS2 and 28S rRNA gene (partial), isolate Songkla Nakarin
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00− 7/08
C12P 1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖飽和型の炭化水素を産生し、かつ18SrRNAをコードする遺伝子の塩基配列が配列番号3に示す塩基配列を有する、ボトリオコッカス・ブラウニー・tsukuba−2株(受領番号:FERM AP−22238)。
【請求項2】
前記直鎖飽和型の炭化水素が、分子式C20H42を有する炭化水素を産生する、請求項1に記載の株。
【請求項3】
請求項2に記載のボトリオコッカス・ブラウニーに属する株を用いる、分子式C20H42を有する炭化水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直鎖飽和型の炭化水素を産生する、ボトリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)に属する新規株に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策として大気中の二酸化炭素削減技術の開発が盛んに進められている。また、化石燃料枯渇に対する危機感から、再生可能なエネルギーの開発も進められている。再生可能エネルギーには太陽光発電、風力発電が実用化されているが、光エネルギーにより水と二酸化炭素を炭化水素に変換する光合成生物の利用も関心が集まっている。
【0003】
エネルギー資源として注目されている光合成生物として藻類が挙げられ、中でも緑藻類及び珪藻類が注目されている。通常の緑藻類は、その構成成分中の15〜17%が脂質であり、この脂質は、大きく中性脂質(30%)、糖脂質(37%)、リン脂質(26%)及び脂肪酸を含まない脂質(7%)に分けられる。
【0004】
特に近年、オイル生産緑藻として注目を集めているのが、ボトリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)である。このボトリオコッカス・ブラウニーが産生する脂質の主成分は炭素と水素からなる炭化水素であり、細胞内及び細胞外に直鎖アルケンやトリテルペン等の炭化水素を蓄積することが知られている。
【0005】
産生する炭化水素の構造上の特徴を基に、ボトリオコッカス・ブラウニーはレース−A、レース−B及びレース−Lの3つに分類される。レース−Aは、25〜31個の奇数の炭素数を有し、直鎖で、分子内に2又は3個の二重結合を有する炭化水素を産生する群、レース−Bは、C
nH
2n-10(n=30〜37)で表されるトリテルペン構造を有する炭化水素を産生する群、レース−Lは、テトラテルペンのリコパジエン(lycopadiene)(C
40H
78)構造を有する炭化水素を産生する群、と定義される。
【0006】
各々の群に属するボトリオコッカス・ブラウニーの炭化水素含有量については、既報の文献を参照できる。レース−Aでは、株によって変動があり、0.4〜61.0%(乾燥藻体重量に対する炭化水素の重量)の範囲であると報告されている(非特許文献1)。レース−Bでは、重量当たり、30〜40%の炭化水素を産生するものが多いが、9%程度しか産生しない株も報告されている(非特許文献2)。レース−Lでは、インドの株で0.1%、タイの株で8.0%と報告されており(非特許文献3)、レース−Bと比較すると少ないことがわかっている。また、これらの炭化水素の組成は様々な炭素鎖長及び/又は構造を有するものの混合物である。
【0007】
これらの炭化水素は、二重結合を有する場合がほとんどであるが、二重結合は不安定で、酸化され易い。例えば、一般的にボトリオコッカスが産生する炭化水素の二重結合が酸化されるとエポキサイドになり、これも酸化されるとジオールになる。この過程で、近傍に別のエポキサイドがあれば、重合してエーテル架橋が形成され、もう一方はアルコール又はラジカル炭素になる。また、エポキサイドに水が付加すればアルコールになり、さらに別のエポキサイドが村債すれば、ここでもエーテル架橋が形成され、高分子化が起きる。
【0008】
一方、二重結合を含む炭化水素は、石油などと比較した場合、クラッキングの際の温度を高く設定する必要がある。これは、工業的なコストやエネルギー消費の観点から好ましくない。
【0009】
これまで、飽和型の炭化水素を産生する生物としては、原核生物のラン藻類が報告されている(特許文献2)。この研究においては、飽和型の炭化水素を産生するメカニズムを制御すると考えられる遺伝子が注目される。しかしながら、一般的に大量培養の系が確立されているのは真核性の藻類が多く、前記研究で報告された原核生物の遺伝子が、そのまま真核生物の藻類に適用されるか否かは不明である。
【0010】
したがって、真核生物の藻類で飽和型の炭化水素を産生するものが存在すれば、産生メカニズムや産生を制御する遺伝子系の研究の発展が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−9953号公報
【特許文献2】WO2009140695A1
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Metzger, P., Berkaloff, C., Coute, A., Casadevall, E.(1985) Alakdiene- and botryococcene- producing Races of wild strains of Botryococcus braunii. Phytochemistry 24, 2305-2312.
【非特許文献2】Okada, S., Murakami, M., Yamaguchi, K.(1995) Hydrocarbon composition of newly isolated strains of green alga Botryococcus braunii. J. Appl. Phycol.7, 555-559.
【非特許文献3】Metzger, P., Pouet, Y., Summons, S.(1997) Chemotaxonomic evidence for similarity between Botryococcus braunii L Race and Botryococcus neglectus. Phytochemistry 24, 2305-2312.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の状況に鑑み、飽和型の炭化水素を産生するボトリオコッカス・ブラウニーの新規株を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、ボトリオコッカス・ブラウニーを自然界より採取し、多数の系統的に異なるサブグループを有する属の中から、上記課題を解決する株を見出し、これを単離し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
(1)本発明は、直鎖飽和型の炭化水素を産生する、ボトリオコッカス・ブラウニーに属する株を提供する。
【0016】
(2)本発明は、分子式C
20H
42を有する直鎖飽和型炭化水素を産生する、ボトリオコッカス・ブラウニーに属する株を提供する。
【0017】
(3)本発明は、ボトリオコッカス・ブラウニー・tsukuba−2株(受領番号:FERM AP−22238、受託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター、受領日:2012年5月22日)を提供する。
【0018】
(4)本発明は、18SrRNAをコードする遺伝子の塩基配列が配列番号1に示す塩基配列を有するか、又は当該配列に対し90%以上の相同性を示す塩基配列を有する、(1)〜(3)のいずれかに記載の株を提供する。
【0019】
(5)本発明は、(1)〜(4)のいずれかに記載のボトリオコッカス・ブラウニーに属する株から、直鎖飽和型の炭化水素を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のボトリオコッカス・ブラウニーの新規株は、直鎖飽和型の炭化水素を産生できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】Botryococcus braunii Tsukuba-2 の18SrRNA遺伝子塩基配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.ボトリオコッカス属藻類の分離
本発明のボトリオコッカス・ブラウニーの新規株は、湖沼や池から採取した、ボトリオコッカス属の藻類を含むサンプルから、以下の方法を用いて分離することができる。
【0023】
上記のボトリオコッカス属の藻類を含むサンプルは、例えば、湖沼や池から、網目30〜100μmのプランクトンネット等を用いて採取できる。
【0024】
上記のボトリオコッカス属の藻類を含むサンプルに、有効塩素を作用させ、ボトリオコッカス属以外の微生物を殺菌する。この場合、処理されるサンプルを、あらかじめ適当な培地で培養して藻類を増殖させておいてもよい。培地としては、CHU培地、JM培地、MDM培地、AF−6培地等が挙げられるが、ボトリオコッカス属の藻類の培地として適切なものであれば、特に制限されない。また、この有効塩素を作用させる前に、ボトリオコッカス属のコロニーを、例えば遠心分離、濾過、又は顕微鏡下でマイクロピペットを用いる等の手段により分離してもよい。
【0025】
上記の通りサンプルを有効塩素で処理した後に、当該サンプルをそのまま使用してもよいが、藻体を濾過又は遠心分離等により分離し、培養液に懸濁する操作を繰り返すことなどにより洗浄することが好ましい。
【0026】
続いて、上記有効塩素で処理したサンプルを、ボトリオコッカス属の藻類の培養に適した培地、例えば、CHU培地、JM培地、MDM培地、AF−6培地等のプレート培地に塗布して培養を行う。培地のpHは、pH1〜14、好ましくは、pH2〜13、より好ましくはpH3〜11、さらにより好ましくは、pH4〜10とすることができる。培養温度は、通常0〜50℃、好ましくは5〜40℃、より好ましくは10〜30℃の範囲で行うことができる。また、培養は蛍光灯等を用いて光照射下で行う。この光照射は、連続で行っても、間隔を置いて一定時間照射してもよい。時間間隔としては、1〜72時間、好ましくは1〜24時間、より好ましくは1〜12時間から選択できる。また、照度は、通常0〜300μE/m
2/s、好ましくは、5〜100μE/m
2/sで行う。培養期間は、通常、1〜60日、好ましくは1〜30日間行う。
【0027】
その後、プレート培地に生じたボトリオコッカス属の藻類の単一コロニーを採取することにより、ボトリオコッカス属藻類の単一株が得られる。単一コロニーを採取する際は、顕微鏡下で行ってもよい。
【0028】
本発明のボトリオコッカス・ブラウニーに属する株の形態的特長は、以下のようである。肉眼で見えるコロニーは球形で、黄緑色〜緑色である。顕微鏡下で押し潰すとブドウの房状のコロニーとして観察される。コロニーのサイズは平均的には30-100μm、最大で500μmに達する。細胞は、こん棒状で、細胞壁をもつが、細胞壁の周りにさらにソケットウオールと呼ばれる外殻を形成し得る。細胞の大きさは短径約8μm、長径約14μm、でその比は1.8程度である。細胞から分泌された炭化水素は細胞と外殻に間に蓄積し得る。
炭素源としてCO2を利用し、光合成で増殖する。
【0029】
本発明のボトリオコッカス・ブラウニーに属する株は、直鎖飽和型の炭化水素、好ましくは分子式C
20H
42の炭化水素を産生し、かつ18SrRNAをコードする遺伝子の塩基配列が配列番号3に示す塩基配列を有するか、又は当該配列に対し高い相同性、例えば少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%、又は少なくとも95%、又は少なくとも97%、又は少なくとも98%、又は少なくとも99%の相同性を示す塩基配列を有するものであることができる。あるいは、本発明のボトリオコッカス・ブラウニーに属する株は、直鎖飽和型の炭化水素、好ましくは分子式C
20H
42の炭化水素を産生し、かつ18SrRNAをコードする遺伝子の塩基配列が配列番号3に示す塩基配列に対しをこうストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能な塩基配列を有するものであってもよい。
【0030】
高ストリンジェント条件とは、例えば。「ストリンジェントな条件」としては、例えば、42℃、2×SSC及び0.1%SDSの条件、好ましくは65℃、0.1×SSC及び0.1%SDSでのハイブリダイゼーション条件であってよい。
【0031】
次に、上記の通り分離した株を、液体培地で培養する。液体培地の種類としては、例えば、CHU培地、JM培地、MDM培地、AF−6培地、又はこれらの改変培地を用いて行うことができる。培地のpHは、pH1〜14、好ましくは、pH2〜13、より好ましくはpH3〜11、さらにより好ましくは、pH4〜10とすることができる。培養温度は、通常0〜60℃、好ましくは5〜50℃、より好ましくは10〜40℃の範囲で行うことができる。また、培養は蛍光灯等を用いて光照射下で行う。この光照射は、連続で行っても、間隔を置いて一定時間照射してもよい。時間間隔としては、1〜72時間、好ましくは1〜24時間、より好ましくは1〜12時間から選択できる。また、照度は、通常0〜300μE/m
2/s、好ましくは、5〜100μE/m
2/sで行う。培養期間は、通常、1〜5ヶ月、好ましくは1〜3ヶ月行う。また、培養の際には、通気を行っても、通気を行わずに静置してもよいが、通気を行わずに静置する方が好ましい。
【0032】
2.ボトリオコッカス属の藻類が産生する炭化水素の抽出及び分析
ボトリオコッカス属の藻類が産生する炭化水素は、当業者に既知の方法で抽出及び分析することができる。例えば、ボトリオコッカス属の藻類を培養して増殖させ、得られた培養液から濾過等により回収した湿藻体を、凍結乾燥又は加温による乾燥等により乾燥させる。その後、この藻体乾燥物から有機溶媒を用いて炭化水素を抽出することができる。抽出は、異なる有機溶媒を用いて2度以上行ってもよい。有機溶媒としては、n−ヘキサン、クロロホルム:メタノール混合物(例えば、1:1、1:2)等を用いることができる。好ましくは、クロロホルム:メタノール混合物で抽出後、例えば、窒素気流下で濃縮乾固し、再びn−ヘキサンで抽出する。得られた抽出液を、NMR,IR、ガスクロマトグラフィー、GC/MS等により分析する。
【0033】
上記の手順により得られたボトリオコッカスから産生された炭化水素を、上記の手順で分析し、全炭化水素に対して、分子量282を有する炭化水素を産生するボトリオコッカスをスクリーニングすることにより、本発明のボトリオコッカス・ブラウニー株が得られる。
【0034】
3.炭化水素
本願発明のボトリオコッカス・ブラウニー株から得られる炭化水素は以下の特徴を有する。
【0035】
産生される全炭化水素は、藻体に対して、乾燥重量で、10〜70%、好ましくは20〜65重量%、より好ましくは25〜50重量%、さらにより好ましくは25〜40重量%があり得る。
【0036】
産生される全炭化水素中、直鎖飽和型の炭化水素の割合は、25%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上、最も好ましくは65%以上で存在する。
【0037】
前記直鎖飽和型の炭化水素以外の炭化水素としては、その異性体、例えば、幾何異性体が含まれてもよい。また、不飽和の炭化水素や直鎖型でない炭化水素が含まれてもよい。
【0038】
前記直鎖飽和型の炭化水素は、分子量282の炭化水素であり、分子式がC
20H
42である。
【0039】
4.本発明で得られる炭化水素の利用
本発明で得られる炭化水素(Eicosane)は、直接燃料や防水剤等広範囲に使用することができる。融点36.7℃のパラフィンに属し、常温で固体である。一方、内燃機関の燃料として使用する場合は、熱分解や触媒を用いるクラッキング等の処理が必要になる。
【0040】
以下に、本発明のボトリオコッカス・ブラウニー株の分離及び産生される炭化水素の分析を実施例として示すが、本願発明の請求の範囲は、これらの実施例により制限されるものではない。
【実施例1】
【0041】
1.培養及び分離
日本各地の湖沼や池から網目30〜100μmのプランクトンネットを用いてボトリオコッカスを含むサンプルを採取した。このサンプルからボトリオコッカスのコロニーを顕微鏡下でマイクロピペットを用いて分離し、これを有効塩素濃度約0.1%になるように添加したAF−6培地に浸けてボトリオコッカス以外の微生物を殺菌した後、AF−6培地(表1)で3回洗浄し、22℃、12時間毎光照射下で培養を行った。その後、三角フラスコに200mlのChu改変培地(表2)と培養した株を加え、20℃、12時間毎光照射下で2〜3ヶ月培養を行った。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
2.炭化水素の分析
得られたボトリオコッカスの培養液を、5μm孔のフィルターで濃縮し、凍結乾燥し、クロロホルム・メタノール(2:1,V/V)を用いて総脂質を抽出し、濃縮乾固後、n−ヘキサンで再抽出した。この試料を以下に示す手順でGC/MSにより解析した。
【0045】
分析条件:GC(ガスクロマトグラフィー)条件は、カラム長:30m、内径:0.25φmm、Df:0.25μm、カラム:DB−5MS、スプリットレシオ:スプリットレス、キャリアガス:He、流速:1.0ml/分、注入温度:280℃、カラム温度:60℃(2分)→280℃(5℃/分、5分維持)の条件で行った。セパレーター温度:280℃であった。MS(重量分析)条件は、モデル:Mstation MS−700KII、イオン源(EI及びCI、CIの場合positive、ガス:イソブテン)イオン化電流:200マイクロA、イオン源真空:4×10
-4Pa、イオン化エネルギー:38eV、分析管真空:1.0×10
-5Pa、加速電圧:8.0kV、チャンバー温度:200℃、イオンMult.1.0kV、磁場:HS、で行った。
【0046】
ここから得られた株で、分子量282の炭化水素を産生する株に着目した。分子量282は、C
20H
42又はC
19H
38Oの組成式が成り立つ。高分解能GC/EI−MSからexact m/zを測定した。を測定することにより、組成式がC
20H
42であることが判明した。また、直鎖型C
20H
42の標準品を用いたGCにより、得られた炭化水素が直鎖型C
20H
42であることを確認した。
【0047】
この株をボトリオコッカス・ブラウニー・tsukuba−2株として受託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターに寄託した(受領番号:FERM AP−22238、受領日:2012年5月22日)。
【0048】
【表3】
【0049】
18SrRNAをコードする遺伝子の塩基配列の決定
凍結乾燥した藻体の一部からDNA抽出キット(DNeasy Plant Mini Kit、QIAGEN)により、標準プロトコールに従って、DNA抽出を行った。18SrRNA遺伝子の断片は、オリジナルのプライマーセット、63F(5'-ACGCTTGTCTCAAAGATTA-3')(配列番号1)と1818R(5'-ACGGAAACCTTGTTACGA-3')(配列番号2)を用いて、タカラのサーマルサイクラー(PERSONAL、TAKARA)により、以下の条件で増幅した。
【0050】
PCR反応溶液:0.2 mMのdNTP、0.5 mMのプライマーセット、10XEx taq buffer
、0.25ユニットのEx taq DNA polymerase(TaKaRa)
【0051】
PCR条件:94°Cで10分の熱変性処理した後、94℃で1分、55℃で45秒、72℃で30秒を30サイクル繰り返した後に、72℃で5分の最終伸長
【0052】
DNA断片の増幅を電気泳動で確認した後に、QIAquik PCR Purification Kit(Qiagen)を用いて、標準プロトコールに従って精製した後に、DNAシーケンサー(CEQ8000, Beckman Coulter)を用いて、同機種の標準プロトコールに従って、ダイレクトシーケンス法による塩基配列の決定を行った。その結果を
図1に示す。
【0053】
同様の手法により独自に決定した他のボトリオコッカス保存株の18SrDNA配列情報(14株)およびジーンバンクのBLAST検索(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)を利用して取得したボトリオコッカス(4株)と近縁緑藻(9株)の登録済み配列情報を用いて、分子系統解析を行うことで、BOT7の系統的位置を確認した。分子系統解析は、ClustalW ver. 1.81を用いて18SrDNA配列データのアライメントを行い、マニュアルで修正、整形作業した後に、Gene Doc ver. 2.6を用いて配列両端のトリミングを行った上で、PHYLIP ver. 3.66を用いて、Neighbor-joining法、maximum parsimony法、maximum likelihood法により実施した。その結果、18SrDNA系統樹の中で、BOT7は他のボトリオコッカスとともに高いブーツストラップ支持率(100%)で単一のクレードを形成し、その中で登録番号BBR581911(AJ581911)のボトリオコッカスに最も近縁であることが判明した(ブーツストラップ支持率100%)。BBR581911のボトリオコッカスはタイのソンクラから採取されたLレースの株である。以下にDNAデーターベース(BLAST)上での最近縁属種名、その周辺近縁種との相同性(%)情報を示す。
【0054】
【表4】
【受託番号】
【0055】
FERM AP−22238(受領番号)
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]