(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
地下駅空間における空気調和に係る負荷要素を定める負荷設定と、前記地下駅空間の空気調和のために動作する空気調和装置の動作能力に係る空調設定と、を含む地下駅空間設定を記憶する記憶手段と、
当該記憶手段に記憶された前記地下駅空間設定に基づいて、前記空気調和装置の負荷の予測値を算出する負荷予測値算出手段と
を備え、
前記記憶手段には、車両が走行するホームエリアを複数のブロックに分割する分割設定と、当該複数のブロックの各々を流出入する空気の分配を定める風量分配係数とが予め記憶され、
前記負荷予測値算出手段は、前記複数のブロックの各々において、空気が混合して一様な混合状態と仮定して前記空気調和装置の負荷の予測値を算出する
ことを特徴とする地下駅空気調和予測装置。
前記ホームエリアは、前記車両の走行方向の長さが、水平面内で当該走行方向に垂直な幅方向の長さと比較して著しく長い形状であり、前記空気調和装置による調和空気の給気口及び排気口の組み合わせに係るゾーニングは、当該走行方向の両端部と中央部とでそれぞれ区分されるように定められており、
前記ホームエリアの分割設定は、当該ホームエリアの構造物に係る境界面及びその延長面、及び/又は、前記ゾーニングに従ってなされていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の地下駅空気調和予測装置。
前記負荷予測値算出手段は、前記地下駅を走行する前記車両の当該地下駅への進入及び当該地下駅からの進出の回数がバランスするものとして前記空気調和装置の負荷の予測値を算出することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の地下駅空気調和予測装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、地下駅の空気調和負荷に係るモデル精度を上げていくと、プログラムの開発に要する手間が増大すると共に、設定や計算式が複雑化して演算処理の量が非常に膨大になり、高速な演算装置や多くの演算時間を要する。特に、列車風に伴う熱や気体の流出入量や空気調和装置の動作に係るフロア内での空気の流出入は、地下駅空間における他の負荷要素と比較して影響が大きい一方で、計算量も著しく増加させることから、全体として地下駅の空気調和負荷を簡易な計算で適切に予測することが難しいという課題があった。
【0008】
この発明の目的は、複雑な計算処理や高速な演算装置を必要とせずに、より的確に地下駅空間の状態を予測することが可能な地下駅空気調和予測装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、この発明は、
地下駅空間における空気調和に係る負荷要素を定める負荷設定と、前記地下駅空間の空気調和のために動作する空気調和装置の動作能力に係る空調設定と、を含む地下駅空間設定を記憶する記憶手段と、当該記憶手段に記憶された前記地下駅空間設定に基づいて、前記空気調和装置の負荷の予測値を算出する負荷予測値算出手段と、を備え、前記記憶手段には、車両が走行するホームエリアを複数のブロックに分割する分割設定と、当該複数のブロックの各々を流出入する空気の分配を定める風量分配係数とが予め記憶され、前記負荷予測値算出手段は、前記複数のブロック
の各々において
、空気が混合し
て一様な混合状態
と仮定して前記空気調和装置の負荷の予測値を算出するようにした。
従って、地下駅空間の空調負荷の予測において、ホームエリアを複数のブロックに分割して当該ブロック間での対流を全体として考慮して熱収支の計算を行うことにより、従来よりも計算量を減らしつつ、乗降客に対して空気調和の設定が重要なブロックでの温度設定に基づく熱収支を的確に算出することが出来る。また、当該分割された複数のブロック間における対流の風量分配係数を予め算出しておくことで、空調負荷の予測計算の実行時には、ブロック間での圧力非平衡、鉄道車両の高速進入時における気体の圧縮といった計算を複雑にする効果を考慮する必要がない。
【0010】
また、望ましくは、前記複数のブロックへの分割は、水平面
内においてなされ、
前記風量分配係数は、当該水平面内での対流に係る水平風量分配係
数が定められ、前記負荷予測値算出手段は、前記水平風量分配係数
で前記複数のブロック間で
の対流による空気の流出入を算出するようにする。
また、望ましくは、前記複数のブロックへの分割は、更に鉛直面内においてなされ、当該水平面内での対流に係る水平風量分配係数と、前記鉛直面内での対流に係る鉛直風量分配係数とは、別個に定められ、前記負荷予測値算出手段は、前記水平風量分配係数と前記鉛直風量分配係数とを連成させて前記複数のブロック間での三次元対流による空気の流出入を算出するようにする。
即ち、この風量分配係数の算出を水平面内と鉛直面内とで別個に行うことで、三次元計算よりも遥かに分配係数の算出が容易になると共に、水平面内での分割と鉛直面内での分割のアスペクト比の制限が緩和され、従って、長大な地下駅において水平面内で不要に多数の分割を行う必要が無い。
【0011】
また、望ましくは、前記ホームエリアは、前記車両の走行方向の長さが、水平面内で当該走行方向に垂直な幅方向の長さと比較して著しく長い形状であり、前記空気調和装置による調和空気の給気口及び排気口の組み合わせに係るゾーニングは、当該走行方向の両端部と中央部とでそれぞれ区分されるように定められており、
前記ホームエリアの分割設定は、当該ホームエリアの構造物に係る境界面及びその延長面、及び/又は、前記ゾーニングに従ってなされている。
即ち、鉄道駅のようにアスペクト比の非常に大きいホームエリアでは、プラットホームの両端部と中央部とでは、空調負荷の特性が異なり、空気調和装置の調和空気の給気口及び排気口の組み合わせに係るゾーニングもこのプラットホームの両端部と中央部とでそれぞれ区分されるように好ましく行われるので、ブロックの境界がプラットホームの形状と、ゾーニングとに応じてなされることで、分割効率が向上する。
【0012】
また、望ましくは、前記水平風量分配係数は、前記地下駅を走行する車両の前記地下駅への進入及び前記地下駅からの進出に伴って前記地下駅空間に流出入する空気の量を基準とし、又、前記鉛直風量分配係数は、前記空気調和装置による給排気量を基準として、それぞれ、前記複数のブロック間の圧力差に応じて定められるようにする。
従って、走行車両の種別に応じて実際に地下駅空間に流出入する空気の量や、空気調和装置による給排気量に対してこの分配係数を乗じれば良いだけであるので、車両の進入、進出速度や、給気又は排気の何れかの空気流路のファンの回転数やダンパの開度などに応じて流出入の総量が変化しても計算が複雑にならない。即ち、吹き出しの風量と吸い込みの風量の何れか又は両方が変化しても、当該変化に対応した算出のための作業が簡単になる。
【0013】
また、望ましくは、前記負荷予測値算出手段は、前記地下駅を走行する前記車両の当該地下駅への進入及び当該地下駅からの進出の回数がバランスするものとして前記空気調和装置の負荷の予測値を算出するようにする。
従って、開口部を介した対流の効果を無視するといった計算の簡略化が可能となる。特に、対向する車両が単純にすれ違う地下駅では、ホーム両端における流入及び流出も対称とすることが出来る。
【0014】
また、望ましくは、前記負荷設定には、前記地下駅を走行する車両の当該地下駅への進入及び前記地下駅からの進出に伴って生じる対流による空気の流出入に係る車両走行負荷設定が含まれ、前記車両走行負荷設定には、前記地下駅空間の内部と外部との間で空気が流出入する時の風速が含まれ、当該風速は、少なくとも前記走行する車両の編成種別に応じて設定されて前記記憶手段に記憶されるようにする。
このように、走行車両の地下駅に進入又は進出時の空気の流出入に係る風速について、形状や車両数の異なる車両の編成種別ごとに設定された値を用いることで、車体形状とトンネル形状に係る複雑な計算を一切省略することが出来る。
【0015】
また、望ましくは、前記負荷設定には、前記地下駅を走行する車両の当該地下駅への進入及び前記地下駅からの進出に伴って生じる対流による空気の流出入に係る車両走行負荷設定が含まれ、前記車両走行負荷設定には、前記地下駅空間に流入する空気の温度が含まれ、当該温度は、前記空気調和装置の負荷の予測値が算出される地下駅にごとに設定されて前記記憶手段に記憶されるようにする。
従って、地下水位や地下水温といった条件に即した予測対象の地下駅における値を利用することが可能となる。これらの地下水位や地下水温は、トンネル壁体の温度や濡れ面積に影響し、列車風の温度や湿度が変化する要因となる。
【0016】
また、望ましくは、前記負荷設定には、前記地下駅を走行する車両の当該地下駅への進入及び前記地下駅からの進出に伴って生じる対流による空気の流出入に係る車両走行負荷設定が含まれ、前記車両走行負荷設定には、前記地下駅空間の構造及び走行車両に係る所定の類似条件を満たす地下駅において計測された実測データが用いられるようにする。
従って、従来のように複雑且つ膨大な計算処理を必要とせずに、且つ、従来よりも、地下駅を走行する車両の当該地下駅への進入及び地下駅からの進出に伴って生じる対流の量やその際の熱収支が正確に得られる。特に、当該対流の精度の良いモデル化のためには、地下駅空間だけではなく車両が走行するトンネル部分についても長い距離に亘ってモデル化及び数値計算を行う必要が生じ、負荷の予測範囲に対して不要に広い範囲について複雑な数値計算を要していたが、このような煩雑な手間を省くことが出来る。また、特に、従来のモデルでは再現することが困難であった地下水位や地下水温といった条件に即した設定値を利用することが出来る。
【0017】
また、上記目的を達成するため、この発明は、
コンピュータを、地下駅空間における空気調和に係る負荷要素を定める負荷設定と、前記地下駅空間の空気調和のために動作する空気調和装置の動作能力に係る空調設定と、を含む地下駅空間設定を記憶する記憶手段、当該記憶手段に記憶された前記地下駅空間設定に基づいて、前記空気調和装置の負荷の予測値を算出する負荷予測値算出手段、として機能させるためのプログラムであって、前記記憶手段には、車両が走行するホームエリアを複数のブロックに分割する分割設定と、当該複数のブロックの各々を流出入する空気の分配を定める風量分配係数とが予め記憶され、前記負荷予測値算出手段は、前記複数のブロック
の各々において
、空気が混合して
一様な混合状態
を仮定して前記空気調和装置の負荷の予測値を算出するようにした。
このように、従来よりも容易且つ正確に地下駅空間の空調負荷を予測可能となる計算手法を用いるプログラムを所望のコンピュータにインストールして動作させることが出来る。
【発明の効果】
【0018】
本発明に従うと、地下駅空気調和予測装置及びプログラムにおいて、複雑な計算処理や高速な演算装置を必要とせずに、より的確に地下駅空間の状態を予測することが可能となるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の空気調和予測装置1による空調負荷の予測対象の地下駅空間100の構造例を模式的に示す図である。
【0021】
この例の地下駅空間100は、三つのフロア(複数のエリア)が積層された三層構造となっており、地表側から順番に改札フロア20、コンコースフロア40、及び、ホームフロア60(ホームエリア)が設けられている。各フロア間は、階段やエスカレータなどの開口部30、50を介して空気が流通可能に連結されている。
【0022】
改札フロア20は、更に、開口部10を介して地表と連結されると共に、連絡通路21を介して地下駅空間100の外部に接続されている。また、ホームフロア60は、島式のプラットホームと、プラットホームの長辺方向に沿って両側に延在する線路が設けられた軌道部とからなり、当該軌道部は、それぞれトンネル61、62を介して地下駅空間100の外部と連結されている。
【0023】
次に、本実施形態の空気調和予測装置1による予測の対象と、当該予測のための変数とについて説明する。
この空気調和予測装置1では、地下駅空間100の熱量、温度、湿度(水蒸気量)、及び、二酸化炭素量がそれぞれ算出されることで、空気調和装置及び換気装置(以後、まとめて空気調和装置と記すが、別個に設けられても良い)の負荷が予測される。この予測計算において、熱量及び温度は、人体の放熱、鉄道車両の排熱及び発熱、及び、照明を含む地下駅の各種電気設備による発熱、壁面による吸排熱(壁を隔てた通路やダクトの影響による熱貫流を含む)といった内部負荷要素による発生熱量と、開口部10、30、50、連絡通路21やトンネル61、62を介した流通に基づく熱の移動と、空気調和装置による給排気との組み合わせにより求められる。これらのうち、人体の放熱、鉄道車両の排熱、及び、空気調和装置による給排気には、地下空間の温度及び湿度の差に応じた潜熱による熱量の授受が含まれる。これらの発生熱量及び熱の移動量(負荷設定)と、空気調和装置の能力(空調設定)については、後に詳述するようにそれぞれ予めモデル化されて、保持されており、空気調和予測装置1は、これらの設定値に基づいて地下駅空間100における熱収支や二酸化炭素濃度の変化といった各予測値の時間変化を算出する。
なお、本実施形態の空気調和予測装置1では、予め区切られた複数の領域のそれぞれ内部において、瞬時に熱、水蒸気、及び、二酸化炭素が混合して一様な温度、湿度、及び、濃度になる完全混合を仮定したシミュレーションモデル(以降、混合モデルと記す)が用いられる。また、一の領域への空気の流出入量は、当該領域と接続された領域への流出入量の和と等しくなるように対流量が算出される。
【0024】
本実施形態の空気調和予測装置1では、改札フロア20及びコンコースフロア40については、それぞれ全体で一つのブロックとして上記の混合モデルを適用する。一方、ホームフロア60は、水平面内及び鉛直面内においてそれぞれ複数のブロックに分割されて、各ブロック間で生じた熱や二酸化炭素(空気)が主に対流により隣接ブロックとやり取りされるものとする。このように一の領域を複数のブロックに分割してブロック間での熱収支計算を行うシミュレーションモデルを、以降ブロックモデルと呼ぶ。
【0025】
図2は、本実施形態の空気調和予測装置1において用いられるホームフロア60のブロック分割について説明する図である。ここでは、ホームフロア60を鉄道車両の進行方向に垂直な鉛直断面で切断した図を示している。
ホームフロア60のブロック分割パターンは、特には限られないが、環境を適切に保つべきプラットホームの床から乗客の身長高さまでを想定したブロック(ホーム下層)が、このホーム下層の上端からプラットホーム上の天井付近まで(ホーム上層)のブロック、及び、線路が設けられて鉄道車両が走行する軌道部の各ブロック(ここでは、軌道部上層、軌道部中層、軌道部下層)と分割されることが好ましい。また、水平方向に長細いプラットホームは、複数の空気調和装置のゾーニングに合わせて当該複数程度(例えば、3ブロック)に水平分割されることが好ましい。
【0026】
このようにホームフロア60を複数ブロックに分割すると、照明による発熱は、主にホーム上層ブロックで生じ、人体からの発熱は、主にホーム下層ブロックで生じ、鉄道車両の冷房機や台車など各部からの発熱は、軌道部各層のブロックで生じることになる。
【0027】
人体から発生する熱量、水蒸気、及び、二酸化炭素は、例えば、平均的な一人(又は、重量)当たり時間当たりの排出量と、地下駅の利用者(乗降客)及び一時停車する鉄道車両に乗車したまま通過する乗客の人数(乗車率)と、その滞在時間とに基づいて算出される。同様に、走行する鉄道車両のモータや空調などの電気設備類から生じる熱量や水蒸気量は、例えば、車両種別ごとに上記電気設備類の発する平均的な熱量や水蒸気量に基づき、時間当たりの運行本数や停車時間に応じて算出される。
【0028】
地下駅内に設けられる照明等の各種電気設備により発生する熱量は、当該機器ごとに定められ、その数量と使用時間に応じて算出される。
【0029】
地下駅空間100の壁面から放射される熱量や吸収熱量は、壁面温度と当該壁面を含むブロックの空気温度との差及びその表面積に応じて計算される。この壁面温度は、空気温度との間での熱の授受が定常になる日変化パターンが得られるまで予め1日サイクルの熱収支計算を繰り返し行っておくことで得られる。
【0030】
水蒸気量及び湿度は、汗や呼吸により人体から発する水蒸気と、停車した列車の車内から排出(解放)される水蒸気と、開口部10、30、50、連絡通路21やトンネル61、62を介した対流により流出入する空気に含まれる水蒸気(温度及び湿度)とに基づき、蒸発や凝縮を考慮して算出される。同様に、二酸化炭素の量は、呼吸により人体及び停車中の車内から放出される量と、開口部10、30、50、連絡通路21やトンネル61、62を介した対流により流出入する空気の量(換気量)とに基づいて算出される。
【0031】
次に、トンネル61、62を介した対流について説明する。トンネル61、62は、鉄道車両が走行するトンネルであり、鉄道車両の駅への進入や駅からの進出に伴って空気が引き込まれたり、押し出されたりすることで強い対流、即ち、列車風が生じる。この列車風による熱量、二酸化炭素や水蒸気の流出入に係る設定(車両走行負荷設定)には、列車風の風速、温度、湿度が含まれる。これらの設定値として、本実施形態では、予めトンネル61、62とホームフロア60との境界地点において計測された実測値を用いる。
【0032】
ホーム端部の温度は、例えば、熱電対を用いて測定が可能である。しかしながら、ホーム端部では、本実施形態で考慮している熱の対流の他、熱伝導や放射によっても温度が敏感に変化するので、ホーム端部より所定距離トンネル側の内部で温度の計測を行ったり、或いは、ホーム端部における壁面温度に基づいて設定したりしても良い。この壁面温度は、ホーム上の状況などによる細かい温度変動を生じない一方で、平均的にトンネル内空気温度と等しい。この壁面温度は、赤外線撮影などで測定されて取得することが出来る。
【0033】
トンネル61、62内の温度や湿度に係る実測値は、各駅で、又は、類似条件を満たす別の地下駅で、個別に取得される。この実測値は、必ずしも短期的(日スケール以下)に外気と連動して変化するとは限らない。従って、本実施形態では、空気調和予測を行う期間のデータを継続的に全て取得して利用する。或いは、夏の最高の外気温度や冬の最低外気温度が計測された日のデータのみを用いたり、複数年分の当該最高温度や最低温度の中で更に最も温度が高い日、最も温度が低い日の計測データを用いたり、外気温とは関係なく、実測された温度と湿度の組み合わせの中で最も負荷が大きくなる日の計測データを用いたりするといった実測値の取得及び利用が可能である。
【0034】
一方、列車風の風速の実測値についても、各駅で個別に取得することが出来る。ここで、同一編成の鉄道車両が走行する路線における同様の構造のトンネル及び地下駅での風速の計測値は、異なる駅間で大きな差異が生じない。従って、一の地下駅で取得された列車風の速度実測値データを他の地下駅で流用することが可能である。また、列車風の風速は、トンネルの形状やサイズ、鉄道車両の種別(形状、サイズ)や鉄道車両の進入/進出の間隔といった条件に応じて変化する。そこで、予測対象となる地下駅における運行ダイヤや車両編成と、実測された時点での運行ダイヤや車両編成とが異なる場合には、同一又は最も類似する条件において計測された風速データを組み合わせて列車風のモデル化を行うことが出来る。
【0035】
トンネル61、62を介して流出入する列車風は、駅の構造や換気口の位置などに応じて所定の割合で各所に分配されて流入したり、各所から流出したりする。本実施形態の空気調和予測装置1では、予めこの分配率を示す分配係数を水平面内と鉛直面内とで算出しておき、テーブルデータとして保持する。この分配係数は、例えば、換気用の排気口(吸気口)及び給気口(吹出口)からの空気の流出入量を考慮して、定常条件での非等温対流としてCFD解析により求めることが出来る。従って、本実施形態では、地下駅空間100へ流入する列車風の風速、及び、地下駅空間100から流出する列車風の風速は、地下駅空間100の境界に垂直方向の一次元データがあれば良い。CFD解析に係る具体的な計算手法としては、周知の任意の方法を用いることが出来る。
【0036】
図3は、ホームフロア60における各ブロック間の風量分配の例を示す図である。
【0037】
図3(a)には、ホームの高さでの水平面内における鉄道車両の進入方向への流入風、及び、進出方向への流出風の風量をそれぞれ1.0として規格化し、これらの流入、流出に対応した各ブロック間での風の流入流出量が矢印と共に示されている。即ち、鉄道車両の進入時及び進出時の風速をその継続時間で積分した合計の流入量及び流出量に対し、この規格化した分配量(分配係数)を乗じることで、各ブロックへの列車風の流入量及び流出量が算出される。
【0038】
この
図3(a)に示されるように、鉄道車両の進入側端部では、軌道部側のブロックからプラットホーム側のブロックへ流れ込む列車風が勝り、鉄道車両の進出側端部では、プラットホーム側のブロックから軌道部側のブロックへの吸い込み(流出)が勝る。
【0039】
図3(b)には、鉄道車両の進行方向に垂直な鉛直面内において、空気調和装置の吹出口からの吹出し量で規格化した各ブロック間で流通する風量の分配係数が矢印と共に示されている。なお、ここでは、プラットホームの半分と一の軌道部のみを示し、残り半分を対称としているので、吹出量及び吸込量に係る係数がそれぞれ0.5となっている。実際の吹出量及び吸込量は、空気調和装置の動作設定によって定められるものであり、設定された吹出量及び吸込量に上記係数を乗じた値が各ブロック間で分配されて対流することになる。
【0040】
ここで、この鉛直面内での分配係数を示す図では、吹出口をホームの、吸込口を軌道部の、それぞれ、天井ボード又は天井躯体に取り付けて下向き吹き出しと上向き吸い込みをする設備での適用例を示している。空気調和装置が軌道部上層から空気を吸い込み(排気し)、ホーム上層へ空気を吹き出して(給気して)いる構成となっているが、吹出口又は吸込口の位置が変わった場合でも、吸い込み及び吹き出しの位置を変えてCFD解析をやり直せばいいだけであるので、本実施形態の空気調和予測装置1は、このような配置換えに対して柔軟且つ容易に対応することが出来る。
【0041】
また、ここで、本実施形態では、ホームフロア60とコンコースフロア40との間、及び、コンコースフロア40と改札フロア20との間での空気の流通については考慮されていない。本実施形態の空調負荷予測の計算処理では、負荷を集計する時間単位を種々に設定出来るが、例えば、1時間である。負荷の集計時間内には、列車風による地下駅空間100への空気の流出入量がバランスするので、空気調和装置の動作により開口部50、30で接続された両側フロアで同一の温度、水蒸気量、及び、二酸化炭素量の設定で空気調和がなされている場合には、フロア間での空気の流通を考慮する必要はない。即ち、コンコースフロア40の空調負荷予測の計算処理は、他のフロアと独立に行われる。一方、改札フロア20と地上との間では、温度、水蒸気量、及び、二酸化炭素量が大きく異なるので、空気の流通を考慮する必要がある。このときの流通量は、列車進入時にホームフロア60へ流れ込む列車風の量と、列車進出時にホームフロア60から流れ出す列車風の量に基づく。この場合も、改札フロア20とコンコースフロア40との間での実際の空気の流通を考慮して計算処理を行う必要はない。
なお、ホームフロア60とコンコースフロア40との間で異なる温度、水蒸気量、又は、二酸化炭素量の設定がなされる場合には、改札フロア20と同様に、フロア間での空気の流通を考慮する構成とすることが出来る。この場合、コンコースフロア40をホームフロア60で設定された複数のブロックと同様に一つのブロックとして処理を行うことが出来る。
【0042】
この
図3(b)には、冷房の際の空気の流動を示す。空気調和装置による換気量と比較して、多くの空気が鉛直面内で対流している。
【0043】
このホームフロア60の各ブロックにおける分配係数の算出において、水平面内での対流に係る水平風量分配係数と、鉛直面内での対流に係る鉛直風量分配係数とは、別個に算出されている。そして、対流の計算の際には、これらの水平風量分配係数と鉛直風量分配係数とが連成されて三次元対流が計算される。従って、実際の三次元対流における水平対流と鉛直対流の大きさの比率は、運行ダイヤと、空気調和装置の動作状態との影響の大きさに応じて変化することになる。
【0044】
このように水平風量分配係数と鉛直風量分配係数とが別個に算出されることにより、これらの分配係数を計算する際のメッシュにおける水平方向の長さと鉛直方向の長さとを独立に設定することが可能となっている。通常、水平方向及び鉛直方向に分割されたメッシュを用いて三次元的な流体計算を行う場合、水平方向の長さと鉛直方向の長さの比(アスペクト比)が大きくなるほど計算誤差が大きくなるという問題がある。従って、地下駅、特に鉄道駅のように水平方向の長さが鉛直方向の長さと比較して極端に大きくなる場合には、水平方向に不要に多くの分割を行う必要が生じ、計算量の著しい増加につながる。これに対し、本実施形態に示すように水平方向と鉛直方向とで別個に分割し、各々二次元計算を行うことにより、全体として分割される数を小さく抑えても計算誤差の増大に繋がらないので、計算量の増加を防ぐことが出来る。
【0045】
次に、空気調和予測装置1について説明する。
【0046】
図4は、空気調和予測装置1の内部構成を示すブロック図である。
この空気調和予測装置1は、通常の電子計算機であり、入力部2と、出力部3と、負荷予測値算出手段としての制御部4と、記憶手段としての記憶部5などを備える。
【0047】
入力部2は、キーボードやタッチパネルなどの操作手段を有し、ユーザによる操作内容を電気信号に変換して制御部4に出力する。
出力部3は、LCD(液晶ディスプレイ)といった表示画面を有し、制御部4からの制御信号に基づく表示を行う。
制御部4は、CPUを有し、各種演算処理を行い、また、空気調和予測装置1の処理動作の統括制御を行う。
【0048】
記憶部5は、制御部4に作業用メモリ空間を提供し、一時データを記憶する揮発性メモリ(RAM、Random Access Memory)と、プログラム、設定データや計算結果を格納、保持するHDD(Hard Disk Drive)とを有する。この記憶部5に記憶されるプログラムには、空気調和負荷の予測に係る計算処理を行うためのプログラム5aが含まれる。また、設定データとしては、空気調和負荷の予測に関する各種設定データ(地下駅空間設定)、即ち、予測対象となる地下駅空間100に係る地下構造データ5b(例えば、流出入量や二酸化炭素量の算出に用いる対象空間の寸法(ホームの高さ、幅、トンネルの径)、及び、熱負荷計算に用いる躯体の材質)、上述の複数のブロックへの分割設定及び当該ブロック間の風量分配係数に係るブロックデータ5c、鉄道車両のダイヤ及び編成に係る運行データ5d、各時間帯における乗降客数を示す乗降客データ5e、各時間帯における鉄道車両の乗車率に係る車両乗客データ5f、照明等各種電気設備による発熱量を示す内部発熱データ5g、壁面吸放熱データ5h、空調装置の能力及び稼働時間を示す空調データ5i、地上の温度や湿度を示す外気データ5j、及び、上述の実測値に基づく列車風データ5kが、それぞれ別個のファイルに設定されて格納されている。
【0049】
記憶部5には、更に、各ブロックの温度、湿度、二酸化炭素濃度、壁面温度の初期値データ5lと、プログラム5aによる計算処理の開始時刻、終了時刻、及び、計算時間間隔(計算ステップ)、空気調和装置の設定温度、その他予測値の算出に必要な物性値といった各種設定値を示す設定値データ5mと、プログラム5aの実行時に読み込まれる上記設定データのファイルをリスト化した設定テーブルデータ5nとが格納されている。
【0050】
また、この空気調和予測装置1は、図示略の通信部を備え、他の外部機器から設定データを取得したり、他の外部機器に計算結果データを出力したり、印刷装置やプリンタサーバに印刷データを出力したりすることが可能な構成であっても良い。
また、この空気調和予測装置1は、外部端末から通信部を介して入力された命令に基づいて制御部4が記憶部5を利用しながら(共働して)各種処理動作を行い、通信部を介して外部端末に処理の結果を出力するのみのサーバ装置であっても良い。
【0051】
次に、空気調和予測装置1おける空気調和負荷の予測値の計算手順について説明する。
図5は、本実施形態の空気調和予測装置1における負荷予測値の計算手順を示すフローチャートである。
【0052】
この計算手順は、制御部4のCPUにより記憶部5から読み出されて実行されるプログラム5aに基づいて実行される。
プログラム5aが起動されると、CPUは、先ず、計算処理の実行条件の読み込み登録を行う(ステップS101)。即ち、CPUは、設定テーブルデータ5nを読み込み、上記の各種設定データ5b〜5kの各ファイル名を取得して読み出しのための設定処理を行う。次いで、CPUは、設定された設定データ5b〜5kの内容を順番に読み出して、予測対象の地下駅構造及び当該地下駅の利用環境に係る設定を行う(ステップS102〜S111)。
【0053】
具体的には、先ず、CPUは、地下構造データ5bとブロックデータ5cとを読み出すことにより、各ブロックの大きさ(体積)と隣接関係とを設定する(ステップS102、S103)。この設定により、水蒸気量や二酸化炭素量の絶対値から湿度や濃度を求めたり、熱量の移動量から気温の値に換算したりすることが可能となる。
【0054】
次に、CPUは、運行データ5dを読み出すことにより、各タイムステップにおける車両の進入本数及び進出本数、及び、その時間間隔を特定可能とする(ステップS104)。また、更に、CPUは、乗降客データ5e、及び、車両乗客データ5fを読み出すことにより、各時間帯において各ブロックに含まれる人の数及び平均滞在時間を特定可能とする(ステップS105、S106)。
【0055】
次に、CPUは、内部発熱データ5gを読み出す(ステップS107)。この内部発熱データ5gには、各タイムステップにおける照明やエスカレータ、エレベータ等の電気設備の時間ごとの稼働状況や、人一人当たり単位時間当たりの排熱、二酸化炭素や水蒸気の排出量が含まれている。これらの値により、電気設備による発熱量を算出し、また、上述の各ブロックに滞在する人数及び平均滞在時間に応じた人体からの合計排熱量や二酸化炭素、水蒸気の合計排出量を算出可能とする。
【0056】
また、CPUによって取得される壁面吸放熱データ5hには、壁面の厚さ、壁面の熱伝導率や、壁面表面の熱伝達率が含まれる(ステップS108)。これらの設定値により、熱貫流を含む壁面からの吸放熱量を算出可能とする。
【0057】
続いて、CPUは、空気調和装置に係る設定を取得する(ステップS109)。ここでは、CPUは、空気調和装置による時間当たり給気量及び排気量の設定、及び、空気調和装置の稼働時間や、動作効率の設定を行う。
なお、空気調和装置の給気位置及び排気位置を設定した後、当該位置に応じて予め設定された風量分配係数を複数のブロックデータ5cの中から選択して設定することとしても良い。
【0058】
次に、CPUは、外気データ5jの設定を取得する(ステップS110)。この外気データ5jは、例えば、各日各時刻の実測値データ又は複数の実測値の平均である。この外気データ5jは、改札フロア20へ開口部10を介して流入する空気や、空気調和装置(換気装置)によって各フロアに供給する外気の温度や湿度を定めるものである。
【0059】
更に、CPUは、列車風データ5kの設定を行う(ステップS111)。この列車風データ5kは、上述のように、実測値に基づく値である。この列車風データ5kは、その利用方法に応じて日付及び時刻にのみ基づいて風速や温度が取得されるものであっても良いし、或いは、鉄道車両の種別や鉄道車両の地下駅への進出間隔に応じた風速が取得可能にリスト化されたものであっても良い。この設定と、各タイムステップにおける進出/進入車両の本数や編成の長さといった情報とに基づいて、当該タイムステップ内での列車風の流入量及び流出量が算出される。
【0060】
ステップS102〜S111の処理で各種設定データが取得されると、次に、CPUは、設定値データ5mを読み込んで、予測値算出処理の開始時刻、終了時刻、計算時間間隔、空調温度設定データや各種物性値を取得する(ステップS112)。なお、これらの設定値データ5mは、他の設定データと同様にファイルに記録設定されて読み込まれる他、入力部2からユーザにより入力操作が行われるまで待ち受けて、操作内容に基づいて取得しても良い。また、CPUは、初期値データ5lを読み込んで、各ブロックの温度、湿度、二酸化炭素濃度、及び、壁面温度の初期値を定める(ステップS113)。
【0061】
CPUは、ステップS112、S113の処理で設定された初期値及び開始時刻から設定時刻における計算処理を行う(ステップS114)。CPUは、当該時刻における各ブロックの温度、湿度、二酸化炭素濃度を求め、これらの値に基づいて空調負荷を算出する。CPUは、設定時刻を時間間隔分ずつ進め、終了時刻を過ぎるまで計算処理を繰り返し行う。終了時刻を過ぎると、CPUは、計算処理を終了し、結果の出力を行う(ステップS115)。本実施形態では、改札フロア20、コンコースフロア40、及び、ホームフロア60の空調負荷の予測値を各々独立して算出することが出来る。従って、CPUは、一フロアについて開始時間から終了時間まで計算を行った後に他のフロアについての計算を行っても良いし、3フロア分の計算を並列に時間順で行っても良い。
【0062】
各フロア、又は、全てのフロアの予測値の計算が終了すると、CPUは、予め設定された様式で計算結果を出力部3に出力する。CPUは、設定に応じて各フロア又は各空気調和装置の空調負荷のピーク予測値のみを出力しても良いし、時系列データを出力することも出来る。そして、CPUは、この処理を終了する。
【0063】
以上のように、本実施形態の空気調和予測装置1によれば、記憶部5に記憶された空気調和に係る各種負荷の設定データに基づいて、制御部4が地下駅空間100における空調負荷の予測値を算出する。そして、ホームフロア60を複数のブロックに分割して当該ブロック間での対流のみを考慮して熱収支の計算を行うことにより、計算量を減らしつつ、ホーム下層のように重要なブロックでの温度設定に基づく熱収支を的確に算出することが出来る。
【0064】
また、当該分割された複数のブロック間における対流の風量分配係数を予め算出しておくことで、空調負荷の予測計算の実行時には、ブロック間での圧力非平衡、鉄道車両の高速進入時における気体の圧縮といった計算を複雑にする効果を考慮する必要がなく、従って、容易な計算で的確な熱収支の算出を行うことが出来る。
【0065】
また、この風量分配係数の算出を水平面内と鉛直面内とで別個に行うことで、三次元計算よりも遥かに分配係数の算出が容易になると共に、水平面内での分割と鉛直面内での分割のアスペクト比の制限が緩和され、従って、長大な地下駅において水平面内で不要に多数の分割を行う必要が無いので、計算量を増やさないで簡便に分配係数の算出を行うことが出来る。
【0066】
また、ホームフロア60は、走行車両が鉄道車両である場合などにその走行方向の長さが、水平面内でこの走行方向に垂直な幅方向の長さと比較して著しく長い形状となり、空気調和装置による調和空気について複数箇所設けられる給気口及び排気口の組み合わせに係るゾーニングは、通常、地下駅空間の空調設計に際し、鉄道車両の走行方向における両端部と中央部とでそれぞれ区分されるように定められる。このような場合に、ホームフロア60の分割設定は、プラットホームの側面及びその延長面と、前記ゾーニングとに従ってなされることで、不要に多くの分割を行わずに、空調負荷の特性が異なるエリアについて必要なブロックの熱収支を容易且つ正確に算出することが出来る。
【0067】
列車風や、空気調和装置による給排気量に対してこの分配係数を乗じれば良いだけであるので、列車の進入、進出速度や、空気調和装置の動作状態に応じて流出入の総量が変化しても計算が複雑にならない。
【0068】
また、空気調和装置による給排気の位置を変更して熱収支の計算を行う場合でも、当該給排気に係るブロックの位置を変更して分配係数のみを算出しておけば、熱収支の計算には影響しないので、容易にパラメータを変更しての計算を行うことが出来る。
【0069】
また、両方向へ向かう列車が普通にすれ違う駅などに関しては、計算の時間間隔を適切に設定し、鉄道車両の地下駅への進入と地下駅からの進出がバランスするものとして計算を行うので、開口部を介した対流の効果を無視することが出来るといった計算の簡略を行いながら精度良く空調負荷の予測に係る計算を行うことが出来る。
【0070】
特に、対向列車が単純にすれ違う地下駅では、ホーム両端における流入及び流出も対称とすることが出来るので、更に容易に空調負荷の予測に係る計算を行うことが出来る。
【0071】
また、列車風の流入及び流出に係る風速について、車両の編成種別ごとに設定されるので、車体形状に係る違いを考慮して容易且つ精度良く列車風の流入量及び流出量を算出することが出来る。
【0072】
また、特に、予測対象の地下駅ごとに個別に列車風の温度のモデルを設定しているので、地下水位や地下水温といった一律に設定するのが困難な条件に即した値に基づいて空気調和装置の負荷を予測することが出来る。
【0073】
また、空気調和装置の負荷の予測値の算出に際し、設定データに含まれる列車風の流入及び流出に係る変数として当該駅のダイヤ、見込の乗客数、設備数や地下水環境といった条件が類似(一致を含む)する地下駅で実際に計測されたデータを用いることとした。従って、地下駅空間100の空調負荷の予測において、従来のように複雑且つ膨大な計算処理を必要とせず、且つ従来よりも列車風に係る熱収支を正確に算出することが可能となっている。従って、全体として、地下駅空間100の空調負荷をより正確に予測することが出来る。特に、既存の地下駅の空気調和装置を更新したり変更したりする場合や、設備運用の見直しを行う場合に、当該地下駅自体での実測値を用いることで、更に効率的且つ正確に負荷の予測を行うことが出来る。また、地下駅の新設時や地下駅構造の改良時であっても、例えば、同路線などで同一編成の鉄道車両が走行し、同様の地下駅構造が設けられるような場合に、従来と比較して精度良く列車風の流出入を考慮した熱負荷の予測を行うことが出来る。
【0074】
また、列車風のモデル化のためには、地下駅空間100だけではなく列車が走行するトンネル部分についても長い距離に亘ってモデル化及び数値計算を行う必要が生じ、負荷の予測範囲に対して不要に広い範囲について複雑な数値計算を要していたが、このような煩雑な手間を省きつつ、容易に精度の高い負荷の予測を行うことが出来る。
【0075】
また、特に、負荷予測対象の地下駅自体やこの地下駅に類似する所定の条件を満たす他の地下駅での温度の実測データを用いているので、従来のモデル計算に係る列車風データに現れていた、熱負荷に対する影響が正負反対に出てしまうような地下駅、即ち、地下駅の温度とトンネル内の温度とがモデルと実測とでは反対である地下駅における熱負荷計算でも、正しい傾向で列車風の熱負荷に対する影響を求めることが出来るようになる。
【0076】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、鉄道車両が停車、通過する地下駅について説明したが、その他の車両、例えば、バス、トロリーバス、モノレール、トラムなどであっても良い。
【0077】
また、上記実施の形態では、ホームフロア60のみを複数のブロックに分割してブロック間の対流を考慮した計算を行ったが、他のフロアについても同様に複数のブロックに分割して計算を行っても良い。この場合、鉛直方向にブロック分割を行う必要が無いフロアについては、水平方向にのみブロック分割を行っても良い。
【0078】
また、複数ブロックへの分割方法は、上記実施の形態で示したものに限られず、他の分割パターンを採用しても良い。特に、空気調和装置の稼働台数が異なる場合、軌道部の数が異なる場合、プラットホームが島式ではない場合、プラットホームにホームドアが設けられている場合など、異なる構造の地下駅空間を有する場合には、当該稼働台数や地下駅空間構造に応じて適切な分割を行う必要がある。
【0079】
また、同一フロア(階層)に複数に分かれたエリアが存在する場合、例えば、一のコンコースフロアから異なる路線に対して設けられた同一フロアの別個のホームフロアに繋がっている構造であっても、当該複数のエリアごとに完全混合モデルを適用して独立に空調負荷の予測値を算出することが出来る。
【0080】
また、上記実施の形態では、列車風の流出入量を定める風速や、トンネル61、62との間で流出入する空気の温度や湿度について、実測値を用いて精度を上げることとしたが、これらの一部又は全部について、予めモデルに基づいて算出された値を列車風データ5kに記憶させて、実測データの代わりに用いることとしても良い。
【0081】
また、上記実施の形態では、鉄道車両の地下駅への進入と地下駅からの進出とがバランスする時間間隔での数値計算及び風量分配係数の設定を行ったが、より細かい時間ステップでの数値計算の実施を妨げるものではない。また、例えば、一部列車の折り返し駅などでは、必ずしも鉄道車両の進入方向と進出方向とにおける空気の流出入が均等にならないので、このような場合に対応した風量分配係数の設定を行うことが出来る。
【0082】
また、上記実施の形態の説明では、本発明に係るプログラムのコンピュータ読取可能な媒体として記憶部5のHDDを使用した例を開示したが、この例に限定されない。その他のコンピュータ読取可能な媒体として、例えば、ROM、他の種々の不揮発性メモリ、CD−ROMやDVD等の可搬型記録媒体を適用することが可能である。また、本発明に係るプログラムのデータを通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウェーブ(搬送波)も本発明に適用される。
その他、上記実施の形態で示した設定、手順や数値などの具体的な内容は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能である。