(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記物理的蒸着法は、カソードアークイオンプレーティング法、バランスドマグネトロンスパッタリング法およびアンバランスドマグネトロンスパッタリング法からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項10に記載の表面被覆切削工具の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0016】
[1]本発明の一態様に係る表面被覆切削工具は、基材と、該基材の表面に形成された被膜とを備える表面被覆切削工具であって、上記被膜は、第1交互層と、該第1交互層上に形成された第2交互層とを含み、上記第1交互層は、第1層と第2層とを含み、上記第2交互層は、第3層と第4層とを含み、上記第1層と上記第2層とは、交互にそれぞれ1層以上積層され、上記第3層と上記第4層とは、交互にそれぞれ1層以上積層され、上記第1層は、Al
aCr
bM1
1-a-bの窒化物または炭窒化物からなり、上記第1層を構成する各金属原子の原子数比は、0.5≦a≦0.9、0<b≦0.4、および0≦1−a−b≦0.1の関係を満たし、上記第2層は、Al
cTi
dM2
1-c-dの窒化物または炭窒化物からなり、上記第2層を構成する各金属原子の原子数比は、0.35≦c≦0.7、0.3≦d≦0.7、および0≦1−c−d≦0.1の関係を満たし、上記第3層は、Al
eTi
fM3
1-e-fの窒化物または炭窒化物からなり、上記第3層を構成する各金属原子の原子数比は、0.35≦e≦0.7、0.3≦f≦0.7、および0≦1−e−f≦0.1の関係を満たし、上記第4層は、Al
gTi
hM4
1-g-hの窒化物または炭窒化物からなり、上記第4層を構成する各金属原子の原子数比は、0.35≦g≦0.7、0.3≦h≦0.7、および0≦1−g−h≦0.1の関係を満たし、上記第3層を構成するAlの原子数比eおよび上記第4層を構成するAlの原子数比gは、0.05≦|g−e|≦0.2の関係を満たし、上記第3層を構成するTiの原子数比fおよび上記第4層を構成するTiの原子数比hは、0.05≦|h−f|≦0.2の関係を満たし、上記M1、上記M2、上記M3および上記M4は、それぞれ独立してCr、Tiを除く周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、SiおよびBからなる群より選択される1種以上の元素である。このような構成の表面被覆切削工具は、優れた耐チッピング性および耐摩耗性を示すことができ、以って過酷な切削条件に耐え、優れた刃先品位を得ることができる。
【0017】
[2]上記第2層を構成するAlの原子数比c、上記第3層を構成するAlの原子数比eおよび上記第4層を構成するAlの原子数比gは、e≦c≦gの関係を満たし、上記第2層を構成するTiの原子数比d、上記第3層を構成するTiの原子数比fおよび上記第4層を構成するTiの原子数比hは、h≦d≦fの関係を満たす。これにより、より優れた耐チッピング性および耐摩耗性を示すことができる。
【0018】
[3]上記第1交互層は、最上層が上記第2層である。これにより被膜の密着性をより強固にすることができる。
【0019】
[4]上記第1交互層は、最下層が上記第1層または上記第2層である。これにより被膜の剥離をより抑制することができる。
【0020】
[5]上記第1層の厚みλ1および上記第2層の厚みλ2は、それぞれ0.005μm以上2μm以下であり、上記第1層と上記第2層との厚みの比であるλ1/λ2は、1≦λ1/λ2≦5の関係を満たす。これにより、被膜の耐酸化性を向上させ、かつ被膜を高硬度化することができる。
【0021】
[6]上記第3層の厚みλ3および上記第4層の厚みλ4は、それぞれ0.005μm以上2μm以下であり、上記第3層と上記第4層との厚みの比であるλ3/λ4は、1≦λ3/λ4≦5の関係を満たす。これにより、被膜におけるクラックの進展をより強く抑制することができる。
【0022】
[7]上記被膜は、全体の厚みが0.5μm以上15μm以下である。これにより、被膜が耐チッピング性に優れ、工具寿命を向上させることができる。
【0023】
[8]上記被膜は、上記第1交互層よりも上記基材側に密着層を含み、上記密着層は、厚みが0.5nm以上20nm以下であり、上記密着層は、上記基材を構成する元素からなる群より選択される1種以上の元素と、第1元素と、第2元素とを含む炭化物、窒化物または炭窒化物であり、上記第1元素は、Cr、Ti、ZrおよびNbを除く周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、Al、SiおよびBからなる群より選択される1種以上の元素であり、上記第2元素は、Cr、Ti、ZrおよびNbからなる群より選択される1種以上の元素であり、基材を構成する元素からなる群より選択される1種以上の元素は、少なくともWを含み、上記Wが密着層に拡散している。これにより、被膜と基材との密着性を向上させることができる。
【0024】
[9]上記基材は、WCを含む硬質粒子と、該硬質粒子同士を結合する結合相とを含み、上記結合相は、Coを含み、上記密着層は、W、Cr、Ti、AlおよびM5を含む炭化物、窒化物または炭窒化物であり、上記M5は、W、Cr、Tiを除く周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、SiおよびBからなる群より選択される1種以上の元素である。これにより、被膜と基材との密着性をより向上させることができる。
【0025】
[10]上記第1交互層および上記第2交互層は、結晶構造が立方晶である。これにより、被膜の硬度を向上させることができる。
【0026】
[11]本発明の一態様に係る表面被覆切削工具の製造方法は、上記基材を準備する第1工程と、上記第1層と上記第2層とを物理的蒸着法を用いて交互にそれぞれ1層以上積層することにより、上記第1交互層を形成する第2工程と、上記第1交互層上に、上記第3層と上記第4層とを物理的蒸着法を用いて交互にそれぞれ1層以上積層することにより、上記第2交互層を形成する第3工程とを含む。これにより、優れた耐チッピング性および耐摩耗性を示す表面被覆切削工具を製造することができる。
【0027】
[12]上記物理的蒸着法は、カソードアークイオンプレーティング法、バランスドマグネトロンスパッタリング法およびアンバランスドマグネトロンスパッタリング法からなる群より選択される少なくとも1種である。これにより、上述の性能を有する表面被覆切削工具を歩留まりよく製造することができる。
【0028】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態(以下「本実施形態」とも記す)についてさらに詳細に説明する。以下の実施形態の説明では、図面を用いて説明しているが、その図面において同一の参照符号を付したものは、同一または相当部分を示す。
【0029】
ここで、本明細書において「X〜Y」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちX以上Y以下)を意味しており、Xにおいて単位の記載がなく、Yにおいてのみ単位が記載されている場合、Xの単位とYの単位とは同じである。また、本明細書において化合物を化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるものではない。たとえば「TiAlN」と記載されている場合、TiAlNを構成する原子数比の比はTi:Al:N=0.5:0.5:1に限られず、従来公知のあらゆる原子比が含まれる。このことは、「TiAlN」以外の化合物の記載についても同様である。本実施形態において、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)などの金属元素と、窒素(N)、酸素(O)または炭素(C)などの非金属元素とは、必ずしも化学量論的な組成を構成している必要がない。
【0030】
<表面被覆切削工具>
本実施形態に係る表面被覆切削工具は、たとえば
図1に示すように、基材12と、該基材12の表面に形成された被膜11とを備える。表面被覆切削工具1は、後述する構成を備えることにより、優れた耐チッピング性および耐摩耗性を示し、過酷な切削条件に耐え、優れた刃先品位を得ることができる。
【0031】
したがって、本実施形態に係る表面被覆切削工具は、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、クランクシャフトのピンミーリング加工用チップなどとして極めて有用である。
【0032】
<基材>
基材は、この種の基材として従来公知のものであればいずれも使用することができる。たとえば、超硬合金[たとえば、WC(炭化タングステン)基超硬合金、WCのほか、Co(コバルト)を含み、あるいはTi(チタン)、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)などの炭窒化物を添加したものも含む]、サーメット(炭化チタン、窒化チタン、炭窒化チタンなどを主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなど)、立方晶型窒化ホウ素焼結体、またはダイヤモンド焼結体のいずれかであることが好ましい。基材としてWC基超硬合金を用いる場合、その組織中に遊離炭素およびη相と呼ばれる異常層のいずれか一方または両方を含んでいてもよい。
【0033】
これらの各種基材の中でも超硬合金、特にWC基超硬合金を選択すること、またはサーメット(特に炭窒化チタン基サーメット)を選択することが好ましい。これらの基材は、特に高温における硬度と強度のバランスに優れ、上記用途の切削工具の基材として優れた特性を有している。特にWC基超硬合金を選択した場合、基材は、WCを含む硬質粒子と、該硬質粒子同士を結合する結合相とを含み、結合相は、Coを含むものがより好ましい。
【0034】
さらに、表面被覆切削工具が後述する密着層を含む場合、基材と被膜との密着性の観点から、基材としてWC基超硬合金を選択したときに、密着層と接する面積のうち80%以上がWCであることがより好ましい。これらの基材は、その表面が改質されていても差し支えない。たとえば、超硬合金の表面に脱β層が形成されていても、本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0035】
なお、切削工具が刃先交換型切削チップなどである場合、基材はチップブレーカーを有するものも、有さないものも含まれる。刃先稜線部は、その形状がシャープエッジ(すくい面と逃げ面とが交差する稜)、ホーニング(シャープエッジに対してアールを付与したもの)、ネガランド(面取りをしたもの)、ホーニングとネガランドを組み合わせたものなど、いずれのものも含まれる。
【0036】
<被膜>
被膜は、
図1に示すように第1交互層112と、該第1交互層112上に形成された第2交互層113とを含む。この第1交互層112は、第1層と第2層とを含む。第2交互層113は、第3層と第4層とを含む。第1層と第2層とは、交互にそれぞれ1層以上積層されている。第3層と第4層とは、交互にそれぞれ1層以上積層されている。第1交互層112は、耐摩耗性を特に備えるために構成する2層以上からなる多層膜であり、本明細書において「耐摩耗層」と称する場合がある。また、第1交互層112は、その上に第2交互層113が形成されるため、本明細書において「下部層」と称する場合もある。
【0037】
第2交互層113は、耐チッピング性を特に備えるために構成する2層以上からなる多層膜であり、本明細書において「耐チッピング層」と称する場合がある。また、第2交互層113は、第1交互層112上に形成されるため、本明細書において「上部層」と称する場合もある。
【0038】
本実施形態において被膜11は、基材12を被覆している。被膜11は、基材の全面を被覆することが好ましいものの、基材12が部分的に被膜11で被覆されていなかったり被膜11を構成する各層の積層構成が部分的に異なっていたりしていたとしても本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0039】
被膜は、第1交互層、第2交互層、後述する密着層以外に、他の層を含むことができる。被膜は、たとえば基材との間に形成する層として、下地層を含むことができる。さらに被膜は、表面を保護する層として、表面保護層を含むこともできる。下地層として、被膜を構成する元素を含む固溶体層を例示することができる。固溶体層を有することにより、被膜の均一性がより担保できるようになる。なお、これらの層の形成方法は、公知の方法を用いることができる。
【0040】
他の下地層として、TiCNO層、TiBN層、TiC層、TiN層、TiAlN層、TiSiN層、AlCrN層、TiAlSiN層、TiAlNO層、AlCrSiCN層、TiCN層、TiSiC層、CrSiN層、AlTiSiCO層、TiSiCN層などを例示することができる。表面保護層として、α−Al
2O
3層およびκ−Al
2O
3層を例示することができる。
【0041】
本実施形態において被膜は、耐摩耗性に優れる層と、耐チッピング性に優れる層とを積層させることにより、各層の本来の好適な特性を維持しつつ、脆性などの各層のデメリットを巧みに解消させることができる。さらに、各層において2種の層を交互にそれぞれ1層以上積層した多層とすることにより、各層を単独で形成した場合に比べ被膜の強度を飛躍的に向上させることができる。各層を単独で形成した場合、層厚が厚くなるのにしたがって脆性が増大する傾向があるが、2種の層を交互にそれぞれ1層以上積層し、多層として単位層当たりの厚みを薄く制御することにより、これを抑えることが可能となる。
【0042】
本明細書において被膜を構成する構成単位に対し、便宜的に「膜」または「層」という名称を用いているが、「膜」と「層」との両者を明確に区別することを意図しているものではない。
【0043】
被膜は、その全体の厚みが0.5μm以上15μm以下であることが好ましい。より好ましくは全体の厚みの上限は10μm以下であり、さらに好ましくは6μm以下であり、その下限が0.5μmである。被膜の全体の厚みが0.5μm未満である場合、被膜の厚みが薄すぎて表面被覆切削工具の寿命が短くなる傾向がある。一方、被膜の全体の厚みが15μmを超える場合、切削初期において被膜がチッピングしやすくなるため、表面被覆切削工具の寿命が短くなる傾向がある。被膜の全体の厚みとは、第1交互層、第2交互層、後述する密着層、および他の層を含む場合は該他の層を含んだ全体の厚みを意味する。
【0044】
被膜のうち第1交互層および第2交互層は、結晶構造が立方晶であることが好ましい。これにより被膜の硬度を向上させることができる。第1交互層および第2交互層の全体が非晶質あるいは一部が非晶質である場合、硬度が低下し、表面被覆切削工具の寿命が短くなる傾向がある。
【0045】
被膜の全体の厚みは、成膜時間を適宜調節することにより調整することができる。また、本明細書において「被膜の厚み」といったとき、その厚みは平均厚みを意味する。被膜の厚みは、たとえば、被膜を任意の基材上に形成し、これを任意の位置で切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)などで観察することにより測定することができる。断面観察用のサンプルは、たとえば、集束イオンビーム装置(FIB:Focused Ion Beam system)、クロスセクションポリッシャー装置(CP:Cross section Polisher)などを用いて作製することができる。そして、たとえば被膜の10箇所において断面を得て、それぞれの断面における厚みを測定し、その測定値の平均値を「被膜の厚み」とすることができる。さらに、被膜を構成する元素の組成は、SEMあるいはTEM付帯のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)装置により測定することができる。後述する第1層〜第4層の厚みおよびその組成も、上述した方法と同様な方法により測定することが可能である。
【0046】
≪第1交互層(下部層、耐摩耗層)≫
図1および
図2に示すように、第1交互層112は、上述のとおり第1層と第2層とを含む。第1層と第2層とは、交互にそれぞれ1層以上積層されている。特に、第1層の厚みλ1および第2層の厚みλ2は、それぞれ0.005μm以上2μm以下であることが好ましい。第1層の厚みλ1および第2層の厚みλ2がそれぞれ0.005μm未満である場合、各層が混ざり合って第1層と第2層とを交互に積層したことによる効果を得ることができない傾向がある。一方、第1層の厚みλ1および第2層の厚みλ2がそれぞれ2μmを超える場合、クラックの進展を抑制する効果が得られにくい傾向がある。第1交互層について耐摩耗性および耐酸化性を強化する観点から、第1層の厚みλ1および第2層の厚みλ2は、それぞれ0.005μm以上0.5μm以下であることがより好ましい。
【0047】
さらに、第1層と第2層との厚みの比であるλ1/λ2は、1≦λ1/λ2≦5の関係を満たすことが好ましい。λ1/λ2が1未満である場合、被膜の耐酸化性が低下する傾向がある。一方、λ1/λ2が5を超える場合、第1層と第2層とを交互に積層したことによるクラックの進展を抑制する効果が得られにくくなる傾向がある。第1交互層について耐摩耗性および耐酸化性を強化する観点から、λ1/λ2は、1≦λ1/λ2≦4の関係を満たすことがより好ましい。
【0048】
(第1層)
第1層は、Al
aCr
bM1
1-a-bの窒化物または炭窒化物からなり、第1層を構成する各金属原子の原子数比は、0.5≦a≦0.9、0<b≦0.4、および0≦1−a−b≦0.1の関係を満たす。第1層は、窒化物または炭窒化物であることにより、膜の硬度が高くなり耐摩耗性が向上する、被削材に対する摩擦係数が小さくなることにより耐溶着性が向上するなどの効果がある。
【0049】
第1層は、Al(アルミニウム)とともにCr(クロム)を含むため、耐酸化性が向上している。さらに第1層は、AlとCrとが組み合わされることにより、その結晶構造が立方晶となることによって高硬度化することができる。
【0050】
特に、第1層を構成するCrの原子数比bは、0よりも大きく0.4以下である。Crの原子数比bは、AlとCrとを組み合わせることにより第1層を高硬度化するため、0よりも大きくする必要がある。一方でCrの原子数比bは、0.4を超える場合、第1層の硬度が低下する傾向がある。第1層の硬度および耐酸化性をより高める観点からCrの原子数比bは、0.2以上0.34以下(0.2≦b≦0.34)であることが好ましい。
【0051】
さらに、第1層を構成するAlの原子数比aは、0.5以上0.9以下である。Alの原子数比aは、0.5未満である場合、被膜の耐酸化性が低下する傾向がある。一方でAlの原子数比aは、0.9を超える場合、硬度が低下して摩耗が促進する傾向がある。第1層の硬度および耐酸化性をより高める観点からAlの原子数比aは、0.56以上0.7以下(0.56≦a≦0.7)であることがより好ましい。
【0052】
M1は、Cr、Tiを除く周期表の第4族元素(Ti、Zr、Hfなど)、第5族元素(V、Nb、Taなど)、第6族元素(Cr、Mo、Wなど)、Si(ケイ素)およびB(ホウ素)からなる群より選択される1種以上の元素である。このような元素であることにより、第1層は、耐熱性、膜硬度および耐溶着性が向上する。M1は、具体的にはB、Si、Zr、V、Nb、W、Taのいずれかの元素であることが好ましい。
【0053】
なお、B(ホウ素)は通常、金属元素と非金属元素との中間の性質を示す半金属として捉えられるが、本実施形態においては、自由電子を有する元素を金属であるとみなしてホウ素を金属の範囲に含むものとする。
【0054】
(第2層)
第2層は、Al
cTi
dM2
1-c-dの窒化物または炭窒化物からなり、第2層を構成する各金属原子の原子数比は、0.35≦c≦0.7、0.3≦d≦0.7、および0≦1−c−d≦0.1の関係を満たす。第2層は、窒化物または炭窒化物であることにより、膜の硬度が高くなり耐摩耗性が向上する、被削材に対する摩擦係数が小さくなることにより耐溶着性が向上するなどの効果がある。
【0055】
第2層は、AlとともにTiを含むため、耐摩耗性が向上している。さらに第2層は、AlとTiとが組み合わされているために、Alの添加量が多くなるほど耐酸化性が向上するという効果がある。
【0056】
特に、第2層を構成するAlの原子数比cは、0.35以上0.7以下である。Alの原子数比cは、0.35未満である場合、被膜の耐酸化性が低下する傾向がある。一方でAlの原子数比cは、0.7を超える場合、第2層の硬度が低下し、摩耗が促進する傾向がある。第2層の耐摩耗性および耐酸化性をより高める観点からAlの原子数比cは、0.4以上0.65以下(0.4≦c≦0.65)であることがより好ましい。
【0057】
さらに、第2層を構成するTiの原子数比dは、0.3以上0.7以下である。Tiの原子数比dは、0.3未満である場合、硬度が低下し摩耗が促進する傾向がある。一方でTiの原子数比dは、0.7を超える場合、被膜のAlの添加量が相対的に少なくなり、耐酸化性が低下する傾向がある。第2層の耐摩耗性および耐酸化性をより高める観点からTiの原子数比dは、0.4以上0.6以下(0.4≦d≦0.6)であることがより好ましい。
【0058】
M2は、Cr、Tiを除く周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、SiおよびBからなる群より選択される1種以上の元素である。このような元素であることにより、第2層は耐熱性、膜硬度および耐溶着性が向上する。M2は、具体的にはB、Si、Zr、V、Nb、W、Taのいずれかの元素であることが好ましい。M1とM2とは、同一または異種である。すなわちM1とM2とは、同一の元素であってもよく、異種の元素であってもよい。
【0059】
第1交互層は、最下層が第1層または第2層であることが好ましい。最下層が第1層または第2層であることにより、膜全体の密着性が均一となるので被膜と基材との界面での剥離を抑制することができる。最下層を第1層とした場合、摩耗の進展により基材が露出したとしても、基材と被膜との間の界面からの酸化を抑制することができる。さらに、最下層を第2層とした場合、第2層は応力が小さい傾向にあることから、特に刃先に繰り返し負荷のかかるようなフライス加工、エンドミル加工などの断続加工の場合に、被膜の耐剥離性が格段に向上する傾向にある。
【0060】
第1交互層は、最上層が第2層であることが好ましい。最上層が第2層であることにより、後述するように、第1交互層と第2交互層との密着性をより強固にすることができる。
【0061】
さらに、第1交互層は、最下層および最上層の両方またはいずれか一方が、第1層を構成する化合物と第2層を構成する化合物との組成が混合した化合物からなる混合層であってもよい。混合層の組成としては、第1層と第2層とからなる元素で構成され、TiAlCrN、TiAlCrCN、TiAlCrC、TiAlCrSiN、TiAlCrSiCN、TiAlCrSiCなどを例示することができる。
【0062】
≪第2交互層(上部層、耐チッピング層)≫
図1に示すように、第2交互層113は、第1交互層112上であって、第1交互層112の基材側とは反対側に形成されている。第2交互層113は、第3層と第4層とを含む。第3層と第4層とは、交互にそれぞれ1層以上積層されている。特に、第3層の厚みλ3および第4層の厚みλ4は、それぞれ0.005μm以上2μm以下であることが好ましい。第3層の厚みλ3および第4層の厚みλ4がそれぞれ0.005μm未満である場合、各層が混ざり合い第3層と第4層とを交互に積層したことによる効果を得ることができない傾向がある。一方、第3層の厚みλ3および第4層の厚みλ4がそれぞれ2μmを超える場合、クラックの進展を抑制する効果が得られにくい傾向がある。第2交互層について耐摩耗性および耐亀裂進展性を強化する観点から、第3層の厚みλ3および第4層の厚みλ4は、0.005μm以上0.5μm以下であることがより好ましい。
【0063】
さらに、第3層と第4層との厚みの比であるλ3/λ4は、1≦λ3/λ4≦5の関係を満たすことが好ましい。λ3/λ4が1未満である場合、λ3/λ4が5を超える場合ともに、クラックの進展を抑制する効果が得られにくい傾向がある。第2交互層について耐亀裂進展性を強化する観点から、λ3/λ4は、1≦λ3/λ4≦4の関係を満たすことがより好ましい。
【0064】
(第3層)
第3層は、Al
eTi
fM3
1-e-fの窒化物または炭窒化物からなり、第3層を構成する各金属原子の原子数比は、0.35≦e≦0.7、0.3≦f≦0.7、および0≦1−e−f≦0.1の関係を満たす。第3層は、窒化物または炭窒化物であることにより、膜の硬度が高くなり耐摩耗性が向上する、被削材に対する摩擦係数が小さくなることにより耐溶着性が向上するなどの効果がある。
【0065】
第3層は、AlとともにTiを含むため、耐摩耗性が向上している。さらに第3層は、AlとTiとが組み合わされているために、Alの添加量が多くなるほど耐酸化性が向上するという効果がある。
【0066】
特に、第3層を構成するAlの原子数比eは、0.35以上0.7以下である。Alの原子数比eは、0.35未満である場合、被膜の耐酸化性が低下する傾向がある。一方でAlの原子数比eは、0.7を超える場合、第3層の硬度が低下し、摩耗が促進する傾向がある。第3層の耐摩耗性および耐酸化性をより高める観点からAlの原子数比eは、0.4以上0.65以下(0.4≦e≦0.65)であることがより好ましい。
【0067】
さらに、第3層を構成するTiの原子数比fは、0.3以上0.7以下である。Tiの原子数比fは、0.3未満である場合、硬度が低下し摩耗が促進する傾向がある。一方でTiの原子数比fは、0.7を超える場合、被膜のAlの添加量が相対的に少なくなり、耐酸化性が低下する傾向がある。第3層の耐摩耗性および耐酸化性をより高める観点からTiの原子数比fは、0.4以上0.6以下(0.4≦f≦0.6)であることがより好ましい。
【0068】
M3は、Cr、Tiを除く周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、SiおよびBからなる群より選択される1種以上の元素である。このような元素であることにより、第3層は、耐熱性、膜硬度および耐溶着性が向上する。M3は、具体的にはB、Si、Zr、V、Nb、W、Taのいずれかの元素であることが好ましい。M1〜M3は、同一または異種である。すなわちM1とM2とM3とは、同一の元素であってもよく、異種の元素であってもよい。ただし、第1交互層と第2交互層との密着性をより強固にする観点から、M2とM3とは、同一であることが好ましい。
【0069】
(第4層)
第4層は、Al
gTi
hM4
1-g-hの窒化物または炭窒化物からなり、第4層を構成する各金属原子の原子数比は、0.35≦g≦0.7、0.3≦h≦0.7、および0≦1−g−h≦0.1の関係を満たす。第4層は、窒化物または炭窒化物であることにより、膜の硬度が高くなり耐摩耗性が向上する、被削材に対する摩擦係数が小さくなることにより耐溶着性が向上するなどの効果がある。
【0070】
第4層は、AlとともにTiを含むため、耐摩耗性が向上している。さらに第4層は、AlとTiとが組み合わされているためにAlの添加量が多くなるほど耐酸化性が向上するという効果がある。
【0071】
特に、第4層を構成するAlの原子数比gは、0.35以上0.7以下である。Alの原子数比gは、0.35未満である場合、被膜の耐酸化性が低下する傾向がある。一方でAlの原子数比gは、0.7を超える場合、第4層の硬度が低下し、摩耗が促進する傾向がある。第4層の耐摩耗性および耐酸化性をより高める観点からAlの原子数比gは、0.4以上0.65以下(0.4≦g≦0.65)であることがより好ましい。
【0072】
さらに、第4層を構成するTiの原子数比hは、0.3以上0.7以下である。Tiの原子数比hは、0.3未満である場合、硬度が低下し摩耗が促進する傾向がある。一方でTiの原子数比hは、0.7を超える場合、被膜のAlの添加量が相対的に少なくなり、耐酸化性が低下する傾向がある。第4層の耐摩耗性および耐酸化性をより高める観点からTiの原子数比hは、0.4以上0.6以下(0.4≦h≦0.6)であることがより好ましい。
【0073】
M4は、Cr、Tiを除く周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、SiおよびBからなる群より選択される1種以上の元素である。このような元素であることにより、第4層は耐熱性、膜硬度および耐溶着性が向上する。M4は、具体的にはB、Si、Zr、V、Nb、W、Taのいずれかの元素であることが好ましい。M1〜M4は、同一または異種である。すなわちM1とM2とM3とM4とは、同一の元素であってもよく、異種の元素であってもよい。ただし、第3層と第4層との密着性をより強固にする観点から、M3とM4とは、同一であることが好ましい。
【0074】
第2交互層は、第1交互層の最上層を第2層とし、この最上層上に形成されることが好ましい。第1交互層における第2層は、第2交互層を構成する第3層および第4層と近い組成を有するため、第1交互層と第2交互層との密着性をより強固にすることができるからである。このような観点から第2交互層の最上層および最下層については、第3層であっても第4層であっても、どちらでもよい。
【0075】
さらに、第2層を構成するAlの原子数比c、第3層を構成するAlの原子数比eおよび第4層を構成するAlの原子数比gは、e≦c≦gの関係を満たすことが好ましい。第2層を構成するTiの原子数比d、第3層を構成するTiの原子数比fおよび第4層を構成するTiの原子数比hは、h≦d≦fの関係を満たすことが好ましい。これらにより、第1交互層と第2交互層との密着性を向上させつつ、被膜全体の硬度をさらに強固なものとすることができるので、優れた耐チッピング性および耐摩耗性を有することができる。
【0076】
ここで本実施形態では、耐チッピング層である第3層および第4層を、その構成元素および組成比において、敢えて酷似する構成とした。これにより、耐チッピング層(第2交互層)は、
図3(a)に示すように、巨視的にはあたかも単一組成を有するように観察される。
【0077】
しかしながら、第3層を構成するAlの原子数比eおよび第4層を構成するAlの原子数比gは、0.05≦|g−e|≦0.2の関係を満たし、第3層を構成するTiの原子数比fおよび第4層を構成するTiの原子数比hは、0.05≦|h−f|≦0.2の関係を満たす。このため、第3層と第4層とは、その組成比が少なくとも一致することがない。これにより
図3(b)に示すように、微視的に2種の筋状部あるいは層状部が観察され、第3層と第4層とが区別し得るようになる。特に、
図3(b)に示す顕微鏡写真から第3層と第4層との間には、これらを区別し得る界面(転位に至らないまでのわずかな歪みを有する面)が存在していることが理解される。
【0078】
耐チッピング層は、この界面を有することにより、被膜中で亀裂が発生した場合に、第3層と第4層との間で亀裂の伝播を抑制することができる。さらに、第3層と第4層とは、その構成元素および組成比において酷似するため、第3層と第4層との間で結晶格子を連続させることができる。これにより、第3層と第4層とは、強固な密着性を備えることができる。
【0079】
≪密着層≫
図1および
図4に示すように被膜11は、第1交互層112よりも基材12側に密着層111を含むことが好ましい。すなわち被膜11は、第1交互層112と基材12との間に密着層111を含むことが好ましい。より好ましくは、被膜11において密着層111は、第1交互層112および基材12と接する構成となる。被膜11が密着層111を含むことにより、被膜11の基材12からの剥離が防止され、表面被覆切削工具1の寿命を安定化させることができる。
【0080】
密着層は、その厚みが0.5nm以上20nm以下であることが好ましい。密着層の厚みが0.5nm未満である場合、薄すぎて十分な密着力が得られない恐れがある。密着層の厚みが20nmを超える場合、密着層内の残留応力が大きくなって、むしろ剥離しやすくなる恐れが生じる。密着層の厚みは、より好ましくは0.5nm以上10nm以下であり、特に好ましくは2nm以上6nm以下である。密着層の厚みも、TEM、STEMなどで測定することができる。その測定方法は、被膜の厚みの測定と同様に、密着層の断面サンプルを得て測定すればよい。断面観察用のサンプルも、被膜の厚みの測定と同様の方法により得ることができる。密着層の厚みは平均厚みであり、測定値の平均値である。
【0081】
密着層は、基材を構成する元素からなる群より選択される1種以上の元素と、第1元素と、第2元素とを含む炭化物、窒化物または炭窒化物であることが好ましい。第1元素は、Cr、Ti、Zr(ジルコニウム)およびNbを除き、上記第1交互層を形成する元素から選択される1種以上の元素であり、第2元素は、Cr、Ti、ZrおよびNbからなる群より選択される1種以上の元素である。基材を構成する元素からなる群より選択される1種以上の元素は、少なくともWを含み、このWが密着層に拡散している。第1元素は、具体的にはAl、Si、B、V、Taより選択される1種以上の元素であることが好ましい。密着層は、炭化物、窒化物または炭窒化物であることにより、密着性が顕著に向上する。さらに、基材を構成する元素の1つであるWを含み、このWが密着層に拡散していることにより、基材と密着層との密着性をより高めることができる。
【0082】
たとえば、本実施形態に係る表面被覆切削工具において、基材は、WCを含む硬質粒子と、硬質粒子同士を結合する結合相とを含み、結合相は、Coを含む構成であることが好ましい。密着層は、特にW、Cr、Ti、AlおよびM5を含む炭化物、窒化物または炭窒化物からなることが好ましい。上記M5は、W、Cr、Tiを除く周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、SiおよびBからなる群より選択される1種以上の元素であることが好ましい。M5は、具体的にはSi、B、Zr、V、Nb、Taのいずれかの元素であることがより好ましい。
【0083】
すなわち密着層は、基材および第1交互層の双方と化学的親和性を有する元素を含有する化合物からなることが望ましく、基材を構成する元素(たとえば、超硬合金の場合、W、C)と、第1交互層を構成する元素(Cr、Ti、Al、Si、B、Nなど)とを含む炭化物、窒化物または炭窒化物とすることができる。特に、このような炭化物、窒化物または炭窒化物が、Cr、Ti、ZrおよびNbからなる群より選択される1種以上の元素を含むことにより、密着性を顕著に向上させることができ、表面被覆切削工具の寿命がより安定化する。密着層の厚み、構成元素および組成比についても、SEMあるいはTEM付帯のEDXにより測定することができる。
【0084】
以下、密着層を構成する炭化物、窒化物、もしくは炭窒化物の具体例として、下記(a)〜(j)を挙げることができる。
(a)Ti、Wを含む炭化物、窒化物もしくは炭窒化物(たとえばWTiC、WTiN、WTiCNなど)
(b)Cr、Wを含む炭化物、窒化物もしくは炭窒化物(たとえばWCrC、WCrN、WCrCNなど)
(c)Ti、Cr、Wを含む炭化物、窒化物もしくは炭窒化物(たとえば、WCrTiC、WCrTiN、WCrTiCNなど)
(d)Ti、Al、Wを含む炭化物、窒化物もしくは炭窒化物(たとえばWTiAlC、WTiAlN、WTiAlCNなど)
(e)Ti、Si、Wを含む炭化物、窒化物もしくは炭窒化物(たとえばWTiSiC、WTiSiN、WTiSiCNなど)
(f)Ti、Cr、Al、Wを含む炭化物、窒化物もしくは炭窒化物(たとえばWCrTiAlC、WCrTiAlN、WCrTiAlCNなど)
(g)Ti、Cr、Si、Wを含む炭化物、窒化物もしくは炭窒化物(たとえばWCrTiSiC、WCrTiSiN、WCrTiSiCNなど)
(h)Ti、Al、Si、Wを含む炭化物、窒化物もしくは炭窒化物(たとえばWTiAlSiC、WTiAlSiN、WTiAlSiCNなど)
(i)Ti、Cr、Al、Si、Wを含む炭化物、窒化物もしくは炭窒化物(たとえばWCrTiAlSiC、WCrTiAlSiN、WCrTiAlSiCNなど)
(j)上記の(a)〜(i)においてCrの全部または一部がTi、ZrおよびNbから選択される1種以上の元素と置き換えられた炭化物、窒化物もしくは炭窒化物。
【0085】
<表面被覆切削工具の製造方法>
本実施形態に係る表面被覆切削工具の製造方法は、基材を準備する第1工程と、第1層と第2層とを物理的蒸着法を用いて交互にそれぞれ1層以上積層することにより、第1交互層を形成する第2工程と、第1交互層上に、第3層と第4層とを物理的蒸着法を用いて交互にそれぞれ1層以上積層することにより、第2交互層を形成する第3工程とを含む。
【0086】
上記表面被覆切削工具の製造方法では、耐摩耗性を有する被膜を基材の表面上に形成することを目的とするため、結晶性の高い化合物からなる層を形成することが望ましい。本発明者がそのような被膜を開発すべく、各種成膜技術を検討したところ、その手段としては物理的蒸着法を用いることが適切であった。物理蒸着法とは、物理的な作用を利用して原料(蒸発源、ターゲットともいう)を気化し、気化した原料を基材上に付着させる蒸着方法である。特に、本実施形態で用いる物理的蒸着法は、カソードアークイオンプレーティング法、バランスドマグネトロンスパッタリング法およびアンバランスドマグネトロンスパッタリング法からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。なかでも、原料となる元素のイオン化率の高いカソードアークイオンプレーティング法がより好ましい。カソードアークイオンプレーティング法を用いる場合、被膜を形成する前に、基材の表面に対して金属のイオンボンバード洗浄処理が可能であるので、洗浄時間を短縮することもできる。
【0087】
カソードアークイオンプレーティング法は、装置内に基材を設置するとともにカソードとしてターゲットを設置した後、このターゲットに高電流を印加してアーク放電を生じさせる。これにより、ターゲットを構成する原子を蒸発させイオン化させて、負のバイアス電圧を印可した基材上に堆積させて被膜を形成する。
【0088】
さらに、たとえば、バランスドマグネトロンスパッタリング法は、装置内に基材を設置するとともに平衡な磁場を形成する磁石を備えたマグネトロン電極上にターゲットを設置し、マグネトロン電極と基材との間に高周波電力を印加してガスプラズマを発生させる。このガスプラズマの発生により生じたガスのイオンをターゲットに衝突させてターゲットから放出された原子をイオン化させ、基材上に堆積させることにより被膜を形成する。
【0089】
アンバランスドマグネトロンスパッタリング法は、上記バランスドマグネトロンスパッタリング法におけるマグネトロン電極により発生する磁場を非平衡にすることにより、被膜を形成する。
【0090】
≪第1工程≫
第1工程では基材が準備される。たとえば、基材として超硬合金基材が準備される。超硬合金基材は、市販のものを用いてもよく、一般的な粉末冶金法で製造してもよい。一般的な粉末冶金法で製造する場合、たとえば、ボールミルなどによってWC粉末とCo粉末などとを混合して混合粉末を得る。該混合粉末を乾燥した後、所定の形状に成形して成形体を得る。さらに該成形体を焼結することにより、WC−Co系超硬合金(焼結体)を得る。次いで該焼結体に対して、ホーニング処理などの所定の刃先加工を施すことにより、WC−Co系超硬合金からなる基材を製造することができる。第1工程では、上記以外の基材であっても、この種の基材として従来公知のものであればいずれも準備可能である。
【0091】
(基材洗浄工程)
後述する第2工程の前に、基材を洗浄する基材洗浄工程を行なうことができる。たとえば、第2工程においてカソードアークイオンプレーティング法を用いて被膜を形成する前に、基材の表面に対してイオンボンバードメント処理を施すことができる。これによりたとえば、基材として超硬合金基材を用いた場合、基材の表面から軟質な結合相を除去することができる。その後、基材上に密着層を形成することにより、密着層と基材とが接する部分における硬質粒子の占有率を高めることができる。このとき基材における密着層と接する面積のうち80%以上がWCであることがより好ましい。
【0092】
(密着層形成工程)
さらにイオンボンバードメント処理自体により、密着層の前駆体を形成することができる。すなわちイオンボンバードメント処理においてCr、Ti、ZrおよびNbから選択される1種以上の元素を含むターゲットを使用することにより、基材の表面を洗浄しながら、これらの元素を密着層の前駆体として基材の表面に付着させることができる。そして、これらの元素が付着した表面上に、後述する第2工程である第1交互層を形成する工程を行なうことにより、密着力に優れる密着層を、第1交互層と併せて形成することができる。イオンボンバードメント処理に使用され、かつ密着層に含まれる元素としては、Crであることがより望ましい。Crは昇華性の元素であるため、イオンボンバードメント処理の際に溶融粒子(ドロップレット)の発生が少なく、基材の表面荒れを防止できるからである。
【0093】
たとえば第1工程およびその後の基材洗浄工程は、次のようにして行なうことができる。成膜装置のチャンバ内に、基材として任意の形状のチップを装着する。たとえば、
図5に示す成膜装置を用いて説明すれば、基材12を、チャンバ2内の中央に備え付けられた回転テーブル20上の基材ホルダ21の外表面に取り付ける。基材ホルダ21には、バイアス電源42を取り付ける。
【0094】
続いて、
図6に示すように、チャンバ2内の所定位置に、被膜の金属原料である合金製ターゲットをそれぞれ対応する第1層形成用の蒸発源31、第2層形成用の蒸発源32、第3層形成用の蒸発源33、第4層形成用の蒸発源34およびイオンボンバーメント用蒸発源30に取り付ける。第1層形成用の蒸発源31にはアーク電源41を取り付け、第2層形成用の蒸発源32、第3層形成用の蒸発源33、第4層形成用の蒸発源34およびイオンボンバーメント用蒸発源30にもそれぞれアーク電源(図示せず)を取り付ける。
【0095】
チャンバ2内には、雰囲気ガスを導入するためのガス導入口22が設けられ、チャンバ2から雰囲気ガスを排出するためのガス排出口23が設けられている。このガス排出口23から真空ポンプによってチャンバ2内の雰囲気ガスを吸引することができる。
【0096】
まず、真空ポンプによりチャンバ2内を1.0×10
-5〜1.0×10
-3Paまで減圧するとともに、回転テーブル20を回転させることにより基材ホルダ21の基材12を回転させながら、装置内に設置されたヒータ(図示せず)により基材12の表面温度を400〜700℃に加熱する。
【0097】
次に、ガス導入口22から雰囲気ガスとしてアルゴンガスを導入し、チャンバ2内の圧力を1.0〜4.0Paに保持し、バイアス電源42の電圧を徐々に上げながら−1000〜−400Vとし、基材12の表面を15〜90分に亘り洗浄する。これにより、基材12が超硬合金基材である場合、その表面から結合相を除去することができる。
【0098】
イオンボンバーメント用蒸発源30に100〜200Aのアーク電流を印可し、基材の表面に対してイオンボンバーメント処理を15〜90分に亘り施すことにより、基材の表面をさらに洗浄するとともに、金属元素を表面に付着させる。
【0099】
≪第2工程≫
第2工程では、第1層と第2層とが交互にそれぞれ1層以上積層された第1交互層が形成される。その方法としては、形成しようとする第1層および第2層の組成に応じて、各種の方法が用いられる。たとえば、Ti、Cr、AlおよびSiなどの粒径をそれぞれ変化させた合金製ターゲットを使用する方法、それぞれ組成の異なる複数のターゲットを使用する方法、成膜時に印可するバイアス電圧をパルス電圧とする方法、あるいは成膜時にガス流量を変化させる方法、成膜装置において基材を保持する基材ホルダの回転速度を調整する方法などを挙げることができる。これらの方法を組み合わせて第1交互層を形成することもできる。
【0100】
たとえば、第2工程は、次のようにして行なうことができる。すなわち、上記の基材12の洗浄に引き続き、基材12を中央で回転させた状態で、反応ガスとして窒素を導入する。さらに、基材12を温度400〜700℃に、反応ガス圧を1.0〜5.0Paに、バイアス電源42の電圧を−30〜−800Vの範囲にそれぞれ維持し、またはそれぞれを徐々に変化させながら第1層形成用の蒸発源31および第2層形成用の蒸発源32にそれぞれ100〜200Aのアーク電流を供給する。これにより、蒸発源31および蒸発源32からそれぞれ金属イオンを発生させ、所定の時間が経過したところでアーク電流の供給を止めて、基材12の表面上に第1交互層を形成する。このとき第1交互層は、上述した組成を有する第1層および第2層を、所定の厚み(λ1、λ2)および所定の層厚比(λ1/λ2)を有するように基材12の回転速度を制御しながら、それぞれ1層ずつ交互に積層することによって作製する。さらに、成膜時間を調節することにより、第1交互層の厚みが所定範囲になるように調整する。
【0101】
特に、第1交互層の最上層および最下層は、各層を成膜する際に使用する蒸発源を限定(すなわち第1層形成用の蒸発源31および第2層形成用の蒸発源32のどちらかを指定)することにより第1層または第2層として作製することができる。たとえば、第1層を最下層とする場合、第2層形成用の蒸発源32のアーク電流を0Aとすることにより第1層のみを成膜することができる。さらに、第1交互層の最上層および最下層の両方またはいずれか一方を混合層とする場合、混合層は、回転テーブル20の回転速度を早くすることにより、第1層と第2層とが混合した層として作製することができる。
【0102】
≪第3工程≫
第3工程では、第3層と第4層とが交互にそれぞれ1層以上積層された第2交互層が形成される。その方法としても第2工程と同様に、形成しようとする第3層および第4層の組成に応じて、各種の方法が用いられる。たとえば、Tiと、Alと、SiまたはBとの粒径をそれぞれ変化させた合金製ターゲットを使用する方法、それぞれ組成の異なる複数のターゲットを使用する方法、成膜時に印可するバイアス電圧をパルス電圧とするか、あるいはガス流量を変化させる方法、成膜装置において基材を保持する基材ホルダの回転速度を調整する方法などを挙げることができる。これらの方法を組み合わせて第2交互層を形成することもできる。
【0103】
たとえば、第3工程は、次のようにして行なうことができる。すなわち、上記第2工程を行なう例で示した基材12の温度、反応ガス圧およびバイアス電圧を維持したまま、第3層形成用の蒸発源33および第4層形成用の蒸発源34にそれぞれ100〜200Aのアーク電流を供給することによって、蒸発源33および蒸発源34からそれぞれ金属イオンを発生させる。その後、所定の時間が経過したところでアーク電流の供給を止めて、第1交互層上に第2交互層を形成する。このとき第2交互層は、上述した組成を有する第3層および第4層を、所定の厚み(λ3、λ4)および所定の層厚比(λ3/λ4)を有するように基材12の回転速度を調整しながら、それぞれ1層ずつ交互に積層することによって作製する。さらに、成膜時間を調節することにより、第2交互層の厚みが所定範囲になるように調整する。特に、第2交互層は、たとえば蒸発源33および蒸発源34に使用する金属原料の組成を適宜調整することにより、上述した0.05≦|g−e|≦0.2の関係、0.05≦|h−f|≦0.2の関係を満たすように制御することができる。
【0104】
第1交互層および第2交互層を形成した後、被膜に圧縮残留応力を付与してもよい。靭性が向上するからである。圧縮残留応力は、たとえばブラスト法、ブラシ法、バレル法、イオン注入法などによって付与することができる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0106】
<表面被覆切削工具の作製>
図5に、本実施例で用いた成膜装置(カソードアークイオンプレーティング装置)の模式的な側面透視説明図を示し、
図6に、
図5に示すカソードアークイオンプレーティング装置の模式的な平面透視説明図を示す。
【0107】
(基材の準備および洗浄)
この成膜装置のチャンバ2内に、基材12を準備する。本実施例では、基材12としてグレードがISO規格P30の超硬合金であって形状がJIS規格のSFKN12T3AZTNであるチップを用いた。
図5に示すように、基材12は、チャンバ2内の中央に備え付けられた回転テーブル20上の基材ホルダ21の外表面に取り付けた。
【0108】
図6に示すように、チャンバ2には、被膜の金属原料となる合金製ターゲットである第1層形成用の蒸発源(第1層を構成する組成の金属原料からなる合金製蒸発源)31、第2層形成用の蒸発源(第2層を構成する組成の金属原料からなる合金製蒸発源)32、第3層形成用の蒸発源(第3層を構成する組成の金属原料からなる合金製蒸発源)33および第4層形成用の蒸発源(第4層を構成する組成の金属原料からなる合金製蒸発源)34を取り付けた。
【0109】
図5に示すように、第1層形成用の蒸発源31にはアーク電源41を取り付けた。さらに、第2層形成用の蒸発源32、第3層形成用の蒸発源33、第4層形成用の蒸発源34およびイオンボンバーメント用蒸発源30にもそれぞれアーク電源(図示せず)を取り付けた。
【0110】
基材ホルダ21には、バイアス電源42を取り付けた。チャンバ2内には、雰囲気ガスを導入するためのガス導入口22が設けられ、チャンバ2から雰囲気ガスを排出するためのガス排出口23が設けられているので、このガス排出口23から真空ポンプによってチャンバ2内の雰囲気ガスを吸引して排気することができる。
【0111】
まず、
図5および
図6に示す成膜装置において、真空ポンプによりチャンバ2内を減圧するとともに、回転テーブル20を回転させることにより基材ホルダ21の基材12を回転させた。続いて、装置内に設置されたヒータ(図示せず)により基材12の表面温度を500℃に加熱し、チャンバ2内の圧力が1.0×10
-4Paとなるまで真空引きを行なった。
【0112】
次に、ガス導入口22から雰囲気ガスとしてアルゴンガスを導入し、チャンバ2内の圧力を3.0Paに保持し、バイアス電源42の電圧を徐々に上げながら−1000Vとし、基材12の表面のクリーニングに加え、基材12の表面から結合相を除去する処理を行なった。その後、チャンバ2内からアルゴンガスを排気した。
【0113】
(被膜の形成)
実施例1〜11、13、15〜23においては、上記の基材12の洗浄に引き続き、基材12を中央で回転させた状態で、反応ガスとして窒素を導入した。さらに、基材12を温度500℃に、反応ガス圧を2.0Paに、バイアス電源42の電圧を−30V〜−800Vの範囲の一定値にそれぞれ維持し、またはそれぞれを徐々に変化させながら第1層形成用の蒸発源31および第2層形成用の蒸発源32にそれぞれ100Aのアーク電流を供給した。これにより、蒸発源31および蒸発源32からそれぞれ金属イオンを発生させ、所定の時間が経過したところでアーク電流の供給を止めて、基材12の表面上に表1に示す組成の第1交互層を形成した。このとき第1交互層は、表1に示す組成を有する第1層および第2層を、表1に示す厚みおよび層厚比(λ1/λ2)を有するように基材12の回転速度を調整しながら、それぞれ1層ずつ交互に積層することによって作製した。
【0114】
実施例12、14においては、反応ガスとして窒素に加えメタンガスを導入し、形成される第1層および第2層が炭窒化物となるようにし、その他は上記と同様にして第1交互層を作製した。
【0115】
特に、第1層および第2層の1層当たりの厚みの比率(層厚比)は、表1のとおりとなるように回転テーブル20の回転速度を制御することにより調整した。
【0116】
ここで、最上層および最下層については、表1に示すように、実施例1〜4において第1層および第2層の混合層とし、実施例5〜23において第1層または第2層のいずれかとした。比較例1、2、7については第1交互層に相当する層としてTiN層を単一層として作製した。比較例3〜6、8、9については第1交互層に相当する層として表1のとおりの第1層を単一層として作製した。比較例6は、後述するように第2交互層を形成しない例である。比較例9については、最下層および最上層を第2層とすること、層厚比(λ1/λ2)を5とすること、ならびに後述する第2交互層の組成比において0.05≦|g−e|≦0.2の関係および0.05≦|h−f|≦0.2の関係をいずれも満たさないこと以外、実施例1と同様にして作製した。これにより、第2工程を実施した。
【0117】
なお、実施例5〜23において、第1交互層の最上層および最下層は、第1交互層を形成する蒸発源2面のうち片側1面だけを使用し成膜することにより作製した。実施例1〜4における混合層は、回転テーブル20の回転速度を早くし、第1層と第2層とが混合した層として作製した。
【0118】
【表1】
【0119】
次に、実施例1〜12、15〜23において、基材12の温度、反応ガス圧およびバイアス電圧を上記で維持したまま、第3層形成用の蒸発源33および第4層形成用の蒸発源34にそれぞれ100Aのアーク電流を供給することによって、蒸発源33および蒸発源34からそれぞれ金属イオンを発生させ、所定の時間が経過したところでアーク電流の供給を止めて、第1交互層上に表2に示す組成の第2交互層を形成した。このとき第2交互層は、表2に示す組成を有する第3層および第4層を、表2に示す厚み(λ3、λ4)および層厚比(λ3/λ4)を有するように基材12の回転速度を調整しながら、それぞれ1層ずつ交互に積層することによって作製した。実施例13、14においては、反応ガスとして窒素に加えメタンガスを導入し、形成される第3層および第4層が炭窒化物となるようにし、その他は上記と同様にして第2交互層を作製した。なお、第3層および第4層の1層当たりの厚みの比率(層厚比)は、表2のとおりとなるように回転テーブル20の回転速度を制御することにより調整した。これにより、第3工程を実施した。
【0120】
特に、第2交互層は、第3層と第4層とに使用する金属原料を異なる組成の組み合わせとすることにより、0.05≦|g−e|≦0.2の関係、および0.05≦|h−f|≦0.2の関係を満たすようにして作製した。
【0121】
比較例1〜6については第2交互層を形成しなかった。比較例7、8については第2交互層を、層厚比(λ1/λ2)を5とすること以外、実施例2と同様として作製した。ただし比較例9は、第3層および第4層の組成が表2のとおりとなるようにしたため、0.05≦|g−e|≦0.2の関係を満たさず、かつ0.05≦|h−f|≦0.2の関係も満たしていない。
【0122】
【表2】
【0123】
【表3】
【0124】
(密着層の形成)
ここで実施例11〜23においては、上記の「(基材の準備および洗浄)」に係る工程に引き続き、表4に示す組成および厚みの密着層を形成した。比較例2については、密着層に相当するものとしてTiNを表4に示す厚みで形成した。
【0125】
密着層の形成は、上記の「(被膜の形成)」に係る工程の前に、基材12の洗浄に引き続き、基材12を中央で回転させた状態で、反応ガスとして窒素およびメタンガスの両方またはいずれか一方を導入して行なった。さらに、基材12を温度500℃に、反応ガス圧を2.0Paに、バイアス電源42の電圧を−30V〜−800Vの範囲の一定値にそれぞれ維持し、またはそれぞれを徐々に変化させながら密着層の組成で構成される合金製ターゲット(図示しない)に100Aのアーク電流を供給した。これにより、合金製ターゲットからそれぞれ金属イオンを発生させ、所定の時間が経過したところでアーク電流の供給を止めて、基材12の表面上に表4に示す組成および厚みを有する密着層を形成した。
【0126】
【表4】
【0127】
以上のようにして、実施例1〜23および比較例1〜9の表面被覆切削工具を製造した。
【0128】
<表面被覆切削工具の寿命評価>
≪連続切削試験≫
上述のようにして得た実施例および比較例の表面被覆切削工具に対し、以下の条件で連続切削試験を行ない、逃げ面摩耗幅が0.2mmを超えるまでに切削した距離(単位は、m)を測定することにより、工具寿命を評価した。その結果を表4に示す。切削距離の値が大きいほど寿命がより長いことを示す。
【0129】
連続切削試験条件:
切削材 : SCM435
切削速度v(m/min) : 250
送り速度f(mm/刃) : 0.3
切り込み量ap(mm) : 2.0
半径方向の切り込み量as(mm) : 50。
【0130】
≪断続切削試験≫
さらに、実施例および比較例の表面被覆切削工具に対し、以下の条件で乾式の断続切削試験を行ない、刃先が欠損するまでに切削した距離(単位は、m)を測定することにより、工具寿命を評価した。その結果を表4に示す。切削距離の値が大きいほど寿命がより長いことを示す。
【0131】
乾式の断続切削試験条件:
切削材 : SUS316
切削速度v(m/min) : 200
送り速度f(mm/刃) : 0.2
切り込み量ap(mm) : 2
半径方向の切り込み量as(mm) : 50。
【0132】
≪評価結果≫
表4に示すように、各実施例に係る表面被覆切削工具は、各比較例の表面被覆切削工具に比べ、工具寿命が向上していることが明らかである。その理由は、第1層および第2層からなる第1交互層により、耐摩耗性が向上し、第3層および第4層からなる第2交互層により、耐チッピング性が向上したことによるものと考えられる。したがって、実施例に係る表面被覆切削工具はそれぞれ、優れた耐チッピング性および耐摩耗性を示し、過酷な切削条件に耐え、優れた刃先品位を得ることができる。
【0133】
特に、第2層〜第4層を構成するAlの原子数比が所定の関係にあること、第2層〜第4層を構成するTiの原子数比が所定の関係にあること、第1交互層の最下層が第1層または第2層であること、第1交互層の最上層が第2層であること、λ1/λ2、λ3/λ4が所定の範囲にあることなどにより、工具寿命が向上する傾向は、より強く認められた。さらに、所定の組成の密着層を備えることにより、さらに工具寿命は向上した。
【0134】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形したりすることも当初から予定している。
【0135】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。