【実施例】
【0028】
図1において、10はこの発明の実施例1に係るミシン用針糸送り装置で、このミシン用針糸送り装置10は、軸線が垂直な縦置き状態のボビン11から上方へ繰り出された針糸(上糸)12を、ボビン11の直上に配された糸掛けガイド13を経て、縫い針14を有するミシン15へと送るものである。
【0029】
以下、これらの構成体を具体的に説明する。
ミシン15は、自動車に搭載された革製の座席シートを縫製する工業用ミシンで、門形の縫製作業台16の上に設置されている。ミシン15は、ミシン駆動モータ17などが収納された外殻としての横長な本体ケーシング18を有している。本体ケーシング18の左側部の下端には、上下動する1本の縫い針14が配置されている。また、本体ケーシング18の正面側には、針糸12が挿通されて、針糸繰り出しや針糸締め付けの機能を果たす図示しない天秤が上下動可能に設けられている。ミシン用針糸送り装置10によりボビン11から引き出された針糸12は、糸掛けガイド13および本体ケーシング18の正面側の図示しない糸調子部などを経て前記天秤に挿通され、縫い針14へと案内される。ここで、針糸12は縫い針14の針穴に挿通され、ミシン15の内部の縫製機構に供給される。
糸掛けガイド13は、縫製作業台16の右端部上に立設された支柱19と、支柱19の上端部に片持ち支持された水平方向に長いアーム部20とを有している。アーム部20のうち、その左側端部と、長さ方向の中間部とには、ボビン11から繰り出された針糸12が掛止される一対の糸道21が配設されている。2つの糸道21のうち、右側のものがボビン台22の略直上に配置されている。
【0030】
次に、
図1〜
図4を参照して、ミシン用針糸送り装置10を詳細に説明する。
図1および
図2に示すように、ミシン用針糸送り装置10は、本体スタンド23と、ボビン11が回転自在に載置される前記ボビン台22と、ボビン11からの針糸12の繰り出しと同期して、針糸12の繰り出し方向と同じ順方向にボビン台22を回転させる順回転モータ25と、順回転モータ25の回転速度を、針糸12のうち、ボビン11と糸掛けガイド13との間の部分に発生する撚れを抑制する速度に調整するためのモータコントローラ24とを備えている。
【0031】
本体スタンド23は、何れも角型鋼管製の垂直な支柱部23aと水平なアンカー部23bとを、下向きT字状に連結したものである。
支柱部23aの上端部の右側面には、支柱部23aに接合される垂直板片部40aと、軸孔が中央部に形成された水平板片部40bとが、アングル状に連結された取り付けブラケット40が固定されている。
水平板片部40bの下面には、出力軸25aを軸孔に挿通した順回転モータ25が固定されている。出力軸25aの先端部には、カップリングCを介して、丸皿状のボビン台22の中心部が固定されている。
【0032】
ボビン台22の上面には、ボビン11の滑り止めとなる図示しない円形のスポンジシートが貼着されている。また、ボビン台22の上面の中心部には、ボビン11の円筒状の巻芯11aが挿入される取付軸22aが突設されている。
また、本体スタンド23の上端部付近の右側面には、モータコントローラ24が固定されている。モータコントローラ24は、ケーシング24aの内部に制御盤を有するとともに、ケーシング24aの前面に、順回転モータ25の回転速度を無段階に調整するダイヤルスイッチ(ノブ)Nが回動自在に設けられている。
【0033】
図3および
図4に示すように、縫製作業台16の内部空間の床面には、ミシン15とモータコントローラ24とに電気的に接続されて、ミシン駆動モータ17と順回転モータ25とを同期して無段階に出力調整するフットスイッチ26が載置されている。
フットスイッチ26は、縦長な矩形状の基板27を有し、この基板27の先端部には、開口側を下に向けた横長な矩形樋状のセンサーケース28が突設されている。センサーケース28の上板の中央部には、本体部分をセンサーケース28の上部空間に収納した状態で、近接センサ29の基端部(上端部)が固定されている。
【0034】
また、センサーケース28の一方の側板(後述するヒンジ側)の下部には、横長な矩形状の開口28aが形成されている。この開口28aを通して、縦長な矩形状の操作ペダル30の先端部が、センサーケース28の下部空間に上下動可能に収納されている。操作ペダル30の基端部は、操作ペダル30を上方付勢する図示しないコイルばねが組み込まれたヒンジ31を介して、基板27の基端部に垂直回動自在に連結されている。
したがって、操作ペダル30をコイルばねのばね力に抗して踏み込むことにより、操作ペダル30の先端部が、その踏み込んだ分だけ近接センサ29から下方へ離間する。この離間距離に応じた信号(0V〜24Vの出力信号)を、フットスイッチ26からミシン15とモータコントローラ24との各制御部に送信する。これにより、ミシン駆動モータ17と順回転モータ25とが、操作ペダル30の踏み込み量に応じた出力で同期駆動する。
【0035】
なお、ミシン駆動モータ17による針糸12のミシン15への送り速度(送り量)と、順回転モータ25によるボビン11の順方向への回転速度との調整は、実際の縫製の前に、ミシン15を試験運転する際に行えばよい。ここでの具体的な調整方法としては、試験運転時にフットスイッチ26の操作ペダル30を所定量だけ踏み込んだとき、ボビン11からの針糸12の繰り出し位置aが、ボビン11の外周面に沿って周回しないように、順回転モータ25の回転速度を調整する。
【0036】
次に、
図1〜
図4を参照して、この発明の実施例1に係るミシン用針糸送り装置10を利用して行う、自動車用の革製の座席シートの縫製作業について説明する。
図1〜
図4に示すように、フットスイッチ26の操作ペダル30を、コイルばねのばね力に抗して踏むことにより、ミシン駆動モータ17と順回転モータ25とが、操作ペダル30の踏み込み量に応じた出力で同期駆動する。
ボビン11から上方へ繰り出された針糸12は、順次、直上に配された糸掛けガイド13の糸道21に引っ掛けられてミシン15へと送られる。このとき、順回転モータ25を駆動し、ボビン11からの針糸12の繰り出しと同期して、針糸12の繰り出し方向と同じ順方向に、ボビン台22と一体的にボビン11を所定速度で回転させる。
【0037】
すなわち、モータコントローラ24により、順回転モータ25の回転速度を、針糸12のうち、ボビン11と糸掛けガイド13との間の部分に発生する撚れを抑制可能な速度に調整して、ボビン11を回転させる。具体的には、ミシン運転に伴うボビン11の外周面からの針糸12の繰り出しに際して、平面視して、ボビン11からの針糸12の繰り出し位置(繰り出し点)aがボビン11の外周面を1回転する速度を基準とし、この基準の回転速度と、順回転モータ25によりボビン12が1回転する速度とが同一(理想的な調整)、または、この基準の回転速度よりボビン12の回転速度の方が遅くなるように調整する(簡易な調整)。
このように、コントローラ24により、順回転モータ25によるボビン11の回転速度を、針糸12の撚れを抑制可能な速度に調整すれば、ボビン11からの釣糸12の繰り出し位置は、常時、平面視して円形のボビン12の一定の角度位置(例えば、平面視して円形のボビン12を時計に見立てたときの"9時"の位置)、または、一定の角度範囲(例えば、ボビン12を時計に見立てたときの"7時30分〜10時30分"の角度範囲90°)に維持される(
図2の部分拡大図)。
これにより、ボビン11と糸掛けガイド13との間の針糸12の部分に発生しようとする撚れを抑制することができる。その結果、この撚れを原因とした糸切れ、目飛びや糸テンションのバラツキの発生を防止し、ひいては座席シートの品質低下を防止することができる。
【0038】
また、縫製作業中、例えば、ボビン11における針糸12の残量や、ミシン15への針糸12の送り速度が変化した場合や、ボビン11の交換に伴って針糸12の素材や太さが変更された際には、ボビン11からの針糸12の繰り出しと、順回転モータ25によるボビン11の順方向への回転とのバランスが崩れる。その際には、この良好なバランス状態が回復するように、モータコントローラ24のダイヤルスイッチNを所定方向に所定量だけ回転して、順回転モータ25をより高速回させるか、反対にこれを低速回転させる。これにより、仮に細い針糸12や柔らかい針糸12を使用したときでも、針糸12のうち、ボビン11と糸掛けガイド13との間の部分(立ち上がり部分)には、従来装置における針糸12の繰り出し部分に付与されたテンションを原因とする糸切れは発生しない。
【0039】
さらに、ここではボビン11の軸線が垂直で、針糸12の繰り出し方向が上方向(縦方向)であるため、ミシン15の運転時に、ボビン11から導出された針糸12の送り先が、定位置の糸掛けガイド13であって、かつボビン11の外周面上での針糸12の繰り出し位置aが、針糸12の繰り出しに伴ってボビン11の長さ方向の一端から他端まで徐々に移動する場合でも、このボビン11が錘となるため、ボビン11の軸線が水平であった従来装置のときのように、ボビン台22(の取付軸)からボビン11が抜け落ちることはない。
【0040】
さらにまた、これらの従来装置の場合には、ボビン11からの針糸12の繰り出し方向が横方向(水平方向)であったため、針糸12の繰り出し部分には糸の自重に因るたるみが発生しやすく、このたるみを原因とした針糸12の撚れや縺れも生じやすかった。そこで、これらの従来装置では、たるみ解消のために針糸12の繰り出し部分に所定のテンションを付与している。すなわち、このテンション付与は従来装置の必須の構成要件である。これに対して、実施例1のミシン用針糸送り装置10では、ボビン11の軸線が垂直で、ボビン11の外周面から上方へ針糸12を繰り出すようにしたため、このような糸切れの原因となるテンションを、針糸12の繰り出し部分に付与しなくてもよい。
【0041】
なお、ここでは縫い針14が1本の一般的なミシン15を採用したが、これに限定しなくても、例えば、2本の縫い針14A,14Bが装着された2本縫い用ミシン15Aを採用してもよい(
図5)。この場合、各縫い針14A,14Bには、一対のボビン11A,11Bからそれぞれ繰り出された2本の針糸12A,12Bが供給される。
これに対応して、ミシン用針糸送り装置10Aは、一方の針糸12Aを、糸掛けガイド13を経て、一方の縫い針14Aへ送る第1のミシン用針糸送り部60Aと、残りの針糸12Bを、糸掛けガイド13を経て、残りの縫い針14Bへ送る第2のミシン用針糸送り部60Bとを有するものとなる。第1のミシン用針糸送り部60Aおよび第2のミシン用針糸送り部60Bには、ボビン台22と、順回転モータ25A,25Bと、モータコントローラ24とが配設されている。
【0042】
したがって、各ボビン12A,12Bから繰り出された2本の針糸11A,11Bは、対応する第1のミシン用針糸送り部60Aまたは第2のミシン用針糸送り部60Bを使用し、各ボビン12A,12Bの直上に配された糸掛けガイド13を経て、2本縫いミシン15Aの対応する縫い針14A,14Bへと送られる。その際、各順回転モータ25A,25Bを駆動し、各ボビン12A,12Bからの各針糸11A,11Bの繰り出しと同期して、各針糸11A,11Bの繰り出し方向と同じ順方向に各ボビン12A,12Bを回転させる。これにより、各針糸11A,11Bのうち、対応するボビン12A,12Bと糸掛けガイド13との間の部分に発生しようとする撚れを個別に抑制することができる。
そのため、例えば、2本の縫い針14A,14Bによって革製の座席シートをカーブ(曲線)縫いする場合、内周側より外周側の方が針糸11A(11B)の使用量が大きくなる。その結果、一対のボビン12A,12Bから繰り出される針糸11A,11Bの繰り出し量に変化が生じる。この場合、各順回転モータ25A,25Bは、同一の糸送り調整を行うのではなく、各針糸11A,11Bの繰り出し量の違いに応じた回転速度の調整を行うことになる。このことは、各ボビン12A,12Bにおける針糸11A,11Bの残量の違いにおいても同様である。
【0043】
次に、
図6および
図7を参照して、この発明の実施例2に係るミシン用針糸送り装置を説明する。
図6のブロック図に示すように、この発明の実施例2に係るミシン用針糸送り装置10Bの特徴は、ミシン15の運転中に、ボビン11の周方向へ変位する針糸12の繰り出し位置aをビデオ撮像するビデオカメラ50を有し、モータコントローラ24は、針糸12の繰り出し位置aのボビン11の周方向への変位角度θが、あらかじめ設定された変位角度θの制御目標値内となるように、順回転モータ25の回転速度を自動制御するようにした点である。
【0044】
以下、これらの構成部品について具板的に説明する。
ビデオカメラ50はデジタル式のもので、糸掛けガイド13のうち、ボビン台22の直上部分に固定されている。ビデオカメラ50は、ミシン15の運転中は、常時、ボビン11の周方向における針糸12の繰り出し位置aをビデオ撮像する(
図1の部分拡大図参照)。
また、モータコントローラ24は、ビデオカメラ50によりビデオ撮像した動画像データから、ボビン11の周方向における針糸12の繰り出し位置aが所定時間内で変化する変位角度θを検出する変位角度検出手段51と、変位角度θの制御目標値(ここでは90°)が記憶された記憶部52と、変位角度検出手段51により得られた針糸12の繰り出し位置aの変位角度θと、記憶部52に記憶された制御目標値とを対比し、針糸12の繰り出し位置aの変位角度θが制御目標値内かを判定する変位角度判定手段53と、変位角度判定手段53が、制御目標値を逸脱していると判定した場合のみ、針糸12の繰り出し位置aの変位角度θが制御目標値内となるように、順回転モータ25の回転速度を制御する回転速度制御手段54と、これらを制御する制御部55とを有している。
【0045】
変位角度検出手段51は、ビデオカメラ50の動画像データから、ボビン11の周方向における針糸12の繰り出し位置aが所定時間内で変化する変位角度θを検出する変位角度検出回路である。ここでの"所定時間"は10秒間である。もちろん、これには限定されない。例えば1秒間でも、1分間でもよい。
記憶部52は、変位角度θの制御目標値が、読み書き自在に記憶されるRAM(Random access memory)である。ここでの制御目標値は30°である。RAMに代えてROM(Read Only Memory)でもよい。
【0046】
変位角度判定手段53は、針糸12の繰り出し位置aの変位角度θと記憶部52の制御目標値とを対比し、針糸12の繰り出し位置aの変位角度θが制御目標値内かを判定する変位角度判定回路である。
また、回転速度制御手段54は、変位角度判定手段53が、制御目標値内ではないと判定した場合に、針糸12の繰り出し位置aの変位角度θが制御目標値内となるように、順回転モータ25の回転速度を制御する回転速度制御回路である。
さらに、制御部55は、これらの電気機器を総括的に制御する中央演算装置(CPU)を有している。
【0047】
次に、
図7のフローシートを参考にして、この発明の実施例2に係るミシン用針糸送り装置10Bを利用して行う、自動車用の革製の座席シートの縫製作業について説明する。
まず、ミシン15の運転中、ビデオカメラ50によってボビン11の周方向へ変位する針糸12の繰り出し位置aをビデオ撮像する。
その後、撮像時間のうち、任意に抽出された10秒間の動画像データに基づき、針糸12の繰り出し位置aがボビン11の周方向へ最も離れたときの角度(変位角度θ)を変位角度検出手段51により検出する。
【0048】
次いで、変位角度判定手段53により、変位角度検出手段51により検出された"針糸12の繰り出し位置aの変位角度θ"と、記憶部52に記憶された"制御目標値"とを対比し、針糸12の繰り出し位置aの変位角度θが制御目標値以内かを判定する(
図2の部分拡大図)。
判定の結果、この変位角度θが制御目標値の90°以内であれば、現状のミシン縫製作業が継続される。一方、90°を逸脱している場合には、この変位角度θが制御目標値内となるように、制御部55からの指令に基づき、順回転モータ25の回転速度を、適宜増速または減速して自動制御する。これにより、ボビン11と糸掛けガイド13との間の針糸12の立ち上がり部分に発生する撚れを自動的に抑制することができる。なお、ここでは変位角度θが45°であったため、現状のミシン縫製作業を継続する制御がなされた。
その他の構成、作用および効果は、実施例1から推測可能な範囲であるため、説明を省略する。