特許第6222707号(P6222707)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222707
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】鞍乗型車両の操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62K 21/00 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
   B62K21/00
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-190109(P2015-190109)
(22)【出願日】2015年9月28日
(65)【公開番号】特開2017-65314(P2017-65314A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2016年5月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】森 庸太朗
(72)【発明者】
【氏名】安井 永和
(72)【発明者】
【氏名】荒木 真
【審査官】 須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−184934(JP,A)
【文献】 特開2013−075589(JP,A)
【文献】 特開2003−072656(JP,A)
【文献】 特開平02−189295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端部に操向軸(16)を有すると共に、下端部で前輪(11)を支持するフロントフォーク(17)と、
前記操向軸(16)に取り付けられる操舵アーム(45)と、
車体フレーム(1)に設けられる操舵軸(39)に回動可能に支持される操舵力伝達部材(38)と、
前記操舵アーム(45)と前記操舵力伝達部材(38)とを連結する操舵系リンク(41)と、を備える鞍乗型車両の操舵装置(60)において、
前記操向軸(16)に伝達される操舵力を補助する操舵補助力を発するアシストモータ(71)と、
前記操舵軸(39)に回動可能に支持される操舵補助力伝達部材(72)と、
前記操舵アーム(45)と前記操舵補助力伝達部材(72)とを連結するアシスト操舵系リンク(73)と、を更に備え、
前記操舵力伝達部材(38)と前記操舵補助力伝達部材(72)との間には、前記操舵力伝達部材(38)の回動に伴って前記操舵補助力伝達部材(72)が前記操舵軸(39)の回りに回動されるように前記操舵力伝達部材(38)と前記操舵補助力伝達部材(72)とを係合可能とする係合部(38d,72d)が設けられ
前記操舵力伝達部材(38)と前記操舵補助力伝達部材(72)とは、前記係合部(38d,72d)において回動方向に隙間(38s)を空けて配置されることを特徴とする鞍乗型車両の操舵装置。
【請求項2】
上端部に操向軸(16)を有すると共に、下端部で前輪(11)を支持するフロントフォーク(17)と、
前記操向軸(16)に取り付けられる操舵アーム(45)と、
車体フレーム(1)に設けられる操舵軸(39)に回動可能に支持される操舵力伝達部材(38)と、
前記操舵アーム(45)と前記操舵力伝達部材(38)とを連結する操舵系リンク(41)と、を備える鞍乗型車両の操舵装置(60)において、
前記操向軸(16)に伝達される操舵力を補助する操舵補助力を発するアシストモータ(71)と、
前記操舵軸(39)に回動可能に支持される操舵補助力伝達部材(72)と、
前記操舵アーム(45)と前記操舵補助力伝達部材(72)とを連結するアシスト操舵系リンク(73)と、を更に備え、
前記操舵力伝達部材(38)と前記操舵補助力伝達部材(72)との間には、前記操舵力伝達部材(38)の回動に伴って前記操舵補助力伝達部材(72)が前記操舵軸(39)の回りに回動されるように前記操舵力伝達部材(38)と前記操舵補助力伝達部材(72)とを係合可能とする係合部(38d,72d)が設けられ、
前記操舵力伝達部材(38)には、前記操舵軸(39)に沿う方向から見て、径方向外側に延出する操舵力伝達部材側延出部(38e)が形成され、
前記操舵補助力伝達部材(72)には、前記操舵軸(39)に沿う方向から見て、径方向外側に延出する操舵補助力伝達部材側延出部(72e)が形成され、
前記係合部(38d,72d)は、前記操舵力伝達部材側延出部(38e)と前記操舵補助力伝達部材側延出部(72e)との間に形成されることを特徴とする鞍乗型車両の操舵装置。
【請求項3】
前記操舵力伝達部材(38)と前記操舵補助力伝達部材(72)とは、前記係合部(38d,72d)において回動方向に隙間(38s)を空けて配置されることを特徴とする請求項に記載の鞍乗型車両の操舵装置。
【請求項4】
前記操舵力伝達部材(38)と前記操舵補助力伝達部材(72)とは、少なくとも一部が上下に重なるように配置されることを特徴とする請求項1から3までの何れか一項に記載の鞍乗型車両の操舵装置。
【請求項5】
前記操舵力伝達部材(38)には、前記操舵軸(39)に沿う方向から見て、径方向外側に延出する操舵力伝達部材側延出部(38e)が形成され、
前記操舵補助力伝達部材(72)には、前記操舵軸(39)に沿う方向から見て、径方向外側に延出する操舵補助力伝達部材側延出部(72e)が形成され、
前記係合部(38d,72d)は、前記操舵力伝達部材側延出部(38e)と前記操舵補助力伝達部材側延出部(72e)との間に形成されることを特徴とする請求項1からまでの何れか一項に記載の鞍乗型車両の操舵装置。
【請求項6】
前記アシストモータ(71)が発する前記操舵補助力を前記操舵補助力伝達部材(72)に伝達する操舵補助力伝達ロッド(79)を更に備え、
前記操舵補助力伝達部材側延出部(72e)には、前記操舵補助力伝達ロッド(79)の一端部(79b)が接続される操舵補助力伝達ロッド接続部(72j)が設けられることを特徴とする請求項に記載の鞍乗型車両の操舵装置。
【請求項7】
前記操舵力伝達部材(38)には、ハンドル(18)が取り付けられるハンドル取付部(38a)が設けられ、
前記ハンドル取付部(38a)は、側面視で、前記操舵軸(39)よりも前方に配置されることを特徴とする請求項1からまでの何れか一項に記載の鞍乗型車両の操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両の操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鞍乗型車両の操舵装置において、例えば特許文献1に開示されたものがある。これは、ステアリング軸に操舵補助力を伝達するパワーアシスト部を備え、パワーアシスト部の電動モータをヘッドパイプのボトムブリッジ側に支持伝達部材を介して取り付けたものである。
一方、自動二輪車の前輪懸架装置において、例えば特許文献2に開示されたものがある。これは、前輪を支持するフロントフォークの操向筒部内に操向軸リンクを設け、前記操向筒部の外に突出する操向軸リンクの上下端部を、上下揺動自在に設けられたスイングアームを介して車体フレームに支持させたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−076490号公報
【特許文献2】特開平4−169386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような前輪懸架装置においても、ステアリング軸に操舵補助力を伝達するアシスト操舵系を組み込むことが求められている。アシスト操舵系を組み込んだ構成においては、操舵力伝達系の一部が不作動になった場合でも、アシスト操舵系から操向軸に操舵力を伝達可能とすることが望まれていた。
【0005】
そこで本発明は、上端部に操向軸を有すると共に下端部で前輪を支持するフロントフォークと、操向軸に取り付けられる操舵アームと、車体フレームに設けられる操舵軸に回動可能に支持される操舵力伝達部材と、操舵アームと操舵力伝達部材とを連結する操舵系リンクとを備える鞍乗型車両の操舵装置において、操舵力伝達系の一部が不作動になった場合でも、アシスト操舵系から操向軸に操舵力を伝達可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、上端部に操向軸(16)を有すると共に、下端部で前輪(11)を支持するフロントフォーク(17)と、前記操向軸(16)に取り付けられる操舵アーム(45)と、車体フレーム(1)に設けられる操舵軸(39)に回動可能に支持される操舵力伝達部材(38)と、前記操舵アーム(45)と前記操舵力伝達部材(38)とを連結する操舵系リンク(41)と、を備える鞍乗型車両の操舵装置(60)において、前記操向軸(16)に伝達される操舵力を補助する操舵補助力を発するアシストモータ(71)と、前記操舵軸(39)に回動可能に支持される操舵補助力伝達部材(72)と、前記操舵アーム(45)と前記操舵補助力伝達部材(72)とを連結するアシスト操舵系リンク(73)と、を更に備え、前記操舵力伝達部材(38)と前記操舵補助力伝達部材(72)との間には、前記操舵力伝達部材(38)の回動に伴って前記操舵補助力伝達部材(72)が前記操舵軸(39)の回りに回動されるように前記操舵力伝達部材(38)と前記操舵補助力伝達部材(72)とを係合可能とする係合部(38d,72d)が設けられ、前記操舵力伝達部材(38)と前記操舵補助力伝達部材(72)とは、前記係合部(38d,72d)において回動方向に隙間(38s)を空けて配置されることを特徴とする。
請求項2に記載した発明は、上端部に操向軸(16)を有すると共に、下端部で前輪(11)を支持するフロントフォーク(17)と、前記操向軸(16)に取り付けられる操舵アーム(45)と、車体フレーム(1)に設けられる操舵軸(39)に回動可能に支持される操舵力伝達部材(38)と、前記操舵アーム(45)と前記操舵力伝達部材(38)とを連結する操舵系リンク(41)と、を備える鞍乗型車両の操舵装置(60)において、前記操向軸(16)に伝達される操舵力を補助する操舵補助力を発するアシストモータ(71)と、前記操舵軸(39)に回動可能に支持される操舵補助力伝達部材(72)と、前記操舵アーム(45)と前記操舵補助力伝達部材(72)とを連結するアシスト操舵系リンク(73)と、を更に備え、前記操舵力伝達部材(38)と前記操舵補助力伝達部材(72)との間には、前記操舵力伝達部材(38)の回動に伴って前記操舵補助力伝達部材(72)が前記操舵軸(39)の回りに回動されるように前記操舵力伝達部材(38)と前記操舵補助力伝達部材(72)とを係合可能とする係合部(38d,72d)が設けられ、前記操舵力伝達部材(38)には、前記操舵軸(39)に沿う方向から見て、径方向外側に延出する操舵力伝達部材側延出部(38e)が形成され、前記操舵補助力伝達部材(72)には、前記操舵軸(39)に沿う方向から見て、径方向外側に延出する操舵補助力伝達部材側延出部(72e)が形成され、前記係合部(38d,72d)は、前記操舵力伝達部材側延出部(38e)と前記操舵補助力伝達部材側延出部(72e)との間に形成されることを特徴とする。
請求項に記載した発明は、前記操舵力伝達部材(38)と前記操舵補助力伝達部材(72)とは、前記係合部(38d,72d)において回動方向に隙間(38s)を空けて配置されることを特徴とする。
請求項に記載した発明は、前記操舵力伝達部材(38)と前記操舵補助力伝達部材(72)とは、少なくとも一部が上下に重なるように配置されることを特徴とする。
請求項に記載した発明は、前記操舵力伝達部材(38)には、前記操舵軸(39)に沿う方向から見て、径方向外側に延出する操舵力伝達部材側延出部(38e)が形成され、前記操舵補助力伝達部材(72)には、前記操舵軸(39)に沿う方向から見て、径方向外側に延出する操舵補助力伝達部材側延出部(72e)が形成され、前記係合部(38d,72d)は、前記操舵力伝達部材側延出部(38e)と前記操舵補助力伝達部材側延出部(72e)との間に形成されることを特徴とする。
請求項に記載した発明は、前記アシストモータ(71)が発する前記操舵補助力を前記操舵補助力伝達部材(72)に伝達する操舵補助力伝達ロッド(79)を更に備え、前記操舵補助力伝達部材側延出部(72e)には、前記操舵補助力伝達ロッド(79)の一端部(79b)が接続される操舵補助力伝達ロッド接続部(72j)が設けられることを特徴とする。
請求項に記載した発明は、前記操舵力伝達部材(38)には、ハンドル(18)が取り付けられるハンドル取付部(38a)が設けられ、前記ハンドル取付部(38a)は、側面視で、前記操舵軸(39)よりも前方に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載した発明によれば、操舵力伝達部材と操舵補助力伝達部材との間には、操舵力伝達部材の回動に伴って操舵補助力伝達部材が操舵軸の回りに回動されるように操舵力伝達部材と操舵補助力伝達部材とを係合可能とする係合部が設けられることで、操向軸には、操舵力伝達部材の回動による操舵力と、係合部を介した操舵補助力伝達部材の回動による操舵力とが伝達されるようになる。従って、操舵力伝達系の一部が不作動になった場合でも、アシスト操舵系から操向軸に操舵力を伝達可能とすることができる。加えて、操舵力伝達部材と操舵補助力伝達部材とが係合部において回動方向に隙間を空けて配置されることで、操舵力伝達部材と操舵補助力伝達部材とが係合部において回動方向に隙間を空けずに配置される(言い換えると、当接して配置される)場合と比較して、操舵力伝達部材と操舵補助力伝達部材との間で互いの力(操舵力及び操舵補助力)がすぐに行き来してしまうことを回避することができる。
請求項2に記載した発明によれば、操舵力伝達部材と操舵補助力伝達部材との間には、操舵力伝達部材の回動に伴って操舵補助力伝達部材が操舵軸の回りに回動されるように操舵力伝達部材と操舵補助力伝達部材とを係合可能とする係合部が設けられることで、操向軸には、操舵力伝達部材の回動による操舵力と、係合部を介した操舵補助力伝達部材の回動による操舵力とが伝達されるようになる。従って、操舵力伝達系の一部が不作動になった場合でも、アシスト操舵系から操向軸に操舵力を伝達可能とすることができる。加えて、係合部が操舵力伝達部材側延出部と操舵補助力伝達部材側延出部との間に形成されることで、係合部が操舵力伝達部材側延出部及び操舵補助力伝達部材延出部以外の部分(例えば、操舵力伝達部材の径方向内側部、操舵補助力伝達部材の径方向内側部)に形成される場合と比較して、係合部を容易に形成することができる。
請求項に記載した発明によれば、操舵力伝達部材と操舵補助力伝達部材とが係合部において回動方向に隙間を空けて配置されることで、操舵力伝達部材と操舵補助力伝達部材とが係合部において回動方向に隙間を空けずに配置される(言い換えると、当接して配置される)場合と比較して、操舵力伝達部材と操舵補助力伝達部材との間で互いの力(操舵力及び操舵補助力)がすぐに行き来してしまうことを回避することができる。
請求項に記載した発明によれば、操舵力伝達部材と操舵補助力伝達部材とは少なくとも一部が上下に重なるように配置されることで、操舵力伝達部材と操舵補助力伝達部材とが上下に重ならないように配置される場合と比較して、操舵力伝達部材と操舵補助力伝達部材とが集約されるため、操舵装置のコンパクト化を図ることができる。
請求項に記載した発明によれば、係合部が操舵力伝達部材側延出部と操舵補助力伝達部材側延出部との間に形成されることで、係合部が操舵力伝達部材側延出部及び操舵補助力伝達部材延出部以外の部分(例えば、操舵力伝達部材の径方向内側部、操舵補助力伝達部材の径方向内側部)に形成される場合と比較して、係合部を容易に形成することができる。
請求項に記載した発明によれば、操舵補助力伝達部材側延出部には、操舵補助力伝達ロッドの一端部が接続される操舵補助力伝達ロッド接続部が設けられることで、操舵補助力伝達部材側延出部を利用してアシストモータの駆動力(操舵補助力)を操舵補助力伝達部材に伝達することができるため、操向軸に操舵補助力をスムーズに伝達することができる。
請求項に記載した発明によれば、ハンドル取付部が側面視で操舵軸よりも前方に配置されることで、ハンドルを取り付けるための部材を別個独立に設ける場合と比較して、部品点数を抑えることができる。又、ハンドル取付部が側面視で操舵軸よりも後方に配置される場合と比較して、操舵力伝達部材のコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態における自動二輪車の車体前部の左側面図である。
図2】上記自動二輪車の操舵装置の左側面図である。
図3】上記操舵装置の連係リンク周辺の左側面図である。
図4】上記操舵装置をステイと共に示す左側面図である。
図5】上記操舵装置を操舵軸に沿う方向から見た図である。
図6】上記操舵装置のパワーアシスト部を操舵軸に沿う方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。尚、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ以下に説明する車両における向きと同一とする。また以下の説明に用いる図中適所には、車両前方を示す矢印FR、車両左方を示す矢印LH、車両上方を示す矢印UP、及び車両左右中心線CLが示されている。
【0010】
<車両全体>
図1は、鞍乗型車両の一例としての自動二輪車の車体前部を示す。図1及び図5を併せて参照し、自動二輪車の車体フレーム1は、前端部に前輪懸架装置10を支持するフロントブロック3を有し、車両前後に延びる左右一対のメインフレーム2を備える。尚、図5中符号2Lは左メインフレーム、符号2Rは右メインフレームを示す。又、図5中符号3Lは左フロントブロック、符号3Rは右フロントブロックを示す。
【0011】
図1を参照し、左右メインフレーム2は、側面視で、前側ほど前後幅が大きい形状をなすフロントブロック3と、不図示の後輪懸架装置を支持するピボット部5と、フロントブロック3の後端から後側ほど下方に位置するように緩やかに傾斜して延びてフロントブロック3の後端とピボット部5の前上端との間を渡す連結部4と、を一体に有する。
【0012】
メインフレーム2の下方の空間には、例えばエンジン(不図示)が搭載される。フロントブロック3及び連結部4の上方には、燃料タンク7が配置される。ピボット部5の上方には、シート8が配置される。自動二輪車の車体前部は、合成樹脂製のフロントカウル9で覆われる。
【0013】
図示はしないが、フロントブロック3は、前面視で上側ほど左右幅を狭めて下方に開放する門形(逆V字状)をなす。図1において、フロントブロック3における前記門形の下部開放部を符号3sで示す。
【0014】
図2を併せて参照し、フロントブロック3の前上端部には、上アーム21の後端部21bが接続される上接続部3aが形成される。フロントブロック3の前上部で且つ前記上接続部3aよりも後方には、バーハンドル18(ハンドル)を支持するハンドル支持部31が後上方に延出して形成される。フロントブロック3の前下部には、下アーム22の後端部22bが接続される下接続部3bが形成される。
【0015】
<前輪懸架装置>
図1図2及び図5を併せて参照し、前輪懸架装置10は、上端部に操向軸16を有すると共に、下端部で前輪11を支持するフロントフォーク17と、操向軸16に取り付けられる操舵アーム45と、車体フレーム1に設けられる操舵軸39に回動可能に支持される操舵力伝達部材38を有するハンドルポスト35と、フロントフォーク17を回動可能(操向可能)に支持するフォークホルダ15と、操舵アーム45と操舵力伝達部材38とを連結する操舵系リンク41と、車両前後方向に延びて前輪11を上下揺動可能に支持する上下アーム21,22を有するスイングアーム20と、前輪11の動きに伴って伸縮して緩衝作用を得るクッション部材27と、を備える。これらハンドルポスト35、操舵系リンク41、操舵アーム45、フォークホルダ15及びフロントフォーク17を介して、バーハンドル18の操作に伴う操舵軸線C1の回りの回動と前輪11の転舵とが連係される。ハンドルポスト35、操舵系リンク41、操舵アーム45、フォークホルダ15及びフロントフォーク17は、操舵装置60を形成する。
【0016】
操舵力伝達部材38は、バーハンドル18の操作に伴って、操舵軸線C1の回りに回動される。操舵力伝達部材38の回動によって、操向軸16には、操舵系リンク41を介して操舵力が伝達される。操向軸16に操舵力が伝達されることによって、フロントフォーク17は、操向軸線C2の回りに回動される。
【0017】
ここで、操舵軸線C1は、バーハンドル18の操作に伴って回動されるハンドルポスト35の回動軸線であり、ハンドル支持部31における円筒状のボス部32の中心軸線と一致する。操向軸線C2は、バーハンドル18の操作に伴って回動されるフロントフォーク17の回動軸線であり、円筒状をなすフォークホルダ15の中心軸線と一致する。操向軸線C2の鉛直方向に対する角度が「キャスター角」となる。操向軸線C2は、側面視で操舵軸線C1よりも前方にオフセット(離反)する。操向軸線C2と操舵軸線C1とは、互いに略平行である。
【0018】
<フロントフォーク>
図1及び図2を併せて参照し、フロントフォーク17は、操向軸線C2を形成する操向軸16と、側面視で上側ほど後側に位置するように傾斜して上下に延びる左右一対のアーム部17aと、左右アーム部17aの上端部間を連結するクロスメンバ17bと、を一体に有する。左右アーム部17aは、前輪11の左右両側に配置される。クロスメンバ17bは、前輪11の上端位置のトレッド面に沿うように車幅方向内側へ湾曲し、左右アーム部17aの上端部間に配置される。クロスメンバ17bの左右端部は、左右アーム部17aの上端部に接合される。フロントフォーク17の各要素は、例えば一体のアルミニウム製部品であり、各要素が互いに一体に溶接結合される。
【0019】
フロントフォーク17の操向軸16は、円筒状をなすフォークホルダ15の径方向内側で、フォークホルダ15に操向軸線C2の回りに回動可能に支持される。フロントフォーク17の操向軸16の上端部16aは、操舵アーム45に接続される。
【0020】
図示はしないが、クロスメンバ17bの上端部には、操向軸16の下端部16bが接続される軸支部が形成される。クロスメンバ17bの軸支部には、操向軸16が延びる方向に開口する挿通孔(不図示)が形成される。前記挿通孔に操向軸16を上端部16aから挿通させ、挿通孔に操向軸16の下端部16bが位置する状態で、操向軸16の下端部16bと軸支部とを溶接結合することで、クロスメンバ17bの上端部が操向軸16の下端部16bに固定される。
【0021】
図1を参照し、左右アーム部17aの下端部17dには、前輪11の車軸(以下「前輪車軸」という。)が接続される。例えば、前輪車軸の車幅方向両端部は、不図示のボールベアリングを介して、左右アーム部17aの下端部17dに固定される。前輪11のホイールは、前輪車軸の車幅方向中央に回動可能に支持される。クロスメンバ17bには、フロントフェンダ12が不図示のボルトを介して支持される。
尚、図1中符号13は、ブレーキキャリパを示す。又、符号13aは、ブレーキロータを示す。又、符号C10は、前輪車軸の中心軸線を示す。又、符号C10Lは、中心軸線C10から路面Rに降ろした垂線を示す。又、符号Tは、トレールを示す。
【0022】
<ハンドル支持部>
図2を参照し、ハンドル支持部31は、側面視で、フロントブロック3の前上端部で鉛直方向に対して後傾して設けられる。ハンドル支持部31は、例えばアルミ製のフロントブロック3の上端部に一体に設けられる。ハンドル支持部31は、ハンドルポスト35を回動可能(操舵可能)に支持する。
【0023】
図2及び図5を併せて参照し、具体的に、ハンドル支持部31は、操舵軸線C1を形成する円筒状のボス部32と、フロントブロック3の前上端部から上側ほど車幅方向内側に位置するように後上方に延びてボス部32の下端部に繋がる左右延出部33と、によって形成される。尚、図5中符号33Lは左延出部、符号33Rは右延出部を示す。
【0024】
左右延出部33L,33Rには、車幅方向に沿うように延びて左右延出部33L,33Rの間を連結する連結軸としてのボルト34aが設けられる。左右延出部33L,33Rには、クッション部材27の上端部27aが接続されるクッション上接続部27cが形成される。ボス部32の上端部には、操舵軸線C1の回りに回動可能にハンドルポスト35が設けられる。
【0025】
<ハンドルポスト>
図3及び図5を併せて参照し、ハンドルポスト35は、バーハンドル18が固定されるホルダ36と、ホルダ36の下部に繋がると共に操舵軸線C1を中心軸線とする操舵軸39と、によって形成される。ホルダ36は、操舵軸線C1と平行な方向に厚みを有すると共に、左側部に切欠部を有し、且つ、操舵軸39に沿う方向から見て前側ほど左右幅が大きい扇形状をなす操舵力伝達部材38と、操舵力伝達部材38の前側左右両端部に接続されると共に、側面視でL字状をなして後上方に延びる左右延出部37L,37Rと、を有する。
【0026】
操舵軸39は、ボス部32の径方向内側にボールベアリング(不図示)を介して回動可能に支持される。操舵力伝達部材38は、カラー及びボールベアリング(何れも不図示)を介して、操舵軸39の上端部に操舵軸線C1の回りに回動可能に支持される。図6を併せて参照し、操舵力伝達部材38の右端部には、操舵系リンク41の後端部が接続される操舵系リンク後接続部38cが形成される。操舵力伝達部材38には、操舵軸39に沿う方向から見て、車両左右中心線CLに左右中心を沿わせて後方に延出する操舵力伝達部材側延出部38eが形成される。
【0027】
図3図5及び図6を併せて参照し、左右延出部37L,37Rは、バーハンドル18の車幅方向内側端部が接続されるハンドル接続部37aと、操舵力伝達部材38の左右端部に設けられるハンドル取付部38aに接続されると共に操舵力伝達部材38の傾斜に沿うように側面視で前上方に延びる第一延出部37bと。第一延出部37bの前上端から後上方に延びて前記ハンドル接続部37aに繋がる第二延出部37cと、を一体に有する。ハンドル取付部38aは、側面視で、操舵軸39よりも前方に配置される。図6を参照し、左右延出部37L,37Rの第一延出部37bは、ハンドル取付部38aに複数(例えば本実施形態では左右二つずつ)の締結部材(ボルト)によって締結固定される。
【0028】
操舵力伝達部材38が操舵軸39に回動可能に支持されることで、ハンドルポスト35は、バーハンドル18の操作に伴って操舵軸線C1の回りに回動可能(操舵可能)とされる。
図中符号19Lは、ディマースイッチ、ウインカスイッチ等のスイッチ類を有する左スイッチボックスを示す。又、図5中符号19Rは、キルスイッチ等のスイッチ類を有する右スイッチボックスを示す。又、図5中符号19Mは、ブレーキレバーに連結されるマスターシリンダーを示す。
【0029】
<フォークホルダ>
図2を参照し、フォークホルダ15は、操舵軸線C1の前方にフロントブロック3から離反して設けられる。具体的に、フォークホルダ15は、円筒状をなし、フロントブロック3の前方で鉛直方向に対して後傾して設けられる。フォークホルダ15は、その径方向内側でフロントフォーク17の操向軸16を、操向軸線C2の回りに回動可能(操向可能)に支持する。操向軸16の上端部16aは、フォークホルダ15の上端部15aよりも上方に突出する。尚、操向軸16及びフォークホルダ15は、操向軸線C2を中心軸線とする。
【0030】
操向軸16の上端部16aがフォークホルダ15の上端部15aよりも上方に突出した状態で、操向軸16の上端部16aの側から操向軸16とフォークホルダ15との間には、操向軸16を回動自在に支持する軸受(不図示)が組み付けられる。図中符号14は、操向軸16の上端部16aの側から操向軸16に挿通されて、前記軸受の抜け止めを行う抜け止め部材を示す。
【0031】
図2及び図5を併せて参照し、フォークホルダ15の前上部には、上アーム21の前端部21aが接続される上接続部15cが前上方に突出して形成される。フォークホルダ15の後下部には、下アーム22の前端部22aが接続される下接続部15dが後下方に突出して形成される。上接続部15cは、側面視で操向軸線C2よりも前方に配置され、下接続部15dは、側面視で操向軸線C2よりも後方に配置される。フォークホルダ15の左右側面には、下接続部15dを補強するためのリブ15rが形成される。リブ15rは、側面視で前上方に開くV字状を有し、下接続部15d側ほどリブ高さが大きくなるように下接続部15dから前上方に分岐して延びる。
【0032】
<操舵アーム>
図3及び図5を併せて参照し、操舵アーム45は、フォークホルダ15の上端部15aよりも上方で、操向軸16の上端部16aに支持される。操舵アーム45は、連係リンク40の前端部が接続されるリンク前接続部45aと、操向軸線C2に沿う方向から見て前方が開くC字状をなす軸支部45bと、軸支部45bの上端から上側ほど車幅方向外側に位置するように延びてリンク前接続部45aと軸支部45bとの間を連結する連結部45cとを、一体に有する。図5中符号45Laは、車幅方向左側に配置されると共に、後述する連係リンク40を構成するアシスト操舵系リンク73の前端部が接続されるアシスト操舵系リンク前接続部を示す。又、図5中符号45Raは、車幅方向右側に配置されると共に、連係リンク40を構成する操舵系リンク41の前端部が接続される操舵系リンク前接続部を示す。
【0033】
軸支部45bの前端部には、車幅方向に開口する挿通孔が形成される。例えば、操向軸16の上端部16aに軸支部45bを挿し込んだ状態で、前記挿通孔を通じてボルトをナットに螺着し締め込むことで、操舵アーム45が操向軸16の上端部16aに締結固定される。操舵アーム45は、バーハンドル18の操作に伴ってフロントフォーク17と一体的に操向軸線C2の回りに回動可能とされる。
【0034】
<操舵系リンク>
図5及び図6を併せて参照し、操舵系リンク41は、車幅方向右側に設けられ、上面視で前後に延びる直線状をなす操舵系リンク部材42を備える。操舵系リンク部材42の前端部には、操舵系リンク前接続部45Raに接続される前ボールジョイント41Fが設けられる。操舵系リンク部材42の後端部には、操舵系リンク後接続部38cに接続される後ボールジョイント41Rが設けられる。
【0035】
図3では、操舵系リンク41における前後ボールジョイント41F,41Rと同様の構成を有するアシスト操舵系リンク73における前後ボールジョイント73F,73Rを示す。前後ボールジョイント41F,41Rは、アシスト操舵系リンク73における前後ボールジョイント73F,73Rと同様、ボールスタッド43と、ソケット44と、を有する。ボールスタッド43は、球状のボール部43aと、ボール部43aの上方に突出するスタッド部43bと、を有する。ボール部43aは、ソケット44の内部で摺動可能に保持される。スタッド部43bは、車両上下方向に直線状に延びる。ソケット44は、上下ソケット44a,44bを有する。上下ソケット44a,44bの間には、ボール部43aが摺動可能に保持される。
【0036】
図2図3及び図5を併せて参照し、操舵系リンク前接続部45Raには、車両上下方向に開口する挿通孔が形成される。操舵系リンク前接続部45Raの挿通孔に前ボールジョイント41Fのスタッド部43bの上端部のネジ部を挿通し、その上方への突出部にナットを螺着し締め込むことで、前ボールジョイント41Fのスタッド部43bが操舵系リンク前接続部45Raに締結固定される。以下、前ボールジョイントにおけるスタッド部43bの中心軸線を「第一軸線C4」という。操舵系リンク部材42の前端部は、前ボールジョイント41Fを介して操舵系リンク前接続部45Raに第一軸線C4(具体的には、車幅方向右側の前ポールジョイント41Fにおけるスタッド部43bの中心軸線)の周りに回動自在に接続される。
【0037】
操舵系リンク後接続部38cには、車両上下方向に開口する挿通孔が形成される。操舵系リンク後接続部38cの挿通孔に後ボールジョイント41Rのスタッド部43bの上端部のネジ部を挿通し、その上方への突出部にナットを螺着し締め込むことで、後ボールジョイント41Rのスタッド部43bが操舵系リンク後接続部38cに締結固定される。以下、後ボールジョイントにおけるスタッド部43bの中心軸線を「第二軸線C5」という。操舵系リンク部材42の後端部は、後ボールジョイント41Rを介して操舵系リンク後接続部38cに第二軸線C5(具体的には、車幅方向右側の後ボールジョイント41Rにおけるスタッド部43bの中心軸線)の回りに回動自在に接続される。
【0038】
本実施形態において、操舵系リンク部材42は、前後端部にネジ部を有し、前後ネジ部がそれぞれ前ボールジョイント41Fの下ソケット44bの後端部及び後ボールジョイント41Rの下ソケット44bの前端部に所定量螺着された状態でロックナットを用いて固定される。これにより、前記ロックナットを緩めて下ソケット44bとネジ部との螺着量を増減させることで、操舵系リンク部材42の前後接続部間の距離を調整できる。
【0039】
<スイングアーム>
図2を参照し、スイングアーム20は、車両前後方向に延びて上下揺動可能に設けられる上下アーム21,22を有する。上下アーム21,22は、車両上下方向に並んで配置されると共に、車両前後方向に沿うように延びる。上アーム21の前端部21aは、フォークホルダ15の上部の車幅方向外側に配置され、下アーム22の前端部22aは、フォークホルダ15の下部の車幅方向内側に配置される。上下アーム21,22の後端部21b,22bは、フロントブロック3の前部の車幅方向内側に配置される。上下アーム21,22の後端部21b,22bは、フロントブロック3における前記門形の下部開放部3s内に収容される。
【0040】
上アーム21の前後端部21a,21bは、側面視で、下アーム22の前後端部22a,22bよりも前方に配置される。側面視で、上アーム21の前端部21aは操向軸線C2よりも前方に位置し、下アーム22の前端部22aは操向軸線C2よりも後方に位置する。上下アーム21,22の後端部21b,22bは、フロントブロック3の前部に揺動可能に支持される。フォークホルダ15は、上下アーム21,22の前端部21a,22aに揺動可能に接続される。
【0041】
図2及び図5を併せて参照し、フォークホルダ15の上下接続部15c,15dは、上下アーム21,22の前端部21a,22aに車幅方向に沿う連結軸としてのボルト23a,25aを介して揺動可能に接続される。ボルト23aは、フォークホルダ15の上接続部15c及び上アーム21の前端部21aを貫通して車幅方向に延びる。ボルト25aは、フォークホルダ15の下接続部15d及び下アーム22の前端部22aを貫通して車幅方向に延びる。図2中符号C11は、フォークホルダ15の上接続部15c及び上アーム21の前端部21aを連結するボルト23aの中心軸線を示す。図2中符号C13は、フォークホルダ15の下接続部15d及び下アーム22の前端部22aを連結するボルト25aの中心軸線を示す。
【0042】
上下アーム21,22の後端部21b,22bは、フロントブロック3の上下接続部3a,3bに車幅方向に沿う連結軸としてのボルト24a,26aを介して揺動可能に接続される。ボルト24aは、上アーム21の後端部21b及びフロントブロック3の上接続部3aを貫通して車幅方向に延びる。ボルト26aは、下アーム22の後端部22b及びフロントブロック3の下接続部3bを貫通して車幅方向に延びる。上下アーム21,22の後端部21b,22bは、フロントブロック3を貫通して車幅方向に沿って延びるボルト24a,26aを介して回動可能に支持されることで、上下アーム21,22を高い剛性で支持することができる。図2中符号C12は、上アーム21の後端部21b及びフロントブロック3の上接続部3aを連結するボルト24aの中心軸線を示す。図2中符号C14は、下アーム22の後端部22b及びフロントブロック3の下接続部3bを連結するボルト26aの中心軸線を示す。
以下、ボルト23aの中心軸線を「第一連結軸線C11」、ボルト24aの中心軸線を「第二連結軸線C12」、ボルト25aの中心軸線を「第三連結軸線C13」、ボルト26aの中心軸線を「第四連結軸線C14」という。
【0043】
図2を参照し、側面視で、第一連結軸線C11と第二連結軸線C12とを通る直線を「第一直線AX1」とし、第三連結軸線C13と第四連結軸線C14とを通る直線を「第二直線AX2」とする。側面視で、上アーム21の第一直線AX1と下アーム22の第二直線AX2とは、互いに略平行である。
【0044】
側面視で、上アーム21の前後長さは、下アーム22の前後長さと略同じである。言い換えると、側面視で、第一連結軸線C11及び第二連結軸線C12を結ぶ線分の長さは、第三連結軸線C13及び第四連結軸線C14を結ぶ線分の長さと略同じである。これにより、フォークホルダ15は、上下アーム21,22の上下揺動に対し略平行に上下する。上アーム21の後端部21b(第二連結軸線C12)及び下アーム22の前端部22a(第三連結軸線C13)は、側面視で操向軸線C2と後述するストローク軸線C3との間に配置される。
【0045】
<上アーム>
図2及び図5を併せて参照し、上アーム21は、前後に延びる左右一対の上アーム本体21cと、左右の上アーム本体21cの後端部21b間を連結するクロスメンバ21dと、を一体に有する。上アーム21の各要素は、例えばアルミニウム製部品であり、互いに一体形成される。
【0046】
左右の上アーム本体21cは、フォークホルダ15の上部の左右両側に配置される。左右の上アーム本体21cは、フォークホルダ15の上部の外壁面に沿うように車幅方向内側へ湾曲する。
【0047】
左右の上アーム本体21cの前端部21aには、車幅方向に開口する挿通孔が形成される。左右の上アーム本体21cの前端部21aの間にフォークホルダ15の上接続部15cを挟んだ状態で、前記挿通孔(左右の上アーム本体21cの前端部21aの挿通孔)及び上接続部15cの内周を通じて、ボルト23aをナット23bに螺着し締め込む。フォークホルダ15の上接続部15cは、カラー及びボールベアリング(何れも不図示)を介して、上アーム21の前端部21aに第一連結軸線C11の回りに回動可能に支持される。
【0048】
左右フロントブロック3L,3Rの上接続部3aには、車幅方向に開口する挿通孔が形成される。左右フロントブロック3L,3Rの上接続部3aの間に上アーム21の後端部21b(左右の上アーム本体21cの後端部21b及びクロスメンバ21d)を挟んだ状態で、前記挿通孔(左右フロントブロック3L,3Rの上接続部3aの挿通孔)及び上アーム21の後端部21bの内周を通じて、ボルト24aをナット24bに螺着し締め込む。上アーム21の後端部21bは、カラー及びボールベアリング(何れも不図示)を介して、左右フロントブロック3L,3Rの上接続部3aに第二連結軸線C12の回りに回動可能に支持される。
【0049】
<下アーム>
図2及び図5を併せて参照し、下アーム22は、前後に延びる左右一対の下アーム本体22cと、左右の下アーム本体22cの前端部22a間を連結する前クロスメンバ(不図示)と、左右の下アーム本体22cの後端部22b間を連結する後クロスメンバ22dと、を一体に有する。下アーム22の各要素は、例えばアルミニウム製部品であり、互いに一体形成される。左右の下アーム本体22cは、クッション部材27の下部の左右両側に配置される。
【0050】
フォークホルダ15の後部左右から後方に突出する左右の下接続部15dには、車幅方向に開口する挿通孔が形成される。左右の下接続部15dの間に左右の下アーム本体22cの前端部22a(左右の下アーム本体22cの前端部22a及び前クロスメンバ)を挟んだ状態で、前記挿通孔(左右の下接続部15dの挿通孔)及び左右の下アーム本体22cの前端部22aの内周を通じて、ボルト25aをナット(不図示)に螺着し締め込む。フォークホルダ15の左右の下接続部15dは、カラー及びボールベアリング(何れも不図示)を介して、下アーム22の前端部22aに第三連結軸線C13の回りに回動可能に支持される。
【0051】
フロントブロック3の下接続部3bには、車幅方向に開口する挿通孔が形成される。フロントブロック3の下接続部3bの間に下アーム22の後端部22b(左右の下アーム本体22cの後端部22b及び後クロスメンバ22d)を挟んだ状態で、前記挿通孔(フロントブロック3の下接続部3bの挿通孔)及び下アーム22の後端部22bの内周を通じて、ボルト26aをナット26bに螺着し締め込む。下アーム22の後端部22bは、カラー及びボールベアリング(何れも不図示)を介して、フロントブロック3の下接続部3bに第四連結軸線C14の回りに回動可能に支持される。
【0052】
下アーム22において、前クロスメンバの車幅方向中央部後方かつ左右の下アーム本体22cの前端部22aには、クッション部材27の下端部27bが接続されるクッション下接続部27dが形成される。
【0053】
<クッション部材>
図2を参照し、クッション部材27は、側面視で上側ほど後側に位置するように傾斜するロッド式のダンパー27jと、ダンパー27jの周囲を巻回するコイルスプリング27kと、を有する。クッション部材27は、その中心軸線C3に沿ってストロークして伸縮し、所定の緩衝作用を得る。以下、中心軸線C3を「ストローク軸線」という。側面視で、ストローク軸線C3が鉛直方向に対して後傾するように、クッション上接続部27cは、操舵軸線C1よりも後方に配置される。
【0054】
クッション部材27は、下アーム22の揺動に伴い下端部27bをストロークさせて緩衝作用を得る。クッション部材27は、側面視でエンジンの前上方かつ前輪11の後上方に配置される。クッション部材27の上部は、フロントブロック3における前記門形の下部開放部3s内に収容される。クッション部材27の上端部27aは、側面視でフロントブロック3に覆われる。
【0055】
図2及び図5を併せて参照し、クッション部材27の上端部27aは、左右延出部33L,33Rのクッション上接続部27cに揺動可能に接続され、クッション部材27の下端部27bは、下アーム22のクッション下接続部27dに揺動可能に接続される。
【0056】
クッション部材27の上端部27aは、左右延出部33L,33Rのクッション上接続部27cに車幅方向に沿う連結軸としてのボルト34aを介して揺動可能に接続される。ボルト34aは、クッション上接続部27c及びクッション部材27の上端部27aを貫通して車幅方向に延びる。図2中符号C15は、クッション上接続部27c及びクッション部材27の上端部27aを連結するボルト34aの中心軸線を示す。
【0057】
左右延出部33L,33Rのクッション上接続部27cには、車幅方向に開口する挿通孔が形成される。左右延出部33L,33Rのクッション上接続部27cの間にクッション部材27の上端部27aを挟んだ状態で、前記挿通孔(左右延出部33L,33Rのクッション上接続部27cの挿通孔)及びクッション部材27の上端部27aの内周を通じて、ボルト34aを挿通し、その突出部にナット(不図示)を螺着し締め込む。クッション部材27の上端部27aは、カラー(不図示)を介して、左右延出部33L,33Rのクッション上接続部27cに中心軸線C15の回りに回動可能に支持される。
【0058】
クッション部材27の下端部27bは、下アーム22の左右のクッション下接続部27dに車幅方向に沿う連結軸としてのボルト28aを介して揺動可能に接続される。ボルト28aは、クッション下接続部27d及びクッション部材27の下端部27bを貫通して車幅方向に延びる。図2中符号C16は、クッション下接続部27d及びクッション部材27の下端部27bを連結するボルト28aの中心軸線を示す。
【0059】
下アーム22の左右のクッション下接続部27dには、車幅方向に開口する挿通孔が形成される。下アーム22の左右のクッション下接続部27dの間にクッション部材の下端部27bを挟んだ状態で、前記挿通孔(下アーム22の左右のクッション下接続部27dの挿通孔)及びクッション部材27の下端部27bの内周を通じて、ボルト28aを挿通し、その突出部にナット(不図示)を螺着し締め込む。クッション部材27の下端部27bは、カラー(不図示)を介して、下アーム22の左右のクッション下接続部27dに中心軸線C16の回りに回動可能に支持される。
【0060】
以下、クッション部材27の作用について説明する。
前輪懸架装置10に車重分の荷重が加わった1G状態から、前輪制動等により前輪11が相対的に上方へ変位すると、スイングアーム20が上方へ揺動して、フロントフォーク17及びフォークホルダ15が上方へ変位する。このとき、第四連結軸線C14を中心に下アーム22が図2中右回り(時計回り)に後転する。すると、下アーム22が、クッション部材27の下端部27bを上方へ変位させてクッション部材27を圧縮させる。
【0061】
フォークホルダ15が上方へ変位すると、これに応じて操舵アーム45も一体的に変位する。このとき、操舵系リンク部材42(図5参照)がハンドルポスト35に対して変位し、且つ、操向軸線C2の操舵軸線C1に対する角度が変化するが、この変化は前後ボールジョイント41F,41Rの揺動及び操舵系リンク部材42の揺動により吸収される。
【0062】
一方、前記1G状態から、加速等により前輪11が相対的に下方へ変位すると、スイングアーム20が下方へ揺動して、フロントフォーク17及びフォークホルダ15が下方へ変位する。このとき、第四連結軸線C14を中心に下アーム22が図2中左回り(反時計回り)に前転する。すると、下アーム22が、クッション部材27の下端部27bを下方へ変位させてクッション部材27を伸長させる。
【0063】
フォークホルダ15が下方へ変位すると、これに応じて操舵アーム45も一体的に変位する。このとき、操舵系リンク部材42がハンドルポスト35に対して変位し、且つ、操向軸線C2の操舵軸線C1に対する角度が変化するが、この変化は前後ボールジョイント41F,41Rの揺動及び操舵系リンク部材42の揺動により吸収される。
【0064】
<パワーアシスト部>
図1を参照し、操舵装置60は、操向軸16に伝達される操舵力を補助するパワーアシスト部70を更に備える。図2及び図5を併せて参照し、パワーアシスト部70は、操向軸16に伝達される操舵力を補助する操舵補助力を発するアシストモータ71と、操舵軸39に回動可能に支持される操舵補助力伝達部材72と、操舵アーム45と操舵補助力伝達部材72とを連結するアシスト操舵系リンク73と、アシストモータ71が発する(言い換えると、後述する出力軸71bが出力する)操舵補助力を操舵補助力伝達部材に伝達する操舵補助力伝達機構75、操舵補助力伝達アーム78及び操舵補助力伝達ロッド79とを備える。操舵系リンク41とアシスト操舵系リンク73とは、連係リンク40を形成する。
【0065】
<アシストモータ>
図2を参照し、アシストモータ71は、アシスト操舵系リンク73の左側方においてアシスト操舵系リンク73に隣接して配置される。アシストモータ71は、側面視で、操向軸16と操舵軸39との間に配置される。具体的には、アシストモータ71は、側面視で、操舵軸線C1と操向軸線C2との間の領域において操向軸線C2寄りに配置される。
【0066】
アシストモータ71は、モータ本体71aと、モータ本体71aの回転駆動を操舵補助力として出力する出力軸71bとを備える。モータ本体71aの前上部には、後述するECU90(図5参照)に接続されるモータハーネス71cが取り付けられる。モータ本体71a及び出力軸71bは、側面視で、操向軸線C2に沿う方向に延びる。モータ本体71aは、操舵補助力伝達機構75の前端部よりも下方に配置される。出力軸71bは、モータ本体71aの上端から上方に突出するように上向きに指向される。モータ本体71aの下部は、側面視で、上アーム本体21cの前後中間部と重なる。
【0067】
以下、アシストモータ71の回転軸線をモータ軸線Cmとする。モータ軸線Cmは、円筒状をなすモータ本体71aの中心軸線と一致する。モータ軸線Cmは、側面視で操向軸線C2よりも後方にオフセット(離反)する。モータ軸線Cmと操向軸線C2とは、互いに略平行である。
【0068】
<操舵補助力伝達部材>
図2及び図6を併せて参照し、操舵補助力伝達部材72は、アシストモータ71の回転駆動に伴って、操舵軸線C1の回りに回動される。操舵補助力伝達部材72の回動によって、操向軸16には、アシスト操舵系リンク73を介して操舵補助力が伝達される。操向軸16に操舵補助力が伝達されることによって、操向軸線C2の回りにおけるフロントフォーク17の回動がアシストされる。
【0069】
操舵補助力伝達部材72は、操舵軸線C1と平行な方向に厚みを有すると共に、操舵軸39に沿う方向から見て、径方向(操舵軸線C1に直交する方向)で左方及び後方に延出する形状をなす。操舵補助力伝達部材72は、操舵力伝達部材38よりも下方に配置される。操舵補助力伝達部材72は、カラー及びボールベアリング(何れも不図示)を介して、操舵軸39に操舵軸線C1の回りに回動可能に支持される。操舵補助力伝達部材72の左方延出部の先端部(左端部)には、アシスト操舵系リンク73の後端部が接続されるアシスト操舵系リンク後接続部72cが形成される。操舵補助力伝達部材72には、操舵軸39に沿う方向から見て、車両左右中心線CLに左右中心を沿わせて後方に延出する操舵補助力伝達部材側延出部72eが形成される。操舵補助力伝達部材側延出部72eには、後述する操舵補助力伝達ロッド79の第二端部(一端部)が接続される操舵補助力伝達ロッド第二接続部72jが設けられる。
【0070】
操舵力伝達部材38と操舵補助力伝達部材72とは、一部が上下に重なるように配置される。具体的に、操舵力伝達部材38と操舵補助力伝達部材72とは、操舵力伝達部材側延出部38eと操舵補助力伝達部材側延出部72eとが上下に重なるように配置される。操舵補助力伝達部材72の左方延出部(アシスト操舵系リンク後接続部72c)は、操舵軸39に沿う方向から見て、操舵力伝達部材38の左側切欠部から上方に露出する。
【0071】
<アシスト操舵系リンク>
図2図5及び図6を併せて参照し、アシスト操舵系リンク73は、側面視及び上面視で前後に延びる直線状をなすアシスト操舵系リンク部材74を備える。アシスト操舵系リンク部材74の前端部には、アシスト操舵系リンク前接続部45Laに接続される前ボールジョイント73Fが設けられる。アシスト操舵系リンク部材74の後端部には、アシスト操舵系リンク後接続部72cに接続される後ボールジョイント73Rが設けられる。
【0072】
図2を参照し、前後ボールジョイント73F,73Rは、ボールスタッド43と、ソケット44と、を有する。前後ボールジョイント73F,73Rにおけるボールスタッド43及びソケット44は、上述した前後ボールジョイント41F,41Rにおけるものと同様の構成を有するため、その詳細説明を省略する。
【0073】
図2図5及び図6を併せて参照し、アシスト操舵系リンク前接続部45Laには、車両上下方向に開口する挿通孔が形成される。アシスト操舵系リンク前接続部45Laの挿通孔に前ボールジョイント73Fのスタッド部43bの上端部のネジ部を挿通し、その上方への突出部にナットを螺着し締め込むことで、前ボールジョイント73Fのスタッド部43bがアシスト操舵系リンク前接続部45Laに締結固定される。アシスト操舵系リンク部材74の前端部は、前ボールジョイント73Fを介してアシスト操舵系リンク前接続部45Laに第一軸線C4(具体的には、車幅方向左側の前ポールジョイント73Fにおけるスタッド部43bの中心軸線)の周りに回動自在に接続される。
【0074】
アシスト操舵系リンク後接続部72cには、車両上下方向に開口する挿通孔が形成される。アシスト操舵系リンク後接続部72cの挿通孔に後ボールジョイント73Rのスタッド部43bの上端部のネジ部を挿通し、その上方への突出部にナットを螺着し締め込むことで、後ボールジョイント73Rのスタッド部43bがアシスト操舵系リンク後接続部72cに締結固定される。アシスト操舵系リンク部材74の後端部は、後ボールジョイント73Rを介してアシスト操舵系リンク後接続部72cに第二軸線C5(具体的には、車幅方向左側の後ボールジョイント73Rにおけるスタッド部43bの中心軸線)の回りに回動自在に接続される。
【0075】
本実施形態において、アシスト操舵系リンク部材74は、前後端部にネジ部を有し、前後ネジ部がそれぞれ前ボールジョイント73Fの下ソケット44bの後端部及び後ボールジョイント73Rの下ソケット44bの前端部に所定量螺着された状態でロックナットを用いて固定される。これにより、前記ロックナットを緩めて下ソケット44bとネジ部との螺着量を増減させることで、アシスト操舵系リンク部材74の前後接続部間の距離を調整できる。
【0076】
<操舵補助力伝達機構>
図3及び図5を併せて参照し、操舵補助力伝達機構75は、内部に減速ギヤ(不図示)を収容するギヤボックス76と、ギヤボックス76の上部を覆うギヤボックスカバー77とを備える。操舵補助力伝達機構75の前上部は、側面視で、アシスト操舵系リンク73の前部と重なる。
【0077】
アシストモータ71と操舵補助力伝達機構75とは、車両前後方向に並んで配置される。操舵軸39に沿う方向から見て、アシストモータ71と操舵補助力伝達機構75とは、アシスト操舵系リンク73の左側方においてアシスト操舵系リンク73に隣接して配置される。
【0078】
ギヤボックス76は、モータ軸線Cmと平行な方向に厚みを有すると共に、側面視で、アシスト操舵系リンク73の左側方において鉛直方向に対して後傾して設けられる。ギヤボックス76には、アシストモータ71の出力軸71bに同軸に固定されるドライブギヤと、ドライブギヤに噛み合うアイドルギヤと、アイドルギヤを介して回転駆動されるドリブンギヤ(何れも不図示)とが収容される。ドリブンギヤは、出力軸71bと平行に延びる伝達軸76aに同軸に固定される。伝達軸76aは、出力軸71bの後方且つ操舵軸39の左方に配置される。
【0079】
ギヤボックス76は、操舵軸39に沿う方向から見て、前部右側に位置してドライブギヤを収容すると共に円形状をなす前側収容部と、後部に位置してドリブンギヤ及び伝達軸76aを収容すると共に扇形及び円形を組み合わせた形状をなす後側収容部と、前後中間部に位置してアイドルギヤを収容すると共に前側収容部と後側収容部とを繋ぐ中間収容部とを一体に有する。操舵軸39に沿う方向から見て、ギヤボックス76の上部外周部には、ギヤボックスカバー77を取り付けるための複数(例えば本実施形態では7つ)のギヤボックスカバー取付部が前記上部外周部に沿って間隔を空けて外側に突出して形成される。
【0080】
ギヤボックスカバー77は、モータ軸線Cmと平行な方向にギヤボックス76よりも小さい厚みを有する。ギヤボックスカバー77は、ギヤボックス76におけるギヤボックスカバー取付部に、車両上側から締結する複数(例えば本実施形態では7つ)のボルト77aにより締結固定される。
【0081】
<操舵補助力伝達アーム>
図2図3及び図6を併せて参照し、伝達軸76aの上端部には、側面視でアシスト操舵系リンク73の左側方において鉛直方向に対して後傾すると共に、操舵軸39に沿う方向から見て前後に延びる操舵補助力伝達アーム78の前端部が固定される。操舵補助力伝達アーム78は、伝達軸76aの回りに揺動可能とされる。
【0082】
操舵補助力伝達アーム78は、伝達軸76aに沿う方向から見て、伝達軸76aから離反するほど幅が緩やかに小さくなるように(図6では、後側ほど左右幅が緩やかに小さくなるように)形成される。操舵補助力伝達アーム78の後端部には、操舵補助力伝達ロッド79の第一端部79a(車幅方向左端部)が接続される操舵補助力伝達ロッド第一接続部78jが設けられる。以下、伝達軸76aの中心軸線を伝達軸線C20とする。伝達軸線C20とモータ軸線Cmとは、互いに略平行である。
【0083】
<操舵補助力伝達ロッド>
図2及び図6を併せて参照し、操舵補助力伝達ロッド79は、操舵軸39に沿う方向から視て、車幅方向に延びる直線状をなす。操舵補助力伝達ロッド79の第一端部79a(車幅方向左端部)は、ボールジョイントで操舵補助力伝達ロッド第一接続部78jに接続される。操舵補助力伝達ロッド79は、ボールジョイントを介して操舵補助力伝達ロッド第一接続部78jにボールジョイントにおけるスタッド部(不図示)の中心軸線C21の回りに回動自在に接続される。
【0084】
操舵補助力伝達ロッド79の第二端部79b(車幅方向右端部)は、ボールジョイントで操舵補助力伝達ロッド第二接続部72jに接続される。操舵補助力伝達ロッド79は、ボールジョイントを介して操舵補助力伝達ロッド第二接続部72jにボールジョイントにおけるスタッド部(不図示)の中心軸線C22の回りに回動自在に接続される。各中心軸線C21,C22と伝達軸線C20とは、互いに略平行である。
【0085】
<操舵力検出センサ>
図6を参照し、操舵系リンク41には、操向軸16に伝達される操舵力を検出する操舵力検出センサ42aが設けられる。操舵力検出センサ42aは、操舵系リンク部材42の軸方向に加わる引張力及び圧縮力を検出する。操舵力検出センサ42aは、操舵系リンク部材42に内蔵される。例えば、操舵力検出センサ42aは、ひずみゲージ式ロードセルを用いる。尚、操舵力検出センサ42aは、これに限らず、磁歪式ロードセル、静電容量式ロードセルを用いてもよい。
【0086】
<ECU>
図6を参照し、操舵力検出センサ42aの検出値は、アシストモータ71の作動を制御する制御部としてのECU90(Electronic Control Unit)に入力される。ECU90は、第一ブラケット91及び第二ブラケット92を介して操舵軸39に取り付けられる。
【0087】
第一ブラケット91は、操舵補助力伝達部材72よりも下方に配置される。第一ブラケット91は、操舵軸39に固定される固定部39aと、固定部39aの前部から左右前方に分岐して第二ブラケット92を支持する左右前側分岐片91b,91cとを備える。第二ブラケット92は、ECU90を支持する本体部92aと、本体部92aの後部から左右後方に分岐して第一ブラケット91の左右前側分岐片91b,91cにそれぞれ支持される左右後側分岐片92b,92cとを備える。
【0088】
ECU90は、操舵力検出センサ42aの検出結果に基づいて、アシストモータ71を制御する。ECU90は、操舵力検出センサ42aの検出値より、操向軸16に作用するハンドルの操舵力(操舵トルク)を検知し、この操舵力が過大にならないようにアシストモータ71を駆動制御する。
【0089】
例えば、ECU90は、自動二輪車が停車状態又は低車速状態にあるときには、前記操舵力を補助する操舵補助力が大きくなるようにアシストモータ71を駆動制御し、自動二輪車が中高車速状態にあるときには、前記操舵補助力が小さくなるようにアシストモータ71を駆動制御する。具体的に、ECU90は、自動二輪車の車速が小さくなるほど前記操舵補助力が大きくなるようにアシストモータ71を駆動制御し、自動二輪車の車速が大きくなるほど前記操舵補助力が小さくなるようにアシストモータ71を駆動制御する。これにより、自動二輪車の車速が小さくなるほどハンドルの操舵を軽くし、自動二輪車の車速が大きくなるほどハンドルの操舵を重くすることができる。
【0090】
尚、自動二輪車が停車状態又は低車速状態にあるときにハンドルの操作性を向上させる観点(例えば駐車の際にハンドル操作を行い易くする観点)から、ECU90は、自動二輪車が停車状態又は低車速状態にあるときには、前記操舵補助力の最大値と最小値との間の中間値を前記操舵補助力としてアシストモータ71を駆動制御してもよい。
【0091】
<係合部>
図3及び図6を併せて参照し、操舵力伝達部材38と操舵補助力伝達部材72との間には、操舵力伝達部材38の回動に伴って操舵補助力伝達部材72が操舵軸39の回りに回動されるように操舵力伝達部材38と操舵補助力伝達部材72とを係合可能とする係合部38d,72d(操舵力伝達部材側係合部38d及び操舵補助力伝達部材側係合部72d)が設けられる。係合部38d,72dは、操舵力伝達部材側延出部38eと操舵補助力伝達部材側延出部72eとの間に形成される。
【0092】
操舵力伝達部材側係合部38dは、操舵軸39に沿う方向から見て、操舵力伝達部材側延出部38eの後端から前方に矩形状に窪む凹部である。操舵補助力伝達部材側係合部72dは、側面視で、操舵補助力伝達部材側延出部72eの後端部から後上方に突出すると共に、操舵軸39に沿う方向から見て、前後に延びる長方形状をなす凸部である。
【0093】
操舵力伝達部材38と操舵補助力伝達部材72とは、係合部38d,72dにおいて回動方向(中心軸線C22回りの方向)に隙間38sを開けて配置される。隙間38sは、操舵軸39に沿う方向から見て、矩形状に窪む凹部である操舵力伝達部材側係合部38dの内周面と、前後に延びる長方形状をなす凸部である操舵補助力伝達部材側係合部72dの外周面との間の空間である。隙間38sの大きさは、前記回動方向において一定の大きさとされている。
【0094】
<ステイ>
図4を参照し、車体フレーム1には、車両部品を支持するステイ80が取り付けられる。ステイ80は、下端部81aがフロントブロック3の左側部に上下に並ぶ複数(例えば本実施形態では2つ)のボルトで締結固定されると共に、側面視で上側ボルトの締結部から後上方に湾曲した後、前上方に湾曲して延びる第一ステイ81と、後下端部82aが第一ステイ81の前上端部に前後に並ぶ複数(例えば本実施形態では2つ)のボルトで締結固定されると共に、側面視で前側ボルトの締結部から前上方に緩やかに傾斜して延びた後、前上方に屈曲して後側よりも急峻に前上方に延びる第二ステイ82と、下端部83aがフロントブロック3の前端部に前方からボルトで締結固定されると共に、側面視でボルトの締結部から上方に延びた後、前上方に屈曲して延び、その後、後上方に屈曲して延びて上端が第二ステイ82の前上部に溶接結合される第三ステイ83と、前下端にヘッドランプ(不図示)を支持するヘッドランプ支持部84aが設けられると共に、側面視でヘッドランプ支持部84aから後上方に緩やかに傾斜して延びて後上端が第三ステイ83の前下部に溶接結合される第四ステイ84と、第二ステイ82の屈曲部と第三ステイ83の前下部との間を渡すと共に、側面視で前側ほど下方に位置するように傾斜して延びて前端が前記第三ステイ83の前下部に溶接結合され且つ後端が前記第二ステイ82の屈曲部に溶接結合されるサブステイ85とを備える。
【0095】
第二ステイ82の前上端には、フロントカウル9、バイザー及びメータユニット(何れも不図示)等の車両部品を支持する車両部品支持部86が設けられる。第三ステイ83の後下部には、アシストモータ71を支持するアシストモータ支持部87が設けられる。アシストモータ支持部87は、モータ本体71aの下部を収容可能な円筒状をなす。アシストモータ支持部87には、車幅方向に開口し且つ側面視で円形をなす開口部87hが形成される。
【0096】
尚、アシストモータ71の振動を効果的に低減する観点からは、アシストモータ支持部87は、ゴム等の弾性部材、又は合成樹脂等を発泡させた緩衝材(何れも不図示)を介して、モータ本体71aの下部を支持するように構成されてもよい。
【0097】
以上説明したように、上記実施形態は、上端部に操向軸16を有すると共に、下端部で前輪11を支持するフロントフォーク17と、操向軸16に取り付けられる操舵アーム45と、車体フレーム1に設けられる操舵軸39に回動可能に支持される操舵力伝達部材38と、操舵アーム45と操舵力伝達部材38とを連結する操舵系リンク41と、を備える鞍乗型車両の操舵装置60において、操向軸16に伝達される操舵力を補助する操舵補助力を発するアシストモータ71と、操舵軸39に回動可能に支持される操舵補助力伝達部材72と、操舵アーム45と操舵補助力伝達部材72とを連結するアシスト操舵系リンク73と、を更に備え、操舵力伝達部材38と操舵補助力伝達部材72との間には、操舵力伝達部材38の回動に伴って操舵補助力伝達部材72が操舵軸39の回りに回動されるように操舵力伝達部材38と操舵補助力伝達部材72とを係合可能とする係合部38d,72dが設けられる。
この構成によれば、操舵力伝達部材38と操舵補助力伝達部材72との間には、操舵力伝達部材38の回動に伴って操舵補助力伝達部材72が操舵軸39の回りに回動されるように操舵力伝達部材38と操舵補助力伝達部材72とを係合可能とする係合部38d,72dが設けられることで、操向軸39には、操舵力伝達部材38の回動による操舵力と、係合部38d,72dを介した操舵補助力伝達部材72の回動による操舵力とが伝達されるようになる。従って、操舵力伝達系の一部が不作動になった場合でも、アシスト操舵系から操向軸16に操舵力を伝達可能とすることができる。
【0098】
又、上記実施形態では、操舵力伝達部材38と操舵補助力伝達部材72とが係合部38d,72dにおいて回動方向に隙間38sを空けて配置されることで、操舵力伝達部材38と操舵補助力伝達部材72とが係合部38d,72dにおいて回動方向に隙間38sを空けずに配置される(言い換えると、当接して配置される)場合と比較して、操舵力伝達部材38と操舵補助力伝達部材72との間で互いの力(操舵力及び操舵補助力)がすぐに行き来してしまうことを回避することができる。
【0099】
又、上記実施形態では、操舵力伝達部材38と操舵補助力伝達部材72とは少なくとも一部が上下に重なるように配置されることで、操舵力伝達部材38と操舵補助力伝達部材72とが上下に重ならないように配置される場合と比較して、操舵力伝達部材38と操舵補助力伝達部材72とが集約されるため、操舵装置60のコンパクト化を図ることができる。
【0100】
又、上記実施形態では、係合部38d,72dが操舵力伝達部材側延出部38eと操舵補助力伝達部材側延出部72eとの間に形成されることで、係合部38d,72dが操舵力伝達部材側延出部38e及び操舵補助力伝達部材延出部72e以外の部分(例えば、操舵力伝達部材38の径方向内側部、操舵補助力伝達部材72の径方向内側部)に形成される場合と比較して、係合部38d,72dを容易に形成することができる。
【0101】
又、上記実施形態では、操舵補助力伝達部材側延出部72eには、操舵補助力伝達ロッド79の一端部79bが接続される操舵補助力伝達ロッド接続部72jが設けられることで、操舵補助力伝達部材側延出部72eを利用してアシストモータ71の駆動力(操舵補助力)を操舵補助力伝達部材72に伝達することができるため、操向軸16に操舵補助力をスムーズに伝達することができる。
【0102】
又、上記実施形態では、ハンドル取付部38aが側面視で操舵軸39よりも前方に配置されることで、バーハンドル18を取り付けるための部材を別個独立に設ける場合と比較して、部品点数を抑えることができる。又、ハンドル取付部38aが側面視で操舵軸39よりも後方に配置される場合と比較して、操舵力伝達部材38のコンパクト化を図ることができる。
【0103】
尚、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、前記鞍乗型車両には、運転者が車体を跨いで乗車する車両全般が含まれ、自動二輪車(原動機付自転車及びスクータ型車両を含む)のみならず、三輪(前一輪且つ後二輪の他に、前二輪且つ後一輪の車両も含む)の車両も含まれる。
そして、上記実施形態における構成は本発明の一例であり、実施形態の構成要素を周知の構成要素に置き換える等、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0104】
1 車体フレーム
11 前輪
15 フォークホルダ
16 操向軸
17 フロントフォーク
18 バーハンドル(ハンドル)
20 スイングアーム
38 操舵力伝達部材
38a ハンドル取付部
38d 係合部
38e 操舵力伝達部材側延出部
38s 隙間
39 操舵軸
41 操舵系リンク
42 操舵系リンク部材
42a 操舵力検出センサ
45 操舵アーム
45La アシスト操舵系リンク前接続部
45Ra 操舵系リンク前接続部
60 操舵装置
71 アシストモータ
71a モータ本体
71b 出力軸
72 操舵補助力伝達部材
72d 係合部
72e 操舵補助力伝達部材側延出部
72j 操舵補助力伝達ロッド接続部
73 アシスト操舵系リンク
75 操舵補助力伝達機構
79 操舵補助力伝達ロッド
79b 操舵補助力伝達ロッドの第二端部(一端部)
80 ステイ
87 アシストモータ支持部
図1
図2
図3
図4
図5
図6