特許第6222708号(P6222708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222708
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F01L 13/08 20060101AFI20171023BHJP
   F01L 1/18 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   F01L13/08 D
   F01L1/18 Z
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-192719(P2015-192719)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-66961(P2017-66961A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2016年5月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】私市 徹
【審査官】 今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−082297(JP,A)
【文献】 特開2000−282818(JP,A)
【文献】 特開2004−225662(JP,A)
【文献】 実開昭63−007208(JP,U)
【文献】 特開2013−209893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 13/08
F01L 1/02
F01L 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に第1の排気カム(17A)と第2の排気カム(17B)を有し、クランクシャフトの回転と連動して回転するカムシャフト(14)と、
燃焼室に臨む第1の排気ポートを開閉する第1の排気バルブ(10A)と、
燃焼室に臨む第2の排気ポートを開閉する第2の排気バルブ(10B)と、
前記第1の排気カム(17A)に押圧されて前記第1の排気バルブ(10A)を開閉作動させる第1のロッカーアーム(22A)と、
前記第2の排気カム(17B)に押圧されて前記第2の排気バルブ(10B)を開閉作動させる第2のロッカーアーム(22B)と、
前記第1の排気カム(17A)と一体に回転し、前記カムシャフト(14)の回転速度が規定回転速度よりも遅いときに、機関が圧縮行程となるタイミングで前記第1のロッカーアーム(22A)を開弁方向に押し上げ操作するデコンプ操作部(29)を突出させ、前記カムシャフト(14)の回転速度が規定回転速度以上に速いときに、前記デコンプ操作部(29)を後退させるデコンプ機構(28)と、を備え、
前記第1のロッカーアーム(22A)と前記第2のロッカーアーム(22B)には、前記デコンプ操作部(29)による前記第1のロッカーアーム(22A)の開弁方向の回動力を前記第2のロッカーアーム(22B)に伝達する回動伝達部(40)が設けられ、
前記回動伝達部(40)は、前記デコンプ操作部(29)による前記第1のロッカーアーム(22A)の回動時に相互に当接する前記第1のロッカーアーム(22A)側の第1の当接面(33)と前記第2のロッカーアーム(22B)側の第2の当接面(34)とを有し、
前記第1の当接面(33)と前記第2の当接面(34)の間には、前記デコンプ操作部(29)が非操作の状態においてクリアランス(C)が設定されていることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記回動伝達部(40)は、前記第1のロッカーアーム(22A)と前記第2のロッカーアーム(22B)の各ロッカーアーム本体(22A−a,22B−a)からそれぞれ対向する向きに突出し、デコンプ操作部(29)による第1のロッカーアーム(22A)の開弁方向の回動時に相互に当接する一対の突起部(22A−b,22B−b)を備えていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
外周面に第1の排気カム(17A)と第2の排気カム(17B)を有し、クランクシャフトの回転と連動して回転するカムシャフト(14)と、
燃焼室に臨む第1の排気ポートを開閉する第1の排気バルブ(10A)と、
燃焼室に臨む第2の排気ポートを開閉する第2の排気バルブ(10B)と、
前記第1の排気カム(17A)に押圧されて前記第1の排気バルブ(10A)を開閉作動させる第1のロッカーアーム(22A)と、
前記第2の排気カム(17B)に押圧されて前記第2の排気バルブ(10B)を開閉作動させる第2のロッカーアーム(22B)と、
前記第1の排気カム(17A)と一体に回転し、前記カムシャフト(14)の回転速度が規定回転速度よりも遅いときに、機関が圧縮行程となるタイミングで前記第1のロッカーアーム(22A)を開弁方向に押し上げ操作するデコンプ操作部(29)を突出させ、前記カムシャフト(14)の回転速度が規定回転速度以上に速いときに、前記デコンプ操作部(29)を後退させるデコンプ機構(28)と、を備え、
前記第1のロッカーアーム(22A)と前記第2のロッカーアーム(22B)には、前記デコンプ操作部(29)による回動時に相互に当接して前記第1のロッカーアーム(22A)の開弁方向の回動力を前記第2のロッカーアーム(22B)に伝達する回動伝達部(40)が設けられ、
前記第1のロッカーアーム(22A)と前記第2のロッカーアーム(22B)は、排気用ロッカーシャフト(20)に軸方向で隣接して支持されており、
前記回動伝達部(40)は、前記排気用ロッカーシャフト(20)の軸方向において前記第1のロッカーアーム(22A)と前記第2のロッカーアーム(22B)の各ロッカーアーム本体(22A−a,22B−a)からそれぞれ対向する向きに突出し、デコンプ操作部(29)による第1のロッカーアーム(22A)の開弁方向の回動時に相互に当接する一対の突起部(22A−b,22B−b)を備えていることを特徴とする内燃機関。
【請求項4】
前記突起部(22A−b,22B−b)は、前記第1のロッカーアーム(22A)のロッカーアーム本体(22A−a)と前記第2のロッカーアーム(22B)のロッカーアーム本体(22B−a)の相互に対向する面の最も近接した部位に配置されていることを特徴とする請求項2または3に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記第1のロッカーアーム(22A)に突設されている突起部(22A−b)は、前記第1のロッカーアーム(22A)のロッカーアーム本体(22A−a)に対して末広がり状の連続した円弧面(36)によって連なっていることを特徴とする請求項〜4のいずれか1項に記載の内燃機関。
【請求項6】
前記回動伝達部(40)は、前記デコンプ操作部(29)による前記第1のロッカーアーム(22A)の回動時に相互に当接する前記第1のロッカーアーム(22A)側の第1の当接面(33)と前記第2のロッカーアーム(22B)側の第2の当接面(34)とを有し、
前記第1の当接面(33)と前記第2の当接面(34)の少なくともいずれか一方は円弧面によって形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、機関の始動時に燃焼室内の圧縮圧力を低減して機関始動を容易にするデコンプ機構を備えた内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機関の始動時に圧縮圧力を低減するデコンプ機構を備えた内燃機関が知られている(例えば、特許文献1参照)。
デコンプ機構は、機関の始動時に圧縮行程となるタイミングで排気バルブを開くことにより、機関始動時の負荷を低減するものであり、通常、排気カムを回転駆動するためのカムシャフト部分に組み込まれている。
【0003】
特許文献1に記載の内燃機関は、クランクシャフトの回転と連動して回転するカムシャフトに、吸気カムと排気カムが設けられるとともに、排気カムに隣接する位置にデコンプ操作部あるプランジャが進退自在に取り付けられている。プランジャは、カムシャフトに支持されたデコンプ軸の回転に応じて進退変位し、デコンプ軸は、リターンスプリングとデコンプウェイトから力を受けて回動する。リターンスプリングは、プランジャを突出させる方向にデコンプ軸を回転付勢し、デコンプウェイトは、カムシャフトの回転速度に応じた遠心力によってプランジャを後退させる方向にデコンプ軸を回動させる。また、プランジャは、排気カムのベース円部分に隣接する位置において進退変位する。
この内燃機関の場合、機関の始動時には、リターンスプリングの付勢力によってプランジャが突出し、機関が圧縮行程となるタイミングでプランジャが排気用のロッカーアームを介して排気バルブを開弁方向に押圧操作する。この結果、排気バルブが圧縮行程となるタイミングで排気ポートを開き、燃焼室内の圧縮圧力を減圧する。また、内燃機関が始動してカムシャフトの回転速度が規定回転速度以上になると、デコンプウェイトがプランジャを後退させてデコンプ操作が解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−19845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の内燃機関は、一気筒内に吸気バルブと排気バルブが各二つ配置されるタイプの内燃機関であり、カムシャフト上には、二つの排気バルブを開閉するための共通の一つの排気カムと、二つの吸気バルブを個別に開閉するための二つの吸気カムが配置されている。そして、排気用のロッカーアームは、ロッカーシャフトを挟んで一端側にカム操作部(ローラ当接部)が配置され、他端側には二つの排気バルブを押圧操作するためのバルブ駆動部が二股状に延設されている。排気用のロッカーアームは、機関の始動時には、カム操作部をデコンプ操作部であるプランジャによって押圧されることにより、二つの排気バルブを同時に少量押し開くことができる。
【0006】
特許文献1に記載の内燃機関においては、機関の始動時に二つの排気バルブを開くことによって燃焼室内の圧縮圧力を迅速に減圧することができる。しかし、この内燃機関の場合、排気用のロッカーアームが一つのカム操作部と二股状のバルブ駆動部を持つ構造とされているため、二つの排気バルブの中間位置に対称形状の排気用のロッカーアームを配置する必要がある。このため、ロッカーアームのレイアウトが制約されてしまう。また、ロッカーアームを非対称形状に形成した場合には、通常の機関運転時におけるロッカーアームの捩れや振動を低減するためにロッカーアーム全体を肉厚化する必要が生じ、動弁機構の軽量化が難しくなる。
【0007】
そこでこの発明は、ロッカーアームの配置の自由度の向上と軽量化を図ることができる内燃機関を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この出願に係る一の内燃機関は、上記課題を解決するために、外周面に第1の排気カム(17A)と第2の排気カム(17B)を有し、クランクシャフトの回転と連動して回転するカムシャフト(14)と、燃焼室に臨む第1の排気ポートを開閉する第1の排気バルブ(10A)と、燃焼室に臨む第2の排気ポートを開閉する第2の排気バルブ(10B)と、前記第1の排気カム(17A)に押圧されて前記第1の排気バルブ(10A)を開閉作動させる第1のロッカーアーム(22A)と、前記第2の排気カム(17B)に押圧されて前記第2の排気バルブ(10B)を開閉作動させる第2のロッカーアーム(22B)と、前記第1の排気カム(17A)と一体に回転し、前記カムシャフト(14)の回転速度が規定回転速度よりも遅いときに、機関が圧縮行程となるタイミングで前記第1のロッカーアーム(22A)を開弁方向に押し上げ操作するデコンプ操作部(29)を突出させ、前記カムシャフト(14)の回転速度が規定回転速度以上に速いときに、前記デコンプ操作部(29)を後退させるデコンプ機構(28)と、を備え、前記第1のロッカーアーム(22A)と前記第2のロッカーアーム(22B)には、前記デコンプ操作部(29)による前記第1のロッカーアーム(22A)の開弁方向の回動力を前記第2のロッカーアーム(22B)に伝達する回動伝達部(40)が設けられ、前記回動伝達部(40)は、前記デコンプ操作部(29)による前記第1のロッカーアーム(22A)の回動時に相互に当接する前記第1のロッカーアーム(22A)側の第1の当接面(33)と前記第2のロッカーアーム(22B)側の第2の当接面(34)とを有し、前記第1の当接面(33)と前記第2の当接面(34)の間には、前記デコンプ操作部(29)が非操作の状態においてクリアランス(C)が設定されるようにした。
【0009】
上記の構成により、機関の始動時には、デコンプ機構(28)のデコンプ操作部(29)が突出し、そのデコンプ操作部(29)が、機関が圧縮行程となるタイミングで第1のロッカーアーム(22A)を開弁方向に押し上げ操作する。このとき、第1のロッカーアーム(22A)がデコンプ操作部(29)から操作力を受けて回動すると、その回動力が回動伝達部(40)を介して第2のロッカーアーム(22B)に伝達され、第2のロッカーアーム(22B)も第1のロッカーアーム(22A)と同期して開弁方向に押し上げ操作されるようになる。この結果、第1の排気バルブ(10A)と第2の排気バルブ(10B)が同様に開き、機関の燃焼室内の圧縮圧力が迅速に減圧される。
また、この場合、デコンプ操作部(29)が非操作の状態になる機関の通常運転時には、第1の当接面(33)と第2の当接面(34)が非接触状態に維持されるため、例えば、第1の排気カム(17A)と第2の排気カム(17B)のカムプロフィールに誤差がある場合等に、第2のロッカーアーム(22B)が第1のロッカーアーム(22A)に追従して押し動かされて、第2の排気カム(17B)と第2のロッカーアーム(22B)の当接部に隙間が生じるのを防止することができる。したがって、第2の排気カム(17B)と第2のロッカーアーム(22B)の間での当接音の発生や摩耗等を未然に防止することができる。
【0010】
前記回動伝達部(40)は、前記第1のロッカーアーム(22A)と前記第2のロッカーアーム(22B)の各ロッカーアーム本体(22A−a,22B−a)からそれぞれ対向する向きに突出し、デコンプ操作部(29)による第1のロッカーアーム(22A)の開弁方向の回動時に相互に当接する一対の突起部(22A−b,22B−b)を備えた構成としても良い。
この場合、第1のロッカーアーム(22A)と第2のロッカーアーム(22B)の各ロッカーアーム本体(22A−a,22B−a)を肥大化させることなく、突起部(22A−b,22B−b)同士の当接によってデコンプ操作部(29)による操作力を第1のロッカーアーム(22A)から第2のロッカーアーム(22B)に伝達することが可能になる。
【0011】
この出願に係る他の内燃機関は、上記課題を解決するために、外周面に第1の排気カム(17A)と第2の排気カム(17B)を有し、クランクシャフトの回転と連動して回転するカムシャフト(14)と、燃焼室に臨む第1の排気ポートを開閉する第1の排気バルブ(10A)と、燃焼室に臨む第2の排気ポートを開閉する第2の排気バルブ(10B)と、前記第1の排気カム(17A)に押圧されて前記第1の排気バルブ(10A)を開閉作動させる第1のロッカーアーム(22A)と、前記第2の排気カム(17B)に押圧されて前記第2の排気バルブ(10B)を開閉作動させる第2のロッカーアーム(22B)と、前記第1の排気カム(17A)と一体に回転し、前記カムシャフト(14)の回転速度が規定回転速度よりも遅いときに、機関が圧縮行程となるタイミングで前記第1のロッカーアーム(22A)を開弁方向に押し上げ操作するデコンプ操作部(29)を突出させ、前記カムシャフト(14)の回転速度が規定回転速度以上に速いときに、前記デコンプ操作部(29)を後退させるデコンプ機構(28)と、を備え、前記第1のロッカーアーム(22A)と前記第2のロッカーアーム(22B)には、前記デコンプ操作部(29)による回動時に相互に当接して前記第1のロッカーアーム(22A)の開弁方向の回動力を前記第2のロッカーアーム(22B)に伝達する回動伝達部(40)が設けられ、前記第1のロッカーアーム(22A)と前記第2のロッカーアーム(22B)は、排気用ロッカーシャフト(20)に軸方向で隣接して支持されており、前記回動伝達部(40)は、前記排気用ロッカーシャフト(20)の軸方向において前記第1のロッカーアーム(22A)と前記第2のロッカーアーム(22B)の各ロッカーアーム本体(22A−a,22B−a)からそれぞれ対向する向きに突出し、デコンプ操作部(29)による第1のロッカーアーム(22A)の開弁方向の回動時に相互に当接する一対の突起部(22A−b,22B−b)を備えるようにした。
【0012】
前記突起部(22A−b,22B−b)は、前記第1のロッカーアーム(22A)のロッカーアーム本体(22A−a)と前記第2のロッカーアーム(22B)のロッカーアーム本体(22B−a)の相互に対向する面の最も近接した部位に配置されるようにしても良い。
この場合、各突起部(22A−b,22B−b)の突出長さを短くして、デコンプ操作部(29)による操作時に各突起部(22A−b,22B−b)に作用する負荷を低減することができる。
【0013】
前記第1のロッカーアーム(22A)に突設されている突起部(22A−b)は、前記第1のロッカーアーム(22A)のロッカーアーム本体(22A−a)に対して末広がり状の連続した円弧面(36)によって連なるようにしても良い。
この場合、突起部(22A−b)とロッカーアーム本体(22A−a)の連接部分の剛性が末広がり状の連続した円弧面(36)によって高められ、デコンプ操作部(29)の操作力を迅速に第2のロッカーアーム(22B)に伝達することが可能になる。
【0014】
前記回動伝達部(40)は、前記デコンプ操作部(29)による前記第1のロッカーアーム(22A)の回動時に相互に当接する前記第1のロッカーアーム(22A)側の第1の当接面(33)と前記第2のロッカーアーム(22B)側の第2の当接面(34)とを有し、前記第1の当接面(33)と前記第2の当接面(34)の少なくともいずれか一方は円弧面によって形成されるようにしても良い。
この場合、第1のロッカーアーム(22A)や第2のロッカーアーム(22B)の組付け誤差等によって、両者の間に若干の相対的な傾きがあっても、相互に対向する第1の当接面(33)と第2の当接面(34)の少なくともいずれか一方が円弧面(36)によって形成されているため、第1の当接面(33)と第2の当接面(34)の間の当接箇所のばらつきが生じにくくなる。したがって、この構造を採用することにより、デコンプ操作時に第2の排気バルブ(10B)の開弁量や開弁タイミングがばらつくのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、第1のロッカーアームと第2のロッカーアームに、デコンプ操作部による第1のロッカーアームの開弁方向の回動力を第2ロッカーアームに伝達する回動伝達部が設けられているため、第1のロッカーアームと第2のロッカーアームをそれぞれ独立して構成し、デコンプ操作部による操作時にのみ第2のロッカーアームを第1のロッカーアームの作動に連動させることができる。このため、第1のロッカーアームと第2のロッカーアームを高い自由度を持って配置することができるとともに、第1のロッカーアームと第2のロッカーアームを捩れや振動の生じにくいシンプルな構造とすることができる。したがって、第1のロッカーアームと第2のロッカーアームの肉厚増加を回避し、全体の軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の一実施形態に係る内燃機関の一部の縦断面図である。
図2】この発明の一実施形態に係る内燃機関の動弁機構の斜視図である。
図3】この発明の一実施形態に係る内燃機関の動弁機構の上面図である。
図4】この発明の一実施形態に係る内燃機関の動弁機構をカムシャフトの軸方向と直交する方向で切った断面図である。
図5】この発明の一実施形態に係る内燃機関の動弁機構をカムシャフトの軸方向と直交する方向で切った断面図である。
図6】この発明の一実施形態に係る内燃機関の第1のロッカーアームの斜視図である。
図7】この発明の一実施形態に係る内燃機関の第2のロッカーアームの斜視図である。
図8】この発明の一実施形態に係る内燃機関の図3のVIII−VIII線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この実施形態に係る内燃機関1の上部を断面にして示した図である。
この実施形態に係る内燃機関1は、自動二輪車等に搭載される単気筒のレシプロ式の内燃機関である。内燃機関1は、ピストン2が摺動自在に嵌入されるシリンダ3と、シリンダ3の上部に取り付けられてピストン2の頂面とともに燃焼室4を形成するシリンダヘッド5と、シリンダヘッド5の上部を覆うシリンダヘッドカバー6と、を備えている。シリンダヘッド5には、燃焼室4に臨む第1の吸気ポート7A及び第2の吸気ポート7Bと、同様に、燃焼室4に臨む第1の排気ポート8A及び第2の排気ポート8Bが設けられている。なお、図1において、第2の吸気ポート7Bは、第1の吸気ポート7Aの紙面奥側に配置されているが、図中では第1の吸気ポート7Aを指す部分に括弧に入れて符号を付している。同様に、第2の排気ポート8Bは、第1の排気ポート8Aの紙面奥側に配置されているが、図中では第1の排気ポート8Aを指す部分に括弧に入れて符号を付している。他の部材についても、紙面上重なっている部分については、同様の処理を行っている。
【0018】
シリンダヘッド5の上部には、第1の吸気ポート7Aと第2の吸気ポート7Bを開閉する第1の吸気バルブ9Aと第2の吸気バルブ9Bが配置されているとともに、第1の排気ポート8Aと第2の排気ポート8Bを開閉する第1の排気バルブ10Aと第2の排気バルブ10Bが配置されている。第1,第2の吸気バルブ9A,9Bと第1,第2の排気バルブ10A,10Bは、シリンダヘッド5に圧入されたスリーブ12にそれぞれ摺動自在に嵌入されているとともに、バルブスプリング13の弾発力によって閉弁方向に付勢されている。
また、シリンダヘッド5の上部には、第1,第2の吸気バルブ9A,9Bと第1,第2の排気バルブ10A,10Bを、図示しないクランクシャフトの回転に同期させて開閉作動させるための動弁機構11が配置されている。
【0019】
図2は、動弁機構11を斜め上方から見た図であり、図3は、動弁機構11を上方から見た図である。
図1図3に示すように、動弁機構11は、シリンダヘッド5に軸受を介して回転可能に支持されるカムシャフト14を有している。カムシャフト14の軸方向の一端部には、タイミングベルト15を介してクランクシャフトから回転を伝達される従動スプロケット16が取り付けられている。カムシャフト14上には、第1の排気カム17Aと第2の排気カム17Bが軸方向で隣接して設けられているとともに、第1の排気カム17Aの軸方向外側に第1の吸気カム18Aが設けられ、第2の排気カム17Bの軸方向外側に第2の吸気カム18Bが設けられている。また、シリンダヘッド5には、カムシャフト14と平行に吸気用のロッカーシャフト19と排気用のロッカーシャフト20が設置されている。吸気用のロッカーシャフト19には、吸気用の第1のロッカーアーム21Aと第2のロッカーアーム21Bがそれぞれ回動自在に支持されている。排気用のロッカーシャフト20には、排気用の第1のロッカーアーム22Aと第2のロッカーアーム22Bがそれぞれ回動自在に支持されている。
動弁機構11は、カムシャフト14と、カムシャフト14上の第1,第2の吸気カム18A,18B、及び、第1,第2の排気カム17A,17Bと、これらに当接する吸気側の第1,第2のロッカーアーム21A,21B、排気側の第1,第2のロッカーアーム22A,22B等によって構成されている。
【0020】
吸気用の第1のロッカーアーム21Aは、第1の吸気カム18Aから押圧力を受けて第1の吸気バルブ9Aを開閉し、吸気用の第2のロッカーアーム21Bは、第2の吸気カム18Bから押圧力を受けて第2の吸気バルブ9Bを開閉する。また、排気用の第1のロッカーアーム22Aは、第1の排気カム17Aから押圧力を受けて第1の排気バルブ10Aを開閉し、排気用の第2のロッカーアーム22Bは、第2の排気カム17Bから押圧力を受けて第2の排気バルブ10Bを開閉する。
【0021】
排気用の第1のロッカーアーム22Aと第2のロッカーアーム22Bは、各ロッカーアーム本体22A−a,22B−aが側面視略三角形状の鋳造部品によって形成されている。各ロッカーアーム本体22A−a,22B−aの一つの角部には、排気用のロッカーシャフト20に回転自在に支持されるボス部23が形成され、他の一つの角部には、対応する排気カム(第1の排気カム17A,第2の排気カム17B)から押圧力を受けるローラ24を保持するローラ保持部26が形成されている。また、各ロッカーアーム本体22A−a,22B−aの残余の一つの角部は、対応する排気バルブ(第1の排気バルブ10A,第2の排気バルブ10B)の端部に当接するバルブ駆動部25が形成されている。
【0022】
また、カムシャフト14には、内燃機関1の始動時に、圧縮行程のタイミンクで第1の排気バルブ10Aを開弁方向に押し下げて燃焼室4内の圧縮圧力を減圧するデコンプ機構28が設けられている。
デコンプ機構28は、カムシャフト14上の第1の排気カム17Aに隣接する位置に進退自在に設けられたデコンプ操作部であるプランジャ29と、カムシャフト14に回転自在に保持されて回動角度に応じてプランジャ29を進退変位させるデコンプ軸30と、プランジャ29を突出させる方向にデコンプ軸30を回転付勢する図示しないリターンスプリングと、カムシャフト14と一体に回転して遠心力によってプランジャ29を後退させる方向にデコンプ軸30を回転させるデコンプウェイト31と、備えている。
【0023】
デコンプ機構28のプランジャ29は、図1に示すように、第1の排気カム17Aのベース円部17A−aに対応する位置において、径方向外側に突出可能とされている。また、カムシャフト14から径方向外側に突出するプランジャ29の先端部29aは、第1のロッカーアーム22Aのローラ24に対して当接可能とされている。
【0024】
図4は、デコンプウェイト31に作用するカムシャフト14の回転速度が規定回転速度よりも遅いときにおける、プランジャ29と第1のロッカーアーム22Aの挙動を示す図であり、図5は、デコンプウェイト31に作用するカムシャフト14の回転速度が規定回転速度以上に速いときにおける、プランジャ29と第1のロッカーアーム22Aの挙動を示す図である。なお、この実施形態においては、規定回転速度はほぼ内燃機関のクランキング速度に設定されている。
プランジャ29は、図5に示すように、後退した状態では、ローラ24(第1のロッカーアーム22A)に対して非接触状態にされているが、図4に示すように、外側に突出した状態では、ローラ24に直接当接して第1のロッカーアーム22Aを押し上げる。このため、内燃機関の始動時等のカムシャフト14の回転速度が規定回転速度より遅い場合には、図4に示すように、プランジャ29が内燃機関1の圧縮行程となるタイミングで第1のロッカーアーム22Aを所定量押し上げ、それによって第1の排気バルブ10Aを開弁する。また、内燃機関1の始動が完了して、カムシャフト14の回転速度が規定回転速度以上に速くなると、図5に示すように、プランジャ29が後退することにより、圧縮行程となるタイミングでの第1の排気バルブ10Aの開弁が解除される。
【0025】
図6図7は、排気用の第1のロッカーアーム22Aと第2のロッカーアーム22Bをそれぞれ斜め上方側から見た図である。
図2図3に示すように、第1のロッカーアーム22Aと第2のロッカーアーム22Bの各ロッカーアーム本体22A−a,22B−aは、排気用のロッカーシャフト20に設置された状態において、互いのボス部23とローラ保持部26の近傍部分が最も接近して位置され、互いのバルブ駆動部25が延出端側に向かって相互に離反するように屈曲している。そして、各ロッカーアーム本体22A−a,22B−aの相互に対向する側の側面の各ローラ保持部26の近傍部には、図6図7にも示すように、突起部22A−b,22B−bが相互に対向するように設けられている。両突起部22A−b,22B−bの突出高さは、軸方向で相互にラップする高さに設定されている。
【0026】
図8は、図3のVIII−VIII線に沿う断面を示す図である。
図8にも示すように、第1のロッカーアーム22Aの突起部22A−bと第2のロッカーアーム22Bの突起部22B−bには、相互に当接可能な第1の当接面33と第2の当接面34が形成されている。第1の当接面33は、第1のロッカーアーム22Aが開弁方向(第1の排気バルブ10Aを開弁させる方向)に向かって回動するときに、その回動方向に指向するように形成されている。第2の当接面34は、第1のロッカーアーム22Aが開弁方向(第1の排気バルブ10Aを開弁させる方向)に向かって回動するときに、第1のロッカーアーム22Aの第1の当接面33と正面で対向するように形成されている。
【0027】
突起部22A−bの第1の当接面33は、機関の始動時に、デコンプ機構28のプランジャ29による押圧によって第1のロッカーアーム22Aが開弁方向に回動したときに、第2のロッカーアーム22B側の突起部22B−bの第2の当接面34に当接することにより、第1のロッカーアーム22Aから第2のロッカーアーム22Bに開弁方向の回動力を伝達する。これにより、第2の排気バルブ10Bは第1の排気バルブ10Aと同期して開弁する。
この実施形態においては、一対の突起部22A−b,22B−bが、第1のロッカーアーム22Aの開弁方向の回動力を第2のロッカーアーム22Bに伝達する回動伝達部40を構成している。
【0028】
また、この実施形態においては、図8に示すように、第1の当接面33は平坦に形成され、第2の当接面34は中央が凸に湾曲する円弧面とされている。なお、逆に第2の当接面34を平坦に形成し、第1の当接面33を円弧面としても良い。また、第1の当接面33と第2の当接面34の両方を円弧面としても良い。
【0029】
さらに、図8に示すように、第1の当接面33と第2の当接面34の間には、プランジャ29が後退した状態において(デコンプ操作部が非操作の状態のときに)クリアランスCが確保されるように設定されている。
【0030】
また、第1のロッカーアーム22A側と第2のロッカーアーム22B側の各突起部22A−b,22B−bの基端は、それぞれのロッカーアーム本体22A−a,22B−aに対して末広がり状の円弧面36によって連なっている。
【0031】
以上のように、この実施形態に係る内燃機関1においては、第1のロッカーアーム22Aと第2のロッカーアーム22Bの間に回動伝達部40が設けられ、デコンプ機構28のプランジャ29による第1のロッカーアーム22Aの開弁方向の回動力を、回動伝達部40を介して第2ロッカーアーム22Bに伝達する構成とされている。このため、第1のロッカーアーム22Aと第2のロッカーアーム22Bをそれぞれ独立した部材として構成し、デコンプ機構28によるデコンプ操作時にのみ第2のロッカーアーム22Bを第1のロッカーアーム22Aの作動に連動させることができる。
したがって、この実施形態に係る内燃機関1においては、第1のロッカーアーム22Aと第2のロッカーアーム22Bをそれぞれ独立して高い自由度を持って配置することができるとともに、第1のロッカーアーム22Aや第2のロッカーアーム22Bを肉厚にせずに、捩れや振動の生じにくいシンプルな構造とすることができる。よって、この内燃機関1の構造を採用することにより、第1のロッカーアーム22Aと第2のロッカーアーム22Bの肉厚増加を回避して、動弁機構11全体の軽量化を図ることができる。
【0032】
また、この実施形態に係る内燃機関1では、回動伝達部40が、第1のロッカーアーム22Aと第2のロッカーアーム22Bの各ロッカーアーム本体22A−a,22B−aからそれぞれ対向する向きに突出して、デコンプ機構28のプランジャ29による第1のロッカーアーム22Aの開弁方向の回動時に、相互に当接する一対の突起部22A−b,22B−bによって構成されている。このため、この実施形態に係る内燃機関1においては、第1のロッカーアーム22Aと第2のロッカーアーム22Bの各ロッカーアーム本体22A−a,22B−aを肥大化させることなく、突起部22A−b,22B−b同士の当接によってプランジャ29によるデコンプ操作力を第1のロッカーアーム22Aから第2のロッカーアーム22Bに伝達することができる。したがって、この構造を採用することにより、動弁機構11の小型・軽量化を図ることができる。
【0033】
また、この実施形態に係る内燃機関1にあっては、回動伝達部40を構成する一対の突起部22A−b,22B−bが、第1のロッカーアーム22Aのロッカーアーム本体22A−aと第2のロッカーアーム22Bのロッカーアーム本体22B−aの相互に対向する面の最も近接した部位に配置されている。このため、この実施形態に係る内燃機関1においては、各突起部22A−b,22B−bの突出長さを短くして、プランジャ29によるデコンプ操作時に各突起部22A−b,22B−bに作用する負荷を低減することができる。
【0034】
さらに、この実施形態に係る内燃機関1においては、第1のロッカーアーム22Aと第2のロッカーアーム22Bに突設されている各突起部22A−b,22B−bの基端部が、各ロッカーアーム本体22A−a,22B−aに対して末広がり状の連続した円弧面36によって連なっている。このため、この構造を採用することにより、各突起部22A−b,22B−bの基端部とロッカーアーム本体22A−a,22B−aの間の剛性が末広がり状の連続した円弧面36によって高められ、プランジャ29によるデコンプ操作力を第2のロッカーアーム22Bに迅速に伝達することが可能になる。
【0035】
また、この実施形態に係る内燃機関1の場合、回動伝達部40が、第1のロッカーアーム22A側の第1の当接面33と、第2のロッカーアーム22B側の第2の当接面34とを有し、デコンプ機構28のプランジャ29が後退した状態において、第1の当接面33と第2の当接面34の間に、クリアランスCができるように設定されている。このため、機関の通常運転時には、第1の当接面33と第2の当接面34が非接触状態となる。
したがって、この実施形態に係る内燃機関1においては、第1の排気カム17Aと第2の排気カム17Bのカムプロフィールに若干の誤差がある場合等に、機関の通常運転時に、第1の当接面33と第2の当接面34が当接して第2のロッカーアーム22Bが第1のロッカーアーム22Aに追従して押し動かされるのを防止することができる。このため、機関の通常運転時に、第2のロッカーアーム22Bのローラ24が第2の排気カム17Bのカム面から一時的に離間し、その後の両者の当接によって当接音を発生したり、ローラ24と第2の排気カム17Bの間の当接と離反の繰り返しによってローラ24や第2の排気カム17Bに摩耗が生じたりするのを未然に防止することができる。
【0036】
また、この実施形態に係る内燃機関1においては、第1のロッカーアーム22A側の突起部22A−bと、第2のロッカーアーム22B側の突起部22B−bとが、デコンプ時に相互に当接する第1の当接面33と第2の当接面34を有し、第1の当接面33と第2の当接面34の少なくともいずれか一方が、対向する部材方向に向かって凸に湾曲した円弧面とされている。このため、第1のロッカーアーム22Aや第2のロッカーアーム22Bの組付け誤差等によって、両者の間に若干の相対的な傾きがあっても、第1の当接面33と第2の当接面34の当接箇所にばらつきが生じにくくなる。したがって、この構造を採用することにより、デコンプ操作時における第2の排気バルブ10Bの開弁量や開弁タイミングのばらつきを抑制することができる。
【0037】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の実施形態においては、相互に当接可能な一対の突起部22A−b,22B−bによって回動伝達部40が構成されているが、回動伝達部は、相互に当接して回動力を伝達し得る構造であれば、突起部と凹部の組み合わせ等の他の構造であっても良い。また、デコンプ機構は、プランジャがカムシャフトの径方向に沿って進退変位するものに限らず、機関の始動時にデコンプ操作部が第1の排気カムを押し上げ操作するものであれば、他の形態のものであっても良い。
【符号の説明】
【0038】
1…内燃機関
10A…第1の排気バルブ
10B…第2の排気バルブ
14…カムシャフト
17A…第1の排気カム
17B…第2の排気カム
20…ロッカーシャフト
22A…第1のロッカーアーム
22A−a…ロッカーアーム本体
22A−b…突起部
22B…第2のロッカーアーム
22B−a…ロッカーアーム本体
22B−b…突起部
28…デコンプ機構
29…プランジャ(デコンプ操作部)
33…第1の当接面
34…第2の当接面
36…円弧面
40…回動伝達部
C…クリアランス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8