(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪本開示の一態様の概要≫
本開示の一態様である有機EL素子は、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられた有機発光層と、前記陰極と前記有機発光層との間に設けられた電子輸送層とを有する有機EL素子であって、前記電子輸送層は、電子供与性物質を含むn型ドーパントがドープされてなり、そのドープ濃度は、前記有機発光層の発光効率が最大となるドープ濃度よりも高い。
【0011】
これにより、不良発光領域が発生したとしても不良発光領域に隣接する領域では、電子輸送層でn型ドーパントのドープ濃度が低下することにより、有機発光層の発光効率が向上する。不良発光領域に隣接する領域で有機発光層の発光効率が向上し発光輝度が向上するため、不良発光領域の見かけ上の大きさが小さくなり、不良発光領域がユーザに目立ちにくくなる。
【0012】
また、本開示の一態様にかかる有機EL素子の特定の局面では、前記陰極を挟んで前記電子輸送層とは反対側に設けられた封止層をさらに有し、前記封止層に不所望の亀裂が生じた場合において、前記n型ドーパントが、前記亀裂から浸入した水またはガスと反応することにより、そのドープ濃度が前記電子輸送層における前記亀裂に最も近い位置に向かって漸減しており、前記n型ドーパントのドープ濃度が漸減している領域に対応する前記有機発光層の領域には、発光効率が最大となる領域が存在する。
【0013】
これにより、亀裂が生じた領域が不良発光領域となったとしても、亀裂に最も近い位置に向かって電子輸送層におけるn型ドーパントのドープ濃度が漸減している領域で、有機発光層の発光輝度が向上する。そのため、不良発光領域の見かけ上の大きさが小さくなり、不良発光領域がユーザに目立ちにくくなる。
【0014】
また、本開示の一態様にかかる有機EL素子の特定の局面では、前記n型ドーパントは、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属である。
【0015】
また、本開示の一態様にかかる有機EL素子の特定の局面では、前記n型ドーパントは、バリウムである。
【0016】
また、本開示の一態様にかかる有機EL素子の特定の局面では、前記バリウムのドープ濃度は、15[wt%]より高い。
【0017】
n型ドーパントにバリウムを用いると、ドープ濃度が15[wt%]で有機発光層の発光効率が最大となる。そのため電子輸送層におけるバリウムのドープ濃度が15[wt%]より高い範囲であれば、亀裂に最も近い位置に向かって電子輸送層におけるバリウムのドープ濃度が漸減している領域に、有機発光層の発光効率が最大となる領域を存在させることができる。
【0018】
また、本開示の一態様にかかる有機EL素子の特定の局面では、前記バリウムのドープ濃度は、25[wt%]以上である。
【0019】
バリウムのドープ濃度が25[wt%]以上であれば、除去が難しい直径の大きさが約20[μm]未満の異物が混入したとしても、目視可能な不良発光領域の発生を抑えることができる。
【0020】
また、本開示の一態様にかかる有機EL素子の特定の局面では、前記バリウムのドープ濃度は、50[wt%]以下である。
【0021】
バリウムのドープ濃度が50[wt%]以下の範囲であれば、電子輸送層でリーク電流が発生するおそれを抑えることができる。
【0022】
また、本開示の一態様である有機EL表示パネルは、上記の有機EL素子を備える。
【0023】
これにより、有機EL表示パネルに不良発光領域が発生したとしても不良発光領域に隣接する領域では、電子輸送層でn型ドーパントのドープ濃度が低下することにより、有機発光層の発光効率が向上する。不良発光領域に隣接する領域で有機発光層の発光効率が向上し発光輝度が向上するため、不良発光領域の見かけ上の大きさが小さくなり、不良発光領域がユーザに目立ちにくくなる。
【0024】
≪実施の形態1≫
以下では、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
[有機EL素子の構成]
図1は、実施の形態1にかかる有機EL素子の構成を示す断面図である。有機EL素子1は、所謂トップエミッション型の有機EL素子であって、基板2、陽極3、正孔注入層4、有機発光層5、電子輸送層6、陰極7、封止層8を備える。
【0026】
<基板>
基板2は、無アルカリガラスからなり、有機EL素子の基材としての役割を果たす。基板2の表面には有機EL素子を駆動するためのTFT(薄膜トランジスタ)層(不図示)が形成されており、その上に、陽極3、有機機能層(正孔注入層4、有機発光層5、電子輸送層6)、陰極7が順次積層され、有機EL素子1が製造される。
【0027】
なお、基板2の材料には、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコン系樹脂、アルミナ等の絶縁性材料を用いることもできる。
【0028】
<陽極>
陽極3は、正孔を正孔注入層4に注入する機能を有する。陽極3の材料にはAl(アルミニウム)が用いられ、スパッタリング法により基板2の上に約400[nm]の厚みで形成されている。
【0029】
なお、陽極3の材料には、Ag(銀)、アルミニウム合金、Mo(モリブデン)、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムの合金)、MoW(モリブデンとタングステンの合金)、NiCr(ニッケルとクロムの合金)、ACL(アルミニウム、コバルト、ゲルマニウム、ランタンの合金)等の光反射性導電材料を用いることもできる。
【0030】
<正孔注入層>
正孔注入層4は、陽極3から有機発光層5への正孔の注入および輸送を促進させる機能を有する。正孔注入層4の材料には、WOX(酸化タングステン)が用いられ、スパッタリング法により陽極3の上に約14[nm]の厚みで形成されている。
【0031】
なお、正孔注入層4の材料には、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、イリジウム(Ir)等の酸化物、あるいは、PEDOT(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)等の導電性ポリマー材料を用いることもできる。
【0032】
<有機発光層>
有機発光層5は、キャリア(正孔と電子)の再結合による発光を行う部位である。有機発光層5の材料には、有機発光ポリマーが用いられ、インクジェット法により正孔注入層4の上に約80[nm]の厚みで形成されている。
【0033】
なお、有機発光層5の材料には、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリフルオレンや、例えば、特許公開公報(特開平5−163488号公報)に記載のオキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体等の蛍光物質等を用いることもできる。
【0034】
<電子輸送層>
電子輸送層6は、電子輸送性材料6aおよび電子供与性物質を含むn型ドーパント6bからなり、陰極7から注入された電子を有機発光層5に輸送する機能を有する。本実施の形態では、電子輸送性材料6aには電子輸送性を有する有機モノマーを用い、n型ドーパント6bにはBa(バリウム)を用い、真空蒸着法により有機発光層5の上に約35[nm]の厚みで形成されている。電子輸送性材料6aにn型ドーパント6bをドープすることで、電子輸送性材料6a‐n型ドーパント6b間で電子移動が起こり、電子移動錯体(CT錯体)が形成される。これにより、電子輸送層6の電子移動度が向上するため、陰極7から注入された電子を効率的に有機発光層5に輸送することができる。
【0035】
図2は、有機EL素子のBaのドープ濃度と有機発光層5の発光効率との関係を示す図である。ここでは、本実施の形態に示す材料、成膜方法、層の厚みで、基板2、陽極3、正孔注入層4、有機発光層5、電子輸送層6、陰極7、封止層8の各層を成膜して、Baのドープ濃度が異なる複数の有機EL素子を製造し、各有機EL素子の発光効率を測定している。
図2において、横軸は、電子輸送層6の総重量を基準にしたBaのドープ濃度[wt%]を示し、縦軸は、有機発光層5の発光効率[cd/A]を示す。また縦軸の発光効率は、ドープ濃度30[wt%]における発光効率で規格化している。
【0036】
本図に示すように、Baのドープ濃度が15[wt%]未満の範囲では、Baのドープ濃度が増えるに従って、有機発光層5の発光効率が上昇している。また、Baのドープ濃度が15[wt%]では、有機発光層5の発光効率が最大となっている。また、Ba濃度が15[wt%]を越える範囲では、Baのドープ濃度が増えるに従って、有機発光層5の発光効率が低下している。
【0037】
ここで、有機発光層5の発光効率を高めるためには、正孔および電子がそれぞれバランスよく有機発光層5に注入されることが重要である。正孔または電子の一方の注入が過多な場合、効率良く正孔と電子が再結合することができないため、有機発光層5の発光効率は低下する。
【0038】
図2に示すBaのドープ濃度と有機発光層5の発光効率との関係において、Ba濃度が15[wt%]未満の範囲では、電子輸送層6から有機発光層5への電子の注入量が、正孔注入層4から有機発光層5への正孔の注入量に比べ少ないため、Baのドープ濃度が増えるに従って、有機発光層5の発光効率が上昇したものと考えられる。また、Baのドープ濃度が15[wt%]では、電子輸送層6から有機発光層5への電子の注入量と、正孔注入層4から有機発光層5への正孔の注入量とがほぼ同量であるため、有機発光層5の発光効率が最大となったものと考えられる。また、Ba濃度が15[wt%]を越える範囲では、電子輸送層6から有機発光層5への電子の注入量が、正孔注入層4から有機発光層5への正孔の注入量に比べ多いため、Baのドープ濃度が増えるに従って、有機発光層5の発光効率が低下したものと考えられる。この有機EL素子のBaのドープ濃度と有機発光層の発光効率との関係は、他の一般的な有機EL素子においても適用することができる。
【0039】
本実施の形態では、Baを電子輸送層6に、有機発光層5の発光効率が最大となるドープ濃度よりも高い濃度でドープしている。すなわち、Baを電子輸送層6に、15[wt%]を越える濃度でドープしている。これにより、詳細は後述するが、封止層8に不所望の亀裂等が生じることにより有機発光層5に不良発光領域が発生したとしても、その不良発光領域の見かけ上の大きさを小さくすることができ、不良発光領域がユーザに目立ちにくい。
【0040】
なお、電子輸送性材料6aの材料には、オキサジアゾール誘導体(OXD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)等の有機材料を用いることもできる。
【0041】
また、n型ドーパント6bの材料には、Li(リチウム)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)等のアルカリ金属や、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)等のアルカリ土類金属を用いることもできる。
【0042】
<陰極>
陰極7は、電子を電子輸送層6に注入する機能を有する。陰極7の材料には、ITO(酸化インジウムスズ)が用いられ、スパッタリング法により電子輸送層6の上に約35[nm]の厚みで形成されている。
【0043】
なお、陰極7の材料には、IZO(酸化インジウム亜鉛)、ZnO(酸化亜鉛)、TiO2(酸化チタン)等のIn、Ti、Zn、Snの少なくとも1つを含む酸化物からなる透明導電材料を用いることもできる。
【0044】
<封止層>
封止層8は、有機機能層(正孔注入層4、有機発光層5、電子輸送層6)を封止し、外部に存在する水分または酸素等から、有機機能層を保護する機能を有する。封止層8の材料には、SI3N4(窒化ケイ素)が用いられ、化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)により陰極7の上に約600[nm]の厚みで形成されている。
【0045】
なお、封止層8の材料には、SiO2(酸化ケイ素)、SiON(酸窒化ケイ素)等を用いることもできる。
【0046】
[封止層に亀裂が生じた状態での構成]
有機EL素子1は、(1)陽極3を形成する工程(陽極形成工程)、(2)正孔注入層4を形成する工程(正孔注入層形成工程)、(4)有機発光層5を形成する工程(有機発光層形成工程)、(5)電子輸送層6を形成する工程(電子輸送層形成工程)、(6)陰極7を形成する工程(陰極形成工程)、(7)封止層8を形成する工程(封止層形成工程)を経て製造される。各工程では、スパッタリング法、インクジェット法、真空蒸着法、化学気相成長法等の各種の成膜方法を用いて、各層が形成される。クリーンな雰囲気中で各層が形成されるものの、製造工程中に各層への異物混入をゼロにすることは困難である。製造工程中に異物が混入した場合、各層に亀裂等が生じる場合がある。
【0047】
図3は、実施の形態1にかかる有機EL素子において、封止層に亀裂が生じた状態での構成を示す断面図である。本図に示すように、電子輸送層6には異物10が混入しており、電子輸送層6の一部が上方(Y方向側)に盛り上がっている。有機EL素子1は、基板2の上に、陽極3、正孔注入層4、有機発光層5、電子輸送層6、陰極7、封止層8を順次積層して製造されるため、何れかの層が平坦に形成されず、その表面に凹凸が生じた場合、その上に形成された層に亀裂が生じる場合がある。本図に示す例では、異物10の上方に位置する封止層8の一部に亀裂11a、11bが発生している。
【0048】
図4は、
図3の破線Aで囲まれた部分の拡大断面図である。封止層8に不所望の亀裂11a、11bが生じた場合、亀裂11a、11bから水またはガス等が浸入する。浸入した水またはガス等は、陰極7を透過して電子輸送層6に達し、電子輸送層6にドープされたn型ドーパント6bと反応する。このため、電子輸送層6中のn型ドーパント6bのドープ濃度は、電子輸送層6における亀裂11a、11bに最も近い位置に向かって漸減している。一方、水またはガス等と反応したn型ドーパント6bは、電子供与性を失う。このため、電子輸送性材料6a‐n型ドーパント6b間で形成されていた電子移動錯体が分解され、電子輸送層6の電子移動度が低下する。
【0049】
なお、本明細書中において、「n型ドーパントの濃度」とは、電子移動錯体として存在するn型ドーパントの濃度のことをいい、水またはガス等と反応したn型ドーパントの濃度を含まない。例えば、n型ドーパントがBaである場合には、水またはガス等と反応し、Ba(OH)2(水酸化バリウム)等として存在するBaの濃度は含まれない。
【0050】
上記の結果、有機EL素子1には、発光輝度が低下している、または非発光となっている不良発光領域B、有機発光層5の発光輝度が向上している明発光領域C、および亀裂11a、11bの発生の前後で発光輝度が変わっていない正常発光領域Dが形成される。
【0051】
不良発光領域Bは、亀裂11a、11bの直下付近に位置する。亀裂11a、11bの直下付近では、浸入する水またはガス等の量が多いため、n型ドーパント6bのドープ濃度は0[wt%]、または非常に小さくなる。このため、電子輸送層6の電子移動度が大幅に低下し、有機発光層5の発光効率が低下する。その結果、有機発光層5の発光輝度が低下したり、非発光となる。
【0052】
正常発光領域Dは、亀裂11a、11bから一定距離離れた位置にあり、亀裂11a、11bから浸入した水またはガス等が達しない。このため、n型ドーパント6bのドープ濃度は、亀裂11a、11bの発生の前後で一定であり、正常発光領域Dの発光輝度は変わらない。
【0053】
明発光領域Cは、不良発光領域Bと正常発光領域Dとの間に位置している。有機EL素子1では、n型ドーパント6bを電子輸送層6に、有機発光層5の発光効率が最大となるドープ濃度よりも高い濃度でドープしている。このため、亀裂11a、11bから浸入した水またはガス等がn型ドーパント6bと反応しドープ濃度が低下したとしても、その低下の量が小さい場合、有機発光層5の発光効率が向上する。これにより、不良発光領域Bと正常発光領域Dとの間には、n型ドーパント6bのドープ濃度が低下して有機発光層5の発光効率が向上することにより、発光輝度が向上している明発光領域Cが形成される。
【0054】
図5は、実施の形態1にかかる有機EL素子のX方向における位置と、n型ドーパントのドープ濃度と、有機発光層の発光効率との関係を示す図であって、(a)は、実施の形態1にかかる有機EL素子のBaのドープ濃度と有機発光層の発光効率との関係を示す図であり、(b)は、有機EL素子のX方向における位置とn型ドーパントのドープ濃度との関係を示す図であり、(c)は、有機EL素子のX方向における位置と有機発光層の発光効率との関係を示す図である。
【0055】
図5(a)は、
図2で示したBaのドープ濃度と有機発光層5の発光効率との関係を縦軸と横軸とを入れ替えて示したものであり、
図5(a)の縦軸の目盛りは、
図5(b)の縦軸の目盛りに合わせて描いている。
図5(a)と
図5(b)とを参照することにより、
図5(c)に示す有機EL素子1のX方向における位置と有機発光層5の発光効率との関係が求まる。
【0056】
図5において、X5は亀裂11aの位置を示す。X5の左側の領域では、X5に向かってBaのドープ濃度が漸減している。
【0057】
X1は、Baのドープ濃度が低下し始める位置を示す。X1において、ドープ濃度は約30[wt%]であり、その位置での有機発光層5の発光効率は約1.1[cd/A]である。このX1の位置より左側の領域が、正常発光領域Dとなる。
【0058】
ここで
図5(a)を参照するに、ドープ濃度が約15[wt%]以上、約30[wt%]以下の間では、Baのドープ濃度が低下していくにつれて、有機発光層5の発光効率が向上する。このため、X1の右側にいくにつれて、有機発光層5の発光効率が向上する。
【0059】
X2は、有機発光層5の発光効率が最大となる位置を示す。X2の位置では、Baのドープ濃度が約15[wt%]に低下しており、有機発光層5の発光効率は約1.6[cd/A]となっている。
【0060】
図5(a)を参照するに、ドープ濃度が約15[wt%]以下の間では、Baのドープ濃度が低下していくにつれて、有機発光層5の発光効率が低下する。このため、X2の右側にいくにつれて、有機発光層5の発光効率が低下する。
【0061】
X3は、有機発光層5の発光効率が正常発光領域Dにおける発光効率と同程度になる位置を示す。X3において、ドープ濃度は約5[wt%]であり、その位置での有機発光層5の発光効率は約1.1[cd/A]である。X2とX3との間の領域が、明発光領域Cとなる。
【0062】
X4は、Baのドープ濃度が低下し、その濃度が0[wt%]になった位置を示す。また、X11は、有機発光層5の発光効率が0[cd/A]となった位置を示す。X3とX11との間の領域が、亀裂11a、11bの発生前に比べ発光輝度が低下した輝度低下領域B1となる。
【0063】
X6は亀裂11bの位置を示す。X6の右側の領域では、X6に向かってBaのドープ濃度が漸減する。X6の右側の領域におけるBaのドープ濃度の変化、および有機発光層5の発光効率の変化は、X5の左側の領域における変化と同様となる。X10は、Baのドープ濃度が低下し始める位置を示し、X9は、有機発光層5の発光効率が最大となる位置を示し、X8は、有機発光層5の発光効率が正常発光領域Dにおける発光効率と同程度になる位置を示す。また、X7は、Baのドープ濃度が低下し、その濃度が0[wt%]になる位置を示し、X12は、有機発光層5の発光効率が0[cd/A]となる位置を示す。
【0064】
X10の位置より右側の領域は、正常発光領域Dであり、X10とX8との間の領域が、明発光領域Cであり、X8とX12との間の領域が、輝度低下領域B1である。また、X11とX12との間の領域が非発光領域B2である。不良発光領域Bは、輝度低下領域B1と非発光領域B2とからなる。
【0065】
以上のように、有機EL素子1では、電子輸送層6にドープされたBaのドープ濃度が、有機発光層5の発光効率が最大となるドープ濃度よりも高いため、不良発光領域Bに隣接する領域Cでは、Baのドープ濃度が低下することにより、発光効率が向上する。不良発光領域Bに隣接する領域Cの発光効率が向上し発光輝度が向上するため、不良発光領域Bの見かけ上の大きさが小さくなり、不良発光領域Bがユーザに目立ちにくくなる。
【0066】
次に、従来の有機EL素子において、封止層に亀裂が生じた場合を説明する。
図6は、従来の有機EL素子のX方向における位置と、n型ドーパントのドープ濃度と、有機発光層の発光効率との関係を示す図であって、(a)は、従来の有機EL素子のBaのドープ濃度と有機発光層の発光効率との関係を示す図であり、(b)は、従来の有機EL素子のX方向における位置とn型ドーパントのドープ濃度との関係を示す図であり、(c)は、従来の有機EL素子のX方向における位置と有機発光層の発光効率との関係を示す図である。
【0067】
図6(a)は、
図2で示したBaのドープ濃度と有機発光層の発光効率との関係を縦軸と横軸を入れ替えて示したものであり、
図6(a)の縦軸の目盛りは、
図6(b)の縦軸の目盛りに合わせて描いている。
図6(a)と
図6(b)とを参照することにより、
図6(c)に示す従来の有機EL素子のX方向における位置と有機発光層の発光効率との関係が求まる。
【0068】
ここで、n型ドーパントは、電子輸送層の電子移動度を向上させ、有機発光層の発光効率を高めるために、電子輸送層にドープされるものである。そのため、従来では、n型ドーパントを電子輸送層に、有機発光層の発光効率が最大となるドープ濃度よりも小さい、または有機発光層の発光効率が最大となるドープ濃度でドープしていた。
図6に示す例では、Baを電子輸送層に約10[wt%]の濃度でドープしている。
【0069】
亀裂11aの位置を示すX5の左側の領域では、X5に向かってBaのドープ濃度が漸減している。
【0070】
X21は、Baのドープ濃度が低下し始める位置を示す。X21において、ドープ濃度は約10[wt%]であり、その位置での有機発光層5の発光効率は約1.5[cd/A]である。このX21の位置より左側の領域が、正常発光領域D1となる。
【0071】
ここで
図6(a)を参照するに、ドープ濃度が約15[wt%]以下の間では、Baのドープ濃度が低下していくにつれて、有機発光層の発光効率が低下する。このため、X21の右側にいくにつれて、有機発光層の発光効率が低下する。
【0072】
X22は、Baのドープ濃度が低下し、その濃度が0[wt%]になった位置を示す。また、X25は、有機発光層の発光効率が0[cd/A]となった位置を示す。X21とX25との間の領域が、亀裂11a、11bの発生前に比べ発光輝度が低下した輝度低下領域B4となる。
【0073】
亀裂11bの位置を示すX6の右側の領域では、X6に向かってBaのドープ濃度が漸減している。X6の右側の領域におけるBaのドープ濃度の変化、および有機発光層の発光効率の変化は、X5の左側の領域における変化と同様となる。X24は、Baのドープ濃度が低下し始める位置を示し、X23は、Baのドープ濃度が低下し、その濃度が0[wt%]になる位置を示し、X26は、有機発光層の発光効率が0[cd/A]となる位置を示す。
【0074】
X24の位置より右側の領域は、正常発光領域D1であり、X24とX26との間の領域が、輝度低下領域B4であり、X25とX26との間の領域が非発光領域B3とである。不良発光領域B3は、輝度低下領域B4と非発光領域B5とからなる。
【0075】
[効果]
以下では、封止層に亀裂が生じた状態における、有機EL素子1と上記の従来の有機EL素子とを比較する。
(1)非発光領域の大きさ
有機EL素子1は、従来の有機ELと比較して、電子輸送層にドープするBa濃度が高いため、亀裂11aの位置X5から有機EL素子1において有機発光層の発光効率が0[cd/A]となる位置X11までの長さは、亀裂11aの位置X5から有機EL素子1において有機発光層の発光効率が0[cd/A]となる位置X25までの長さよりも長い。これと同様に、亀裂11bの位置X6から有機EL素子1において有機発光層の発光効率が0[cd/A]となる位置X12までの長さは、亀裂11aの位置X5から有機EL素子1において有機発光層の発光効率が0[cd/A]となる位置X26までの長さよりも長い。従って、有機EL素子1における非発光領域B2は、上記の従来の有機EL素子における非発光領域B5よりも小さい。
(2)輝度低下領域の大きさ
有機EL素子1の正常発光領域Dの発光効率は、従来の有機EL素子の正常発光領域D1よりも発光効率よりも低い。このため、有機EL素子1において発光効率が正常発光領域Dにおける発光効率と同程度になる位置X3から、有機発光層の発光効率が0[cd/A]となる位置X11までの長さは、従来の有機EL素子において発光効率が正常発光領域D1における発光効率と同程度になる位置X21から、有機発光層の発光効率が0[cd/A]となる位置X25までの長さより短い。従って、有機EL素子1における輝度低下領域B1は、上記の従来の有機EL素子における非発光領域B2よりも小さい。
【0076】
また、有機EL素子1は、従来の有機EL素子よりも、非発光領域の大きさおよび輝度低下領域の大きさが小さいため、非発光領域および輝度低下領域からなる不良発光領域の大きさも、従来の有機EL素子よりも小さい。
(3)不良発光領域のみかけ上の大きさ
有機EL素子1の明発光領域Cは不良発光領域Bに隣接している。明発光領域Cの発光輝度が高く、不良発光領域Bの暗さを補間するため、不良発光領域Bの見かけ上の大きさは小さくなる。このため、不良発光領域Bがユーザに目立ちにくくなる。
【0077】
[検証実験]
本実施の形態にかかる有機EL素子の上記効果を確かめるため、以下の検証実験を行った。
【0078】
図7は、異物が混入し不良発光領域生じた状態の拡大写真を示す図であって、(a)は、Baのドープ濃度が約40[wt%]における不良発光領域の拡大写真を示す図であり、(b)は、(a)に示した不良発光領域の原因となる異物の拡大写真を示す図であり、(c)は、Baのドープ濃度が約20[wt%]における不良発光領域の拡大写真を示す図であり、(d)は、(c)に示した不良発光領域の原因となる異物の拡大写真を示す図であり、(e)は、Baのドープ濃度が約5[wt%]における不良発光領域の拡大写真を示す図であり、(f)は、(e)に示した不良発光領域の原因となる異物の拡大写真を示す図である。
【0079】
図7(b)、(d)、(f)において、異物は、破線で囲った部分に存在し、その大きさは何れも約30[μm]である。
【0080】
ここで、
図7(a)を参照するに、Baのドープ濃度が約40[wt%]の場合、不良発光領域の大きさは約2×2の4画素分の大きさである。また、
図7(c)を参照するに、Baのドープ濃度が約20[wt%]の場合、不良発光領域の大きさは約3×3の9画素分の大きさである。また、
図7(e)を参照するに、Baのドープ濃度が約5[wt%]の場合、不良発光領域の大きさは約5×5の25画素分の大きさである。このように、Baのドープ濃度が高くなるにつれ、不良発光領域の大きさが小さくなることが分かる。また、
図7(a)を参照するに、Baのドープ濃度が約40[wt%]の場合において、不良発光領域の周りが、他の領域よりも発光輝度が高くなっているっていることが分かる。これにより、不良発光領域の見かけ上の大きさは小さくなり、不良発光領域Bがユーザに目立ちにくくなる。
【0081】
図8は、有機EL素子のBaのドープ濃度と、見かけ上の不良発光領域の数との関係を示す図である。横軸は、電子輸送層の総重量を基準にしたBaのドープ濃度[wt%]を示し、縦軸は、見かけ上の不良発光領域の数[個]を示す。ここでは、Baのドープ濃度を変えて製作した有機EL素子を備える1600×1200画素の20インチの有機EL表示パネルに対して、発光輝度が低下している、または非発光となっている不良発光領域の数を目視により数えている。
【0082】
図8を参照するに、Baのドープ濃度が高くなるにつれ、見かけ上の不良発光領域の数が減っていき、Baのドープ濃度が約40[wt%]の場合では、見かけ上の不良発光領域の数が0となっていることが分かる。
【0083】
≪変形例1≫
上記の実施の形態では、Baを電子輸送層に、15[wt%]を越える濃度でドープする場合を示した。このBaのドープ濃度に関しては、Baを電子輸送層に、25[wt%]以上の濃度でドープすることがより好ましい。その理由を以下に示す。
【0084】
図9は、目視可能な不良発光領域が発生した場合において、その不良発光領域が発生する原因となった異物の直径の長さと、有機EL素子のBaのドープ濃度との関係を示す図である。横軸は、電子輸送層の総重量を基準にしたBaのドープ濃度[wt%]を示し、縦軸は、異物の直径[μm]を示す。
【0085】
図9を参照するに、例えば直径が約10[μm]の異物が混入した場合、Baのドープ濃度が約5[wt%]の有機EL素子では、目視可能な不良発光領域が発生することが分かる。これに対して、同じ直径が約10[μm]の異物が混入した場合であっても、Baのドープ濃度が約30[wt%]の有機EL素子では、目視可能な不良発光領域が発生しないことが分かる。
【0086】
図9に示す直線は、Baの各ドープ濃度において、目視可能な不良発光領域が発生する最小の異物の直径の長さを対数近似で結んだものである。Baのドープ濃度をN[wt%]、目視可能な不良発光領域が発生する最小の異物の直径をD[μm]としたとき、直線は以下の関係式で表される。
【0087】
N≧4×exp(0.0095×D)
一般に、除去が容易な異物の直径の大きさは、約20[μm]以上である。除去が難しい直径の大きさが約20[μm]未満の異物が混入したとしても、目視可能な不良発光領域が発生しないためには、
図9および上記数式から、Baのドープ濃度が約25[wt%]以上であればよいことが分かる。
【0088】
≪変形例2≫
本開示は、上記の実施の形態にかかる有機EL素子を備える有機EL表示パネル、およびその有機ELパネルを備える有機EL表示装置としても実施可能である。
【0089】
図10は、変形例にかかる有機EL表示装置を示す外観図である。
図11は、変形例にかかる有機EL表示装置の構成を模式ブロック図である。
図10および
図11に示すように、有機EL表示装置100は、有機EL表示パネル110と、これに接続された駆動制御部120とを有し構成されている。有機EL表示パネル110は、上記の実施の形態にかかる複数の有機EL素子が、例えば、マトリクス状に配列され構成されている。駆動制御部120は、4つの駆動回路121〜124と制御回路125とから構成されている。このような、有機EL表示装置100、および有機EL表示パネル110によれば、不所望の不良発光領域が発生したとしても、不良発光領域に隣接する領域の発光効率が向上し発光輝度が向上する。このため、不良発光領域の見かけ上の大きさが小さくなり、不良発光領域がユーザに目立ちにくくなる。
【0090】
≪補足≫
なお、上記の実施の形態に基づいて説明してきたが、本開示は上記の実施の形態に限定されないことはもちろんである。以下のような場合も本開示に含まれる。
【0091】
(a)電子輸送層にドープするBaのドープ濃度は、50[wt%]以下であることが好ましい。正常発光領域において一定の発光効率を確保するためである。また、Baのドープ濃度が50[wt%]以下の範囲では、リーク電流が発生するおそれが低い。
【0092】
(b)上記の実施の形態では、有機EL素子の成膜過程において異物が混入することにより、封止層に亀裂が生じる場合を示したが、本開示は必ずしもこの場合に限定されない。例えば、ユーザが有機EL素子の使用過程で過度な力を封止層に加えた結果、封止層に亀裂が生じることが考えられる。また、有機EL素子の成膜過程で、いずれかの層が何らかの要因で平坦に形成されず、その表面に凹凸が生じた結果、その上に形成された層に亀裂が生じることが考えられる。
【0093】
(c)上記の実施の形態において、有機EL素子は、基板、陽極、正孔注入層、有機発光層、電子輸送層、陰極、および封止層からなるとしたが、本開示は必ずしもこの場合に限定されない。陽極と、陰極と、有機発光層と、陰極と有機発光層との間に設けられ、陰極から有機発光層へ電子を輸送する電子輸送層とを有する有機EL素子であればよく、ここに挙げた以外の有機機能層を含む構成であってもよい。
【0094】
例えば、陰極と電子輸送層との間に、陰極から電子輸送層への電子の注入を促進させる機能を有する電子注入層を設けてもよい。電子注入層の材料には、リチウム、バリウム、カルシウム、カリウム、セシウム、ナトリウム、ルビジウム等の低仕事関数金属、及びフッ化リチウム等の低仕事関数金属塩、酸化バリウム等の低仕事関数金属酸化物等が好適する。
【0095】
また、有機発光層と正孔注入層との間に、陽極から注入された正孔を有機発光層に輸送する機能を有する正孔輸送層を設けてもよい。正孔輸送層の材料には、例えば、特許公開公報(特開平5−163488号公報)に記載のトリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ポリフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、ブタジエン化合物、ポリスチレン誘導体、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、テトラフェニルベンジン誘導体等が好適する。
【0096】
また、封止層の上方に、有機EL素子を保護する樹脂層を設けてもよい。樹脂層の材料には、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂材料が好適する。
【0097】
(d)上記の実施の形態では、陰極側から光を取り出す所謂トップエミッション型の有機EL素子を示したが、本開示は必ずしもこの場合に限定されない。基板側から光を取り出す所謂ボトムエミッション型の有機EL素子であってもよい。ボトムエミッション型の有機EL素子では、陽極に、ITO、IZO等の光透過性材料が用いられる。
【0098】
(e)上記実施の形態では、有機EL素子の各層が、スパッタリング法、インクジェット法、真空蒸着法、化学気相成長法等の成膜方法を用いて形成される場合を示したが、本開示は必ずしもこの場合に限定されない。上記で示した成膜方法はその一例であり、これに限定されない。