特許第6222713号(P6222713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6222713バスバー構造及びバスバー構造を用いた電力変換装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222713
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】バスバー構造及びバスバー構造を用いた電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20171023BHJP
   H05K 7/06 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   H02M7/48 Z
   H05K7/06 C
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-544867(P2015-544867)
(86)(22)【出願日】2014年9月24日
(86)【国際出願番号】JP2014075151
(87)【国際公開番号】WO2015064247
(87)【国際公開日】20150507
【審査請求日】2016年4月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-224879(P2013-224879)
(32)【優先日】2013年10月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 要
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 賢市郎
【審査官】 東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−95472(JP,A)
【文献】 特開平11−98815(JP,A)
【文献】 特開2010−259139(JP,A)
【文献】 特開2011−135712(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/093239(WO,A1)
【文献】 特開2012−56118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00−7/98
H05K 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源からパワー半導体モジュールに直流電力を供給するバスバー構造であって、
前記バスバーは、第1バスバーと第2バスバーとを有し、
前記第1バスバーは、電気的に絶縁性を有する第1絶縁部材により、当該第1バスバーの一方の面が露出した状態で固定され、
前記第2バスバーは、電気的に絶縁性を有する第2絶縁部材により、当該第2バスバーの一方の面が露出した状態で固定され、
前記第1バスバーは、当該第1バスバーの前記一方の面が前記第2バスバーの前記一方の面と対向するように配置され、
前記第1バスバーと前記第2バスバーとの間には、前記第1及び第2絶縁部材とは異なる絶縁物が挟持され、
前記第1絶縁部材は、前記第1バスバー及び前記第2バスバーから隔離されて前記第2絶縁部材に向かって突出する第1突出部を有し、
前記第1突出部は、当該第1突出部の先端部に、前記第2絶縁部材に接する当接面を有するバスバー構造。
【請求項2】
請求項1に記載されたバスバー構造であって、
前記第1絶縁部材及び前記第2絶縁部材は、樹脂により形成され、
前記第1突出部は、金属製の部材であり、
前記第2絶縁部材は、金属製の当接部材を有し、
前記当接部材は、前記第1突出部の先端部と接する前記当接面を有するバスバー構造。
【請求項3】
請求項2に記載されたバスバー構造であって、
前記第2絶縁部材は、前記第1バスバー及び前記第2バスバーから隔離されて前記第1突出部に向かって突出する第2突出部を有し、
前記第2突出部は、当該第2突出部の先端部に、前記当接面を有するバスバー構造。
【請求項4】
請求項ないし3に記載されたいずれかのバスバー構造であって、
前記絶縁物には、位置決め孔が形成され、
前記絶縁物は、前記第1突出部が前記位置決め孔を貫通するように配置されるバスバー構造。
【請求項5】
請求項ないし4に記載されたいずれかのバスバー構造であって、
前記第1突出部は、当該第1突出部の軸方向に貫通する第1貫通孔が形成され、
前記第2絶縁部材は、前記第1貫通孔と同軸線上に第2貫通孔が形成され、
前記第1絶縁部材は、貫通部材を前記第1貫通孔と前記第2貫通孔に挿通することにより、前記第2絶縁部材に固定されるバスバー構造。
【請求項6】
直流電源からパワー半導体モジュールに直流電力を供給するバスバー構造を備えた電力変換装置であって、
前記バスバーは、第1バスバーと第2バスバーとを有し、
前記第1バスバーは、電気的に絶縁性を有する第1絶縁部材により、当該第1バスバーの一方の面が露出した状態で固定され、
前記第2バスバーは、電気的に絶縁性を有する第2絶縁部材により、当該第2バスバーの一方の面が露出した状態で固定され、
前記第1バスバーは、当該第1バスバーの前記一方の面が前記第2バスバーの前記一方の面と対向するように配置され、
前記第1バスバーと前記第2バスバーとの間には、前記第1及び第2絶縁部材とは異なる絶縁物が挟持され、
前記第1絶縁部材は、前記第1バスバー及び前記第2バスバーから隔離されて前記第2絶縁部材に向かって突出する第1突出部を有し、
前記第1突出部は、当該第1突出部の先端部に、前記第2絶縁部材に接する当接面を有する電力変換装置。
【請求項7】
請求項6に記載された電力変換装置であって、
前記第1絶縁部材及び前記第2絶縁部材は、樹脂により形成され、
前記第1突出部は、金属製の部材であり、
前記第2絶縁部材は、金属製の当接部材を有し、
前記当接部材は、前記第1突出部の先端部と接する前記当接面を有する電力変換装置。
【請求項8】
請求項7に記載された電力変換装置であって、
前記第2絶縁部材は、前記第1バスバー及び前記第2バスバーから隔離されて前記第1突出部に向かって突出する第2突出部を有し、
前記第2突出部は、当該第2突出部の先端部に、前記当接面を有する電力変換装置。
【請求項9】
請求項6ないし8に記載されたいずれかの電力変換装置であって、
前記絶縁物には、位置決め孔が形成され、
前記絶縁物は、前記第1突出部が前記位置決め孔を貫通するように配置される電力変換装置。
【請求項10】
請求項6ないし9に記載されたいずれかの電力変換装置であって、
前記第1突出部は、当該第1突出部の軸方向に貫通する第1貫通孔が形成され、
前記第2絶縁部材は、前記第1貫通孔と同軸線上に第2貫通孔が形成され、
前記第1絶縁部材は、貫通部材を前記第1貫通孔と前記第2貫通孔に挿通することにより、前記第2絶縁部材に固定される電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は直流電力を交流電力に変換しあるいは交流電力を直流電力に変換する電力変換装置に関し、特に車両に搭載されるのに適する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車又は電気自動車の小型化とエネルギー効率の向上と共に、これらに用いられる電力変換装置を含めた車両部品の小型化と効率の向上が求められている。
【0003】
電力変換装置に搭載され、直流電流を伝達する直流バスバーは、正負極間の間隔をできるだけ近接させる事により、電力変換装置の小型化と直流バスバーの寄生インダクタンスを低減する事が可能となる。これにより、電力変換装置に用いられるスイッチング素子の損失の低減、つまり電力変換装置の変換効率向上が可能となる。
【0004】
ここで、直流バスバーの正負極間の間隔を近接させるには、当該直流バスバーの正負極間の絶縁を確保する必要がある。特許文献1には、複数の直流バスバーを重ね合わせ、バスバー間に樹脂を成形することで、省スペースと絶縁の確保を両立する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−304874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の構造では、更なる小型化および変換効率向上を目的として正負極間の間隔を更に近接させた場合に、正負極間に充填される樹脂層にスルーホール等の欠陥が生じる可能性がある。すなわち、正負極間の間隔を小さくすることによるインダクタンス低減と、正負極間の絶縁信頼性を両立させつつ性能を向上させることが困難となりつつある。
【0007】
本発明の目的は、直流バスバーの正負極間の絶縁信頼性を高く確保しつつ、インダクタンスを低減させることで、電力変換装置の小型効率化に寄与することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に用いられるバスバー構造は、直流電源からパワー半導体モジュールに直流電力を供給するバスバー構造であって、前記バスバーは、第1バスバーと第2バスバーとを有し、前記第1バスバーは、電気的に絶縁性を有する第1絶縁部材により、当該第1バスバーの一方の面が露出した状態で固定され、前記第2バスバーは、電気的に絶縁性を有する第2絶縁部材により、当該第2バスバーの一方の面が露出した状態で固定され、前記第1バスバーは、当該第1バスバーの前記一方の面が前記第2バスバーの前記一方の面と対向するように配置され、前記第1バスバーと前記第2バスバーとの間には、前記第1及び第2絶縁部材とは異なる絶縁物が挟持され、前記第1絶縁部材は、前記第1バスバー及び前記第2バスバーから隔離されて前記第2絶縁部材に向かって突出する第1突出部を有し、前記第1突出部は、当該第1突出部の先端部に、前記第2絶縁部材に接する当接面を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、直流バスバーの正負極間の絶縁信頼性を確保しつつ、インダクタンスを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】電力変換装置200の全体構成を説明するために構成要素に分解した斜視図である。
図2(a)】バスバーアッセンブリ800の全体構成を説明する為に構成要素に分解した分解斜視図である。
図2(b)】バスバーアッセンブリ800の外観斜視図である。
図3】電力変換装置200から回路基板20と基板ベース板11を取り除いた上面図
図4図3の断面Bで切ったときの電力変換装置200の断面図である。
図5(a)】図2の断面Aで切ったときのバスバーアッセンブリ800の断面図である。
図5(b)】別の実施形態に係るバスバーアッセンブリ800の断面図である。
図5(c)】別の実施形態に係るバスバーアッセンブリ800の断面図である。
図5(d)】別の実施形態に係るバスバーアッセンブリ800の断面図である。
図5(e)】別の実施形態に係るバスバーアッセンブリ800の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明に係る電力変換装置の実施の形態について説明する。なお、各図において同一要素については同一の符号を記し、重複する説明は省略する。
【0012】
本実施形態に係る電力変換装置200は、主にハイブリッド自動車や電気自動車に用いられるものである。なお、本実施形態に係る電力変換装置200は、その効果を達成するために他の用途に用いられてもよい。例えば生産性向上や冷却性能向上を目的とした冷蔵庫やエアコンの家電用インバータに用いられてもよい。また使用環境が車両用インバータと類似した産業機器用インバータに用いられてもよい。
【実施例1】
【0013】
図1は、本実施形態に係る電力変換装置200の全体構成を説明するために構成要素に分解した斜視図である。電力変換装置200は、回路基板20、金属製ベース板11、バスバーアッセンブリ800、パワー半導体モジュール300a乃至300c、コンデンサモジュール500を備える。これらの部材は、ケース220に収納される。
【0014】
後述されるパワー半導体モジュール300a乃至300cは、直流電力を交流電力に変換する。後述されるコンデンサモジュール500は、直流電力を平滑化する。後述される回路基板20は、パワー半導体モジュール300a乃至300cを駆動する駆動信号を出力する駆動回路部20a(図4参照)を搭載する。また、回路基板20は、駆動回路にパワー半導体モジュール300a乃至300cを制御するための制御信号を出力する制御回路部20b(図4参照)を搭載する。これらの回路システムの一例は、特開2011−217550号公報に記載されている。
【0015】
ケース220は、パワー半導体モジュール300a乃至300bやコンデンサモジュール500を冷却するための冷媒を流す流路形成体を形成する。
【0016】
バスバーアッセンブリ800は、直流側導体板801と、絶縁シート803と、交流側導体板805a乃至805cと、これらを保持する絶縁部材802を備えており、さらに電流センサ808を備えている。直流側導体板801は、コンデンサモジュール500からパワー半導体モジュール300a乃至300cへ直流電力を伝達する。直流側導体板801は、後述するように、正極側導体板801aと、負極側導体板801bと、で構成される。パワー半導体モジュール300a乃至300cで交流に変換された電力は、交流側導体板805a乃至805cから出力される。交流側導体板805a乃至805cは、電流センサ803の貫通孔を通って配置される。
【0017】
図2(a)は、バスバーアッセンブリ800の全体構成を説明する為に構成要素に分解した分解斜視図である。バスバーアッセンブリ800は、大きく分けて第1バスバーアッセンブリ800aと、第2バスバーアッセンブリ800bと、絶縁シート803と、で構成される。第1バスバーアッセンブリ800aは、絶縁シート803を挟んで第2バスバーアッセンブリ800bと対向している。
【0018】
第1バスバーアッセンブリ800aは、正極側導体板801aと、電気絶縁性を有する第1絶縁部材802aと、を含んで構成される。正極側導体板801aは、第2バスバーアッセンブリ800bに面する側の一方の面が露出した状態で、第1絶縁部材802aにより覆われている。
【0019】
第2バスバーアッセンブリ800bは、負極側導体板801bと、電気絶縁性を有する第2絶縁部材802bと、を含んで構成される。負極側導体板801bは、第1バスバーアッセンブリ800aに面する側の一方の面が露出した状態で、第2絶縁部材802bにより覆われている。
【0020】
絶縁シート803は、第1バスバーアッセンブリ800aと第2バスバーアッセンブリ800bの間に配置される。絶縁シート803は、正極側導体板801aおよび負極側導体板801bの露出した面を覆うように、配置されている。
【0021】
第2絶縁部材802bは、電流センサ808が設置されるように、第1バスバーアッセンブリ800aと対向する領域から延設されて形成される。
【0022】
バスバーアッセンブリ800には、パワー半導体モジュール300a〜300cと接続するための接続端子(後述)が形成される。第1絶縁部材802a及び第2絶縁部材802bには、パワー半導体モジュール300a〜300cの端子を挿通させるための貫通孔が前記接続端子と隣接して形成される。
【0023】
図2(b)は、図2(a)に示すバスバーアッセンブリ800の構成要素を組み立てた状態の、バスバーアッセンブリ800の外観斜視図である。ただし、交流側導体板805及び電流センサ808は図示していない。バスバーアッセンブリ800には、コンデンサモジュール500に設けられた位置決めピン730と嵌合する位置決め用貫通孔809が2箇所形成されている。
【0024】
第1バスバーアッセンブリ800aは、爪型形状の構造部材固定部810により、絶縁シート803を挟んだ状態で第2バスバーアッセンブリ800bに係止される。
【0025】
図3は、電力変換装置200から回路基板20と基板ベース板11を取り除いた上面図である。バスバーアッセンブリ800は、コンデンサ接続部703とパワーモジュール接続部704を有する。コンデンサ接続部703及びパワーモジュール接続部704は、バスバーアッセンブリ800の直流側導体板801と接続されている。
【0026】
コンデンサ接続部703は、コンデンサ500のリード端子701と接続される。パワーモジュール接続部704は、パワー半導体モジュール300の直流端子301と接続される。コンデンサ接続部703及びパワーモジュール接続部704は、同方向に突出して形成される。これにより、コンデンサ接続部703とパワーモジュール接続部704を接続する作業を行う際に、ワークの向きを変えることなく接続する事が可能となり、作業性の向上が可能となる
図4は、図3の断面Bで切断した断面図である。
【0027】
バスバーアッセンブリ800の直流側導体板801は、コンデンサモジュール500の上方に配置されている。直流側導体板801とコンデンサモジュール500は、図3に示したように、直流側導体板801に形成されるコンデンサ接続部703がコンデンサモジュール500から上方に延びるリード端子701と溶接等により接合されることで、接続される。バスバーアッセンブリ800を挟んでコンデンサモジュール500の更に上方には、回路基板20の制御回路部20bが配置される。また、バスバーアッセンブリ800と制御回路部20bの間には、金属製ベース板11が配置される。制御回路部20bは、駆動回路部20aに比べて使用される電圧が小さいため、駆動回路部20aに比べてノイズに対する影響を受けやすい。金属製ベース板11がバスバーアッセンブリ800と制御回路部20bの間に配置されることで、制御回路部20bに伝搬するノイズの影響を低減することができる。
【0028】
図5(a)は、図2(b)の断面Aで切ったときのバスバーアッセンブリ800の断面を示す模式図である。
【0029】
正極側導体板801aを保持する第1絶縁部材802aには、凸形状の構造部材804aが形成される。構造部材804aは、第2絶縁部材802bと面する側の第1絶縁部材802aの一面から、第2絶縁部材802bに向かって突出している。構造部材804aは、当該構造部材804aの先端部に、第2絶縁部材802bに接する当接面13を有する。構造部材804aは、正極側導体板801aの露出面14の法線方向に、当該露出面14よりも突出して形成される。
【0030】
凸形状の構造部材804bには、突出軸方向に貫通する貫通孔が形成される。当該貫通孔には、ネジ等の固定部材が挿入される。
【0031】
構造部材804aは、図5(a)においては一つのみ図示して説明しているが、本実施例においては、直流側導体板801の周囲に複数個所形成される。正極側導体板801aを保持する第1絶縁部材802aに凸形状の構造部材804aを設けたことにより、正極側導体板801aは、負極導体板801bとの間の距離を構造部材804aにより制御することができる。
【0032】
正極側導体板801aと負極側導体板801bの間の距離は、インダクタンス打ち消し効果をより効率的に得るためにも、可能な限り小さくすることが望まれる。しかしながら、正極側導体板801aと負極側導体板801bの間に絶縁性の樹脂材を充填することで正負極間の絶縁性を確保しようとした場合、正負極間の距離が狭いほど、樹脂材の充填時にスルーホール等の欠陥が発生しやすくなってしまう。その結果、正負極間でショートしてしまい、電気的な絶縁性と、インダクタンス低減を両立することが従来困難であった。
【0033】
そこで本実施形態のバスバーアッセンブリ800は、正極側導体板801aと負極側導体板801bの間には、第1絶縁部材802a及び第2絶縁部材802bとは異なる絶縁シート803を配置している。絶縁シート803は、例えばPET材等を積層したものが用いられる。これらの絶縁材は、シート状に薄く加工することが一般的に容易である。また、絶縁シート803は積層構造とすることにより、各シートに発生するスルーホールが繋がる可能性が低く、絶縁信頼性が高い。
【0034】
また、正極側導体板801aと負極側導体板801bの間に絶縁シート803を配置した場合、正極側導体板801aと負極側導体板801bの間の距離12は、絶縁シート803の厚さ12aと、正極側導体板801aと負極側導体板801bの幾何公差を考慮した必要クリアランス12bと、の和を製造上最低限確保する必要がある。本実施形態のバスバーアッセンブリ800は、第1絶縁部材801aから突出した構造部材804aにより、正極側導体板801aと負極側導体板801bの間の距離12を製造上最低限の距離に制御することが可能となるため、インダクタンスの増大を抑制することができる。
【0035】
以上に説明したように、本実施例に係る電力変換装置は、パワー半導体モジュール300に直流電流を供給する直流側バスバー801を有するバスバーアッセンブリ800に、第1絶縁部材802a及び第2絶縁部材802bとは異なる絶縁シート803が挟持され、第1絶縁部材802aが第2絶縁部材802bに向かって突出する凸形状の構造部材804aを有する。したがって、直流電源からパワー半導体モジュールまでのインダクタンスを低く抑えることができ、かつ電気的絶縁を信頼性高く確保することができる。
【0036】
また、バスバーアッセンブリ800を構成する第1絶縁部材802a及び第2絶縁部材は、絶縁性の樹脂部材により形成される。バスバーアッセンブリ800は、例えばインサートモールド等により、正極側導体板801a及び負極側導体板801bが露出した状態で形成される。正極側導体板801aと負極側導体板801bの間の距離を確保するために設けられる構造部材804aは、第1絶縁部材802aと同材料の樹脂材により一体に形成されても良いが、本実施例においては金属製の部材により形成される。また、第2絶縁部材802bは、第1絶縁部材802aの有する金属製の構造部材804aと当接する部分に、金属製の当接部材804bを有する。
【0037】
当接部材804bは、凸形状の804aとの間に当接面13を形成する。金属材料同士によって当接面13を形成することにより、振動や温度等の負荷による引けを生じにくくすることができる。樹脂材料同士で当接面13を形成した場合は、当接面13において樹脂材料の引けが発生するおそれがあり、正負極の導体板間において距離を信頼性高く保つことが難しい。本実施形態のバスバーアッセンブリ800によれば、信頼性高くインダクタンスを低減することができる。
【0038】
また、バスバーアッセンブリ800を構成する絶縁部材802は、回路基板20の駆動回路部20aを固定する構造を有している。図4に示すように、駆動回路部20aは、パワー半導体素子300の上方に配置される。駆動回路部20aは、制御回路部20bに比べて大きい電圧が使用されている為、制御回路部20bに比べて他の部品との絶縁距離を十分にとる必要がある。絶縁部材802は、絶縁性の樹脂材料で形成されているため、駆動回路部20aとの間に別の絶縁部材を設ける必要がなく、高密度実装が可能となる。
【0039】
なお、導体板は電気伝導性の良い銅が一般的には用いられ、電流密度により厚み及び幅が決まる。また導体板の間隔はインダクタンス低減の目的から出来るだけ近い事が望ましい。
【0040】
また図5(a)において正極側導体板と負極側導体板の間の絶縁を確保するためには、導体板801と金属製のボス804aとの間の距離も絶縁が可能な距離まで離す必要がある。
【0041】
なお、正極側導体板と負極側導体板の間の絶縁を確保する為に、絶縁シート803が導体板801と同じ大きさではなく、導体板801の縁辺よりもある一定の距離まではみ出させる必要がある。
【0042】
直流側導体板801を覆う絶縁部材802は、ケース202に例えばボルト締結により固定される。したがって、直流側導体板801の重量は、絶縁部材802を介してケース220にかかる。これにより、コンデンサモジュール500のリード端子703と直流側導体板801との接部にかかる応力の集中を防ぐことができる。そのため、例えば接合部に溶接構造などを取り入れることが可能となり、小型化や部品点数の削減が可能となる。
【0043】
バスバーアッセンブリ800に搭載される絶縁シート803に電流センサ803と交流側導体板805を組み付け、その後組み付けを行ったバスバーアッセンブリ800の組み付けを行う。
【0044】
パワーモジュール300は直流側端子301と交流側端子302を有しており、直流側導体板と、交流側導体板を一体として組み付けたバスバーアッセンブリ800を組み付ける事により、直流側端子301と交流側端子302に同じ組立工程内で接続を実施できるから、組立性の向上が可能となる。
【0045】
本実施形態の電力変換装置200は、直流側導体板をコンデンサモジュール500と一体構造にせず、分離している。このように、直流側導体板とコンデンサモジュール500との間に空気層を設けることで、コンデンサモジュールの受熱の主要因である直流側導体板の発熱を、コンデンサモジュール500へ伝わりにくい構造としている。平滑用のフィルムコンデンサセル700の保証温度は、電力変換装置200に搭載されるその他の部品に比べて低い。フィルムコンデンサセル700の温度が保証温度以上になった場合、フィルムコンデンサセル700の寿命が急激に減少し、平滑用コンデンサとしての機能を満足しない。そのため、直流側導体板をコンデンサモジュール500と分離することにより、上部に配置された直流側導体板からのあおり熱の影響を抑えることができる。
【0046】
また、コンデンサ500はコンデンサセルを収納するケース720を有し、ケース720はバスバーアッセンブリ800の配置方向に向かって突出する位置決めピン730が形成され、
バスバーアッセンブリ800に搭載される絶縁部材802に位置決め用貫通孔805が形成されており、位置決めピン730が位置決め用貫通孔805に挿通されるようになっている。
【0047】
これにより、バスバーアッセンブリ800と、コンデンサ500との相対位置が決まる事により直流側導体板801に形成されるコンデンサ接続部703とコンデンサから出るリード端子701を同じ位置に配置する事が可能となる為、接合信頼性の向上が可能となる。
【実施例2】
【0048】
続いて、第2の実施例に係る電力変換装置の構成について説明する。本実施例において、実施例1と変更される部分は、バスバーアッセンブリ800の構造のみであるので、その他の構成についての説明は省略する。
【0049】
図5(b)は、実施例2に係るバスバーアッセンブリ800の断面を示す模式図である。本実施例においては、第1絶縁部材802aから突出する第1構造部材804aと、第2絶縁部材802bから突出する第2構造部材804bと、が形成される。第1構造部材804aは、当該第1構造部材804aの先端において、第2構造部材804bの先端と当接する当接面を有する。
【0050】
第1構造部材804aは、正極側導体板801aの露出面14の法線方向に、当該露出面14よりも突出して形成される。第2構造部材804bは、負極側導体板801bの露出面15の法線方向に、当該露出面15よりも突出して形成される。第1構造部材804a及び第2構造部材804bは、第1構造部材804aの突出距離と第2構造部材804bの突出距離の和が実施例1で示した導体板距離12となるように、形成される。
【0051】
実施例1のように、第2絶縁部材802bの表面と当接面13が略同一面であった場合、振動や組み付け性の悪化等の原因によって構造部材804aの位置がずれて、当接部材804bとの当接領域をはみ出して樹脂部分に当接してしまうおそれがあった。本実施例のバスバーアッセンブリは、第1絶縁部材802aが凸形状の第1構造部材804aを有するとともに、第2絶縁部材802bが凸形状の第2構造部材804bを有するため、第1構造部材804aと第2構造部材804bの相対位置が振動等によってずれたとしても、第1絶縁部材802aや第2絶縁部材802bに接触することがない。したがって、樹脂材料で形成される第1絶縁部材802aや第2絶縁部材802bの引けを防ぐことができ、導体板間距離を信頼性高く保つことができる。
【0052】
また、本実施例のバスバーアッセンブリ800は、第1構造部材804aおよび第2構造部材804bに貫通孔を設けている。貫通孔が同軸上に存在する為、バスバーアッセンブリ800を主にネジ固定でとめる際に、800a・800bをそれぞれ804に形成された貫通孔により、ネジ固定を行う事が可能となる。したがって、異なる2部品を同時に固定する事が可能となり、組立工数の削減が可能となる。
【実施例3】
【0053】
図5(c)は、実施例3に係るバスバーアッセンブリ800の断面を示す模式図である。実施例2と異なる点は、絶縁シート803に位置決め孔16が形成され、当該位置決め孔16を貫通するように第1構造部材804aあるいは第2構造部材804bが形成されている点である。
【0054】
絶縁シート803は、第1絶縁部材802aあるいは第2絶縁部材802bに固定されない状態では、正極側導体板801aあるいは負極側導体板801bの露出面面内方向において、位置が規定されない。仮に、正極側導体板801aの露出面と負極側導体板801bの露出面の間において絶縁シート803が形成されない領域が存在した場合、その領域において絶縁確保のための必要距離を確保することができず、信頼性を損ねるおそれがある。
【0055】
本実施形態のバスバーアッセンブリ800によれば、絶縁シート803に位置決め孔16が形成されているため、絶縁シート803の面内方向の位置が決まり、組み付け作業性の向上や、振動に対する位置ずれ等を抑制することが可能となる。したがって、正負極間の絶縁性の確保をより向上させることができる。
【実施例4】
【0056】
図5(d)および図5(e)は、正極側導体板801aと負極側導体板801bの間の距離を確保するための他の実施形態を示す図である。本実施形態においては、極側導体板801aと負極側導体板801bの間の距離を確保するための構造部材を、第1絶縁部材802a及び第2絶縁部材802bとは別体の部材としている。
【0057】
図5(d)に示すバスバーアッセンブリ800は、絶縁樹脂製の第1絶縁部材802a及び第2絶縁部材802bに凹部を形成している。凹部は、互いに対向し合うように形成される。凹部には、構造部材806が嵌入される。
【0058】
図5(e)に示すバスバーアッセンブリ800は、T字型の構造部材807を有する。T字型の構造部材807は、第1絶縁部材802a及び第2絶縁部材802bの外周部であって、第1絶縁部材802aと第2絶縁部材802bの間に配置される。
【0059】
図5(d)や図5(e)に示すような構造を用いることによっても、正極側導体板801aと負極側導体板801bの間の距離を確保しても良い。
【0060】
また、上述した実施例は、互いに組み合わせて実施しても良い。
【符号の説明】
【0061】
11:金属製ベース板
12:第1バスバーと第2バスバー間の距離
12a:絶縁物803の厚み
12b:第1バスバーと第2バスバー間の幾何公差を考慮した必要クリアランス
13:当接面
14:第1バスバーの第2バスバーと対向する面
15:第2バスバーの第1バスバーと対向する面
16:位置決め孔
20:回路基板
20a:駆動回路部
20b:制御回路部
200:電力変換装置、
220:ケース
300:パワー半導体モジュール
500:コンデンサモジュール
701:リード端子
703:コンデンサ接続部
704:パワーモジュール接続部
730:位置決めピン
800:バスバーアッセンブリ
801:直流側導体板
802:絶縁部材
803:絶縁シート
804:構造部材
805:交流側導体板
806:構造部材
807:T字型構造部材
808:電流センサ
809:位置決め用貫通孔
810:構造部材固定部
図1
図2(a)】
図2(b)】
図3
図4
図5(a)】
図5(b)】
図5(c)】
図5(d)】
図5(e)】