特許第6222741号(P6222741)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6222741-ポルトランドセメントの品質判定方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222741
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】ポルトランドセメントの品質判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20171023BHJP
   G01N 24/08 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   G01N33/38
   G01N24/08 510L
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-181972(P2014-181972)
(22)【出願日】2014年9月8日
(65)【公開番号】特開2016-57103(P2016-57103A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137970
【弁理士】
【氏名又は名称】三原 康央
(72)【発明者】
【氏名】安藝 朋子
(72)【発明者】
【氏名】久保田 修
(72)【発明者】
【氏名】平尾 宙
【審査官】 赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−263647(JP,A)
【文献】 特開平06−242035(JP,A)
【文献】 特開2001−192256(JP,A)
【文献】 特表平09−510549(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0103119(US,A1)
【文献】 市川牧彦 ほか,セメントの風化と強度発現性について,セメント・コンクリート論文集,1994年,No. 48,58-63
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
G01N 24/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風化したポルトランドセメントの品質判定方法であって、
下記(1)式で算出される風化度(%)が0.3%以下、かつ、
核磁気共鳴のプロトンシグナルの緩和時間が110(ms)以下、
であるポルトランドセメントを強度発現性の低下の小さいポルトランドセメントと判定することを特徴とするポルトランドセメントの品質判定方法。

風化度=500℃までの質量減少率−石膏の脱水による質量減少率 (1)


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポルトランドセメントの品質判定方法に関し、特に風化したポルトランドセメントであっても、強度発現性の低下の小さいポルトランドセメントを選別することができるポルトランドセメントの品質判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポルトランドセメントは、セメント粒子が空気中の湿気と反応して、軽度の水和作用を受け、いわゆる風化が進む。また、生成した水酸化カルシウム等が空気中の炭酸ガスと化合して炭酸カルシウムとなる。一般にセメントが風化すると比重が小さくなって強熱減量が増し、凝結に異常をもたらすほか、強度が低下する。これを防止するために、セメントサイロやセメント包装には、様々な策が施されている。しかし、保存期間、保存条件等の要因で、風化が進行してしまう場合があり、風化したポルトランドセメントの品質、特に強度発現性を判定できる方法が求められている。
【0003】
特許文献1には、セメントの風化状態を容易に判別することができるセメントの品質簡易判別装置が記載されている。しかし、特許文献1に記載の装置だけでは、セメントの風化状態を判別することができたとしても、風化したポルトランドセメントの強度発現性の判定を行うことはできていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−193659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明では、風化したポルトランドセメントであっても強度発現性の低下の小さいポルトランドセメントを判定することができるポルトランドセメントの品質判定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポルトランドセメントの質量減少率から算出される風化度と核磁気共鳴のプロトンシグナルの緩和時間を組み合わせれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]を提供するものである。
[1]風化したポルトランドセメントの品質判定方法であって、
下記(1)式で算出される風化度(%)が0.3%以下、かつ、
核磁気共鳴のプロトンシグナルの緩和時間が110(ms)以下、
であるポルトランドセメントを強度発現性の低下の小さいポルトランドセメントと判定することを特徴とするポルトランドセメントの品質判定方法。
風化度=500℃までの質量減少率−石膏の脱水による質量減少率 (1)
【発明の効果】
【0007】
本発明では、風化したポルトランドセメントであっても強度発現性の低下の小さいポルトランドセメントを、選別し、使用の可否を判定することができるポルトランドセメントの品質判定方法を実現できた。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ポルトランドセメントの熱重量測定(TG)曲線と、該TG曲線の微分曲線(DTG曲線)の1例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明は、風化したポルトランドセメントであっても強度発現性の低下の小さいポルトランドセメントを、選別し、使用の可否を判定する方法である。
ポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントの各種ポルトランドセメントに適用することができる。
なお、本発明において、風化したポルトランドセメントとは、(1)式で算出される風化度が0.15%以上のポルトランドセメントをいう。
【0010】
本発明では、強度発現性の低下の小さいポルトランドセメントを選別する指標として、(1)式で算出される風化度(%)を用いる。本発明において、該風化度は、ポルトランドセメントの500℃までの質量減少率(%)から、石膏による質量減少率(%)を差し引いた値である。
上記ポルトランドセメントの500℃までの質量減少率(%)や、石膏による質量減少率(%)は、熱重量測定(以下、TGと略す)により求めることができる。
風化度=500℃までの質量減少率−石膏の脱水による質量減少率 (1)
【0011】
ポルトランドセメントを熱重量測定すると、例えば、図1に示すようなTG
曲線が得られる。該TG曲線の微分曲線が図1のDTG曲線である。なお、図1は約250℃までのTG曲線である。
上記(1)式における「500℃までの質量減少率」は、500℃まで昇温したTG曲線から算出することができる。
【0012】
図1のDTG曲線における上昇を開始するA点は、二水石膏の脱水の開始を示し、下降が終了するB点は、二水石膏の脱水の終了と半水石膏の脱水の開始を示し、再度の下降終了点C点は、半水石膏の脱水の終了を示す。この間の質量減少ΔW1とΔW2が、それぞれ、二水石膏と半水石膏の脱水による質量減少となるのでΔW1+ΔW2の値から、(1)式における「石膏の脱水による質量減少率」を算出することができる。
なお、上記図1では、ポルトランドセメント中の二水石膏と半水石膏の脱水による質量減少率を分けて測定しているが、本発明では、二水石膏と半水石膏の脱水による質量減少率をまとめて測定しても良い。
風化が進んだポルトランドセメントでは、上記(1)式で算出される風化度(%)が大きくなる。
【0013】
本発明において、風化が進んだポルトランドセメントで、図1におけるA点やC点が判別できない場合は、熱重量測定で求めた500℃までの質量減少率をそのまま(1)式の風化度とすれば良い。
なお、図1におけるA点やC点が判別できないポルトランドセメントは、風化が進んだポルトランドセメントであるので、熱重量測定の結果だけから、強度発現性の低下の大きいポルトランドセメントと判定することは可能である。
【0014】
熱重量測定における昇温速度は、石膏の脱水による質量減少と、その他の水和物や吸着水等の脱水による質量減少を区別するために、30℃/分以下とすることが好ましく、20℃/分以下とすることがより好ましい。
また、石膏の脱水による質量減少と、その他の水和物や吸着水等の脱水による質量減少を区別するために、熱重量測定では、特開平6−242035号公報に記載されている熱分析用試料容器を使用することが好ましい。
【0015】
本発明では、強度発現性の低下の小さいポルトランドセメントを選別する別の指標として、核磁気共鳴のプロトンシグナルの緩和時間(ms)を用いる。
該緩和時間を利用するポルトランドセメントの品質判定の測定原理は、粒子表面に接触または吸着している水と、粒子表面と接触していない自由な状態の水とでは、磁場の変化に対する応答が異なることに基づくものである。
風化が進んだポルトランドセメントでは、該緩和時間が大きくなる。
【0016】
上記緩和時間の測定は、例えば、米国XiGo社製のNMR湿式比表面積測定装置Acorn Area(商標)等で行うことができる。解析ソフトとしては、例えば、Acorn Area ソフトウェアAreaQuant(商標)を使用することができる。
【0017】
本発明においては、
上記(1)式で算出される風化度(%)が0.3%以下、かつ、
核磁気共鳴のプロトンシグナルの緩和時間が110(ms)以下、
であるポルトランドセメントを強度発現性の低下の小さいポルトランドセメントと判定する。
ポルトランドセメントは風化が進むと強度発現性が低下するが、上記風化度と緩和時間を満たすものは、風化したポルトランドセメントであっても、未風化のポルトランドセメントと比べて材齢3〜28日の強度発現性の低下率が10%以下である。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
未風化のポルトランドセメントとして、太平洋セメント社製普通ポルトランドセメントを使用した。
風化したポルトランドセメントは、上記未風化のポルトランドセメントを、タバイ社製恒湿恒温槽を用いて、表1に記載の温度と湿度60%RHの条件で所定時間の処理を行い調製した。
【0019】
【表1】
【0020】
2.風化度の測定
熱重量測定装置として、ブルカー・エイエックスエス社製示差熱天秤/質量分析同時測定装置(TG-DTA/MS9610)を使用して、未風化及び風化したポルトランドセメントの500℃までの質量減少率と、石膏の脱水による質量減少率を測定し、(1)式から風化度(%)を算出した。
なお、昇温速度は20℃/分とした。
結果を表2に示す。
【0021】
3.緩和時間の測定
未風化及び風化したポルトランドセメントの核磁気共鳴のプロトンシグナルの緩和時間(ms)を測定した。
緩和時間測定装置として、NMR 湿式比表面積測定装置 米国XiGo社製NMR測定装置Acorn Area(商標)を使用した。解析ソフトは、Acorn Area ソフトウェアAreaQuant(商標)を用いた。
結果を表2に併記する。
【0022】
4.圧縮強さの測定
未風化及び風化したポルトランドセメントの圧縮強さを「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準じて測定した。
結果を表2に併記する。
【0023】
【表2】
【0024】
表2に示すように、風化度が0.3%以下、かつ、緩和時間が110ms以下である実施例1〜3は、風化したポルトランドセメントであっても、未風化のポルトランドセメント(参考例)と比べて材齢3日、7日及び28日の圧縮強さの低下が10%以下であることが分かる。
一方、例えば、風化度が0.3%以下であるが、緩和時間が110msを越える比較例1では、材齢3日及び7日の圧縮強さの低下が大きいことが分かる。
また、緩和時間が110ms以下であるが、風化度が0.3%を越える比較例2では、材齢3〜28日の圧縮強さの低下が大きいことが分かる。
このように、上記(1)式で算出される風化度が0.3%以下、かつ、核磁気共鳴のプロトンシグナルの緩和時間が110ms以下、であるポルトランドセメントは、風化したポルトランドセメントであっても強度発現性の低下の小さいポルトランドセメントと判定することができる。









図1