(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222742
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】非水電解液電池用正極電極および非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20171023BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20171023BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20171023BHJP
H01M 2/26 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0525
H01M10/0585
H01M2/26 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-516822(P2014-516822)
(86)(22)【出願日】2013年5月22日
(86)【国際出願番号】JP2013064159
(87)【国際公開番号】WO2013176161
(87)【国際公開日】20131128
【審査請求日】2016年4月5日
(31)【優先権主張番号】特願2012-120055(P2012-120055)
(32)【優先日】2012年5月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】310010081
【氏名又は名称】NECエナジーデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091971
【弁理士】
【氏名又は名称】米澤 明
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100088041
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 龍吉
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(72)【発明者】
【氏名】太田 智行
(72)【発明者】
【氏名】浮田 明生
(72)【発明者】
【氏名】阿南 隆由
【審査官】
神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−040878(JP,A)
【文献】
特開2005−174792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13、2/26、10/0525、10/0585
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、前記集電体上に形成した正極活物質の塗布膜と、
前記塗布膜の端部に沿って形成された正極活物質の厚さが変化する不均一領域と、
前記不均一領域および隣接する前記集電体表面の一部に立設された高さ5〜100μm、径が50〜600μmの突起状絶縁体とを有し、
前記不均一領域の表面に立設された突起状絶縁体は、それぞれが独立した突起状絶縁体で形成され、突起状絶縁体の外形を結ぶ領域に対して突起状絶縁体を投影した総面積の割合が20〜70%であり、前記不均一領域の表面を通じた電池反応物質の移動を可能とする低い配置密度で配置されており、前記集電体表面の一部に立設された突起状絶縁体は、突起状絶縁体の外形を結ぶ領域に対して突起状絶縁体を投影した総面積の割合が75〜100%であり、前記不均一領域の表面に立設された突起状絶縁体に比して、高い配置密度で配置されたことを特徴とする非水電解液電池用正極電極。
【請求項2】
前記突起状絶縁体は、正極電極の正極引出タブ表面と隣接する前記不均一領域表面に形成されたことを特徴とする請求項1記載の非水電解液電池用正極電極。
【請求項3】
前記突起状絶縁体は、点状、または帯状に設けたものであることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項記載の非水電解液電池用正極電極。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の正極電極と、前記正極電極よりも面積が大きな負極電極をセパレーターを介して対向して配置されたことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項5】
リチウムイオン電池であることを特徴とする請求項4記載の非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の非水電解液電池用正極、およびそれを用いた非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池では、正極電極と負極電極をセパレーターを介して積層しているので、電極の端部での対極との接触による短絡を防止するために一方の電極の端部に絶縁層を形成することが行われている。しかしながら、短絡防止目的で形成した絶縁層によって充放電時に対極との物質移動経路が少なくなる結果、電池の充放電容量の減少が避けられないと言う問題があった。
そこで、充放電容量の低下を招くことなく短絡防止を実現する提案が行われている。
例えば、巻回型電池に使用する帯状の集電体に形成した電極の長さ方向の両端部に形成される突出部上の部位に貫通ホールを有する絶縁層、すなわち絶縁テープまたは絶縁性被覆を形成することで、貫通ホールを通じた物質の移動を実現して充放電容量の低下を防止することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−40878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電池電極の内部短絡防止を電池の充放電容量を低下させることなく実現するために、特許文献1に記載のように、電極活物質の突出部上の部位に貫通孔を有する絶縁テープを貼り付けた場合には、絶縁テープは貫通ホールの部位を除いてすべての部位が一体の部材に形成されている。このような貫通ホールを有する絶縁テープまたは絶縁層は電池の充放電時の電極活物質の有効利用の目的で利用した場合には、以下の様な問題があった。
【0005】
図7は、電池内部短絡の可能性を減らすために絶縁層を形成するとともに、絶縁層の形成による電池の容量の減少を少なくするリチウムイオン二次電池を説明する図であって、集電体上に電極活物質層形成した電池電極を説明する断面図である。電池短絡防止の目的で貫通孔を有するテープ205を電極活物質層203の塗布端を越えて集電体201まで貼り付けた部材は、一つの層状体として連続しているので絶縁層と基材の電池電極との間の熱膨張率の相違による影響が大きく、図に示すように電池電極の変形を生じさせるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題は、正極集電体と、前記集電体上に形成した正極活物質の塗布膜と、前記塗布膜の端部に沿って形成された正極活物質の厚さが変化する不均一領域と、前記不均一領域および隣接する前記集電体表面の一部に立設された高さ5〜100μm、径が50〜600μmの突起状絶縁体とを有し、前記不均一領域の表面に立設された突起状絶縁体は、それぞれが独立した突起状絶縁体で形成され、突起状絶縁体の外形を結ぶ領域に対して突起状絶縁体を投影した総面積の割合が20〜70%であり、前記不均一領域の表面を通じた電池反応物質の移動を可能とする低い配置密度で配置されており、前記集電体表面の一部に立設された突起状絶縁体は、突起状絶縁体の外形を結ぶ領域に対して突起状絶縁体を投影した総面積の割合が75〜100%であり、前記不均一領域の表面に立設された突起状絶縁体に比して、高い配置密度で配置された非水電解液電池用
正極電極によって解決することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の非水電解液電池用正極は、正極引出タブの部位に設けた絶縁部材として、突起状絶縁体を配置密度を変えて配置したので、温度変化による絶縁性部材の変形はなく対極との短絡を防止するとともに、突起状絶縁体の間を通じた両電極間の物質の移動が実現できるので、安全性が大きく活物質の利用効率が大きな効率的な電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の非水電解液電池用正極の一例を説明する図である。
【
図2】
図2は、本発明の正極電極の他の実施態様を説明する図である。
【
図3】
図3は、本発明で使用可能な突起状絶縁体の一例を説明する図である。
【
図4】
図4は、本発明の正極電極の製造方法を説明する図である。
【
図5】
図5は、本発明の正極電極の切り出し工程を説明する図である
【
図6】
図6は、本発明の正極電極を用いた非水電解液二次電池を説明する図である。
【
図7】
図7は、内部短絡の可能性を減らすとともに、電池の容量の減少を少なくする従来のリチウムイオン二次電池を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の非水電解液電池用正極の一例を説明する図である。
図1Aは、平面図、
図1Bは、
図1のA−A’線で切断した断面図である。また、
図1Cは、
図1Bの正極端子から正極活物質層の一部分を拡大して説明する断面図である。
なお、本発明において、リチウムイオン二次電池を例に挙げて説明するとともに、図面が複雑になるのを避けるために集電体の片面のみに活物質層を設ける図を示して説明しているが、活物質層は、集電体の片面のみに形成する電池電極に限るものではなく、集電体の両面に活物質層を形成したものについてもそれぞれの面に同様の構成で作製することができる。
【0010】
本発明の正極電極100は、正極集電体101の表面に、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物、カーボンブラック等の導電性付与剤、結着剤等を配合したスラリーを塗布、乾燥することで作製した正極電極活物質層103を有している。また、正極集電体101には正極引出タブ102が一体に形成されている。
正極電極活物質層103の形成は、正極集電体101の表面にダイコーター等を使用して塗布することで製造することができるが、塗布端部には
図1Bで示すように傾斜面105が生じる。この領域は、以下の説明では不均一領域107とも称す。
不均一領域107の表面の一部から、正極活物質層の厚みが小さくなる方向へ向けて,正極引出タブ102上まで絶縁部材110が配置されている。
【0011】
絶縁部材110は、不均一領域107表面に、相互の間隔を設けて配置した低密度突起状絶縁体111を配置して構成した低密度領域112と、集電体上に低密度突起状体111に比べて相互の間隔を小さくして突起状絶縁体を配置した高密度突起状絶縁体113を設けた高密度領域115から構成されている。
以上の様に、不均一領域107の表面の少なくとも一部から集電体表面101に向けて、突起状絶縁体の配置密度が小さな低密度領域112を形成することによって、不均一領域での電池反応を充分に活用するとともに、電池反応には寄与しない集電体面には突起状絶縁体を高密度で配置した高密度領域115を設けることで、内部短絡の防止をより確実なものとすることができる。
【0012】
図2は、本発明の正極電極の他の実施態様を説明する図である。
図2Aは、正極電極面を上面から見た平面図を示し、
図2Bは,
図2Aの側面図である。
正極電極集電体101に塗布装置によって正極活物質層103を形成する際には、正極活物質層103の塗布端部に多少の位置ずれ111aが生じることが避けられない。
したがって、位置ずれ111aを考慮して低密度領域111を形成する幅を決めることで、実用的な大きさの低密度領域111を作製することが可能となる。
また、低密度領域111および高密度領域115は、明確な区別を設けることなく、低密度領域111から高密度領域115に向けて徐々に密度が変化するものであってもよい。
【0013】
図3は、本発明で使用可能な突起状絶縁体の一例を説明する図であって,いずれも上面から見た平面図である。
突起状絶縁体の配置密度が小さなA1は低密度突起状絶縁体であって、A2は、A1における、A−A’線の断面図で示す様に乳様突起状絶縁体の一例を示す図である。
B1の突起状絶縁体は、凸条の突起状絶縁体を平行に配列した低密度突起状絶縁体の一例を示す図である。
これに対して、C1は、高密度突起状絶縁体であって、A1で示すものと同様の乳様突起状絶縁体を高密度に配置したものである。
また、D1は、高密度突起状絶縁体であるが、多数の突起状絶縁体を高密度に形成したものである。これらは、作製する電池の大きさ等に応じて適宜使用することができる。
【0014】
本発明における配置密度が低い領域である低密度領域に配置する低密度突起状絶縁体は、突起状絶縁体の高さは5〜100μm、好ましくは5〜60μm、更に好ましくは、5〜40μmである。また、各突起状絶縁体の径は50〜600μm、好ましくは50〜500μmである。また、突起状絶縁体の外形を結ぶ領域に対して突起状絶縁体を投影した総面積の割合が20〜70%、好ましくは30〜60%とすることが好ましい。
また、本発明における配置密度が高い領域である高密度領域に配置する高密度突起状絶縁体は、突起状絶縁体の高さは、5〜100μm、好ましくは5〜60μm、更に好ましくは、5〜40μmである。突起状絶縁体の径は50〜600μm、好ましくは50〜500μmであることが好ましい。また、突起状絶縁体の外形を結ぶ領域に対して突起状絶縁体を投影した総面積の割合が75〜100%、好ましくは80〜100%とすることが好ましい。
【0015】
各突起状絶縁体は、乳様突起に限らず、円錐状、円柱状等の各種の形状のものを用いることができる。また、高さ方向に垂直な面での断面形状は、円形、楕円形等の曲線状とすることが好ましい。突起状絶縁体の中心を通る高さ方向の平面での断面形状は、長方形、放物線等の曲線等の左右に対称な図形で囲まれた形状とすることが好ましい。
【0016】
図4は、本発明の正極電極の製造方法を説明する図である。
図4Aは、正極原反の正極電極面を上面から見た平面図を示し、
図4Bは,
図4Aの側面の一部を拡大した図を示す。
図4Aは、帯状の集電体101の表面に,長手方向の中心線120に対称に所定の配合で調製した正極活物質のスラリーを塗布、乾燥して正極電極活物質層103を形成した正極電極原反108を示す。
正極電極原反108を移動方向121へ移動しながらインクジェット塗布手段130によって硬化性組成物を塗布した後に硬化することで製造することができる。硬化性組成物としては、熱硬化性組成物、紫外線硬化性組成物を用いることができる。
また、本発明では、低密度領域にそれぞれが独立した突起状絶縁体を用いたので、熱による変形を受けにくく、熱硬化性組成物を用いた場合にも特性の優れた正極電極原反を作製することができる。
【0017】
図5は、本発明の正極電極の切り出し工程を説明する図である
図5Aに示すように、集電体101の長手方向の中心線120に対称に、正極活物質層103を塗布した後に、中心線120に対称に長さ方向に所定の幅で低密度突起状絶縁体111、高密度突起状絶縁体113を形成する。
次いで、各単位電極の周囲の切断線135、および中心線120に沿って打ち抜くことで、
図5Bに示す正極電極を効率的に製造することができる。
【0018】
図6は、本発明の正極電極を用いた非水電解液二次電池を説明する図である。
図6Aに示すように、本発明の正極電極100には、正極活物質層から正極引出タブ102が延びる部分の正極活物質層の外縁部には、絶縁性の低密度突起状絶縁体111と絶縁性の高密度突起状絶縁体113が形成されている。
一方、
図6Bに示すように負極電極210は、正極よりも大きな面積を有しているので、
図6Cに示すように正極電極100は、負極電極210と外形が等しい袋状セパレーター400に収納して、
図6Dに示すように負極電極と交互に積層して、固定テープ410によって固定することで電池要素の積層体が完成する。
正極電極100の正極引出タブ102の正極活物質層の外縁部は低密度突起状絶縁体111と高密度突起状絶縁体113によって被覆されているので、万一、セパレーターが収縮した状態になっても正極電極100の正極引出タブ102は、正極電極100よりも面積が大きな負極電極210との短絡を未然に防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の非水電解液電池用正極は、正極引出タブの部位に設けた絶縁性の保護膜として、突起状絶縁体を複数個配置した絶縁性部材を配置したので、対極との短絡を防止するとともに、突起状絶縁体の間を通じた両電極間の物質の移動が実現できるので、安全性が大きく活物質の利用効率が大きな効率的な電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0020】
100・・・正極電極、101・・・正極集電体、102・・・正極引出タブ、103・・・正極電極活物質層、105・・・傾斜面、107・・・不均一領域、108・・・正極電極原反、110・・・絶縁部材、111・・・低密度突起状絶縁体、111a・・・位置ずれ、112・・・低密度領域、113・・・高密度突起状絶縁体、115・・・高密度領域、120・・・長手方向の中心線、121・・・移動方向、・130・・インクジェット塗布手段、135・・・切断線、210・・・負極電極、400・・・袋状セパレーター、410・・・固定テープ