特許第6222746号(P6222746)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222746
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】鞍乗り型車両の自動ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20171023BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20171023BHJP
   B60T 8/172 20060101ALI20171023BHJP
   B60T 8/1766 20060101ALI20171023BHJP
   B62L 3/08 20060101ALI20171023BHJP
   B60T 8/26 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   B60T8/17 Z
   B60T7/12 C
   B60T8/172 B
   B60T8/1766
   B62L3/08
   B60T8/26 H
   B60T8/26 K
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-147573(P2015-147573)
(22)【出願日】2015年7月27日
(65)【公開番号】特開2017-24645(P2017-24645A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2016年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】梶山 径吾
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】戸田 真
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−306863(JP,A)
【文献】 特開2008−230295(JP,A)
【文献】 特開2008−298228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/96
B62L 1/00−5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに独立して作動可能な前後ブレーキ(2,3)と、前記前後ブレーキ(2,3)の作動を制御するブレーキモジュレータ(10)と、を備え、
前記ブレーキモジュレータ(10)は、
自車と前方障害物との衝突可能性を判定する衝突可能性判定手段(19)と、
前記衝突可能性判定手段(19)が衝突可能性有りと判定した場合に前記前後ブレーキ(2,3)の制動力を自動で増加させる自動ブレーキ制御を行う自動ブレーキ制御手段(21)と、
自車の運転者によるブレーキ操作の有無を判定するブレーキ操作判定手段(20)と、を備え、
前記衝突可能性判定手段(19)が衝突可能性有りと判定し、かつ、
前記ブレーキ操作判定手段(20)が運転者によるブレーキ操作が有ると判定した場合に、
前記自動ブレーキ制御手段(21)は、前記運転者による前記前後ブレーキ(2,3)に対する操作の割合に応じて、前記前後ブレーキ(2,3)の制動力の増加のさせ方を変化させることを特徴とする鞍乗り型車両の自動ブレーキ装置。
【請求項2】
前記自動ブレーキ制御手段(21)は、運転者による前記前後ブレーキ(2,3)に対する操作の割合を維持して前記前後ブレーキ(2,3)の制動力を増加させるか、前記操作の割合を維持せず前記前後ブレーキ(2,3)を限界制動状態に至らしめるか、を判定する限界制動要否判定手段(22)を含むことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両の自動ブレーキ装置。
【請求項3】
前記ブレーキモジュレータ(10)は、前記前後ブレーキ(2,3)の一方の制動力の大きさを縦軸、他方の制動力の大きさを横軸とする制動力マップ(M)を記憶するメモリ(16)を備え、
前記制動力マップ(M)には、前記前後ブレーキ(2,3)のロック限界となる制動力を示す限界線(E,C)が記され、
前記自動ブレーキ制御手段(21)は、前記制動力マップ(M)の前記限界線(E,C)に達するように前記前後ブレーキ(2,3)を作動させることを特徴とする請求項1又は2に記載の鞍乗り型車両の自動ブレーキ装置。
【請求項4】
前記ブレーキモジュレータ(10)は、路面摩擦係数を推定する摩擦係数推定手段(17)を備え、
前記限界線(E,C)は、前記路面摩擦係数に応じて複数記され、
前記自動ブレーキ制御手段(21)は、前記路面摩擦係数に応じて前記限界線(E,C)を選定することを特徴とする請求項3に記載の鞍乗り型車両の自動ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗り型車両の自動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自車速度、及び自車と前方障害物との接触を回避するときに設定される目標減速度を、車両の自動ブレーキ制御に利用する車両用自動ブレーキ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−14648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような自動ブレーキ装置を自動二輪等の鞍乗り型車両に適用する場合、前方障害物との接触を回避することの他、自動ブレーキ制御時における運転者の違和感を抑える点も考慮することが望ましい。
【0005】
そこで本発明は、鞍乗り型車両の自動ブレーキ装置において、自動ブレーキ制御時における運転者の違和感を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、互いに独立して作動可能な前後ブレーキ(2,3)と、前記前後ブレーキ(2,3)の作動を制御するブレーキモジュレータ(10)と、を備え、前記ブレーキモジュレータ(10)は、自車と前方障害物との衝突可能性を判定する衝突可能性判定手段(19)と、前記衝突可能性判定手段(19)が衝突可能性有りと判定した場合に前記前後ブレーキ(2,3)の制動力を自動で増加させる自動ブレーキ制御を行う自動ブレーキ制御手段(21)と、自車の運転者によるブレーキ操作の有無を判定するブレーキ操作判定手段(20)と、を備え、前記衝突可能性判定手段(19)が衝突可能性有りと判定し、かつ、前記ブレーキ操作判定手段(20)が運転者によるブレーキ操作が有ると判定した場合に、前記自動ブレーキ制御手段(21)は、前記運転者による前記前後ブレーキ(2,3)に対する操作の割合に応じて、前記前後ブレーキ(2,3)の制動力の増加のさせ方を変化させることを特徴とする。
なお、前記鞍乗り型車両には、運転者が車体を跨いで乗車する車両全般が含まれ、自動二輪車(原動機付自転車及びスクータ型車両を含む)のみならず、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)又は四輪の車両も含まれる。
請求項2に記載した発明は、前記自動ブレーキ制御手段(21)は、運転者による前記前後ブレーキ(2,3)に対する操作の割合を維持して前記前後ブレーキ(2,3)の制動力を増加させるか、前記操作の割合を維持せず前記前後ブレーキ(2,3)を限界制動状態に至らしめるか、を判定する限界制動要否判定手段(22)を含むことを特徴とする。
請求項3に記載した発明は、前記ブレーキモジュレータ(10)は、前記前後ブレーキ(2,3)の一方の制動力の大きさを縦軸、他方の制動力の大きさを横軸とする制動力マップ(M)を記憶するメモリ(16)を備え、前記制動力マップ(M)には、前記前後ブレーキ(2,3)のロック限界となる制動力を示す限界線(E,C)が記され、前記自動ブレーキ制御手段(21)は、前記制動力マップ(M)の前記限界線(E,C)に達するように前記前後ブレーキ(2,3)を作動させることを特徴とする。
請求項4に記載した発明は、前記ブレーキモジュレータ(10)は、路面摩擦係数を推定する摩擦係数推定手段(17)を備え、前記限界線(E,C)は、前記路面摩擦係数に応じて複数記され、前記自動ブレーキ制御手段(21)は、前記路面摩擦係数に応じて前記限界線(E,C)を選定することを特徴とする。

【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載した発明によれば、前後ブレーキによる自動ブレーキを可能としながら、運転者によるブレーキ操作に応じて前後ブレーキの制動力の増加のさせ方を変化させることで、自車の制動に余裕があるときは運転者による前後ブレーキの操作割合を維持して違和感を抑えた自然な自動ブレーキを可能とし、自車の制動に余裕がないときは前記操作割合によらず速やかに限界制動を行う等、運転者によるブレーキ操作に応じて最適な自動ブレーキ制御を行うことができる。
請求項2に記載した発明によれば、限界制動要否判定手段の判定により、前後ブレーキへの操作割合を維持して違和感を抑えた自動ブレーキ制御を行うか、前後ブレーキへの操作割合によらず速やかに前後ブレーキの限界制動を行うか、を切り替えることができる。
請求項3に記載した発明によれば、制御力マップの参照により簡易に自動ブレーキ制御を行うことができる。
請求項4に記載した発明によれば、推定した路面摩擦係数に応じて前後ブレーキの限界制動を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態におけるブレーキ制御装置の構成図である。
図2】上記ブレーキ制御装置のメモリが記憶する制動力マップである。
図3】上記ブレーキ制御装置の処理を示すフローチャートである。
図4図3中の自動ブレーキ制御の処理を示すフローチャートである。
図5図4でブレーキ操作無しとの判定時に前後ブレーキの制動力を増加させる際の説明図である。
図6図4でブレーキ操作有りとの判定時に前後ブレーキの制動力を増加させる際の第一例の説明図である。
図7図4でブレーキ操作有りとの判定時に前後ブレーキの制動力を増加させる際の第二例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態のブレーキ制御装置1は、例えば前後輪を備える自動二輪車等の鞍乗り型車両に適用される。
【0010】
ブレーキ制御装置1は、相互に独立して設けられる前後ブレーキ2,3を備える。
前ブレーキ2は、鞍乗り型車両の前輪に一体回転可能に取り付けられる前ブレーキディスク4と、液圧(油圧)の供給を受けて前ブレーキディスク4を挟圧する前ブレーキキャリパ6と、を備えて油圧ディスクブレーキとして構成される。
後ブレーキ3は、鞍乗り型車両の後輪に一体回転可能に取り付けられる後ブレーキディスク5と、液圧(油圧)の供給を受けて後ブレーキディスク5を挟圧する後ブレーキキャリパ7と、を備えて油圧ディスクブレーキとして構成される。
【0011】
ブレーキ制御装置1は、相互に独立して設けられる前後マスターシリンダ8,9を備える。
前マスターシリンダ8は、ブレーキレバー等の前ブレーキ操作子8aが連結され、この前ブレーキ操作子8aの操作に応じて液圧(油圧)を発生させる。
後マスターシリンダ9は、ブレーキペダル等の後ブレーキ操作子9aが連結され、この後ブレーキ操作子9aの操作に応じて液圧(油圧)を発生させる。
【0012】
ブレーキ制御装置1は、前後マスターシリンダ8,9と前後ブレーキキャリパ6,7との間にブレーキモジュレータ10を介設する。ブレーキ制御装置1は、前後マスターシリンダ8,9と前後ブレーキキャリパ6,7とを電気的に連係させる所謂バイワイヤ式のブレーキシステムを構成する。
ブレーキモジュレータ10は、油圧経路を切り替え可能でかつポンプ等の油圧発生手段11aを有する油圧回路部11と、油圧回路部11の作動を制御するECU(Electronic Control Unit)12と、を備える。
【0013】
前後マスターシリンダ8,9と前後ブレーキキャリパ6,7とは、油圧回路部11を介して連結される。油圧回路部11は、通常時は前後マスターシリンダ8,9と前後ブレーキキャリパ6,7との連通を遮断し、前後マスターシリンダ8,9の発生油圧に応じた油圧を油圧発生手段11aに発生させる。ブレーキモジュレータ10は、油圧回路部11が発生した油圧を前後ブレーキキャリパ6,7に適宜供給することで、前後ブレーキ2,3に制動力を発生させる。例えば油圧回路部11のフェール時には、前後マスターシリンダ8,9の発生油圧を前後ブレーキキャリパ6,7に供給可能とされる。
【0014】
ブレーキモジュレータ10は、運転者による前後ブレーキ操作子8a,9aの操作とは別に、車両情報を含む各種情報に基づく自動ブレーキ制御を行うことによって、前後ブレーキ2,3に適宜制動力を発生可能とされる。
ECU12には、前後ブレーキ操作子8a,9aの操作量の検出情報、後述の外界認識手段13の検出情報、及び前後輪の車輪速センサ14,15の検出情報が入力される。
【0015】
ブレーキモジュレータ10は、前後ブレーキ操作子8a,9aの操作量に応じた油圧を油圧回路部11の油圧発生手段11aに発生させて、この油圧を前後ブレーキキャリパ6,7に供給することで、前後ブレーキ2,3に制動力を発生させるとともに、前後ブレーキ操作子8a,9aの操作量に依存しない自動ブレーキ制御を行うことが可能である。
【0016】
外界認識手段13は、例えば鞍乗り型車両の前端部に設置されるレーダ装置を備える。レーダ装置は、ミリ波等の電磁波を所定の制御周期で車両前方に向けて発射するとともに、その反射波を受信する。ECU12は、レーダ装置におけるミリ波の送受信状態に基づいて、車両前方に障害物(他車含む)があるか否かを判定するとともに、前記障害物がある場合には、該障害物との相対的な距離及び速度を算出する。以下、前記障害物を前方障害物という。
なお、外界認識手段13は、レーダ装置の他、カメラを用いてもよく、かつレーダ装置の送受信情報とカメラの撮像情報とを組み合わせた構成でもよい。
【0017】
ECU12は、ハードウェアとして中央演算装置、メモリ及び入出力インターフェース(メモリのみ符号16で示す)を有するマイクロコンピュータで構成される。ECU12は、各種のセンサ又はスイッチの検出信号、及び外界認識情報等に応じて、各種の制御処理を実行する。ECU12は、メモリ16に記憶されているプログラムに基づき前後ブレーキ2,3の作動を制御することで、アンチロックブレーキ制御(ABS制御)及び後述の自動ブレーキ制御等を実行する。
【0018】
ECU12は、路面摩擦係数を推定する処理を行う摩擦係数推定部17を有する。路面摩擦係数の推定は、前後輪の車輪速の相違に応じて摩擦係数を算出することでなされる。前後輪の車輪速の相違には、例えば駆動輪である後輪と従動輪である前輪との車輪速の差分、又はブレーキモジュレータ10の瞬間的な作動による前後輪の車輪速の差分等が用いられる。
【0019】
ECU12のメモリ16には、前後輪の制動力マップMが記憶される。
図2に示すように、制動力マップMは、例えば縦軸を後ブレーキ3の制動力、横軸を前ブレーキ2の制動力とする。制動力マップM中、曲線Aは、前後ブレーキ2,3の制動力の理想的な増加曲線を示す。曲線Aの図中右端Zは、前後ブレーキ2,3の組み合わせにより鞍乗り型車両に最大の減速度を発生させる前後制動限界点であり、これ以上制動力を増加させると前後輪の少なくとも一方にロックを発生させる前後ロック限界点である。
【0020】
また、縦軸上における点Bは、後ブレーキ3のみを作動させた際の後輪制動限界点であり、これ以上後輪制動力を増加させると後輪にロックを発生させる後ロック限界点である。また、後ロック限界点Bから前後ロック限界点Zに至る直線Cは、後ブレーキ3のロック限界となる制動力を示す後ブレーキ限界線である。
【0021】
また、横軸上における点Dは、前ブレーキ2のみを作動させた際の前輪制動限界点であり、これ以上前輪制動力を増加させると前輪にロックを発生させる前ロック限界点である。また、前ロック限界点Dから前後ロック限界点Zに至る直線Eは、前ブレーキ2のロック限界となる制動力を示す前ブレーキ限界線である。
【0022】
制動力マップM中、前後ブレーキ限界線E,Cにより画定される領域Fは、前後ブレーキ2,3による前後輪のロックを回避可能な非ロック領域として設定される。
前後ブレーキ限界線E,Cは、路面摩擦係数に応じて複数設定される。自動ブレーキ制御で用いる前後ブレーキ限界線E,Cは、摩擦係数推定部17により推定される路面摩擦係数に応じて選定される。
【0023】
制動力マップMにおいて、例えば推定される路面摩擦係数を安全率(例えば1.2等)で除した程度に小さい路面摩擦係数を算出し、この程度に小さい路面摩擦係数に対応する前後ブレーキ限界線E’,C’により画定される領域Gは、後述の衝突可能性判定で用いられる衝突可能性判定領域として設定される。前後ブレーキ限界線E’,C’は曲線A上の交点Z’で交わる。交点Z’は衝突可能性判定領域Gの上限の制動力に相当する。
【0024】
ECU12は、前後ブレーキ操作子8a,9aからの入力に応じて前後ブレーキ2,3を作動させる通常ブレーキ制御を実行するとともに、ブレーキによる前後輪のロックを回避するアンチロックブレーキ制御等を実行するブレーキ制御部18を備える他、外界認識手段13及び前後車輪速センサ14,15の検出情報に基づき前方障害物に対する鞍乗り型車両の衝突の可能性を判定する衝突可能性判定部19と、鞍乗り型車両の運転者によるブレーキ操作の有無及び操作量等の状況を判定するブレーキ操作判定部20と、衝突可能性判定部19が衝突可能性有りと判定した場合に前記ブレーキ操作の状況に応じて通常ブレーキ制御よりも強く前後ブレーキ2,3を作動させる(前後ブレーキ2,3の制動力を自動で増加させる)自動ブレーキ制御を行う自動ブレーキ制御部21と、を備える。
【0025】
以下、図3図4を参照し、本実施形態のECU12でなされる処理について説明する。この処理は、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0026】
図3に示すように、まず、ステップS1において、衝突可能性判定部19が前方障害物に対する鞍乗り型車両の衝突の可能性を判定する。具体的に、衝突可能性判定部19は、外界認識手段13の検出値に基づき、前方障害物の有無及び前方障害物と鞍乗り型車両との距離及び相対速度等の情報を得るとともに、車輪速センサ14,15の検出値に基づき、鞍乗り型車両の車速を算出する。
【0027】
図2を併せて参照し、衝突可能性判定部19は、算出した車速の鞍乗り型車両に前記制動力マップMの衝突可能性判定領域Gの上限(例えば交点Z’)の制動力が作用しても前方障害物との衝突の可能性があるか否かを判定する。
ステップS1の判定がNO(衝突可能性無)のときは、そのまま本処理を終了する。ステップS1の判定がYES(衝突可能性有)のときは、ステップS2に進み、自動ブレーキ制御部21が以降に説明する自動ブレーキ制御を実行する。
【0028】
図4に示すように、自動ブレーキ制御部21は、まず、前後ブレーキ操作子8a,9aに付設された不図示のブレーキ操作検出手段の検出情報に基づき、ブレーキ操作の有無を判定する(ステップS3)。ステップS3の判定がNO(ブレーキ操作無し)のときは、ステップS4に進み、ステップS3の判定がYES(ブレーキ操作有り)のときは、後述するステップS11に進む。
【0029】
ステップS4では、自動ブレーキ制御部21は、自動ブレーキ制御として、まず、後ブレーキ3のみを作動させて後輪制動力を発生させる。
ここで、ブレーキ操作が無い状態において、自動ブレーキ制御として前ブレーキ2を作動させて前輪制動力を発生させると、鞍乗り型車両に比較的大きなピッチング(ノーズダイブ)が発生し易く、運転者の意図しない姿勢の乱れに繋がり易い。
これに対し、本実施形態では、まず後ブレーキ3のみを作動させて後輪制動力を発生させるので、鞍乗り型車両のピッチングの発生が抑えられ、かつ運転者に減速感を与えることで、運転者の姿勢の乱れが抑制される。
【0030】
ステップS4と併せて、ステップS5では、自動ブレーキ制御部21は、摩擦係数推定部17から路面摩擦係数の推定値を読み込む。同時に、自動ブレーキ制御部21は、制動力マップMにおける前後ブレーキ2,3毎の複数の限界線E,Cの中から、路面摩擦係数の推定値に応じた限界線を選定する。
【0031】
その後、ステップS6では、自動ブレーキ制御部21は、選定した後ブレーキ3の限界線Cに達するまで後輪制動力を増加させるとともに(図5中矢印Y1参照)、選定した限界線Cに達するまで後輪制動力が増加したか否かを判定する。ステップS6の判定がNO(後輪制動力が限界線Cに未達)のときは、本処理を一旦終了する。ステップS6の判定がYES(後輪制動力が限界線Cに到達)のときは、ステップS7に進み、選定した後ブレーキ3の限界線Cに沿うように前ブレーキ2も併用して制動を行う。
【0032】
ステップS7では、自動ブレーキ制御部21は、制動力マップMの後ブレーキ3の限界線Cに沿うように、すなわち後ブレーキ3のロック限界作動状態を維持しながら、前ブレーキ2を併せて作動させる(図5中矢印Y2参照)。
前ブレーキ2の作動により前輪制動力が発生すると、車体のピッチングにより鞍乗り型車両の荷重移動が生じ、後ブレーキ3のロック限界となる制動力は減少する。このため、後ブレーキ3の最大制動力は前ブレーキ2の制動力が増加するほど漸次減少するが、前後ブレーキ2,3の制動力を合算した車両全体の制動力(減速度)は増加する。
【0033】
次いで、ステップS8では、自動ブレーキ制御部21は、前後ブレーキ2,3の限界線E,Cの交点である前後ロック限界点Zに前後ブレーキ2,3の制動力が達するまで、前ブレーキ2の制動力を増加させる。そして、前後輪の制動力が前後ロック限界点Zに到達したときは、この状態(前後ブレーキ2,3の限界制動状態)を維持したまま、前後ブレーキ2,3の制動力を増加させる制御を終了する。
なお、前後ブレーキ2,3の限界制動状態の解除は、例えば車速が0の停車状態になること、あるいは前方障害物が消失すること、等のリセット条件によってなされる。
【0034】
一方、ステップS3でブレーキ操作有りと判定されたとき、ステップS11では、自動ブレーキ制御部21は、ブレーキ操作判定部20から運転者による前後ブレーキ2,3に対する操作の割合を読み込む。具体的に、自動ブレーキ制御部21は、制動力マップM上における現状のブレーキ操作位置(図6中点P1又はP2参照)での前後操作割合を読み込む。
また、ステップS11と併せて、ステップS12では、自動ブレーキ制御部21は、摩擦係数推定部17から路面摩擦係数の推定値を読み込む。同時に、自動ブレーキ制御部21は、制動力マップMにおける前後ブレーキ2,3毎の複数の限界線E,Cの中から、路面摩擦係数の推定値に応じた限界線を選定する。
【0035】
その後、ステップS13では、自動ブレーキ制御部21は、運転者による前後ブレーキ2,3に対する操作の割合を維持して前後ブレーキ2,3の制動力を増加させるか(図6中矢印Y3参照)、前記操作の割合を維持せず前後ブレーキ2,3を最短で前記限界制動状態に至らしめるか(図7中矢印Y4参照)、を判定する。この判定は、前記操作の割合を維持した制動力で前方障害物への衝突可能性を解消できるか否かでなされる。自動ブレーキ制御部21は、前記判定を行う限界制動要否判定部22を含むといえる。
【0036】
ステップS13の判定がNO(前後ブレーキ2,3への操作の割合を維持して制動力を増加させる)のとき、ステップS14において、前後ブレーキ2,3への操作の割合を維持した上で、前後ブレーキ2,3の制動力の少なくとも一方を前記制動力マップMの限界線E,Cに至らしめる(限界線E,C上の点P1’又はP2’に至らしめる)。
このように、運転者による前後ブレーキ2,3への操作の割合を維持して前後ブレーキ2,3の制動力を増加させることで、運転者が感じる違和感を抑えながら自動ブレーキ制御を行うことができる。
【0037】
ステップS14の判定がYES(前後ブレーキ2,3への操作の割合を維持せず限界制動力まで増加させる)のとき、ステップS15において、前後ブレーキ2,3への操作の割合によらず、前後ブレーキ2,3の制動力を前記前後ロック限界点Zまで最短で至らしめる。
このように、運転者による前後ブレーキ2,3への操作の割合によらず、速やかに前後ブレーキ2,3の制動力を前後ロック限界点Zまで至らしめることで、鞍乗り型車両の衝突可能性をより確実に解消することができる。
【0038】
以上説明したように、上記実施形態におけるブレーキ制御装置1は、互いに独立して作動可能な前後ブレーキ2,3と、前記前後ブレーキ2,3の作動を制御するブレーキモジュレータ10と、を備え、前記ブレーキモジュレータ10は、自車と前方障害物との衝突可能性を判定する衝突可能性判定部19と、前記衝突可能性判定部19が衝突可能性有りと判定した場合に前記前後ブレーキ2,3の制動力を自動で増加させる自動ブレーキ制御を行う自動ブレーキ制御部21と、自車の運転者によるブレーキ操作の有無を判定するブレーキ操作判定部20と、を備え、前記衝突可能性判定部19が衝突可能性有りと判定し、かつ、前記ブレーキ操作判定部20が運転者によるブレーキ操作が無いと判定した場合に、前記自動ブレーキ制御部21は、まず前記後ブレーキ3のみを作動させて後輪制動力を発生させ、その後に前記前ブレーキ2を併せて作動させて前輪制動力を発生させる。
この構成によれば、前後ブレーキ2,3による自動ブレーキを可能としながら、自動ブレーキ開始時には後ブレーキ3のみを作動させることで、自車のピッチングを抑えるとともに運転者に減速感を与え、運転者の意図しない姿勢の乱れを抑えることができる。
【0039】
また、上記ブレーキ制御装置1は、前記衝突可能性判定部19により衝突可能性有りと判定され、かつ、前記ブレーキ操作判定部20により運転者によるブレーキ操作が無いと判定された場合に、前記自動ブレーキ制御部21は、まず前記後ブレーキ3のみをロック限界まで作動させ、その後、前記後ブレーキ3のロック限界作動状態を維持しながら、前記前ブレーキ2を併せて作動させるので、後ブレーキ3の制動力を最大限利用した自動ブレーキ制御を行うことができる。
【0040】
また、上記ブレーキ制御装置1は、前記ブレーキモジュレータ10は、前記前後ブレーキ2,3の一方の制動力の大きさを縦軸、他方の制動力の大きさを横軸とする制動力マップMを記憶するメモリ16を備え、前記制動力マップMには、前記前後ブレーキ2,3のロック限界となる制動力を示す限界線E,Cが記され、前記自動ブレーキ制御部21は、前記制動力マップMの後ブレーキ3の限界線Cに沿うように前記後ブレーキ3を作動させるので、制御力マップの参照により簡易に自動ブレーキ制御を行うことができる。
【0041】
また、上記ブレーキ制御装置1は、前記ブレーキモジュレータ10は、路面摩擦係数を推定する摩擦係数推定部17を備え、前記限界線E,Cは、前記路面摩擦係数に応じて複数記され、前記自動ブレーキ制御部21は、前記路面摩擦係数に応じて前記限界線E,Cを選定するので、推定した路面摩擦係数に応じて前後ブレーキ2,3の限界制動を行うことができる。
【0042】
一方、上記ブレーキ制御装置1は、前記衝突可能性判定部19が衝突可能性有りと判定し、かつ、前記ブレーキ操作判定部20が運転者によるブレーキ操作が有ると判定した場合に、前記自動ブレーキ制御部21は、前記運転者によるブレーキ操作に応じて、前記前後ブレーキ2,3の制動力の増加のさせ方を変化させる。
この構成によれば、前後ブレーキ2,3による自動ブレーキを可能としながら、運転者によるブレーキ操作に応じて前後ブレーキ2,3の制動力の増加のさせ方を変化させることで、自車の制動に余裕があるときは運転者による前後ブレーキ2,3の操作割合を維持して違和感を抑えた自然な自動ブレーキを可能とし、自車の制動に余裕がないときは前記操作割合によらず速やかに限界制動を行う等、運転者によるブレーキ操作に応じて最適な自動ブレーキ制御を行うことができる。
【0043】
また、上記ブレーキ制御装置1は、前記自動ブレーキ制御部21は、運転者による前記前後ブレーキ2,3に対する操作の割合を維持して前記前後ブレーキ2,3の制動力を増加させるか、前記操作の割合を維持せず前記前後ブレーキ2,3を限界制動状態に至らしめるか、を判定する限界制動要否判定部22を含むので、限界制動要否判定部22の判定により、前後ブレーキ2,3への操作割合を維持して違和感を抑えた自動ブレーキ制御を行うか、前後ブレーキ2,3への操作割合によらず速やかに前後ブレーキ2,3の限界制動を行うか、を切り替えることができる。
【0044】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、運転者に衝突可能性を告知する視覚、聴覚及び触覚等に対する警報装置を備えてもよい。
前記鞍乗り型車両には、運転者が車体を跨いで乗車する車両全般が含まれ、自動二輪車(原動機付自転車及びスクータ型車両を含む)のみならず、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)又は四輪の車両も含まれる。
そして、上記実施形態における構成は本発明の一例であり、実施形態の構成要素を周知の構成要素に置き換える等、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 ブレーキ制御装置
2 前ブレーキ
3 後ブレーキ
10 ブレーキモジュレータ
16 メモリ
17 摩擦係数推定部(摩擦係数推定手段)
19 衝突可能性判定部(衝突可能性判定手段)
20 ブレーキ操作判定部(ブレーキ操作判定手段)
21 自動ブレーキ制御部(自動ブレーキ制御手段)
22 限界制動要否判定部(限界制動要否判定手段)
M 制動力マップ
C,E 限界線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7