【氏名又は名称原語表記】FUNDACION CENTRO NACIONAL DE INVESTIGACIONES ONCOLOGICAS CARLOS III
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
メラノーマは、発生率がますます増加し、進行期では極めて予後が悪い固形癌の原型であり続けている(Jemalら、2008(非特許文献1))。メラノーマの化学耐性及び免疫耐性の背後にある分子決定因子の同定に相当な努力が注がれてきた。米国食品医薬品局(FDA)によって転移性メラノーマの治療用に承認された唯一の薬剤は、アルキル化剤のデカルバジン(DTIC)と免疫調節物質のIL−2である(Tawbi及びKirkwood、2007(非特許文献2))。しかし、転移性メラノーマにおける持続的でかつ完全な応答が5%を超える患者の利益になることは稀であり、副次的な毒性は重篤である可能性がある。その結果として、転移性メラノーマ患者の現在の平均生存期間は6〜10カ月であり、そのため、改善された治療の開発は、この疾患において優先すべき事項である(Jemalら、2007)。
【0004】
pIC(ポリイノシン−ポリシチジル酸)と呼ばれるウイルスdsRNA合成類似体は、インターフェロン(IFN)とは独立に免疫系を刺激するために40年以上にわたって使用されている化合物であるが(Fieldら、1967(非特許文献3))、これは、当初、メラノーマに対する有望な治療剤であると考えられた。残念なことに、裸のpICを用いた臨床試験により、その低い安定性、低いIFN誘導及びメラノーマに対する抗腫瘍効果の欠如が明らかになった(Robinsonら、1976(非特許文献4))。したがって、pICは、単剤としては、メラノーマに対する不良な薬剤とみなされた。
【0005】
ハイスループットな組織学的解析及び体系的な機能研究により、メラノーマのイニシエーション及び進行ならびに治療失敗と関連するその複雑な機構について、我々の理解は顕著に深まった(Fecherら、2007(非特許文献5);Gray−Schopferら、2007(非特許文献6))。BRAF/MAPK;PI3K/AKT、NF−κBまたはNOTCHシグナル伝達カスケードにおける共通した欠陥及び変化が同定されつつあり、合理的な薬物設計のための素晴らしいプラットフォームが提供されている(Gray−Schopferら、2007(非特許文献6))。しかしながら、標的治療は、メラノーマの治験で効果があることがまだ証明されていない(Flaherty、2006)。ミトコンドリアによって及び/または小胞体によって制御される死のプログラムも評価されているが、インビボではいつも効果がない(Hersey及びZhang、2008(非特許文献8))。その結果として、現在の抗癌剤は、生産性の高い様式ではその標的に到達しないか、または正常な細胞コンパートメントに対して耐え難い毒性をもたらす投与スケジュールで投与しなければならないかのどちらかである(Tawbi及びKirkwood、2007(非特許文献2))。重要なのは、治療中に代償機構が活性化されて、さらにより高い化学療法耐性を有する細胞集団が選択され得ることである(Levら、2004(非特許文献9);Schattonら、2008(非特許文献10);Wolterら、2007(非特許文献11))。
【0006】
実際、メラノーマは、様々な経路を通じてアポトーシスから逃れる強い能力を有すると考えられており、これらの経路によって、進行し、転移を形成し、かつ様々な療法による治療から生き残る能力がメラノーマに与えられている(Ivanovら、2003(非特許文献12)によって概説されている)。
【0007】
主に「内部」から(すなわち、内在性の細胞死のプログラムを活性化することによって)腫瘍細胞を死滅させることを目的とする標準的な化学療法とは対照的に、免疫療法は、従来、細胞−細胞相互作用の間接的なカスケードを必要としてきた。メラノーマにおいて、ほとんどの努力は、2つのコンパートメント、すなわち、抗原提示細胞と細胞傷害性T細胞のレベルまたは機能的効力を高めることに注がれてきた(Wilcox及びMarkovic、2007(非特許文献13))。抑制性免疫調節物質(例えば、CTL4)に対するワクチン及び抗体も試験中であるが、フェーズIV臨床試験では失望させるような結果が出ている(Kirkwoodら、2008(非特許文献14))。最近では、ナチュラルキラー(NK)、樹状細胞(DC)及びT細胞によるメラノーマ細胞の細胞傷害性破壊を支持するために、Toll様受容体(TLR)−3、−4、−7及び9の活性化による自然免疫系の刺激が追求されている(Kirkwoodら、2008(非特許文献14)、及びTormoら、2007)。
しかしながら、本発明者ら自身の研究を含む複数の研究から、免疫反応性表面マーカーを下方調節する(編集する)ことによって免疫学的療法を回避する細胞の先天的な能力が証明された。メラノーマもまた、宿主に対する抑制的効果(例えば、抗原提示細胞の成熟の阻害または完全なT細胞活性化の阻止)を発揮することができる(Tormoら、2006(非特許文献15);Ilkovitch及びLopez、2008(非特許文献16);Vermaら、2008(非特許文献17))。したがって、メラノーマは、免疫調節物質の抗腫瘍活性を回避する遺伝的能力を示す。
【0008】
免疫療法の分野において、その増加がメラノーマ治療のための潜在的なプラスの因子として研究されている分子の1つは、もともとはメラノーマ分化と関連する遺伝子として記載された産物であるMDA−5(メラノーマ分化関連遺伝子5)である(Kangら、2002(非特許文献18))。MDA−5は、長い二本鎖RNA(dsRNA)を認識し、それによって活性化されるヘリカーゼである(Yoneyamaら、2005(非特許文献19))。他のRNAヘリカーゼは、短いdsRNAの裸の3つのリン酸エステルを認識するRIG−1(レチノイン酸誘導性タンパク質1、別名Dsx58)、及びdsRNAセンシングにおける負の調節因子であるLGP2(別名Dhx58)である。
【0009】
長いdsRNAは、ウイルス感染によって及びウイルス感染時に生成され得るので、MDA−5は、ウイルス病原体に対する自然免疫の最前線の機能を果たす(Akiraら、2006(非特許文献20))。さらに、MDA−5は、カスパーゼ活性化動員ドメイン(CARD)を有する。つまり、ヘリカーゼドメイン及びCARDドメインは、NF−κB及びサイトカイン調節に関与する他の転写因子を活性化する(Kawaiら、2005(非特許文献21))。このように、MDA−5の最もよく知られた機能は免疫刺激である。
【0010】
治療予測から、IFN−βとdsRNAは両方とも、Mda−5遺伝子の転写を誘導することが知られている。そのため、dsRNAは、IFN誘導性の増殖阻害におけるMda−5発現の増加に役割を果たすことが提唱されている。さらに、IFN−βによる内在性MDA−5の誘導が、細胞増殖抑制性である(言い換えれば、細胞周期を停止させる)ことが示されている(Kangら、2002(非特許文献18))。したがって、腫瘍細胞死を活性化するためには、MDA−5を高レベルで異所性に過剰発現させなければならなかった(Kovacsovicsら、2002(非特許文献22))。さらに、こうしたMDA−5の異所発現のアポトーシス促進活性は、メラノーマの場合と同じく(Chinら、2006(非特許文献23))、非常に活発なRAS/MEK/ERK経路を有する腫瘍細胞では効果がない(Linら、2006(非特許文献24))。したがって、この分野における懸案は、(正常細胞における副次的な毒性を誘導することなく)腫瘍コンパートメントにだけ限定された様式で、化学療法剤を用いて、いかにして内在性MDA−5を活性化するかということであった。
【0011】
米国特許出願第2007/0259372号(特許文献1)では、MDA−5の発現を増強することができる化合物によるIFN−β、IFN−αまたはIFN−γのアゴニストまたはアンタゴニストの同定が提案されている。特許文献1は、(そのプロモーターによる)Mda−5遺伝子発現の誘導物質は、腫瘍細胞の最終分化の誘導のための候補化合物とみなすことができることも示唆している。特許文献1は、そのCARDドメインを通じたアポトーシスシグナルの生成におけるMDA−5の考えられる役割も示唆している。
しかしながら、これまでのところ、どれがアポトーシスを誘発することができるMDA−5の標的であるのかということ、及び腫瘍細胞について追跡可能でかつ選択的な方法で、いかにしてそれを活性化するのかということが知られていなかった。さらに、メラノーマ細胞は、(MDA−5を阻害する)活発なRAS/MEK/ERK活性経路、及びアポトーシスによる細胞死を回避する際立った能力を有するので、MDA−5によって仲介されるアポトーシスシグナルが、メラノーマに対する治療のための有効な機構であることが明らかでなかった。そのため、MDA−5の調節と機能に関するこれまでの情報から、このタンパク質は、メラノーマに対する治療剤の候補を同定する手順のための強力な標的として現われなかった。
【0012】
オートファジーは、癌細胞の内在性の死の機構を働かせるための代替戦略として浮上している。
【0013】
この過程は、後のリソソームによる分解のために細胞質構成要素の隔離を最終的にもたらす一連の複雑な事象を含む(Xie及びKlionsky、2007(非特許文献25))。オートリソソームに送達されるカーゴの飲込みの機構及びこのようなカーゴの性質によって、オートファジーの複数の機構が記載されている。抗癌治療との関連で、マクロオートファジー、すなわち、細胞オルガネラ及びタンパク質凝集物の大量分解は、重要なオルガネラ(例えば、小胞体またはミトコンドリア)の機能障害または過剰喪失によって細胞の生存を危うくするその潜在能力のために関心が高まっている(Hoyer−Hansen、2008(非特許文献26))。
【0014】
しかしながら、オートファジーがどのように調節されているのかは不明であり、その治療的潜在能力は、明瞭でも単純でもない(Hippertら、2006(非特許文献27))。他方、マクロオートファジー(以下、本発明者らは単に「オートファジー」と称することにする)は、抗癌剤を含む、多種多様な攻撃性の細胞内及び細胞外シグナルに対して細胞を保護する顕著な潜在能力を示している。この活性により、オートファジーは、腫瘍の発達を促進することができる(Mizushimaら、2008(非特許文献28);Kroemer及びLevine、2008(非特許文献29))。
【0015】
逆説的に、オートファジーは、細胞死とも関連付けられている(Kromerら、2009(非特許文献30))。したがって、過剰なまたは持続的なオートファジーは、重要なオルガネラ(すなわち、小胞体またはミトコンドリア)の喪失による細胞の死滅、生存シグナルの再構築、リソソーム酵素の脱調節、及び/またはカスパーゼ依存的アポトーシスプログラムの活性化を促進することができる(Xie及びKlionsky、2007(非特許文献25))。
【0016】
その結果として、オートファジーが、治療応答を改善する代わりに、メラノーマの化学及び免疫耐性を悪化させるか否かが明瞭でなかった。さらに、哺乳動物細胞で最新に記載されている20を超えるオートファジー遺伝子の中に、メラノーマで詳細に特徴付けされているものはない。そのため、治療的介入のための新しい窓を開く、メラノーマ及び正常細胞における異なる様式でのオートファジーの調節の有無は不明である。同様の状況は、侵襲性の癌(例えば、膵臓、膀胱、前立腺及び脳を侵す癌)に当てはまる。
【0017】
こうした状況で、既に承認され、特に、免疫不全患者の治療に有効な治療剤に代わる、癌を治療するための治療剤の同定が残されている。また、新しい治療標的候補を同定して、これらの標的に作用することができる化合物の中から癌を治療するための候補治療剤を同定するための手順を開発する必要も残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第2007/0259372号
【非特許文献】
【0019】
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【非特許文献33】Alonso et al.,2007
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【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上述の両方の問題の解決法を提示することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上に言及したように、本発明はまず、(これらの治療標的、マーカーまたはパラメータに作用することができる化合物の中からの)癌を治療することができる化合物の同定に有用なプロセスの開発の基礎を定める、治療標的、マーカー、またはパラメータの同定に重点を置いている。
【0022】
癌を治療することができる化合物の同定に有用であり、本発明で同定されるマーカーの1つは、ファミリーヘリカーゼMDA−5の活性化のレベルである。このパラメータは、ヘリカーゼドメインとカスパーゼドメインの分離をもたらすタンパク質のタンパク質分解的切断の存在を調べることによって決定することができ、癌を治療するための治療剤となるべき候補化合物は、タンパク質分解的切断をもたらすはずである。このタンパク質分解的切断は、それが癌細胞の死をもたらすオートファジー機構やアポトーシス機構の活性化を引き起こすことができることの表れである。この試験の考えられる方法は、細胞培養物のタンパク質抽出物のイムノブロッティング(ウェスタンブロッティング)ならびに全タンパク質に対応するシグナルバンドとヘリカーゼドメイン及びカスパーゼドメインに対応する断片の検討である。具体的には、実施例3に示すように、30kDのバンドの出現が、タンパク質分解的切断の存在を示すものである。あるいは、それは、MDA−5の他のヘリカーゼファミリー(例えば、RIG−IまたはLGP2)の活性化を決定することもできる。
【0023】
癌を治療することができる化合物の同定に同じく有用であり、本発明で同定される別のマーカーは、NOXA発現のレベルである。その論理的根拠は、オートファジー及びアポトーシスの機構が活性化されたときの対応する遺伝子の発現レベルの増加である。これらのタンパク質の発現レベルの決定を行なうことができ、例えば、対応するメッセンジャーRNAの濃度(これは、例えば、ノーザンブロットもしくはRT−PCRによって実施することができる)、または対応する細胞培養物のタンパク質抽出物中のタンパク質自体の濃度(例えば、ウェスタンブロットのような転写による)を決定することができる。さらに、NOXAを免疫組織化学によって(組織標本において)インサイチュで検出することができる。
【0024】
本発明の好ましい一実施形態では、オートファジーとアポトーシスの機構が活性化されている証拠として、MDA−5とNOXAを両方とも調べるが、それは、MDA−5がそれらの間の連結点であると考えられるからである。
【0025】
さらに、本発明は、癌に対して使用すべき候補化合物によるオートファジーの誘導を決定する工程を含んでいてもよい。オートファジーの誘導は、いくつかの手法によって決定することができる。これらの手法は、以下を含む。
・オートファジー遺伝子8(これは、ATG8またはLC3と称される)によって発現されるタンパク質の翻訳後修飾をモニタリングすること。LC3タンパク質は、オートファゴソームに挿入されたときに、プロセシングされ、脂質化される。オートファゴソームは、オートファジーの間、細胞構成要素が運ばれる膜構造である。このタンパク質の立体構造と電気泳動移動度が脂質化によって変化するので、オートファジーの誘導を検証するための考えられる手法の1つは、このタンパク質に対する抗体を用いるイムノブロット法の使用である。この手法によって、電気泳動を実施した後の、タンパク質に対応するバンドが、化合物によってオートファジーが誘導されたと考えられる試料と比較して、対照試料で異なることを検証することができる。あるいは、抗体がオートファゴソームの形を特異的に認識する場合、抗体の結合は、候補化合物で処理した試料におけるオートファジーの誘導を裏付ける。
・LC3タンパク質の細胞内分布の変化をモニタリングすること。その理由は、オートファジーの別の顕著な特徴が、細胞質から新たに形成されたオートファゴソームへのLC3の再配置であることである(Xie及びKlionsky、2007(非特許文献25))。したがって、タンパク質フォーカスの形成は、特に初期段階での、オートファゴソームの形成を示すものと考えることができる。これは、固定細胞または固定組織に対する免疫蛍光または免疫組織化学によって内在性LC3をモニタリングすることにより検出することができる。あるいは、オートファジーは、LC3の蛍光誘導体の細胞内局在を明らかにすることによって、生きた細胞で可視化することができる。蛍光顕微鏡観察によるオートファジーの追跡を可能にする蛍光タンパク質GFP(緑色蛍光タンパク質)またはRFP(赤色蛍光タンパク質)として用いることは一般的であり、拡散したパターンから局所的な染色への細胞蛍光分布の変化は、オートファジーの誘導を示すものである。本発明では、この手法は、融合タンパク質の一過性発現を可能にするベクター(例えば、プラスミドもしくは組換えウイルス)をトランスフェクトしておいた細胞、またはレポータータンパク質とLC3によって形成される融合タンパク質を発現することができるDNAセグメントが安定な形でゲノムに組み込まれた細胞のいずれかの使用を含む。この戦略の一例は、下記の実施例1に示されており、その場合には、細胞に予め組換えレトロウイルスをトランスフェクトした。これによって、融合タンパク質を細胞ゲノムDNA中に導くように、タンパク質GFPとLC3のコード部分をともに含むDNA断片の、細胞ゲノムへの挿入が起こった。このように、安定にトランスフェクトされた細胞を用いる細胞内分布変化の検討を実施することができる。
・細胞内への候補化合物の侵入を検出するための透過電子顕微鏡法の使用。この状況は、より進行した段階のオートファジーの過程におけるオートファゴソーム形成を導く。高密度構造の蓄積(膜結合型)の可視化は、オートファゴソーム形成の指標となる特徴と考えられる。オートファジーの過程は、この過程のより後の段階で(すなわち、試験しようとする化合物で処理してから24または30時間後に)確認することができ、その時点では、電子顕微鏡によって、細胞崩壊を示す巨大な食空胞の形成が示されるはずである。
【0026】
上記の考察を踏まえて、本発明の第1の実施形態は、癌の治療に使用すべき化合物を同定するためのプロセス(以下、本発明のプロセス)であって、
a)候補化合物を癌細胞培養物、または癌細胞に由来する癌細胞株と接触させる工程と、
b)以下のパラメータ:
i.ファミリーヘリカーゼMDA−5の活性化のレベル、
ii.NOXA発現のレベル、
iii.またはこれらの組合せ
のうちの少なくとも1つを決定する工程と、
c)工程b)で得られたデータを、同様にではあるが、候補化合物の非存在下で処理された同じ細胞の対照で観察されるデータと比較する工程と、
d)対照と比較して、工程b)で決定されたパラメータ(単数または複数)の顕著な増大を生じさせた化合物を選択する工程と、を含むプロセスを指す。
【0027】
候補化合物で処理した細胞培養物から得られるデータと未処理の対照から得られるデータの違いは、解析によってp<0.05という値が得られる場合、統計的に有意であると考えられる。
【0028】
好ましい一実施形態では、本発明のプロセスはまた、候補化合物が、癌細胞、癌細胞に由来する細胞株、または癌モデルマウスにおいてオートファジーを誘導するか否かを決定する。上で説明したように、オートファジー誘導の決定は、オートファジータンパク質の発現レベル、翻訳後修飾の存在または細胞内局在を調べることによって行なうことができる。より具体的には、オートファジーの誘導は、タンパク質LC3の電気泳動移動度の変化またはタンパク質LC3のフォーカス形成の検出から選択される手法によって決定される。あるいは、オートファジーの誘導は、例えば、透過電子顕微鏡法を用いる、その顕微鏡観察によってオートファゴソームの存在を調べることにより決定される。
【0029】
さらに好ましい一実施形態では、本発明の上記のプロセスは、3つの工程:MDA−5の活性化レベルの決定、NOXAの発現レベルの決定及びオートファジーの誘導の決定を含む。
【0030】
本発明のプロセスは、いくつかの種類の癌、例えば、メラノーマ、膵癌、大腸癌、膀胱癌、乳癌、前立腺癌、肺癌及び卵巣癌を治療するための治療剤として使用すべき化合物の同定に用いることができる。
【0031】
そのため、本発明が、メラノーマを治療するための治療剤として使用すべき化合物を同定することを目的とする場合、本発明は、以下の工程:
a)候補化合物をメラノーマ細胞培養物、またはメラノーマ細胞に由来する細胞株と接触させる工程:
b)以下のパラメータ:
i.ファミリーヘリカーゼMDA−5の活性化のレベル、
ii.NOXA発現のレベル、
iii.またはこれらの組合せ
のうちの少なくとも1つを決定する工程:
c)工程b)で得られたデータを、同様にではあるが、候補化合物の非存在下で処理された同じ細胞の対照で観察されるデータと比較する工程:
d)前記対照と比較して、工程b)で決定されたパラメータ(単数または複数)の顕著な増大を生じさせた化合物を選択する工程を含む。
【0032】
有効な細胞株に関しては、それを任意のメラノーマ細胞株から、好ましくは、ヒト起源から得て用いることができる。本発明の実施例で用いられる有効な細胞株の例は、ヒト細胞株SK−Mel−19、SK−Mel−28、SK−Mel−103及びSK−Mel−147、ならびにマウスB16細胞である。正常細胞対照は、通常、癌治療の副次的な毒性の部位に相当する、メラノサイトまたは他の皮膚細胞、及び免疫系の細胞である。
【0033】
あるいは、本発明のプロセスは、以下の種類の癌:膵癌、大腸癌、膀胱癌、乳癌、前立腺癌、肺癌及び卵巣癌のうちの少なくとも1つを治療するための治療剤として使用すべき化合物の同定に重点を置くことができる。
この場合、本発明のプロセスは、以下の工程:
a)候補化合物を上で言及した種類の癌のうちの少なくとも1つに由来する癌細胞培養物、または上で言及した種類の癌のうちの少なくとも1つに由来する細胞株と接触させる工程、
b)以下のパラメータ:
i.ファミリーヘリカーゼMDA−5の活性化のレベル、
ii.NOXA発現のレベル、
iii.またはこれらの組合せ
のうちの少なくとも1つを決定する工程、
c)工程b)で得られたデータを、同様にではあるが、候補化合物の非存在下で処理された同じ細胞の対照で観察されるデータと比較する工程、
d)対照と比較して工程b)で決定されたパラメータ(単数または複数)の顕著な増加を生じさせる化合物を選択する工程を含む。
【0034】
この場合、細胞株は、膵癌細胞株:IMIMPC2、MiaPaCa2、Aspc1、A6L、SKPC1及びPanc−1の群から、または大腸癌細胞株:CACO、SW480及びSW1222の群から、または膀胱癌細胞株:RT112、MGHU4、639V、253J、MGHu3及びSW1170の群から、または神経膠腫細胞株:U87MG、U251及びT98Gの群から、または乳癌細胞株:MDA231、MCF7及びT47Dの群から、または前立腺癌細胞株:LNCaP、PC3及びDU145の群から、または肺癌細胞株:H1299及びNCI H460の群から、または卵巣癌細胞株:NCI H23、CHQK1及びSK−OV−3の群から選択される。
【0035】
本発明のプロセスを実施する好ましい方法は、以下、本発明の実施例に記載されている。そのような場合、本発明のプロセスは、MDA−5活性化の決定と、遺伝子発現解析(NOXA発現の増加の観察)と、既に述べた3つの考えられる方法(イムノブロットによるLC3タンパク質翻訳後修飾のモニタリング、蛍光タンパク質GFPによる蛍光の検出によるLC3の細胞分布の変化の追跡(融合タンパク質GFP−LC3を発現することができる構造を含む組換えレトロウイルスを事前にトランスフェクトされた細胞を用いる)、候補化合物による処理後5時間での電子透過顕微鏡観察によるオートファゴソーム形成の確認と処理後30時間での食空胞の確認)によるオートファジー活性化の確認との組合せを用いて実施される。
【0036】
注目すべきは、上で説明した本発明のプロセスによって、二本鎖RNA(dsRNA)、またはその類似体とポリカチオンの組合せを含む新しい化合物の同定が可能になったことである。本発明の好ましい一実施形態では、該化合物は、ポリイノシン−ポリシチジル酸(pIC)とポリエチレンイミン(PEI)の組合せを含む、BO−110(pIC
PEI)である。
【0037】
以下、本発明の実施例及び図面で示すように、BO−110は、様々な種類の癌、例えば、メラノーマ、膵癌、大腸癌、膀胱癌、乳癌、前立腺癌、肺癌及び卵巣癌を治療するために有効に用いることができる。
【0038】
そのため、本発明はまた、癌、例えば、メラノーマ、膵癌、大腸癌、膀胱癌、乳癌、前立腺癌、肺癌及び卵巣癌の治療で用いられるBO−110を含む医薬組成物に関する。この医薬組成物は、免疫不全患者を治療するのにも有用である。
【0039】
驚くべきことに、pICとPEIの機能的な相互作用は、個々の特徴の技術的効果の総和を改善及び改変する相乗的な技術的効果を達成する。したがって、BO−110は、細胞に侵入し、その構成要素であるPEI及びpICとは異なる様式で作用する。具体的には、PEIには測定可能な細胞効果がなく、単独のpICシグナルは、最終的にインビボで生物学的効果がない免疫応答を一過性に誘導するが、BO−110は、腫瘍細胞を選択的に死滅させることができる。そのため、BO−110は、単剤としては活性を持たないが、組合せると、様々な、かつ治療的に利用可能な抗癌作用を有する遺伝子または化合物について記載されている合成致死の概念を説明するものである。
【0040】
そのため、本発明の最も重要な点の1つは、ウイルスdsRNAポリイノシン−ポリシチジル酸(pIC)の模倣体が、腫瘍細胞へのその侵入及び送達の経路を変化させるという予想外の発見である。TLR−3(Toll様受容体3)による標準的な認識から、このdsRNAを細胞質送達を特異的に可能にする担体のファミリーと組み合わせると、pICを(TLR3とは異なる)dsRNAセンサーのファミリーに標的することができる。この活性は、重要でない免疫調節物質から腫瘍細胞の大量殺傷物質へとdsRNAの作用様式を変化させる。抗癌活性は、ポリエチレンイミン(PEI)及びリポフェクトアミン、ポリフェクトまたはスーパーフェクトで立証された。これらの担体は、それらだけでは、治療剤として生体活性はなかったが、本発明は、そのような担体がオートファジー活性化を可能にする安定な形態にpICの分子を維持しつつ、それを保護することができることを示している。そのため、BO−110によって例示されるdsRNA/ポリカチオンの組合せは、抗癌効果を有する新しい分子実体に相当する。より重要なのは、BO−110の作用様式が予想外のものであったことである。この化合物は、正常なコンパートメントの生存に影響を及ぼすことなく、腫瘍細胞(限定するものではないが、特に、メラノーマ細胞)の協調的かつ選択的な死滅をもたらすオートファジーとアポトーシスの二重誘導を促進する。アポトーシス機構はタンパク質NOXAを介して働いていた。他のNOXA誘導性化学療法剤とは違って、BO−110は、腫瘍抑制タンパク質p53を必要としない。p53は、ヒトの癌の大半で突然変異しているか、欠失しているかまたは不活化しているので、これは重要な利点である。効果は、裸のウイルスRNAに対する典型的な応答よりも明らかに優れており、これは、メラノーマを治療するための裸のpICの臨床研究の成績が悪いことを説明するものである。
【0041】
したがって、BO−110は、免疫不全マウスでさえも、癌細胞の自己殺傷を促進し、かつインビボでの癌転移を阻止するのに十分であったが、複合体化していないdsRNAは、そうではなかった。本発明で後に記載される遺伝子解析、機能解析及び微細構造的解析から、オートファジーの誘導は、pICによって細胞を保護するようにではなく、腫瘍細胞を選択的に破壊するように誘発されることが示されている。これらの結果をさらに証明することとして、pICは、IFNによって制御される免疫の誘導物質と考えられていたが、観察された効果は、IFN−αの産生及び分泌のための経路の活性化とは無関係である。この観察と一致して、オートファジー経路の活性化は、免疫不全動物でさえも起こる。まとめると、これらのデータは、BO−110が、内在性の病原体認識プログラム、オートファジー及び腫瘍細胞死を臨床的に利用するための新しい介入点を標的とし、それを同定することを示している。
【0042】
遺伝子研究及び機能研究により、BO−110によって駆動されるオートファジー経路とアポトーシス経路の間をつなぐものとして内在性MDA−5が同定された。これはまた、外因性構成要素によるアポトーシス細胞死に限定されたMDA−5に関する以前の開示と異なっている。MDA−5/NOXA相互作用もまた新規であった。
【0043】
したがって、MDA−5は、オート/リソソームプロテアーゼ及び内在性アポトーシスプロテアーゼによる腫瘍自己破壊を誘発するという特別な特徴を有する、癌を治療するための薬剤をスクリーニングするための好適な治療標的として提示される。先に述べたように、この戦略は、これらの機構のどちらかを独立に働かせる標準的な治療剤よりも優れた利点を有する。
【0044】
同様に、それを活性化することができるという理由でこの経路の発見を可能にした実体は、複合体BO−110または、dsRNAの類似体とカチオン性担体の他の組合せである。そのため、これらの薬剤は、癌を治療するための医薬品の製造に使用すべき優れた候補である。
【0045】
本発明で用いられるように、「二本鎖RNAの長い断片」という用語は、短いRNAまたは干渉RNA(siRNAs)として知られるRNAの断片に対立するものとして用いられる。そのため、二本鎖RNA断片が、鎖1本につき少なくとも25個のヌクレオチドを含む場合、二本鎖RNA(二重鎖)は「長い」と考えられる。使用される断片は、ヘリカーゼファミリーのMDA−5の天然の基質であると思われるほとんどのRNAウイルスの細胞周期の間に細胞に現われる二本鎖RNA中間体と長さが同様であることが好ましく、そのため、本発明の二本鎖RNAは、とりわけ、鎖1本につき少なくとも100個のヌクレオチドを含む場合、より特には、鎖1本につき少なくとも1000個のヌクレオチドを含む場合、「長い」とみなされる。
【0046】
天然に生じ、かつ本発明の使用に有用であり得る二本鎖RNAの断片は、パラミクソウイルス(例えば、ニューカッスル病ウイルス(NDV)、センダイウイルス(SDV))、ラブドウイルス(水疱性口内炎ウイルス(VSV));フラボウイルス(C型肝炎ウイルス(HCV))、オルトミクソウイルス(インフルエンザウイルス)及びピコルナウイルス(脳−心筋炎ウイルス(EMCV))の細胞周期の間に生じる二本鎖RNA中間体であってよい。
【0047】
二本鎖RNA類似体に関して、ポリイノシン酸−ポリシチジル酸(pIC)以外に、他のdsRNA模倣物、すなわち、a)その骨格がリボースと類似した化合物、例えば、LNA(ロックされた核酸:加水分解に耐性がある)、モルホリノ及びPNA(ペプチド核酸)に基づく化合物によって形成されるもの、b)RNAのヌクレオチドの典型的な窒素塩基のうちの少なくとも1つが、天然の現象の異なる対形成をも生じさせ得る類似体、例えば、ジアミノプリン(3つの水素結合でウラシルと対形成する)、キサンチン/ジアミンピリミジン対(この対の中では、ケト/ケト型のプリンであるキサンチンが、アミン/アミンピリミジンとの3つの水素結合を形成している)、またはイソグアニン/イソシトシン対(この対の中では、アミン/ケト型のプリンであるイソグアニンが、ピリミジンケト−アミンであるイソシトシンとの3つの水素結合を形成している)に置き換えられているものが、本発明に有用であり得る。
【0048】
ポリカチオン担体に関して、形質膜の透過性を変化させ、かつ/または二本鎖RNAもしくはその類似体の細胞への侵入を促進することによってエンドサイトーシスを誘導し、それらを細胞質に放出させ、それにより、二本鎖RNAの細胞質センサー(例えば、ヘリカーゼMDA−5)の活性化を増大させることができるもの全ての使用は、本発明の目的のために好適である。ポリエチレンイミン(PEI)及びリポフェクトアミンに加えて、ポリ−L−リジン、ポリシラザン、ポリジヒドロイミダゾレニウム、ポリアリルアミン及びエトキシ化ポリエチレンイミン(ePEI)がこの定義に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1A】PEIと複合体化したpIC(BO−110)1μg/mlで12時間処理したSK−Mel−103メラノーマ細胞において、eGFP−LC3のオートファゴソーム様の局所的染色の落射蛍光による可視化を示す写真。単剤としてのPEIで処理した細胞が参照対照(control)として示されている。BO−110によるマクロオートファジーの誘導はメラノーマ細胞死をもたらす。
【
図1B】BO−110またはプラセボ対照による処理によってeGFP−LC3の点状の蛍光放出を示すSK−Mel−103細胞の時間依存的蓄積を示すグラフ。ラパマイシンは、標準的なオートファジー誘導物質として用いた。
【
図1C】表示したように処理したSK−Mel−103細胞から単離した全細胞抽出物のイムノブロットを示すグラフ。処理は各線の上に表示されている:対照(未処理:ビヒクルの存在下でのみインキュベートした細胞集団)、pICまたはBO−110処理細胞。解析したタンパク質は、パネルの左側に表示されている:未修飾ATG8(LC3 I)、脂質化されたATG8(LC3 II)及びローディング対照(β−アクチン)。パネルの右側は分子量(単位kDa)である。
【
図1D】BO−110またはPEI対照で処理したSK−Mel−103細胞の電子顕微鏡写真。矢印は、膜に結合したオートファゴソーム及びオートリソソームを示す。
【
図1E】ビヒクル(左側の列)またはBO−110(右側の列)とともにインキュベーションしてから5時間後の高倍率(上)及び低倍率(下)のSK−Mel−103細胞の顕微鏡写真。
【
図1F】パネルFは、写真に示したような30時間の処理の後の細胞コロニーの明視野顕微鏡観察(左及び中央)ならびに電子顕微鏡観察(右)の代表的な顕微鏡写真を示す。
【
図2】メラノーマ細胞におけるBO−110によるオートファジー誘導の時間間隔を空けた顕微鏡観察写真。eGFP−LC3を発現するSK−Mel−103メラノーマ細胞をPEI(対照)またはBO−110で処理した後に表示した時間間隔で撮影した一連の顕微鏡写真であり、局所的な凝集は、オートファゴソーム形成を示す。矢印は、処理時の細胞の崩壊及び剥離(死にかけている細胞)を示す。
【
図3A】表示したような処理(NT:白い棒、PEI処理:濃い灰色の棒、pIC処理:薄い灰色の棒、BO−110:黒い棒)の24及び48時間後のトリパンブルー排出アッセイによって推定される細胞死のパーセンテージが示されたグラフ。データは、グラフの上に表示した異なる細胞株を用いた3回の独立した実験の平均±SEM値として表されている。示したように、BO−110で処理したメラノーマ細胞集団のみが効率的に死ぬ。PEIの存在によるpICの細胞質への送達は、選択的な様式でメラノーマ細胞死を誘発する。
【
図3B】ビヒクル(Ctr)、PEI、pICまたはBO−110で処理し、処理後12時間で可視化したSK−Mel−28及びSK−Mel−103細胞の電子顕微鏡写真。各々の細胞株について、2つの異なる倍率で撮影した写真が示されている。矢印は、BO−110処理細胞でのみ観察されるオートリソソームを示す。
【
図4A】表示したようなビヒクル、PEI、pICまたはBO−110で処理した後のヒト包皮(上の列)、ヒトメラノーマ細胞SK−Mel−103(中央の列)及びマウスB16メラノーマ株(下の列)から単離されたメラノサイトの代表的な明視野画像写真。腫瘍細胞に対するBO−110の選択的な細胞傷害活性を示す。
【
図4B】FM(包皮メラノサイト)及びSK−Mel−103の、個々の薬剤または組み合わせた薬剤(BO−110)(各グラフの右側の棒グループ)としてのPEI及びpIC処理に対する用量応答曲線を示すグラフ。応答は、処理24時間後の死細胞のパーセンテージとして表されている。
【
図4C】処理を行なった24時間後のトリパンブルー排出アッセイによって推定した細胞死のパーセンテージを表すグラフ(Ctrl:未処理;PEI、pIC、及びBO−110)。データは、表示した細胞株(SK−Mel−103または包皮線維芽細胞)を用いて行なわれた3回の独立した実験の平均±SEMとして表されている。パネルAに示したように、BO−110で処理したメラノーマ細胞集団のみが効率的に死ぬ。
【
図5A】異なる線で示されるように、未処理(NT)のまたはPEI、pIC、BO−110もしくはボルテゾミブ(Bor)で処理したSK−Mel−28(上の写真)及びSK−Mel−147(下)から単離された全細胞抽出物のイムノブロットを示す写真。アステリスクは、非特異的バンドに対応する。矢印は、MDA−5切断を示す30kDaのバンドが観察されるべき位置を示す。MDA−5はメラノーマ細胞におけるBO−110細胞毒性のセンサー及びドライバーである。
【
図5B】表示したようなpIC、BO−110またはビヒクルで処理した後の細胞抽出物のイムノブロッティングによって可視化した、未感染のまたはスクランブルのshRNAもしくはMDA−5 shRNAを発現するレンチウイルスに感染させたSK−Mel−147細胞におけるMDA−5のプロセッシングを示す写真。
図5Aに示すように、アステリスクは非特異的バンドを示し、矢印は、MDA−5切断を示す30kDaバンドの位置を示す。
【
図5C】pICのみ(灰色の棒)、BO−110
I複合体(黒色の棒)による処理の24時間後のまたは未処理細胞(白色の棒)のトリパンブルー排出アッセイによって検討した、BO−110によって誘導される標的化毒性に対するMDA−5 shRNAの阻害的効果を示すグラフ。対照shRNA(「sh対照」)の感染から得た結果も示す。データは、3回の独立した実験の平均±SEMとして表されている。
【
図6A】BO−110(黒色の棒)または緩衝液対照(白色の棒)で処理した12時間後にGFP−LC3による蛍光フォーカスを有していたSK−Mel−103細胞のパーセンテージから評価された、オートファゴソームにおけるEGFP−LC3再配置に対する3−メチルアデニン(3−MA)及びクロロキン(Chlor)の効果を示す写真。BO−110細胞傷害活性に対するオートファジーの薬理学的阻害剤の効果を示す。
【
図6B】ビヒクル(白色の棒)またはBO−110(黒色の棒)で処理した20時間後のトリパンブルー排出によって推定される細胞死に対するクロロキン(Chlor)、ペプスタチンA(PEP)またはE64dの阻害的効果を示す写真。データは、3回の独立した実験の平均±SEMとして示されている。
【
図6C】BO−110または25nMのラパマイシンで処理した後のオートファゴソーム形成(35個の赤色と緑色のフォーカス)及びオートリソソーム(赤色のフォーカスのみ)を検出するためにCherry−GFP−LC3をトランスフェクトしたSK−Mel−103細胞の蛍光共焦点顕微鏡写真。
【
図6D】ビヒクル(白色の棒)またはBO−110(黒色の棒)で処理した20時間後のトリパンブルー排出によって推定される細胞死に対する100μMの100バフィロマイシン(Bafil)、20μMのクロロキン(Chlor)または10μg/mlのペプスタチン(PEP)の阻害的効果を示すグラフ。データは、3回の独立した実験の平均±SEMとして示されている。
【
図6E】BO−110(上の写真)もしくはクロロキン存在下のBO−110(下の列の写真)で処理し、EGFP−Rab5野生型を安定にトランスフェクトしたSK−Mel−103細胞(図中、左の列)またはRed Fluor標識したBO−110とともにインキュベートしたSK−Mel−103細胞(中央の列の写真)の共焦点蛍光画像写真。メラノーマ細胞におけるBO−110の内在化をクロロキンの非存在下または存在下で観察することができる。
【
図6F】ビヒクル(対照)で処理したSK−Mel−103細胞とBO−110で処理したSK−Mel−103細胞の両方における(緑色蛍光を生じさせる)蛍光DQ−BSAの切断及び放出の存在によってリソソーム依存的タンパク質分解を見るための共焦点蛍光画像写真。クロロキン(Chlor:中央の列の写真)の存在下において、蛍光シグナルは、DQ−BSAの列(中央の列)で観察されない。リソソーム区画を示すためのリソトラッカー−Red(LTR−Red:左の列の写真)の存在下における細胞の同時画像。リソトラッカー−Redは、3列全ての写真でシグナルを生じさせた。
【
図6G】
図6Fの被験細胞におけるDQ−BSA及びRed−リソトラッカーシグナルの対応物の共局在を表すグラフ(Ctrl:対照、黒色の棒;Chl:クロロキン、白色の棒;BO−110、灰色の棒)。共局在は、2回の独立した実験における最低150個の細胞において推定され、対照細胞において得られた値に対して表される(AU:蛍光任意単位)。
【
図6H】BO−110または緩衝液対照で処理した後のSK−mel−103におけるGFP−LC3(もとのシグナルで緑色、オートファゴソームの位置を示す)及びリソトラッカー(もとのシグナルでは赤色、リソソームの存在を示す)による蛍光フォーカスの共焦点免疫蛍光画像写真。核は、Hoescht(上の写真、もとは青色のシグナル)で染色した。下の列に、3つの前の画像の重ね合わせが示されている。これらの画像は、緑色及び赤色のシグナルを有していた部分、すなわち、それぞれ、GFP−LC3及びリソトラッカーに対応する画像中で黄色またはオレンジ色を生じており、GFP−LC3及びリソトラッカーに対応するシグナルが同じ部分に位置することを示している。
【
図6I】pICを含む緩衝液対照(「対照」)またはBO−110のいずれかで処理し、画像上に示すような、リソトラッカー(もとは赤色のシグナル)またはHoescht(もとは青色のシグナル)の存在下でインキュベートしたEGFP−LC3(もとは緑色のシグナル)を発現するSK−Mel−103細胞の、リアルタイムで撮影した共焦点顕微鏡画像写真。3つの画像の重ね合わせ(各処理の右下、対照またはBO−110)から、裸のpICで処理した後ではなく、BO−110で処理した後に、(オートリソソームの形成によって予想されるような)GFP−LC3とリソソームの間の強い共局在(黄色のシグナル)が明らかになった。重ね合わせ画像の結果の下にある3列目のパネルには、所与の平面での緑色(EGFP−LC3についてはグラフを「GFP」とラベルする)及び赤色(リソトラッカーについてはグラフを「LYSO」と示す)のチャンネルの全細胞蛍光強度を定量することによって得られたグラフが示されている。BO−110で処理した細胞で得られたグラフの場合、両方のシグナル(eGFPLC3及びリソトラッカー)の類似した分布は、共局在を示すものであり、そのため、オートファゴソームとリソソームの融合を示すものである。
【
図6J】EGFP−LC3(緑色蛍光、x軸)及びリソトラッカー(赤色のシグナル、Y軸)のシグナル強度を表す、pIC(対照)またはBO−110で処理したSK−Mel−103細胞の集団ベースの解析の表示を示す写真。四角には、両方のマーカーで二重染色される細胞が含まれる。
【
図7A】BO−110またはビヒクル対照による処理後の表示した時間で、リアルタイム蛍光顕微鏡法によって記録したEGFP−Rab7を発現するSK−Mel−103メラノーマ細胞の連続画像写真。留意すべきことに、BO−110は、多数の小胞の生成をもたらした。アステリスクは、エンドソームとエンドソームの融合を示す(明瞭にするために、一部の例だけを示す)。BO−110処理によるエンドソームの交通ならびにアンフィソームの生成及び分割を示す。
【
図7B】レトロウイルスを安定にトランスフェクトしたSK−Mel−103細胞の共焦点顕微鏡写真。このレトロウイルスは、EGFP−Rab7 wt融合タンパク質(野生型Rab7)(左から1列目及び3列目の写真、2つ目の場合、写真は、列の上に表示したように、リソトラッカー−レッドの存在下で得られたものである)またはリソトラッカーの存在下でインキュベートした融合体EGFP−Rab7 T22N(右列の写真)による緑色蛍光の発現をもたらした。細胞は、BO−110(下の列のパネル)またはビヒクル対照(上のパネル)でさらに処理された。画像は、BO−110による処理の10時間後に記録された。右にある2列の写真は、Rab7で装飾された小胞内に含まれる平均面積に対応する値を含む。
【
図7C】表示した時間間隔(秒で表す)で撮影した一連の共焦点顕微鏡写真。これらの写真は、BO−110で処理した後のRab7陽性小胞へのリソソームの融合及び取込みを示している。
【
図7D】BO−110で処理し、GFP−Rab7wt(写真中のGFP−Rab7)、Cherry−LC3(写真中のCh−LC3)によって得られるような緑色蛍光または赤色蛍光、またはリソトラッカー−ブルーによる青色蛍光(図中のLTR−Blue)を生じさせるレトロウイルスを安定にトランスフェクトしたSK−Mel−103のリアルタイム蛍光顕微鏡画像写真。画像は、処理の1時間後に、表示された時間(分)で撮影された。矢印は、表示した各マーカーを可視化することができた最初のシーケンスを示す。
【
図7E】内在化及びその後の分解の前のエンドソームRab7による小胞表面のLC3の取込みを示す写真。これらのエンドソーム/LC3ハイブリッド構造(アンフィソーム)は、EGFP−Rab7またはCherry−LC3(写真中のCh−LC3)を発現する細胞SK−Mel−103のリアルタイム顕微鏡蛍光によって可視化された。
【
図8A】ビヒクル(PEIを含まない対照緩衝液)(左のグラフ)、ビタミンE(+Vite、中央のグラフ)またはカスパーゼ阻害剤ZVAD−fmk(+ZVAD、右のグラフ)の存在下における緩衝液対照としてのPEI(Ctr、白色の棒で表す)、pIC(灰色の棒)または複合体BO−110(黒色の棒)によるSK−Mel−147細胞の処理によって引き起こされた細胞死のパーセンテージを示すグラフ。全ての場合において、パーセンテージは、トリパンブルー排出で測定された。BO−110細胞毒性はエフェクター及び調節性カスパーゼの活性化に依存する。
【
図8B】(左側に表示した)転移性メラノーマ細胞株抽出物のイムノブロットの結果を示す。これらは、表示した処理後時間(各レーン上に、時間(hour)で表す)で細胞を回収することによって得られた。処理は、これらの時間の上に表示されている:NT(未処理:緩衝液の存在下でインキュベートした対照細胞集団)、PEI、pIC、複合体BO−110またはBor(ボルテゾミブ、25mM)写真。各写真の横に、解析したタンパク質が示されている:casp−9(カスパーゼ9)、casp−8(カスパーゼ8)またはチューブリン(ローディング対照)。右側の数字は、その高さで存在するタンパク質バンドに対応する相対質量(単位kDa)を示す。
【
図8C】時間(24及び48時間)で表示した処理の後に細胞を回収することによって得られたSK−Mel−103細胞株抽出物のイムノブロットの結果を示す写真。処理は、時間の下、レールの上に表示されている:NT(未処理:緩衝液のみの存在下でインキュベートした対照細胞集団)、PEI、pIC及び複合体BO−110。各写真の横に、解析したタンパク質が示されている:casp−9(カスパーゼ9)、casp−8(カスパーゼ8)、casp−7(カスパーゼ7)、Casp−3(カスパーゼ3)またはチューブリン(ローディング対照)。
【
図9A】処理後の表示した時間(時間(hour)で表す)で細胞を回収することによって得られたSK−Mel−28細胞(上)またはSK−Mel−147(下)のイムノブロットの写真。処理は、時間の上に表示されている:NT(未処理:緩衝液の存在下でインキュベートした対照細胞集団)、PEI、pIC、複合体BO−110またはBor(ボルテゾミブ、25mM)。各写真の横に、そのレベルが解析されたタンパク質が示されている:NOXA、Mcl−1またはチューブリン(ローディング対照)。BO−110は、p53状況とは独立に、かつMCL−1の代償活性化を誘導することなくNOXAを介するアポトーシスを誘発する。
【
図9B】処理が未処理の対照細胞で得られた対応する値を参照したパーセンテージとして表示されているために、SK−Mel−28細胞から得られたイムノブロッティング後のデンシトメトリーによって時間の関数として算出されたMcl−1(上)及びNOXA(下のグラフ)の相対レベルを表している2つの別々のグラフ。各曲線の横に、対応する処理が表示されている。
【
図9C】各処理群について、処理(時間(hour)で表示した時間)後の細胞を回収することによって得られたSK−Mel−103全細胞抽出物のイムノブロッティングから撮影した写真。処理は、各レーンの上に表示されている:NT(未処理:緩衝液の存在下でインキュベートした対照細胞集団)、PEI、pIC、複合体BO−110またはBor(ボルテゾミブ、25mM)。各写真の横に、そのレベルが解析されたタンパク質が示されている:NOXA、Bcl−xL、Bcl−2またはチューブリン(ローディング対照)。パネルの下に、処理後に観察された細胞死のパーセンテージが表示されている。
【
図9D】NOXAタンパク質の発現を評価するためにデザインされたイムノブロットの写真。抽出物は、不活性shRNA(sh Ctrl)またはNOXAに対して向けられたshRNAを発現するレンチウイルスベクターを感染させた2日後に、pICまたはBO−110で24時間処理したSK−Mel−103メラノーマ細胞から得られた。
【
図9E】対照shRNA(灰色の棒)またはNOXAに対して向けられたshRNA(黒色の棒)のいずれかを形質導入し、pICまたはBO−110とともに24時間インキュベートしたSK−Mel−103メラノーマ細胞の死亡率(死細胞のパーセンテージとして表す)を表すグラフ(NT:未処理、投与のビヒクルとともにインキュベートした細胞)。
【
図9F】shRNA対照またはMDA−5に対して向けられたshRNAを形質導入したSK−Mel−103細胞におけるNOXAレベル(任意単位、auで表す)で表し、BO−110によるNOXAの誘導に対するMDA−5下方調節の阻害的効果に対応するグラフ。NOXAレベルは、デンシトメトリーによって測定され、未処理対照(N Inf:干渉なし、裸のpICによる処理の場合は値1、BO−110処理の場合は値100を与えるレベル)に対して表された。
【
図10A】上のパネル:同系C57BL/6でB16メラノーマ細胞の皮下異種移植片を生じさせるための実験アプローチの概略グラフ。(100μl中)50μg(2ng/kg)の裸のpIC及びPEIと複合体化したpICの腫瘍周辺注射のための処理時間も表示されている。対照群には、100μlの5%グルコースまたはPEIのみを投与した。免疫適格マウスにおけるBO−110抗メラノーマ活性を示す。 下のパネル:表示した時点でのキャリパー測定で推定された腫瘍増殖を示すグラフ。実験群1つ当たり10個の腫瘍を解析した。通常通り、腫瘍体積が1000mm
3を超えたときに、マウスを屠殺した。実験を2回繰り返して、同様の結果を得た。
【
図10B】後に表示した時点で(100μl中)10μg(1ng/kg)のpICまたはBO−110を用いて静脈内処置するための同系C57BL/6におけるB16−EGFPメラノーマ細胞の静脈内移植を示す写真。対照群には、5%グルコース中のPEIを投与した。細胞を接種してから14日後、マウスを安楽死させ、蛍光イメージング用に肺を処理した。
【
図10C】外部転移を手作業で計数して得られた各処理群で観察された肺転移の数を表す棒グラフ(C)。(NT/PEIとBO−110の間のP
*<0.01;n=5;一般化されたマン−ホイットニー検定)。
【
図11A】pICまたはBO−110で処理したB16メラノーマ細胞及び骨髄由来マクロファージを示すグラフ。RNAを単離し、IFN標的のIFIT−1について定量的PCRを行なった。対照未処理細胞に対して推定されたIFIT−1の相対mRNAレベルが示されている。IFN−αはBO−110によって誘導されるが、メラノーマ細胞死を促進するには十分でない。
【
図11B】ELISAで決定されるBO−110処理細胞におけるIFN−αの分泌量よりも既に高い10pg/mlから始まる表示した濃度のヒト組換えIFN−αで処理したSK−Mel−103メラノーマ細胞を示すグラフ。処理の24時間後に、細胞死を決定した。対照として、細胞をBO−110で同時に処理した(24時間)。高レベルのIFN−αはメラノーマ細胞に対して細胞傷害性がなく、BO−110による効率的な死滅を再現することができない。
【
図11C】pIC及びBO−110のマイクロアレイ試験結果を示す説明図。
【
図12A】SCIDベージュマウス(NK細胞、B細胞及びT細胞について重症免疫不全)におけるB16によって誘起されるメラノーマ肺転移の発生及び処置を示す写真。画像は、B16メラノーマ細胞を静脈内に接種し、PEI、pICまたはBO−110で処理したマウスの代表的な肺の、可視光または蛍光下での写真に対応する。画像は、細胞を注射してから14日後に記録された。免疫抑制はメラノーマの転移性播種を阻止するBO−110の能力に支障を来さない。
【
図12B】
図12Aに表示したようなB16によって誘導された転移の平均数の表示を示すグラフ(PEI処理群とpIC処理群とBO−110処理群の間でP
*<0.01;n=5;一般化されたマン−ホイットニー検定)。
【
図12C】PEI、pICまたはBO−110で処理したマウスにおけるB16によって誘起される肺の組織学的解析を示す写真。表示した処理群に由来し、2つの異なる倍率(10倍及び40倍)で可視化した肺の代表的なH&E染色が示されている。
【
図12D】SCIDベージュマウス(NK細胞、B細胞及びT細胞について重症免疫不全)におけるSK−Mel−103によるメラノーマ肺転移の発生及び処置を示す写真。画像は、SK−Mel−103メラノーマ細胞を静脈内に接種し、PEI、pICまたはBO−110で処理したマウスの代表的な肺の蛍光または可視H&E染色(下の線)下での写真に対応する。
【
図12E】
図12Dに表示したようなSK−Mel−103によって誘導された転移の平均数の表示を示すグラフ(P
*<0.01;n=5;一般化されたマン−ホイットニー検定)。
【
図13A】DMBAで処理して色素沈着した病変を誘導し、その後、5%グルコース中のPEI(対照:Ctrl.)、pICまたはBO−110で処理したTyr::Ras
Q61K×INK4a/ARF
−/−マウスにおける転移の無進行生存についてのカプラン−マイヤープロットを示すグラフ。Tyr::NRAS
Q61K×INK4a/ARF
−/−マウスにおける、BO−110によって広められる転移性播種の阻害。
【
図13B】
図13Aの被験群の各々が発生させる皮膚のメラノサイト新生物の累積平均数についての棒グラフ。5日ごとに計数を行ない、グラフに表示したようなサイズ範囲によって腫瘍をグループ化した。
【
図13C】5%グルコース中のPEI(対照)、裸のpICまたはBO−110で処置した代表的なマウス例の代謝活性(18F−FDGの取込み)を検討することを目的としたPET/CTによって得られた横断面(左の列)及び冠状断面(右の列)の代表的な画像写真。腫瘍は、白い点線で囲まれている。アステリスクは、動物の心臓の位置を示す。
【
図13D】
図13Aに記載された処置群の各々から採取したメラノサイト病変試料のヘマトキシリン−エオシン染色を示す写真。
【
図13E】5%グルコースビヒクル(対照)またはBO−110で処理したマウスの(写真の左側に表示されているような)皮膚組織試料、心臓、肝臓または肺のヘマトキシリン−エオシン染色を示す写真。これにより、正常な細胞コンパートメントではBO−110処置と関連する毒性がないことが示されている。
【
図14A】BO−110処理の18時間後(左の棒)及び30時間後(右の棒)に実施されたトリパンブルー排出アッセイによって推定された、様々な腫瘍細胞株:膵癌(Pa)、大腸癌(C)、膀胱癌(Bl)、神経膠腫(G)、乳癌(Br)、メラノーマ(M)、前立腺癌(Pr)、肺癌(L)及び卵巣癌(O)における細胞死のパーセンテージを表すグラフ。データは、表示した細胞株を用いて行なわれた3回の独立した実験の平均±SEMとして表されている。種々の腫瘍細胞に対するBO−110の細胞傷害活性を示す。
【
図14B】ビヒクルまたはBO−110による処理の24時間後の以下の腫瘍細胞株:MiaPaCa(膵臓)、BT549(乳房)、639V(膀胱)及びT98G(膠芽細胞腫)の代表的な明視野画像写真。BT549は最初はBO−110に耐性があったが、最終的に長期の生死判別アッセイで崩壊する(パネルB参照)。639V及びT98Gは、BO−110の細胞傷害効果に対して感受性が高い。
【
図14C】ビヒクルまたはBO−110による処理の24時間後の表示した腫瘍細胞株の生死判別アッセイを示す写真。短期の生死判別アッセイの場合は、処理の24時間後に処理細胞を固定し、コロニー細胞形成を可視化するためにクリスタルバイオレットで染色した。長期の生死判別アッセイの場合は、24時間処理した細胞の10分の1をプレーティングし、固定し、クリスタルバイオレットで48時間染色した。
【
図15】ビヒクル(「−」と表示)またはBO−110(「+」と表示)による処理の24時間後の以下の腫瘍細胞株:BT549(乳房)、639V(膀胱)及びT98G(膠芽細胞腫)から単離された全細胞抽出物のイムノブロットを示す写真。解析したタンパク質は、MDA−5
FL(MDA−5全長)、MDA−5
C(MDA−5切断)、NOXA、カスパーゼ−9またはチューブリン(ローディング対照)であった。NOXA及びMDA−5
FLのより大きい誘導ならびにカスパーゼ−9及びMDA−5
Cの切断は、BO−110により感受性の高い腫瘍細胞で生じる。BO−110誘導性細胞死は、腫瘍細胞株におけるMDA−5、Noxa及びオートファジーの活性化に依存する。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下に、本発明を実施例及び図面によって詳細に説明する。
【0051】
下記の実施例のアッセイは、以下の材料及び実験手法を用いて実施した。
【0052】
細胞及び細胞培養:
ヒト転移性メラノーマ細胞株SK−Mel−19、SK−Mel−28、SK−Mel−103及びSK−Mel−147ならびにマウスB16細胞は以前に記載されている(Soengasら、2001)。これらの細胞は、10%胎仔ウシ血清(Nova−Tech Inc.,Grand Island,NY,USA)を補充したダルベッコの改変イーグル培地(Life Technologies,Rockville,MD,USA)中で培養した。
【0053】
ヒトメラノサイトをヒト新生児包皮から、記載されているように単離し(Fernandezら、2005(非特許文献31))、メラノサイト増殖因子(HMG−I)を補充した、10ng/mlのホルボール12−ミリスタート13−アセタート(Cascade Biologies,Portland,OR,USA)を含む、Medium 254中で維持した。
【0054】
ヒト線維芽細胞をヒト新生児包皮から単離し、10%胎仔ウシ血清を補充したDMEM培地中で維持した。
【0055】
さらに、他の腫瘍タイプ由来の細胞を、国立癌研究所(National Cancer Institute)(NCI)の抗癌剤スクリーニングプログラム(Anticancer Drug Screening Program)によって用いられた、9種の腫瘍組織型に相当する60のヒト腫瘍細胞株のパネルから単離した。選択された細胞株は、膵臓腫瘍については、IMIMPC2、MiaPaCa、Aspc1、A6L、SKPC−1及びPanc−1であり、大腸癌については、CACO、SW480及びSW1222であり、膀胱癌については、RT112、MGHU4、639V、253J、MGHu3及びSW1170であり、神経膠腫及び膠芽細胞腫については、U87MG、U251及びT98Gであり、乳癌については、MDA−231、MCF7及びT47Dであり、前立腺癌については、LNCaP、PC3及びDU145であり、肺癌については、H1299及びNCI H460であり、卵巣癌については、NCI H23及びSK−OV−3であった。
【0056】
細胞は全て、10%胎仔ウシ血清(Nova−Tech Inc.,Grand Island,NY,USA)を補充したダルベッコの改変イーグル培地(Life Technologies,Rockville,MD,USA)中で培養した。
【0057】
PEI複合体化pIC(BO−110)の作製:
dsRNAの合成類似体であるpICは、InvivoGen(San Diego,CA)から購入した。反応性のjetPEI(商標)、jetPEI−Fluor(商標)及びinvivo−jetPEI(商標)は、Polyplus−transfection(Ikirch,Francia)から取得した。ポリエチレンイミンの線形誘導体を含む、これらの製品を用いて、製造元のプロトコルに従って、インビトロ及びインビボで、1〜5のN/P比(RNAリン酸エステル1つ当たりのJetPEIの窒素残基)でpICを複合体化した。
【0058】
別途示さない限り、培養細胞で用いるpICの濃度は1μg/mlとし、マウスでは1〜2ng/kgとした。
【0059】
薬物処理及び細胞死アッセイ:
ボルテゾミブ(ベルケード、かつてはPS−341)は、Millenium Pharmaceuticals Inc(Cambridge,MA)から、アドリアマイシン(ドキソルビシン)は、Sigma Chemical(St.Louis,MO)から、エトポシドは、Bristol−Myers Squibb(New York,NY)から入手した。抗酸化剤のタイロン(Tiron)とビタミンEは、Sigma(St.Louis,MO)から、汎カスパーゼ阻害剤ZVADは、R&D System(Minneapolis,MN)から購入した。3−メチルアデニン(3−MA)は、Sigma Chemical(St.Louis,MO)から入手した。クロロキンは、Sigma Chemical(St Louis,MO,USA)から入手した。
【0060】
薬物処理の少なくとも12時間前にメラノサイト及びメラノーマ細胞を播種した後、薬物処理に応答した細胞生死判別アッセイを行なった。表示した時間及び処理濃度での細胞死のパーセンテージは、以前に記載されているような標準的なトリパンブルー排出アッセイ(Wolterら、2007(非特許文献11);Fernandezら、2005(非特許文献31))によって推定した。
【0061】
薬物処理の少なくとも12時間前に腫瘍細胞を播種した後、薬物処理に応答した細胞増殖アッセイを行なった。表示した時間及び処理濃度での細胞の増殖をクリスタルバイオレット染色アッセイによって推定した。
【0062】
タンパク質イムノブロッティング:
タンパク質レベルの変化を明らかにするために、2×10
6個の細胞を、表示したように処理し、処理後の様々な時間で採取した。全細胞ライセートを還元条件下にて10%、12%または4−15%勾配SDSゲルでの電気泳動にかけ、その後、Immobilon−Pメンブレン(Millipore,Bedford,MA,USA)に転写した。タンパク質バンドは、ECLシステム(GE Healthcare,Buckighamshire,UK)で検出した。
【0063】
一次抗体には、Novus Biological(Littleton,CO,USA)製のcasp−9及びcasp−3;Oncogene Research Products(San Diego,CA,USA)製のcasp−8(Ab−3);Cell Signaling Technology(Beverly,MA,USA)製のcasp−7;BD Transduction Laboratories(Franklin Lakes,NJ,USA)製のBcl−xL;Dako Diagnostics(Glostrup,Denmark)製のBlc−2;Calbiochem(San Diego,CA,USA)製のNOXA;Novocastra Laboratories(Newcastle,UK)製のMDAp53;ならびにSigma Chemical(St Louis,MO,USA)製のチューブリン(クローンAC−74)が含まれる。MDA−5抗体は先に記載されている。
【0064】
二次抗体は、GE Healthcare製の抗マウスまたは抗ウサギのいずれかであった。Image Jを用いて、未処理の対照を基本的発現の参照として考えて、異なる処理によって誘導されたタンパク質レベルの変化を定量化した。
【0065】
RNA干渉:
NOXAを下方調節するために使用したshRNAレンチウイルスベクターは、以前に報告されている(Fernandezら、2005(非特許文献31))。MDA−5(標的配列、配列番号:1)を下方調節するために使用したplkoレンチウイルスベクターは、OpenBiosystems(Huntsville、AL)から購入した。スクランブルオリゴヌクレオチドを設計して、対照shRNAも作製した。ウイルスを記載されている通りに293FT細胞から生成させ、>80%の感染効力を与える条件下で使用した(Denoyelleら、2006(非特許文献32))。MDA−5の下方調節は、イムノブロッティングとRT−PCR(配列番号:2のフォワードプライマー及び配列番号:3のリバースプライマー)で確認した。表示されている場合、pICまたはBO−110による処理は、対応するshRNA発現ウイルスの感染3日後に開始された。
【0066】
発現プロファイリングマイクロアレイ:
トータルRNAを少なくとも2回の独立した実験から単離し、RNeasyキット(Quiagen)を用いて精製した。BO−110で処理した試料は、2.5mgのCy5−UTPで標識し、PICまたはPELとのインキュベーションから得られるCy3−dUTPで標識した2.5gのRNAとのハイブリダイゼーション反応における参照として用いた。マークしたRNAを、製造元の指示に従って、Agilent(Santa Clara,CA,USA)の2色オリゴ完全ヒトゲノムマイクロアレイ(4×44K)とハイブリダイズさせた。洗浄後、スライドをスキャンアレイ10 5000 XL(GSI Lumonics Kanata,Ontario,Canada)を用いてスキャンし、画像を以前に記載されているように(Alonsoら、2007(非特許文献33))、GenePix 4.0プログラム(Axon Instruments Inc.,Union City,CA)で解析した。蛍光の強度測定値を自動バックグラウンド減算に供した。Cy3:Cy5の関係性を全ての点の中央比の値に対して標準化した。標準化の後、両方のチャンネルの強度(中央値の合計)が局所的なバックグラウンドよりも低い点を捨てた。残りの点の関係を対数変換(底2)にかけ、2つ組の点のアレイを中央値に合わせて調整した。対照と被験試料の間で示差的に発現された遺伝子の加重しない対のグループ化(UPGMA:非加重結合法)は、Gene Expression Pattern Analysis Suite(GEPAS)を用いて実施した。
【0067】
インビボでの処理応答:
雌C57BL/6マウスは、NIH(Bethesda.MA)から購入した。NK細胞、T細胞及びB細胞リンパ球機能に障害のある雌SCIベージュマウスは、Charles Rivers(Wilmington,MA)から得たものであった。全ての動物は、実験の開始時点で6〜12週齢であった。動物の世話は、ミシガン大学がんセンター(University of Michigan Cancer Center)の施設手続きに準じて行なわれた。
【0068】
皮膚における生着は、10
5個のBl6メラノーマ細胞の皮下注射によって生じさせた。2ng/kgのpICのみまたはinvivoJetPEIと複合体化したpICを、腫瘍移植後7、11、15及び21日目に、腫瘍周辺注射によって投与した。さらなる処置群には、単剤としてのJetPEI及びプラセボ対照が含まれた。腫瘍体積をキャリパー測定によって推定し、V=L×W
2/2(式中、L及びWは、それぞれ、腫瘍の長さ及び幅を表す)として算出した。
【0069】
肺転移の代用モデルを4×10
5個のB16−eGFPまたは5×10
5個のSK−Mel−103−eGFPメラノーマ細胞の静脈内注射によって作製した。処置は、3、6、及び9日目に、1ng/kgのpICのみまたはinvivoJetPEIと複合体化したpICの静脈内注射によって行なわれた。投与14日後に肺を摘出し、外部転移を手作業で計数し、数及びサイズによって得点化した。あるいは、Illumatool TLS LT−9500蛍光システム(Lightools Research,Encinitas,CA,USA)及び腫瘍細胞からの放出蛍光をHamamatsu Orca 100 CCDカメラで記録した。パラフィン切片のヘマトキシリン−エオシン染色の解析によって、転移性病変を独立にモニタリングした。実験を5匹のマウスからなる群で行ない、2〜4回繰り返した。対照集団が不快症状または呼吸欠陥の兆候を示した場合には、マウスを安楽死させた。
【0070】
Tyr::N−RasQ61KマウスをC57BL/6バックグラウンドのInk4a/Arfノックアウトマウスと交配して自然発症メラノーマを生じさせた(Ackermannら、2005(非特許文献34))。皮膚でのメラノーマの誘導のために、マウスに、8〜10週齢で、220mgの7,12−ジメチルベン[a]アントラセン(DMBA)を1回塗布した。初期のメラノサイト新生物(直径が少なくとも1mmの病変)を発症した後、マウスを、単剤またはin vivoJetPEIと複合体化したpICとしての1ng/kgの腹腔内注射で週に2回処置した。メラノーマ及びほくろ(母斑)を計数し、そのサイズをキャリパーを用いて2つの直径で測定し、mm3で表す平均径腫瘍として表した。
【0071】
腫瘍のサイズは、PET−CT(陽電子放射断層撮影−コンピュータ断層撮影)でも評価した。PET−CT画像の探索及び取得は、小動物用のPET−CTシステムであるView Explore General Electrics(Fairfield,CT,USA)を用いて行なわれた。PET画像のイメージング及び取得のために15MBqの18F−FDG(2−フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース)を注射し、アルゴリズム3DOSEMを用いて再構築した。35KeV及び200μAのエネルギーを用いてCT画像を16枚の写真で取得し、これらの画像をFDKアルゴリズムを用いて再構築した。メラノーマ、転移、及び他の臓器を、ヘマトキシリン−エオシンで染色したパラフィン切片の解析によって独立にモニタリングした。
【0072】
透過電子顕微鏡法:
透過電子顕微鏡法(TEM)については、表示した細胞集団を0.1ソーレンセン緩衝液(pH7.5)ですすぎ、2.5%グルタルアルデヒド中で1.5時間固定し、その後、脱水し、スパー樹脂に包埋した。次に、このブロックを60〜100nm超薄切片で薄切し、銅グリッド上に拾い上げた。ルーチン解析のために、超薄切片を2%酢酸ウラニル及びクエン酸鉛で染色した。Philips CM−100透過電子顕微鏡(FEI,Hillsbrough,OR)及びKodak 1.6 Megaplusデジタルカメラで電子顕微鏡写真を取得した。
【0073】
共焦点及び蛍光顕微鏡法、GFP−LC3点状ドットの定量:
pCNA発現ベクターにクローニングされたeGFP−LC3融合体は、Gabriel Nunez(ミシガン大学がんセンター(University of Michigan Cancer Center))から贈与されたものであった。eGFP−LC3ならびに断片のeGFP−Rab7wt、eGFP−Rab7 T22N、eGFP−Rab5wt、eGFP−Cherry−LC3及びCherry−LC3を、安定な遺伝子導入用のpLVO−puroレンチウイルスベクターにクローニングした。メラノーマ由来細胞(すなわち、SK−Mel−103)にpLVO−eGFP−LC3を感染させ、ピューロマイシンで選択した。Leica AF6000蛍光顕微鏡を用いてGFP−LC3と関連する蛍光放出をイメージングし、LAS AF Vl.9(Leica,Solms,Germany)で画像を解析した。共焦点リアルタイム顕微鏡観察のために、本発明者らは、CO
2及び温度制御インキュベーションチャンバーに接続されたLeica TCS−SP2−AOBS−UV超スペクトル顕微鏡を用いた。LCS(Leica,Solms,Germany)で画像を解析した。共局在実験のために、50nMまたは200nMの濃度のリソトラッカー(商標)レッドまたはブルー(Invitrogen,Carlsbrad,CA)及びHoescht 33342(Invitrogen,Carlsbrad,CA)を、イメージングの10分前に5μg/mlの濃度で添加した。共局在画像は、LAS AF Vl.9(Leica,Solms,Germany)を用いて解析した。
【0074】
サイトカイン発現:
ヒトインターフェロンαを酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)によって培養上清中で測定した。ヒトIFN−α ELISAキット及び組換えhIFN−αをPBL Interferon Source(Piscataway,NY)から購入し、製造元のプロトコルに従って用いた。IFN−α発現レベルを骨髄由来マクロファージ(BMDM)及びB16メラノーマ細胞からリアルタイムPCRで測定した。BMDMは、以前に記載されているように調製し、プレーティングし、処理した(Celadaら、1984(非特許文献35))。β−アクチンで標準化した後、TaqManプライマー及びApplied Biosystemsから入手したプローブを用いて、Applied Biosystems 7700配列検出器で、IFIT−1 RNA転写物のリアルタイム定量PCR解析を行なった。
【0075】
統計解析:
生存データは、平均+/−s.e.mとして表す。差の統計解析は、両側スチューデントt検定により求めた。P<0.05を有意とみなした。インビボでの腫瘍増殖及び転移の統計評価については、一般化したマン−ホイットニーウィルコクソン検定を用いて、2群間の連続変数の値を比較した。<0.05のP値を有意とみなした。
【実施例1】
【0076】
LC3蛍光に基づく識別解析によるメラノーマ細胞におけるオートファジー誘導物質の同定、微細構造解析を通じたBO−110によるオートファジー細胞死の確認:
先に論じたように、(細胞死の誘導と生存の両方に関する)オートファジーの顕著な特徴は、細胞質から新たに生成したオートファゴソームへのオートファジータンパク質遺伝子8(ATG8)/LC3の再配置である。この観察に基づいて、GFP−LC3融合タンパク質の細胞分布の変化(すなわち、拡散パターンから局所的染色への変化)が、初期段階のオートファジーのマーカーとして用いられる。オートファゴソームの存在は、電子顕微鏡観察または光学顕微鏡観察によっても確認することができる。
【0077】
1.1.LC3に基づく蛍光解析:
薬物に対するメラノーマの応答におけるオートファジーの役割を検討するために、GFP−LC3に基づく識別解析を用いて、市販の化学療法剤及び免疫調節物質をスクリーニングした。GFPが付いたオートファゴソームLC3マーカーの誘導体を発現するレンチウイルスベクター(例えば、pLVO−eGFP−LC3)をメラノーマ細胞に安定にトランスフェクトした。
【0078】
ヒト細胞株SK−Mel−103を、その高転移性及び化学療法耐性の表現型に基づいて、初期のスクリーニング用のモデル系として選択した(Soengasら、2001(非特許文献36))。後のバリデーション研究は、多様な遺伝的バックグラウンドのヒト細胞株のパネルに対して行なわれた(下記参照)。
【0079】
種々の抗癌剤が、細胞の生存に大した影響を及ぼすことなく、局所的なGFP−LC3蛍光放出を誘導することが分かった。しかしながら、死誘導物質の中で、PEIとdsRNA模倣体のポリイノシン−ポリシチジル酸の複合体(BO−110)は、GFP−LC3フォーカスを働かせるのに特に有効であることが分かった。低用量(0.5〜1μg/ml)のBO−110中でインキュベートしてから4〜6時間以内に、細胞の約50%が顕著な点状のGFP−LC3染色を示した(
図1A、
図1Bの代表的な顕微鏡写真及び定量を参照されたい)。実際、動力学的解析によって、オートファジー誘導の標準的な陽性対照であるラパマイシン(Klionskyら、2008(非特許文献37))によるよりも速いGFP−LC3フォーカスの生成がBO−110によって示された(
図1B)。
【0080】
興味深いことに、後の時点で、BO−110処理は、SK−Mel−103の場合のように、標準的なDNA損傷剤(例えば、ドキソルビシンまたはエトポシド)に対して本質的に耐性があるメラノーマ細胞株でさえも、細胞死を誘導することができた。
【0081】
内在性LC3の解析により、オートファゴソーム形成時のこのタンパク質の特徴的な脂質化に対応する電気泳動移動度の変化(
図1C)及びGFL−LC3フォーカス形成の生成に対するATG5の必要性が示された。
【0082】
本発明の著者らは、pICを癌細胞におけるオートファジーと関連付けた過去の報告を知らなかった。そのため、以下の試験はこの化合物に重点を置いたが、それは、この化合物が、オートファジー及び腫瘍細胞死を誘導するdsRNAの潜在的な細胞内センサーについての理解を深めるための新しい要素を明らかにする可能性があったからである。
【0083】
1.2.細胞に対するBO−110効果の微細構造解析:
先のパラグラフで記載したBO−110で処理した細胞におけるGFP−LC3の局所的染色は、オートファゴソームの形成と一致している。しかしながら、異所性に発現したGFP−LC3の非特異的凝集(Klionskyら、2008(非特許文献37))の可能性を排除するために、電子顕微鏡法によって応答を独立に解析した(
図1D)。
【0084】
BO−110に対する初期の応答(5時間)は、オートファゴソームの顕著な特徴である、細胞破片を隔離する膜に結合した電子密度の高い構造の際立った蓄積を伴った(
図1D)。これらの構造のサイズ及び数は、光学顕微鏡観察でも細胞内顆粒として目に見えた(
図1E)。
【0085】
より後の時点で、BO−110による処理は細胞崩壊(
図1F、中央のパネル)を誘導し、この崩壊は、直径が500nmよりも大きい巨大な食空胞の形成を伴うことが電子顕微鏡観察で分かった(
図1F、右のパネル)。
【0086】
図2は、様々な時間で撮影された選択された蛍光顕微鏡写真によるオートファジー誘導の時間的推移のまとめを示す。これらは、全体的な細胞崩壊に至るプロセスであるオートファゴソームの形成を示す、拡散した染色から局所的な凝集への、経時的なEGFP再分布の顕微鏡写真に見ることができる。対照細胞は、実験期間の全体を通して、基礎レベルのLC3の蓄積を示す拡散した染色を示した。
【0087】
形質膜及び核膜の完全性が残っていたことと、BO−110で処理した細胞がアポトーシスプログラムの特徴的なクロマチン凝縮を示したことは興味深い。PEI(対照)は、オートファゴソームの数またはサイズに対してわずかな影響しか及ぼさなかったので(
図1D〜F)、オートファジーの誘導はBO−110に依存的であった。総合すると、これらの知見は、オートファゴソームの形成と、それに次ぐアポトーシス様の特徴を有する細胞死を伴う、BO−110の細胞傷害効果を裏付ける。
【実施例2】
【0088】
カチオン性分子と結合したpICを用いる様々なヒト及びマウスメラノーマ細胞株の感受性解析ならびにメラノサイトに対する選択性:
SK−Mel−103細胞を用いて実施した初期の研究で見出されたオートファジー促進性のBO−110の活性が、より広範な抗メラノーマ活性の現われであったか否かを明らかにするために、さらなる細胞株のセットを試験した。
【0089】
メラノーマの進行及び化学療法耐性に寄与することが知られている、BRAFまたはNRASの突然変異、INK4a/ARFもしくはPTEN遺伝子座の欠失、または様々な抗アポトーシス性Bcl−2ファミリーメンバーの上方調節などの、頻度の高いメラノーマ関連事象と関連付けるために、メラノーマ細胞を選択した。
【0090】
P53突然変異はメラノーマでは稀である(Soengas及びLowe、2003(非特許文献38))。しかしながら、p53はアポトーシス及びオートファジープログラムの活性化において重要な役割を果たし得るので、本発明者らは、この腫瘍抑制がBO−110の抗メラノーマ活性に厳密に必要であるのか否かを明らかにするために、突然変異体p53を発現するSK−Mel−28細胞株に対しても試験を行なった。さらに、種間の違いと関連すると思われる処理応答の違いを評価するために、メラノーマの免疫療法で広く用いられるモデルの一例として(Wenzelら、2008(非特許文献39))、マウス転移性メラノーマ細胞株B16も解析に含めた。同時に、本発明者らは、ヒト包皮から単離したメラノサイトも解析した。
ヒト転移性メラノーマ細胞株の遺伝的バックグラウンドを、表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
p53突然変異状況は、RT−PCRでエキソン2〜10を直接シークエンシングすることによって決定した。多型P72Rを有する試料はRと表示されている。p53の誘導性は、ドキソルビシン(0.5mg/ml、12時間)で処理した抽出物のイムノブロッティングによって決定した。p53の内在性レベルが高い株は、アステリスクを付けて表示されている。PTEN、Apaf−1、Casp−8、Bcl−2、Bcl−xL及びMcl−1レベルをイムノブロッティングで測定し、対照メラノサイトに対して標準化した。BRAF及びNRASの突然変異状況は、それぞれ、エキソン15及び3のPCR増幅ゲノム断片を直接シークエンシングすることによって決定した。ドキソルビシン(DOX;0.5μg/ml、30時間)に対する応答は、それぞれ、100〜70、70〜50、50〜30及び<30%の細胞死のパーセンテージを表す、++、+、−/+、−に分類されている。BO−110(1μg/ml、30時間)に対する応答は、それぞれ、100〜90、90〜60及び60〜40%の細胞死のパーセンテージを表す、+++、++、+に分類されている。p53の内在性レベルが高い株は、アステリスクを付けて表示されている。
【0093】
独立した薬剤としてまたは組み合わせて用いられるpIC及びPEIに対するこれらの細胞の各々の感受性を検証するために、これらの株を用いて、SK−Mel−103細胞株について実施例1で記載したのと同様に試験を実施した。結果を
図3にまとめる。
【0094】
試験した5つのメラノーマ細胞株(SK−Mel−19、SK−Mel−28、SK−Mel−103、SK−Mel−147、及びB16)は、BO−110による処理の後、同様の動力学及び感受性で死滅した(
図3A)。試験を実施した全てのメラノーマ株において、BO−110による初期のオートファジーの活性化の後には必ず細胞死が続いたことを指摘するのは重要なことである。
【0095】
電子顕微鏡観察により、p53突然変異体株のSK−Mel−28の場合でも、明らかなオートファゴソームが示された(
図3B)。
図3A及び(4つの独立した分離株に対応する株の代表的なデータを示す)
図4Bに描かれた用量応答曲線に示すように、処理の24時間後にSK−Mel−103メラノーマ細胞の70%の死を引き起こす条件下では、正常メラノサイトが依然として生存しており、オートファジーのマーカーを全く示さなかったことに留意することは重要なことである。
【0096】
さらに、
図4Aに示すように、幅広い濃度のBO−110に対して、メラノサイトにおける形態、顆粒化または細胞質GFP−LC3分布の変化は観察されなかった。
図4Cはまた、正常ヒト皮膚線維芽細胞にも、メラノーマ細胞よりも大きいBO−110への耐性があったことを示している。
【0097】
PEIがその選択性において腫瘍細胞にとって極めて重要であることがわかったのは興味深い。上に述べたように、PEIが処理に含まれない場合、pICの抗メラノーマ活性は70〜80%低下した(
図3A)。PEIがない場合、裸のpICは、メラノーマ細胞及びメラノサイトでほぼ効果がなく、オートファジーの誘導物質としてわずかな活性しか示さなかった(
図3B)。
【0098】
PEIは、エンドサイトーシスによるDNA及びRNA分子の取込みを促進するその能力のために、遺伝子療法における標準的なビヒクルである(Payne、2007(非特許文献40)に概説されている)。BO−110で処理したメラノーマ細胞に見られる多層構造(下の
図2Bの写真参照)は、実際に、エンドソーム−リソソームハイブリッド(アンフィソーム)のオートファゴソームへの到達を含む複数の融合事象と一致している(Maiuriら、2007(非特許文献41))。
【実施例3】
【0099】
PEIの非存在下及び存在下でのpICによるMDA−5の質的に異なる活性化:
DNAまたはRNA分子の好都合なエンドサイトーシスに加えて、PEIは、エンドソーム膨張を促進し、細胞質への遺伝材料の効率的な送達を可能にすることができる(Payne、2007に概説されている)。そのため、PEIは、pICが細胞質内センサーに接近するのに有利に働くことができる。メラノーマ分化関連遺伝子−5(MDA−5)は、これらのセンサーの1つであり(Akira、2006)、そのため、著者らは、このタンパク質がBO−110を介してメラノーマ細胞を死滅させるドライバーであるか否かを検討した。
【0100】
記載されているように(Kovasovicsら、2002;Barralら、2007)、細胞死の間、そのヘリカーゼドメインとカスパーゼ活性化動員ドメイン(CARD)を分離するタンパク質分解的切断をモニタリングすることによって、MDA−5の活性化を解析した。
【0101】
この解析は、PEI、pICまたはBO−110で処理したSK−Mel−28及びSK−Mel−147細胞由来の抽出物を、これらの抽出物を電気泳動にかけた後にイムノブロッティングすることによって実施された。細胞死の効率的な誘導の陽性対照としてボルテゾミブを用いた。結果を
図5に示す。
【0102】
興味深いことに、タンパク質イムノブロッティングによって、MDA−5のプロセッシングを誘導するPEI−pIC複合体BO−110の強力かつ持続的な能力が明らかになった(
図3A)。裸のpICは、顕著により低いレベルまで、そして、試験した細胞の全てにおいてではなく、持続的な形でもないが、このプロセッシングを誘導することができたか(SK−Mel−28細胞に対応するレーンはどれも、タンパク質分解的切断の存在の特徴となる30kDのバンド(これは、
図5のパネルA及びBの矢印の高さで出現するはずである)を示していない)、またはそれを持続することができなかった(
図5A参照。30kDのバンドの強度は、SK−Mel−147細胞におけるpIC処理の時間とともに減少する)。
【0103】
BO−110の細胞傷害活性に対するMDA−5の寄与を明確にするために、MDA−5の安定なノックダウン用のレンチウイルスベクターを介してMDA−5に相補的な短いヘアピンRNA(shRNA)をメラノーマ細胞に形質導入した(
図3Bのタンパク質イムノブロット参照)。MDA−5 shRNAは、対照細胞への検出可能な非特異的作用を伴わず、BO−110によるメラノーマ細胞死を顕著に低下させた(
図3C、p<0.05)。
【0104】
重要なことに、MDA−5の誘導及びプロセッシングは、単に、メラノーマ細胞における死機構の活性化の結果というだけではなかった。ボルテゾミブ(メラノーマの内在性経路と死受容体によるアポトーシス経路の両方を活性化することができるプロテアソーム阻害剤)による処理は、MDA−5のレベルまたはプロセッシングに効果がなかった(
図5A)。これらの結果は、BO−110及び他のアポトーシス促進性誘導物質による死プログラムの実行における主な機構的違いを示している。
【実施例4】
【0105】
オートファジーの薬理学的阻害剤はBO−110の細胞傷害活性を含む:
次に、アッセイは、BO−110誘導性細胞死の実行に関与する機構に焦点を当てた。3−メチルアデニン(3−MA)及びクロロキンは、それぞれ、オートファゴソーム形成またはオートリソソーム活性を妨害するその能力によるオートファジー機構の独立した検証によく用いられる(Maiuriら、2007(非特許文献41);Klionskyら、2008(非特許文献37))。
【0106】
この干渉がBO−110で処理したメラノーマ細胞で起こるか否かを調べるために、SK−Mel−103メラノーマ細胞に、BO−110または緩衝液対照(ビヒクル)による処理の12時間後に、3−メチルアデニンまたはクロロキンによる処理を施した。結果を
図6に示す。
【0107】
蛍光顕微鏡観察で示されるように(
図6A及び
図6B)、3−MAは、BO−110によるGFP−LC3フォーカス形成を阻止した。クロロキンの存在下で、オートファゴソームは蓄積したが、興味深いことに、この誘導は、死誘導物質として生産的ではなかった(
図6C、クロロキンの存在下で観察された死細胞のパーセンテージは、ペプスタチンA、E64d、または両方の組合せで観察されるものよりも少ないことが観察された)。そのため、これらの結果は、BO−110の細胞傷害活性がオートファゴソーム形成の受動的な副産物ではなく、リソソームの溶解活性がBO−110によるメラノーマ細胞死滅の不可欠なメディエーターであるというシナリオを支持する。
【実施例5】
【0108】
BO−110はオートファゴソーム/リソソーム融合を駆動して、後に死プログラムを働かせる:
オートリソソームがBO−110の重要なドライバーであるならば、BO−110処理の間、リソソームヒドロラーゼの妨害によって、メラノーマ細胞が保護されるはずである。このオルガネラには、重複する標的を有する複数の酵素が局在することができるので、リソソーム依存的活性を全て妨害するのは実現可能ではない(Fehrenbacher及びJaattella、2005(非特許文献42))。それでも、リソソーム活性に関する有用な情報は、広域スペクトルのプロテアーゼ阻害剤であるE64d及びペプスタチンAによって提供することができる。というのは、これらの化合物は、オートリソソーム中の様々なカテプシン(B、D、及びL)を効率的に妨害するからである(Klionskyら、2008(非特許文献37))。
そのため、緩衝液対照またはBO−110による処理の20時間後、細胞死に対するクロロキン、ペプスタチンAまたはE64dの効果を比較するために、試験を実施した。結果を
図6C(これは先に言及されている)に示す。注目すべきことに、ペプスタチンA及びE64dは、BO−110による細胞死の程度を50%低下させた。
【0109】
小胞が、(アンフィソームとして知られるハイブリッド構造を生成させるよう)複数のオートファゴソームを動員する、巨大なエンドソームを含む、以前に同定された巨大な多小胞構造に対応していたこと、及びこれらの小胞が、リソソームが動員されていないかもしくは機能不全であるかのいずれかの停止したオートファゴソームの結果ではなかったこと、またはオートファゴソームが、不十分な分解物質の蓄積の結果であったことを確認するために、メラノーマ細胞にGFPとCherry−LC3の融合体をトランスフェクトした。Cherry−GFP−LC3シグナルは、2つの蛍光タンパク質(Cherry及びGFP)が原因で、赤色と緑色の蛍光のオートファゴソームを生じさせるが、これらのシグナルは、オートリソソームの酸性環境では、GFPシグナル(緑色)を弱める。
【0110】
この戦略を用いて、
図6Cの赤色のみのLC3フォーカスの存在によって示されるように、実際に、BO−110は、ラパマイシンと同様、メラノーマ細胞におけるオートリソソームの形成を誘導することが明らかになった。クロロキンは、先の試験と一致して、このdsRNA模倣物のエンドソーム取込みに影響を及ぼすことなく(
図6D)、BO−110によって誘発されるメラノーマ細胞死を阻止した(FluoRed標識BO−110とGFP融合初期エンドソームタンパク質Rab5との共局在によって明らかにされている(
図6E))。同様の阻害的効果は、広域スペクトルのプロテアーゼ阻害剤であるE64d及びペプスタチンAならびに空胞ATPアーゼ遮断薬バフィロマイシンを用いて観察され(
図6D)、リソソームに依存的なBO−110の新しい作用様式を裏付けた。
【0111】
BO−110処理の間のリソソーム活性を独立してモニタリングするために、細胞をDQ−BSA(タンパク質分解酵素によって切断されない限り、その緑色蛍光がクエンチングされているBSAの誘導体)をプロセッシングする能力について試験した。
図6Fに示すように、DQ−BSAは、BO−110の存在下で効率的に切断された。その細胞透過性がpH依存的で、機能的リソソームの酸の中に取り込まれたときに赤色蛍光を放出する色素である、リソトラッカーレッドとの共局在によって示されているように、DQ−BSA放出がリソソームで検出された。この結果は、リソソーム活性をクロロキンで妨害したとき、BO−110で処理したSK−Mel−103細胞で観察されたDQ−BSAによる最小限の蛍光放出と対照的である(
図6F及び
図6G)。
【0112】
オートファジー過程の開始及び完全な発達を引き起こすBO−110の能力をさらに特徴付けるために、オートファゴソームとリソソームの融合を共焦点顕微鏡観察で可視化した。この目的のために、GFP−LC3を安定に発現するSK−Mel−103細胞を、BO−110または対照としての対応する緩衝液で処理し、リソトラッカー−レッドの存在下でインキュベートした。個々の細胞及び細胞集団に基づく、緑色蛍光と赤色蛍光(それぞれ、GFP−LC3融合体とリソトラッカーを表す)の二重放出解析によって、オートファゴソームとリソソームの明らかな共局在が示された(
図6H及び6Iの代表的な蛍光顕微鏡写真ならびに
図6Jの対応する定量を参照されたい)。この共局在が、BO−110によって誘発される応答の初期事象(処理後4〜8時間で既に検出可能)であり、組織的な細胞崩壊の前に起こったのは重要なことである。
【0113】
オートファゴソームがBO−110に応答して活性リソソームに融合することが明らかになったので、本発明者らは、これらのオルガネラがエンドソームと相互作用するのかまたはエンドソームに動員されるのかを評価した。
まず、後期エンドソームマーカーRab7(Luzioら、2007(非特許文献43))に融合したGFPを発現するメラノーマ細胞において、エンドソーム動態を評価した。基礎のエンドソーム生成及び分割(すなわち、漸進的なサイズの減少)は未処理のメラノーマ細胞で検出された(
図7Aの左のパネル)。しかしながら、BO−110処理は、エンドソーム活性を著しく増強させ、エンドソームの持続的かつ多重的な生成を誘導した(
図7Aの中央及び右のパネル)。これらのエンドソームは、GFP−Rab7及びリソトラッカーレッドの二重イメージングによって明らかになるように、リソソームで満たされていることが分かった(
図7B)。さらに、経時的顕微鏡観察によって、
図7Cの連続的な一連の融合事象にも示されているような、GFP−Rab7で装飾されたエンドソームへのリソソームの多重動員の高速動態が明らかになった。重要なのは、
図7B(右のパネル)に示すように、細胞がこのタンパク質の既知のドミナントネガティブ突然変異体であるRab7−T22Nを過剰発現した場合、エンドソーム−リソソーム融合が顕著に阻害されたことである。全体として、これらの結果から、BO−110で処理した腫瘍細胞におけるエンド/リソソームコンパートメントの動的動員が明らかになった。
【実施例6】
【0114】
BO−110はオートファジーをアポトーシスカスパーゼと結び付ける:
リソソームプロテアーゼは、複数のレベルで死プログラムに影響を及ぼすことができる(Maiuriら、2007(非特許文献41);Hoyer−Hansen及びJaatella、2008(非特許文献26))。ミトコンドリアの場合、それらは、活性酸素種(ROS)の産生を脱調節し、かつ/または標準的なアポトーシスカスパーゼ(調節性casp−9ならびにエフェクターcasp−3及び7)を働かせることができる。casp−8に依存的な外因経路も、リソソーム活性化に応答することができる(Fehrenbacher及びJaattella、2005(非特許文献42))。
BO−110の作用様式におけるROSの影響に取り組むために、ビタミンE、トロロクス(Trolox)またはタイロン、異なる抗酸化活性を有するスカベンジャー及び汎カスパーゼ阻害剤z−VAD−fmkの存在下で処理を行なった。これらの場合の各々における細胞死に関する結果を解析したときの結果を
図8Aに示す。ビタミンEで得られたデータは、ROSによって制御されたメラノーマにおけるアポトーシスを阻止するこれらの試薬の用量の言及された化学的抗酸化剤で得られた結果の代表例として示されている(Fernandezら、2006(非特許文献44))。図に示すように、これらの抗酸化剤の存在下では、BO−110による細胞死に対する顕著な効果は観察されなかった。その代わり、汎カスパーゼ阻害剤z−VAD−fmkは、BO−110による死滅を70%阻害した。まとめると、これらの結果は、カスパーゼ依存的機構がオートファジープログラムの下流を活性化したことを裏付けている。
【0115】
未処理(NT)(PEIを含まない緩衝液対照を除く)またはPEI、pIC、複合体BO−110もしくはカスパーゼ切断の既知の誘導物質であるボルテゾミブによる処理を受けてから様々な時間の後に回収された細胞抽出物のイムノブロッティングによって明らかにされているように、カスパーゼプロセッシングは、実際、BO−110によって効率的に促進された(
図8B及び
図8C)。
図8Bでは、転移性メラノーマの様々な株におけるカスパーゼ8及び9のアポトーシスプロセッシングを誘導するPEI、pIC及びBO−110の能力が比較されている。カスパーゼ9及び8の効果的な活性化は、試験した全てのヒトメラノーマ細胞株において、BO−110による処理の20時間後にはっきりと現われ、これは、ボルテゾミブで観察されたものと同様であった。さらに、BO−110によるカスパーゼプロセッシングの動力学及び程度は、BRAF(例えば、SK−Mel−19)、NRAS(SK−Mel−103、−147)、またはp53(SK−Mel−28)の突然変異状況に関係なく、極めて一貫性があった(
図5B)。
【0116】
図8Cは、SK−Mel−103株で実施した同様の試験の結果を示している。この試験では、アポトーシスカスパーゼ9及び8の他に、エフェクターカスパーゼ3及び7を含む、より完全な解析が行なわれた。同じ試験をSK−Mel−147株で実施し、同様の結果が得られた。SK−Mel−103及び147におけるcasp−9、−3及び7の効率的なプロセッシングは特に関連性があった。これらの株は、Apaf−1のレベルが低く、標準的な抗癌剤(例えば、ドキソルビシン、エトポシドまたはシスプラチン)に応答してcasp−9/Apaf−1アポトソーム(Fernandezら、2005(非特許文献31);Soengasら、2006(非特許文献45))を働かせるのが極めて非効率的であった(
図1Cのグラフを参照されたい)。そのため、これらの結果は、アポトーシスプログラムを活性化し、標準的な化学療法剤に対する固有の耐性機構を回避するBO−110の優れた能力を示している。
【実施例7】
【0117】
抗アポトーシスBcl−2ファミリーメンバーに対する代償効果の非存在下におけるBO−110による細胞死の活性化:
BO−110の作用様式をより詳細に解析するために、及びこの薬剤によって特有に活性化され得る事象を同定するために、薬物応答をボルテゾミブの効果と比較した。これもまた、メラノーマ細胞におけるアポトーシス機構の強力な活性化因子であるので、この薬剤を選択した(Wolterら、2007(非特許文献11);Fernandezら、2006(非特許文献44))。
【0118】
しかしながら、本発明者らは、ボルテゾミブとBO−110が機構的に別のものであると考えていた。ボルテゾミブは、プロテアソームを標的とし、リソソームを標的としない(Qinら、2005(非特許文献46))。さらに、
図5Aに示すように、ボルテゾミブは、MDA−5を誘導またはプロセッシングすることなくメラノーマ細胞を死滅させる。ボルテゾミブはまた、アポトーシス促進性NOXAの大量蓄積を促進することができるが、Bcl−2ファミリーのメンバーである、その抗アポトーシス性アンタゴニスト因子MCL−1の迅速かつ大幅な上方調節も誘導する(Fernandezら、2005(非特許文献31))ので興味深い。重要なのは、MCL−1は、プロテアソーム阻害に対する内部代償機構として働き、インビトロ及びインビボでのボルテゾミブの抗腫瘍形成効果を妨害することである(Wolterら、2007(非特許文献11);Qinら、2006(非特許文献47))。
【0119】
ボルテゾミブと(裸のまたはPEIと複合体化した)pICの類似性と相違を評価するために、メラノーマ細胞をこれらの化合物の各々とインキュベートし、処理後の様々な時点で抽出物を回収して、NOXA、MCL−1、及び他のBcl−2ファミリーメンバー(Bcl−xLまたはBcl−2)のレベルを評価した。結果を
図9に示す。
【0120】
図9のパネルA及びBに示すように、裸のpICは、SK−Mel−28またはSK−Mel−147メラノーマ細胞(それぞれ、p53 L145R突然変異またはp53wtを発現する細胞)において、一貫してまたは持続的にNOXAを誘導しなかった。他方、BO−110は、それぞれ、SK−Mel−28、SK−Mel−147及びSK−Mel−103における基礎レベルよりも35倍、10倍及び5倍大きくNOXAを誘導し(
図9のパネルA及びCのイムノブロット、ならびにSK−Mel−28細胞で得られた結果の
図9Bの代表的な定量を参照されたい)、この場合もやはり、裸のpICとPEIと複合体化したpICの示差的な活性が強調された。
【0121】
NOXAの抑制性調節因子に関して、MCL−1レベルは、BO−110によってごくわずかしか誘導されなかった(
図9A、及び
図9Bの最初のグラフ)。これは、ボルテゾミブとは対照的である。ボルテゾミブは、以前に記載されているように(Fernandezら、2005(非特許文献31))、NOXAを強力に活性化するが、MCL−1の同時蓄積を誘導する。他の抗アポトーシスBcl−2ファミリーメンバー(例えば、Bcl−2及びBcl−xL)もまた、BO−110によって影響を受けなかった(
図9CのSK−Mel−103のイムノブロットを参照されたい)。
【0122】
代償機構の非存在下では、細胞死を促進するのに比較的低いレベルのBO−110で誘導されるNOXAで十分である可能性がある。この仮説を検証するために、メラノーマ細胞に、NOXAのmRNA及びタンパク質を特異的に阻害することが以前に証明されているshRNA(Fernandezら、2005(非特許文献31))を形質導入し、不活性なshRNA対照を発現するレンチウイルスベクターを感染させた細胞を対照として用いた。
図9Dに示すように、shRNAによるNOXAタンパク質発現の50%低下は、BO−110によるNOXA上方調節を約50%阻害し、BO−110毒性を阻害した(
図9E)。
【0123】
次に、本発明者らは、BO−110によるNOXAの調節に対するこのタンパク質の必要性を明確にするために、MDA−5に対するshRNAを用い、以前の通りにではあるが、NOXAレベルを定量してアッセイを行なった。結果を
図9Fのグラフに示す。興味深いことに、MDA−5 shRNAは、他のBcl−2ファミリーメンバーに対する副次的な作用を伴わずに、NOXAタンパク質レベルを70%阻害した(
図9F)。
【0124】
まとめると、これらの結果は、NOXAの誘導によって駆動されるアポトーシス機構におけるMDA−5の新しい作用点を明らかにした。
【実施例8】
【0125】
免疫適格マウスにおける裸のpICとBO−110の示差的効力:
次に、pIC及びBO−110の抗メラノーマ活性をインビボで評価した。メラノーマモデルでは、自然免疫プログラムの効果的な活性化のために、裸のpICは、高用量でかまたは他の薬剤(例えば、タンパク質合成阻害剤)と組み合わせてかのいずれかで投与されなければならない。先の実施例で得られたデータは、pICがPELの存在下で顕著により強力であることを示唆した。
【0126】
まず免疫適格バックグラウンドで処置応答を解析した。形質導入されていないかまたは(蛍光イメージングによる検出を容易にするために)GFPが形質導入されているかのいずれかのB16マウスメラノーマ細胞を同系正常マウスに移植した。2つの戦略、すなわち、それぞれ、局所的な部位でのまたは遠隔転移としての腫瘍進行を評価するための、(i)皮下(s.c.)または(ii)静脈内への腫瘍細胞の注射を用いた。マウスをPEI、pICもしくはBO−110または100μlのグルコース5%(NT群)で処理した。
【0127】
図10Aに、B16による皮下異種移植片の作製のための実験戦略と投与及び処理スケジュールとをまとめる。処置時間で、2ng/kgの裸のpICまたはPEIと複合体化したpICの腫瘍周辺注射物を注射した。
【0128】
注目すべきことに、BO−110は、試験した全ての例でpICよりも優れていることが分かった。したがって、ビヒクル、PEIまたはpICのみを投与された、皮下で増殖するB16メラノーマを有するマウスは、過剰な腫瘍増殖が原因で、移植後15〜25日以内に屠殺しなければならなかった(
図10A)。同じ条件下で、BO−110処理群の皮下メラノーマは、検出されないかまたは顕著により小さいかのいずれかであった(
図10A)。
【0129】
図10Bに、Bl6−eGFPメラノーマ細胞を静脈内に移植するための実験戦略とその後のpIC、PEI、BO−110またはグルコース5%(NT群)による処理とをまとめる。この図には、屠殺した動物の肺の蛍光画像も示されている(
図10B及び肺転移定量(
図10C))。この実験において、BO−110は、蛍光イメージングで測定したとき、メラノーマ肺転移の代用モデルでも裸のpICよりも5倍強力であった。
【実施例9】
【0130】
IFNは、BO−110の死誘導特性を再現しない:
pICは、IFNによって誘起される細胞免疫の標準的な誘導物質である(Wenzelら、2008)。しかしながら、これまでの実施例で明らかにされたデータによって、pICが、PEIと複合体化されたときに、「プロフェッショナルな」免疫細胞におけるIFN媒介性応答とな異なり得る、細胞自律的な様式で作用することもできることが示唆された。この可能性を評価するために、B16メラノーマ細胞及びマクロファージを、IFN−αを分泌し、それに応答するその能力について試験した。RT−PCRによって、両方の細胞型が、BO−110による処理の後に、IFIT−1(テトラトリコペプチド反復を有するIFN誘導性タンパク質)などの標準的なIFN−α標的を活性化することが示された(
図11A)。PEIは、マクロファージにおけるIFN標的のpIC媒介性誘導にとって不可欠ではなかった(
図11A)。これらの細胞は、ウイルスdsRNAを効率的に感知することができるので、これは予想される。しかしながら、メラノーマ細胞は、裸のpICだけではIFIT−1を誘導することができなかった(
図11A)。
【0131】
メラノーマ細胞によるIFN−α産生の直接的な評価のために、組換えヒトIFN−αを参照対象として用いて、Elispotアッセイを行なった。BO−110処理の後にメラノーマ細胞によって分泌されるIFN−αレベルは、10pg/mlよりも少なかった。IFN−αがBO−110の代わりになることができるか否か(すなわち、IFN−α分泌がメラノーマ細胞死の主要な誘導物質であるか否か)を明らかにするために、増加量のこのサイトカインをメラノーマ細胞に添加した。興味深いことに、高用量のIFN−α(BO−110処理の後に分泌されるレベルよりも10倍多い)は、メラノーマ細胞生存に影響を及ぼすことができなかった(
図11B)。
【0132】
pICに対する応答がごく一時的であることを除けば、
図11Cに示すように、含まれた全ての遺伝子に、インターフェロンに対するインターフェロン応答が期待されることがマイクロアレイ試験によって示されたことに留意することも興味深い。対照的に、BO−110の効果は、維持されることに加えて、さらなる転写物にまで及んだ。
【0133】
そのため、これらの結果は、マクロファージ及びメラノーマ細胞におけるdsRNA模倣物の認識及び感知の本質的相違を示している。
【実施例10】
【0134】
BO−110は、重症免疫不全バックグランドで転移性増殖を阻害することができる:
メラノーマ細胞は免疫耐性であることが多いので、メラノーマ細胞に対するBO−110の直接的な毒性が高度免疫不全バックグラウンドでも有効であるか否かを試験した。メラノーマ免疫寛容と関連する最もよく見られるエフェクター機構は、NK、T及びB細胞シグナル伝達の欠損である(Kirkwoodら、2008(非特許文献14))。そのため、メラノーマ増殖を阻止する(単剤としてのまたはPEIと複合体化した)pICの効力を、NK、T及びB細胞リンパ球機能に障害があるマウス(SCIDベージュマウス)で試験した。
【0135】
肺転移の制御における処置効力をモニタリングするために、メラノーマ細胞をGFPで標識し、
図10に記載されているような処置スケジュールに従って静脈内注射した。B16メラノーマ(
図12パネルA、B及びC)ならびにSK−Mel−103(
図12、パネルD及びE)を、それぞれ、マウス及びヒトのメラノーマの代表例として解析した。
【0136】
両方の細胞モデルにおいて、BO−110は、肺におけるメラノーマの増殖を阻害することができた。
図12Aは、BO−110処理後に肺表面に見られるB16転移の数の著しい違いを示している(
図12Bの定量参照)。組織学的解析によっても、BO−110群におけるB16によって誘起される肺結節の数及びサイズの低下が確認された(
図12C)。同様の解析により、SK−Mel−103の播種性増殖の制御における(複合体化していないpICではなく)BO−110の明らかな抗腫瘍効果が示された(
図12パネルD及びE)。まとめると、本発明者らのデータは、適格な免疫系が存在しないSCIDベージュマウス(Croy及びChapeau、1990(非特許文献48))においてインビボで強力な抗メラノーマ活性を誘導するdsRNA模倣物の新規の作用様式を証明している。
【実施例11】
【0137】
BO−110ヒトメラノーマ動物モデルによる転移性増殖の阻害:
pICとBO−110の間の違いを比較するために、より関連性のある設定を用いた。Tyr::NRAS
Q61K×INK4a/ARF
−/−マウスは、ヒト疾患と同様の特徴を有するメラノーマを発症する(Ackermannら、2005(非特許文献34))。マウスをDMBA(Sigmaから入手した7,12−ジメチルベンズ[a]アントラセン)の単回局所処置を用いて処置した。色素性病変が1mmの直径に達したら、インビボ送達用に処方された対照PEI、裸のpICまたはPEIにコンジュゲートしたpICを腹腔内注射(i.p)によって週に2回投与した。
【0138】
この場合もやはり、腫瘍サイズの直接測定(
図13A及び13B)、PET−CTによる腫瘍の代謝活性(図l3C)ならびに組織学的解析(
図13A)によって示されているように、BO−110の抗腫瘍活性は、裸のpICよりも顕著に高いことが観察された。
【0139】
興味深いことに、BO−110は、副次的な毒性シグナル伴わずに、使用した処置投与量で無進行病変(
図13A)を有する時間枠を倍にした(
図13Dの解析参照)。
【0140】
これらの結果は、メラノーマ細胞の攻撃的挙動と戦うdsRNA類似体の投与に根拠を置く処置の実行可能性を支持する。
【実施例12】
【0141】
種々の腫瘍細胞に対するBO−110の細胞傷害活性:
メラノーマ中に存在し、dsRNAセンシング及びオートファジーに影響を及ぼす遺伝的及び後成的変化は、異なる癌タイプ間で保存されていない場合があるので、BO−110が他の新生物性悪性腫瘍で治療的に有効であることができるか否かは明白ではなかった。特に、膵臓、大腸、膀胱、脳、乳房、前立腺、肺及び卵巣の腫瘍は侵襲性が高く、また、1つには、死プログラムの活性化に多面性があるという理由で、種々の処理に耐性がある。
【0142】
BO−110が、幅広い作用スペクトルの新規の抗癌戦略に相当することができるか否かを明確にするために、上で言及した種類の癌に関する、一連の独立に単離された細胞株を、よく知られたNCI−60パネルから選択した(
図14)。したがって、まとめると、これらの株は、異なる遺伝的バックグラウンドの種々の腫瘍(すなわち、膵癌、大腸癌、膀胱癌、乳癌、前立腺癌、肺癌及び卵巣癌)に及ぶ。
図14に示すように、解析した細胞株は、メラノーマ参照対照と同様のBO−110に対する感受性を有していた。これらのデータから得られる当然の帰結は、BO−110は、オートファジーとアポトーシスの二重の誘導を働かせて、(正常コンパートメントの生存に影響を及ぼすことなく)メラノーマだけでなく、他の様々な腫瘍タイプ、例えば、膵癌、大腸癌、膀胱癌、乳癌、前立腺癌、肺癌及び卵巣癌に関する細胞の協調的かつ選択的死滅をもたらすことができるということである。
【実施例13】
【0143】
BO−110誘導性細胞死は、腫瘍細胞株におけるMDA−5、Noxa及びオートファジーの活性化に依存的である:
BO−110に対する感受性は、事前に(すなわち、腫瘍細胞タイプをもとに)予測することができないので、BO−110に対する応答を仲介するシグナル伝達カスケードを明確にする必要があった。メラノーマ細胞における(cDNAアレイに基づく)ハイスループットな遺伝子解析により、BO−110は、dsRNAセンサーのMDA−5、及びアポトーシス促進性因子のNOXAの強い上方調節を促進することができることが示された。興味深いことに、イムノブロッティングアッセイを用いて、本発明者らは、実際、(例えば、HCT116株またはMiaPaCa2株における)BO−110に対する感受性及び耐性は、MDA−5及びNOXAを誘導する細胞の能力と相関することを証明した(
図15)。上で示したBO−110のアポトーシス促進性の役割と一致して、感受性のある細胞株は、電気泳動移動度の変化として可視化することができるカスパーゼ−9の明らかなプロセッシングを示した(
図15)。