【文献】
Mario network,表面処理 表面改質/UV洗浄,[online],2007年 8月 9日,[2016年9月15日検索],URL,https://web.archive.org/web/20070809040015/http://www.m-n-w.com/hikari_teck.htm
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリアミド系樹脂により構成されるアウターチューブと、前記アウターチューブの先端に接続されたポリアミド系樹脂からなるバルーンと、前記アウターチューブのルーメンおよび前記バルーンの内部に挿通されてガイドワイヤルーメンを形成するインナーチューブとを備えてなり、
前記インナーチューブの先端部が、前記バルーンの先端部に固着されているとともに、前記インナーチューブの後端部が、前記アウターチューブの側面において開口するガイドワイヤポートを形成する前記アウターチューブの構成部分に固着されているラピッドエクスチェンジタイプのバルーンカテーテルであって、
前記インナーチューブはPEEK樹脂のみによって構成され、
前記インナーチューブの内径が0.39〜0.42mm、その肉厚が30〜50μmであり、前記インナーチューブの3点曲げ試験において、支点間距離を20mmとし、その中間点に曲げ荷重をかけて撓み量を5mmとしたときの当該曲げ荷重の大きさが1.5〜5.0gfであり、
少なくとも、前記バルーンの先端部に固着されている前記インナーチューブの先端部の外表面、および、前記アウターチューブの構成部分に固着されている前記インナーチューブの後端部の外表面には、PEEK樹脂の構成分子にOH基および/またはCOOH基が結合された分子構造を有する表面改質層が形成されており、
前記インナーチューブの先端部の外表面に形成されている前記表面改質層と前記バルーンの先端部との間、および、
前記インナーチューブの後端部の外表面に形成されている前記表面改質層と前記アウターチューブの構成部分との間に、接着剤層が介在していないことを特徴とするバルーンカテーテル。
前記インナーチューブを巻回するように折り畳まれた前記バルーンの外周を強固に締め付けた状態で当該バルーン部分に装着されているシースチューブを備えていることを特徴とする請求項1〜3に記載のバルーンカテーテル。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
末梢PTA(経皮的血管形成術)に使用されるバルーンカテーテルは、狭窄部の長さに応じた長いバルーン(例えば、40〜300mmであるもの)を備えている。
このような長いバルーンを備えた末梢PTA用のバルーンカテーテルは、狭窄部などの病変を通過させる際のプッシャビリティに劣るという問題がある。
【0006】
ここに、プッシャビリティの向上を図るために、インナーチューブの肉厚を大きくして強度を高くすることも考えられる。
【0007】
しかし、インナーチューブの肉厚を大きくすると、インナーチューブの外径が不可避的に大きくなるために、そのようなインナーチューブを備えたバルーンカテーテルは、細い血管部位に対する通過性能が損なわれることになる。
【0008】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の目的は、細い血管部位に対する通過性能に優れているとともに、狭窄部などの病変を通過させる際のプッシャビリティに優れたバルーンカテーテルを提供することにある。本発明の他の目的は、末梢PTAに好適に使用することのできるバルーンカテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明のバルーンカテーテルは、ポリアミド系樹脂により構成されるアウターチューブと、前記アウターチューブの先端に接続されたポリアミド系樹脂からなるバルーンと、前記アウターチューブのルーメンおよび前記バルーンの内部に挿通されてガイドワイヤルーメンを形成するインナーチューブとを備えてなり、
前記インナーチューブの先端部が、前記バルーンの先端部に固着されているとともに、前記インナーチューブの後端部が、前記アウターチューブの側面において開口するガイドワイヤポートを形成する前記アウターチューブの構成部分(ガイドワイヤポートの周囲におけるポリアミド系樹脂)に固着されているラピッドエクスチェンジタイプのバルーンカテーテルであって、
前記インナーチューブはPEEK樹脂
のみによって構成され、
前記インナーチューブの内径が0.39〜0.42mm、その肉厚が30〜50μmであり、前記インナーチューブの3点曲げ試験において、支点間距離を20mmとし、その中間点に曲げ荷重(垂直方向の荷重)をかけて撓み量を5mmとしたときの当該曲げ荷重の大きさが1.5〜5.0gf
であり、
少なくとも、前記バルーンの先端部に固着されている前記インナーチューブの先端部の外表面、および、前記アウターチューブの構成部分に固着されている前記インナーチューブの後端部の外表面には、PEEK樹脂の構成分子にOH基および/またはCOOH基が結合された分子構造を有する表面改質層が形成されており、
前記インナーチューブの先端部の外表面に形成されている前記表面改質層と前記バルーンの先端部との間、および、
前記インナーチューブの後端部の外表面に形成されている前記表面改質層と前記アウターチューブの構成部分との間に、接着剤層が介在していないことを特徴とする。
【0010】
このような構成のバルーンカテーテルによれば、機械的特性に優れているPEEK樹脂
のみによってインナーチューブが構成されていることにより、その肉厚を30〜50μmと、従来のバルーンカテーテルを構成するインナーチューブと比較して十分に小さくすることができるので、当該インナーチューブの外径、延いては、当該インナーチューブを備えたバルーンカテーテルのラッピング径(当該インナーチューブにバルーンを巻回したときの外径)を小さくすることができる。これにより、このバルーンカテーテルは、細い血管部位に対する通過性能に優れたものとなる。
【0011】
また、上記の3点曲げ試験における曲げ荷重が1.5gf以上と大きく、インナーチューブの曲げ剛性が高いので、当該インナーチューブを備えたバルーンカテーテルは、優れたプッシャビリティを発揮することができ、狭窄部などの病変にバルーンを通過させる際に当該バルーンの撓みを抑制することができる。
【0012】
また、上記の3点曲げ試験における曲げ荷重が5.0gf以下であることにより、当該インナーチューブを備えたバルーンカテーテルは、優れた血管追従性を発揮することができ、蛇行する血管の形状に追従してバルーンを変形させることができる。
【0014】
また、バルーンの先端部に固着されているインナーチューブの先端部の外表面、および、ガイドワイヤポートを形成するアウターチューブの構成部分に固着されているインナーチューブの後端部の外表面にはそれぞれ、特定の分子構造を有する表面改質層が形成され、当該表面改質層を介して、PEEK樹脂により構成されるインナーチューブの先端部とポリアミド系樹脂により構成されるバルーンの先端部とが固着されているとともに、PEEK樹脂により構成されるインナーチューブの後端部と、ポリアミド系樹脂により構成されるアウターチューブの構成部分とが固着されていることにより、それぞれの固着強度を十分に高いものとすることができる。
【0015】
また、インナーチューブの先端部の外表面に形成されている表面改質層とバルーンの先端部との間に接着剤層が介在しないことにより、インナーチューブの先端部とバルーンの先端部との固着部分(バルーンカテーテルの先端部分)の径が接着剤層によって拡大することを回避することができるので、細い血管部位に対する通過性能の向上効果が損なわれることはない。また、接着剤層が血液と接触するようなことも回避することができる。
【0016】
また、インナーチューブの後端部の外表面に形成されている表面改質層とガイドワイヤポートを形成するアウターチューブの構成部分との間に接着剤層が介在していないことにより、その製造過程における接着剤の塗布ムラに伴う固着強度のバラツキ、接着剤の過剰塗布による開口(ガイドワイヤポート)の閉塞などの不具合の発生を回避することができる。
【0017】
(2)本発明のバルーンカテーテルにおいて、前記アウターチューブがポリエーテルブロックアミド(PEBAX)により構成され、前記バルーンがナイロンにより構成されていることが好ましい。
【0018】
(3)本発明のバルーンカテーテルは、末梢PTAに使用され、前記バルーンの長さが40〜300mmであり、前記アウターチューブの後端に接続されたハブを備えてなることが好ましい。
【0019】
(4)本発明のバルーンカテーテルにおいて、前記インナーチューブを巻回するように折り畳まれた前記バルーンの外周を強固に締め付けた状態で当該バルーン部分に装着されているシースチューブ(バルーンカバー)を備えていることが好ましい。
【0020】
このような構成のバルーンカテーテルによれば、折り畳まれた状態のバルーンの外周が強固に締め付けられることで、ラッピング径を更に小さくすることができる。
このラッピング径は、シースチューブを取り外して使用する際にも、ある程度維持することができるので、このバルーンカテーテルは、細い血管部位に対する通過性能が更に優れたものとなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のバルーンカテーテルは、細い血管部位に対する通過性能に優れているとともに、狭窄部などの病変を通過させる際のプッシャビリティに優れ、更に血管追従性にも優れている。
本発明のバルーンカテーテルは、末梢PTAに好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1実施形態>
図1および
図2(
図2Aおよび
図2B)に示す本実施形態のバルーンカテーテル200は、下肢の末梢PTA(経皮的血管形成術)に使用される。
【0024】
このバルーンカテーテル200は、ポリアミド系樹脂からなるアウターチューブ15と、アウターチューブ15の先端に接続されたポリアミド系樹脂からなるバルーン35と、アウターチューブ15の後端に接続されたハブ60と、アウターチューブ15のルーメンおよびバルーン35の内部に挿通されてガイドワイヤルーメンを形成するインナーチューブ45と、アウターチューブ15のルーメンに挿通されているコアワイヤ55とを備えてなり、
インナーチューブ45の先端部46が、バルーン35の先端部36に固着されているとともに、インナーチューブ45の後端部47が、アウターチューブ15の側面において開口するガイドワイヤポートPを形成するアウターチューブ15の構成部分16に固着されているラピッドエクスチェンジタイプのバルーンカテーテルであって、
インナーチューブ45はPEEK樹脂によって構成され、
インナーチューブ45の内径が0.39〜0.42mm、インナーチューブ45の肉厚が30〜50μmであり、インナーチューブ45の3点曲げ試験において、支点間距離を20mmとし、その中間点に曲げ荷重をかけて撓み量を5mmとしたときの当該曲げ荷重の大きさが1.5〜5.0gfであり、
バルーン35の先端部36に固着されているインナーチューブ45の先端部46の外表面、および、ガイドワイヤポートPを形成するアウターチューブ15の構成部分16に固着されているインナーチューブ45の後端部47の外表面には、PEEK樹脂の構成分子にOH基および/またはCOOH基が結合された分子構造を有する表面改質層40Mが形成されている。
図1において、70はストレインリリーフである。
【0025】
図1に示すように、バルーンカテーテル200を構成するアウターチューブ15は、バルーン35との接続位置からハブ60との接続位置に至る全長にわたり樹脂(ポリアミド系樹脂)から構成されている。このアウターチューブ15には、バルーン35を拡張させるための流体を流通するルーメン(拡張ルーメン)が形成されている。
【0026】
アウターチューブ15の構成材料であるポリアミド系樹脂としては、ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、ポリエーテルブロックアミド〔PEBAX(登録商標)〕およびナイロンなどの熱可塑性樹脂を挙げることができ、これらのうちPEBAXが好ましい。
アウターチューブ15の硬度としては、D型硬度計による硬度で63〜80であることが好ましい。
なお、アウターチューブ15は、軸方向に沿って同じ硬度のポリアミド系樹脂により構成してもよいが、軸方向に沿って硬度の異なるポリアミド系樹脂を使用して一体的に形成することもできる。
【0027】
アウターチューブ15の外径は、通常0.70〜0.90mmとされ、好適な一例を示せば0.75mmとされる。
アウターチューブ15の内径は、通常0.55〜0.75mmとされ、好適な一例を示せば0.62mmとされる。
アウターチューブ15の長さは、通常1200〜1500mmとされ、好ましくは1300〜1400mmとされる。
図1に示すように、アウターチューブ15の後端部はハブ60に挿入されている。
【0028】
アウターチューブ15の先端には、ポリアミド系樹脂からなるバルーン35が装着されている。
バルーン35は、アウターチューブ15のルーメンを流通する液体によって拡張する。ここに、液体としては、生理食塩水や造影剤を挙げることができる。
【0029】
バルーン35の構成材料であるポリアミド系樹脂としては、ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、PEBAXおよびナイロンなどの熱可塑性樹脂を挙げることができ、これらのうち、ナイロン12などのナイロンが好ましい。
【0030】
拡張時におけるバルーン35の直径としては、通常1.5〜8mmとされ、好ましくは2〜6mmとされる。
バルーン35の長さとしては、通常40〜300mm、好ましくは50〜200mmとされ、好適な一例を示せば120mmとされる。
【0031】
バルーンカテーテル200を構成するインナーチューブ45は、アウターチューブ15のルーメンおよびバルーン35の内部(内腔)に挿通されており、このインナーチューブ45によりガイドワイヤルーメンが形成される。
【0032】
図2Aに示すように、インナーチューブ45の先端部46は、バルーン35の先端部36に固着されている。
また、
図2Bに示すように、インナーチューブ45の後端部47は、アウターチューブ15の側面において開口するガイドワイヤポートPを形成するアウターチューブ15の構成部分(ガイドワイヤポートPの周囲におけるポリアミド系樹脂部分)16に固着されている。
【0033】
インナーチューブ45は、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂からなる。
インナーチューブ45の構成材料であるPEEK樹脂は、下記化学式1(式中、nは繰り返し数である)に示す分子構造を有する、機械的特性に優れた結晶性の熱可塑性樹脂である。
【0035】
機械的特性に優れたPEEK樹脂でインナーチューブ45を構成することにより、このインナーチューブ45の肉厚を、従来のバルーンカテーテルを構成するインナーチューブと比較して十分に小さくすることができる。
【0036】
インナーチューブ45の肉厚(壁厚)としては通常30〜50μmとされ、好適な一例を示せば40μmとされる。
この肉厚(30〜50μm)は、従来のバルーンカテーテルを構成する、ポリアミド系樹脂からなるインナーチューブの肉厚(例えば60〜80μm)と比較して十分に小さいものである。
【0037】
インナーチューブ45の薄肉化により、当該インナーチューブ45の外径を小さくすることができる。
そして、拡張前(血管内の挿通時)におけるバルーン35は、インナーチューブ45を巻回するように折り畳まれているので、インナーチューブ45の外径を小さくすることによれば、当該インナーチューブ45にバルーン35を巻回したときの外径(ラッピング径)を小さくすることができる。
この結果、インナーチューブ45を備えた本実施形態のバルーンカテーテル200は、細い血管部位に対する通過性能に優れたものとなる。
【0038】
肉厚が30μm未満であるインナーチューブは、折れやすくなるために十分な曲げ剛性(強度)を有するものとならず、そのようなインナーチューブを備えたバルーンカテーテルによっては十分なプッシャビリティを発揮することができない。
【0039】
他方、肉厚が50μmを超えるインナーチューブによっては、後述する内径を確保することができなかったり、その外径を十分に小さくすることができなかったりする。また、肉厚が50μmを超えるインナーチューブは曲げ剛性(強度)が過大となる傾向があり、そのようなインナーチューブを備えたバルーンカテーテルは血管追従性に劣るものとなる。
【0040】
インナーチューブ45の内径は、通常0.39〜0.42mmとされ、好ましくは0.40〜0.42mm、好適な一例を示せば0.40mmとされる。
【0041】
インナーチューブの内径が0.39mm未満であると、そのようなインナーチューブのルーメンに所期のガイドワイヤ(例えば外径が0.014インチのガイドワイヤ)を挿通させることが困難となる。
【0042】
他方、インナーチューブの内径が0.42mmを超えると、当該インナーチューブの外径を十分に小さくすることができない場合があり、そのようなインナーチューブを備えたバルーンカテーテルによっては、細い血管部位に対する通過性能を十分に発揮することができない。
【0043】
インナーチューブ45の外径は、通常0.45〜0.52mmとされ、好ましくは0.46〜0.50mm、好適な一例を示せば0.48mmとされる。
【0044】
また、インナーチューブ45の3点曲げ試験において、支点間距離を20mmとして、その中間点に曲げ荷重(垂直方向の荷重)をかけて撓み量を5mmとしたときの当該曲げ荷重の大きさは、通常1.5〜5.0gfとされ、好ましくは2.0〜4.0gfとされる。
この曲げ荷重(1.5〜5.0gf)は、従来のバルーンカテーテルを構成する、ポリアミド系樹脂からなるインナーチューブについて測定される曲げ荷重(1.0gf未満)と比較して十分に大きいものである。
【0045】
この曲げ荷重が1.5gf未満であるインナーチューブを備えたバルーンカテーテルによっては所望のプッシャビリティを発揮することができず、狭窄部などの病変にバルーンを通過させようとしても、当該バルーンが撓んでしまって通過させることができない。
他方、この曲げ荷重が5.0gfを超えるインナーチューブを備えたバルーンカテーテルによっては、所望の血管追従性を発揮することができず、デリバリーが困難となる。
【0046】
インナーチューブ45の硬度としては、D型硬度計による硬度で85以上であることが好ましい。
【0047】
このような構成のインナーチューブ45を備えていることにより、本実施形態のバルーンカテーテル200は、上記のような長いバルーン35を備えているにも関わらず優れたプッシャビリティおよび血管追従性を発揮することができるので、下肢の末梢PTA用のバルーンカテーテルとして好適に使用することができる。
【0048】
本実施形態のバルーンカテーテル200においては、バルーン35の先端部36に固着されているインナーチューブ45の先端部46の外表面、および、ガイドワイヤポートPを形成するアウターチューブ15の構成部分16に固着されているインナーチューブ45の後端部47の外表面に、それぞれ、表面改質層40Mが形成されている。
【0049】
この表面改質層40Mは、上記化学式1に示したPEEK樹脂を構成する分子にOH基および/またはCOOH基が結合された分子構造を有している。
具体的には、下記化学式2に示すようなOH基が結合された分子構造、
下記化学式3に示すようなCOOH基が末端に結合された分子構造を有している。
【0052】
このような表面改質層40Mを介して、インナーチューブ45の先端部46とバルーン35の先端部36とが固着され、インナーチューブ45の後端部47とアウターチューブ15の構成部分16とが固着されていることにより、後述する実施例の結果からも明らかなように、それぞれの固着強度を十分に高いものとすることができる。
【0053】
表面改質層40Mを介在させることにより高い固着強度が得られる理由としては明らかではないが、表面改質層40Mの有するOH基(COOH基の有するOH基を含む)と、バルーン35やアウターチューブ15を構成するポリアミド系樹脂の有するアミド基とが水素結合しているからであると推測される。
【0054】
先端部46および後端部47の外表面に表面改質層40Mが形成されてなるインナーチューブ45を作製する方法としては、PEEK樹脂からなるインナーチューブ形成材料の先端部および後端部の外表面に紫外線照射、電子線照射、プラズマ放電、コロナ放電などの表面処理を施す方法を挙げることができる。これらのうち、紫外線を照射する方法が好ましい。
【0055】
インナーチューブ形成材料の先端部および後端部の外表面に紫外線照射する場合において、照射エネルギーとしては40,000〜120,000mJ/cm
2 であることが好ましく、更に好ましくは60,000〜100,000mJ/cm
2 とされる。
照射エネルギーが過少であると十分な固着強度を発揮することができない。他方、照射エネルギーが過剰であると、PEEKの主鎖が必要以上に切断され、インナーチューブの強度低下を招く。
【0056】
表面改質層40Mが外表面に形成されたインナーチューブ45の先端部46および後端部47を、それぞれ、バルーン35の先端部36およびアウターチューブ15の構成部分16に固着させる方法としては、熱収縮チューブなどを使用して加熱圧着する方法を挙げることができる。これにより、接着剤を使用しなくても、十分に高い強度で、インナーチューブ45を構成するPEEK樹脂と、バルーン35やアウターチューブ15を構成するポリアミド系樹脂とを固着させることができる。
【0057】
インナーチューブ45を構成するPEEK樹脂の融点と、バルーン35やアウターチューブ15を構成するポリアミド系樹脂の融点とは大きく異なるため、両者を熱溶着させることは不可能である。このため、従来においては、インナーチューブの構成材料としてPEEK樹脂を採用することができなかったのであるが、本発明者は、インナーチューブの外表面に表面改質層40Mを形成することによってこの問題を解決し、末梢PTA用のバルーンカテーテルにおいてPEEK樹脂により構成されるインナーチューブを実現させたのである。
【0058】
バルーンカテーテル200を構成するコアワイヤ55は、ストレート部56とテーパ部57とからなる。コアワイヤ55は、テーパ部57を先端側にしてアウターチューブ15のルーメン(拡張ルーメン)に挿通されている。
【0059】
図1に示すように、コアワイヤ55の後端はハブ60の内部まで到達している。これにより、アウターシャフト15の全長にわたって十分な剛性を確保することができる。
【0060】
コアワイヤ55は、ストレート部56の後端側において、アウターチューブ15の内周面(ガイドワイヤポートPの形成位置より後端側における内周面)に固着されている。
【0061】
本実施形態のバルーンカテーテル200において、ガイドワイヤポートPの形成位置からバルーン35の後端位置までの軸方向の距離(L3)は、バルーン35の長さによって異なるが、例えば120〜300mmとされる。
ガイドワイヤポートPの形成位置から、コアワイヤ55がアウターシャフト10の内周面に固着されている位置(
図1に示す固着位置80)までの軸方向の距離(L4)としては600mm以下であることが好ましく、更に好ましくは1〜150mmとされる。
【0062】
本実施形態のバルーンカテーテル200によれば、機械的特性に優れたPEEK樹脂によってインナーチューブ45が構成され、このインナーチューブ45の内径が0.39〜0.42mmであり、その肉厚が30〜50μmであるので、所期のガイドワイヤの挿通性を確保しながら、当該インナーチューブ45の外径、延いては、ラッピング径を小さくすることができる。これにより、本実施形態のバルーンカテーテル200は、細い血管部位に対する通過性能にも優れたものとなる。
【0063】
また、本実施形態のバルーンカテーテル200によれば、これを構成するインナーチューブ45について測定される上記の曲げ荷重(支点間距離:20mm、撓み量:5mm)が1.5〜5.0gfであることにより、長いバルーン35を備えているものでありながらプッシャビリティに優れ、狭窄部などの病変にバルーンを通過させる際に当該バルーンの撓みを抑制することができるとともに、血管追従性にも優れており確実にデリバリーすることができる。
【0064】
また、インナーチューブ45の先端部46および後端部47の外表面に、OH基および/またはCOOH基が付与された表面改質層40Mが形成され、当該表面改質層40Mを介して、インナーチューブ45の先端部46とバルーン35の先端部36とが固着されているとともに、インナーチューブ45の後端部47とアウターチューブ15の構成部分16とが固着されていることにより、それぞれの固着強度を十分に高いものとすることができる。
【0065】
また、インナーチューブ45の先端部46とバルーン35の先端部36とを、接着剤を使用することなく固着することができるので、バルーンカテーテル200の先端部分の径が接着剤層によって拡大するようなことはなく、インナーチューブ45の構成材料としてPEEK樹脂を採用したことによる効果(細い血管部位に対する通過性能の向上効果)が損なわれるようなことはない。
【0066】
また、インナーチューブ45の後端部47と、アウターチューブ15の構成部分16とを、接着剤を使用することなく固着することができるので、接着剤を使用した場合の問題(例えば、接着剤の塗布ムラに起因して接着不良を生じたり、過剰に塗布された接着剤によってガイドワイヤポート(開口)が塞がれたり、接着剤が血液に接触したりするような問題)を回避することができる。
【0067】
本実施形態のバルーンカテーテル200は、使用前の形態として、インナーチューブ45を巻回するように折り畳まれているバルーン35の外周を強固に締め付けた状態で当該バルーン35の部分に装着されたシースチューブ(バルーンカバー)を備えていることが好ましい。
【0068】
図3(A)は、本発明の範囲外であるバルーンカテーテルにおいて、外径0.57mm、内径0.42mm、肉厚75μmのインナーチューブ41を巻回するように折り畳まれたバルーン径3.0mmのバルーン31の部分(外周)にシースチューブ51が着脱自在に緩く装着されている状態を示す断面写真である。
【0069】
図3(B)は、本実施形態のバルーンカテーテル200において、外径0.48mm、内径0.40mm、肉厚40μmのインナーチューブ45を巻回するように折り畳まれたバルーン径3.0mmのバルーン35の部分にシースチューブ52が装着され、このシースチューブ52によって当該バルーン35の外周が強固に締め付けられている状態を示す断面写真である。
【0070】
図3(A)に示すように、シースチューブ51が緩く装着されているバルーン31には折り畳まれたことによる空隙が認められる。
他方、
図3(B)に示すように、シースチューブ52によって外周が強固に締め付けられているバルーン35には、そのような空隙は認められず、このようなシースチューブ52を装着することにより、そのラッピング径を更に小さくすることができる。
【0071】
また、このラッピング径は、バルーン35の部分からシースチューブ52を除去した後(バルーンカテーテル200の使用時)においても、そのサイズをある程度維持することができるので、このようなバルーンカテーテル200は、細い血管部位に対する通過性能に更に優れたものとなる。
【0072】
バルーン35の外周を強固に締め付けることのできるシースチューブ51は、バルーン35の外周に収縮チューブを装着し、この収縮チューブを熱収縮させることによって形成することができる。
ここで、収縮時においてバルーン35が受ける熱の影響を少なくする観点から、収縮チューブは60℃以下(例えば55〜60℃程度)で収縮可能なものから選択することが好ましい。このようにして装着されたシースチューブ51は、バルーンカテーテル200の使用時において、例えば、これを引き裂くことによって容易に除去することができる。
【0073】
<第2実施形態>
本実施形態のバルーンカテーテル300は、ガイドワイヤポートPの近傍における構成が異なっていること以外は第1実施形態と同様のバルーンカテーテルである。
【0074】
図4に示すように、バルーンカテーテル300を構成するインナーチューブ48の後端部49は、アウターチューブ17の側面において開口するガイドワイヤポートPを形成するアウターチューブ17の構成部分18に固着されている。
【0075】
アウターチューブ17は、ポリアミド系樹脂により構成されている。
図4に示すように、構成部分18は、インナーチューブ48とほぼ同径のチューブ状であり、外形上はインナーチューブの一部(後端部分)を構成するものであるが、ポリアミド系樹脂により構成されている「アウターチューブ17の」構成部分に相当する。
すなわち、本発明における「ガイドワイヤポートを形成するアウターチューブの構成部分」は、構成部分18のようなチューブ状の部分であってもよい。
【0076】
本実施形態のバルーンカテーテル300において、インナーチューブ48は、PEEK樹脂により構成されており、アウターチューブ17の構成部分18に固着されているインナーチューブ48の先端部および後端部49の外表面には、表面改質層40Mが形成されている。この表面改質層40Mは、第1実施形態のバルーンカテーテル200を構成するインナーチューブ45の先端部46および後端部47の外表面に形成されている表面改質層40Mと同様である。
【0077】
図4に示したようなガイドワイヤポート近傍の構成を形成する方法としては、PEEK樹脂からなるインナーチューブ形成材料の先端部および後端部の外表面に表面改質層40Mを形成してインナーチューブ48を作製し、このインナーチューブ48の後端部49を、ポリアミド系樹脂からなる接続チューブ(アウターチューブ17の構成部分18の形成材料)の先端部に挿入して熱収縮チューブなどを使用して加熱圧着することにより、インナーチューブ48の後端部49と接続チューブの先端部とを表面改質層40Mを介して固着して、インナーチューブ48と接続チューブとを連結し、このようにして得られた連結チューブの先端部(表面改質層が形成されたインナーチューブ48の先端部)とバルーンの先端部とを表面改質層を介して固着するとともに、連結チューブの後端部(接続チューブの後端部)を、ガイドワイヤポートPの周囲におけるアウターチューブ17の構成部分と熱溶着させて、接続チューブをアウターチューブ17の構成部分18として一体化させる方法を挙げることができる。
【0078】
本実施形態のバルーンカテーテル300によれば、第1実施形態のバルーンカテーテル200と同様の効果を奏することができる。
また、本実施形態のバルーンカテーテル300によれば、その製造工程において、PEEK樹脂からなるインナーチューブ48と、ポリアミド系樹脂からなる接続チューブとを予め連結しておくことにより、通常の熱溶着によって、インナーチューブ48とアウターチューブ17とを固着することができる。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものでなく、種々の変形が可能である。
例えば、アウターチューブおよびインナーチューブは二層構造のものであってもよい。この場合において、アウターチューブの外層がポリアミド系樹脂により構成され、インナーチューブの外層がPEEK樹脂により構成される。
【0080】
本発明のバルーンカテーテルは、末梢PTAに使用されるだけでなく、PTCA(経皮的冠動脈形成術)に使用することもできる。
本発明のバルーンカテーテルは、細い血管部位に対する通過性能に優れているとともに、高い耐圧性(バルーンの拡張・収縮を繰り返してもインナーチューブが不可逆的変形を起こさずに、ガイドワイヤの摺動性を維持することができるという優れた耐スタック性)を発揮することができるので、そのような性能が特に要求されるPTCAにも好適に使用することができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0082】
<実施例1>
(1)インナーチューブの作製:
外径0.48mm、内径0.40mm、肉厚40μm、長さ330mmのPEEK樹脂からなるインナーチューブ形成材料を準備し、このインナーチューブ形成材料の先端部(チューブ先端から10mm程度)および後端部(チューブ後端から10mm程度)のそれぞれの外表面に紫外線照射することによりインナーチューブを作製した。ここに、紫外線照射条件は下記のとおりである。
【0083】
・照射装置:2分岐ライトガイドを備えた紫外線照射装置「LC8」(浜松ホトニクス(株)製)
・照射強度=696mW/cm
2 (352mW/cm
2 +344mW/cm
2 )
〔照度計「LIGHT POWER METER Model C6080−13」(浜松ホトニクス(株)製)により測定〕
・照射時間=3分間
・照射エネルギー=125J/cm
2
【0084】
(2)インナーチューブについての曲げ荷重の測定:
このようにして作製したインナーチューブについて、下記のようにして3点曲げ試験を行うことにより曲げ荷重(支点間距離:20mm、撓み量:5mm)を測定した。
図11に示すように、インナーチューブを挿通させるための溝(図示省略)が円周方向に沿って形成されているロール状の支持体911,912を、両者の軸間距離(支点間距離)が20mmとなるように配置し、前記溝に挿通させることによってインナーチューブ45を支持体911,912上に載置した。同図における92および93は、それぞれ、インナーチューブ45が支持体911,912から脱落するのを防止するためのチューブ保持手段である。
なお、インナーチューブ45の両端は固定されておらず、また、チューブ保持手段92,93は、インナーチューブ45を摺動自在に保持しているため、支持体911,912に載置されているインナーチューブ45は、軸方向へ自由に移動することができる。
支持体911,912に載置されているインナーチューブ45に対して、支持体911,912の中間点に相当する当該インナーチューブ45の軸方向位置において垂直方向の荷重である曲げ荷重Fをかけて、荷重計94によって測定される当該曲げ荷重Fの大きさと、垂直方向の変位である撓み量Sとの関係を測定した。ここに、試験は室温下で行い、撓み速度を10m/分とした。
この結果、撓み量Sを5mmとしたときの曲げ荷重Fの大きさは2.92gfと大きいものであった。
【0085】
(3)バルーンカテーテルの製造:
バルーン長80mm、バルーン径3.0mmのナイロン12からなるバルーンと、外径0.75mm、内径0.62mm、長さ1400mmのPEBAX(Pebax7233)からなるアウターチューブを準備し、熱融着機を使用して、上記(1)で得られたインナーチューブの先端部とバルーンの先端部とを固着するとともに、このインナーチューブの後端部と、ガイドワイヤポートを形成するアウターチューブの構成部分とを固着することにより、
図1および
図2(
図2Aおよび
図2B)に示したような末梢PTA用のバルーンカテーテル(第1実施形態に係る本発明のバルーンカテーテル)を製造した。
【0086】
<実施例2>
バルーン長150mm、バルーン径3.0mmのナイロン12からなるバルーンを使用したこと以外は実施例1と同様にして末梢PTA用のバルーンカテーテルを製造した。
【0087】
<実施例3>
バルーン長150mm、バルーン径2.5mmのナイロン12からなるバルーンを使用したこと以外は実施例1と同様にして末梢PTA用のバルーンカテーテルを製造した。
【0088】
<実施例4>
バルーン長150mm、バルーン径2.0mmのナイロン12からなるバルーンを使用したこと以外は実施例1と同様にして末梢PTA用のバルーンカテーテルを製造した。
【0089】
<比較例1>
外径0.57mm、内径0.42mm、肉厚75μm、長さ330mmの二層構造(Pebax7233/HDPE)のインナーチューブと、バルーン長80mm、バルーン径3.0mmのナイロン12からなるバルーンと、外径0.85mm、内径0.71mm、長さ1400mmのPEBAX(Pebax7233)からなるアウターチューブを準備し、熱融着機を使用して、インナーチューブの先端部とバルーンの先端部とを固着(熱溶着)するとともに、このインナーチューブの後端部と、ガイドワイヤポートを形成するアウターチューブの構成部分とを固着(熱溶着)することにより、末梢PTA用のバルーンカテーテル(従来公知のバルーンカテーテル)を製造した。
この比較例で使用したインナーチューブについて、実施例1(2)と同様にして、3点曲げ試験を行ったところ、撓み量を5mmとしたときの曲げ荷重の大きさは0.94gfであった。
【0090】
<FTIR分析(表面改質層の確認)>
実施例1(1)で使用したインナーチューブ形成材料(試料1)の先端部および後端部の外表面、実施例1(1)で作製したインナーチューブ(試料2)の先端部および後端部の外表面、実施例1(1)で作製したインナーチューブの先端部および後端部の外表面を切削加工して得られたチューブ(試料3)において新たに露出させた先端部および後端部の外表面の各々について、顕微FTIR「LUMOS」(Bruker Optics社製)のATR法(Geプリズム使用)を用いてチューブ表面のIRスペクトルを測定した。
試料1〜3の各々の先端部の外表面について測定されたIRスペクトル(後端部のIRスペクトルも先端部と同様であった)をそれぞれ
図5〜
図7に示す。
【0091】
なお、上記の試料3は、試料2の先端部および後端部の外表面を電動切削工具「Minimo」〔ミニター(株)製〕により切削して作製したものであり、切削膜厚は、デジタル顕微鏡「VHX−1000」〔(株)キーエンス製〕により測定した切削前後の外径(切削前の外径:0.487mm,切削後の外径:0.464mm)から、0.0115mm(肉厚の約30%)と算出された。
【0092】
試料1に係るIRスペクトル(
図5)と、試料2に係るIRスペクトル(
図6)を対比すると、試料2に係るIRスペクトルにおいて、3400cm
-1付近にピークが認められることから、紫外線照射によって−OH基が付与されたものと推測される。
また、試料2に係るIRスペクトルにおいて、3200cm
-1付近に微少なピークが認められ、ピークがブロードである(2500cm
-1を超える範囲まで広がっている)こと、1720cm
-1付近にカルボニル基のピークが見られることから、紫外線照射によって−COOH基が付与されたものと推測される。
以上のことから、試料2の先端部および後端部の少なくとも外表面付近には、上記化学式2に示したようなOH基が結合された分子構造、および、上記化学式3に示したようなCOOH基が末端に結合された分子構造が存在している(改質されている)と考えられる。
【0093】
また、試料3に係るIRスペクトル(
図7)は、試料1に係るIRスペクトル(
図5)と同様であり、試料2に係るIRスペクトル(
図6)において認められたピークが消失していることから、改質されているのは表面付近のみで内部は改質されていないことが確認された。このことから、試料2(実施例1のバルーンカテーテルを構成するインナーチューブ)の先端部および後端部の外表面には表面改質層が形成されていることが理解される。
【0094】
<バルーンプロファイルの測定(通過性能)>
孔径が0.50mmから0.90mmまで0.05mm刻みに増大し、長さが5mmの9個の貫通孔が形成されてなるプロファイルチェッカーを使用して、実施例2〜4で得られた末梢PTA用バルーンカテーテルの各々について、インナーチューブを巻回するように折り畳まれている状態のバルーンが通過可能な貫通孔の最小孔径を測定した。
【0095】
実施例2で得られたバルーンカテーテルを構成するバルーン径3.0mmのバルーンが通過可能な最小孔径は0.75mmであり、その通過性能は、バルーン径が1.5〜2.0mmのバルーンを備えた市販のバルーンカテーテルに相当するものであった。
また、実施例3で得られたバルーンカテーテルを構成するバルーン径2.5mmのバルーンが通過可能な最小孔径は0.70mmであり、その通過性能は、バルーン径が1.5〜2.0mmのバルーンを備えた市販のバルーンカテーテルに相当するものであった。
また、実施例4で得られたバルーンカテーテルを構成するバルーン径2.0mmのバルーンが通過可能な最小孔径は0.65mmであり、その通過性能は、バルーン径が1.2mmのバルーンを備えた市販のバルーンカテーテルに相当するものであった。
【0096】
次に、実施例4で得られたバルーンカテーテルについて、推奨拡張圧(NP)で10秒間にわたりバルーンを拡張させた後、拡張させるための液体を抜いてバルーンを収縮させ、上記と同様にしてバルーンが通過可能な最小孔径を測定したところ、
図8に示すように0.65mmの貫通孔を通過させることができた。これにより、バルーンを拡張させた後においても、同等の通過性能を維持することが確認された。
【0097】
<プッシャビリティ性能の評価試験(1)>
実施例1および比較例1により得られた末梢PTA用バルーンカテーテルの各々について、下記方法によりプッシャビリティ性能を評価した。
【0098】
(試験方法)
カテーテル評価装置「IDTE2000」(Machine Solution Inc.製)を使用し、37±2℃に温度調整された当該評価装置の水槽内に設置されている模擬血管内にガイドワイヤを挿入し、このガイドワイヤに沿わせてバルーンカテーテルを模擬血管内に挿入した。その後、カテーテル押込用ローラにバルーンカテーテルを固定し、このカテーテル押込用ローラを稼働させて機械的にバルーンカテーテルを模擬血管内に押し進めた(押込距離=4cm,押込速度=10cm/min)。
手元側荷重測定用ロードセルおよび先端側荷重測定用ロードセルを用いて、押込距離に従って手元側および先端側の荷重変化をそれぞれ測定し、測定終了後、手元側荷重の最大値(F
P-MAX )、および手元側荷重が最大値(F
P-MAX )を示したときの先端側荷重値の値(F
D )より、下記式に基いて伝達率を算出した。
【0099】
伝達率(%)=(F
D )/(F
P-MAX )×100
【0100】
その結果、実施例1により得られたバルーンカテーテルの伝達率は32.8%(53.2g/162.4g×100)、比較例1により得られたバルーンカテーテルの伝達率は11.4%(17.2g/150.5g)であった。
この結果から、実施例1により得られた末梢PTA用バルーンカテーテルは、バルーンが長くてインナーチューブの肉厚が小さいものでありながら、プッシャビリティ性能に優れていることが理解される。
【0101】
<プッシャビリティ性能の評価試験(2)>
下肢サーキットモデルのLt−ATA(前脛骨動脈)に、長さ10cm、狭窄径0.64mmの狭窄モデルをセットした。
次に、実施例4で得られた末梢PTA用バルーンカテーテルについて、同側アプローチで狭窄モデルがセットされたLt−ATAにバルーン(バルーン長150mm、バルーン径2.0mm)をマニュアルでデリバリーしたところ、このバルーンは狭窄モデルを通過することができた。
図9は、このときの状況を示す写真である。同図に示すように、バルーンの先端部分が狭窄モデルを通過しており、狭窄モデルの基端側に位置するバルーン部分において、撓み・蛇行は認められなかった。
【0102】
なお、3点曲げ試験により測定された曲げ荷重(支点間距離:20mm、撓み量:5mm)の異なるインナーチューブを用いて製造した種々のバルーンカテーテルについて同様の評価試験を行った結果、上記のような優れたプッシャビリティ性能は、この曲げ荷重が1.5gf以上のインナーチューブを用いることにより達成できることが確認された。
【0103】
対照として、バルーン超150mm、バルーン径2.0mmのバルーンと、3点曲げ試験により測定された曲げ荷重(支点間距離:20mm、撓み量:5mm)が1gf未満のインナーチューブとを備えた市販のバルーンカテーテルについて上記と同様の評価試験を行った結果、このバルーンカテーテルを構成するバルーンは狭窄モデルを通過することができなかった。
図10は、このときの状況を示す写真である。同図に示すように、狭窄モデルの基端側において、バルーンが撓んで蛇行が認められた。
【解決手段】アウターチューブ15と、バルーン35と、インナーチューブ45と、コアワイヤ55とを備え、インナーチューブ45の先端部46が、バルーン35の先端部36に固着されているとともに、インナーチューブ45の後端部47が、アウターチューブ15の構成部分16に固着されているラピッドエクスチェンジタイプのバルーンカテーテルであって、インナーチューブ45はPEEK樹脂によって構成され、インナーチューブ45の内径が0.39〜0.42mm、その肉厚が30〜50μmであり、3点曲げ試験により測定される曲げ荷重が1.5〜5.0gfである。