(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222785
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】操舵支援装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20171023BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20171023BHJP
B60R 21/00 20060101ALI20171023BHJP
G06T 7/60 20170101ALI20171023BHJP
B62D 137/00 20060101ALN20171023BHJP
【FI】
G08G1/16 C
B62D6/00
B60R21/00 624F
B60R21/00 624C
G06T7/60 200J
B62D137:00
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-158335(P2015-158335)
(22)【出願日】2015年8月10日
(65)【公開番号】特開2017-37473(P2017-37473A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2016年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 明博
【審査官】
岩田 玲彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−069341(JP,A)
【文献】
特開2014−122965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/16
B60R 21/00
B62D 6/00
G06T 7/60
B62D 137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両が走行する道路の車線幅に基づいてドライバのハンドル操作を支援する支援制御の介入タイミング及び制御量を決定する操舵支援装置であって、
自車両の左右両側の車線の車線幅を設定する車線幅設定部と、
自車両の左右両側の車線の有無の車線状態を監視し、前記車線状態の遷移を判断する車線状態遷移判断部と
を備え、
前記車線幅設定部は、前記車線状態が自車両の左右両側に車線が存在しない状態から自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて前記車線幅を予め設定した値に設定することを特徴とする操舵支援装置。
【請求項2】
自車両が走行する道路の車線幅に基づいてドライバのハンドル操作を支援する支援制御の介入タイミング及び制御量を決定する操舵支援装置であって、
自車両の左右両側の車線の車線幅を設定する車線幅設定部と、
自車両の左右両側の車線の有無の車線状態を監視し、前記車線状態の遷移を判断する車線状態遷移判断部と
を備え、
前記車線幅設定部は、前記車線状態が自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて前記車線幅を設定し、自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態で互いに反対側の車線状態からの遷移であると判断された場合、前記車線幅を遷移前の値に保持することを特徴とする操舵支援装置。
【請求項3】
自車両が走行する道路の車線幅に基づいてドライバのハンドル操作を支援する支援制御の介入タイミング及び制御量を決定する操舵支援装置であって、
自車両の左右両側の車線の車線幅を設定する車線幅設定部と、
自車両の左右両側の車線の有無の車線状態を監視し、前記車線状態の遷移を判断する車線状態遷移判断部と
を備え、
前記車線幅設定部は、前記車線状態が自車両の左右両側に車線が存在しない状態から自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて前記車線幅を予め設定した値に設定し、自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態で互いに反対側の車線状態からの遷移であると判断された場合、前記車線幅を遷移前の値に保持することを特徴とする操舵支援装置。
【請求項4】
自車両が走行する道路の車線幅に基づいてドライバのハンドル操作を支援する支援制御の介入タイミング及び制御量を決定する操舵支援装置であって、
自車両の左右両側の車線の車線幅を設定する車線幅設定部と、
自車両の左右両側の車線の有無の車線状態を監視し、前記車線状態の遷移を判断する車線状態遷移判断部と
を備え、
前記車線幅設定部は、前記車線状態が自車両の左右両側に車線が存在する状態から自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて遷移前の前記車線幅を設定時間だけ保持することを特徴とする操舵支援装置。
【請求項5】
自車両が走行する道路の車線幅に基づいてドライバのハンドル操作を支援する支援制御の介入タイミング及び制御量を決定する操舵支援装置であって、
自車両の左右両側の車線の車線幅を設定する車線幅設定部と、
自車両の左右両側の車線の有無の車線状態を監視し、前記車線状態の遷移を判断する車線状態遷移判断部と
を備え、
前記車線幅設定部は、前記車線状態が自車両の左右両側に車線が存在しない状態から自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて前記車線幅を予め設定した値に設定し、自車両の左右両側に車線が存在する状態から自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて遷移前の前記車線幅を設定時間だけ保持することを特徴とする操舵支援装置。
【請求項6】
自車両が走行する道路の車線幅に基づいてドライバのハンドル操作を支援する支援制御の介入タイミング及び制御量を決定する操舵支援装置であって、
自車両の左右両側の車線の車線幅を設定する車線幅設定部と、
自車両の左右両側の車線の有無の車線状態を監視し、前記車線状態の遷移を判断する車線状態遷移判断部と
を備え、
前記車線幅設定部は、前記車線状態が自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて前記車線幅を設定し、自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態で互いに反対側の車線状態からの遷移であると判断された場合、前記車線幅を遷移前の値に保持し、自車両の左右両側に車線が存在する状態から自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合には、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて遷移前の前記車線幅を設定時間だけ保持することを特徴とする操舵支援装置。
【請求項7】
自車両が走行する道路の車線幅に基づいてドライバのハンドル操作を支援する支援制御の介入タイミング及び制御量を決定する操舵支援装置であって、
自車両の左右両側の車線の車線幅を設定する車線幅設定部と、
自車両の左右両側の車線の有無の車線状態を監視し、前記車線状態の遷移を判断する車線状態遷移判断部と
を備え、
前記車線幅設定部は、前記車線状態が自車両の左右両側に車線が存在しない状態から自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて前記車線幅を予め設定した値に設定し、自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態で互いに反対側の車線状態からの遷移であると判断された場合、前記車線幅を遷移前の値に保持し、自車両の左右両側に車線が存在する状態から自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合には、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて遷移前の前記車線幅を設定時間だけ保持することを特徴とする操舵支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバのハンドル操作を支援する操舵支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両においては、カメラやレーダ装置等で車両周囲の走行環境を認識してドライバの運転操作を支援し、ドライバの負担を軽減する運転支援システムが開発、実用化されている。このような運転支援システムでは、自車両が走行する道路の車線を認識し、車線維持走行や車線逸脱防止のための操舵制御や警報を行う機能を備えるものがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、車両が走行している道路の車線幅情報に基づいて、車両が走行区分を逸脱するまでの時間を予想し、警報を行う技術が開示されている。車線幅は、特許文献1にも開示されているように、道路上の白線を認識して算出することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3912416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車線としての白線は、必ずしも自車両の左右両側に存在するわけではなく、片側のみ白線が存在する場合もある。車線が片側の白線のみの場合、状況によっては白線を跨いで走行することがあり、このような場合、片側のみの白線に対して操舵支援制御を実行すると、不要なタイミングで制御介入する頻度が高くなるばかりでなく、両側の白線に対する操作支援制御との間で制御性能のバラツキが生じ、ドライバに違和感や不快感を与える虞がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、車線の状況に応じた操舵支援制御を実現して不要な制御介入や制御性能のバラツキを抑制することのできる操舵支援装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の
第1の態様による操舵支援装置は、自車両が走行する道路の車線幅に基づいてドライバのハンドル操作を支援する支援制御の介入タイミング及び制御量を決定する操舵支援装置であって、自車両の左右両側の車線の車線幅を設定する車線幅設定部と、自車両の左右両側の車線の有無の車線状態を監視し、前記車線状態の遷移を判断する車線状態遷移判断部とを備え、前記車線幅設定部は、前記車線状態が
自車両の左右両側に車線が存在しない状態から自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて前記車線幅を
予め設定した値に設定する。
本発明の第2の態様による操舵支援装置は、自車両が走行する道路の車線幅に基づいてドライバのハンドル操作を支援する支援制御の介入タイミング及び制御量を決定する操舵支援装置であって、自車両の左右両側の車線の車線幅を設定する車線幅設定部と、自車両の左右両側の車線の有無の車線状態を監視し、前記車線状態の遷移を判断する車線状態遷移判断部とを備え、前記車線幅設定部は、前記車線状態が自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて前記車線幅を設定し、自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態で互いに反対側の車線状態からの遷移であると判断された場合、前記車線幅を遷移前の値に保持する。
本発明の第3の態様による操舵支援装置は、自車両が走行する道路の車線幅に基づいてドライバのハンドル操作を支援する支援制御の介入タイミング及び制御量を決定する操舵支援装置であって、自車両の左右両側の車線の車線幅を設定する車線幅設定部と、自車両の左右両側の車線の有無の車線状態を監視し、前記車線状態の遷移を判断する車線状態遷移判断部とを備え、前記車線幅設定部は、前記車線状態が自車両の左右両側に車線が存在しない状態から自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて前記車線幅を予め設定した値に設定し、自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態で互いに反対側の車線状態からの遷移であると判断された場合、前記車線幅を遷移前の値に保持する。
本発明の第4の態様による操舵支援装置は、自車両が走行する道路の車線幅に基づいてドライバのハンドル操作を支援する支援制御の介入タイミング及び制御量を決定する操舵支援装置であって、自車両の左右両側の車線の車線幅を設定する車線幅設定部と、自車両の左右両側の車線の有無の車線状態を監視し、前記車線状態の遷移を判断する車線状態遷移判断部とを備え、前記車線幅設定部は、前記車線状態が自車両の左右両側に車線が存在する状態から自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて遷移前の前記車線幅を設定時間だけ保持する。
本発明の第5の態様による操舵支援装置は、自車両が走行する道路の車線幅に基づいてドライバのハンドル操作を支援する支援制御の介入タイミング及び制御量を決定する操舵支援装置であって、自車両の左右両側の車線の車線幅を設定する車線幅設定部と、自車両の左右両側の車線の有無の車線状態を監視し、前記車線状態の遷移を判断する車線状態遷移判断部とを備え、前記車線幅設定部は、前記車線状態が自車両の左右両側に車線が存在しない状態から自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて前記車線幅を予め設定した値に設定し、自車両の左右両側に車線が存在する状態から自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて遷移前の前記車線幅を設定時間だけ保持する。
本発明の第6の態様による操舵支援装置は、自車両が走行する道路の車線幅に基づいてドライバのハンドル操作を支援する支援制御の介入タイミング及び制御量を決定する操舵支援装置であって、自車両の左右両側の車線の車線幅を設定する車線幅設定部と、自車両の左右両側の車線の有無の車線状態を監視し、前記車線状態の遷移を判断する車線状態遷移判断部とを備え、前記車線幅設定部は、前記車線状態が自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて前記車線幅を設定し、自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態で互いに反対側の車線状態からの遷移であると判断された場合、前記車線幅を遷移前の値に保持し、自車両の左右両側に車線が存在する状態から自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合には、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて遷移前の前記車線幅を設定時間だけ保持する。
本発明の第7の態様による操舵支援装置は、自車両が走行する道路の車線幅に基づいてドライバのハンドル操作を支援する支援制御の介入タイミング及び制御量を決定する操舵支援装置であって、自車両の左右両側の車線の車線幅を設定する車線幅設定部と、自
車両の左右両側の車線の有無の車線状態を監視し、前記車線状態の遷移を判断する車線状態遷移判断部とを備え、前記車線幅設定部は、前記車線状態が自車両の左右両側に車線が存在しない状態から自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて前記車線幅を予め設定した値に設定し、自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態で互いに反対側の車線状態からの遷移であると判断された場合、前記車線幅を遷移前の値に保持し、自車両の左右両側に車線が存在する状態から自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合には、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて遷移前の前記車線幅を設定時間だけ保持する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車線の状況に応じた操舵支援制御を実現して不要な制御介入や制御性能のバラツキを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】状態ST2から状態ST1に遷移したときの車線幅設定を示す説明図
【
図5】状態ST4から状態ST2に遷移したときの車線幅設定を示す説明図
【
図6】状態ST2から状態ST3に遷移したときの車線幅設定を示す説明図
【
図7】状態ST1から状態ST2に遷移したときの車線幅設定を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号10は、自動車等の車両においてドライバのハンドル操作を支援する操舵支援装置であり、道路の車線を認識する車線認識装置20、操舵制御を行うステアリング制御装置30、及びブレーキを制御するブレーキ制御装置40を主として構成されている。この操舵支援装置10には、車線認識や操舵支援制御に係る各種情報をディスプレイに表示してドライバに提示し、また、ドライバに対する警報を行うため、警報・表示装置50が接続されている。
【0011】
車線認識装置20は、カメラで撮像した路面の画像やレーザレーダによる路面からの反射データに基づいて、自車両が走行する道路の車線を認識する。本実施の形態においては、車載のカメラ1で撮像した画像に基づいて道路上の白線を車線として認識する。カメラ1は、同一対象物を異なる視点から撮像する2台のカメラ1a,1bで構成されるステレオカメラである。2台のカメラ1a,1bは、CCDやCMOS等の撮像素子を有するシャッタ同期のカメラで、例えば、車室内上部のフロントウィンドウ内側のルームミラー近傍に所定の基線長で配置されている。
【0012】
カメラ1a,1bで撮像した左右一対のステレオ画像は、画像処理部2で処理される。画像処理部2は、ステレオマッチング処理により、左右画像の対応位置の画素ずれ量(視差)を求め、画素ずれ量を輝度データ等に変換して距離画像を生成する。距離画像上の点は、三角測量の原理から、自車両の車幅方向すなわち左右方向をX軸、車高方向をY軸、車長方向すなわち距離方向をZ軸とする実空間上の点に座標変換され、車線認識装置20やステアリング制御装置30に送信される。
【0013】
ステアリング制御装置30は、車線認識装置20からの車線情報に基づいて、車線逸脱防止や車線維持等のドライバのハンドル操作を支援する操舵支援制御を実行する。特に、車線逸脱防止のための操舵支援では、車線幅に応じて制御介入のタイミング及び制御量を調整しており、違和感の小さい適切な操舵支援を実現するようにしている。
【0014】
例えば、所定時間後の車線中央からの幅方向の自車両の位置(車両横位置)と車両のヨー角と車速に基づいて、自車両の推定進行路と車線側縁との交点に到達するまでの時間(車線から逸脱するまでの車線逸脱予想時間)を算出し、車線逸脱予想時間を予め設定した閾値と比較する。そして、車線逸脱予想時間が閾値より短くなった場合、車線逸脱と判断して、警報・表示装置50を介した警報や電動パワーステアリングに操舵トルクを発生させて車線逸脱防止の修正操舵等を行う。
【0015】
この場合、車線としての白線は、必ずしも自車両の左右両側に存在するわけではなく、片側のみ白線が存在する場合もある。このような場合、車線幅に基づく操舵支援制御が実行困難となるため、片側のみの白線に基づいて操舵支援制御を実行しようとしても、片側のみ白線が存在するような状況では白線をまたいで走行せざるを得ない場合があり、不要に操舵支援制御が作動してドライバが不快に感じる頻度が高くなる。
【0016】
このため、車線認識装置20は、道路上の白線を認識する車線認識部21に加えて、自車両の左右両側に白線が存在する場合には左右の白線から車線幅を設定する一方、自車両の片側のみに白線が存在する場合には、白線が存在しない側に仮想的な白線を設けて車線幅を設定する車線幅設定部22と、自車両の左右の車線の有無の車線状態を監視し、現在の車線状態がどの状態から遷移したかを判断する車線状態遷移判断部23とを備えている。これにより、仮想的な白線を用いた車線幅で従来と同様の操舵支援制御を可能として、ドライバに不快感を与えることのない適切な制御介入タイミング及び制御量の操舵支援を実現することができる。
【0017】
車線認識部21は、カメラ1a,1bで撮像した元画像と、画像処理部2からの距離データとに基づいて、自車両が走行する車線として道路上の白線を認識する。ここでの白線は、道路上に延在して車線を区画する線を総称するものであり、各線の形態としては、実線、破線等を問わず、更に、黄色線等をも含む。また、白線認識においては、道路上に実在する白線が二重白線等であっても、左右それぞれ単一の直線或いは曲線等で近似して認識するものとする。
【0018】
具体的には、車線認識部21は、画像から白線の候補となる点群を抽出し、その候補点を結ぶ直線や曲線を算出することで、或いは、予め用意した白線モデルの特性にマッチする画像の要素を抽出することで、白線を認識する。本実施の形態においては、画像平面における道路の幅方向の輝度変化を評価して白線の候補となる点群を抽出し、この白線候補の点群の時系列データを処理することで白線を認識する。
【0019】
例えば、画像上に設定された白線検出領域内において、水平方向(車幅方向)に設定した複数の探索ライン上で輝度が所定以上変化するエッジの検出を行って探索ライン毎に1組の白線開始点及び白線終了点を検出し、白線開始点と白線終了点との間の中間の所定領域を、白線候補点として抽出する。そして、単位時間当たりの車両移動量に基づく白線候補点の空間座標位置の時系列データを処理して左右の白線を近似するモデルを算出し、このモデルにより、白線を認識する。白線の近似モデルとしては、ハフ変換によって求めた直線成分を連結した近似モデルや、2次式等の曲線で近似したモデルを用いることができる。
【0020】
車線幅設定部22は、車線認識部21で認識した左右の白線の間のX軸方向(自車両の車幅方向)の距離を算出し、この白線間の距離を車線幅として設定する。また、左右の片側にのみ白線が存在する場合には、車線状態遷移判断部23で判断した車線状態の遷移に応じて、仮想的な白線を設定し、この仮想的な白線を用いて車線幅を設定する。車線幅設定部22で設定された車線幅のデータはステアリング制御装置30に送信され、車線幅に応じて操舵支援の制御介入タイミング及び制御量が最適に調整される。
【0021】
車線状態遷移判断部23で判断される車線状態の遷移は、以下の状態ST1,ST2,ST3,ST4の間の遷移として示すことができ、
図2に示すような遷移となる。車線状態遷移判断部23は、ST1〜ST4の各状態の遷移を監視して現在の車線状態が何れの状態から遷移したかを判断し、判断結果を車線幅設定部22に送る。
【0022】
ST1:白線が自車両の両側にある状態
ST2:白線が自車両の左側にのみある状態
ST3:白線が自車両の右側にのみある状態
ST4:白線が無い状態
【0023】
白線が両側に存在する状態ST1のシーンにおいては、高速道路では車線幅は広いが、一般道路では車線幅が狭い場合がある。車線幅が広い場合には、意図的に車線付近を走行する頻度は低いと考えられるため、他の状態に比較して、操舵支援の制御介入タイミングを相対的に早くし、且つ制御量も相対的に大きくすることで制御性を向上することができる。一方、車線幅が狭い場合には、車線付近を走行することが多々あり、操舵支援の制御量を大きくし過ぎると反対車線側にはみ出る可能性がある。このため、車線幅が狭い場合には、操舵支援の制御介入タイミングを相対的に遅くし、且つ制御量も相対的に小さくすることが適切となる。
【0024】
また、状態ST2,ST3のような片側車線のみになるシーンは、一般道に多く見受けられ、車線幅が狭い可能性が高く、車線をあえて踏みながら走行することがある。そのため、状態ST1のように白線が両側に存在するシーンで車線幅が狭い場合と同様に扱い、作動介入タイミングを遅くし、制御量を小さくすることが適切となる。
【0025】
但し、一時的には、高速道路においても片側のみ白線が引かれるような状況になることがある。その場合、上述のような対応をすると、白線が片側の時と両側の時とで制御性能にばらつきが生じ、片側の場合のみ車線逸脱を十分に抑制できなくなる可能性がある。この場合、高速道路では白線が片側になる頻度は少ないため、両側から片側に切り替わった場合に限り、両側に白線があるときの車線幅を継続して保持し続けることで、両側に白線があるときと同等の制御が可能となる。
【0026】
具体的には、車線幅は、
図3のフローチャートに示す車線幅設定のプログラム処理により、状態ST1〜ST4の間の遷移に応じて設定される。尚、本実施の形態においては、状態ST1〜ST4のうち、左右の白線に係る状態ST2,ST3の遷移については、同様の処理を行うものとする。
【0027】
この車線幅設定処理では、最初のステップS1で白線認識を行い、ステップS2で白線の状態が左右両側に存在する状態ST1であるか否かを調べる。そして、白線の状態が左右両側に存在する状態ST1である場合、ステップS3へ進んで、前回は白線が無い状態ST4であり、今回、左右両側に白線が存在する状態ST1に遷移したのか否かを判断する。
【0028】
その結果、ステップS3において、白線が無い状態ST4から左右両側に存在する状態ST1に遷移したと判断される場合には、ステップS3からステップS5へ進む。ステップS5では、左右両側の白線の間のX方向の距離を算出し、算出した距離を車線幅として設定して本処理を抜ける。
【0029】
一方、ステップS3において、状態ST4から状態ST1への遷移ではない場合には、更にステップS4で状態ST2又は状態ST3の左右何れかの側に白線が存在する状態から状態ST1への遷移であるか否かを判断する。そして、ステップS4において、状態ST1への遷移が状態ST2又は状態ST3からの遷移でない場合、すなわち前回も状態ST1である場合には、ステップS5へ進んで前述したように左右の白線から車線幅を設定する。
【0030】
一方、ステップS4において、片側白線の状態ST2又は状態ST3から状態ST1への遷移と判断される場合には、ステップS4からステップS6へ進み、片側白線時の車線幅から実際の左右両側の白線による車線幅に変更する。例えば、
図4に示すように、自車両Cの進行方向左側にのみ実際の白線Lがある状態ST2では、右側に仮想的な白線Lvを設定して車線幅Wvを設定しているが、状態ST2から両側に白線がある状態ST1に遷移したときには、車線幅Wvが実際の車線幅Wに変更される。尚、後述するように、片側白線時の車線幅Wvは、予め設定したデフォルト値で設定される。
【0031】
次に、ステップS2において、白線の状態が左右両側に存在する状態ST1でない場合には、ステップS2からステップS7へ進み、白線の状態が状態ST2又はST3の左右何れかの側に白線が存在する状態か否かを調べる。そして、白線の状態が状態ST2又はST3の何れでもない場合には、ステップS7からステップS8へ進み、白線が存在しないものとして車線幅を設定することなく本処理を抜ける。
【0032】
また、ステップS7において、白線の状態が状態ST2又はST3の左右何れかの側に白線が存在する状態である場合には、ステップS7からステップS9へ進み、白線無しの状態ST4から状態ST2又はST3への遷移であるか否かを判断する。そして、白線無しの状態ST4から片側白線の状態ST2又はST3への遷移である場合、ステップS9からステップS10へ進んで、
図5に示すように、狭い道路を想定して予め設定したデフォルト値Wd(例えば、2.8m)で車線幅を設定して安全を確保する。
図5は、自車両Cの両側に白線がない状態ST4から左側にのみ白線Lが存在する状態ST2に遷移したシーンを示しており、左側の白線Lに対して車線幅Wdで右側の仮想的な白線Lvの位置が固定されることになる。
【0033】
一方、ステップS9において、状態ST4から状態ST2又はST3への遷移でない場合には、ステップS9からステップS11へ進み、状態ST2,ST3の互いに反対側の白線の状態からの遷移であるか否かを判断する。そして、状態ST2,ST3の互いに反対側からの遷移である場合には、ステップS11からステップS13へ進み、遷移する前の車線幅Wvを保持する。例えば、
図6に示すように、自車両Cの進行方向左側にのみ白線Lが存在する状態ST2から右側にのみ白線L’が存在する状態ST3に遷移したとき、仮想的な白線は右側の白線Lvから左側の白線Lv’に移動するが車線幅Wvは遷移する前の値が保持し続けられ、操舵制御量の変化を抑制して円滑な制御性を確保することができる。
【0034】
また、ステップS11において、状態ST2,ST3の互いに反対側からの遷移でないと判断された場合には、更にステップS12で左右両側に白線が存在する状態ST1からの遷移であるか否かを判断する。そして、ステップS12において、状態ST1からの遷移でない場合、すなわち状態ST2,ST3の片側で同じ状態を保持している場合には、前述のステップS13の車線幅を保持する処理を行う。
【0035】
一方、ステップS12において両側白線の状態ST1から片側白線の状態ST2又は状態ST3への遷移であると判断された場合には、ステップS12からステップS14へ進み、状態ST1での実際の車線幅Wを設定時間だけ保持する。例えば、
図7に示すように、自車両Cの進行方向左右両側に白線Lが存在する状態ST1から左側にのみ白線Lが存在する状態ST2に遷移した場合、遷移前の実際の車線幅Wを、予め設定した時間だけ保持することで、不要な制御介入を抑制してドライバに違和感や不快感を与えることを防止する。
【0036】
このように本実施の形態においては、自車両の左右両側の車線の有無の車線状態を監視し、車線状態が自車両の左右の何れかの側にのみ車線が存在する状態に遷移したと判断された場合には、車線が存在しない側に仮想的な車線を設けて車線幅を設定する。これにより、車線幅に基づいてドライバのハンドル操作を支援する際に、不要な制御介入を抑制してドライバに違和感や不快感を与えることがなく、また、高速道路等のように左右白線が存在するシーンと比較的狭い道路で片側のみ白線が存在するようなシーンとで制御性能のバラツキを抑制することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 カメラ
2 画像処理部
10 操舵支援装置
20 車線認識装置
21 車線認識部
22 車線幅設定部
23 車線状態遷移判断部
30 ステアリング制御装置
40 ブレーキ制御装置
50 警報・表示装置
ST1 白線が自車両の両側にある状態
ST2 白線が自車両の左側にのみある状態
ST3 白線が自車両の右側にのみある状態
ST4 白線が無い状態
W 車線幅