(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るブレーキ装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るブレーキ装置200を備えた自走式車両100の全体構成の概略を模式的に示す平面図である。また、
図2は、
図1に示す2−2線から見たブレーキ装置200の構成の概略を示す側面断面図である。このブレーキ装置200は、例えば、不整地でも走行することができる四輪バギー車などの自走式車両100に搭載されて自走式車両100を制動するための機械装置である。
【0018】
まず、ブレーキ装置200が搭載される自走式車両100について簡単に説明しておく。自走式車両100は、人を載せて不整地でも自力で走行可能な車両であり、車台101を備えている。車台101は、自走式車両100の車体を支える部品であり、鋼材を枠状に形成して構成されている。この車台101には、図示しないサスペンション機構を介して前輪102および後輪103がそれぞれ設けられている。
【0019】
前輪102および後輪103は、車台101を路上で移動可能に支持する車輪であり、互いに対向配置された2つの低圧型タイヤ(所謂バルーンタイヤ)でそれぞれ構成されている。これらのうち、前輪102は、自走式車両100の走行方向を操舵可能な車輪であり、ステアリング機構104を介して運転者が操作するハンドル105が連結されている。
【0020】
また、車台101は、エンジン106、動力伝達ユニット107およびブレーキ装置200をそれぞれ支持している。エンジン106は、燃料を燃焼させることにより回転駆動力を発生させる機械装置であり、レシプロエンジンによって構成されている。このエンジン106における図示しないクランク軸には、動力伝達ユニット107が連結されている。
【0021】
動力伝達ユニット107は、エンジン106から出力される回転駆動力を伝達または遮断するとともに同エンジン106の回転数を変速する機械装置群であり、図示しないクラッチ装置および変速装置によって構成されている。この動力伝達ユニット107は、後輪103側、すなわち、自走式車両100の後方に向かって出力軸108が延びており、この出力軸108にユニバーサルジョイント(図示せず)および推進軸109を介してブレーキ装置200が連結されている。この場合、これらのユニバーサルジョイントおよび推進軸109は、筒状に形成されたカバー110内に収容されている。
【0022】
なお、この自走式車両100における車台101には、エンジン106、動力伝達ユニット107およびブレーキ装置200の上方に燃料タンク(図示せず)および運転者が跨いで着座するシート(図示せず)がそれぞれ設けられるとともに、動力伝達ユニット107の下方に運転者が足を掛けるためのステップ(図示せず)などが設けられているが、これらについては本発明に直接関わらないため説明を省略する。
【0023】
(ブレーキ装置200の構成)
ブレーキ装置200は、入力軸201を備えている。入力軸201は、動力伝達ユニット107を介して伝達されるエンジン106の駆動力によって回転駆動する鋼製の軸状部品であり、ブレーキケース205および減速機ケース220にそれぞれ回転自在な状態で支持されている。この入力軸201は、一方(図示左側)の端部側にスプラインが形成されており前記推進軸109に連結されるとともに回転摩擦板202が入力軸201の軸線方向に沿ってスライド変位可能な状態で噛合っている。一方、入力軸201の他方(図示右側)の端部には減速機構223の一部を構成する駆動側歯車223aが形成されている。
【0024】
回転摩擦板202は、常に入力軸201と一体的に回転駆動する部品であり、鋼板を環状の円板体に形成して構成されている。この回転摩擦板202は、入力軸201に軸線方向に沿ってスプライン嵌合した状態で複数枚保持されている。本実施形態においては、回転摩擦板202は、入力軸201に4つ保持されている。これら4つの回転摩擦板202には、それぞれ対向した状態で固定摩擦板203が配置されている。
【0025】
固定摩擦板203は、回転摩擦板202に対して離隔した状態から押し付けられることによって回転摩擦板202の回転を制動するための部品であり、鋼板を環状の円板体に形成して構成されている。より具体的には、固定摩擦板203は、環状の板面に図示しない摩擦材が貼り付けられているとともに、外周部に径方向外側に向かって放射状に張り出した状態で平面視で方形状の突起203aが形成されて構成されている。なお、摩擦材は、固定摩擦板203に代えて回転摩擦板202に設けられていてもよいものである。
【0026】
この固定摩擦板203は、各回転摩擦板202に隣接配置されるとともに、突起203aがブレーキケース205の嵌合溝207aに嵌合することによって入力軸201の軸線方向に沿ってスライド変位可能かつ回転摩擦板202に対して相対回転不能な状態でブレーキケース205に保持されている。本実施形態においては、固定摩擦板203は、ブレーキケース205に5つ保持されている。これら5つの固定摩擦板203のうちの外側に配置された2つの固定摩擦板203間には、これら2つの固定摩擦板203を互いに離隔する方向に押圧するためのレリーズスプリング204aが設けられているとともに、このレリーズスプリング204aに前記2つの固定摩擦板203を貫通して互いに連結させるレリーズピン204bが貫通した状態で設けられている。
【0027】
ブレーキケース205は、入力軸201、回転摩擦板202、固定摩擦板203および後述する押圧体208を潤滑油226とともに収容してブレーキ装置200の外表面の一部を構成する部品であり、金属材を筒状に形成して構成されている。より具体的には、ブレーキケース205は、内部空間の中央部に円筒状の円筒支持部206がブレーキケース205の軸方向に延びて形成されているとともに、この円筒支持部206の外側に摩擦板収容部207が形成されて構成されている。
【0028】
円筒支持部206は、内周部に推進軸109の端部がベアリングを介して回転自在な状態で嵌合しているとともに、外周部に押圧体208を軸方向および周方向にそれぞれ摺動自在な状態で嵌合している。すなわち、円筒支持部206は、推進軸109および押圧体208をそれぞれ支持している。
【0029】
摩擦板収容部207は、回転摩擦板202、固定摩擦板203および押圧体208を潤滑油226とともにそれぞれ収容する空洞部分として形成されており、ブレーキケース205における図示右側の端面に開口して形成されている。この摩擦板収容部207には、
図3に示すように、ブレーキケース205の内側面の一部に固定摩擦板203の突起203aが嵌合する嵌合溝207aが放射状かつブレーキケース205の軸方向に延びて形成されている。また、摩擦板収容部207における嵌合溝207aの外側には、ブレーキケース205の外側に張り出した状態で潤滑油案内部207bおよび作動片収容部207cがそれぞれ形成されている。
【0030】
潤滑油案内部207bは、減速機ケース220に形成されている供給油路233から供給される潤滑油226を回転摩擦板202、固定摩擦板203および押圧体208にそれぞれ導くための空洞部分であり、ブレーキケース205の軸方向に延びて形成されている。また、作動片収容部207cは、作動片210を収容するための空洞部分であり、潤滑油案内部207bに直交する方向に張り出して形成されている。
【0031】
押圧体208は、固定摩擦板203を押圧して固定摩擦板203と回転摩擦板202とを互いに密着させて入力軸201に制動力を作用させるための金属製の部品であり、固定摩擦板203の内径よりも大きな外径の円筒状に形成されている。より具体的には、押圧体208は、一方(図示右側)の端面が固定摩擦板203に面するとともに、他方(図示左側)の端面が摩擦板収容部207の側壁に面している。この場合、押圧体208における前記他方の端面および摩擦板収容部207の側壁には、それぞれ押圧体208の周方向に沿って深さが徐々に浅くなるそれぞれ3つずつのカム溝およびこれら3組の各カム溝内にそれぞれ配置されたカムボールからなるカム機構209が設けられている。
【0032】
これにより、押圧体208は、固定摩擦板203を介した前記レリーズスプリング204aの押圧力によってカム機構209介して摩擦板収容部207の側壁に押し付けられている。そして、押圧体208は、円筒支持部206上を周方向に回動変位した際にカム機構209によってレリーズスプリング204aに抗しながら固定摩擦板203側に変位して固定摩擦板203を押圧する。また、押圧体208の外周部の一部には、径方向外側に張り出した状態で突出片208aが形成されている。
【0033】
作動片210は、押圧体208を周方向に回動変位させるための部品であり、突出片208aに係る爪状に形成されている。この作動片210は、摩擦板収容部207の側壁を貫通した状態で回転自在に支持されており、自走式車両100の運転者によって操作される図示しないブレーキレバーに図示しないワイヤなどを介して連結されている。これにより、作動片210は、運転者によるブレーキレバーの操作によって回動変位することで押圧体208を回動変位させる。
【0034】
すなわち、ブレーキ装置200は、運転者によるブレーキレバーの操作による作動片210の回動変位を介して押圧体208を周方向および軸方向にそれぞれ変位させることで固定摩擦板203と回転摩擦板202とを互いに密着させて入力軸201の回転駆動を制動する。このブレーキケース205は、後述するシール体240を介して減速機ケース220に連結ボルト(図示せず)によって一体的に組み付けられている。
【0035】
減速機ケース220は、後述する減速機構223を収容してブレーキ装置200の外表面の他の一部を構成する金属製の部品であり、一方(図示左側)の端部が開口するとともに他方(図示右側)の端部が閉塞する有底筒状に構成されている。より具体的には、減速機ケース220は、
図4に示すように、内部空間の中央部に円筒状の円筒支持部221が減速機ケース220の軸方向に延びて形成されているとともに、この円筒支持部221の図示右側の閉塞された側に減速機構収容部222が形成されて構成されている。
【0036】
円筒支持部221は、内周部に入力軸201がベアリングを介して嵌合しており、入力軸201を回転自在な状態で支持している。この円筒支持部221の外側には、後述する摩擦板受け部230a,230b、凹状部232a〜232i、供給油路233および帰還油路234a,234bがそれぞれ形成されている。
【0037】
減速機構収容部222は、減速機構223を潤滑油226とともに収容する空洞部分として形成されており、円筒支持部221の形成方向に直交する方向に延びる円筒状に形成されている。ここで、減速機構223は、入力軸201の回転する減速して伝達する機械装置であり、主として、駆動側歯車223aおよび従動側歯車223bによって構成されている。
【0038】
駆動側歯車223aは、入力軸201における後端部に形成された傘歯車(「ベベルギア」ともいう)であり、入力軸201の回転駆動力を従動側歯車223bに伝達する。従動側歯車223bは、駆動側歯車223aに噛み合って回転駆動力を減速しつつ駆動車軸224に伝達する傘歯車(「ベベルギア」ともいう)である。駆動車軸224は、駆動側歯車223aおよび従動側歯車223bによって減速された回転駆動力を後輪103に伝達する軸体であり、両端部に後輪103がそれぞれ取り付けられている。
【0039】
この減速機構収容部222は、内部空間の中央部に減速機ケース220を貫通した状態で配置される駆動車軸224を回転自在な状態で支持するとともに、この駆動車軸224に対して円筒支持部221側に形成された軸受225によって入力軸201の端部を回動自在に支持している。また、減速機構収容部222の底部には、潤滑油226が貯留されている。
【0040】
潤滑油226は、ブレーキケース205内および減速機ケース220内をそれぞれ冷却するとともに粉塵などの異物を除去して各部品を円滑に作動させるための油である。この潤滑油226は、固定摩擦板203および従動側歯車223bの各下部を浸漬させる量でブレーキケース205および減速機ケース220の各底部に貯留されている。
【0041】
摩擦板受け部230a,230bは、押圧体208によって押圧された回転摩擦板202および固定摩擦板203からなる摩擦板群を受け止める部分であり、固定摩擦板203の円環部分の内側部分および外側部分にそれぞれ対向する互いに同心の2つの円環状に形成されている。この場合、摩擦板受け部230aの外側に形成された摩擦板受け部230bには、摩擦板受け部230bの内側と外側とを互いに連通させる連通切欠き231が形成されている。そして、これらの摩擦板受け部230aと摩擦板受け部230bとの間および摩擦板受け部230bの外側には、凹状部232a〜232iがそれぞれ形成されている。
【0042】
凹状部232a〜232iは、減速機ケース220がブレーキケース205に合わせられる端面から凹状に凹んだ部分であり、摩擦板収容部207に対して開口するように有底に掘り込まれた穴状に形成されている。この凹状部232a〜232iは、主として、ブレーキケース205の軽量化や鋳巣の成形防止のために形成されている。本実施形態においては、凹状部232aが摩擦板受け部230aと摩擦板受け部230bとの間に円環状に形成されているとともに、凹状部232b〜232iが摩擦板受け部230bの外周に沿ってリブを介して枡状に形成されている。
【0043】
供給油路233は、減速機構収容部222に貯留されている潤滑油226を摩擦板収容部207に導くための通路であり、回転摩擦板202および固定摩擦板203の各上縁部よりも上方となる位置にブレーキケース205の軸方向に延びて形成されている。本実施形態においては、供給油路233は、ブレーキケース205内における最上部にブレーキケース205の外壁に面して形成されている。
【0044】
帰還油路234a,234bは、摩擦板収容部207内の潤滑油226を減速機構収容部222に戻すための通路であり、回転摩擦板202および固定摩擦板203の各下縁部以下となる位置にブレーキケース205の軸方向に延びてそれぞれ形成されている。本実施形態においては、帰還油路234a,234bは、ブレーキケース205内における最低部にブレーキケース205の外壁に面してそれぞれ形成されている。
【0045】
シール体240は、
図5に示すように、ブレーキケース205と減速機ケース220との間に設けられて両者の合わせ面を外部に対して液密的かつ気密的にシールするとともに供給油路233および帰還油路234a,234bの各一部を覆うための部品であり、金属材またはエラストマ材を薄板状に形成して構成されている。すなわち、シール体240は、ブレーキケース205と減速機ケース220との合わせ面の外縁部に沿う外形形状に形成されている。本実施形態においては、シール体240は、厚さが0.3mmの金属板の表面にゴム材をコーティングして厚さが0.4mm程度の板状体に形成されている。
【0046】
このシール体240は、流入開口部241および流出開口部242a,242bがそれぞれ形成されている。流入開口部241は、供給油路233が摩擦板収容部207に向かって開口する開口部233aの一部を覆う部分であり、開口部233aの開口面積よりも小さい開口面積の貫通孔で形成されている。この場合、流入開口部241は、
図6に示すように、開口部233aの下部を覆う略方形形状に形成されている。すなわち、流入開口部241は、内周部の一部が開口部233a内に張り出して同開口部233aの一部を塞いでいる。
【0047】
流出開口部242a,242bは、帰還油路234a,234bが摩擦板収容部207に向かってそれぞれ開口する開口部234cの一部を覆う部分であり、開口部234cの開口面積よりも小さい開口面積の貫通孔で形成されている。この場合、各流出開口部242a,242bは、開口部234cの下部を覆う略方形形状にそれぞれ形成されている。すなわち、流出開口部242a,242bは、それぞれ内周部の一部が各開口部234c内に張り出して同各開口部234cの各一部をそれぞれ塞いでいる。
【0048】
また、シール体240は、凹状部232a〜232iのうちの凹状部232a〜232dを完全に覆うとともに、凹状部232h,232iの一部を覆う形状に形成されている。すなわち、シール体240には、凹状部232e〜232gに対して開口するとともに凹状部232hの一部を覆いつつ他の一部に対して開口するシール開口部243および凹状部232iの一部を覆いつつ他の一部に対して開口するシール開口部244がそれぞれ形成されている。
【0049】
また、シール体240は、摩擦板受け部230aの内側に対向する位置にセンター開口部245が形成されているとともに、連結ボルト(図示せず)が貫通する各位置にボルト貫通孔246が形成されている。本実施形態においては、ボルト貫通孔246は、減速機ケース220の外縁部分に沿って9つ形成されている。センター開口部245は、摩擦板受け部230aの内側空間に潤滑油226を供給するための貫通孔である。なお、
図6においては、減速機ケース220を破線で示す。
【0050】
(ブレーキ装置200の作動)
次に、上記のように構成したブレーキ装置200の作動について説明する。このブレーキ装置200は、前記したように自走式車両100のエンジン106と後輪103との間に配置されて自走式車両100の制動に用いられる。
【0051】
具体的には、ブレーキ装置200は、自走式車両100の走行時においては、エンジン106の回転駆動力を動力伝達ユニット107、ユニバーサルジョイント(図示せず)および推進軸109をそれぞれ介して入力軸201に入力するとともに、入力した回転駆動力を駆動側歯車223a、従動側歯車223bおよび駆動車軸224をそれぞれ介して減速して後輪103に出力する。これにより、自走式車両100は、エンジン106の回転駆動力によって自走する。
【0052】
この自走式車両100の走行時においては、ブレーキ装置200は、減速機構223を構成する従動側歯車223bが回転駆動することによって減速機構収容部222の底部に貯留された潤滑油226を飛散させて駆動車軸224の上方に形成された供給油路233に導く(
図2において鎖線矢印参照)。供給油路233に導かれた潤滑油226は、開口部233aから流入開口部241を介して吐出される。
【0053】
この場合、流入開口部241は、開口部233aの一部を塞いで開口面積を減少させているため、減速機構収容部222から供給される潤滑油226の流量を絞って勢いを増大させる。これにより、流入開口部241から吐出される潤滑油226は、増大した勢いで摩擦板収容部207内における潤滑油案内部207bを介して回転摩擦板202および固定摩擦板203に導かれてこれらを冷却および洗浄する。
【0054】
この場合、ブレーキ装置200は、開口部233aの下方に形成された凹状部232a〜232iのうちの凹状部232a〜232dの全部および凹状部232h,232iの各一部がシール体240によって覆われているため、これらの凹状部232a〜232d,232h,232iに潤滑油226が導かれることが妨げられる。これにより、ブレーキ装置200は、摩擦板収容部207内に供給された潤滑油226が効率的に回転摩擦板202および固定摩擦板203に導かれて潤滑性能を発揮することができる。
【0055】
一方、回転摩擦板202および固定摩擦板203をそれぞれ潤滑した潤滑油226は、摩擦板収容部207の底部に溜まった後、流出開口部242a,242bおよび帰還油路234a,234bを介してそれぞれ減速機構収容部222の底部に帰還する。この場合、流出開口部242a,242bは、2つの開口部234cの各一部をそれぞれ塞いで開口面積を減少させているため、摩擦板収容部207に貯留される潤滑油226の量を増大させる。
これにより、摩擦板収容部207の底部に貯留される潤滑油226は、回転摩擦板202および固定摩擦板203の各浸漬量を増加させてこれらを冷却および洗浄する。
【0056】
なお、これらの場合、シール体240と減速機ケース220との合わせ面の隙間を介して凹状部232a〜232d,232h,232i内に潤滑油226が進入した場合であっても、これらの潤滑油226は連通切欠き231を介して摩擦板収容部207の底部に導かれる。このような潤滑油226の流れは、運転者のブレーキ操作による固定摩擦板203と回転摩擦板202とが互いに密着した場合においても同様である。
【0057】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、ブレーキ装置200は、ブレーキケース205と減速機ケース220との間に供給油路233および帰還油路234a,234bの開口部233a,234cの各一部を覆うシール体240を備えているため、供給油路233から吐出する潤滑油226が絞られて吐出の勢いが増加するとともに帰還油路234a,234bからそれぞれ流出する潤滑油226が絞られてブレーキケース220内の貯留量が増加することでブレーキ機構に対する冷却能力や洗浄能力などの潤滑能力を向上させることができる。
【0058】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0059】
例えば、上記実施形態においては、シール体240は、流入開口部241および流出開口部242a,242bをそれぞれ備えて構成した。しかし、シール体240は、流入開口部241および流出開口部242a,242bのうちの少なくとも一方を備えて構成されていればよい。
【0060】
また、上記実施形態においては、シール体240は、2つの帰還油路234a,234bに対応して2つの流出開口部242a,242bを備えて構成した。しかし、シール体240は、帰還油路234a,234bがどちらか一方のみ形成されている場合には、流出開口部242a,242bのどちらか一方のみを有して構成することができる。なお、シール体240は、2つの帰還油路234a,234bが形成されている場合であっても流出開口部242a,242bのどちらか一方のみを有して構成することができる。また、シール体240は、3つ以上の流出開口部を有していてもよい。さらに、流入開口部241も同様に、2つ以上の形成されていてもよいものである。
【0061】
また、上記実施形態においては、流入開口部241および流出開口部242a,242bは、貫通孔状に形成した。これにより、流入開口部241および流出開口部242a,242bの剛性を向上させてビビリ振動などを防止することができる。しかし、流入開口部241および流出開口部242a,242bは、貫通孔ではなく、開口部233a,234c内に張り出した片持ち梁状に延びる片状に形成することもできる。
【0062】
また、上記実施形態においては、流入開口部241および流出開口部242a,242bは、開口部233a,234cの各開口面積よりも小さい開口面積に形成した。しかし、流入開口部241および流出開口部242a,242bは、開口部233a,234cの各開口面積よりも大きな開口面積に形成することもできる。この場合、流入開口部241および流出開口部242a,242bは、内周部の一部を開口部233a,234cの内側に張り出させることによって流入開口部241および流出開口部242a,242bを流れる潤滑油226の流量を規制することができる。
【0063】
また、上記実施形態においては、流入開口部241および流出開口部242a,242bは、開口部233a,234cの各下部側部分を塞ぐように構成した。これにより、シール体240は、開口部223aから吐出される潤滑油226の吐出位置を上方に位置させてより遠くの回転摩擦板202および固定摩擦板203に潤滑油226を供給できる。また、シール体204は、少なくとも開口部234cの覆った部分までは潤滑油226を貯留することで回転摩擦板202および固定摩擦板203の浸漬深さを深くして潤滑能力を向上させることができる。特に、自走式車両100が上り坂または下り坂を走行してブレーキ装置が傾斜する場合においては、摩擦板収容部207内の潤滑油226の減速機ケース220側への流出を効果的に防止することができる。しかし、流入開口部241および流出開口部242a,242bが開口部233a,234cを塞ぐ位置は、上記実施形態に限定されるものではなく、潤滑油226の吐出方向よび排出位置に応じて適宜設定されればよい。
【0064】
また、上記実施形態においては、シール体240は、複数の凹状部232a〜232iのうちの一部、具体的には、凹状部232a〜232d,232h,232iの全部または一部を覆う形状に形成した。しかし、シール体240は、凹状部232a〜232iを必ずしも覆う必要はない。
【0065】
また、上記実施形態においては、ブレーキ装置200は、押圧体208が固定摩擦板203を押圧して固定摩擦板203と回転摩擦板202とを互いに密着させるように構成した。しかし、ブレーキ装置200は、固定摩擦板203および回転摩擦板202の配置を入れ替えて押圧体208が回転摩擦板202を押圧して回転摩擦板202と固定摩擦板203とを互いに密着させるように構成することもできる。
【0066】
また、上記実施形態においては、自走式車両100は、ブレーキ装置200をエンジン106よりも自走式車両100の前進方向の後方に配置して後輪103を駆動するように構成した。すなわち、後輪103が本発明に係る駆動輪に相当する。しかし、自走式車両100は、後輪103に代えてまたは加えてブレーキ装置200をエンジン106よりも自走式車両100の前進方向の前方に配置して前輪102を駆動するように構成することもできる。
【0067】
また、上記実施形態においては、ブレーキ装置200は、不整地を走行可能な四輪バギー車からなる自走式車両100に搭載した。しかし、ブレーキ装置200は、エンジン106の駆動力によって駆動輪を回転駆動させて自走する自走式車両100に広く適用できるものである。したがって、ブレーキ装置200は、四輪バギー車以外の自走式車両100、例えば、ゴルフ場内を走行するゴルフカートや耕運機や田植え機などの農業車両などに搭載して使用することができる。
【解決手段】ブレーキ装置200は、ブレーキ機構を構成する複数の回転摩擦板202および複数の固定摩擦板203をそれぞれ収容するブレーキケース205と減速機構223を収容する減速機ケース220とがシール体240を挟んで一体的に組み付けられて構成されている。減速機ケース220は、ブレーキケース205内に潤滑油226を供給する供給油路223およびブレーキケース205内の潤滑油226を減速機構収容部222内に導く帰還油路234a,234bがそれぞれ形成されている。シール体240は、板状体に形成されており、供給油路233の開口部233aの一部を覆う流入開口部241および帰還油路234a,234bの各開口部234cの各一部をそれぞれ覆う流出開口部242a,242bをそれぞれ有している。