(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記撮影条件設定部は、更に前記大動脈の走行方向が水平方向、鉛直方向又は手技に対応する所定の方向となるための撮影角度を設定又は提示するように構成される請求項1又は2記載の医用画像処理装置。
前記撮影条件設定部は、前記大動脈の走行方向が水平方向、鉛直方向又は手技に対応する所定の方向となるための2方向の撮影角度を2次元的に示すグラフ上の曲線を表示装置に表示させるように構成される請求項1又は2記載の医用画像処理装置。
前記撮影条件設定部は、前記大動脈の太さが複数の極大値を有する場合に前記複数の極大値に対応する複数の撮影角度を候補として提示するように構成される請求項1記載の医用画像処理装置。
前記撮影条件設定部は、前記大動脈の血管壁に対応する曲線又は曲面の閉曲線近似又は閉曲面近似を伴って前記大動脈の太さが極大値となる前記撮影角度を求めるように構成される請求項1記載の医用画像処理装置。
前記撮影条件設定部は、前記大動脈の走行方向の互いに異なる複数の位置における前記大動脈の太さの各極大値に対応する複数の撮影角度を前記候補として提示するように構成される請求項5記載の医用画像処理装置。
前記撮影条件設定部は、前記大動脈の走行方向の同一の位置における前記大動脈の太さの複数の極大値に対応する複数の撮影角度を前記候補として提示するように構成される請求項5記載の医用画像処理装置。
前記構造特定部は、前記大動脈及び前記大動脈弁を含む前記領域におけるボリュームデータ又は互いに異なる方向から撮影された2次元の複数フレームの画像データに基づいて前記大動脈の前記三次元構造を取得するように構成される請求項1乃至7のいずれか1項に記載の医用画像処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る医用画像処理装置、X線診断装置及び医用画像処理プログラムについて添付図面を参照して説明する。
【0013】
図1は本発明の実施形態に係る医用画像処理装置及びX線診断装置の構成図である。
【0014】
X線撮影装置1は、撮影系2、制御系3及びデータ処理系4を備えている。撮影系2は、X線照射部5、X線検出器6、駆動機構7及び寝台8を有する。制御系3は、高電圧発生装置9及び撮影位置制御装置10を有する。
【0015】
X線照射部5は、X線管を備え、寝台8にセットされた被検体Oを挟んでX線検出器6と対向配置される。X線照射部5及びX線検出器6は、駆動機構7の駆動によって相対位置を維持しながら被検体Oに対する角度及び相対位置を変えることができる。具体的には、回転機能を備えたC型アームの両端にX線照射部5及びX線検出器6が固定される。そして、X線照射部5は、X線管により被検体Oに向けて所定の角度からX線を照射し、被検体Oを透過したX線をX線検出器6で検出できるように構成される。
【0016】
また、寝台8の天板の傾斜及び位置を駆動機構7によって調整することができる。このため、X線照射部5及びX線検出器6の被検体Oに対する角度を調整するのみならず、天板の角度を調整することによっても、被検体Oに対するX線の照射方向を変えることができる。
【0017】
更に、寝台8にセットされた被検体Oの近傍には、被検体Oに造影剤を注入するための造影剤注入装置11が設けられる。
【0018】
制御系3の高電圧発生装置9は、X線照射部5のX線管に高電圧を印加することによって、所望のエネルギを有するX線を被検体Oに向けて照射させる装置である。撮影位置制御装置10は、駆動機構7に制御信号を出力して制御する装置である。すなわち、X線照射部5及びX線検出器6の回転角度及び位置並びに寝台8の天板の傾斜及び位置は、撮影位置制御装置10から駆動機構7に出力される制御信号によって制御される。
【0019】
データ処理系4は、入力装置12、表示装置13、A/D(analog to digital)変換器14及びコンピュータ15を有する。コンピュータ15は、医用画像処理プログラムを実行することにより医用画像処理装置15として機能する。すなわち、X線撮影装置1には、医用画像処理装置15が内蔵される。但し、同様な機能を有する独立した医用画像処理装置を、ネットワークを介してX線撮影装置1に接続するようにしても良い。また、X線撮影装置1に内蔵される医用画像処理装置15又はX線撮影装置1とネットワークを介して接続される医用画像処理装置を構成するために回路を用いてもよい。
【0020】
医用画像処理装置15は、X線画像生成部16、画像記憶部17、表示処理部18、構造特定部19及び撮影条件設定部20を有する。従って、医用画像処理装置15をコンピュータ15で構成する場合には、医用画像処理プログラムがコンピュータ15をX線画像生成部16、画像記憶部17、表示処理部18、構造特定部19及び撮影条件設定部20として機能させる。
【0021】
尚、医用画像処理プログラムは、汎用コンピュータを医用画像処理装置15として利用できるように情報記録媒体に記録してプログラムプロダクトとして流通させることもできる。もちろん、情報記録媒体を介さずにネットワーク経由で医用画像処理プログラムをコンピュータ15にダウンロードすることもできる。
【0022】
X線画像生成部16は、X線検出器6からA/D変換器14を通じてデジタル化されたX線検出データを取り込んで、データ処理を行うことにより2次元(2D: two dimensional)又は3次元(3D: three dimensionalのX線画像データを生成する機能を有する。従って、被検体Oに造影剤が注入された状態で収集されたX線検出データに基づいてX線画像データを生成すれば、2D又は3DのX線造影画像データが得られる。また、造影剤を注入せずに透視モードにおいて収集されたX線検出データに基づいてX線画像データを生成すれば、2D又は3DのX線透視画像データが得られる。
【0023】
また、X線検出データに基づいてリアルタイムにX線画像データを生成することによってライブ像データを生成することができる。このため、TAVRにおけるイメージガイドとして、X線透視画像データやX線造影画像データ等のライブ像データを利用することができる。
【0024】
画像記憶部17は、X線画像生成部16において生成されたX線画像データを保存する機能を有する。表示処理部18は、画像記憶部17に保存されたX線画像データに必要な表示処理を施して表示装置13に表示させる機能を有する。
【0025】
構造特定部19は、大動脈及び大動脈弁を含む領域における画像データに基づいて大動脈の3D構造を取得する機能を有する。大動脈の3D構造を取得するための画像データとしては、予め任意のモダリティで撮影された大動脈及び大動脈弁を含む領域におけるボリュームデータ又は互いに異なる方向から撮影された2Dの複数フレームの画像データが挙げられる。従って、構造特定部19は、ボリュームデータ又は異なる方向から撮影された複数フレームの2D画像データに基づいて大動脈の3D構造を取得するように構成される。
【0026】
大動脈及び大動脈弁が描出されたボリュームデータ及び複数フレームの2D画像データは、X線撮影装置1によって予め撮影することができる。その場合には、構造特定部19は、画像記憶部17から大動脈の3D構造を取得するための画像データを取得することができる。或いは、他のモダリティからネットワークを介して大動脈の3D構造を取得するための画像データを取得することもできる。
図1に示す例では、実用的な例として構造特定部19が、X線CT(computed tomography)装置21からネットワークを介して大動脈及び大動脈弁が描出されたボリュームデータ等の必要な画像データを取得できるように構成されている。
【0027】
撮影条件設定部20は、構造特定部19において取得された大動脈の3D構造に基づいて、大動脈の走行方向が水平方向、鉛直方向又は手技に対応する所定の方向となるための撮影角度を設定又は提示する機能及び大動脈の走行方向を軸とする大動脈周りのX線画像の撮影角度を設定又は提示する機能を有する。撮影条件設定部20においてX線画像の撮影角度が設定又は提示されると、入力装置12の操作によるユーザの確認や選択を経て撮影系2の実際の制御条件としての撮影角度を決定することが可能となる。
【0028】
撮影条件設定部20において設定又は提示されたX線画像の撮影角度を参照して決定された撮影角度は、撮影系2の制御条件として撮影位置制御装置10に出力することができる。従って、X線撮影装置1の撮影系2は、医用画像処理装置15において設定又は提示されたX線画像の撮影角度を参照して決定された撮影角度で被検体OのX線撮影を行うことができるように構成される。
【0029】
次にX線撮影装置1及び医用画像処理装置15の動作および作用について説明する。
【0030】
図2は、
図1に示すX線撮影装置1によりTAVRのイメージガイドとしてX線画像を撮影する際の流れを示すフローチャートである。
【0031】
まずステップS1において、大動脈及び大動脈弁が描出されたボリュームデータ又は異なる方向から撮影された複数フレームの2D画像データが医用画像処理装置15の構造特定部19において取得される。例えば、予めX線CT装置21において大動脈及び大動脈弁を含む領域のイメージングスキャンが実行され、大動脈及び大動脈弁が描出されたX線CTボリューム画像データが収集される。その場合、構造特定部19は、ネットワークを介してX線CT装置21から大動脈及び大動脈弁が描出されたX線CTボリューム画像データを取得することができる。
【0032】
或いは、X線撮影装置1により、大動脈及び大動脈弁が描出されたボリュームデータ又は複数フレームの2D画像データを収集することもできる。その場合には、寝台8の天板に被検体Oがセットされる。そして、撮影位置制御装置10からの制御信号によって駆動機構7が駆動する。これにより、X線照射部5及びX線検出器6の回転角度及び位置並びに寝台8の天板の傾斜及び位置が心臓の撮影に合わせて調整される。
【0033】
一方、造影剤注入装置11から被検体Oに造影剤が注入される。そして、心臓の2D又は3DのX線造影画像データが収集される。具体的には、高電圧発生装置9からX線照射部5のX線管に高電圧が印加される。このため、X線照射部5からX線が被検体Oの心臓を含む撮影領域に向けて曝射される。そして、被検体Oを透過したX線がX線検出器6で検出される。
【0034】
そうするとX線検出器6からX線検出信号がA/D変換器14を介して医用画像処理装置15に出力される。これにより、医用画像処理装置15のX線画像生成部16において、デジタル化されたX線検出データが取得される。そして、X線画像生成部16は、X線検出データに対する公知のデータ処理を行うことによって大動脈及び大動脈弁が描出された2D又は3DのX線造影画像データを生成する。生成されたX線造影画像データは、画像記憶部17に保存される。
【0035】
このため、構造特定部19は、画像記憶部17から大動脈及び大動脈弁が描出されたX線造影ボリュームデータ又は複数フレームの2DX線造影画像データを取得することができる。尚、X線造影画像データでは、大動脈を含む血管が黒く描出される。
【0036】
次に、ステップS2において、構造特定部19は、大動脈及び大動脈弁が描出されたボリュームデータ又は複数フレームの2D画像データに基づいて大動脈の3D構造を取得する。大動脈の3D構造は、TAVRの際に大動脈の走行方向を適切な方向としてX線撮影を行うための撮影角度及び大動脈軸周りの適切な撮影角度の決定のために用いられる。従って、決定すべき適切な撮影角度に応じた3D構造が構造特定部19において取得される。
【0037】
ここでTAVRの概要とともにTAVRにおける適切な撮影角度について説明する。
【0038】
図3は、TAVRにおける人工弁の留置位置の例を示す図である。
【0039】
図3は、患者である被検体Oの体軸方向を鉛直方向として人工弁の留置位置を示している。
図3に示すように、心臓30の左室(LV: left ventricle)31から大動脈32への血液の流出路には、大動脈弁33が存在する。大動脈弁33の置換術では、カテーテル34を操作することによって点線で示す本来の大動脈弁33の位置に人工弁35を留置することが手技内容となる。
【0040】
より具体的には、人工弁35の下端が大動脈弁33の底よりも下側となり、人工弁35の上端が大動脈弁33のLeaflet先端よりも上でかつ左冠動脈36及び右冠動脈37への各分岐位置よりも下となるように人工弁35を留置することが目標となる。
【0041】
すなわち、第1に本来の大動脈弁33を完全にカバーする位置に人工弁35を留置することが必要である。これは、人工弁35の留置後において本来の大動脈弁33の動きによる悪影響が生じることを防止するためである。第2に、左右冠動脈36、37の入口を人工弁35によって塞がないようにすることが必要である。万一、左右冠動脈36、37の入口が塞がれると、心筋が虚血状態に陥ることとなる。そこで、医師は左右冠動脈36、37の位置に注意を払いながら人工弁35の位置決め操作を行うことになる。
【0042】
しかしながらTAVRにおいてイメージガイドとして参照されるX線透視画像には、人工弁35やカテーテル34等のデバイスは描出されるが、心臓30、大動脈32及び左右冠動脈36、37等の血管が描出されない。そこで、人工弁35の留置に先だってカテーテル34が大動脈32付近に挿入され、造影剤注入装置11から大動脈32に造影剤が注入される。そして、造影剤が注入された状態で心臓30の撮影を行うことにより血管が黒く染まったX線造影画像が収集される。これにより医師は、大動脈弁33等の位置を把握することができる。また、手技の際に、X線造影画像を参照することが可能となる。
【0043】
人工弁35の留置の際には、医師がX線造影画像を観察することによって事前に把握した大動脈32の血管壁等の位置を念頭に、人工弁35が位置決めされる。また、必要に応じて、大動脈弁33等の位置をX線透視画像上に表示させるための各種ソフトウェアを利用して目標となる人工弁35の留置位置が確認される。
【0044】
人工弁35の位置決めが完了すると、医師は人工弁35を拡張させる。この際、医師は、事前に観察したX線画像の記憶を頼りに大動脈32と人工弁35との間における間隙を想像しながら人工弁35の拡張を行う。或いは、必要に応じて少量の造影剤が人工弁35の拡張直前に投与され、確認用に大動脈32のエッジが染影される。その場合であっても、造影剤の注入口が人工弁35と干渉すること及び造影剤を投与しても血液の流れによって十分な染影効果が得られない等の理由から人工弁32の拡張時には、事前に観察した大動脈32のエッジの記憶を頼りに人工弁35が拡張される。
【0045】
そして、人工弁35の拡張が完了したと判断されると、造影剤が注入される。これにより、造影剤によって描出される大動脈32の輪郭に、拡張後の人工弁35がフィットしているか否かを確認することが可能となる。そして、適切な位置への人工弁35の留置確認によってTAVRの手技が完了する。
【0046】
このようなTAVRでは、イメージガイドとして用いられるX線透視画像の表示角度を、大動脈弁33付近における大動脈32の走行方向が鉛直方向又は水平方向となる角度にすることが望ましい。これは、人工弁35の位置決めを行う際に、人工弁35の軸方向が斜めに描出されるよりも鉛直方向又は水平方向となって描出される方が、人工弁35の位置決めを正確かつ容易に行うことができると考えられるためである。
【0047】
別の考え方として、大動脈32の走行方向を、TAVRの手技法ごとの被検体Oに対する医師の立ち位置に応じた所定の角度にするという考え方もある。
【0048】
図4は、TAVRの手技法ごとの被検体Oに対する医師の立ち位置を示す図である。
【0049】
TAVRでは、ユーザである医師が手技に応じた位置に立って人工弁やバルーン等のデバイスを被検体Oの血管内に挿入し、人工弁の留置位置に向けて進めることとなる。従って、ユーザから見た大動脈の走行方向は、手技ごとに異なり、手技に対応する方向となる。
【0050】
TAVRとして採用される手技法としては、
図4に示すように、被検体Oに鎖骨下動脈(subclavian artery)から人工弁を挿入するsubclavian法、大動脈(aorta) から人工弁を挿入するaortic法、心尖部から人工弁を挿入するapical法、大腿部(femur) から人工弁を挿入するfemoral法及び腸骨動脈(iliac) から人工弁を挿入するiliac法が知られている。
【0051】
そこで、大動脈の走行方向が手技に対応する所定の方向となるように撮影角度を設定することが効果的である。すなわち、大動脈の傾斜角度が、ユーザから見た人工弁の留置位置における大動脈の走行方向となるように撮影角度を設定することが適切な場合がある。
【0052】
このように、大動脈の走行方向についての適切な撮影角度としては、大動脈の走行方向が水平方向、鉛直方向又は手技に対応する所定の方向となるための各撮影角度が挙げられる。以降では、大動脈の走行方向を鉛直方向とする場合を例に説明するが、大動脈の走行方向を他の方向とする場合についても方向が異なる点を除いて同様である。
【0053】
大動脈の走行方向について撮影角度を適切に設定してもTAVRのイメージガイド用の撮影条件としては不十分となる恐れがある。ここでは、大動脈の走行方向のみを考慮して撮影角度を設定した場合に起こり得る3つの問題点及び各問題点を解消するための適切な撮影角度について説明する。
【0054】
第1の問題点として、左右冠動脈の入口が人工弁によって閉塞される事態を確実に回避できないという点が挙げられる。これは、左右冠動脈の分岐位置及び分岐方向が患者ごとに異なるためである。
【0055】
図5は、左冠動脈36の入口が人工弁35によって閉塞される例を示す図である。
【0056】
図5(A)に示すように、患者によっては左冠動脈36が大動脈32から上方に向かって分岐する場合がある。この場合、左冠動脈36の入口が大動脈32の背面となる撮影角度でX線造影画像を撮影すると大動脈32が造影されるため、
図5(B)に示すように左冠動脈36の入口が大動脈32の背後に隠れて視認できなくなる。このため、左冠動脈36の実際の入口よりも高い位置から水平方向に左冠動脈36が分岐していると誤認識される恐れがある。
【0057】
仮に、左冠動脈36の分岐位置を誤認識した状態で左冠動脈36の入口を塞がないように人工弁35を留置すると、人工弁35が誤認識された分岐位置の下方に留置されることとなる。その結果、
図5(C)に示すように、本来の左冠動脈36の入口を塞ぐ位置に人工弁35が留置される恐れがある。これは、右冠動脈についても同様である。
【0058】
従って、左冠動脈及び右冠動脈の少なくとも一方の大動脈からの分岐位置が、大動脈の太さ方向における端部となる2DX線画像の撮影角度を設定することが望ましいことになる。
【0059】
第2の問題点として、大動脈と人工弁との間における間隙を十分に観察できないという点が挙げられる。仮に大動脈の血管壁と人工弁との間に隙間が存在すると、血液の逆流が生じる恐れがある。大動脈と人工弁との間に隙間が生じる原因としては、大動脈の横断面が実際には円形でないためであるとする説が有力である。すなわち、断面が円形でない大動脈内において人工弁を円形に拡張させると、大動脈と人工弁との間に隙間が生じて逆流の原因となる恐れがある。
【0060】
図6は、断面が楕円形状の大動脈32内において人工弁35を円形に拡張させた場合における撮影角度と撮影されるX線画像との関係を示す図である。
【0061】
図6(A)は人工弁35が挿入及び拡張された大動脈32の横断面図を、
図6(B)は
図6(A)に示す大動脈32をA方向から撮影して得られるX線造影画像を、
図6(C)は
図6(A)に示す大動脈32をB方向から撮影して得られるX線造影画像を、それぞれ示す。
【0062】
図6(A)に示すように、断面が楕円形状の大動脈32内において人工弁35を円形に拡張させると、楕円の長軸方向における少なくとも一端において隙間が生じ得る。この場合、楕円の長軸方向に相当するA方向からX線造影撮影を行うと、
図6(B)に示すように造影された大動脈32の血管内壁に人工弁35の輪郭がフィットしているX線造影画像が撮影される。従って、人工弁35の拡張後におけるX線造影撮影による確認において、人工弁35が適切に留置及び拡張されたと誤認識される恐れがある。
【0063】
一方、楕円の短軸方向に相当するB方向からX線造影撮影を行うと、
図6(C)に示すように人工弁35の輪郭と、造影された大動脈32の血管内壁との間に隙間が確認できるX線造影画像が撮影される。従って、大動脈32の内壁間の距離が、より長くなる撮影角度でX線造影画像を撮影すれば、大動脈32と人工弁35との間における間隙の存在による逆流を防止することが可能となる。よって、大動脈32の太さが最大値又は極大値となる2DX線画像の撮影角度が適切な撮影角度であると言える。
【0064】
第3の問題点として、大動脈に石灰化が生じている場合に人工弁が凹むリスクを確実に回避できないという点が挙げられる。大動脈の血管壁に石灰化部分が存在すると、人工弁を拡張した場合に凹む可能性がある。
【0065】
図7は、大動脈32に生じた石灰化部分40によって人工弁35が凹んだ状態を示す図である。
【0066】
図7は、石灰化部分40が存在する大動脈32に人工弁35を挿入して拡張した結果、人工弁35が凹んだ様子を示す横断面図である。
図7に示すように、大動脈32に石灰化部分40が存在すると、石灰化部分40付近において人工弁35が凹む場合がある。
【0067】
尚、大動脈32の石灰化部分40については、事前に任意のモダリティで収集された画像データに対するエッジ抽出処理等の画像処理によって自動的に検出する技術が既に知られている。従って、事前に検出された大動脈32の石灰化部分40が大動脈32の太さ方向における端部となる2DX線画像の撮影角度が適切な撮影角度であると言える。そして、このような撮影角度の設定により、大動脈32内における人工弁35の確実な拡張を確認することが可能となる。
【0068】
以上のように、TAVR用のX線撮影では、大動脈の走行方向についての適切な撮影角度の設定に加え、大動脈の走行方向を軸とする大動脈周りの撮影角度についても適切に設定することが望ましい。
【0069】
従って、適切な撮影角度を決定するために構造特定部19において取得すべき大動脈の3D構造としては、少なくとも大動脈の走行方向及び大動脈の血管内壁の輪郭情報が挙げられる。そこで、大動脈弁の近傍における大動脈の芯線の向きが、大動脈の走行方向を示すベクトル情報として求められる。尚、大動脈の芯線については、画像処理によって自動検出する方法が既に提案されている。これにより、大動脈の走行方向に関する撮影角度の決定が可能となる。更に、大動脈の血管内壁の輪郭を抽出することによって、大動脈の太さを極大値とするための撮影角度の決定が可能となる。
【0070】
また、左右冠動脈の入口付近を含む大動脈の輪郭情報又は左右冠動脈の分岐位置が、左右冠動脈の入口の閉塞を回避する観点から取得すべき大動脈の3D構造の一例として挙げられる。更に、石灰化が大動脈に生じている場合には、石灰化領域の空間位置情報が取得すべき大動脈の3D構造の一例として挙げられる。
【0071】
このため、構造特定部19では、上述したような大動脈の3D構造が取得される。大動脈の3D構造の特定は、エッジ検出処理や閾値処理等の公知の画像処理によって自動的に行うこともできるし、入力装置11の操作によって一部又は全部を手動で行うようにすることもできる。
【0072】
例えば、大動脈及び大動脈弁が描出されたボリュームデータに対するエッジ検出処理や閾値処理等の画像処理によって大動脈のセグメンテーション及び輪郭の抽出を行うソフトウェアが市販されている。そこで、大動脈の断面画像を指示情報の入力画面とするGUIを通じた入力装置11の操作によって、大動脈から冠動脈への分岐点の空間位置を手動で構造特定部19に入力することができる。或いは、大動脈の輪郭抽出と併せて冠動脈の輪郭抽出処理を自動的に行うようにしてもよい。
【0073】
また、大動脈の輪郭が抽出された断面画像を参照画像として、大動脈の横断面を楕円近似した場合における長軸を自動的に判定するようにしてもよい。長軸の自動判定処理は、任意のアルゴリズムによって行うことが可能である。例えば、大動脈の芯線上の点と大動脈の血管内壁との間における距離を計測し、血管内壁間の距離が最大となる方向を長軸として判定することができる。
【0074】
また、楕円近似に限らず、任意の関数を用いた閉曲線近似を行うようにしてもよい。その場合においても、大動脈の中心から血管壁までの距離を計算することによって大動脈の内壁間における最大距離を求めることができる。
【0075】
もちろん、大動脈断面の長軸方向を入力装置11の操作によって手動で指定できるようにしてもよい。その場合には、長軸の方向を決定するためのGUIを準備することがユーザの利便性の向上に繋がる。
【0076】
図8は、大動脈32から左右冠動脈36、37への分岐位置及び大動脈32断面を楕円近似した場合の長軸を指定するためのGUIの一例を示す図である。
【0077】
図8に示すように、表示装置13に表示させた大動脈32の断面画像を通じた入力装置11の操作によって、大動脈32の断面の長軸方向及び左右冠動脈36、37の分岐位置を指定することができる。
図8に示す例では、カーソルの移動とクリック操作によって参照円50上に左冠動脈の36分岐位置LC及び右冠動脈37の分岐位置RCをマーキングすることができる、また、大動脈32の輪郭を参照して楕円51を描くと、自動的に長軸が計算されるようになっている。
【0078】
尚、楕円近似等の閉曲線近似を行わずに、大動脈の内壁間距離の最大値を計算するようにしてもよい。但し、大動脈の血管内壁に局所的な凹凸が存在すると、本来無視すべき内壁間距離が最大距離の検出処理によって最大距離として検出される可能性がある。従って、大動脈の内壁間距離の最大値を適切に計算する観点からは、楕円近似等の閉曲線近似や楕円柱近似等の3D閉曲面近似を行うことが望ましい。換言すれば、大動脈のモデル化によって内壁間距離の検出におけるエラー処理を行うことができる。
【0079】
尚、大動脈断面の閉曲線近似や所定の長さの大動脈の楕円柱近似を行うと、互いに異なる方向から撮影された複数フレームの2D画像データに基づいて簡易に大動脈の3D構造を取得することが可能となる。その場合には、X線撮影装置1により撮影された複数フレームの2DX線造影画像データを用いることも可能である。
【0080】
図9は、大動脈32の断面を楕円近似することによって複数フレームの2DX線画像データから大動脈32の3D構造を取得する方法を説明する図である。
【0081】
図9はX線撮影の方向を大動脈32の走行方向から見た図である。
図9に示すように大動脈32の走行方向に垂直となる複数の方向にX線を照射してX線造影画像データを収集すると、X線の照射方向に大動脈32が投影された複数のX線造影画像データが得られる。
【0082】
従って、大動脈32の断面形状が楕円であると仮定すると、複数のX線造影画像上に描出された大動脈32の各太さとX線の照射距離との関係から幾何学的に大動脈32の断面形状を表す楕円を計算することができる。より具体的には、X線照射部5のX線管とX線造影画像上に描出された大動脈32のエッジとを結ぶ複数の直線に内接する楕円を計算することができる。そして、求められた楕円を大動脈32の断面形状を表すモデルとして近似することができる。
【0083】
このため、X線の照射方向を増やす程、大動脈32を近似する楕円の精度を向上させることができる。尚、全ての直線に内接する楕円が存在しない場合には、全ての直線からの距離の総和が最小となる楕円を求めるようにするなど、適宜、近似を行うようにすることができる。
【0084】
図8や
図9には、大動脈の断面形状を楕円で近似する例を示したが、楕円以外の閉曲線や楕円柱等の閉曲面による空間的な近似についても同様に行うことができる。凹凸のある閉曲線で近似を行う場合や閉曲線による近似を行わずに大動脈の内壁間の距離を計算する場合には、複数の極大値が算出される可能性がある。従って、大動脈の太さの複数の極大値を3D構造として取得するようにしてもよい。
【0085】
更に、大動脈がねじれている場合には、大動脈の走行方向における位置、つまり大動脈の断面の位置に応じて大動脈の太さの最大値及び極大値が変化する可能性がある。従って、大動脈の走行方向における位置ごとに大動脈の太さの最大値及び極大値を3D構造として取得するようにしてもよい。
【0086】
そして、構造特定部19において大動脈の3D構造が取得されると、大動脈の構造に応じたX線撮影の適切な撮影角度をC型アームの制御条件として求めることが可能となる。
【0087】
このため、ステップS3において、撮影条件設定部20は、大動脈の走行方向を鉛直方向とするための撮影角度をC型アームの制御条件として算出する。具体的には、大動脈の走行方向を示すベクトル情報に基づいて、大動脈の走行方向が鉛直方向となるための撮影角度が幾何学的に撮影条件設定部20において計算される。
【0088】
X線撮影の撮影角度は、RAO方向とLAO方向との間における角度と、CRA方向とCAU方向との間における角度で定義される。従って、撮影条件設定部20では、大動脈の走行方向を鉛直方向とするための2方向の撮影角度が求められる。また、大動脈の走行方向を鉛直方向とするための2方向の撮影角度の組合せを求める計算を行うと、連続的な複数の解が得られる。そこで、2方向の撮影角度を、2次元のグラフ上の曲線として求めることができる。そして、求めた曲線は、表示装置13に表示させることができる。
【0089】
次に、ステップS4において、撮影条件設定部20は、大動脈軸周りの適切な撮影角度を算出する。大動脈軸周りの適切な撮影角度としては、上述したように、大動脈の太さが最大値又は極大値となる撮影角度、冠動脈の分岐位置が大動脈の太さ方向における端部となる撮影角度或いは石灰化部分が大動脈の太さ方向における端部となる撮影角度など、複数の決定方法がある。そこで、適切な撮影角度の決定条件を、GUIを通じて選択できるようにすることができる。
【0090】
石灰化部分が大動脈の左端又は右端となるように撮影角度を設定する場合には、撮影条件設定部20が、事前に石灰化部分が特定された大動脈の3D構造に基づいて、大動脈の石灰化部分が大動脈の太さ方向における端部となる2DのX線画像の撮影角度を設定又は提示する。この場合、石灰化部分を左端とする場合の撮影角度と、石灰化部分を右端とする場合の撮影角度とが解として計算されることになる。但し、解として求められた2つの撮影角度の一方がC型アームのストローク外であれば、実際にX撮影を行うことが可能な撮影角度は1つとなる。
【0091】
一方、冠動脈の分岐位置に着目して撮影角度を設定する場合には、撮影条件設定部20が、冠動脈の分岐位置を含む大動脈の3D構造に基づいて、左冠動脈及び右冠動脈の少なくとも一方の大動脈からの分岐位置が、大動脈の太さ方向における端部となる2DのX線画像の撮影角度を設定又は提示する。具体的には、冠動脈の分岐点が大動脈の左右端の血管壁上となるための座標系情報が計算される。例えば、大動脈の中心を始点とし、冠動脈の分岐点を終点とするベクトルに平行な面を撮影面として計算することができる。
【0092】
尚、冠動脈には、左冠動脈と右冠動脈の2つの冠動脈があるため、着目する冠動脈によって2つの撮影角度が計算される。しかも、冠動脈の分岐点の位置が大動脈の左端となる撮影角度と、冠動脈の分岐点の位置が大動脈の右端となる撮影角度が解として存在する。従って、冠動脈の分岐方向を含む面を撮影面とする場合には、理論的には4通りの解が得られることになる。
【0093】
但し、C型アームのストローク外となる解を除けば、左右冠動脈それぞれにつき1つの撮影角度が求められる場合が多い。従って、多くの場合、左冠動脈の分岐位置が大動脈のエッジ付近となる1つの撮影角度と、右冠動脈の分岐位置が大動脈のエッジ付近となる1つの撮影角度が求められる。
【0094】
また、大動脈の最大太さ方向が撮影面と平行になるように撮影角度を設定する場合には、撮影条件設定部20が、大動脈の太さが最大値又は極大値となる2DのX線画像の撮影角度を設定又は提示する。この場合、上述したように、大動脈の血管内壁に対応する曲線又は曲面による閉曲線近似又は閉曲面近似を伴って大動脈の太さが最大値又は極大値となる撮影角度を求めることが計算の簡易化及びエラーの防止に繋がる。
【0095】
撮影条件設定部20において求められた撮影角度は、C型アームの制御条件として設定することができるが、一旦候補としてユーザに提示することもできる。大動脈軸周りの適切な撮影角度を撮影条件の候補として提示する場合には、大動脈の走行方向が鉛直方向等となるための2方向の撮影角度を2次元的に示すグラフ上の曲線を利用して表示装置13に表示させることができる。
【0096】
図10は、大動脈の走行方向が鉛直方向となる撮影角度を示す曲線上に大動脈軸周りの適切な撮影角度をプロットしたGUIの例を示す図である。また、
図11は、
図10に示すGUIを通じて、左冠動脈の分岐位置が適切となるように設定された撮影角度の例を示す図であり、
図12は、
図10に示すGUIを通じて、楕円柱近似された大動脈の短軸方向がX線の照射方向となるように設定された撮影角度の例を示す図である。
【0097】
図10に示すグラフにおいて横軸はRAO方向とLAO方向との間における角度を示し、縦軸はCRA方向とCAU方向との間における角度を示す。また、
図10中の実線で示す曲線は、大動脈の走行方向が鉛直方向となるための撮影角度を示す。
【0098】
図10に示すように、大動脈の走行方向が鉛直方向となる撮影角度を示す曲線上に、左冠動脈の分岐位置が大動脈のエッジ部分となる撮影角度、楕円柱で近似された大動脈の長軸方向が撮影面と平行になる撮影角度及び右冠動脈の分岐位置が大動脈のエッジ部分となる撮影角度をそれぞれLC, LONG AXIS及びRCの文字とともにプロットすることができる。
【0099】
例えば、グラフ上においてLCと表示されたプロット記号を選択すると、
図11に示すように、左冠動脈36の分岐位置が大動脈32のエッジ部分となるような撮影角度を設定することができる。この場合、左冠動脈36の分岐方向がX線画像の幅方向となるため、仮に左冠動脈36が上方に向かって分岐していたとしても左冠動脈36の入口を避けた人工弁の位置決めを容易に行うことが可能となる。これは、右冠動脈についても同様である。
【0100】
一方、グラフ上においてLONG AXISと表示されたプロット記号を選択すると、
図12に示すように大動脈32を模擬した楕円柱断面の長軸方向がX線画像の幅方向となるように撮影角度を設定することができる。このため、人工弁の拡張後において人工弁と大動脈32との間に隙間が残ることを回避することができる。
【0101】
このように複数の撮影角度の候補を選択可能に表示させ、入力装置12の操作によって選択された撮影角度をC型アームの制御条件として設定できるようにすることができる。尚、冠動脈については、左冠動脈及び右冠動脈の2つの冠動脈が存在するため
図10に示すように少なくとも2つの撮影角度が選択肢として求められる。
【0102】
また、大動脈を楕円柱等の凹みのない閉曲面で近似しない場合には、大動脈の太さについて複数の極大値が検出される可能性がある。この場合、大動脈の複数の太さの極大値に対応する複数の撮影角度が候補として求められることになる。そこで、大動脈の太さが複数の極大値を有する場合に、複数の極大値に対応する複数の撮影角度を候補として提示するようにしてもよい。
【0103】
図13は、大動脈の走行方向の位置に応じた大動脈の太さの複数の最大値に対応する撮影角度を候補として提示した例を示す図である。
【0104】
図13は、表示装置13にGUIとして、モデル化された大動脈のイメージと、X線撮影の撮影角度の候補とを表示させた例を示している。大動脈がねじれている場合には、大動脈の太さが最大となる方向が大動脈の走行方向に応じて変化する。
図13に示す例では、大動脈の断面が楕円で近似されており、大動脈の走行方向の位置に応じて楕円の長軸の向きが変化している。
【0105】
そこで、例えば大動脈の芯線に沿うL軸を定義し、L軸の原点(L=0)を大動脈弁の位置とすることができる。そうすると、大動脈の走行方向における位置は座標軸L、つまり大動脈弁からの距離として表すことができる。この場合、大動脈の太さの最大値となる楕円の長軸の長さ及び向きは、L軸上の位置をパラメータとして表すことができる。
図13に示された例では、L=10, L=20及びL=30にそれぞれ対応する楕円の長軸が描かれている。
【0106】
そこで、大動脈弁からの距離に相当するLの値ごとに大動脈の太さが最大となる撮影角度を計算することができる。大動脈弁から冠動脈の分岐位置までの距離は、せいぜい50mm程度である。このため、具体例として、図示されたように10mmピッチ等の所定のピッチで大動脈の太さが最大となる撮影角度を計算することができる。
【0107】
そして、大動脈の走行方向の異なる位置における大動脈の太さの各極大値に対応する複数の撮影角度を撮影条件の候補として提示することができる。
図13に示す例では、L=10, L=20及びL=30に対応する各撮影角度が、大動脈の走行方向が鉛直方向となる撮影角度を示す制御曲線上にそれぞれ候補としてプロットされている。
【0108】
尚、上述した例に限らず、大動脈の太さが最大となる向きが大動脈の走行方向の位置に応じて異なる場合には、人工弁の留置位置に最も近い位置や人工弁の留置範囲の中心位置において大動脈の太さが最大となる撮影角度を計算するようにしてもよい。その場合には、大動脈がねじれている場合であっても1つの適切な撮影角度を求めることができる。
【0109】
図14は、大動脈の同一断面内における太さの複数の極大値に対応する撮影角度を候補として提示した例を示す図である。
【0110】
図14は、表示装置13にGUIとして、大動脈の断面画像と、X線撮影の撮影角度の候補とを表示させた例を示している。大動脈の走行方向における位置が同じであっても、大動脈の血管内壁に厚さ方向の凹凸が存在する場合には、大動脈の太さが極大値となる複数の方向が存在する。
【0111】
そこで、大動脈の走行方向の同一の位置における大動脈の太さの複数の極大値に対応する複数の撮影角度を候補として提示することができる。大動脈の太さは概ね20mmから30mm程度である。このため、
図14に示すように、対応する極大値が大きい順に、各極大値に対応する複数の撮影角度を候補として提示することができる。その場合においても、大動脈の走行方向が鉛直方向となる撮影角度を示す制御曲線上にそれぞれ撮影角度を候補としてプロットすることができる。
【0112】
図示された例では、大動脈の太さDがD=28mm, D=27mm及びD=25mmに対応する3つの撮影角度が候補として計算及びプロットされている。尚、大動脈の内径の平均に対する差や比等の典型値からの乖離量を表示させるようにしてもよい。
【0113】
上述した例の他、冠動脈の分岐位置が大動脈のエッジ上となる撮影角度が2つ存在する場合など、複数の撮影角度が候補として求められ、かつ複数の撮影角度の間において妥当性の観点から優劣が乏しい場合には、撮影系2の移動量が少ない側の撮影角度を優先的に候補として提示するようにしてもよい。その場合、大動脈の走行方向が鉛直方向となる撮影角度を示す制御曲線上では、より原点に近い撮影角度が候補となる。このような撮影角度の候補の選定により、C型アームの移動距離及び移動時間を短縮し、撮影系2の位置決めを速やかに行うことが可能となる。尚、複数の撮影角度を候補として曲線上に表示させ、原点からの距離を各候補の近傍に表記するようにしてもよい。
【0114】
撮影角度の候補の提示が完了すると、ステップS5において、実際の撮影用の撮影角度の決定が行われる。すなわち、入力装置12の操作によるユーザの確認や選択を経て撮影系2の実際の制御条件としての撮影角度が撮影条件設定部20により決定される。TAVRでは、X線造影画像やX線透視画像など、手技の状況に応じたX線画像が撮影される。そのため、単一の撮影角度に限らず、複数の撮影角度を撮影対象となるX線画像と関連付けて撮影条件として決定することができる。
【0115】
具体例として、人工弁の留置前における大動脈弁付近の目標位置の確認の際ために撮影されるX線造影画像用には、冠動脈の分岐位置が大動脈のエッジ部分に描出される撮影角度及び大動脈の最大太さが撮影面方向となる撮影角度の双方を順番に設定することができる。また、人工弁の拡張直前及び拡張後における確認のためのX線造影画像用には、大動脈の最大太さが撮影面方向となる撮影角度を設定することができる。
【0116】
次に、ステップS6において、決定された撮影角度でX線撮影が実行される。具体的には、撮影条件設定部20において設定されたX線画像の撮影角度が撮影系2の制御条件として撮影位置制御装置10に出力される。そして、撮影系2は、撮影位置制御装置10による制御下において適切な撮影角度で被検体OのX線撮影を行う。例えば、上述のようにX線造影画像やX線透視画像が手技の状況に応じた適切な撮影角度で撮影される。
【0117】
つまり以上のようなX線撮影装置1及び医用画像処理装置15は、予め取得された大動脈の3D構造に基づいて、TAVR用に適切な大動脈軸周りの撮影角度を設定できるようにしたものである。
【0118】
このため、X線撮影装置1及び医用画像処理装置15によれば、大動脈の走行方向を適切な方向とするのみならず、大動脈の走行方向に垂直な方向についても適切な方向からX線撮影を行うことが可能となる。特に撮影角度の候補として、大動脈の走行方向が鉛直方向となる撮影角度に、冠動脈の入口を確認できる撮影角度、大動脈の最大太さを確認できる撮影角度及び石灰化部分を確認できる撮影角度を追加して提示することが可能となる。この結果、より適した角度から大動脈を観察し、TAVRのための正確な手技を行うことが可能となる。
【0119】
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。