(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C:0.001〜0.030mass%、Si:0.05〜0.5mass%、S:0.002mass%以下、Ni:6.00〜8mass%、Cr:23〜27mass%、Mo:2〜4.5mass%、N:0.2〜0.4mass%、Al:0.005〜0.05mass%、Mn:0.01〜0.35mass%およびB:0.0001〜0.005mass%を含有し、かつ、
上記BはMnとの関係において、次式;
[mass%B]≧0.001×[mass%Mn]−0.00005
を満たして含有し、さらに、
Cr,MoおよびNが、次式;
PRE=[mass%Cr]+3.3×[mass%Mo]+16×[mass%N]
で定義される耐孔食性指数PREの値が40.5以上となるよう含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
JIS Z2242に規定された衝撃値の値が30J/cm2以上であることを特徴とする耐脆化性に優れる高耐食二相ステンレス鋼。
【背景技術】
【0002】
二相ステンレス鋼は、鉄をベースとして、CrやNi、Mo、Nなどを含有する鋼種である。この鋼の特徴は、海水等の塩化物環境に対する耐孔食性に優れること、および、重量に対する強度の比がオーステナイト系ステンレス鋼やフェライト系ステンレス鋼よりも高いことなどである。従って、この鋼の場合、必要な強度を確保するための板厚を薄くすることができるので、製品の軽量化や小型化が図れる。また、この二相ステンレス鋼は、Ni含有量が8mass%程度以下と比較的低いことから、安価で、経済性に優れる。しかも、溶接性も良好であることから、海水環境施設や油井関連構造物、海水淡水化装置の熱交換器、油井用アンビリカルチューブ等、高い耐食性が求められる環境下で使用される材料として広く使用されている。
【0003】
一方、この二相ステンレス鋼は、800〜1000℃程度の温度域に晒された場合、主にFeやCr、Moなどからなる、硬くて脆い金属間化合物、いわゆる「σ相」が析出し易いという問題がある。これらの金属間化合物が鋼中に析出すると、鋼を脆化させる他、σ相周囲のCrやMoが欠乏するため、耐食性の低下を招く。このことは、耐食性を向上させるべく添加するCrやMoなどの添加量を必然的に多くせざるを得ないことを意味しており、製造コストの上昇を招く。
【0004】
ところで、二相ステンレス鋼は、板材、帯材あるいは条材にする製造工程において、熱間鍛造や熱間圧延、さらには必要に応じて冷間圧延等の加工が施される。これらの製造工程においては、熱間加工後の冷却速度が緩やかだと、多くのσ相が析出し、後工程で、割れや破断が生じやすくなり、歩留りの低下や製造コストの上昇を招くという問題が指摘されている。また、これらの材料が、製品加工時の溶接や熱処理においてσ相が析出する900℃近辺の温度域に長時間晒されたり徐冷されたりすると、主として粒界にσ相が析出して著しい硬化や脆化を招いて加工性を損ない、製品加工ができなくなったり、所定の耐食性が得られなくなったりするという問題も指摘されている。
【0005】
従って、二相ステンレス鋼の製造工程や製品加工時、使用時においては、σ相の析出を極力抑制することが望ましく、従来から、そのための様々な成分組成、熱処理条件、冷却条件、溶接条件などが提案されている。例えば、特許文献1には、Moの含有量を低減し、0.5〜3.0mass%のCuと2.0〜5.0mass%のWを含有させてσ相の生成を抑制することによって、加工性や耐食性に優れる二相ステンレス鋼を得る技術が提案されている。また、特許文献2には、Si、Cu、Ni、Cr、MoおよびWの含有量で規定されるσ相感受性指数X、Cr、Mo、W、Nの含有量で表わされる強度指数Y、および耐孔食性指数PREWを、それぞれ所定の条件を満たすように制御することで、σ相の析出を抑制し、強度、耐食性、加工性に優れる二相ステンレス鋼を得る技術が提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明を開発するに際して行なった実験と、その結果について説明する。
20kg容量の試験用高周波誘導炉で、Fe−26mass%Cr−6.5mass%Ni−3.5mass%Mo−0.32mass%Nを基本成分とする鋼を溶解した。なお、この溶解に当たっては、Si、Mn、B、Mg、Ca、Alなどの成分を種々に変化させた。ただし、SiとAlは脱酸元素として、Si:0.2mass%、Al:0.015mass%を添加した。溶解した鋼は、その後、鋳型に鋳込んで鋼塊とした後、鍛造して厚さ8mmの鍛造板とし、これを素材として、下記に説明する衝撃試験と臨界孔食発生温度(CPT)を測定する耐食試験に供した。
【0016】
(1)衝撃試験
上記鍛造板に、1080℃×15分の固溶化熱処理を施し、水冷した後、σ相が最も析出しやすい温度域である900℃で10分間保持するσ相析出熱処理を施した。その後、上記鍛造板から、試験片長さが鍛造板の伸展方向に対して平行になるようにして、2mmVノッチを有する幅5mmのサブサイズ試験片を作製し、JIS Z2242(2006)に準じて、室温で衝撃試験を行い、衝撃値(吸収エネルギー)を測定した。
【0017】
なお、この衝撃試験とは別に、σ相が析出したときの加工性を評価するため、σ相析出熱処理を施した上記鍛造板から、厚み5mm×幅50mm×長さ220mmの試験片を採取し、曲げ半径50mmの押し冶具を用いて表裏交互に繰り返して曲げ加工を加え、試験片表面に割れが生ずるまでの繰り返し曲げ回数を測定した。
なお、発明者らの事前の調査結果によれば、鋼の製造工程の中で想定される最も厳しい加工条件において、鋼板に割れや破断を起こさせないためには、上記繰り返し曲げ回数が所定の回数、即ち、6回以上であることが必要であることが明らかとなっている。
【0018】
上記繰り返し曲げ回数の測定結果と、前述した衝撃試験の結果とを対比した結果、繰り返し曲げ回数が6回以上である鋼は、いずれも、室温におけるシャルピー試験の衝撃値(吸収エネルギー)が30J/cm
2であることがわかった。このことは、上記衝撃値を満たせば、充分な加工性が得られ、製造時に鋼板の割れや破断を招くことなく安定して製造できることを意味している。そこで、本発明では、耐脆化性の可否判定基準値として、JIS Z2242に規定されたシャルピー衝撃試験における衝撃値30J/cm
2(室温)を用いることとした。
【0019】
(2)耐食試験
上記の鍛造板に、1170℃×30分の固溶化熱処理を施した後、冷間圧延して、厚み2mmの冷延板とし、次いで、この冷延板に1080℃×2分の熱処理を施した。なお、熱処理後の冷却方法はいずれも水冷とした。このようにして得た冷延板に対して、ASTM G48(Method E)に規定される塩化第二鉄溶液浸漬試験を実施し、臨界孔食発生温度CPTを測定し、耐食性を評価した。
【0020】
前記衝撃試験の結果を、表1に示した。また、
図1には、Mn濃度と衝撃値との関係を示した。二相ステンレス鋼の靭性を悪化させる原因は、上述したように主としてσ相の析出によるものであるが、そのσ相の析出を如何にして抑えるかが重要である。表1および
図1から、Mn濃度の低下に伴って、衝撃値が高くなる傾向があること、したがって、σ相の析出を抑制して耐脆化性を高めるためには、Mn濃度を低下させることが有効であることがわかる。特に、Mn濃度を0.05mass%以下まで低下させると、衝撃値を、前述した耐脆化性の可否判断基準値(30J/cm
2)以上とすることができることがわかる。
【0022】
次に、耐食性試験の結果について検討する。表2および
図2には、表1のNo.1および6の鋼の臨界孔食発生温度(CPT)の測定結果を示した。これらの結果から、Mn濃度を低下させると、臨界孔食発生温度(CPT)が向上し、耐食性が良好になることがわかる。その詳しい機構は明確ではないが、発明者らは、MnSの生成が抑制されるためではないか考えている。
【0024】
次に、Mn濃度がある程度高い成分系、具体的には0.3mass%程度のMnを含有する成分系における、耐脆化性改善の可能性についても検討した。
前述した実験と同様にして20kg高周波誘導炉で、Fe−0.3mass%Mn−26mass%Cr−6.5mass%Ni−3.5mass%Mo−0.32mass%Nを基本成分とする鋼を溶解し、鋼塊とし、鍛造板とした。この際、B、Mg、Caなどの微量元素の添加量を種々に変化させた。次いで、前述した実験と同様にして、シャルピー衝撃試験および耐食試験を実施し、その結果を表3に示した。また、
図3には、B濃度と衝撃値の関係を示した。これらの結果から、Mnを含有している鋼では、Bの添加量が多くなるに従って衝撃値が上昇すること、すなわち、耐脆化性が向上していることがわかる。このことは、Bの添加によってσ相の析出が抑制され、耐脆化性に及ぼすMnの悪影響が軽減されていることを意味している。
【0026】
以上の結果から、Mn濃度が0.3mass%程度の場合には、Bを0.0004mass%以上添加することによって、耐脆化性が良好なレベルの衝撃値である30J/cm
2以上を確保できることがわかった。なお、さらに実験を進めたところ、脱酸に必要なAlを過度に添加すると、析出したAlNによって衝撃値が低下することもわかった。
【0027】
以上の実験結果から、二相ステンレス鋼においては、特に、MnとBの含有量をそれぞれ以下に説明する適正範囲に制御することが有効であることがわかった。
Mn:0.01〜0.55mass%
Mnは、オーステナイト形成元素であり、オーステナイト相とフェライト相の比率の調整をするのに有効な、本発明においては重要な役割を担う元素である。また、Mnは、MnSを形成してSを固着することで、熱間加工性の向上に寄与する元素でもある。これらの効果を得るためには、0.01mass%以上の含有を必要とする。上記効果をより確実なものにするには、0.1mass%以上含有させるのが好ましい。しかし、前述したように、Mn濃度が高くなると、σ相が析出し、衝撃値が低下することから、できるだけ少ないことが望ましい。また、Mnを過剰に含有させると、耐食性の低下を招く。よって、Mn含有量の上限値は、σ相の析出を抑えて耐脆化性の低下を抑制し、かつ、耐孔食性の低下を防止するという観点から0.55mass%とする。好ましくは0.42mass%以下、より好ましくは0.35mass%以下である。
【0028】
B:0.0001〜0.005mass%
Bは、Mn含有によるσ相析出の弊害を抑制するという観点から、本発明においては重要な役割を担う成分である。即ち、表1および
図1に示したように、Bはσ相の析出を抑制して、耐脆化性を向上させる作用がある。特に、Mnをある程度、具体的には0.3mass%以上含有する場合において、衝撃値30J/cm
2以上を確保するためには必須の添加成分である。また、Bは、熱間加工性を低下させるSよりも優先的に粒界に偏析して、熱間加工性を改善する効果もある。これらの作用効果を得るためには、Bは0.0001mass%以上含有させる。しかし、過剰なBの添加は、溶接時の高温割れ感受性を高めるため、上限値は0.005mass%とする。
【0029】
なお、Bは、Mnを含有することに伴う耐脆化性に及ぼす悪影響を抑制する作用効果を有するが、Bの上記効果を最大限に発現させるためには、前述したBの範囲に加えて、Mn濃度との関係において適正範囲で添加することが重要となる。
ここで、
図4は、BとMnの含有量を変化させた鋼に900℃×10分のσ相析出熱処理を施した後、JIS Z2242に規定されたシャルピー衝撃試験を行ったときに、衝撃値で30J/cm
2以上の優れた耐脆化性と優れた溶接性が得られるMnとBの含有量の範囲を示したものである。この図から、本発明の二相ステンレス鋼は、少なくともBとMnとを各々所定の範囲で含有すると共に、下記式;
[mass%B]≧0.001×[mass%Mn]−0.00005
の関係を満たして含有することが必要であることがわかる。
【0030】
上記関係式を満たす本発明の二相ステンレス鋼は、900℃×10分のσ相析出熱処理を施した後でも、JIS Z2242に規定されたシャルピー衝撃試験の衝撃値で30J/cm
2以上の優れた耐脆化性を有するので、加工性に優れたものとなる。
【0031】
次に、本発明の二相ステンレス鋼における、その他の主要成分組成について説明する。
C:0.001〜0.030mass%
Cは、炭化物を形成して析出し、耐孔食性を低下させる有害な元素であるので、含有量の上限値は0.030mass%とする。好ましくは、0.025mass%以下である。一方、Cの下限値は、強度の低下を防止する観点から0.001mass%とする。
【0032】
Si:0.05〜0.5mass%
Siは、脱酸剤として添加される元素である。また、Siは溶鋼の流動性を高め、溶接性を良好にする元素でもあるため、0.05mass%以上含有させる。Siによる脱酸効果をより確実とし、かつ、溶接時の溶湯の流動性を良好に保つためには、0.15mass%以上とするのが好ましい。しかし、Siを過剰に含有させると、σ相などの金属間化合物の析出を促進する。従って、Siの含有量の上限値は、σ相の析出を抑え、耐脆化性の低下を防止する観点から0.5mass%とする。好ましくは、0.35mass%以下である。
【0033】
S:0.002mass%以下
Sは、鋼中に不可避的に混入してする不純物元素であり、鋼の熱間加工性を劣化させ、靭性を低下させる。また、硫化物を形成して孔食の起点となるので、耐食性に有害な元素である。そのため、Sの含有量は少ないほど好ましく、上限値を0.002mass%とする。好ましくは0.0015mass%以下である。なお、Sの下限値は、特に限定しないが、Sは溶融時の湯の流動性を高め、溶接性を良好にする効果があるので0.0001mass%以上含有させることが好ましい。
【0034】
Ni:6〜8mass%
Niは、オーステナイト生成元素であり、二相ステンレス鋼のフェライト相とオーステナイト相のバランスを保つために不可欠な元素である。また、Niは、活性態域の溶解を抑制し、さらに窒素の溶解度を高めて耐食性の向上に有効に作用する。そのため、Niの含有量は、オーステナイト相、フェライト相とのバランスを保ち、所定の耐食性を得るため、6mass%以上とする。しかし、Niを過剰に含有させると、σ相の析出を促進し、耐脆化性を低下させるとともに、オーステナイト相の比率が70%を超えて、二相ステンレス鋼として良好な相バランスを保てなくなり、耐食性を劣化させる。従って、Ni含有量の上限値は8mass%とする。好ましくは7mass%以下である。
【0035】
Cr:23〜27mass%
Crは、フェライト生成元素であり、耐孔食性を向上させるための必須元素であり、所定の耐孔食性を得る観点から23mass%以上とする。しかし、Crの過剰な添加は、σ相の析出を促進して耐脆化性を低化させるため、上限値は27mass%とする。なお、フェライト相の過度の増加を防止して二相組織を維持する観点からは26mass%以下が好ましい。また、Cr添加による耐食性を維持し、かつフェライト相、オーステナイト相のバランスをより良好に保つ観点からは24〜26mass%の範囲が好ましく、25〜26mass%の範囲がより好ましい。
【0036】
Mo:2〜4.5mass%
Moは、CrやNと同様、耐孔食性を向上させる元素であるため、2mass%以上の添加を必要とする。しかし、Moを過度に含有すると、σ相の析出を促進して耐脆化性を低化させる。よって、Moの含有量の上限値は4.5mass%とする。好ましくは2.5〜3.8mass%の範囲である。
【0037】
N:0.2〜0.4mass%
Nは、オーステナイト生成元素であり、フェライト相とオーステナイト相とのバランスを適正化するのに必要な元素である。また、耐孔食性を大きく向上させる効果を有する。従って、Nは0.2mass%以上とする。なお、所定の耐食性を得る観点からは0.22mass%以上とするのが好ましい。一方、Nの含有量が過剰になると、窒化物を生成して、靭性の低下や耐食性の低下が生じる。また、溶接時にブローホールを生じ易くするなど、溶接性を害する。よって、Nの上限値は、窒化物の生成を抑制する点から0.4mass%とする。
【0038】
Al:0.005〜0.05mass%
Alは、Siと同様、脱酸剤として添加される元素であり、Bの歩留りを安定化させるための重要な元素であるので、0.005mass%以上の含有を必要とする。しかし、Alを過剰に含有すると、AlNを形成して析出し、靭性の劣化を招く他、AlN周囲のN含有量を欠乏させて耐食性の低下を招く。よって、Al含有量の上限値は、AlNの析出を抑え、靭性の低下を防止する観点から0.05mass%とする。
【0039】
耐孔食指数PRE:40以上
次に、本発明の二相ステンレス鋼に求められるより優れた耐食性を有するための要件について説明する。
本発明の二相ステンレス鋼がより高い耐食性を有するためには、単に耐食性を向上するCrやMo、Nを上述した所定の範囲で含有するだけでなく、下記式;
PRE=[mass%Cr]+3.3×[mass%Mo]+16×[mass%N]
で定義される耐孔食性指数PREの値が40以上となるよう含有することが必要である。これにより、特に海水などの塩化物環境中において、優れた耐食性が得られる。さらに良好な耐食性を得るためには、上記耐孔食性指数PREを41以上とするのが好ましく、42以上とするのがより好ましい。
【0040】
本発明の二相ステンレス鋼は、上記成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。ここで、上記不可避的不純物とは、二相ステンレス鋼を工業的に製造する際、種々の要因によって不可避的に混入してくる成分であり、かつ、本発明の作用効果に悪影響を及ぼさない範囲で含有を許容されるものを意味する。
【0041】
次に、本発明に係る二相ステンレス鋼の製造方法について説明する。
本発明の二相ステンレス鋼の製造方法は、特に限定されるものではないが、以下の方法で製造するのが好ましい。まず、鉄屑やステンレス屑、フェロクロム、フェロニッケル、純ニッケル、メタリッククロムなどの原料を電気炉で溶解する。その後、AOD炉あるいはVOD炉において、酸素ガスおよびアルゴンガスを吹精して脱炭精錬すると共に、生石灰、蛍石、Al、Si等を投入して脱硫、脱酸処理する。この処理におけるスラグ組成は、CaO−Al
2O
3−SiO
2−MgO−F系に調整するのが好ましい。また、同時に、脱硫を効率的よく進行させるために、該スラグはCaO/Al
2O
3≧2、CaO/SiO
2≧3を満たすものとするのが好ましい。また、AOD炉やVOD炉の耐火物は、マグクロやドロマイトとするのが望ましい。上記AOD炉等による精錬後、LF工程で成分調整、温度調整を行った後、連続鋳造してスラブを製造し、その後、熱間圧延し、必要に応じて冷間圧延し、厚板や熱延鋼板、冷延鋼板等の薄板とする。
【実施例】
【0042】
鉄屑、ステンレス屑、フェロクロム、フェロニッケル、純ニッケル、メタリッククロムなどの原料を、60トン電気炉で溶解した後、AOD炉において、酸素ガスおよびアルゴンガスを吹精して脱炭精錬した後、生石灰、蛍石、Al、Si等を投入して脱硫、脱酸した。この時のスラグ組成は、CaO−Al
2O
3−SiO
2−MgO−F系とした。上記精錬終了後、LFで成分調整して表4に示す成分組成を有するNo.13〜38の鋼を溶製した後、連続鋳造してスラブとした。た。なお、表4に示した成分組成のうち、C、Sは酸素気流中燃焼−赤外線吸収法で、Nは不活性ガス−インパルス加熱溶融法で分析した値であり、それら以外の成分は、蛍光X線分析法で分析した値である。
なお、表4には、MnとBとの関係式([mass%B]≧0.001×[mass%Mn]−0.00005)の右辺の値を併記した。
【0043】
【表4】
【0044】
その後、上記スラブを、常法に従って熱間圧延し、板厚5.5〜8.0mmの熱延板とし、上記熱延板に1080℃×15分の固溶化熱処理を施し、水冷した後、さらに、900℃×10分のσ相析出熱処理を施した。次いで、上記熱延板から、試験片の長さが圧延方向に対し平行になるようにして、2mmVノッチを設けた幅5mmのサブサイズ試験片を作製した。次いで、この試験片を用いて、JIS Z2242(2006)に規定されたシャルピー衝撃試験を実施して室温における衝撃値(吸収エネルギー)を測定し、このときの衝撃値が30J/cm
2以上となるものは耐脆化性が良好(○印)、30J/cm
2を下回るものは耐脆化性が不良(×印)と評価した。
【0045】
次いで、上記熱延板を固溶化熱処理した後、冷間圧延し、仕上焼鈍し、酸洗して、板厚2.0mmの二相ステンレス鋼の冷延焼鈍板とし、該冷延焼鈍板を用いて、下記に説明する耐食性評価試験(臨界孔食発生温度CPT)および溶接性評価試験を実施した。
<耐食性評価試験>
上記冷延焼鈍板に対して、ASTM G48(Method E)に規定された塩化第二鉄溶液浸漬試験を下記の条件で実施し、臨界孔食発生温度(CPT)を測定して、耐食性を評価した。
・試験片:×幅25mm×長さ50mm×厚さ2mm
・試験溶液:6mass%FeCl
3+1mass%HCl水溶液
・表面研磨:#120のSiC研磨紙で全面湿式研磨
・試験温度:65〜85℃間を5℃間隔で変化
・浸漬時間:24時間
・試験片数(n数):各条件2個
・評価基準:上記試験片の孔食深さを測定し、孔食深さが25μm以上となる臨界孔食発生温度(CPT)を求め、このCPTが80℃以上のものを耐食性優(○)、75℃のものを耐食性良(△)、75℃未満のものを耐食性劣(×)と評価した。
【0046】
<溶接性評価試験>
上記冷延焼鈍板から、幅150mm×長さ500mmの試験片を採取し、溶加材を用いずに、TIG溶接でビードオンプレート溶接を行った。なお、溶接時のシールドガスはArベースのガスを使用し、溶接電流は90〜100A、溶接電圧は18〜21V、溶接速度は950〜1020mm/minとした。斯くして得た溶接部の溶接ビード部について、外観チェックと高温割れの有無を下記の要領で調査し、溶接性を評価した。
溶接部の外観は、アンダーカット、オーバーラップ等が無く、溶接ビードの幅、形が安定しており、溶接品質上、問題ないものを良好とした。また、高温割れは、溶接ビードを浸透探傷試験して高温割れの有無を調査した。その結果、溶接部の外観が良好、かつ、高温割れが見られなかったものを溶接性良好(○)、外観不良、高温割れのいずれかでも生じたものを溶接性不良(×)と評価した。
【0047】
上記の評価結果を表5に示した。なお、表5には、最終的な耐脆化性の良否判定には直接影響しないが、表4に示したMnとBが、下記関係式;
[mass%B]≧0.001×[mass%Mn]−0.00005)
を満たす鋼には○印、満たさない鋼には×印を記した。
【0048】
【表5】
【0049】
表5に示すように、BとMnの関係式を満たし、かつ、表4に示した各成分の含有量が本発明範囲を満たすNo.13〜25の鋼は、いずれも900℃×10分のσ相析出熱処理後の衝撃値が30J/cm
2以上で、良好な耐脆化性を示している。また、No.13〜23の鋼は、臨界孔食発生温度CPTが80℃以上と良好であったが、PREが各々41.3と40.5であるNo.24、25の鋼のCPTは75℃であった。また、No.13〜25の鋼は、いずれもビード外観は良好で、高温割れの発生も認められず、良好な溶接性を示した。
【0050】
これに対し、BとMnの関係式を満たしていないNo.26〜29の鋼は、σ相析出熱処理後の衝撃値が30J/cm
2を下回っている。また、BとMnの関係式は満たすが、Mnの含有量が本発明の範囲より多いNo.30、31および35の鋼は、σ相析出熱処理後の衝撃値が30J/cm
2を下回っている。また、Alを0.1mass%と本発明の範囲を超えて多く含むNo.32の鋼は、AlNが大量に析出したことによって靭性が低下している。さらに、Wを2mass%含むNo.38の鋼は、σ相析出熱処理後に多量のσ相が析出したため、衝撃値が30J/cm
2を下回っている。
【0051】
また、Niを過度に多く含むNo.28の鋼は、CPTが70℃であり、充分な耐食性が得られていない。これは、Niの過度の含有によってオーステナイト相が多くなり過ぎ、二相ステンレス鋼としての相比のバランスに欠けていたためと考えられる。また、Mnを過度に多く含むNo.29の鋼も、CPTが70℃であり、充分な耐食性が得られていない。これは、Mnの過度の含有によってMnSが生成したためと考えられる。また、PREが39.4と40を下回るNo.37の鋼は、CPTが70℃で、この場合も、耐食性が充分ではない。
【0052】
また、本発明の範囲を超えて多量のBを含むNo.33〜36の鋼は、冷延板の溶接において高温割れが生じ、溶接性が低下している。