(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
周期的な動作を行う複数の対象装置の動作状態をそれぞれ検出するセンサと、該センサの検出結果に基づいて前記対象装置の動作周波数及び前記対象装置間の位相差を制御する制御部とを備える騒音低減装置において、
前記対象装置から発せられる騒音の合成音を測定するマイクロフォンと、
前記制御部により制御される前記位相差を変化させる探索範囲を設定し、該探索範囲内で前記位相差を変化させつつ得られる前記マイクロフォンの測定結果に基づいて、前記合成音が最小になる最適位相差を推定する推定部と
を備え、
前記推定部は、前記マイクロフォンの測定結果が最小となる複数の位相差を求め、該複数の位相差を用いて予め規定された演算を行い、該演算により得られる値を前記最適位相差と推定する
ことを特徴とする騒音低減装置。
前記推定部は、前記位相差範囲のうちの一部を前記探索範囲として設定した場合に、前記マイクロフォンの測定結果が最小となる複数の位相差が求められないときには、前記位相差範囲の残りの部分の全部又は一部を前記探索範囲として再設定することを特徴とする請求項4記載の騒音低減装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した特許文献1〜3に開示された技術は何れも、複数の振動装置間の振動の位相差が、オペレータによって手動で設定された目標位相差(例えば、180[度])となるように制御するものである。周囲の環境の影響を考慮する必要のない理想的な条件下では、上述した特許文献1〜3に開示された技術のように制御すれば、複数の振動装置から発生する騒音を効果的に低減することができるものと考えられる。
【0007】
しかしながら、実際には、複数の振動装置の間の距離や周囲の環境の影響(例えば、音の反射等)によって、騒音を効果的に低減し得る最適な目標位相差が180[度]からずれることがあり得る。また、周囲の環境が変化した場合には、最適な目標位相差が動的に変動することもあり得る。このため、上述した特許文献1〜3に開示された技術のように制御したとしても、必ずしも複数の振動装置から発生する騒音を効果的に低減できるとは限らないという問題がある。尚、この問題は、振動装置から発生する騒音を低減する場合のみならず、ファン等の回転装置から発生する騒音を低減する場合も同様に生ずる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、複数の装置から発生する騒音を周囲の環境等に応じて効果的に低減することが可能な騒音低減装置及び騒音低減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の騒音低減装置は、周期的な動作を行う複数の対象装置(B1、B2)の動作状態をそれぞれ検出するセンサ(11a、11b)と、該センサの検出結果に基づいて前記対象装置の動作周波数及び前記対象装置間の位相差を制御する制御部(20)とを備える騒音低減装置(1)において、前記対象装置から発せられる騒音の合成音を測定するマイクロフォン(12)と、前記制御部により制御される前記位相差を変化させる探索範囲を設定し、該探索範囲内で前記位相差を変化させつつ得られる前記マイクロフォンの測定結果に基づいて、前記合成音が最小になる最適位相差を推定する推定部(30)とを備えることを特徴としている。
また、本発明の騒音低減装置は、前記推定部が、前記マイクロフォンの測定結果が最小となる複数の位相差を求め、該複数の位相差を用いて予め規定された演算を行い、該演算により得られる値を前記最適位相差と推定することを特徴としている。
また、本発明の騒音低減装置は、前記推定部が、前記複数の位相差の中央値、平均値、又は中間値を求める演算を行うことを特徴としている。
また、本発明の騒音低減装置は、前記推定部が、前記探索範囲内で前記位相差を一定量ずつ変化させながら前記マイクロフォンの測定結果を順次得ることを特徴としている。
また、本発明の騒音低減装置は、前記推定部が、0[度]から360[度]までの位相差範囲のうちの全部又は一部を前記探索範囲として設定することを特徴としている。
また、本発明の騒音低減装置は、前記推定部が、前記位相差範囲のうちの一部(R11、R21)を前記探索範囲として設定した場合に、前記マイクロフォンの測定結果が最小となる複数の位相差が求められないときには、前記位相差範囲の残りの部分の全部又は一部(R12、R22、23)を前記探索範囲として再設定することを特徴としている。
また、本発明の騒音低減装置は、前記マイクロフォンが、無指向性のマイクロフォンであることを特徴としている。
また、本発明の騒音低減装置は、前記対象装置が、前記周期的な動作として振動動作又は回転動作を行うものであることを特徴としている。
本発明の騒音低減方法は、周期的な動作を行う複数の対象装置(B1、B2)から発せられる騒音を低減する騒音低減方法であって、前記対象装置間の位相差を変化させる探索範囲を設定する第1ステップ(S11)と、前記第1ステップで設定された前記探索範囲内で前記位相差を変化させつつ前記対象装置から発せられる騒音の合成音をマイクロフォン(12)で測定する第2ステップ(S13〜S16)と、前記第2ステップの測定結果に基づいて、前記合成音が最小になる最適位相差を推定する第3ステップ(S19)と、前記位相差が前記第3ステップで推定された前記最適位相差となるように前記位相差を制御する第4ステップとを有することを特徴としている。
また、本発明の騒音低減方法は、前記第1ステップで0[度]から360[度]までの位相差範囲のうちの一部を前記探索範囲として設定した場合に、前記第3ステップで前記合成音が最小になる最適位相差が得られないときには、前記位相差範囲の残りの部分の全部又は一部を前記探索範囲として再設定する第5ステップを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、制御部により制御される位相差を変化させる探索範囲を設定し、この探索範囲内で位相差を変化させつつ得られるマイクロフォンの測定結果(対象装置から発せられる騒音の合成音の測定結果)に基づいて、合成音が最小になる最適位相差を推定しており、合成音を最小にし得る位相差が自動的に得られるため、複数の装置から発生する騒音を周囲の環境等に応じて効果的に低減することが可能であるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態による騒音低減装置及び騒音低減方法について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態による騒音低減装置の要部構成を示すブロック図である。
図1に示す通り、本実施形態の騒音低減装置1は、近接センサ11a,11b(センサ)、マイクロフォン12、コントローラ13、及びインバータ14を備えており、振動装置B1,B2(対象装置)で発生する騒音を低減する。
【0013】
ここで、振動装置B1,B2は、例えば泥水シールド工事等の工事現場において、泥水中に含まれる土砂等の固形物の分離及び脱水を行うために用いられる振動篩装置である。この振動篩装置は、例えばモータ、偏心シャフト、及び篩網(何れも図示省略)を備えており、モータによって偏心シャフトを回転させて篩網を振動させることにより、固形物等の篩い分けを行う。
【0014】
振動装置B1は、不図示の駆動装置から出力される駆動パルスD1によって駆動され、振動装置B2は、インバータ14から出力される駆動パルスD2によって駆動される。駆動パルスD1は、一定の周波数(例えば、電源周波数)を有するパルスであり、駆動パルスD2は、コントローラ13の制御によって規定される周波数を有するパルスである。従って、振動装置B1は、一定の周波数(周期)で振動し、振動装置B2は、駆動パルスD2の周波数に応じた周波数(周期)で振動する。但し、振動装置B1,B2の振動周波数は、篩い分けが行われる固形物等の重量に応じて多少変動することがある。
【0015】
近接センサ11a,11bは、振動装置B1,B2に設けられたモータの回転状態(動作状態)をそれぞれ検出する。具体的に、近接センサ11aは、振動装置B1に設けられているモータの近傍に取り付けられており、モータの特定部位(例えば、回転軸に取り付けられている金属片)の近接状態に応じてレベルが変化するパルス信号S1を出力する。同様に、近接センサ11bは、振動装置B2に設けられているモータの近傍に取り付けられており、モータの特定部位の近接状態に応じてレベルが変化するパルス信号S2を出力する。これらパルス信号S1,S2は、モータの特定部位が近接センサ11a,11bに最近接している状態のときには「H(ハイ)」レベルになり、他の状態のときには「L(ロー)」レベルになる。
【0016】
マイクロフォン12は、振動装置B1,B2から発せられる騒音の合成音を測定し、その測定結果を示す測定信号S10を出力する。このマイクロフォン12は、例えばあらゆる方向からの音を測定可能な無指向性(全指向性)のものであり、騒音の低減を行いたい場所(騒音を低減すべき場所)に設置される。ここで、マイクロフォン12は、少なくとも低減したい騒音を測定することが可能であれば、任意の周波数特性を有するものを用いることができる。尚、振動装置B1,B2から発せられる騒音に含まれる超低周波音(周波数が20Hz以下の音)を低減する場合には、超低周波音に対する感度が高いものを用いるのが望ましい。
【0017】
コントローラ13は、振動制御部20(制御部)及び最適位相差推定部30(推定部)を備えており、近接センサ11a,11bからのパルス信号S1,S2及びマイクロフォン12からの測定信号S10を用いて指令信号C1を生成して振動装置B2の振動を制御する。具体的に、コントローラ13は、振動装置B2に設けられているモータに対する速度指令信号を、上記指令信号C1として生成してインバータ14に出力し、振動装置B2の振動周波数(動作周波数)及び振動装置B1,B2間の振動の位相差(位相差)を制御する。
【0018】
振動制御部20は、周波数位相差検出部21、演算部22、演算部23、位相差制御部24、演算部25、及び周波数制御部26を備えており、上記パルス信号S1,S2及び最適位相差推定部30から出力される目標位相差(Φ)を示す信号に基づいて指令信号C1を生成する。周波数位相差検出部21は、パルス信号S1,S2から振動装置B1,B2の振動周波数(f1,f2)をそれぞれ検出するとともに、振動装置B1,B2間の位相差(θ)を検出する。演算部22は、周波数位相差検出部21で検出された振動装置B1の振動周波数(f1)と振動装置B2の振動周波数(f2)との差分を演算する。
【0019】
演算部23は、最適位相差推定部30からの目標位相差(Φ)と、周波数位相差検出部21で検出された振動装置B1,B2間の位相差(θ)との差分を演算する。位相差制御部24は、演算部22の演算結果(f1−f2)と演算部23の演算結果(Φ−θ)とを用いて、振動装置B1,B2間の位相差を制御する指令値を生成する。演算部25は、演算部22の演算結果(f1−f2)と位相差制御部24から出力される指令値とを加算する演算を行う。周波数制御部26は、演算部25の演算結果に基づいて振動装置B2の振動周波数を制御する指令信号C1を生成する。
【0020】
最適位相差推定部30は、目標位相差(Φ)を変化させる探索範囲を設定し、設定した探索範囲内で目標位相差(Φ)を変化させつつ得られるマイクロフォン12からの測定信号S10に基づいて、測定信号S10(マイクロフォン12で測定される合成音)が最小になる位相差(最適位相差)を推定する。尚、測定信号S10からマイクロフォン12で測定される合成音の音圧を求め、この音圧が最小になる位相差を最適位相差として推定するようにしてもよい。また、測定信号S10に含まれる特定の周波数成分(例えば、超低周波音の周波数成分)を抽出するフィルタを最適位相差推定部30に設け、この特定の周波数成分が最小になる位相差を最適位相差として推定するようにしても良い。
【0021】
最適位相差推定部30は、電源が投入されて騒音低減装置1の動作が開始された直後、或いは外部からの指示(例えば、作業員からの指示)があった場合に、測定信号S10が最小になる位相差を推定する処理を行う。これは、振動装置B1,B2が設置された場所の周囲の構造物等に応じて最適な目標位相差を求めるため、或いは振動装置B1,B2の振動状態の変化(例えば、可動部質量の増大等)や周囲の構造物の変化(新築、取り壊し、倒壊等)が生じた場合でも最適な目標位相差を求められるようにするためである。
【0022】
具体的に、最適位相差推定部30は、設定した探索範囲内で位相差を一定量ずつ変化させながらマイクロフォン12の測定信号S10を順次得て、測定信号S10が最小となる複数の位相差を求め、この位相差を用いて予め規定された演算を行って得られる値を最適位相差と推定する。例えば、0〜360[度]の範囲(位相差範囲)の全部を探索範囲として設定した場合には、数[度](例えば、5[度])ずつ変化させながらマイクロフォン12の測定信号S10を順次得る。そして、測定信号S10が最小となる複数の位相差を求め、これら位相差の中央値、平均値、又は中間値を最適位相差と推定する。
【0023】
ここで、最適位相差推定部30は、上述の通り0〜360[度]の範囲のうちの全部を探索範囲として設定し、或いは0〜360[度]の範囲のうちの一部を探索範囲として設定する。0〜360[度]の範囲のうちの一部を探索範囲として設定する場合には、例えば0〜180[度]の範囲、90〜270[度]の範囲、或いは180〜360[度]の範囲を探索範囲に設定する。このように、0〜360[度]の範囲のうちの一部を探索範囲とするのは、最適位相差を得るのに要する時間を短縮するためである。
【0024】
0〜360[度]の範囲の一部を探索範囲として設定した場合に、測定信号S10が最小となる複数の位相差が求められないときには、最適位相差推定部30は、0〜360[度]の範囲の残りの部分の全部又は一部を探索範囲として再設定する。例えば、0〜180[度]の範囲が探索範囲に設定されている場合には、残りの180〜360[度]の範囲を探索範囲として再設定する。これは、再設定した探索範囲内で、測定信号S10が最小になる位相差を求めるためである。
【0025】
図2は、本発明の一実施形態における振動装置間の位相差とマイクロフォンで測定される合成音の振幅との関係を示す図である。尚、
図2においては、横軸に振動装置B1,B2間の位相差をとり、縦軸にマイクロフォン12で測定される合成音の振幅をとってある。
図2中における位相差αは、マイクロフォン12で測定される合成音の振幅が最小となる最適位相差であり、周囲の環境の影響を考慮する必要のない理想的な条件下では180[度]である。
【0026】
図2に示す例において、振動装置B1,B2間の位相差が0〜α[度]の範囲では、位相差が大きくなるにつれてマイクロフォン12で測定される合成音の振幅が単調に減少する。これに対し、振動装置B1,B2間の位相差がα〜360[度]の範囲では、位相差が大きくなるにつれてマイクロフォン12で測定される合成音の振幅が単調に増加する。但し、振動装置B1,B2間の位相差が最適位相差αに近い値では、マイクロフォン12で測定される合成音の振幅が小さくなり、暗騒音(対象とする振動装置B1,B2から発せられる騒音以外の騒音)が支配的になるため合成音の振幅が一定の値になる。
【0027】
このように、振動装置B1,B2間の位相差とマイクロフォン12で測定される合成音の振幅との関係は、基本的には位相差の変化に応じて合成音の振幅がほぼ単調減少又は単調増加する関係にあり、最適位相差αに近い値では合成音の振幅がほぼ一定になる関係がある。このため、最適位相差推定部30は、探索範囲内で位相差を一定量ずつ変化させながらマイクロフォン12の測定信号S10を順次得て、測定信号S10が最小となる複数の位相差を求めることで、確実且つ効率的に最適位相差を推定するようにしている。
【0028】
尚、周囲の環境の影響(例えば、音の反射等)によって、最適位相差α以外の位相差で合成音の振幅が極小となる部分が生ずることが考えられる。このような部分が生ずると、探索範囲の設定の仕方によっては、その部分の位相差が誤って最適位相差αと推定される可能性も考えられるが、0〜360[度]の範囲のうちの全部を探索範囲とすれば最終的には正しい最適位相差αを得ることができる。
【0029】
インバータ14は、振動装置B2に対して設けられ、コントローラ13の振動制御部20から出力される指令信号C1に応じた駆動パルスD2を生成して振動装置B2に出力する。つまり、インバータ14は、コントローラ13の制御の下で、振動装置B2の振動周波数及び振動装置B2の位相(振動装置B1,B2間の位相差)の制御に用いられる駆動信号を生成する。
【0030】
次に、上記構成における騒音低減装置1の動作について説明する。振動装置B1,B2及び騒音低減装置1の電源が投入されると、不図示の駆動装置からの駆動パルスD1が振動装置B1に入力されるとともに、コントローラ13から出力される指令信号C1(初期値)に応じたインバータ14からの駆動パルスD2が振動装置B2に入力される。すると振動装置B1,B2に設けられたモータが回転を開始し、これにより振動装置B1,B2の振動が開始される。
【0031】
振動装置B1,B2の振動が開始されると、振動装置B1,B2に設けられたモータの回転状態が近接センサ11a,11bによってそれぞれ検出され、近接センサ11a,11bからコントローラ13に対してパルス信号S1,S2が出力される。近接センサ11a,11bからのパルス信号S11,S12がコントローラ13に入力されると、コントローラ13内の周波数位相差検出部21で、振動装置B1の振動周波数(f1)及び振動装置B2の振動周波数(f2)が検出されるとともに、振動装置B1,B2間の位相差(θ)が検出される。
【0032】
周波数位相差検出部21で検出された振動装置B1の振動周波数(f1)及び振動装置B2の振動周波数(f2)は演算部22に出力され、演算部22においてこれらの差分(f1−f2)が演算される。また、周波数位相差検出部21で検出された振動装置B1,B2間の位相差(θ)は演算部23に出力され、演算部23において最適位相差推定部30から出力される目標位相差(Φ)の初期値と振動装置B1,B2間の位相差(θ)との差分が演算される。
【0033】
演算部22の演算結果(f1−f2)及び演算部23の演算結果(Φ−θ)は位相差制御部24に入力され、位相差制御部24において、これらの演算結果を用いた指令値(振動装置B1,B2間の位相差を制御する指令値)の生成が行われる。位相差制御部24で生成された指令値は演算部25に出力され、演算部25において演算部22の演算結果(f1−f2)と位相差制御部24で生成された指令値とを加算する演算が行われる。演算部25の演算結果は周波数制御部26に出力され、周波数制御部26において、演算部25の演算結果に基づいた指令信号C1の生成が行われる。周波数制御部26で生成された指令信号C1はインバータ14に出力される。
【0034】
インバータ14は指令信号C1に応じた駆動パルスD2を生成して振動装置B2に出力する。ここで、インバータ14に入力される指令信号C1は、振動装置B2に設けられているモータに対する速度指令信号である。このため、インバータ14で生成された駆動信号B2が振動装置B2に入力されると、振動装置B2に設けられたモータの回転速度が変化する。
【0035】
コントローラ13に設けられた位相差制御部24は、演算部23の演算結果(Φ−θ)が零になるように位相制御し、周波数制御部26は、演算部22の演算結果(f1−f2)が零なるように周波数制御する。このため、以上の動作が繰り返されて、位相差制御部24による位相制御及び周波数制御部26による周波数制御が継続されることによって、振動装置B1,B2は同じ振動周波数で振動するようになり、振動装置B1,B2間の位相差は目標位相差(Φ)にされる。
【0036】
また、騒音低減装置1の電源が投入されると、以上説明した動作に加えて、最適位相差推定部30によって最適位相差を求める処理が開始される。
図3は、本発明の一実施形態で行われる最適位相差の算出方法を示すフローチャートである。処理が開始されると、まず目標位相差(Φ)を変化させる探索範囲を設定する処理が最適位相差推定部30で行われる(ステップS11:第1ステップ)。ここでは説明を簡単にするために、0〜360[度]の範囲の全部が探索範囲として設定されるとする。
【0037】
次に、目標位相差(Φ)及び位相差の変化量(Δθ)の初期値を設定する処理が最適位相差推定部30で行われる(ステップS12)。上記目標位相差(Φ)の初期値としては、例えばステップS11で設定された探索範囲における最小の位相差(0[度])が設定され、上記位相差の変化量(Δθ)の初期値としては、例えば5[度]が設定される。尚、上記目標位相差(Φ)の初期値として、ステップS11で設定された探索範囲における最大の位相差(360[度])を設定し、上記位相差の変化量(Δθ)の初期値として負の値(例えば、−5[度])を設定することも可能である。
【0038】
初期値の設定が終了すると、振動装置B1,B2から発せられる騒音の合成音がマイクロフォン12で測定され、その測定結果(マイクロフォン12からの測定信号S10で示される値)を記録する処理が最適位相差推定部30で行われる(ステップS13:第2ステップ)。ここで、上記の測定結果は、マイクロフォン12による合成音の測定が行われたときの目標位相差(Φ)に対応付けて記録するのが望ましい。
【0039】
次いで、現在の目標位相差(Φ)に位相差の変化量(Δθ)を加算して、目標位相差(Φ)の値をΔθだけ変化させる処理が最適位相差推定部30で行われる(ステップS14:第2ステップ)。尚、現在の目標位相差(Φ)が0[度]である場合には、かかる処理が行われることによって、目標位相差(Φ)は、Δθ(例えば、5[度])になる。続いて、ステップS11で設定した探索範囲の全てについて探索が終了したか否かが判断される(ステップS15:第2ステップ)。
【0040】
探索範囲の全てについて探索が終了していないと判断した場合(判断結果が「NO」の場合)には、ステップS14で変化させた目標位相差が振動装置B2の制御に反映されるように一定時間待機する処理が最適位相差推定部30で行われる(ステップS16:第2ステップ)。ここで、最適位相差推定部30の待機時間は、予め規定された位相差変更周期(例えば、数十秒〜数分程度)である。
【0041】
ステップS16の処理が終了すると、振動装置B1,B2から発せられる騒音の合成音が再びマイクロフォン12で測定され、その測定結果(マイクロフォン12からの測定信号S10で示される値)を記録する処理が最適位相差推定部30で行われる(ステップS13:第2ステップ)。以下、ステップS15において探索が終了したと判断されるまで(判断結果が「YES」になるまで)、ステップS13〜S16の処理が繰り返され、合成音の測定結果が最適位相差推定部30に順次記録される。
【0042】
ここで、ステップS15において、ステップS11で設定した探索範囲の全てについて探索が終了したと判断された場合(判断結果が「YES」になった場合)には、測定結果が最小となる複数の位相差を求める(抽出する)処理が最適位相差推定部30で行われる(ステップS17)。具体的に、最適位相差推定部30は、上記ステップS13〜S16の処理で記録された複数の測定結果のうち、最も値が小さい測定結果と、これに値が近い測定結果(値の差分が予め規定された閾値内に収まる測定結果)とを求め、これらの測定結果が得られたときの位相差(目標位相差(Φ))をそれぞれ求める処理を行う。
【0043】
図4は、本発明の一実施形態において記録される合成音の測定結果の一例を示す図である。尚、
図4においては、最適位相差推定部30に記録される測定結果を黒丸で示している。
図2を用いて説明した通り、振動装置B1,B2間の位相差とマイクロフォン12で測定される合成音の振幅との関係は、基本的には位相差の変化に応じて合成音の振幅がほぼ単調減少又は単調増加する関係にあり、最適位相差に近い値では合成音の振幅がほぼ一定になる関係がある。従って、
図4に示す通り、位相差の変化量が同じ(Δθ)であっても、最適位相差に近い位相差で得られる測定結果(A1,A2)は値が殆ど変化しないのに対し、それ以外の位相差(最適位相差に近い位相差以外の位相差)では測定結果の値が大きく変化する。
【0044】
以上の性質を利用し、最適位相差推定部30は、上記ステップS13〜S16の処理で記録された複数の測定結果のうち、最も値が小さい測定結果(A1)とこれに値が近い測定結果(A2)とを求め、これらの測定結果(A1,A2)が得られたときの位相差(Φ1,Φ2)をそれぞれ求める処理を行うことによって、測定結果が最小となる複数の位相差を求めている。尚、ここでの処理は、測定結果(A1,A2)から位相差(Φ1,Φ2)をそれぞれ求める必要があることから、処理を簡単にするために、予めステップS13の処理で測定結果を位相差(目標位相差(Φ))と対応付けて記録するのが望ましい。
【0045】
以上の処理が終了すると、ステップS17の処理で求められた(抽出された)位相差の中央値を算出する処理が最適位相差推定部30で行われる(ステップS18)。尚、
図4に示す例では、説明を簡単にするために、2つの位相差(Φ1,Φ2)のみが求められているため、算出される中央値は平均値と同じ値になる。
【0046】
以上の処理が終了すると、ステップS18で算出された中央値が最適位相差と推定され、その最適位相差を目標位相差(Φ)に設定する処理が最適位相差推定部30で行われる(ステップS19:第3ステップ)。これにより、コントローラ13に設けられた位相差制御部24によって、演算部23の演算結果(Φ−θ)が零になるように位相制御され、最終的には振動装置B1,B2間の位相差(θ)がステップS19で推定された最適位相差となるように制御される(第4ステップ)。
【0047】
尚、以上では、説明を簡単にするために、
図3中のステップS11で0〜360[度]の範囲の全部を探索範囲として設定した場合を例に挙げて説明した。しかしながら、
図5に示す通り、探索に要する時間を短縮するために、0〜360[度]の範囲の一部を探索範囲として設定しても良い。
図5は、本発明の一実施形態における探索範囲の他の設定例を示す図である。
【0048】
図5(a)に示す例では、0〜360[度]の範囲のうちの0〜180[度]の範囲R11が探索範囲に設定されている。
図5(a)に示す通り、最適位相差αが範囲R11内に存在する場合には、範囲R11のみを探索するだけで最適位相差を求めることができる。仮に、最適位相差αが範囲R11内に存在しない場合には、残りの180〜360[度]の範囲R12を探索範囲に再設定して同様の探索を行えば良い(第5ステップ)。
【0049】
図5(b)に示す例では、0〜360[度]の範囲のうちの90〜270[度]の範囲R21が探索範囲に設定されている。
図5(b)に示す通り、最適位相差αが範囲R21内に存在する場合には、範囲R21のみを探索するだけで最適位相差を求めることができる。仮に、最適位相差αが範囲R21内に存在しない場合には、残りの0〜90度]の範囲R22及び270〜360[度]の範囲R23の少なくとも一方を探索範囲に再設定して同様の探索を行えば良い(第5ステップ)。
【0050】
また、1回目の探索結果に基づいて、2回目の探索範囲を動的に設定しても良い。例えば、例えば、1回目の探索では、0〜360[度]の範囲のうちの全部を探索範囲に設定し、位相差の変化量(Δθ)を大きな値(例えば、十〜数十[度])に設定して粗く探索を行う。そして、2回目の探索では、1回目の測定結果がある閾値以下となる範囲のみを探索範囲に設定し、位相差の変化量(Δθ)を小さな値(例えば、数[度])に設定して細かく探索を行う、といった具合である。
【0051】
以上の通り本実施形態では、振動装置B1,B2間の位相差を変化させる探索範囲を設定し、探索範囲内で位相差を変化させつつ得られるマイクロフォン12の測定結果(振動装置B1,B2から発せられる騒音の合成音の測定結果)に基づいて、合成音が最小になる最適位相差を推定するようにしている。これにより、合成音を最小にし得る最適位相差が自動的に得られるため、振動装置B1,B2から発生する騒音を周囲の環境等に応じて効果的に低減することができる。また、作業者等の指示によっても最適位相差が得られるため、環境の変化にも対応することができる。
【0052】
以上、本発明の一実施形態による騒音低減装置及び騒音低減方法について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されず、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、2つの振動装置B1,B2のうちの振動装置B2のみを制御する例について説明したが、振動装置B1,B2の双方を制御するようにしても良い。
【0053】
また、上記実施形態では、近接センサ11a,11bによって振動装置B1,B2に設けられたモータの回転状態をそれぞれ検出していたが、エンコーダ(例えば、ロータリーエンコーダ)を用いて振動装置B1,B2に設けられたモータの回転状態を検出するようにしても良い。具体的には、振動装置B1,B2に設けられたモータの回転軸に、回転量に応じた数のパルスを出力するエンコーダをそれぞれ取り付け、これらエンコーダから単位時間当り出力されるパルスの数によって振動装置B1,B2に設けられたモータの回転状態を検出する。
【0054】
また、上記実施形態では、振動装置B1,B2の振動状態(動作状態)の検出を、振動装置B1,B2に設けられたモータの回転状態を検出することによって行っていたが、篩網の振動を検出することによって、或いは振動装置B1,B2から発せられる音を検出することによって行うようにしても良い。篩網の振動は、例えばモータの回転を検出する場合と同様に近接センサを用いて検出することができ、或いは篩網に変位センサを設けることによって検出することができる。また、振動装置B1,B2から発せられる音は、例えば動作音を測定するマイクロフォンを振動装置B1,B2の各々に対して取り付けることによって検出することができる。
【0055】
尚、上記実施形態では、複数の振動装置B1,B2(振動動作を行う装置)から発せられる騒音を低減する騒音低減装置1について説明したが、本発明は、複数の回転装置(ファン等の回転動作を行う装置)から発せられる騒音を低減する騒音低減装置に適用することも可能である。つまり、本発明は、周期的な動作を行う複数の対象装置から発せられる騒音を低減する騒音低減装置に適用することが可能である。