(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
主鎖がπ電子を含む共役系で構成されているπ共役系導電性高分子は、電解重合法及び化学酸化重合法により合成することができる。
電解重合法では、ドーパントとなる電解質とπ共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーとの混合溶液中に、予め形成した電極材料などの支持体を浸漬し、支持体上にπ共役系導電性高分子をフィルム状に形成する。そのため、大量に製造することが困難であった。
一方、化学酸化重合法では、電解重合のような制約がなく、π共役系導電性高分子の前駆体モノマーに酸化剤及び酸化重合触媒を添加し、液中で大量のπ共役系導電性高分子を製造できる。
しかし、化学酸化重合法では、π共役系導電性高分子主鎖の共役系の成長に伴い、溶媒に対する溶解性が乏しくなるため、不溶の固形粉体で得られるようになる。不溶性のものでは支持体表面上にπ共役系導電性高分子膜を均一に形成することが困難になる。
そこで、π共役系導電性高分子に官能基を導入して可溶化する方法、バインダに分散して可溶化する方法、ポリアニオンを添加して可溶化する方法が提案されている。
例えば、水への分散性を向上させるために、分子量が2,000〜500,000の範囲のポリアニオンであるポリスチレンスルホン酸の存在下で、酸化剤を用いて、3,4−ジアルコキシチオフェンを化学酸化重合して、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)水分散液を製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、ポリアクリル酸の存在下で化学酸化重合してπ共役系導電性高分子コロイド水分散液を製造する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1,2記載の方法によれば、π共役系導電性高分子を含有する水分散液を容易に製造できる。しかし、特許文献1,2における水分散液を塗布して形成した導電性塗膜は耐光性が低く、可視光または紫外光が当たると、表面抵抗が急激に上昇するという問題を有していた。
そこで、ポリリン酸等を添加することによって、π共役系導電性高分子を含有する水分散溶液から形成した導電性塗膜の表面抵抗の上昇を抑える方法が提案されている(特許文献3)。しかしながら、特許文献3に記載の方法でも、紫外光照射後の表面抵抗の上昇を充分に抑制することはできず、しかもポリリン酸を添加すると、水分散液の安定性が低下するという新たな問題も生じた。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<導電性高分子分散液>
本発明の導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとポリマー型多官能シランカップリング剤と分散媒とを含有する。
【0009】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子は、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であり、例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、ポリチオフェンビニレン類、及びこれらの共重合体等が挙げられる。なかでも、重合の容易さ、空気中での安定性の点からは、ポリチオフェン類、ポリピロール類及びポリアニリン類が好ましい。さらに、溶剤に対する可溶性及び透明性の点から、ポリチオフェン類が好ましい。
【0010】
ポリチオフェン類としては、ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール類としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン類としては、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記π共役系導電性高分子の中でも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)又はポリピロールが好ましい。
【0011】
(ポリアニオン)
ポリアニオンとは、アニオン基を有する構成単位を有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性と耐熱性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、π共役系導電性高分子への化学酸化ドープが起こりうる官能基であればよいが、中でも、製造の容易さ及び安定性の観点からは、スルホン酸基、一置換硫酸エステル基、一置換リン酸エステル基、リン酸基、カルボキシ基等が好ましい。さらに、官能基のπ共役系導電性高分子へのドープ効果の観点より、スルホン酸基、一置換硫酸エステル基、カルボキシ基がより好ましい。
ポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
上記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0012】
ポリアニオンの重合度は、モノマー単位が10〜100,000個の範囲であることが好ましく、分散性及び導電性の点からは、50〜10,000個の範囲がより好ましい。
【0013】
ポリアニオンの含有量は、π共役系導電性高分子1モルに対して0.1〜10モルの範囲であることが好ましく、1〜7モルの範囲であることがより好ましい。ポリアニオンの含有量が前記下限値より少なくなると、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が弱くなる傾向にあり、導電性が不足することがある。その上、分散性および溶解性が低くなり、均一な分散液を得ることが困難になる。また、ポリアニオンの含有量が前記上限値より多くなると、π共役系導電性高分子の含有量が少なくなり、やはり充分な導電性が得られにくい。
【0014】
ポリアニオンは、そのアニオン基の一部がπ共役系導電性高分子に配位しており、π共役系導電性高分子とポリアニオンとは複合体を形成している。π共役系導電性高分子にポリアニオンのアニオン基が配位することにより、π共役系導電性高分子がドーピングされて導電性が発現する。ポリアニオンのπ共役系導電性高分子に配位しない余剰のアニオン基は、該複合体を水に可溶化させる役割を果たす。
導電性高分子分散液中の導電性複合体(π共役系導電性高分子とポリアニオンとの複合体)の含有量は0.05〜5.0質量%であることが好ましく、0.1〜4.0質量%であることがより好ましい。導電性複合体の含有量が0.05質量%未満であると、充分な導電性が得られないことがあり、5.0質量%を超えると、均一な導電性塗膜が得られないことがある。
【0015】
(ポリマー型多官能シランカップリング剤)
ポリマー型多官能シランカップリング剤は、アルコキシシリル基と、アルコキシシリル基以外の2つ以上の反応性官能基(例えば、エポキシ基、アミノ基等)とを有するポリマー型のシランカップリング剤である。
ポリマー型多官能シランカップリング剤のなかでも、耐光性向上効果がより高いことから、エポキシ基を2つ以上有するポリマー型多官能シランカップリング剤が好ましい。
【0016】
エポキシ基を2つ以上有するポリマー型多官能シランカップリング剤としては、下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
式(1)において、R
1,R
2,R
3は、各々独立に、水素原子、グリシジル基、下記一般式(3)で示されるアルコキシシリル基から選ばれ、R
1,R
2,R
3の少なくとも1つは前記アルコキシシリル基であり、R
1,R
2,R
3の少なくとも2つはグリシジル基である。aは1〜100のいずれかの整数であり、1〜40のいずれかの整数であることが好ましく、1〜30のいずれかの整数であることがより好ましい。
式(2)において、R
4,R
5,R
6は、各々独立に、水素原子、グリシジル基、下記一般式(3)で示されるアルコキシシリル基から選ばれ、R
4,R
5,R
6の少なくとも1つは前記アルコキシシリル基であり、R
4,R
5,R
6の少なくとも2つはグリシジル基である。bは4〜10のいずれかの整数であり、4〜8のいずれかの整数であることが好ましく、4〜5のいずれかの整数であることがより好ましい。cは0〜10のいずれかの整数であり、0〜8のいずれかの整数であることが好ましく、0〜5のいずれかの整数であることがより好ましい。dは0〜10のいずれかの整数であり、0〜8のいずれかの整数であることが好ましく、0〜5のいずれかの整数であることがより好ましい。eは0〜10のいずれかの整数であり、0〜8のいずれかの整数であることが好ましく、0〜5のいずれかの整数であることがより好ましい。
式(3)において、R
7は、炭素数1〜6のアルキル基であり、Xは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。nは1〜3のいずれかの整数である。
【0017】
一般式(1)で表される化合物においては、グリシジル基(C)とアルコキシシリル基(D)とのモル比率(C/D)が0.02〜100であることが好ましく、0.05〜50であることがより好ましく、0.1〜10であることがさらに好ましい。
一般式(2)で表される化合物においては、グリシジル基(E)とアルコキシシリル基(F)とのモル比率(E/F)が0.1〜9であることが好ましく、0.2〜5であることがより好ましい。
【0019】
ポリマー型多官能シランカップリング剤のエポキシ当量(1当量のエポキシ基を含む樹脂の質量)は100〜500であることが好ましく、100〜400であることがより好ましく、100〜300であることがさらに好ましい。エポキシ当量は、JIS K7236:2009に従って求めることができる。ポリマー型多官能シランカップリング剤のエポキシ当量が前記範囲内であれば、該導電性高分子分散液から形成される導電性塗膜の耐光性がより高くなる。
ポリマー型多官能シランカップリング剤の質量平均分子量は200〜10000であることが好ましく、300〜8000であることがより好ましい。ここで、質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定し、標準ポリスチレンを用いて求めた値である。ポリマー型多官能シランカップリング剤の質量平均分子量が前記下限値以上であれば、該導電性高分子分散液から形成される導電性塗膜の耐光性がより高くなり、前記上限値以下であれば、ポリマー型多官能シランカップリング剤を容易に入手できる。
【0020】
2つ以上のエポキシ基を有するポリマー型多官能シランカップリング剤の具体例としては、信越化学工業社製のX−12−981、X−12−984が挙げられる。
【0021】
前記ポリマー型多官能シランカップリング剤の含有割合は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンの合計質量を100質量部とした際に、50〜1000質量部であることが好ましく、80〜700質量部であることがより好ましい。
ポリマー型多官能シランカップリング剤の含有割合が前記下限値以上であれば、該導電性高分子分散液から形成される導電性塗膜の耐光性をより高くでき、前記上限値以下であれば、充分な導電性を確保できる。
【0022】
(分散媒)
導電性高分子分散液に含まれる分散媒としては、例えば、水、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホルトリアミド、アセトニトリル、ベンゾニトリル等の極性溶媒、クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素類、ギ酸、酢酸等のカルボン酸類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類、3−メチル−2−オキサゾリジノン等の複素環化合物、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物としてもよいし、他の有機溶媒との混合物としてもよい。
【0023】
(バインダ)
導電性高分子分散液は、該導電性高分子分散液から形成される導電性塗膜の耐久性および透明性の向上、基材との密着性向上を目的として、バインダを含有してもよい。
バインダは、熱硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド12、ポリアミド11等のポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、キシレン樹脂、アラミド樹脂、ポリイミドシリコーン、ポリウレタン、ポリウレア、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテル、アクリル樹脂およびこれらの共重合体等が挙げられる。
バインダの中でも、基材との密着性が高いことから、ポリエステル、ポリウレタン、メラミン樹脂、オキセタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂が好ましい。
【0024】
バインダの含有量は、前記複合体100質量部に対して1000〜100000質量部であることが好ましく、3000〜50000質量部であることがより好ましい。バインダが前記下限値以上であれば、得られる導電性塗膜の強度を充分に向上させることができ、前記上限値以下であれば、充分な導電性を確保できる。
【0025】
(添加剤)
導電性高分子分散液には、必要に応じて、添加剤が含まれてもよい。
添加剤としてはπ共役系導電性高分子及びポリアニオンと混合しうるものであれば特に制限されず、例えば、無機導電剤、界面活性剤、消泡剤、非ポリマー型のカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。
無機導電剤としては、金属イオン(金属塩を水に溶解させて形成する)類、導電性カーボン等が挙げられる。
界面活性剤としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等の陰イオン界面活性剤; アミン塩、4 級アンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤; カルボキシベタイン、アミノカルボン酸塩、イミダゾリウムベタイン等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド等の非イオン界面活性剤等が挙げられる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンレジン等が挙げられる。
非ポリマー型のカップリング剤としては、ビニル基、アミノ基、エポキシ基等を有する非ポリマー型(質量平均分子量が200未満)のシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類、ビタミン類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オギザニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。酸化防止剤と紫外線吸収剤とは併用することが好ましい。
【0026】
(導電性高分子分散液の製造方法)
上記導電性高分子分散液を製造する方法としては、例えば、ポリアニオンと分散媒の存在下でπ共役系導電性高分子の前駆体モノマーを化学酸化重合して、π共役系導電性高分子がポリアニオンによって分散媒に可溶化した分散液を得た後、その分散液にポリマー型多官能シランカップリング剤を添加する方法が挙げられる。
【0027】
<導電性塗膜>
本発明の導電性塗膜は、上記導電性高分子分散液が塗布されて形成された塗膜である。
導電性塗膜は、通常、基材上に塗布されて形成される。ここで、基材としては特に制限されないが、導電性塗膜は透明性を有するため、基材も透明であることが好ましい。
透明基材を構成する材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。透明基材としては、ガラスも使用できる。
また、基材として、上質紙、クラフト紙、コート紙等の紙を用いることができる。
【0028】
導電性高分子分散液の塗布方法として、例えば、バーコーティング、コンマコーティング、リバースコーティング、リップコーティング、スプレーコーティング、フレキソ印刷、グラビア印刷などが適用される。
導電性高分子分散液の塗布後には、硬化処理を施すことが好ましい。
硬化方法としては、加熱または光照射が適用される。加熱方法としては、例えば、熱風加熱や赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。また、光照射により硬化する場合には、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源から紫外光を照射する方法を採用できる。
紫外光照射における照度は100mW/cm
2以上が好ましい。照度が100mW/cm
2未満であると、充分に架橋しないことがある。なお、本発明における照度は、トプコン社製UVR−T1(工業用UVチェッカー、受光器;UD−T36、測定波長範囲;300〜390nm、ピーク感度波長;約355nm)を用いて測定した値である。
【0029】
導電性塗膜の厚さ(平均値)は0.001〜10μmであることが好ましく、0.01〜1μmであることがより好ましい。導電性塗膜の厚みが前記下限値以上であれば、充分な導電性を確保でき、前記上限値以下であれば、充分な可撓性を確保できる。
【0030】
(作用効果)
ポリマー型多官能シランカップリング剤を含有する本発明の導電性高分子分散液から導電性塗膜を形成した際には、π共役系導電性高分子とポリアニオンとの複合体同士を高い架橋率で架橋させることができ、導電性塗膜の耐光性が高くなる。したがって、本発明の導電性高分子分散液から形成した導電性塗膜に紫外光が照射されても表面抵抗が上昇しにくくなっている。
ポリマー型多官能シランカップリング剤の代わりにモノマー型のシランカップリング剤又はオリゴマー型のシランカップリング剤を導電性高分子分散液に含有させた場合には、シランカップリング剤がシルセスキオキサンの形態を形成するなどして、シロキサン結合が充分に形成されない。そのため、導電性複合体同士を充分に架橋できず、耐光性の向上効果は小さい。
【実施例】
【0031】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の合成
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法を用いてポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000ml溶液を除去し、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約20000ml溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。
さらに、得られたろ液に約2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000ml溶液を除去した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。そして、得られた溶液中の水を減圧除去して、無色固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0032】
(製造例2)導電性高分子分散液の調製
14.2gの3,4−エチレンジオキシチオフェンと、36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合させた。
これにより得た混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液をゆっくり加え、3時間攪拌して反応させた。
これにより得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、得られた溶液に10質量%に希釈した200mlの硫酸と2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を5回繰り返して、約1.2質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)分散液(以下、「PEDOT−PSS分散液」という。)を得た。
【0033】
(実施例1)
製造例2により得たPEDOT−PSS分散液100gとエタノール100gの混合溶液200gに、シランカップリング剤(信越化学工業社製、X−12−984、2つ以上のエポキシ基を有するポリマー型多官能シランカップリング剤、質量平均分子量4.0×10
3、エポキシ当量270、粘度1860mPa・s)8g(PEDOT−PSS固形分100質量部に対して333質量部)を添加し、攪拌して導電性高分子分散液Aを得た。
導電性高分子分散液Aをポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡製A4300、厚さ:188μm)に、#8のバーコーターで塗布し、120℃、3分間、加熱により乾燥し、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。
【0034】
[耐光性評価]
導電性塗膜の耐光性を以下の方法により評価した。その結果を表1,2に示す。
得られた導電性シートの導電性塗膜の初期の表面抵抗を測定した後、紫外線フェードメーターを用いて、導電性シートに、カーボンアークにより発生させた紫外光を96時間又は480時間照射させた。そして、光照射後の導電性塗膜の表面抵抗を測定した。測定結果を表1,2に示す。光照射後の表面抵抗の上昇が小さい程、耐光性に優れる。
表面抵抗は、三菱化学社製ハイレスタMCP−HT450を用い、JIS K6911に準じて測定した。
【0035】
[透明性評価]
日本電色工業社製へイズメータ測定器(NDH5000)を用い、JIS K7136に準じて全光線透過率およびへイズを測定した。
【0036】
(実施例2)
シランカップリング剤を信越化学工業社製X−12−981(2つ以上のエポキシ基を有するポリマー型多官能シランカップリング剤、質量平均分子量3.0×10
3、エポキシ当量290、粘度1010Pa・s)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液Bを得た。導電性高分子分散液Aの代わりに導電性高分子分散液Bを用いたこと以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐光性を評価した。
【0037】
(実施例3)
シランカップリング剤X−12−984の添加量を2g(PEDOT−PSS固形分100質量部に対して83質量部)に変更した以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐光性を評価した。
【0038】
(実施例4)
シランカップリング剤X−12−984の添加量を4g(PEDOT−PSS固形分100質量部に対して167質量部)に変更した以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐光性を評価した。
【0039】
(実施例5)
シランカップリング剤X−12−984の添加量を16g(PEDOT−PSS固形分100質量部に対して666質量部)に変更した以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐光性を評価した。
【0040】
(比較例1)
シランカップリング剤を添加しなかった以外は実施例1と同様にして、導電性塗膜を形成し、導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐光性を評価した。
【0041】
(比較例2)
シランカップリング剤を信越化学工業社製KBM403(3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、1つのエポキシ基を有する非ポリマー型シランカップリング剤)1g(PEDOT−PSS固形分100質量部に対して83質量部)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液Cを得た。導電性高分子分散液Aの代わりに導電性高分子分散液Cを用いたこと以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐光性を評価した。
【0042】
(比較例3)
信越化学工業社製KBM403の量を2g(PEDOT−PSS固形分100質量部に対して167質量部)に変更した以外は比較例2と同様にして導電性高分子分散液Dを得た。導電性高分子分散液Aの代わりに導電性高分子分散液Dを用いたこと以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐光性を評価した。
【0043】
(比較例4)
信越化学工業社製KBM403の量を4g(PEDOT−PSS固形分100質量部に対して333質量部)に変更した以外は比較例2と同様にして導電性高分子分散液Eを得た。導電性高分子分散液Aの代わりに導電性高分子分散液Eを用いたこと以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐光性を評価した。
【0044】
(比較例5)
シランカップリング剤を信越化学工業社製KBM402(3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、1つのエポキシ基を有する非ポリマー型シランカップリング剤)2g(PEDOT−PSS固形分100質量部に対して167質量部)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液Fを得た。導電性高分子分散液Aの代わりに導電性高分子分散液Fを用いたこと以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐光性を評価した。
【0045】
(比較例6)
シランカップリング剤を信越化学工業社製KBM503(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリル系の非ポリマー型シランカップリング剤)2g(PEDOT−PSS固形分100質量部に対して167質量部)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液Gを得た。導電性高分子分散液Aの代わりに導電性高分子分散液Gを用いたこと以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐光性を評価した。
【0046】
(比較例7)
シランカップリング剤を信越化学工業社製KBM5103(3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アクリル系の非ポリマー型シランカップリング剤)2g(PEDOT−PSS固形分100質量部に対して167質量部)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性高分子分散液Hを得た。導電性高分子分散液Aの代わりに導電性高分子分散液Hを用いたこと以外は実施例1と同様にし、導電性塗膜を形成して導電性シートを得た。そして、実施例1と同様に耐光性を評価した。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
ポリマー型多官能シランカップリング剤を含む導電性高分子分散液から形成した実施例1〜5の導電性塗膜は、紫外光照射後における表面抵抗の上昇が小さく、耐光性に優れていた。
シランカップリング剤を含まない導電性高分子分散液から形成した比較例1の導電性塗膜は、紫外光照射後における表面抵抗の上昇が大きく、耐光性が低かった。
ポリマー型多官能シランカップリング剤を含まない代わりに非ポリマー型シランカップリング剤を含む導電性高分子分散液から形成した比較例2〜7の導電性塗膜は、紫外光照射後における表面抵抗の上昇が大きく、耐光性が低かった。