(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222839
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】コンデンサヘッドホン
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20171023BHJP
H04R 19/01 20060101ALI20171023BHJP
H04R 1/30 20060101ALI20171023BHJP
H04R 19/02 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
H04R1/10 101Z
H04R19/01
H04R1/30 A
H04R19/02
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-44165(P2014-44165)
(22)【出願日】2014年3月6日
(65)【公開番号】特開2015-170967(P2015-170967A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2016年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】
北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭54−005425(JP,U)
【文献】
実開昭51−070532(JP,U)
【文献】
米国特許第5117461(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
H04R 1/30
H04R 19/01
H04R 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定極板に振動板が対向配置されたコンデンサヘッドホンユニットを有し、前記コンデンサヘッドホンユニットの後部側が開放された開放型のコンデンサヘッドホンであって、
前記コンデンサヘッドホンユニットの後部側において、後端が開口する環状に設けられると共に、後部音響端子を外部空気と接続する後部音響端子接続部材を備え、
前記後部音響端子接続部材の内周面は、後端開口に向けて拡径していることを特徴とするコンデンサヘッドホン。
【請求項2】
前記後部音響端子接続部材は、その内周面が断面視で凸状の曲線をなすホーン型の部材であることを特徴とする請求項1に記載されたコンデンサヘッドホン。
【請求項3】
前記後部音響端子接続部材は、その内周面が断面視で直線をなすコーン型の部材であることを特徴とする請求項1に記載されたコンデンサヘッドホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動板と固定極との間の静電容量の変化を利用して音波を放射するコンデンサヘッドホンに関し、特に、後部音響端子側における音響インピーダンスのリアクタンス成分を抑制するコンデンサヘッドホンに関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサヘッドホンに用いられる電気音響変換器(コンデンサヘッドホンユニットと呼ぶ)には、シングル型と、プッシュプル型とがある。シングル型は、振動板の片側に固定極を配置し、プッシュプル型は、振動板の両側に固定極を配置する。前記シングル型は、低域共振周波数を下げることに問題があるため、全帯域型の実現が困難とされている。そのため、特許文献1、2に示されるように現在実用化されているものの殆どがプッシュプル型である。
【0003】
一例として、
図5に従来のプッシュプル型コンデンサヘッドホンの構成を示す。
図5は断面図である。コンデンサヘッドホンは、その基本的な構成として、ヘッドホン筐体50を備えている。ヘッドホン筐体50は、ヘッドバンド55に支持されて聴者の耳部に装着される。
ヘッドホン筐体50は、略円筒体からなる。聴者の耳部に宛がわれるヘッドホン筐体50の開口部側は、多孔板51によってカバーされている。多孔板51の周縁には、イヤーパッド52が取り付けられている。また、図示する構成は開放型のヘッドホンを示している。ヘッドバンド55による支持側の筐体側面には、多数の放音孔56が設けられる。
【0004】
また、ヘッドホン筐体50内には、スピーカとしてのプッシュプル型のコンデンサヘッドホンユニット60が収納されている。このコンデンサヘッドホンユニット60は、振動板61と、その両側に一対の固定極63,64とを備えている。振動板61は、振動板リング62に所定のテンションがかけられた状態で張設されている。固定極63、64は、リング状の絶縁座66によって周縁部が支持されている。
前記振動板61には、極めて薄い(1〜3μm程度)高分子フィルムが用いられる。この高分子フィルムには、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)やポリエチレンナフタレート(PEN)などが用いられる。振動板61の両面には、金属蒸着或いは高抵抗皮膜処理などにより、導電性が付与されている。振動板リング62は、黄銅合金などの導電材よりなる。
【0005】
また、固定極63,64には、黄銅合金やアルミニウムなどの金属板が用いられる。固定極63,64には、音を放出するための多数の孔(直径0.1〜1.0mm程度)が開けられている。多くの場合、固定極63,64には、振動板61との対向面にエレクトレット材が貼付されている。このエレクトレット材は、帯電処理した高分子フィルムである。このような構成において、振動板61と固定極63,64との間に成極電圧が印加され、固定極63、64に音声信号電圧を加えられる。振動板61と固定極63、64間に発生する静電気力によって、振動板61が変位する。その結果、振動板61から音波が放射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−27720号公報
【特許文献2】特開2008−42436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記コンデンサヘッドホンユニット60の前部側(聴者が耳部を宛がう側)には、前部音響端子68がある。前部音響端子68は、イヤーパッド52による空気室に囲われている。この前部音響端子68を介して耳に音圧が加えられる。前記のように振動板61は1〜3μmと薄く、固定極63,64との間に等しく駆動力が得られる。そのため、前部音響端子68側では、加えた音声信号電圧に対して周波数依存性のない音波を耳に加えることができる。
しかしながら、実際には振動板61は薄いため、機械的インピーダンスが低い。そのため、コンデンサヘッドホンユニット60の耳側とは逆側、即ち後部音響端子69の音響インピーダンスが振動板61に与える影響は無視できない。この後部音響端子69の音響インピーダンスが、耳側(前部音響端子68側)に加えられる音波の周波数応答を劣化させるという問題がある。
【0008】
図5から
図7を用いて具体的に説明する。本願出願人は、
図5の構成における後部音響端子69の音響インピーダンスを段階的に変化させ、それぞれの場合における周波数応答の変化を測定評価した。
図6に示すように、後部音響端子69の音響インピーダンスを変化させるために、コンデンサヘッドホン50の後側に、内径77mm、高さh(mm)の円筒部材70を設けた。この円筒部材70の高さh(mm)を可変とすることで音響質量を変化させた。
このときの周波数応答の測定結果を
図7のグラフに示す。
図7のグラフにおいて、横軸は周波数(Hz)、縦軸は振幅の相対レベル(dBr)である。また、グラフ中の各線は以下の各構成における周波数応答を示している。実線(カーブA)は円筒部材70を設けない
図5の構成の場合の周波数応答を示している。一点鎖線(カーブB)は円筒部材70の高さhが12mmの場合の周波数応答を示している。破線(カーブC)は円筒部材70の高さhが24mmの場合の周波数応答を示している。
【0009】
図7のグラフに示されるように、1.5kHz付近での共振周波数のレベルは、音響質量が増加するほど(円筒部材70の高さhが高くなるほど)減少している。この結果から、後部音響端子69側に音響リアクタンス(ヘッドホンケースの内容積が形成する音響容量と、放音孔56の音響質量)があると、共振が発生する。この共振が振動板61の周波数応答に凹凸を発生させると考えることができる。
【0010】
図8に、従来のコンデンサヘッドホンの等価回路を示す。
図8に示すように、後部音響端子69側には、音響インピーダンスとして、抵抗性の空気のインピーダンスR1と、リアクタンスX(ヘッドホンケースの内容積が形成する音響容量と、ヘッドホンケースの開口部の音響質量)が存在する。
前記したように後部音響端子69側の音響インピーダンスは、耳側に与えられる音波の周波数応答に影響を与える。そのため、後部音響端子69側には音響リアクタンスXが存在しないことが望ましい。
【0011】
本発明は、前記した点に着目してなされたものであり、開放型のコンデンサヘッドホンにおいて、後部音響端子側の音響インピーダンスにおけるリアクタンス成分を無くし、周波数応答の凹凸を抑制することのできるコンデンサヘッドホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記した課題を解決するために、本発明に係るコンデンサヘッドホンは、固定極板に振動板が対向配置されたコンデンサヘッドホンユニットを有し、前記コンデンサヘッドホンユニットの後部側が開放された開放型のコンデンサヘッドホンであって、前記コンデンサヘッドホンユニットの後部側において、後端が開口する環状に設けられると共に、後部音響端子を外部空気と接続する後部音響端子接続部材を備え、前記後部音響端子接続部材の内周面は、後端開口に向けて拡径していることに特徴を有する。
尚、前記後部音響端子接続部材は、その内周面が断面視で凸状の曲線をなすホーン型の部材であることが望ましい。
或いは、前記後部音響端子接続部材は、その内周面が断面視で直線をなすコーン型の部材であってもよい。
【0013】
このように構成することにより、後部音響端子において、ホーン型、或いはコーン型の音響経路が形成される。そのため、コンデンサヘッドホンユニットの後部音響端子と外部の空気を、リアクタンス成分を持たない状態で音響的に接続することができる。
それによりコンデンサヘッドホンユニットの後部において、音響的にマッチングのとれた状態となる。後部音響端子側の音響インピーダンスは抵抗成分のみとなり、周波数応答の劣化のないコンデンサヘッドホンを得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
開放型のコンデンサヘッドホンにおいて、後部音響端子側の音響インピーダンスにおけるリアクタンス成分を無くし、周波数応答の凹凸を抑制することのできるコンデンサヘッドホンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明に係るコンデンサヘッドホンの断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のコンデンサヘッドホンの等価回路である。
【
図3】
図3は、本発明に係るコンデンサヘッドホンの変形例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る他のコンデンサヘッドホンの変形例を示す断面図である。
【
図5】
図5は、従来の開放型コンデンサヘッドホンの断面図である。
【
図6】
図6は、
図5のコンデンサヘッドホンの後部側に音響質量を追加した構成を示す断面図である。
【
図7】
図7は、
図5、
図6のコンデンサヘッドホンの周波数特性を示すグラフである。
【
図8】
図8は、
図5のコンデンサヘッドホンの等価回路である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。尚、本発明は、後部側が開放された開放型のコンデンサヘッドホンに適用される。
図1は、本発明に係るコンデンサヘッドホンの断面図である。
図1のコンデンサヘッドホン1は、電気音響変換器としてコンデンサヘッドホンユニット5を備えている。このコンデンサヘッドホンユニット5は、図において上下に相対向して接着された一対の振動板リング6、7を備えている。また、それら振動板リング6,7の間には、薄い振動板8が張設されている。
【0017】
前記振動板リング6,7は、それぞれ正円形の枠体に形成される。また、前記振動板リング6,7は、上下に所定幅の枠面を有している。前記振動板リング6,7は金属製であり、例えばアルミニウム材や黄銅合金等から形成されてよい。
また、前記振動板8は、例えば厚さ1.5μmの薄いフィルム状に形成されている。この振動板8は、例えばPET、PPS、PENなどの高分子フィルムからなる。
【0018】
また、
図1において前記振動板4の上下には、所定間隔(例えば0.3〜1.0mm程度)を空けて、固定極9,10がそれぞれ配置されている。固定極9、10は、所定厚さ(約0.5mm)の金属板(例えば黄銅合金やアルミニウムなど)からなる。
固定極9,10には、多数の孔(図示せず)が開けられている。この多数の孔は、振動板からの音声波を放出するために設けられている。尚、固定極9,10の振動板8との対向面には、高分子フィルムを帯電処理してなるエレクトレット材が貼付されている。
この一対の固定極9,10の一面側の周縁部には、絶縁座11、12が当接している。この絶縁座11、12は絶縁性材料からなる枠体である。絶縁座11、12は、接着剤により固定極9,10を支持している。
【0019】
また、前記絶縁座11,12は、コンデンサヘッドホンユニット5の周縁部に配置されたバッフル板13の一方の面に、接着剤によって固定されている。前記バッフル板は、環状であり、所定幅を有する。バッフル板13の他方の面、即ち聴者の耳部側(図において下側)には、イヤーパッド2が設けられている。イヤーパッド2は、所定幅と高さを有する環状である。また、イヤーパッド2は空気室を形成している。前部音響端子21は、この空気室に覆われている。
【0020】
一方、バッフル板13の他方の面には、環状のホーン部材15(後部音響端子接続部材)が絶縁座11,12を覆うように設けられている。この実施の形態において、コンデンサヘッドホン1は後部側が開放された開放型の構成である。そのため、後部音響端子22はホーン部材15に囲われている。前記ホーン部材15の後端は大きく開口している。
また、このホーン部材15は、図示するように後端開口に向かって内周面が緩やかにカーブしながら拡径している。より詳しくは、その断面において、内周面が凸状の曲線をなすホーン型の形状をしている。このホーン部材15は、例えば絶縁座11,12と同様の絶縁性材料により形成されている。
【0021】
このようにコンデンサヘッドホンユニット5の後部側が構成されることにより、後部音響端子22の音響インピーダンスは、空気の音響インピーダンスに結合する。そのときの音響機械等価回路を
図2に示す。ここで、空気の音響インピーダンスR2は抵抗性のインピーダンスρc(空気の固有音響抵抗)であり、音響リアクタンスを持たない。そのため、後部音響端子22は、抵抗性のインピーダンスで終端されることになる。したがって、周波数応答の凹凸が防止され、所望の周波数帯域においてフラットな周波数応答を得ることができる。
【0022】
このように本発明に係る実施の形態によれば、コンデンサヘッドホンユニット5の後部音響端子22側をホーン形状とすることにより、ホーン型の音響経路が形成される。そのため、音響リアクタンス成分を持たない状態でコンデンサヘッドホンユニット5の後部音響端子22を外部の空気と接続することができる。
それによりコンデンサヘッドホンユニット5の後部が外部の空気と音響的にマッチングのとれた状態となり、後部音響端子22の音響インピーダンスは抵抗成分のみとなる。その結果、所望する帯域において、周波数応答の劣化のない、コンデンサヘッドホン1を得ることができる。
【0023】
尚、前記実施の形態においては、後部音響端子22側に、後部音響端子接続部材としてホーン部材15を設けたが、本発明に係るコンデンサヘッドホンにあっては、後端開口に向かってテーパ状に拡径していればよい。したがって、
図3に示すように、ホーン部材15に替えて、断面において内周面が直線をなすコーン部材16を設けてもよい。
また、ホーン部材15やコーン部材16の開き角度や高さ寸法は、例えば
図4に示すように開き角度を大きく形成する等、任意に設計変更してよい。ホーン部材15やコーン部材16の開き角度や高さ寸法を調整することで、所望の周波数応答を持つコンデンサヘッドホン1を得ることができる。
【符号の説明】
【0024】
1 コンデンサヘッドホン
2 イヤーパッド
5 コンデンサヘッドホンユニット
6 振動板リング
7 振動板リング
8 振動板
9 固定極(固定極板)
10 固定極(固定極板)
11 絶縁座
12 絶縁座
13 バッフル板
15 ホーン部材(後部音響端子接続部材)
16 コーン部材(後部音響端子接続部材)
21 前部音響端子
22 後部音響端子