特許第6222843号(P6222843)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6222843シートクッションの成形方法およびシートクッション
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222843
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】シートクッションの成形方法およびシートクッション
(51)【国際特許分類】
   A47C 27/12 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
   A47C27/12 F
   A47C27/12 E
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-73367(P2014-73367)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-192831(P2015-192831A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2016年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】100179855
【弁理士】
【氏名又は名称】藁科 えりか
(74)【代理人】
【識別番号】100086195
【弁理士】
【氏名又は名称】藁科 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】野口 和男
(72)【発明者】
【氏名】高野 潤
【審査官】 須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−239147(JP,A)
【文献】 特開平11−131397(JP,A)
【文献】 特開平06−141957(JP,A)
【文献】 米国特許第05492662(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C27/00−27/22
B68G1/00−11/06
B60N2/44−2/72
A47C7/00−7/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料としての熱可塑性樹脂である有機繊維と、無機繊維を混合してウェブを形成する工程と、
ウェブを繊維間結合させて不織布とする工程と、
不織布となったウェブからシートパッドに対応する形状にウェブ片を裁断する工程と、
ウェブ片を金型にセットして型締めする工程と、
金型を加熱し、ウェブ片の有機繊維の表層を融点以上に加熱して有機繊維どうしを溶着して、シートパッドを成形する工程と、
金型を型開きして成形されたシートパッドを取り出す工程と、
成形されたシートパッドにトリムカバーを被覆させる工程と、
を備えたシートクッションの成形方法。
【請求項2】
混合される有機繊維は50重量%以上、無機繊維は50重量%以下である請求項1記載のシートクッションの成形方法。
【請求項3】
有機繊維は、
a.ポリエチレン繊維
b.ポリプロピレン繊維
c.ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維の混合繊維
d.ポリエチレンテレフタレート繊維
e.ポリブチレンテレフタレート繊維
f.ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維の混合繊維のいずれかである請求項2記載のシートクッションの成形方法。
【請求項4】
繊維間結合が、ウェブの混合繊維を機械的に絡ませて、または、加熱空気による加熱・溶着によってなされ、
有機繊維どうしの溶着が、熱風の流れる加熱炉に金型を入れ、熱風で金型を加熱してなされる請求項1〜3のいずれか記載のシートクッションの成形方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂である有機繊維と、無機繊維を混合し、繊維間結合されて形成されたウェブからシートパッドに対応する形状に裁断されたウェブ片を有し、ウェブの有機繊維の表層が溶着されて成形されたシートパッドと、
シートパッドを被覆するトリムカバーと、
を備えたシートクッション。
【請求項6】
有機繊維は50重量%以上、無機繊維は50重量%以下である請求項5記載のシートクッション。
【請求項7】
有機繊維は、
a.ポリエチレン繊維
b.ポリプロピレン繊維
c.ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維の混合繊維
d.ポリエチレンテレフタレート繊維
e.ポリブチレンテレフタレート繊維
f.ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維の混合繊維
のいずれかである請求項6記載のシートクッション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートクッションの成形方法およびシートクッションに関する。
【背景技術】
【0002】
クッション(シートクッション)が、バス、電車、自動車、航空機などの車両用シートや、事務で使用されるシート(事務用椅子)、公民館、劇場、映画館、スポーツ施設などに設置されるシート、家庭で使用されるシートなどに広く使用されている。
通常、シートは、座部および背部の2つのクッション(シートクッション)を持ち、座部のクッションの後端に背部のクッションの下端が連結されて、シートが構成されている。
シートクッションは、シートクッションが良好な弾性を持つように弾性に富んだ弾性体から成形されたパッド(シートパッド)を通風性のよいトリムカバーで被覆して形成されている。
【0003】
シートパッドとして、発泡材から成形された発泡体が利用されている。発泡体をシートパッドとしたシートクッションにおいては、良好な弾性が得られ、着座、尻ずれが繰り返されても、シートパッドが遍在化し難い。
発泡材としてウレタンフォームが広く採用されているが、以下のような問題があげられている。
a.密度が0.35〜0.65g/立方cmで比較的重く、シートパッドの軽量化が難しい。
b.成形時に有害なイソシアネートが発生し、イソシアネート除去のためにシートパッドの成形装置の構成が複雑化する。
c.熱硬化性物質であるため、シートパッドがリサイクル化できない。
【0004】
発泡体に代えて、綿、羊毛、羽毛などの天然素材や、アクリル、ポリエステル、ガラス繊維などの人造繊維をシートパッドとしたシートクッションも知られている。しかし、この種のシートクッションは、弾性に劣るとともに、着座、尻ずれが繰り返されると、シートパッド(天然素材、人造繊維)が移動して偏在化するおそれがある。
【0005】
そのため、特開2004−337292号公報では、繊維集合体をシートパッドとしたシートクッションが提案されている。このシートクッションにおいては、繊維集合体は繊維相互の接触点を結着剤で結着して3次元構造体に成形されている。そして、繊維集合体は第1の保護シートに接着され、第2の保護シートが第1の保護シートを被覆し、繊維、第1、第2の保護シートがキルティング加工されて、シートクッションが形成されている。
この構成では、シートパッドが、繊維相互の接触点を結着剤で結着して形成された3次元構造体の繊維集合体から形成されているため、良好な弾性が得られる。また、第2の保護シートが、繊維集合体に接着された第1の保護シートの上を滑動するため、着座、尻ずれが繰り返されても、シートパッド(繊維集合体)が移動せず、偏在化しない。
【0006】
具体的に、繊維集合体(シートパッド)を組成する繊維として、綿、麻、羊毛などの天然繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの人造繊維やそれらの混合物などがあげられている。なお、繊維集合体は、1種類の繊維から組成されるだけでなく、2種類の繊維の混合体からも組成される。
実施例では、繊維集合体は、繊維全体の50重量%以上の炭素繊維を含み、繊維相互の接触点を熱硬化性樹脂からなる結着剤で結着して組成されている。結着する結着剤として、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂繊維があげられている。さらに、50重量%以上の炭素繊維に、不燃性繊維、または、難燃性繊維を加えて繊維集合体を組成することも述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−337292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特開2004−337292号公報では、繊維相互の接触点を結着剤で結着して、シートパッドとなる繊維集合体を成形している。そのため、結着剤が必要となり、結着剤として熱硬化性樹脂が使用されるため、シートパッドがリサイクルできない。
【0009】
また、繊維集合体を組成する有機繊維として、アクリル繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維などがあげられているが、これらの有機繊維は比重が高い。そのため、このような1種類の繊維から、または、2種類の繊維の混合体から繊維集合体を組成しても、繊維集合体からなるシートパッドの軽量化も難しい。また、50重量%以上の炭素繊維を含む組成としても、シートパッドの軽量化は達成できない。
【0010】
本発明は、結着剤を使用しないで成形されるシートクッションの成形方法の提供を目的としている。
本発明は、結着剤を使用しないシートクッションの提供を別の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、熱可塑性樹脂である有機繊維と、無機繊維から形成されたウェブからシートクッションに対応する形状にウェブ片を裁断し、ウェブ片の有機繊維の表層を加熱し、有機繊維どうしを溶着してシートパッドを成形している。そして、成形されたシートパッドにトリムカバーを被覆してシートクッションが形成されている。
すなわち、請求項1に係る本発明によれば、シートクッションの成形方法は、原料としての熱可塑性樹脂である有機繊維と、無機繊維を混合してウェブを形成する工程と、ウェブを繊維間結合させて不織布とする工程と、不織布となったウェブからシートパッドに対応する形状にウェブ片を裁断する工程と、ウェブ片を金型にセットして型締めする工程と、金型を加熱し、ウェブ片の有機繊維の表層を融点以上に加熱して有機繊維どうしを溶着して、シートパッドを成形する工程と、金型を型開きして成形されたシートパッドを取り出す工程と、成形されたシートパッドにトリムカバーを被覆させる工程と、を備えている。
また、請求項5に係る本発明によれば、シートクッションは、熱可塑性樹脂である有機繊維と、無機繊維を混合し、繊維間結合されて形成されたウェブからシートパッドに対応する形状に裁断されたウェブ片を有し、ウェブの有機繊維の表層が溶着されて成形されたシートパッドと、シートパッドを被覆するトリムカバーと、を備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、有機繊維の表層を融点以上に加熱して有機繊維どうしを熱着している。そのため、結着剤を使用することなくシートパッドが成形できる。また、熱硬化性樹脂からなる結着剤で結着していないため、シートパッドがリサイクルできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施例に係るシートクッションのシートパッドの成形における概略工程図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
原料としての熱可塑性樹脂である有機繊維と、無機繊維を混合してウェブが形成され、ウェブを繊維間結合させて不織布とし、不織布となったウェブからシートパッドに対応する形状にウェブ片が裁断され、ウェブ片を金型にセットして型締めしている。それから、金型を加熱し、ウェブ片の有機繊維の表層を融点以上に加熱して有機繊維どうしを溶着して、シートパッドが成形され、金型を型開きして成形されたシートパッドが取り出される。そして、成形されたシートパッドにトリムカバーが被覆されてシートクッションが形成されている。
【実施例】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例を詳細に説明する。図1は本発明の一実施例に係るシートクッションのシートパッドの成形における概略工程図を示す。
【0016】
本発明においては、まず、有機繊維、無機繊維の混合繊維からシートパッドが成形され、そのシートパッドにトリムカバーを被覆してシートクッションが形成されている。
シートパッドの成形についてまず述べる。
図1に示すように、原料としての有機繊維、無機繊維を混合機12に供給し、混合機で混合して混合繊維14とする。有機繊維、無機繊維の比率は、有機繊維を50重量%以上、無機繊維を50重量%以下とされる。
【0017】
有機繊維は、
a.ポリエチレン繊維
b.ポリプロピレン繊維
c.ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維の混合繊維
d.ポリエチレンテレフタレート繊維
e.ポリブチレンテレフタレート繊維
f.ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維の混合繊維
のいずれかとされる。
【0018】
これらの有機繊維は熱硬化性樹脂でないため、成形されるシートパッドがリサイクルできる。さらに、上記a.〜c.の有機繊維は炭素原子、水素原子のみからなる単純高分子体であり、窒素原子、酸素原子、ベンゼン環などを持たないため、シートパッドの軽量化についても可能となる。
【0019】
また、無機繊維は、
g.ガラス繊維
h.炭素繊維
i.ガラス繊維、炭素繊維の混合繊維
などとされる。
【0020】
有機繊維、無機繊維の混合繊維14を混合機12から引き出し、カード機(カーディングマシン)16でくしけずって繊維方向を揃え、一定方向に送り出してシート状のウェブ(フリース)18を形成する。
【0021】
次に、ウェブ18の混合繊維が繊維間結合されて不織布とされる。繊維間結合は、たとえば、ニードルパンチ法、サーマルボンド法などによってなされる。ニードルパンチ法では、ウェブ18をニードルパンチ機20に送り、ニードル(針)20aを高速で上下させてウェブに突き刺し、ニードルに設けた突起(バーブ)で混合繊維の繊維を機械的に絡ませて繊維間が結合される。サーマルボンド法では、オーブン22に入れ、熱風にあてて加熱、溶着して繊維どうしを結合させる。ニードルパンチ法において、ニードルパンチ機20で繊維を機械的に絡ませてから、熱風をあて、加熱、溶着して繊維どうしをさらに結合してもよい。
【0022】
繊維間結合されて不織布となったウェブ18はロール状に巻き取られる。そして、ロール(ウェブのロール)23からウェブ18を引き出して、シートパッド30に対応した形状のウェブ片18aが裁断される。なお、ウェブ18の厚さは、たとえば、30〜40mmとされ、1枚のウェブでは厚さが不足する部分では裁断した複数のウェブ片を重ねて必要な厚さが確保される。
【0023】
裁断されたウェブ片(ウェブの裁断片)18aが金型24にセットされて型締めされる。つまり、ウェブ片18aが下型24Lに載せられ、上型24Uがウェブ片を介して下型に被せられる。実施例では、上型24Uは3つの部材に分割されている。
【0024】
金型24は加熱され、ウェブ片18aの有機繊維の表層が融点以上に加熱される。上型24U、下型24L間に挟まれて圧縮されたウェブ片18aは金型24の加熱によって所定形状に成形され、有機繊維どうしが溶着されて、所定形状のシートパッド30が成形(成型)される。たとえば、金型24は加熱炉26に入れられ、熱源26aで加熱された空気(熱風)が加熱炉内を循環されて、金型が加熱される。
有機繊維が50重量%以上、無機繊維が50重量%以下とされ、有機繊維が多く混合されているため、有機繊維どうしが効率よく溶着される。有機繊維どうしが溶着されるため、熱硬化性樹脂からなる結着剤が不要となり、シートパッドがリサイクルできる。
【0025】
金型24が加熱炉26から取り出され金型を冷却してから、上型24Uが下型24Lの上から除かれ、金型が開かれて、シートパッド30が金型から取り出される。
シートパッド30は、座部または背部のシートクッションにおいて、着座者の臀部、または、背中を適切に保持する形状に成形される。実施例では、シートパッド30は着座者の背部を保持する背部のシートクッションのシートパッドとして成形されている。すなわち、着座者の背部を保持する中央部30Cを左右のサイド部30Sが両側から包んで左右方向での着座者の動きを規制するように、その横断面が略 〕形状に成形されている。
【0026】
上記のようにして、熱可塑性樹脂である有機繊維と、無機繊維の混合繊維からシートパッド30が一体成形される。そして、一体成形されたシートパッド30に、通気性のあるトリムカバー(表皮)が被覆されて、完成品としてのシートクッションが形成される。
つまり、シートクッションは、熱可塑性樹脂である有機繊維と、無機繊維を混合し、繊維間結合されて形成されたウェブからシートパッドに対応する形状に裁断されたウェブ片を有し、ウェブの有機繊維の表層が溶着されて成形されたシートパッドと、シートパッドを被覆するトリムカバーとを備えている。
【0027】
有機繊維が50重量%以上、無機繊維が50重量%以下の混合繊維から成形されているため、混合繊維が低密度化され、成形されるシートパッド30が軽量化できる。また、有機繊維が多いため、弾性に富んだシートパッド30が成形され、繰り返し圧縮による圧縮ひずみが改善される。
たとえば、有機繊維が80重量%、無機繊維が20重量%とされる。
【0028】
上記のように本発明では、有機繊維の表層を融点以上に加熱して有機繊維どうしを熱着しているため、結着剤を使用することなくシートパッドが成形できる。また、熱硬化性樹脂からなる結着剤で結着していないため、シートパッドがリサイクルできる。
【0029】
上述した実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を何等限定するものでなく、本発明の技術範囲内で変形、改造等の施されたものも全て本発明に包含されることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、バス、電車、自動車、航空機などの車両用シートに限定されず、事務で使用されるシート(事務用椅子)、公民館、劇場、映画館、スポーツ施設などに設置されるシート、家庭で使用されるシートなどに応用できる。
【符号の説明】
【0031】
12 混合機
14 有機繊維、無機繊維の混合繊維
16 カード機(カーディングマシン)
18 ウェブ(フリース)
18a ウェブ片(ウェブの裁断片)
20 ニードルパンチ機
22 オーブン
23 ロール(ウェブのロール)
24 金型
24U、24L 上型、下型
30 シートパッド
30C、30S シートパッドの中央部、左右のサイド部
図1