(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222846
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】オフセットジョー縫合デバイス、システム及び方法
(51)【国際特許分類】
A61B 17/062 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
A61B17/062 100
【請求項の数】30
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-514843(P2014-514843)
(86)(22)【出願日】2012年6月7日
(65)【公表番号】特表2014-523766(P2014-523766A)
(43)【公表日】2014年9月18日
(86)【国際出願番号】US2012041362
(87)【国際公開番号】WO2012170692
(87)【国際公開日】20121213
【審査請求日】2015年5月18日
(31)【優先権主張番号】61/494,785
(32)【優先日】2011年6月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512328083
【氏名又は名称】スーチャネティックス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SUTURENETICS, Incorporated
(74)【代理人】
【識別番号】100096725
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 明▲ひこ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100119231
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100171697
【弁理士】
【氏名又は名称】原口 尚子
(72)【発明者】
【氏名】ベルマン、ユリ
(72)【発明者】
【氏名】ザチュリュキン、アレキサンダー・ボリソビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ムーア、パトリシア・エイ
【審査官】
佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−514562(JP,A)
【文献】
米国特許第5833697(US,A)
【文献】
米国特許第5951587(US,A)
【文献】
特開平1−129843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/062
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を有する縫合針とともに使用するための縫合デバイスであって、
第1のクランプを画成する第1のジョー及び第2のジョーと、
前記第1のクランプを閉じた形状と開いた形状との間で動かすための作動機構と、を含み、
前記第1のクランプが、
前記第1のジョーの第1の対向する表面と、前記第2のジョーの第2の対向する表面と、
第1のジョーのオフセットと第2のジョーのオフセットとを含む第1の針当接表面であって、前記第1のジョーのオフセットが第1の方向へ前記第1のジョーから軸方向に伸長し、前記第2のジョーのオフセットが前記第1の方向とは反対の第2の方向へ前記第2のジョーから軸方向に伸長する、第1の針当接表面と、を有し、
前記第1のクランプが、前記第1及び第2の対向する表面の間に前記縫合針を第1の位置で把持するための前記閉じた形状と、前記第1及び第2の対向する表面の間で前記縫合針を受け取る、または解除するための前記開いた形状とを有し、
前記第1の針当接表面が、前記縫合針の意図しない移動を抑制するために前記第1の位置からオフセットした少なくとも第2の位置で前記縫合針に当接するように、前記第1のクランプの前記第1及び第2の対向する表面から軸方向にオフセットする、縫合デバイス。
【請求項2】
前記第1の対向する表面及び前記第2の対向する表面が、前記第1のクランプの内側対向表面を含むことを特徴とする請求項1に記載された縫合デバイス。
【請求項3】
前記第1のクランプの前記第1のジョー及び第2のジョーの一方または両方が、前記対向する表面に隣り合うオフセット部分をそれぞれ含み、該オフセット部分が前記第1の針当接表面を画成することを特徴とする請求項2に記載された縫合デバイス。
【請求項4】
前記第1の位置の周りに前記縫合針が回転移動することを制約するように、前記縫合針が前記第1のジョー及び第2のジョーの間に固定されたとき、前記それぞれのオフセット部分が前記縫合針の前記第1の位置からある距離だけ離れて軸方向に伸長することを特徴とする請求項3に記載された縫合デバイス。
【請求項5】
前記縫合針が前記第1のジョー及び前記第2のジョーの間に固定されるとき、前記縫合針が前記第1の位置の周りに回転移動することを回転方向に対抗して制約するように、一方のジョーの前記オフセット部分が前記縫合針の基部の端部に向かって前記第1の位置からある距離だけ離れて軸方向に伸長し、それとともに他方のジョーの前記オフセット部分が前記縫合針の末端に向かって前記第1の位置からある距離だけ離れて軸方向に伸長することを特徴とする請求項3に記載された縫合デバイス。
【請求項6】
前記閉じた形状にあるとき、前記第1、第2のジョーの前記対向する表面が実質的に平行であり、
前記縫合針が該縫合針の平面を通って伸長する針の軸線を含み、
前記縫合針が前記第1のジョー及び前記第2のジョーの間に固定されるとき、前記縫合針の平面が、前記第1、第2のジョーが閉じたときに前記対向する表面に沿って伸長する平面に交差し、
前記第1の針当接表面が、縫合の間、前記第1のクランプに関して前記縫合針の平面のアライメントを維持するように、前記縫合針の平面に実質的に平行であることを特徴とする請求項4に記載された縫合デバイス。
【請求項7】
前記縫合針が前記第1、第2のジョーの間に把持され、前記第1の針当接表面に当接するとき、前記縫合針の平面が、前記第1、第2のジョーの前記対向する表面に沿って伸長する平面に実質的に垂直であることを特徴とする請求項6に記載された縫合デバイス。
【請求項8】
前記縫合針が前記第1のジョー及び前記第2のジョーの間に固定されるとき、前記第1のジョーの前記オフセット部分及び前記第2のジョーの前記オフセット部分のうちの少なくとも一方が、前記それぞれのジョーの前記対向する表面から前記縫合針の平面に沿ってある距離だけ離れて伸長し、前記距離が、前記それぞれのジョーの前記対向する表面の幅の少なくとも1/8であり、前記幅は前記第1及び第2の対向する表面に把持された前記針の軸線に沿って伸長することを特徴とする請求項6に記載された縫合デバイス。
【請求項9】
前記距離が、前記それぞれのジョーの前記対向する表面の幅の少なくとも半分であることを特徴とする請求項8に記載された縫合デバイス。
【請求項10】
前記距離が、前記それぞれのジョーの前記対向する表面の前記幅の半分ないし2倍の範囲にあることを特徴とする請求項8に記載された縫合デバイス。
【請求項11】
前記作動機構が、前記開いた形状と閉じた形状との間で前記第1のクランプの前記第1及び第2の対向する表面を移動させるように、二つの手動部材であって、各部材の中間の部分の周りに枢動する部材を含むことを特徴とする請求項1に記載された縫合デバイス。
【請求項12】
さらに、第2のクランプを画成する第3のジョー及び第4のジョーと、
前記第1、第2のクランプの基部に配置された本体と、を含み、であって、
前記第2のクランプが、第3のジョーの第3の対向する表面及び第4のジョーの第4の対向する表面と、第3のジョーのオフセット及び第4のジョーのオフセットを有する第2の針当接表面であって、前記第3のジョーのオフセットが第1の方向へ前記第3のジョーから軸方向に伸長し、前記第4のジョーのオフセットが前記第1の方向と反対の第2の方向へ前記第4のジョーから軸方向に伸長する、第2の針当接表面と、を有し、前記第2のクランプが前記第3及び第4の対向する表面の間に前記縫合針を第1の位置で把持するための閉じた形状と、前記第3及び第4の対向する表面の間で、前記縫合針を受け取るまたは解除するための開いた形状と、を有し、前記第2の針当接表面が、前記縫合針の意図しない移動を抑制するために、前記縫合針に前記第1の位置からオフセットした第2の位置で当接するように、前記第3及び第4の対向する表面から軸方向にオフセットし、
前記本体が、該本体を保持する外科医が、前記開閉の形状の間で前記作動機構により前記第1または第2のクランプを作動させて前記デバイスで縫合することを容易にするように前記作動機構の少なくとも部分を含み、
前記外科医が、前記本体を移動させることにより、前記第1のクランプに固定された縫合針を組織に通すことができることを特徴とする請求項1に記載された縫合デバイス。
【請求項13】
前記作動機構がさらに、クランプを交替させる機構を含み、該機構の作動が、前記閉じた形状において前記第1のクランプで前記縫合針を支持することと、前記閉じた形状において前記第2のクランプで前記縫合針を支持することとを交替させることを特徴とする請求項12に記載された縫合デバイス。
【請求項14】
前記縫合針が前記第1のジョー及び前記第2のジョーの間に固定されるとき、前記第1及び第2の対向する表面の少なくとも一方が、前記縫合針の長手方向の軸線が伸長する前記縫合針の平面に実質的に平行に伸長する複数の隆起部を有する隆起した表面を含むことを特徴とする請求項1に記載された縫合デバイス。
【請求項15】
前記複数の隆起部が、前記縫合針の意図しない移動をさらに抑制するために、前記閉じた形状において前記第1及び第2の対向する表面の間に固定される前記縫合針を少なくとも部分的に収容するように各々寸法決めされることを特徴とする請求項14に記載された縫合デバイス。
【請求項16】
前記隆起部が三角形の隆起部を含むことを特徴とする請求項15に記載された縫合デバイス。
【請求項17】
前記三角形の隆起部が、三角形の外科用縫合針の三角形の断面の頂点を嵌合収容して前記縫合針がその軸線の周りに回転移動することを抑制するように寸法決めされることを特徴とする請求項16に記載された縫合デバイス。
【請求項18】
患者の組織を縫合するための縫合方法に用いられる請求項1に記載された縫合デバイスであって、
前記縫合方法が、
前記第1のジョーの前記第1の対向する表面及び前記第2のジョーの前記第2の対向する表面の間で前記縫合針の前記第1の位置を把持する工程であって、前記第1及び第2のジョーが前記縫合デバイスの前記第1のクランプを形成する、工程と、
前記縫合針を少なくとも前記第2の位置で前記第1のクランプの前記第1の針当接表面に当接させる工程と、
前記縫合針を前記対向する表面の間に把持し、且つ前記縫合針に前記第2の位置で当接する間、前記縫合デバイスを使用して前記組織内に前記縫合針を前進させる工程であって、前記第2の位置が、前記縫合針を前進させるときに前記第1のクランプに関して前記縫合針の意図しない移動を抑制するように、前記第1の位置から前記針の軸線方向に沿って軸線方向にオフセットしている、工程とを含む、縫合デバイス。
【請求項19】
前記縫合針を把持する間、前記第1のクランプに関して前記縫合針を予め決定されたアライメントで位置付けるように、前記第1の針当接表面が、前記縫合針を前記第1の位置で把持すると同時に前記縫合針に前記第2の位置で当接することを特徴とする請求項18に記載された縫合デバイス。
【請求項20】
前記第1の針当接表面から前記縫合針が離れているとき、前記対向する表面がその間に前記縫合針を把持するように十分に平行であり、
前記縫合方法が、さらに、前記第1のクランプが前記縫合針を把持する間に、前記第1の針当接表面と前記縫合針との間の間隔を視覚的に特定することによって、前記縫合針が前記第1のクランプに関して望ましいアライメントにないことを決定する工程を含む請求項18に記載された縫合デバイス。
【請求項21】
さらに、前記組織内に前記縫合針を前進させる工程が、前記縫合デバイスの基部の本体を移動させることによって、前記縫合針の末端部分を前記組織に通して末端方向へ挿入する工程を含む請求項18に記載された縫合デバイス。
【請求項22】
前記縫合針に前記第2の位置で当接させる工程が、前記縫合針を前記組織に通して挿入するとき、前記第1の位置の周りに前記縫合針が回転移動することを制約することにより移動を抑制することを特徴とする請求項21に記載された縫合デバイス。
【請求項23】
前記縫合方法が、さらに、前記第1のクランプの前記第1の針当接表面により前記縫合針に加えられる力によって、前記縫合針の前記末端部分が前記組織を通して挿入されるとき、前記第1の位置の周りに前記組織によって前記縫合針に加えられる組織のトルクに対抗する工程と、を含む請求項22に記載された縫合デバイス。
【請求項24】
前記第1の針当接表面が、前記縫合針の前記第1の位置のいずれかの側で前記縫合針に当接することを特徴とする請求項22に記載された縫合デバイス。
【請求項25】
前記第1の針当接表面が、第3の位置で前記縫合針に当接し、前記第2の位置と前記第3の位置が前記縫合針の前記第1の位置の両側にあることを特徴とする請求項22に記載された縫合デバイス。
【請求項26】
前記対向する表面が、前記針の軸線方向の領域に沿って伸長する幅を有し、前記領域は前記第1の位置を含み、前記第1及び第2のジョーのオフセットが前記対向する表面から軸方向の当接距離だけ軸方向に離れて伸長し、前記距離は前記幅の少なくとも1/8であることを特徴とする請求項22に記載された縫合デバイス。
【請求項27】
患者の組織を縫合するための縫合方法に用いられる請求項12に記載された縫合デバイスであって、
前記縫合方法が、前記第3のジョーの前記第3の対向する表面と前記第4のジョーの前記第4の対向する表面の間に、前記第1のクランプにより前記組織を通して挿入された前記縫合針の末端部分を前記第1の位置で把持する工程であって、前記第3及び第4のジョーが前記第2にクランプを形成する、工程と、
前記第2のクランプの前記第2の針当接表面に前記末端部分の縫合針を前記第2の位置で当接させる工程と、
前記第1のクランプから前記縫合針を解除する工程と、
前記第1のクランプを前記縫合針から遠ざけて移動させる工程と、
前記第2のクランプを前記組織から遠ざけて移動させることにより前記組織を通して前記縫合針の基部部分を引く工程であって、その間に、前記第2のクランプの前記対向する表面の間に前記縫合針を把持し、且つ前記第2のクランプの前記第2の針当接表面に前記縫合針を前記第2の位置で当接させ、前記第2の位置が、前記縫合針を前進させるときに前記第2のクランプに関して前記縫合針の意図しない移動を抑制するように前記第1の位置から針の軸線方向に沿って軸線方向にオフセットする、工程と、を含む縫合デバイス。
【請求項28】
前記縫合針の前記基部部分を引く工程が、さらに、前記組織を通して前記縫合針に取り付けられた縫合糸を引く工程を含む請求項27に記載された縫合デバイスにおいて、
前記縫合方法がさらに、
前記第1のクランプまたは前記第2のクランプで固定された前記縫合針を、前記縫合糸を引き締めるために前記穿通した組織から遠ざけて引く工程であって、その間に、前記各々のクランプの前記針当接表面が、それぞれのクランプに関して前記縫合針が意図せず移動することを抑制する工程と、を含む。
【請求項29】
前記第1のクランプまたは前記第2のクランプを使用して、前記縫合針を前記第1の位置で把持すること及び前記縫合針に前記第2の位置で当接することが、前記縫合針が前記第1の位置の周りに回転移動することを制約することを特徴とする請求項28に記載された縫合デバイス。
【請求項30】
患者の組織を縫合するための縫合方法に用いられる請求項1に記載された縫合デバイスであって、
前記縫合方法が、
前記第1のクランプに関して前記針の軸線を望ましいアライメントに位置付けするように、前記縫合針を前記第2の位置で前記縫合針の湾曲を含む平面に沿って前記第1のクランプの前記第1の針当接表面に当接させる工程と、
前記縫合針の前記第1の位置を、前記第1のジョーの前記第1の対向する表面と前記第2のジョーの前記第2の対向する表面の間で前記縫合針の湾曲を含む平面に交差する平面に沿って把持する工程であって、その間、前記第1のクランプの前記第1の針当接表面が前記第2の位置に当接する、工程と、
前記縫合針を前記組織内に前進させる工程であって、その間、前記対向する表面の間に前記縫合針を把持し、且つ前記第1のクランプに関して前記縫合針の意図しない移動を抑制するように、前記縫合針に前記第1の位置で当接し、前記第1の位置が、前記第2の位置から少なくとも部分的に軸線方向にオフセットしている、工程と、を含む縫合方法に用いる縫合デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35 USC 119(e)の規定に基づき2011年6月8日に出願された米国仮特許出願第61/494,785号の利益を主張し、全ての目的のためにその完全な開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は、概して、2009年9月15日に登録された米国特許第7,588,583号、2006年9月14日に出願された米国特許出願第11/532,032号、2009年8月4日出願された米国特許出願第12/535,499号、2008年3月17日に出願された米国特許出願第12/049,552号、2008年3月17日に出願された米国特許出願第12/049,545号、2010年1月14日に出願された米国特許出願第12/687,349号、及び2010年6月25日に出願された米国特許出願第61/358,764号に関連し、それらの全ての開示が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
本発明は、概して、医療デバイス、システム、及び方法に関する。具体的な実施形態では、本発明は、直視下手術、低侵襲外科的手技等において組織を縫合するためのデバイス、システム、及び方法を提供する。
【0004】
手術の多くの態様は、過去数十年の間に劇的に変化したが、手術技術のいくつかは、依然として全く変わっていない。例えば、50年前と同様に、縫合は組織の近置、組織の結紮、組織を一緒に固定すること等について慣用技術のままである。
【0005】
縫合は、直視下外科的手技において、病変組織を治療的に処置し、及び外科的アクセス部位や他の創傷を閉じるために代々使用されてきた。より最近では、低侵襲手術技術の利用が拡大し、外科的療法は、内部の手術部位で行われることが多くなってきた。外科医がこれらの内部の手術部位を見ることができるように多種多様な視覚化技術(腹腔鏡及び他の内視鏡的視覚装置、X線透視法及び他の遠隔撮像様式等)が開発され、多種多様な新しい組織治療技術(超音波技術、電気手術技術、凍結手術技術等)が開発されて今や広く利用可能であるが、多くの近代的な外科的介入は、引き続き縫合に依存している。
【0006】
組織縫合の多種多様な代替物が開発され、特定の外科的手技において種々の程度で受け入れられている。ステープル及び組織接着剤は、多くの直視下手術及び低侵襲手術のセッティングでかなり頻繁に用いられており、様々な組織溶接技術も提案されている。それにも関らず、縫合は多くの代替物に優る複数の利点を提供するので、依然として手術において偏在する。
【0007】
縫合の利点は、外科医が長年培ってきた多くの知識及びスキルのベースを含む。加えて、様々な既製の、予め包装された糸付き縫合針が、非常に手頃な価格で多数の供給元から入手可能である。外科医は、縫合針を把持して初めにそれを押し、次に標的の組織を通して引くことによって、縫合の縫い目の位置を正確に制御することができる。直視下手術では、外科医は縫合針を直接自分の手で、手動で把持することもできるが、直視下及び低侵襲手技のいずれも、多くの場合、針を針ホルダ等の針把持ツールで把持し、そのツールを操作して縫合の縫い目を配置することにより行われる。縫合を使用して得られる結果は、外科医のスキルによるとはいえ、高度に予測可能である。この利点を考慮すると、近代的なロボット手術技術もしばしば縫合を利用し、縫合の利用がすぐになくなるようには思われない。
【0008】
縫合は、その顕著な利点によって手術の少なくとも部分において依然として信望を有するが、縫合に不利な点がないわけではない。特に、針ホルダのような針把持ツールを用いて縫合する際に、針が滑ったり、針が把持された点を中心に旋回したりする傾向がある場合がある。縫合の際に、針を把持ツール内で正確なアライメントに位置付けることは困難であり、そのアライメントを維持することは、縫合中に針が様々な外部の力を受けるので、さらにより困難であり得る。例えば、典型的な縫合プロセス中に、針が組織を穿通するのに十分な力で押され、次いで、組織を通して縫合糸を引っ張るために使用される。組織を通して縫合糸を引っ張った後、針は典型的に、縫合糸を引き締めるために引っぱられる。穿通中に組織によって針に及ぼされる力、及び引き締めるときの縫合糸からの力は、針把持ツール内の針のミスアライメントをもたらし得る。このミスアライメントは縫合プロセスを妨げ、医師が針把持ツールに針を再び整列させるために縫合プロセスが遅延する場合がある。もう一つの問題は、針の正しい位置がずれる際、一部の医師は、針を再び整列させるために自分の手で針をつかむ傾向があり、このことは、手術環境における組織の不必要なコンタミネーション、及び/または医師の手袋や皮膚に針が穴をあけるリスクにつながりかねない。また、一度位置がずれた針を再度整列させることは、針のアライメントを修正するために外科医が典型的に内視鏡や画像検査法に依存する低侵襲の環境において、さらにより困難である。これらの困難は、医師の疲れの増加につながり、及び不必要に手術を長引かせることにつながり、その結果、患者の治癒に要する期間がより長くなることになる。ゆえに、針をツールにより正確に位置付けること及び整列させることができ、縫合手技中に針の位置及びアライメントをより安定させることができる針把持ツールが望ましいであろう。
【0009】
多数の縫合縫い目を配置することはまた、消耗を生じさせ、非常に時間がかかる場合がある。縫合針を操作することは、標的組織の周囲でしばしば利用可能な限られたスペースのために直視下手術においてでさえ困難な場合がある。縫合針の操作の問題は、典型的に手術部位からオフセットしたディスプレイで手技を見ながら、多くの場合、小さな開口部を通って伸長する柄の長いツールを用いて針を操作する低侵襲外科的手技において、より大きい場合がある。低侵襲手技において使用されるツールは、概して、低侵襲の開口部を通してツールを挿入することを容易にし、低侵襲の環境でのツールの動きによる組織の損傷を防止するために、外形を小さくして設計されている。好ましい張力等で結び目を作ることは、入り組んだ精密な縫合の操作を必要とする場合があり、直視下手術及び低侵襲手術をさらに複雑にし、遅延させ得る。実際に、アクセス部位を閉じる/縫合することに費やされる時間は、多くの手技について、もともとの標的組織を処置するのに費やされる時間よりも著しく長い場合がある。
【0010】
上記の不利な点を解決しようとする、標準の外科的縫合構造及び方法の修正のための様々な提案あった。このような提案の少なくともいくつかは、特殊な、及び/または独自仕様の縫合針システムに依存しようとするものであり、このことはコストを増大させ、それらの幅広い受け入れを、特に第三世界の諸国において妨げる得るものであった。残念ながらまた、現存する縫合技術を修正するための提案の多くは、例えば、デバイスの自動化した、または間接的な機械的動作に依存して縫合針を組織内へ及び/または組織を通して動かす等のように、縫合の配置に渡って外科医の制御を低下させる場合がある。これらの新しい提案は、1つ以上の外科的手技において種々の程度で過去に受け入れられ、または将来に受け入れられ得るが、標準の縫合技術は、一般の手術全体を通じて卓越し続ける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記に鑑みて、改良された縫合デバイス、システム、及び方法を提供することが望ましいであろう。好適に、縫合に必要な時間、外科医にかかる負担、縫合技術の能力または時間効率を達成することに関与する訓練等を低減しながら、標準の縫合技術の利点の一部、ほとんど、または全てを維持することが、概して好ましいであろう。それらの改良が、新しい設備のために大規模な資本投資を必要とすることなく、縫合プロセスの複雑さを著しく増大させることがなく、または、特殊な、もしくは独自仕様の縫合針等を用いる必要もなく提供されるならば、特に有利であろう。また、針の位置とアライメントの安定性を向上させ縫合の容易さ及び精度を高める、並びに/または種々異なる手技及び患者の生理のために速やかに適合する代替的な針把持器構造が望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、概して、改良された医療縫合デバイス、システム、及び方法を提供する。本発明の実施形態は、改良された縫合デバイス及び方法を提供し、針の位置及びアライメントにおける安定性を高めながら、標準の直視下及び/又は低侵襲の縫合技術の利点のいくつか、または全てを維持し、スピード及び使いやすさを増大させることができる。例示的な縫合デバイスは、第1クランプの対向する把持表面の間で、第1の位置で縫合針を保持し、その間、その針に第2の位置で当接し、第2の位置は、組織を通して針を前進させる際、及び/または縫合糸を引く際等に、クランプに関して、針が意図せず動くことを抑制するように、第1の位置から軸方向にオフセットする。多くの実施形態では、針当接表面は、針の軸線に関して相対的に固定された位置にある、平坦な表面、多くの場合、クランプのオフセット部分、典型的に、クランプのジョーのオフセット部分を含む。クランプは、クランプ内に把持される針の第1の位置のいずれかの側、または両側で、軸方向にオフセットしたある距離だけ針に当接するように、クランプの一方の側または両側から側方外側に伸長する針当接表面を含む場合がある。針当接表面は、使用前に、クランプに関して針の軸線を整列させるのに役立つガイドとして作用して、使用中に、針がクランプと依然として位置合わせされていることの確認を容易にし、及び/または、縫合中に針にかかる著しいストレス及びトルクにも関わらず、クランプとのアライメントから針が動くことを抑制するための支持表面として作用し、多くの場合、クランプの対向する表面と針との間のクランピングロードを大幅に変更することがない。従って、簡素な側方に伸長する(複数の)針当接表面は、種々の縫合手技中に、針の安定性に驚くほどの顕著な利益をもたらし得る。
【0013】
第1の態様において、縫合デバイスは、第1及び第2の対向する表面と針当接表面とを有する第1のクランプを含む。クランプの対向する表面は、概して、針を第1の位置で把持するための閉じた形状と、針を対向する表面の間で受け取る、もしくは針を対向する表面の間から解除するための開いた形状とを有する。実施形態では、対向する表面は、クランプの一対のジョーの内側表面を含む。針当接表面は、対向する表面から軸方向にオフセットし、そのことによって第2の位置で針に当接し、該第2の位置は、第1の位置から軸方向にオフセットし、そのことによって針の意図しない移動を抑制することができる。デバイスはさらに、第1の位置で針を把持するように、対向する把持表面を互いに向かって移動させるための作動機構を含む。一つの実施形態では、作動機構は、針ホルダにおけるもののような、基部のハンドルを有する枢動部材を含む場合がある。もう一つの実施形態では、作動機構は、ハンドルの作動が機構を循環させるようにハンドルに作動的に連結するシャフトを含み、そのことによって第1のクランプでの把持と第2のクランプでの把持を交替させることができ、第1及び第2のクランプの一方又は両方が、デバイスに関して針が意図せず動くことを抑制するように、第2の位置で針に当接するための針当接表面を含み得る。
【0014】
もう一つの態様では、閉じた位置にあるとき、クランプの対向する表面は実質的に平行である。針は、針を含む平面(plane of the needle)を通って伸長する針の軸線を含み、例えば、湾曲する針は、針の湾曲を含む平面(plane of curvature)を通って伸長する。多くの実施形態では、針当接表面は対向する表面の平面に交差し、好適に、平面(各々の対向する表面がそれに沿って伸長する)に実質的に垂直であり、それによって、針が把持される第1の位置の周りに針が回転及び移動することが制約される。例示的な実施形態では、針当接表面は平坦であって、該表面の平面は、湾曲した針が使用されるとき湾曲の平面に平行であり、そのことによって、平坦な針当接表面と針との当接は、針がその軸線の周りに回転することを抑制するように針を制約することができる。
【0015】
多くの実施形態で、クランプは第1のジョー及び第2のジョーを含み、対向する表面が、第1及び第2のジョーの内側の対向する表面を含む。多くの実施形態で、針当接表面は第1及び第2のジョーから、好適に、第1及び第2のジョーの各々に形成される。多くの実施形態で、一つのクランプの第1及び第2のジョーの各々は、針当接表面を画成するオフセットを有し、典型的に、一方のジョーのオフセットは針の一方の軸方向に伸長し、それとともに、他方のジョーのオフセットは、針の反対の軸方向へ伸長する。
【0016】
一つの態様では、クランプの対向する表面は、針を把持するのに適したテクスチャーを有する把持表面を含む場合がある。把持表面は、隆起部、スコーリング、模様、ギザギザ、または針の把持を改良するためのいずれかの適した特徴を含む場合がある。いくつかの実施形態では、把持表面は、少なくとも針の部分を隆起部または溝部で受け入れるように、針の軸方向に沿って伸長する複数の隆起部または溝部を含む。好適な実施形態では、複数の隆起部は、針がクランプの対向する表面の間に把持される場合、該針の軸方向に沿って伸長する一連の三角形の隆起部を含む。三角形の隆起部は典型的に、対向する表面の間に把持するとき、針の三角形の断面の頂点を嵌合収容して針がその軸線に従って回転移動することを抑制するように寸法決めされ、少なくとも一方の対向する表面が、一連の三角形の隆起部を有する把持表面を含む。
【0017】
多くの実施形態では、クランプは、針ホルダ等、一つのクランプを有する縫合デバイス、または、針の基部の部分及び針の末端の部分を把持することを循環する交替クランプを有する縫合デバイス等、複数のクランプを有する縫合デバイスに含まれる場合がある。縫合デバイスはデバイスのハンドルを有し、そのことによって外科医は、標準の針把持部を使用するのとそっくり似たやり方で、縫合される組織を通して針を挿入するように、ハンドルを把持し操作することができる。閉じた位置から開いた位置へ、及び閉じた位置に戻るデバイスのハンドルのサイクルによって、結果として、針が交替で、第1のクランプによって把持され(例えば、針の基部の部分に沿って、針の先端を組織内に、及び組織を通して挿入するのに適切に)、次に第2のクランプで把持され(例えば、針の末端の部分にそって、組織から外に突き出た針を引くのに適切に)、及び任意で再び第1のクランプで把持される(次の縫合を開始するための準備)ことになる。針は、多くの場合、少なくとも組織を通して針を挿入する間、及び/または組織を通して針を引く間、縫合デバイスの本体及びハンドルに関して実質的に固定位置にあり続け、そのことによって外科医は、針の動き及び縫合の位置付けに渡って、正確な制御を維持することができるであろう。有利に、標準の既製の縫合針が、それらに付属する縫合糸とともに使用されてよく、デバイスは、直視下手術のセッティング、または低侵襲手技で採用されてよい。
【0018】
もう一つの態様では、本発明は縫合方法を提供する。縫合方法は、縫合デバイスの第1のクランプの第1及び第2の対向する把持表面の間で縫合針の第1の位置を把持することと、針を第2の位置で第1のクランプの針当接表面に当接させることと、対向する表面の間に縫合針を把持する間、及び第2の位置で針に当接する間に、縫合デバイスを使用して組織内に針を前進させることを含み、第2の位置は、針を前進させるとき、クランプに関する針の意図しない移動を抑制するように、第1の位置から針の軸方向に沿って軸方向にオフセットしている。典型的に、針を前進させることは、縫合デバイスの基部の本体を移動させることによって、縫合針の末端の部分を、組織を通して末端方向に挿入することを含む。理想的に、針を把持する間、針をクランプに関して所定のアライメントで位置付けるように、針当接表面が、針を第1の位置で把持すると同時に、針に第2の位置で当接する。一つの態様では、針が針当接表面から離れているとき、対向する表面は、その間に針を把持するのに十分に平行であり、本方法はさらに、クランプが針を把持する間、針当接表面と針の間の間隔を視覚的に特定することにより、針がクランプに関して望ましいアライメントにないことを決定すること、及びそれに応じて、針をクランプに関して再配置することを含む場合がある。
【0019】
もう一つの実施形態では、本方法はさらに、クランプの針当接表面によって針に与えられる力を使用して、針の末端の部分が組織を通して挿入されるとき、組織によって第1の位置を中心に針に与えられる組織のトルクに対抗することを含む。針当接表面は、針の第1の位置のいずれかの側で針に当接し得るが、好ましくは、針当接表面は、針の第1の位置の両側で針に当接する。多くの実施形態で、針当接表面は、針の軸線に沿って、対向する表面の幅の少なくとも1/8、好適に幅の少なくとも半分、さらにより好適に、幅の半分ないし2倍の範囲にある軸方向距離だけ、対向する把持表面から軸方向に遠ざかって伸長する。
【0020】
もう一つの実施形態では、本方法はさらに、第2のクランプの第1及び第2の対向する把持表面の間に、第1の位置で、組織を通して挿入された針の末端の部分を把持することと、第2のクランプの針当接表面に第2の位置で末端部分の針を当接させることを含む。本方法は典型的に、第1のクランプから針を解除すること、及び第1のクランプを針から遠ざけて軸方向に移動させることを含む。概して、縫合針を第2のクランプの対向する表面の間に把持する間、及び針を第2の位置で、針を把持するクランプの針当接表面に当接させる間、医師は、組織から遠ざけて第2のクランプを移動させることにより、組織を通して針の基部の部分を引く。医師はその後、典型的にデバイスの本体を移動させることによりクランプを移動させて縫合糸を引き締め得る。
【0021】
もう一つの態様では、本方法は、第1のクランプに関して望ましいアライメントに針の軸線を位置付けするように、縫合針を第1の位置で、針の湾曲を含む平面に沿って、縫合デバイスの第1のクランプの針当接表面に当接させることを含む。医師は、第1のクランプの当接表面が第1の位置に当接する間、第1のクランプの第1及び第2の対向する表面の間で、針の湾曲の平面に交差する平面に沿って針の第2の位置を把持し得る。その後、対向する表面の間で針を把持する間、及びクランプに関して針が意図せず移動しないように、第1の位置から少なくとも部分的に軸方向にオフセットした第2の位置で針に当接する間、医師は針を組織内に前進させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】
図1Aは、多くの実施形態に従って、針当接表面を画成するオフセット部分を有するクランプの一つのジョーを備えた実施例の縫合デバイスの斜視図である。
【
図1B】
図1Bは、多くの実施形態に従って、各々のクランプが針当接面を画成するオフセット部分を有する、交替するクランプを有する実施例の縫合デバイスの斜視図である。
【
図2】
図2は、縫合デバイスのハンドルを縫合デバイスのクランプに連結するリンケージの部分を図示するために縫合デバイスの基部のハウジングからカバーが取り除かれた、
図1Bの縫合デバイスの基部の部分の斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2に図示されたリンケージの構成要素の分解斜視図である。
【
図4】
図4は、
図1Bの縫合デバイスの末端部分の分解図であり、クランプの構成要素、及び往復動可能なシャフト、並びに往復動可能なシャフトを移動させ、クランプを作動させるリンケージの要素を示す。
【
図5】
図5は、多くの実施形態に従って、組織を縫合するための実施例の縫合デバイスの使用を図示する斜視図である。
【
図6】
図6は、多くの実施形態に従って、組織を縫合するための実施例の縫合デバイスの使用を図示する斜視図である。
【
図7】
図7は、多くの実施形態に従って、組織を縫合するための実施例の縫合デバイスの使用を図示する斜視図である。
【
図8】
図8は、多くの実施形態に従って、組織を縫合するための実施例の縫合デバイスの使用を図示する斜視図である。
【
図9】
図9は、多くの実施形態に従って、組織を縫合するための実施例の縫合デバイスの使用を図示する斜視図である。
【
図10】
図10は、第1及び第2の交替可能なクランプを有し、クランプの各々のジョーが針当接表面を画成するオフセット部分を有する、別の縫合デバイスにおける実施例のクランプの斜視図である。
【
図14】
図14A〜
図14Dは、多くの実施形態に従って、クランプのジョーの実施例のクランピング表面、クランプのジョーの間に把持された三角針の斜視図及び断面図である。
【
図17】
図17は、角を成すジョーを有する別のクランプの実施形態の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、概して、改良された医療縫合デバイス、システム及び方法に関する。本発明の例示的な実施形態は、縫合デバイスに保持される針の位置付け及びアライメントを大幅に向上させることができ、特に、長い切開部を縫合するとき、または、多数の縫い目を配置する必要があるときに有用な、組織を縫合するための改良された縫合デバイス及び方法を提供する。
【0024】
本発明は、ヒトおよび動物の両方の解剖学的組織を縫合するための多種多様な適用を見いだすであろう。内視鏡手術(例えば、腹腔鏡検査)に加えて、これらの構造および方法は、組織が縫合される外科手術の他の領域に用途を見出すことができ、それぞれの個々の縫い目を配置し得る容易さと速度とを増すばかりでなく、縫合糸で結び目を形成することを容易にし、促進して、大きな切開部の縫合のために特定の利点を提供することができる。本明細書に記載の縫合デバイス及び関連する方法は、例えば、皮下層、筋膜、外皮、種々の臓器(子宮を含む)等の(しかし、これらに限定されない)多種多様な解剖学的組織の層の縫合に使用され得る。例示的な実施形態が以下に説明されるが、それらの縫合デバイス及び方法は、直視下手術、大腔、小腔の手技、内視鏡手技、顕微鏡下手術(静脈、動脈等の縫合を含む)、及び多くの特殊な手術を含む多種多様な縫合手術に適用可能であり得る。これらのデバイス及び方法の実施形態は、形成手術を含む長い切開を伴う手術において特に有用であり得る。静脈と動脈の両方を含む多種多様な血管もまた、吻合等の形成のために、本明細書に記載の技術を用いて縫合され得る。縫合デバイスにおける針の位置及び方向の安定性を増すことに加え、本発明はまた、医師の手の動きと縫合針の挿抜との一定の関係を維持することにより、外科的縫合縫い目の形成の速度、及び/または容易さを向上させ、多くの場合、縫合糸の配置に渡って医師が制御を維持できるようにする。よって、本発明から利益を得ることができる手技の中には、皮内の腹膜、筋膜の閉鎖、及び皮膚の閉鎖がある。
【0025】
本発明の実施形態は、任意で電気機械力、水力等を利用し、電動システムまたは自動化システムを含んでよい(または、それらの内部で利用される)が(例えば、いくつかの実施形態でロボットシステム内に含まれる)、他の実施形態は、外科医の1つ以上の手による手動操作のために構成されてよく、多くの場合、複雑なサブシステムまたは外部電源を用いる必要がない。
【0026】
本明細書に記載のデバイスの多くの実施形態は、繰り返し使用することができるように滅菌可能であろう。滅菌は、オートクレーブ法、化学的滅菌法、放射線照射法等を使用して行われてよく、縫合デバイスの構造のほとんどまたは全てが、繰り返しの滅菌に適した材料(ステンレス鋼、他の金属及び合金等)から形成される。概して、縫合デバイスは外科用デバイスに共通する1つ以上のプラスチック及び/または金属を含む場合がある。特殊な、または独自仕様の縫合針がいくつかの実施形態で使用され得るが(例えば、針と関連するクランプとのアライメントを維持するように平坦な把持表面を有する針)、縫合デバイスの多くの実施形態は、いずれかの多種多様な永久的または吸収性の縫合糸材料とともに密封シールパックに包装されたもの等の標準の既製の縫合針と共に使用するのに適するであろう。実際、本発明は、その最も即時的な適用のいくつかを第三世界の国々において手動で行われる外科的手技を容易にすることのために見出し、標準の縫合技術を使用して行われるのに比べて、医師が多数の患者を大幅に容易に処置できるようにし、それでいてコストもしくは近年提案の自動化縫合システムの複雑さもない。
【0027】
図1Aを参照すると、実施例の縫合デバイス101が図示されている。縫合デバイス101は、縫合手技中に針を把持するためのクランプ3を含む。クランプ3は、ハンドル6及び8によって作動する。デバイス101が外科医の手に保持されると、移動ハンドル6、8が一緒にクランプ3を作動させ、ジョー25を互いに向かって移動させ、そのことによってジョー25の対向する把持表面の間に配置された針を把持することができる。ジョー25は、典型的に、対向する針把持表面53を含み、それはジョーの内側の対向表面に組み込まれる場合があり、または、各ジョーの内側に取り付けられるインサートとして適用される場合がある。クランプ3はさらに、針当接表面50を含む。多くの実施形態では、針当接表面50は、ジョーから側方外側に針の軸線に沿って伸長するオフセットにより画成され、それによって、ジョー25の間に針が把持される点から軸方向に離れた第2の位置で針に当接する。針を第2の位置で針当接面50に当接させることにより、クランプ3は、針のねじれ、または針把持表面53の周りに針が枢動移動することに抵抗することができる。針は種々の形状及び寸法で供給されるが、外科用縫合針は多くの場合、基部の端部から末端の端部にかけて湾曲した形状に形成される。多くの用途で、デバイス101は湾曲した針とともに使用され、針は、その長手方向の軸線に沿って曲率半径を有し、軸線は、針の湾曲の平面を画成する。湾曲した針について、平坦なオフセット部分50によって針がその軸線に従って回転することに抵抗することもでき、デバイス101に関する針の湾曲の平面のアライメントまたは方向を維持することもできる。
【0028】
この実施形態では、クランプ3は、一対のジョー25及び一方のジョー25に形成された針当接表面50を含み、針当接表面50はジョーのオフセット部により画成され、クランプ3の一方の側から側方外側へ伸長する。別の実施形態では、針当接表面はクランプ3の両側から外側へ伸長してよく、または各々のジョーが針当接表面を画成してよい。好適な実施形態では、各々のジョー25は、針当接表面50がクランプ3の両側から側方外側へ伸長するように、針当接表面50を画成するオフセット部分を含む。多くの実施形態で、針当接表面50は、針当接表面50の平面が、ジョー25のクランピング表面の平面に交差して、好適に、実質的に垂直になるように設計され、そのことによって、針の枢動及び回転移動が効果的に制約される。例示的な実施形態では、オフセット部分は、クランプ3に収容される針がクランプ3の両側から側方に伸長する平坦な針当接表面50に当接するように実質的に平坦であり、それによって針をクランプ3に適切に位置付けすること及びアライメントを保証することができる。好適な実施形態において、針当接表面50はジョーのオフセット部分により画成されるが、該表面がクランプ3から側方外側に伸長してクランプ3に把持される針の枢動または回転移動を制約する限り、針当接表面はジョーと分かれた部材または構造を含み得ることが理解される。
【0029】
図1Bを参照し、実施例の縫合システム100は、概して、縫合デバイス102及び針1を含む。針1は概して、基部の端部104及び末端の端部106を有し、組織内に、及び組織を通して針を末端方向に挿入することを容易にするように、少なくとも末端の端部が尖っている。針1のような湾曲した外科用縫合針は、多くの場合、基部の端部104から伸長する縫合糸とともに包装され、針(needle)は針(acus)と言われることもある。縫合デバイス102は典型的に基部の端部108及び末端の端部110を有する本体112を有する。一対のクランプ3が、末端の端部110の近傍に配置されるとともに、第1及び第2のハンドル6、8が、基部の端部108の近傍に配置される。各々のクランプ3は、デバイス101において上に記載されたように、一対のジョー25及び針当接表面50を含む。本体112は、基部のハウジング7及び末端の伸長部4を含む場合がある。末端の伸張部は一対のチャンネルを有し、各々のチャンネルは、関連するクランプ3を支持するシャフト2を往復動可能に収容する。
【0030】
この実施形態では、クランプ3は、代わりにさまざまな形状を有することもあるが、鏡面対称である。クランプ3は概して、針1の軸方向にオフセットした部分を把持するようにオフセットしており、一方のクランプが針のより基部側の部分を把持し、他方のクランプが針のより末端側の部分を把持する。
図1Bに示されているようにハンドル6、8が閉じた形状にあるとき、クランプ3の一方のみが典型的に針1を把持し、他方のクランプは針から基部方向に離れて引っ込められるであろう。ハンドル6、8は、外科医の手の指を入れるための開口部を有し、外科医は典型的に、図示の閉じた形状から開いた形状114にハンドルを開くことによってそれらを作動させるだろう。閉じた状態のハンドル6、8(
図1Bに図示されているように)から続けて、ハンドルが開いた形状114へ移動され、その後閉じた形状に戻される場合、ハンドルが作動サイクルを完了したと記載される場合がある。
【0031】
ハンドル6、8の作動サイクルの各々により、針1を支持するクランプ3は交替され、それによって、針の基部の部分に沿って第1のクランプで把持することにより初め支持される針が、ハンドル6、8が開いた形状114のときは、代わりに、針のより末端側の部分に沿って第2のクランプにより支持されるだろう。ハンドル6、8が、閉じた形状に戻ってサイクルを完了すると、クランプは再び交替し、ハンドルを閉じることにより、基部側のクランプが伸長し、その基部側のクランプで針1を把持し、末端側のクランプから針を解除し、末端側のクランプが引っ込むことになる。シャフトは、針が一方のクランプに保持されてから両方のクランプ、及びその後他方のクランプに保持されるに従って軸方向にわずかに移動し得るが、針のこの移動は針の長さよりも短く、本体112に関する針1の位置はハンドルの作動サイクルの間中、実質的に固定されたままである。針がいずれかのクランプ3によって保持されるとき、クランプの針当接表面50は針に当接して、縫合中、縫合デバイス102の本体に関する針1の位置及び方向を維持する。この実施形態では、各々のクランプの各々のジョーが、針当接表面50を画成するオフセット部分を含む(しかしながら、各々のオフセット部分は
図1Bでは見えない)。
【0032】
図1B及び2を参照し、ハンドル6、8は、本体112のハウジング7に枢着される。ハウジング7は、概して、少なくとも一つの蓋部9を含み(
図2では上の蓋部は取り除かれて示される)、基部のハウジングは好適に、本体の対向する主表面に、対向する第1及び第2の蓋部9を含む。蓋部9及びハウジング7のその他の構造が、概して、ハンドル6、8とクランプ3とを連結する駆動リンケージ116を取り囲む。
図1〜9の実施形態では、駆動リンケージ116は、概して、駆動輪11及び二つの被動輪10、12を含む。被動輪10、12は鏡面対称であり、タイロッド14、21によりクランプ3に連結される。
【0033】
図1B〜3を参照し、被動輪10はスラスト表面24を有し、一方で被動輪12は、ストップ表面23及び傾斜部22を有する。駆動輪は軸20の周りに回転するように支持され、また駆動輪はラグ13を有する。駆動輪11は、タイ18、19によってハンドル6、8に連結され、それによって本体7に関するハンドルの作動は、軸を中心とした駆動輪11の回転を生じさせる。被動輪10、12は、駆動輪11と同軸に回転する。
【0034】
ラグ13は概して、要素を駆動する交替可能な形態を含む。ラグ13は、その時点のラグ13の形態によって、駆動輪11を被動輪10と駆動連結し、または、被動輪12と駆動連結する。より特定的に、ラグ13が
図2に示されるようにガイド部15の上に配置されるとき、ラグは駆動輪11と上部の被動輪10を駆動連結する。ラグ13がガイド部15の下に配置されるとき、ラグは被動輪12を駆動係合し、被動輪10から係合が解除される。リセットまたは解除入力ボタン16は、両方のクランプ3が針1を解除できるようにするために、ガイド部15及びばね式位置付けアーム17と相互作用する。
【0035】
図1B〜4を参照して理解されるように、各々のクランプ3は、関連するシャフト2によって、駆動リンケージ116の残りの構成要素に連結される。シャフト2は各々、縦スロット118を含み(
図4参照)、そのことによってシャフトが、本体の伸張部4のチャンネル内を移動できるようにする。ガイドピン32がスロット118に重なり、またガイドピン32は、伸張部4の開口部5内に固定される。シャフト2内の移動ウェッジ31もまたガイドピン32を受け入れるための縦スロット118を有する。移動ウェッジ31のウェッジ表面は、作動ジョー25の対応する表面に係合し、作動ジョーは、クランプ3の開閉可能な構造を形成する。より特定的に、移動ウェッジ31の対応する作動ジョー25の表面に対する末端側への移動はクランプ3を閉じ、作動ジョーは、軸27によってシャフト2の末端のクレビスに取り付けられる。ばねリング30は、作動ジョー25を開いた形状に付勢し、作動ジョーが移動ウェッジによって強制的に閉じられる前に、針1の周りを移動し、針1を把持できるようにする。
【0036】
作動ジョー25は、針1を保持するための様々な表面を有してよく、クランプは好適に、縫合中に、縫合デバイス100に関して針が移動することを抑制するように針を保持する。作動ジョー25の表面は、ダイヤモンド又はダイヤモンドライクカーボンの蒸着により硬化されてよく、または、作動ジョー25の材料よりも硬い材料から成るインサート53が与えられてもよい。任意で、作動ジョー25は、タングステン及び/またはコバルトを含む、表面が硬化されたインサートを有してよく、インサートは任意で、粉末焼結等により作製される。戻しばね29が、作動ジョー25のピン28とガイドピン32の間に伸長し、戻しばねは、移動ウェッジ31の管腔に部分的に固定される。移動ウェッジ31の基部側の部分のばね34は、プラグ37によって保持され、ばね34の末端側の端部は、スラストリング33を介してシャフト2と相互作用する。ばね34は、作動ジョーを解除するために適した位置に移動ウェッジ31を配置し得る。プラグ37に押付けられる補償ばね36は、押し部材42のロッド35に重なり、それによって望ましい軸力を維持することができる。押し部材42は、インサート40を有し、それはピン39及びラグ38によって押し部材42に接続する。ラグは軸41の周りに回転する。
【0037】
ハンドル6及び8が互いに離され、開いた形状114になるとき、引っ込められたクランプ3及びその関連するシャフト2が、本体の伸張部4のチャンネル内から移動する。引っ込められている間、移動ウェッジ31は、ばね34によって、作動ジョー25から離れるように付勢され、それによってばねリング30がはずれてクランプを開き、針1の周りに伸長できるようにする。補償ばね34の伸長は、関連するクランプ3が引っ込められている間、その最大の地点にあり、インサート40は、そのインサート内のラグ38とともに押し部材42から伸長する。ハンドル6及び8をくっつけるようにすると、駆動輪11が接続タイ18、19によって回される。ラグ38は被動輪10のスラスト表面24と相互作用し、被動輪10を回転させる。被動輪10の動作はタイロッド14によって伝達され、それによってインサート40を本体の伸張部4に沿って軸方向に移動させる。次にインサートが、押し部材42を本体伸張部4に沿って移動させ、インサート40及び押し部材42の相対位置は、プラグ30と相互作用するシャフト2の内側表面によって維持され、それによってプラグが軸41の周りを回転することを抑制する。押し部材42はばね34及び補償ばね32を押圧し、プラグ37とスラストリング33を介してシャフト2を移動させる。シャフト2の移動はばね29に打ち勝って、シャフトを本体伸張部4のチャンネルから伸長させる。
【0038】
押し部材42が末端方向へ移動する間、ばね34及び補償ばね36は、それらのばね係数が戻しばね29のそれよりも十分に高いので、伸長を抑制するのに十分に固い。しかしながら、結局は、シャフト2のスロット118の端部とガイドピン32の係合がシャフトのさらなる末端方向への移動を抑制する。シャフト2が末端方向への移動を停止すると(縦スロット118とガイドピン32の係合によって)、ばね34が収縮し始め、その剛性は補償ばね36のそれよりも低い。結果として、移動ウェッジ31が作動ジョー25に関して末端方向に伸長し始め、ウェッジ及び作動ジョーの対応する表面が互いに対してスライドし、それによって作動ジョーの基部側の端部を離れさせ、作動ジョー25の末端側の針把持インサート26をくっつけて針1を把持することができる。ばね34が収縮するとき、補償ばね36の収縮も始まり、インサート40が移動する。ラグ38がシャフト2の窓部2a内に伸長し、及び/または係合するとき、押し部材42は本体伸張部4の表面または基部のハウジング7に係合し、押し部材の軸方向の移動が停止する。インサート40は移動し続け、それによって、ラグ38が軸41を中心に回転する。ラグはシャフト2のエッジと相互作用し、補償ばね36に打ち勝って、シャフト2及びその中身を本体伸張部4内に引き込み始める。
【0039】
クランプ3による針1へのクランピング力は、望ましい範囲内にあるように、補償ばね36のばね特性によって決定されてよい。有利には、縫合デバイス100によって針1に与えられるクランピング力は、標準の針ホルダによって加えられる力に対応してよい。被動輪12のスラスト表面23は、ばね式固定アーム17の歯に接近し、ばねに打ち勝ち、スラスト表面は歯の下を通り、歯を解除し、それによって歯及びスラスト表面がニュートラルな係合のために位置付けられる。被動輪12のスラスト表面23がばね式固定アーム17の歯を越えた後、スラスト表面及び歯の係合は駆動リンケージ116がその前の形状に戻ることを抑制し、そのことによって、閉じた作動ジョー25から針1が解除されることを抑制し、針が落ちないようにする。
【0040】
ハンドル6、8が、ハンドルの作動サイクルの開いた形状に向けて動き続けるとき、被動輪12の移動はばね式固定アーム17によって抑制される。
駆動輪11はそれにも関わらず回転し、リセットされる。より特定的に、被動輪12の傾斜部22が、ラグ13を、ガイド部15の上にある形態から、ラグがガイド部の下に配置される形態へと動かす。ゆえに、ハンドル6、8が、ここで閉じた形状に向けて動き続ける場合、ラグ13は被動輪10のスラスト表面24と相互作用するであろう。被動輪12に関する上記の記載は従って、被動輪10に代わって繰り返される。ばね式固定アーム17の下に移動する場合、被動輪12のスラスト表面23はばね式固定アーム17を持ち上げ、被動輪10を解除する。
【0041】
ばね34の作用によって、移動ウェッジ31は、作動ジョー25の基部側端部の間から基部方向へ引っ込められ、それによって作動ジョーの基部側端部はばね式リング30によって一緒にまとめられる。それによって作動ジョー25の末端側端部が離れ、針が解除される。各繰り返しのハンドル6、8の開閉作動サイクルによって、針は交互に、一方の、及び次に他方のクランプ3によって保持され、そして多くの場合最初のクランプに戻る。他の実施形態では、ハンドル作動サイクルの各々が、針を一方のクランプから他方のクランプへと移し、第2のハンドル作動サイクルのみで、針が第1のクランプだけによって保持されることに戻る。いずれにせよ、各サイクルの間、各引っ込められたクランプは、好適に、針1の関連する部分の周囲に伸長して閉じられ、その後、前に伸長していたクランプが開き、それによって、ハンドル作動サイクルを通して、針はクランプ3の少なくとも一方により保持され続ける。
【0042】
ハンドル作動サイクルの間、または前後のいずれかの時に、縫合デバイス112から針1を解除することが望ましい場合、解除は解除入力ボタン16を押すことによって行われ得る。ボタン16を押すことによって、ばね式固定アーム17が被動輪10及び12から離れて持ち上がり、そのことによって、クランプを基部側が開いた形状にリセットすることができる。
【0043】
図5〜9を参照し、組織Tの切開部Iを縫合するための縫合デバイス102の利用法が理解されるだろう。初めに、ハンドル6、8(
図1参照)は閉じた形状にあり、次にハンドルは外科医の手によって把持される。針1は第1のクランプ3aによって支持され、第1のクランプは針の基部の部分を、縫合糸Sに近接する第1の位置で把持する。第2のクランプ3bは、針1から離れて基部方向に引っ込められ、それによって、
図5に示されているように、針の末端の部分は解放され露出している。
【0044】
針の基部の部分がクランプ3aのジョー25の間に配置されるとき、針は各ジョー25のオフセット部分50に当接し、オフセット部分は針当接表面50を画成し、それはクランプ3aのどちらかの側から側方外側に伸長する。オフセット部分の針当接表面50は、デバイス102に関する針の適切な位置付け及び/または方向付けを検証する。
図5に図示された実施形態において、針1の湾曲の平面がジョー25の把持表面に実質的に垂直になり、同様にシャフト2の長手方向の軸線に垂直になるように、針がオフセット部分50に当接する。針をクランプの表面50に当接させることによって、医師は縫合前に、所与のデバイスについて針の適切な位置付け及びアライメントを検証し得る。針当接表面50は、所与の手技または解剖学のために望ましいように、種々の位置付けまたはアライメントにおいて、縫合デバイス102の本体に関して針を配置するように構成され得ることが理解される。
【0045】
図6を参照して理解されるように、ハンドル6、8を操作することによって外科医は縫合デバイス102を手動で動かして、縫合針1の末端の部分を組織Tに通して挿入することができる。有利には、クランプ3aの各々のジョー25のオフセット部分50がデバイス102の本体に関して針1が移動することを抑制し、その間に針が組織に突き通される。このことは、針が組織を通して挿入されるとき、標準の針把持器または鉗子を使用して針を手動で操作するのと類似のやり方で、外科医が針1の動きを正確に制御できるようにする。針1が組織Tに突き通されるとき、組織によって加えられる種々の抵抗力に遭遇する場合がある。加えて、針1が組織Tを穿通するとき、医師によるデバイス102の本体の移動が、組織Tと針1との間で反力を生じさせる場合がある。これらの力はいずれかの方向へトルクを加え、オフセット部分50がなければ、針をジョーに関して枢動または回転させ、あるいは、針1をその軸線の周りに回転させる恐れがある。針1に第1の位置からある軸方向距離だけ離れた針1上の第2の位置で当接することにより、クランプ3aは組織によって加えられるトルク及び捻転力に抵抗するための逆トルクを加えることができる。概して、オフセット部分50がより外側に伸長する(針の軸方向に従って)ほど、クランプ3aはより大きいトルクに耐えることができる。多くの実施形態では、オフセット部分の針当接表面50は、ジョー内に把持された針の軸線に沿って測定したときに、ジョーの把持表面の幅の少なくとも1/8だけジョーのエッジから側方外側に伸長する。好適に、オフセット部分50は、ジョーの把持表面の幅の少なくとも半分、さらにより好適に、幅の半分から2倍の範囲にある軸方向の距離に伸長する。
【0046】
図6、7を参照して理解できるように、針1の末端の部分が組織Tを通って十分に伸長すると、ハンドル6、8は、それらの作動サイクルの少なくとも部分に渡って循環され得る。リンケージ116を通じて、第2のクランプ3bが縫合デバイス102の本体112から末端方向へ伸長され、クランプ3bのジョー25の間に針1の末端の部分を把持し、その間、クランプ3bのオフセット部分50が針に当接してクランプ3bに把持された針の位置を検証し、針1の位置及び方向を維持することができる。
図8に示されているように、次に第1のクランプ3aは針1を解除し、針の周囲から基部方向に引っ込められる。
【0047】
図8、9を参照して理解され得るように、針1が第2のクランプ3bに保持されると、外科医は再び、ハンドル6、8を動かすことによって針を操作することができる。いくつかの実施形態では、外科医はハンドルを開いた形状に把持し、その間に針を組織から引き抜き、また他の実施形態では、針は、ハンドルが閉じた形状に戻ったあとに引き抜かれるだろう。いずれにせよ、外科医はハンドル、本体及びクランプ3bを使用して、組織を通して針1の基部の部分を引き、それによって縫合糸Sを、切開部Iを横切って挿入された状態にすることができる。針1の基部の部分が組織Tから離脱すると、針1は再び、部分的に、組織T及び組織を通して引かれる縫合糸によって加えられる種々の力及びトルクに遭遇する。クランプ3bのオフセット部分50は、クランプ3aを参照して上述したように、針1が組織Tを通して引かれるときに針1が遭遇するトルク及び力に対抗することにより、デバイス102の本体に関して針1が移動することを抑制する。
【0048】
第2の縫合を開始する前に、外科医は多くの場合、組織Tの切開部Iから針を引き離して縫合糸を引き締める。縫合糸を引き締める際、縫合糸はそれが取り付けられている針に著しい力を及ぼす。オフセット部分50(または他のそのような針当接表面)は、クランプ3a、3bを参照して上述したように、針へのそのような力及びトルクに対抗し、それによって針1の位置及び方向を維持することができる。次に外科医は典型的に、次の縫合を開始する前に、クランプ3aで針1の基部の部分を支持するようにクランプを交替する。
【0049】
クランプを交替するために、外科医は自分の手でハンドルを閉じることによって、または全部の作動サイクルを通しハンドルを開閉することによって、ハンドル6、8を循環させる。このことによって第1のクランプ3aによって針1を把持し、第2のクランプ3bで針を解除することになり、
図5を参照して理解されるように、針を組織Tに通して再び挿入する用意ができるように、針の末端の部分を露出し、第2のクランプを針から離れさせる。そしてプロセスは、針1を完全に解除する必要もなく、針の末端部分を組織に通して挿入した後、及びさらに組織を通して針を引いた後の単純なハンドル6、8の作動によって繰り返され得る。プロセスは望ましい数だけの縫い目を形成するために繰り返される。同じように、縫合糸のループを通して針の末端部分を挿入し、ハンドルを作動させ、針を自由に引くことで、迅速かつ容易に結び目を形成し得る。針がジョー25の周りを枢動、または針がその軸線の周りに回転することを含む針の移動を抑制して針1の適切なアライメントを維持することにより、デバイス102はデバイスを使用した縫合を容易にし、同時に縫合の使いやすさ及び正確さを向上させる。
【0050】
図5〜9から理解されるように、及び駆動リンケージの連結についての上記の発明の詳細な説明に示唆されているように、本体112からクランプ3a、3bへと末端方向へ伸長するシャフト2は、ハンドルの作動サイクルの間にわずかに移動し、例えば、最初に針1を保持するクランプを支持するシャフトは、他方のシャフトが伸長するとき、本体112内にわずかに引っ込む。それにも関わらず、各々のクランプは針を、ジョーの対向する把持表面及びクランプの針当接表面50で固定された位置に保持し、その間に外科医は、ハンドル6、8を閉じた形状で保持し、針を組織内に挿入し、または針を組織内から引き出す。
【0051】
多くの実施形態に従って、デバイス102は、クランプを作動させるために、及び/またはクランプを交替して針を把持するために、多種多様の代替のリンク機構、クランプ構造、ハウジング、ハンドル等を利用してよい。例えば、急速脱着インターフェース、着脱式カートリッジ、及び単一のクランプユニットの複数のクランプを着脱可能に支持するためのラッチ等の代替の機構及びクランピング構造は、2009年9月15日に登録された米国特許第7,588,583号、2006年9月14日に出願された米国特許出願第11/532,032号、2009年8月4日に出願された米国特許出願第12/535,499号、2008年3月17日に出願された米国特許出願第12/049,552号、2008年3月17日に出願された米国特許出願第12/049,545号、2010年1月14日に出願された米国特許出願第12/687,349号、及び2010年は6月25日に出願された米国特許出願第61/358,764号(その完全な開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる)により詳細に見ることができる。当業者は、本発明が、本明細書に開示されたいずれかの代替の針把持ツール、または種々の他の針把持ツールに組み込まれ得ることを理解するであろう。
【0052】
図10は、縫合デバイス102のクランプ3の例示的な実施形態を図示する。クランプはジョー25a、25bを含み、各々のジョーは針当接表面50を画成する平坦なオフセット部分を有する。好適に、オフセット部分50は、表面が、ジョーの把持表面53に沿って伸長する把持平面に垂直になるように、クランプ3から側方外側に伸長する。図示の平坦なオフセット部分50は半円であるが、針当接表面50は、第1の位置でジョー25a、25bの間に把持された針が、該第1の位置から軸方向に離れた第2の位置で表面に当接する限り、任意の形状であってよいことが理解される。
【0053】
図11Aは
図10のクランプ3のジョー25aを図示する。ジョー25aの基部の部分は作動機構に取付けられ、シャフト等を有し、それによって、機構が作動することでジョー25a、25bが、それらの間で針を把持するように互いに向かって移動する。針当接表面50を画成するオフセット部分は、ジョー25aの把持表面53からある距離だけ側方外側に伸長する。クランプ3が抵抗し得るトルク及び回転力は部分的に距離dに基づいて決定され、針当接表面50はジョーの把持表面53から距離dだけ伸長する。多くの実施形態で、dはジョーの把持表面の幅の少なくとも1/8、好適に幅の少なくとも半分、さらにより好適に、ジョーの把持表面の幅の半分ないし2倍の範囲にある。
【0054】
図11Bは
図10のクランプ3のジョー25bを図示する。ジョー25aと同様に、ジョー25bの基部部分はシャフトを含み、それによってデバイス102の作動機構が、ジョー25a、25bを、その間で針を把持できるように互いに向かって移動させ得る。針当接表面50を画成するオフセット部分は、ジョー25bの把持表面53からある距離、dだけ側方外側に伸長する。多くの実施形態で、ジョーの把持表面53は、針をより効果的に把持するためにテクスチャー加工された表面を含む。テクスチャー加工された表面は、ジョーの間に把持される針に係合する溝、模様、スコーリングまたはギザギザ等を含む場合がある。いくつかの実施形態では、ジョーの把持表面は、各々の対向するジョーの内側に取り付けられる別個のインサートを含む場合がある。例示的な実施形態では、各々のジョーが対向するジョーに一致するように、ジョー25a、25bの寸法は同じまたは鏡面対称であるが、対向するジョーの寸法及び全体の幾何学的形状が異なる場合もあることが理解される。例えば、針当接表面50は別個の部材または構造を含んでよく、または、ジョーのいずれかの側の外側に伸長する針当接表面50は、一対のジョーの一方に組み込まれ得る。
【0055】
図12A〜12Cは、ジョー25の間に湾曲した針1を把持する
図10の例示的なクランプ3を図示する。
図12Cは、針1を把持するクランプ3の詳細を示し、針の軸線に沿ってクランプから側方外側へ伸長するオフセット部分によって画成される針当接表面50に沿った針1の当接位置を示す。
【0056】
続いて
図13を参照し、代替の縫合デバイス202は多くの機能部品を含み、それらは上述のものと同様であるが、概して、再利用可能な駆動ユニット204と使い捨てできるクランプユニット206に分離され得る。解除可能な連結具208がクランプユニット206を駆動ユニット204に解除可能に連結する。例示的な連結具は、クランプユニット206の伸張部210と駆動ユニット204の基部ハウジング212とを強固に連結させ、及びクランプユニットのシャフトと駆動リンケージの軸方向移動要素との間に移動係合表面を提供するインターフェースを含む。例示的な解除可能な連結具208は、軸方向位置付け表面(駆動ユニット204のピン及びクランプユニット206の対応する開口部の形態)及び不注意な分離を避けるための解除可能なラッチを含むが、多種多様な代替の解除式連結具もまた使用され得るだろう。例示的なクランプユニットは二つのクランプ3を含み、各々のクランプは、クランプの各側から軸方向にクランプから側方へ伸長する針当接表面50を有する。いくつかの実施形態では、各クランプは、駆動ユニット204に個別に取り付けられてよい。いずれにせよ、クランプを駆動ユニットから取り外しできるようにすることによって、クランプを滅菌できるようにするためのいかなる必要も避けることができ、縫合システム全体のコストを低減させ、患者の間の交差感染が抑制されることを保証するのに役立つ。複数のクランプユニット206は、多くの場合、各駆動ユニット204とともに使用され、各クランプは単一の患者のために使用され、そして処分されるものである。この実施形態で、デバイス202は、第1及び第2のクランプ3で交互に針を把持するために、作動機構に取り付けられたハンドル209を含む。好適に、外科医は一方の手で駆動ユニット204を保持し、指を使ってハンドル209により作動機構を循環させる。デバイス202は、駆動ユニット204を動かすことによって、針を組織に通し、針及び縫合糸を組織に通して引き、及び縫合糸を引き締めることに使用され、その間、針は第1または第2のクランプ3で把持される。
【0057】
図14A〜14Dは、ジョーの把持表面53の例示的な実施形態及びその利用方を図示する。一つの実施形態で、ジョーの把持表面53は、ジョー25内に把持されるときの針1の長手軸線方向に伸長する一連の隆起部を含む。ジョーの把持表面53はジョー25の内側表面に組み込まれてよく、または、ジョー25に取り付けられ、任意で取り外しできる別個のインサートを含んでよい。隆起部は針の部分に係合し針の部分を収容するように寸法決めされ、隆起部は所定の用途に使用される針1の幾何学的形状に対応する。例えば、半円形の隆起部は、円形の横断面を有する針に対応し、半円形の隆起部を有する二つのジョーの把持表面は、その間に円形の針を嵌合して収容及び把持するであろう。好適な実施形態において、
図14Aに図示され、
図14Bに断面図で示されているように、ジョーの把持表面53は三角形の隆起部を含む。三角形の隆起部を備えたジョーの把持表面53を有するクランプは、
図14Cに図示されているように、三角形の横断面を有する針を把持し係合するために特に有用である。
図14Dは、三角形の断面を有する針1を把持する
図14Cのクランプ3の断面を図示する。クランプ3で把持されると、針1の三角形の断面の頂点が把持表面53の三角形の隆起部によって収容され、そのことにより、針をジョー25の間に固定することができる。三角形の隆起部が、針の三角形の断面の頂点に係合する場合、針がその軸線の周りに回転することを抑制するので、三角形の隆起部を有するジョーの把持表面53は、上記半円の溝よりも有利である。三角形の隆起部を有する上記ジョーの把持表面は、本明細書に記載された発明のいずれの実施形態に組み込まれてよく、同様に、種々の他の針把持デバイスに組み込まれてよいことが理解される。
【0058】
もう一つの態様において、多くの実施形態に従うデバイスは、角度がついた、または湾曲したジョー部材25、及び一つ以上の針当接表面50を有するクランプを含む場合があり、それらは
図15A〜15Dのデバイス300、
図16A〜16Cのデバイス310、及び
図17のデバイス320に示されているようなものである。
図15Cの例示的なデバイス300に示されているように、針当接表面50は、ジョー25の湾曲した表面の部分を含む場合がある。同様の当接表面50の詳細がまた、
図16Bの例示的なデバイス310に細部にわたって図示されている。
【0059】
本発明の例示的な実施形態が、理解を明確にするために実施例として詳細に記載されたが、種々の修正、変更及び改変が当業者には明白であろう。例えば、本明細書に記載された例示的なクランプ及びジョーの形状及び機構に加えて、更なる針当接表面、デザイン及び作動機構が与えられるとしても、依然として本発明の範囲内である。ゆえに、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。