特許第6222877号(P6222877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222877
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】摩擦撹拌接合装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20171030BHJP
   C23C 10/60 20060101ALI20171030BHJP
   C23C 8/80 20060101ALI20171030BHJP
   C23C 8/28 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   B23K20/12 344
   C23C10/60
   C23C8/80
   C23C8/28
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-513756(P2016-513756)
(86)(22)【出願日】2015年4月10日
(86)【国際出願番号】JP2015061213
(87)【国際公開番号】WO2015159814
(87)【国際公開日】20151022
【審査請求日】2016年7月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-84653(P2014-84653)
(32)【優先日】2014年4月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】安齋 眞実
(72)【発明者】
【氏名】藤本 一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真人
(72)【発明者】
【氏名】佐山 満
(72)【発明者】
【氏名】蔦 佳佑
(72)【発明者】
【氏名】北村 亮二
【審査官】 岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−149331(JP,A)
【文献】 米国特許第06199745(US,B1)
【文献】 特開2011−200880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
C23C 8/28
C23C 8/80
C23C 10/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの上に配置される上側回転ショルダーと、
前記ワークの下に配置される下側回転ショルダーと、
前記下側回転ショルダーを一体的に備えると共に前記上側回転ショルダー内部を貫通する回転主軸と、
この回転主軸を回転自在に支える基板と、
前記回転主軸に回転力を与える第1のアクチュエータと、
前記上側回転ショルダーを軸方向に移動する第2のアクチュエータと、
この第2のアクチュエータに加わる軸荷重を検出する荷重検知手段と、
この荷重検知手段から得られる荷重情報に基づいて、前記上側回転ショルダーがワークに加える荷重を制御する荷重制御部と、
前記下側回転ショルダーの位置を検出する位置センサと、
この位置センサからの位置情報に基づいて、前記下側回転ショルダーの位置を制御するコントローラと
前記第1のアクチュエータの回転軸に取付けられている第1駆動プーリと、
一対の軸受で挟まる位置にて回転主軸に設けられている第1従動プーリと、
前記第1従動プーリと前記第1駆動プーリに掛け渡す第1ベルトと、
前記回転主軸に平行になるようにして前記基板に敷設されるレールに移動自在に取付けられるスライダと、
前記スライダに取付けられているボールナットと、
前記ボールナットに螺合し前記基板に支持片で回転自在に支持されているボールねじと、
前記第2のアクチュエータの回転軸に取付けられている第2駆動プーリと、
一方の支持片の近傍にて前記ボールねじに設けられている第2従動プーリと、
前記第2従動プーリと前記第2駆動プーリに掛け渡す第2ベルトと、を備えている摩擦撹拌接合装置であって、
前記第1のアクチュエータと、前記第2のアクチュエータは、共に前記基板に、移動不能に取付けられ
前記第1のアクチュエータの回転軸と、前記第2のアクチュエータの回転軸と、回前記転主軸とは、互いに平行になるように配列され、
前記基板は、前記コントローラにより制御されるロボットにより、上下に移動し、
前記第1のアクチュエータの軸と、前記第2のアクチュエータの軸と、前記回転主軸とが、並列に配置されつつ前記ロボットに支持されている摩擦撹拌接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦撹拌接合装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
図10に示されるように、アルミニウム合金製の2枚のワーク101、102を合わせ、この合わせ部に、高速で回転するピン103及びショルダー104を当てる。発生する摩擦熱と回転による撹拌とに基づいて、摩擦撹拌接合が行われる。ピン103及びショルダー104は鋼製である。
【0003】
AlとFeは親和性が強い。高温、高圧下でAlにFeを接触させると、両者は反応し、Al−Fe−Si系の金属間化合物を生成する。金属間化合物がピン103やショルダー104に凝着する。この凝着を抑制する対策として、特許文献1に示される摩擦撹拌接合装置が提案された。
【0004】
特許文献1による摩擦撹拌接合装置は、図11に示されるように、ピン103とショルダー104とに、アルミニウムの凝着を抑制するダイヤモンドライクカーボン105を形成するというものである。ダイヤモンドライクカーボン105で、アルミニウムと鋼の接触を断つことで、Al−Fe−Si系の金属間化合物の生成を抑制することができる。
【0005】
しかし、摩擦撹拌接合では高温、高圧下でダイヤモンドライクカーボン105がアルミニウム製ワークに接触するため、ダイヤモンドライクカーボン105は比較的短期間でピン103やショルダー104から剥離する。このようにダイヤモンドライクカーボン105で被覆した技術では、工具寿命は短い。工具の交換頻度を下げるには、工具寿命を延ばすことが求められる。
そして、特許文献1の技術では、門型コラムに加工ヘッドを水平移動自在に設け、加工ヘッドに回転ツールを設けたため、摩擦撹拌接合装置は大型になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−152909
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、軽量で且つコンパクトな摩擦撹拌接合装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ワークの上に配置される上側回転ショルダーと、前記ワークの下に配置される下側回転ショルダーと、前記下側回転ショルダーを一体的に備えると共に前記上側回転ショルダー内部を貫通する回転主軸と、この回転主軸を回転自在に支える基板と、前記回転主軸に回転力を与える第1のアクチュエータと、前記上側回転ショルダーを軸方向に移動する第2のアクチュエータと、この第2のアクチュエータに加わる軸荷重を検出する荷重検知手段と、この荷重検知手段から得られる荷重情報に基づいて、前記上側回転ショルダーがワークに加える荷重を制御する荷重制御部と、前記下側回転ショルダーの位置を検出する位置センサと、この位置センサからの位置情報に基づいて、前記下側回転ショルダーの位置を制御するコントローラと、前記第1のアクチュエータの回転軸に取付けられている第1駆動プーリと、一対の軸受で挟まる位置にて回転主軸に設けられている第1従動プーリと、前記第1従動プーリと前記第1駆動プーリに掛け渡す第1ベルトと、前記回転主軸に平行になるようにして前記基板に敷設されるレールに移動自在に取付けられるスライダと、前記スライダに取付けられているボールナットと、前記ボールナットに螺合し前記基板に支持片で回転自在に支持されているボールねじと、前記第2のアクチュエータの回転軸に取付けられている第2駆動プーリと、一方の支持片の近傍にて前記ボールねじに設けられている第2従動プーリと、前記第2従動プーリと前記第2駆動プーリに掛け渡す第2ベルトと、を備えている摩擦撹拌接合装置であって、前記第1のアクチュエータと、前記第2のアクチュエータは、共に前記基板に、移動不能に取付けられ、前記第1のアクチュエータの回転軸と、前記第2のアクチュエータの回転軸と、回前記転主軸とは、互いに平行になるように配列され、前記基板は、前記コントローラにより制御されるロボットにより、上下に移動し、前記第1のアクチュエータの軸と、前記第2のアクチュエータの軸と、前記回転主軸とが、並列に配置されつつ前記ロボットに支持されている摩擦撹拌接合装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、下側回転ショルダーは荷重制御のためのアクチュエータを有していない。結果、本発明では2つのアクチュエータで済ませることができる。
【0012】
よって、本発明によれば、上側回転ショルダーと下側回転ショルダーを備えるものにおいて、軽量で且つコンパクトな摩擦撹拌接合装置が提供される。
【0013】
本発明では、ロボットは位置制御能力に優れているため、このロボットを利用して直接回転主軸の位置制御を行う。また、別の観点から、本発明の摩擦撹拌接合装置が小型、軽量であるため、ロボットに容易に取付けることができると言える。
【0014】
本発明では、回転主軸に、第1のアクチュエータの軸と、第2のアクチュエータの軸とが並列に配置されている。軸と軸の間の距離を縮めることで、容易に摩擦撹拌接合装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る摩擦撹拌接合装置の正面図である。
図2図1の2部拡大図である。
図3図2の3部拡大図である。
図4】上側回転ショルダー及び下側回転ショルダーの作用図である。
図5】実施例と比較例とを比較する図である。
図6】摩擦撹拌接合装置の変更例を説明する図である。
図7】複数の種類の被膜における比較検討図である。
図8】6000系アルミニウム合金を接合することで得たリチウム含有量と摩擦係数の相関図である。
図9】5000系アルミニウム合金を接合することで得たリチウム含有量と摩擦係数の相関図である。
図10】摩擦撹拌接合の原理を説明する図である。
図11】従来のピン及びショルダーの要部断面を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0017】
図1に示されるように、摩擦撹拌接合装置10は、下へ延びる基板11と、この基板11に一対の軸受12、13で回転自在に支持され下へ延びる回転主軸14と、この回転主軸14の下部に一体形成されているピン20と、このピン20の下端に一体形成されている下側回転ショルダー15と、基板11に取付けられている第1のアクチュエータ16と、この第1のアクチュエータ16の回転軸17に取付けられている第1駆動プーリ18と、一対の軸受12、13で挟まる位置にて回転主軸14に設けられている第1従動プーリ19と、この第1従動プーリ19と第1駆動プーリ18に掛け渡す第1ベルト21と、回転主軸14に平行になるようにして基板11に敷設されるレール22、22と、これらのレール22、22に移動自在に取付けられるスライダ23と、このスライダ23に取付けられているボールナット24と、このボールナット24に螺合し基板11に支持片25、25で回転自在に支持されているボールねじ26と、基板11に取付けられている第2のアクチュエータ27と、この第2のアクチュエータ27の回転軸28に取付けられている第2駆動プーリ29と、一方の支持片25の近傍にてボールねじ26に設けられている第2従動プーリ31と、この第2従動プーリ31と第2駆動プーリ29に掛け渡す第2ベルト32と、スライダ23にベアリング33、33を介して回転自在に支持され回転主軸14を囲み且つ回転主軸14とスプライン34を介して連結されている回転筒35と、この回転筒35の下端に一体形成されている上側回転ショルダー36とを備えている。
【0018】
第1のアクチュエータ16は、回転制御部38で制御される。
第2のアクチュエータ27の回転軸28に荷重検知手段39が付設されている。この荷重検知手段39は、例えば、機械的歪み量を電気信号に置き換える歪ゲージである。または、荷重検知手段39は第2のアクチュエータ27がサーボモータである場合、電流を検知し、電流を荷重に変換するものであってもよい。
第2のアクチュエータ27は、荷重検知手段39の情報に基づいて、上側回転ショルダー36の下向き荷重を制御する荷重制御部41で制御される。
【0019】
本実施例では、第1のアクチュエータ16の回転軸17と、第2のアクチュエータ27の回転軸28と、回転主軸14とは、互いに平行になるように配列されている。回転主軸14と回転軸17、28の軸間距離は任意に設定できる。ベルト21、32の長さ調整で対応できる。
軸間距離を極力小さくすることで、摩擦撹拌接合装置10のコンパクト化、特に水平方向の幅を小さくすることができる。
【0020】
このような摩擦撹拌接合装置10は、小型で軽量であるため、ロボット42の先端に容易に取付けることができる。ロボット42は、先端の座標をモニターする位置センサ43及びこの位置センサ43の情報をフィードバックしつつロボット42を制御するコントローラ44を常備している。
【0021】
ロボット42により、基板11が任意の位置へ運ばれる。回転主軸14が軸受12、13を介して基板11に取付けられているため、回転主軸14下端の下側回転ショルダー15の位置(特に高さ位置)は、コントローラ44で制御される。
【0022】
一方、回転筒35は、回転主軸14にスプライン34で繋がっており、回転主軸14に沿って移動可能である。そこで、第2のアクチュエータ27でボールねじ26を回すと、スライダ23がレール22、22に沿って上昇又は下降する。すると、スライダ23と共に回転筒35及び上側回転ショルダー36が移動する。よって、上側回転ショルダー36は、第2のアクチュエータ27を駆動源として下側回転ショルダー15とは独立して任意の位置へ移動され且つ荷重制御部41により、荷重制御がなされる。
【0023】
第1のアクチュエータ16で回転主軸14が回されるとスプライン34を介して回転筒35が回される。よって、上側回転ショルダー36と下側回転ショルダー15は同期して回転する。
【0024】
すなわち、摩擦撹拌接合装置10にて、下側回転ショルダー15は回転主軸14と一体形成され、回転主軸14は上側回転ショルダー36の内部を貫通している。そして、摩擦撹拌接合装置10は、回転主軸14に回転力を与える第1のアクチュエータ16と、上側回転ショルダー36を軸変位(軸方向に移動)させる第2のアクチュエータ27と、下側回転ショルダー15の位置を制御するコントローラ44を備え、第2のアクチュエータ27は、その荷重検知手段39から得られる荷重に基づいて荷重制御を行うと共に、コントローラ44は、下側回転ショルダー15の位置を検出する位置センサ43からの情報を基に、下側回転ショルダー15の位置を制御する。
【0025】
なお、位置センサ43はコントローラ44に内蔵しても良い。また、駆動プーリ18、29や従動プーリ19、31はギヤであっても良い。さらには、回転主軸14は、カップリングを介して第1のアクチュエータ16で直接回されるようにしても良い。同様に、ボールねじ26は、カップリングを介して第2のアクチュエータ27で直接回されるようにしても良い。したがって、図1に示す摩擦撹拌接合装置10の構成を適宜変更することは差し支えない。
【0026】
本発明では、ピン20に表面処理を施した。表面処理について詳しく説明する。
図2に示されるように、ピン20は、上側回転ショルダー36の中心に設けてある孔37に収納される。ピン20に対して上側回転ショルダー36が上下に移動するため、孔37の内周面とピン20の外周面との間に、dなる隙間が設けられている。この隙間dは、10〜30μmである。
【0027】
図2の3部拡大図である図3に示されるように、ピン20の表面に、リチウムを含有する軟窒化層50が形成されている。この軟窒化層50は、鉄リチウム酸化物層51と、窒化拡散層52とからなる。窒化拡散層52は、ピン20の表面の原子と原子間に、鉄リチウム酸化物層51側の原子が浸透してなる。すなわち、互いに原子が噛み合う形態で結合している。よって、軟窒化層50がピン20から剥離し難くい。
【0028】
鉄リチウム酸化物層51は、リチウムイオンをカチオン成分とする窒化塩浴にピン20を浸積処理することで得られる。好ましくは、窒化塩浴処理後に、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム及び硝酸リチウムから選ばれる少なくも1種、又は、これらのアルカリ硝酸塩と亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム及び亜硝酸リチウムから選ばれた少なくとも1種を含有する塩浴で処理する置換洗浄塩浴処理と、水冷、油冷又は空冷による冷却処理と、湯で洗浄する洗浄処理を施す。この洗浄で残留ソルト成分を十分にピン20から除去することができる。
【0029】
図1で説明したように、摩擦撹拌接合装置10において、下側回転ショルダー15には、上側回転ショルダー36に形成される孔37を貫通して、下側回転ショルダー15と共に回転するピン20が一体に取付けられており、図3で説明したように、ピン20の表面には、リチウムを含有する鉄リチウム酸化物層51が形成されている。
【0030】
以上の構成からなる摩擦撹拌接合装置10の作用を次に説明する。
図4(a)に示されるように、アルミニウム合金板であるワーク46、47同士を突き当てる。この例では突き当てたが、ワーク46、47同士を重ね合わせてもよい。重ね合わせであれば、3枚以上のワーク同士を重ね合わせて接合することができる。
図4(b)に示されるように、接合部48の一端に上側回転ショルダー36及び下側回転ショルダー15を接近させる。
【0031】
図4(b)のC−C矢視図である図4(c)に示されるように、ワーク46の下面に下側回転ショルダー15を当てて、その高さに保持する。次に、上側回転ショルダー36を下げて、所定の荷重でワーク46上面を押し付ける。
図4(d)に示されるように、所定の回転速度で上側回転ショルダー36及び下側回転ショルダー15を回転させる。すると、摩擦熱が発生し流動化現象が起こる。この状態で、矢印のように移動させる。
結果、図4(e)に示されるように、ビード49でワーク46、47同士が接合された。
【0032】
図5(a)に示す実施例では、下側回転ショルダー15が位置制御され、上側回転ショルダー36が荷重制御される。
【0033】
一方、図5(b)に示す比較例では、下側回転ショルダー106と上側回転ショルダー107が、共に荷重制御される。摩擦熱により、ワーク108が軟らかくなる。荷重が過大であると下側回転ショルダー106又は上側回転ショルダー107が過度にワーク108に食い込む。対策として、軟化に応じて荷重Fg1、Fg2を小さくする。
【0034】
そこで、上側回転ショルダー107の下向き荷重Fg1を軽減することを検討する。
下側回転ショルダー106での上向き荷重Fg2を一定にする。この状態で、上側回転ショルダー107の下向き荷重Fg1を軽減する。すると、ワーク108が浮き上がる虞がある。浮き上がりを防止するには、下側回転ショルダー106での上向き荷重Fg2を軽減する。
【0035】
すなわち、下側回転ショルダー106と上側回転ショルダー107が、共に荷重制御されると、一方が他方に影響し、いわゆるハンチング(荷重信号が上下に変動すること。)が起こり、荷重が必要以上に増減を繰り返し、荷重が安定しない。
また、ワーク108が温度上昇に伴って膨張する。放置すると荷重が過大となる。このときにもハンチングが起こる。
【0036】
この点、図5(a)であれば、下側回転ショルダー15が位置制御され、上側回転ショルダー36が荷重制御されるため、上記不具合は起こらない。結果、ワーク46の軟化や膨張に対して、安定した接合作業が維持できる。
【0037】
図3で説明したように、ピン20の表面に鉄リチウム酸化物層51を形成した。鉄リチウム酸化物はアルミニウムに対する親和性がFeより格段に弱い。よって、金属合化合物ができる心配がない。
図2にて、上側回転ショルダー36とピン20との間の隙間dにアルミニウム合金が侵入し、金属間化合物を形成することを心配する必要はない。よって、ピン20に対し、上側回転ショルダー36を軸方向に円滑に移動させることができる。
【0038】
さらに、図5(b)の比較例では、ピン109に対して、上側回転ショルダー107が頻繁に上下に移動する。孔111に対してピン109が軸直角方向に振れることは多いにあり得る。すると、ピン109に孔111の内周面が接触する。上側回転ショルダー107が頻繁に上下に移動するため、軟窒化層50であっても剥離が起こる。
【0039】
この点、図5(a)の実施例では、ピン20に対する上側回転ショルダー36の上下移動が格段に軽減される。結果、軟窒化層50の剥離までの時間を大幅に延ばすことができる。
【0040】
次に、変更例を説明する。
図6に示される摩擦撹拌接合装置10では、ピン20から下側回転ショルダー(図1、符号15)を除去した。その他は、図1に示される摩擦撹拌接合装置10と同一であるため、図1の符号を流用して詳細な説明は省略する。
すなわち、本発明は、ピン20に下側回転ショルダー(図1、符号15)を備えている摩擦撹拌接合装置10及びピン20に下側回転ショルダー(図1、符号15)を備えていない摩擦撹拌接合装置10の両方に適用される。
【0041】
次に、上述した軟窒化層50の優位性を、更に詳しく説明する。
図7(a)に示されるように、ピン20に、図7(d)に基づいて説明するような、色々な皮膜53を施す。
【0042】
次に、図7(b)に示されるように、所定の回転速度で上側回転ショルダー36、ピン20及び下側回転ショルダー15を回転させる。すると、摩擦熱が発生し流動化現象が起こる。この状態で、矢印のように移動させる。
【0043】
移動距離Lが600mmに達したら移動を止める。そして、図7(c)に示されるように、上側回転ショルダー36を引き上げる。この引き上げに要する力Fを計測する。凝着現象が顕著な程、力Fは大きくなる。
【0044】
図7(d)に示されるように、ピン20に、C−Dia(ダイヤモンドライクカーボン)を被覆した供試材と、C−Si(炭化珪素)を被覆した供試材と、Nsolt(リチウムを含まない塩浴軟窒化層)を被せた供試材と、Nsolt−Li(リチウムを含む塩浴軟窒化層)を被せた供試材とについて、力Fを測定した。測定の結果、4種の中で、Nsolt−Li(リチウムを含む塩浴軟窒化層)が、最も力Fが小さく、好成績であった。
【0045】
次に、Nsolt−Li(リチウムを含む塩浴軟窒化層)に対象を絞って、それの表面、すなわち、リチウム含有層51におけるリチウム含有量について評価する。
この評価には、リチウム含有量が0である供試材と、リチウム含有量が0.06wt%である供試材と、リチウム含有量が0.7wt%である供試材を準備した。なお、鉄リチウム酸化物層の最表面に関しては、GD−OES分析にて表示元素Li、C、N、O、Fe、Cr、W、Vで計測している。最表面から1μm範囲内の基材成分に対する重量%を算出している。
【0046】
次に、実施例、比較例として作成した供試材の摺動特性を、ファレックス(Farex)型摩擦摩耗試験機にて評価した。具体的には、試験条件として供試材の面粗さは統一し、回転速度を600rpmで回転させ、Vブロックを20kg一定で両側から無潤滑中で押し付け、その際の摩擦係数μとトルクを測定した。
【0047】
先ず、一対のブロックを、6000系アルミニウム合金製とした。6000系アルミニウム合金に、3つの供試材(ピン20)を各々摺接することで図8(a)、(b)に示される摩擦係数μとトルクを得た。
【0048】
図8(a)に示されるように、リチウム含有量が0の場合に、摩擦係数μが小さくなった。リチウム含有量が0.06wt%の場合の場合に、摩擦係数μは十分に大きくなった。リチウム含有量が0.7wt%の場合に、摩擦係数μは小さくなった。
摩擦撹拌接合では、摩擦熱を発生するために、摩擦係数μは、0.7以上であることが求められる。
リチウム含有量が、0.35wt%以下の範囲、好ましくは、0.06〜0.35wt%の範囲W1であれば、摩擦係数μは0.7以上となる。
【0049】
図8(b)に示されるように、0.06〜0.35wt%の範囲W1であれば、トルクは、ほぼ一定であり、摩擦撹拌接合を円滑に進めることができる。
【0050】
次に、一対のブロックを、JISで規定される5000系アルミニウム合金製とした。5000系アルミニウム合金に、3つの供試材(ピン20)を各々摺接することで図9(a)、(b)に示される摩擦係数μとトルクを得た。
【0051】
図9(a)に示されるように、リチウム含有量が0の場合に、摩擦係数μが小さく、リチウム含有量が0.06wt%の場合の場合に、摩擦係数μは十分に大きく、リチウム含有量が0.7wt%の場合に、摩擦係数μは小さくなった。
リチウム含有量が、0.35wt%以下の範囲、好ましくは、0.06〜0.35wt%の範囲W2であれば、摩擦係数μは0.7以上となる。
【0052】
図9(b)に示されるように、0.06〜0.35wt%の範囲W2であれば、トルクはほぼ一定であり、摩擦撹拌接合を円滑に進めることができる。
【0053】
図8及び図9から、2枚のアルミニウム合金板を接合するピン20に被覆する鉄リチウム酸化物層は、その表面におけるリチウム含有量が、0.35wt%以下の範囲、好ましくは、0.06〜0.35wt%の範囲にあることが、望まれる。この範囲であれば、円滑な摩擦撹拌接合が実施できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、2枚以上のアルミニウム板を摩擦撹拌接合法で接合する摩擦撹拌接合装置に好適である。
【符号の説明】
【0055】
10…摩擦撹拌接合装置、20…ピン、36…上側回転ショルダー、37…孔、46、47…ワーク、
51…鉄リチウム酸化物層。
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