(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223024
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】燃料遮断弁の閉固着検出装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/18 20060101AFI20171023BHJP
F01N 3/00 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
F01N3/18 C
F01N3/00 F
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-144156(P2013-144156)
(22)【出願日】2013年7月10日
(65)【公開番号】特開2015-17525(P2015-17525A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2016年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堤 宗近
【審査官】
今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−038940(JP,A)
【文献】
特開2002−129945(JP,A)
【文献】
特開2012−127316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00− 3/38
F01N 9/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料添加弁に燃料を導く供給ラインを開閉する燃料遮断弁の閉固着検出装置であって、前記燃料添加弁と前記燃料遮断弁との間で燃料の圧力を検出する圧力センサと、エンジン回転数に基づき予測される予測燃料圧力より極端に低い閾値を前記圧力センサの検出値が下まわる時に前記燃料遮断弁の閉固着を判定する制御装置とを備え、前記予測燃料圧力と圧力センサの検出値との偏差が許容範囲内である時に燃料遮断弁の正常を判定し且つ前記圧力センサの検出値に基づく判定が前記燃料遮断弁の正常でも閉固着でもない時に前記圧力センサの特性異常を判定するように前記制御装置が構成されていることを特徴とする燃料遮断弁の閉固着検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料遮断弁の閉固着検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出されるパティキュレート(Particulate Matter:粒子状物質)は、炭素質から成る煤と、高沸点炭化水素成分から成るSOF分(Soluble Organic Fraction:可溶性有機成分)とを主成分とし、更に微量のサルフェート(ミスト状硫酸成分)を含んだ組成を成すものであるが、この種のパティキュレートの低減対策としては、排気ガスが流通する排気管の途中に、パティキュレートフィルタを装備することが以前より行われている。
【0003】
この種のパティキュレートフィルタは、コージェライトなどのセラミックから成る多孔質のハニカム構造となっており、格子状に区画された各流路の入口が交互に目封じされ、入口が目封じされていない流路については、その出口が目封じされるようになっており、各流路を区画する多孔質薄壁を透過した排気ガスのみが下流側へ排出されるようにしてある。
【0004】
そして、排気ガス中のパティキュレートは、前記多孔質薄壁の内側表面に捕集されて堆積するので、目詰まりにより排気抵抗が増加しないうちにパティキュレートを適宜に燃焼除去してパティキュレートフィルタの再生を図る必要があるが、通常のディーゼルエンジンの運転状態においては、パティキュレートが自己燃焼するほどの高い排気温度が得られる機会が少ない。
【0005】
この為、例えばアルミナに白金を担持させたものに適宜な量のセリウムなどの希土類元素を添加して成る酸化触媒を一体的にパティキュレートフィルタに担持させ、該パティキュレートフィルタ内に捕集されたパティキュレートの酸化反応を前記酸化触媒により促進して着火温度を低下せしめ、従来より低い排気温度でもパティキュレートを燃焼除去できるようにしている。
【0006】
ただし、このようにした場合であっても、排気温度の低い運転領域では、パティキュレートの処理量よりも捕集量が上まわってしまうので、このような低い排気温度での運転状態が続くと、パティキュレートフィルタの再生が良好に進まずに該パティキュレートフィルタが過捕集状態に陥る虞れがあり、パティキュレートの堆積量が増加してきた段階でパティキュレートフィルタを強制的に加熱して捕集済みパティキュレートを焼却する必要がある。
【0007】
より具体的には、パティキュレートフィルタの前段にフロースルー型の酸化触媒を備えると共に、該酸化触媒より上流側の排気管に燃料添加弁を設置し、該燃料添加弁により添加した燃料を前記酸化触媒で酸化反応させ、その反応熱により昇温した排気ガスをパティキュレートフィルタへと導入して触媒床温度を上げ、これによりパティキュレートを燃やし尽くしてパティキュレートフィルタの再生化を図るようにしている。
【0008】
尚、この種のパティキュレートフィルタの強制再生を図る方法に関しては、本発明と同じ出願人による下記の特許文献1などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−193824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、近年においては、車両の排ガス対策システムにおける故障発生の有無を監視し、故障発生時には警告灯などを点灯させて運転者に故障の発生を報知すると共に、故障内容を記録しておく車載式故障診断装置(オンボードダイアグノーシス:onboard diagnosis:略称OBD)の装備が各国で義務付けられており、前記燃料添加弁に燃料を導く供給ラインの途中に設けられた燃料遮断弁についても作動不良の診断を実施することが求められている。
【0011】
即ち、前記燃料添加弁に燃料を導く供給ラインには、キーオン時に直ぐに通電して開通するようにした燃料遮断弁が装備されており、キーオフ時には確実に燃料添加弁への燃料供給が遮断されるようになっているが、この燃料遮断弁の作動部に異物が噛み込むなどして閉固着してしまった場合、キーオン時に燃料添加弁に燃料を供給することができなくなり、パティキュレートフィルタの再生などを図るための燃料添加を行うことができなくなってしまうからである。
【0012】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、燃料添加弁に燃料を導く供給ラインを開閉する燃料遮断弁の閉固着を検知し得るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、燃料添加弁に燃料を導く供給ラインを開閉する燃料遮断弁の閉固着検出装置であって、前記燃料添加弁と前記燃料遮断弁との間で燃料の圧力を検出する圧力センサと、
エンジン回転数に基づき予測される予測燃料圧力より極端に低い閾値を前記圧力センサの検出値が下まわる時に前記燃料遮断弁の閉固着を判定する制御装置とを備え
、前記予測燃料圧力と圧力センサの検出値との偏差が許容範囲内である時に燃料遮断弁の正常を判定し且つ前記圧力センサの検出値に基づく判定が前記燃料遮断弁の正常でも閉固着でもない時に前記圧力センサの特性異常を判定するように前記制御装置が構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
而して、このようにすれば、燃料遮断弁が異物を噛み込むなどして閉固着してしまった場合に、この閉固着により燃料遮断弁の下流まで燃料が到達しなくなって該燃料遮断弁と燃料添加弁との間の燃料の圧力が極端に下がり、それが圧力センサの検出値が閾値を下まわる事象として現れるので、この事象を制御装置で捉えれば、前記燃料遮断弁が閉固着を生じているものと判定することが可能となる。
【0015】
ま
た、エンジン回転数に基づき予測される予測燃料圧力と圧力センサの検出値との偏差が許容範囲内である時に燃料遮断弁
が正常であると判定され、前記圧力センサの検出値に基づく判定が前記燃料遮断弁の正常でも閉固着でもない時に前記圧力センサの特性異常
が判定される。
【0016】
即ち、燃料遮断弁が正常に開通している場合、燃料添加弁と燃料遮断弁との間における燃料の圧力は、燃料ポンプの回転数に比例することが判っており、延いては、この燃料ポンプを駆動しているエンジンの回転数に比例することも判っているので、エンジン回転数から圧力センサの検出値を予測することが可能である。
【0017】
圧力センサが正常であるならば、エンジン回転数から予測した予測燃料圧力が前記圧力センサの検出値と大きな偏差を持たない値となるはずであり、予測燃料圧力と圧力センサの検出値との偏差が許容範囲内であれば、燃料遮断弁が正常であるものと判定することが可能となる。
【0018】
そして、圧力センサの検出値に基づく判定が前記燃料遮断弁の正常でも閉固着でもないならば、前記圧力センサが経年劣化などによる特性異常を起こしているとしか考えられないため、制御装置により前記圧力センサの特性異常の判定が下されることになる。
【0019】
尚、圧力センサに断線などによる根本的な故障が生じている場合には、キーオン時に直ちに極端な電圧値が検出されて故障判定が下されるようになっているのが通常であり、このようなキーオン時の故障判定については既に周知技術となっている。
【発明の効果】
【0020】
上記した本発明の燃料遮断弁の閉固着検出装置によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0021】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、燃料遮断弁が異物を噛み込むなどして閉固着してしまっても、この閉固着を燃料遮断弁と燃料添加弁との間で燃料の圧力が極端に下がって圧力センサの検出値が閾値を下まわる事象として検出することができるので、燃料添加弁による燃料添加を指示しているのに実際に燃料が添加されないといった不具合を未然に防止することができる。
【0022】
(II)本発明の請求項
1に記載の発明によれば、燃料遮断弁の閉固着を判定するだけでなく、圧力センサが正常であるか特性異常を生じているかを判定することができ、圧力センサの健全性を燃料遮断弁の閉固着と併せて診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
【
図2】
図1の制御装置に用いられている制御マップの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図中1は図示しないエンジンにより駆動される燃料ポンプを示し、該燃料ポンプ1に付帯装備されて同じカム軸で駆動されるフィードポンプ2により燃料タンク(図示せず)から導いた燃料3が燃料フィルタ4を経由して固形物を濾過されてから前記燃料ポンプ1に送り込まれ、該燃料ポンプ1で高圧化されてからコモンレール(図示せず)に圧送されるようになっているが、燃料フィルタ4から燃料ポンプ1に送り込まれる燃料3の一部が供給ライン5を介し燃料添加弁6に導かれるようにしてあり、前記供給ライン5の途中には、該供給ライン5を開閉する燃料遮断弁7が設けられている。
【0026】
ここで、前記燃料添加弁6は、例えば、図示しないパティキュレートフィルタの前段に備えた酸化触媒より上流の排気管に配置し、パティキュレートフィルタ内におけるパティキュレートの堆積量が増加してきた段階でパティキュレートフィルタを再生するために燃料添加を行うものであり、その添加した燃料3を前記酸化触媒で酸化反応させ、その反応熱により昇温した排気ガスをパティキュレートフィルタへと導入して触媒床温度を上げ、これによりパティキュレートを燃やし尽くしてパティキュレートフィルタの再生化を図るようにしたものである。
【0027】
そして、本形態例においては、前記燃料添加弁6と前記燃料遮断弁7との間に、燃料3の圧力を検出する圧力センサ8が装備され、該圧力センサ8の検出信号8aが制御装置9に入力されるようになっており、該制御装置9においては、エンジン回転数に応じて設定された閾値を前記圧力センサ8の検出値が下まわる時に前記燃料遮断弁7の閉固着を判定するようになっている。
【0028】
即ち、
図2に示す如き燃料圧力(圧力センサ8の検出値)とエンジン回転数の制御マップが前記制御装置9内に組み込まれており、この制御マップの中では、エンジン回転数に応じて設定された閾値Aを前記圧力センサ8の検出値が下まわる領域(クロスハッチング部分)が前記燃料遮断弁7の閉固着判定領域として定められている。
【0029】
ここで、燃料遮断弁7が正常に開通している場合、燃料添加弁6と燃料遮断弁7との間における燃料3の圧力は、燃料ポンプ1の回転数に比例することが判っており、延いては、この燃料ポンプ1を駆動しているエンジンの回転数に比例することも判っているので、例えば、
図2の制御マップ中に予測燃料圧力Bとして示す如く、エンジン回転数から圧力センサ8の検出値を予測することが可能であり、この予測燃料圧力Bを大きく下まわるような極端に低い閾値Aを適切に設定すれば、この閾値Aを前記圧力センサ8の検出値が下まわる時に前記燃料遮断弁7に閉固着が生じたものと看做すことが可能である。
【0030】
更に、本形態例においては、予測燃料圧力Bと圧力センサ8の検出値との偏差が許容範囲内である時に燃料遮断弁7の正常を判定し且つ前記圧力センサ8の検出値に基づく判定が前記燃料遮断弁7の正常でも閉固着でもない時に前記圧力センサ8の特性異常を判定するようになっており、より具体的には、予測燃料圧力Bに対しプラス側に許容可能な偏差を付け加えた上限値Cと、予測燃料圧力Bに対しマイナス側に許容可能な偏差を差し引いた下限値Dとに挟まれた領域を前記圧力センサ8の正常判定領域とし、該圧力センサ8の正常判定領域と前記燃料遮断弁7の閉固着判定領域とを除いた領域を前記圧力センサ8の特性異常判定領域としている(圧力センサ8の正常判定領域より上側が高圧側の特性異常判定領域で、下側が低圧側の特性異常判定領域となる)。
【0031】
而して、このようにすれば、燃料遮断弁7が異物を噛み込むなどして閉固着してしまった場合に、この閉固着により燃料遮断弁7の下流まで燃料3が到達しなくなって該燃料遮断弁7と燃料添加弁6との間の燃料3の圧力が極端に下がり、それが圧力センサ8の検出値が閾値Aを下まわる事象として現れるので、この事象を制御装置9で捉えれば、前記燃料遮断弁7が閉固着を生じているものと判定することが可能となる。
【0032】
また、圧力センサ8が正常であるならば、エンジン回転数から予測した予測燃料圧力Bが前記圧力センサ8の検出値と大きな偏差を持たない値となるはずであり、予測燃料圧力Bと圧力センサ8の検出値との偏差が許容範囲内であれば、燃料遮断弁7が正常であるものと判定することが可能となる。
【0033】
そして、圧力センサ8の検出値に基づく判定が前記燃料遮断弁7の正常でも閉固着でもないならば、前記圧力センサ8が経年劣化などによる特性異常を起こしているとしか考えられないため、制御装置9により前記圧力センサ8の特性異常の判定が下されることになる。
【0034】
尚、圧力センサ8に断線などによる根本的な故障が生じている場合には、キーオン時に直ちに極端な電圧値が検出されて故障判定が下されるようになっているのが通常であり、このようなキーオン時の故障判定については既に周知技術となっている。
【0035】
従って、上記形態例によれば、燃料遮断弁7が異物を噛み込むなどして閉固着してしまっても、この閉固着を燃料遮断弁7と燃料添加弁6との間で燃料3の圧力が極端に下がって圧力センサ8の検出値が閾値Aを下まわる事象として検出することができるので、燃料添加弁6による燃料添加を指示しているのに実際に燃料3が添加されないといった不具合を未然に防止することができ、しかも、燃料遮断弁7の閉固着を判定するだけでなく、圧力センサ8が正常であるか特性異常を生じているかを判定することもでき、圧力センサ8の健全性を燃料遮断弁7の閉固着と併せて診断することができる。
【0036】
尚、本発明の燃料遮断弁の閉固着検出装置は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、具体的な形態例に関する説明の中では、後処理装置がパティキュレートフィルタである場合を例にして述べているが、酸素共存下でも選択的にNOxを還元剤と反応させる性質を備えた選択還元型触媒や、排気空燃比がリーンの時に排気ガス中のNOxを酸化して硝酸塩の状態で一時的に吸蔵し且つ排気ガス中の酸素濃度が低下した時に未燃HCやCOなどの介在によりNOxを分解放出して還元浄化する性質を備えたNOx吸蔵還元触媒などを後処理装置とした場合に用いる燃料添加弁に対しても同様に適用できること、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0037】
3 燃料
5 供給ライン
6 燃料添加弁
7 燃料遮断弁
8 圧力センサ
8a 検出信号
9 制御装置