(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記画像生成部が、前記焦点位置変更部により前記標本における前記対物レンズの焦点位置の深さが深くなるにつれて、前記標本の画像における前記深さ方向に交差する交差方向の画素数を減らす請求項1に記載のレーザ走査型顕微鏡。
前記画像生成部が、分解能が最も低い前記焦点位置の解像度により、深さが異なる他の複数の前記焦点位置の画像を生成する請求項1または請求項2に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のレーザ走査型顕微鏡においては、標本における散乱条件や対物レンズの焦点位置の深さに応じて短パルスレーザ光の光束を対物レンズの瞳よりも小さくすることが有効であり、この場合に対物レンズの称呼NAよりも小さな実効NAで結像することになる。
【0006】
ここで、標本における対物レンズの焦点位置を深さ方向に移動させながら各焦点位置の連続的な光学スライス像を取得する場合において、短パルスレーザ光のNAが大きいと、標本の深さ方向の分解能が高く観察領域の層が薄くなるため、対物レンズの焦点位置を深さ方向に小さく切り替えなければならない。一方、短パルスレーザ光のNAが小さいと、深さ向の分解能が低く観察領域の層が厚くなるため、対物レンズの焦点位置を深さ方向に大きく切り替えればよい。
【0007】
そのため、特許文献1に記載のレーザ走査型顕微鏡では、称呼NAで計算される深さ方向の分解能により標本の深さ方向に焦点位置を変えながら光学スライス像を取得していくと、深さ方向に隣接する焦点位置の距離間隔が狭くなりすぎて、XYZ/XYZt画像やXZ/XZt画像の取得時間が長くなってしまうという問題がある。また、細胞などの標本に対してレーザ光を長い時間照射し続けてしまうことになるという問題がある。さらに、画像を取得する回数が不必要に増え、画像データを保存する領域が無駄に消費されたり、画像の描画回路に負担が掛かり、画像表示に余計な時間が掛かったりするという問題がある。
【0008】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、実験に要する時間の短縮、標本の低侵襲測定の実現、画像データの保管領域の無駄削減および画像表示の描画速度の向上を図ることができるレーザ走査型顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、パルス状のレーザ光を出射する光源と、該光源から発せられたレーザ光を走査する走査部と、該走査部により走査されたレーザ光を集光して標本に照射する対物レンズと、レーザ光が照射されることにより前記標本における前記対物レンズの焦点位置近傍から発生する蛍光を検出し、検出した蛍光の輝度に相当する光強度信号を出力する検出部と、該検出部から出力された光強度信号に基づいて画像を生成する画像生成部と、前記標本における前記対物レンズの焦点位置を該標本の深さ方向に移動させる焦点位置変更部と
、前記対物レンズの焦点位置の前記標本における深さが深くなるほど該焦点位置が深さ方向に大きく切り替わるように、前記焦点位置変更部を制御する焦点位置変更制御部とを備え
、前記焦点位置変更部により変更される前記焦点位置ごとに、前記検出部により前記蛍光が検出されて前記光強度信号が出力され、前記画像生成部により前記光強度信号に基づいて前記画像が生成されるレーザ走査型顕微鏡を提供する。
【0010】
本発明によれば、光源から発せられたパルス状のレーザ光が走査部により走査されて対物レンズにより標本に照射されると、標本における多光子励起効果によって、対物レンズの焦点位置近傍において蛍光が発生する。そして、焦点位置変更部により、標本における対物レンズの焦点位置が深さ方向に移動させられることで、検出部により深さ方向に異なる焦点位置近傍から発せられる蛍光が検出され、画像生成部により、検出された蛍光の輝度に相当する光強度信号に基づいて各焦点位置の画像が生成される。これにより、標本の立体画像を取得することができる。
【0011】
ここで、標本における対物レンズの焦点位置が浅いと、標本内での光路長が短く散乱の影響を受け難いため、深さ方向の分解能が高く観察領域の層が薄くなるが、標本における対物レンズの焦点位置が深くなるにつれて、標本内での光路長が長くなり散乱の影響を受け易くなるため、深さ方向の分解能が低下し観察領域の層が厚くなる。
【0012】
この場合において、焦点位置変更制御部の制御により、焦点位置変更部が、標本における対物レンズの焦点位置の深さが深くなるほど焦点位置が深さ方向に大きく切り替わるように対物レンズの焦点位置を標本の深さ方向に移動させることで、標本の深部ほど、深さ方向に隣接する観察領域の層どうしの距離を離間させ、互いに隣接する観察領域からの蛍光を重複して検出するのを防ぐことができる。これにより、標本における深さが異なる所望の観察領域ごとに鮮明な画像を取得することができる。
【0013】
したがって、画像の取得時間が長くなるのを防ぎ実験に要する時間を短縮するとともに、生体試料のような標本に対してレーザ光が長時間照射され続けてしまうことを防止し、標本の低侵襲測定を実現することができる。また、画像を取得する回数が不必要に増えるのを防ぎ画像データの保管領域の無駄を削減するとともに、画像の描画回路への負担を抑え画像表示の描画速度を向上することができる。
【0014】
上記構成においては、前記画像生成部が、前記焦点位置変更部により前記標本における前記対物レンズの焦点位置の深さが深くなるにつれて、前記標本の画像における前記深さ方向に交差する交差方向の画素数を減らすこととしてもよい。
【0015】
このように構成することで、標本における対物レンズの焦点位置が深くなるにつれて分解能が低くなり焦点位置の周囲にぼけが生じても、画像における深さ方向に交差する交差方向の1つ1つの画素サイズを大きくし、分解能に合せた画像を生成することができる。
【0016】
上記構成においては、前記画像生成部が、分解能が最も低い前記焦点位置の解像度により、深さが異なる他の複数の前記焦点位置の画像を生成することとしてもよい。
このように構成することで、標本の深さが異なる複数の観察領域全体で鮮明度にばらつきがない立体画像を取得することができる。
【0017】
上記構成においては、前記レーザ光の光束径を調節可能な光束径調節部と、前記標本における前記焦点位置の深さが深くなるにつれて前記レーザ光の光束径が前記対物レンズの瞳よりも徐々に小さくなるように前記光束径調節部を制御する光束径調節制御部とを備えることとしてもよい。
【0018】
NAが大きいパルス状のレーザ光は、標本内での光路長が長く散乱の影響を受け易いため、標本の深部に届き難いのに対し、NAが小さいパルス状のレーザ光は、標本内での光路長が短く散乱の影響を受け難いため、標本の深部に届き易い。
【0019】
このように構成することで、光束径調節制御部により、標本における焦点位置の深さが深くなるにつれて、光束径調節部が制御されてレーザ光の光束径が対物レンズの瞳よりも小さくなるので、標本の深部を観察する場合に深部の焦点位置に届かないような余分な光を標本に照射しなくて済み、レーザ光の照射により標本に与える影響を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、実験に要する時間の短縮、標本の低侵襲測定の実現、画像データの保管領域の無駄削減および画像表示の描画速度の向上を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡100は、例えば、2光子励起型顕微鏡である。このレーザ走査型顕微鏡100は、
図1に示されるように、パルス状の極短パルスレーザ光を出射するレーザ光源1と、レーザ光源1から出射された極短パルスレーザ光をコリメートするコリメートレンズ光学系(光束径調節部)3と、コリメートレンズ光学系3を通過した極短パルスレーザ光を偏向して標本Sにおいて2次元的に走査させる2次元走査機構(走査部)5と、2次元走査機構5により偏向された極短パルスレーザ光を標本Sに照射する一方、標本Sにおいて発生する蛍光を集光する対物レンズ7と、対物レンズ7により集光された蛍光を極短パルスレーザ光の光路から分岐させるダイクロイックミラー9と、ダイクロイックミラー9により分岐された蛍光を検出する検出装置(検出部)11とを備えている。
【0023】
コリメートレンズ光学系3は、極短パルスレーザ光の光軸上でその光軸方向に沿って移動可能に設けられている。このコリメートレンズ光学系3は、極短パルスレーザ光の光軸方向に位置を変更することにより、極短パルスレーザ光のコリメート関係を変化させて、対物レンズ7の瞳位置での光束径を変えることができるようになっている。
【0024】
2次元走査機構5は、例えば、2軸ガルバノミラーであり、相互に直交する軸線回りに揺動可能な2枚のガルバノミラー(図示略)を対向させて構成されている。この2次元走査機構5は、2枚のガルバノミラーを揺動させて極短パルスレーザ光を偏向し、標本上で極短パルスレーザ光を2次元的(X軸方向およびY軸方向)に走査することができるようになっている。
【0025】
ダイクロイックミラー9は、2次元走査機構5からの極短パルスレーザ光を対物レンズ7に向けて反射する一方、対物レンズ7により集光されて極短パルスレーザ光の光路を戻る蛍光を検出装置11に向けて透過させることができるようになっている。
【0026】
検出装置11は、極短パルスレーザ光が照射されることにより標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置近傍から発生する蛍光を検出し、検出した蛍光の輝度に相当する光強度信号を出力するようになっている。
【0027】
また、レーザ走査型顕微鏡100には、コリメートレンズ光学系3を光軸方向に移動させる電動駆動部(光束径調節部)13と、電動駆動部13を制御するレーザ制御装置(光束径調節制御部)21と、対物レンズ7を光軸方向に移動させるZ軸駆動機構(焦点位置変更部)25と、2次元走査機構5、レーザ制御装置21およびZ軸駆動機構25を制御する走査制御装置(焦点位置制御部)27と、レーザ制御装置21および走査制御装置27の制御や画像処理等を行うコンピュータ(画像生成部)29とが備えられている。
【0028】
電動駆動部13は、コリメートレンズ光学系3の光軸方向の移動をガイドする直動レール15と、ラックピニオンギヤを持つステッピングモータ17と、ステッピングモータ17を駆動するモータドライバ19とを備えている。
【0029】
モータドライバ19は、レーザ制御装置21からの制御指令に基づいて、ステッピングモータ17を制御するようになっている。コリメートレンズ光学系3は、ステッピングモータ17の制御量に応じた移動量で直動レール15上を移動するようになっている。
【0030】
レーザ制御装置21は、標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置の深さとコリメートレンズ光学系3の光軸方向の位置とが対応付けられたルックアップテーブルを記憶するSRAM(メモリ装置)23を備えている。ルックアップテーブルには、標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置の深さが深くなるにつれて極短パルスレーザ光の光束径が対物レンズ7の瞳よりも徐々に小さくなるように、対物レンズ7の焦点位置とコリメートレンズ光学系3の位置とが対応付けられている。
【0031】
また、レーザ制御装置21は、走査制御装置27からの同期信号に基づいて、SRAM23のルックアップテーブルを参照することにより対物レンズ7の焦点位置の深さに対応するコリメートレンズ光学系3の位置を取得し、取得した位置にコリメートレンズ光学系3を移動させる制御指令を電動駆動部13に送るようになっている。
【0032】
ここで、
図2に示すように、NAが大きい極短パルスレーザ光は、標本S内での光路長が長く散乱の影響を受けやすいため、標本Sの深部に届き難い。一方、NAが小さい極短パルスレーザ光は、標本S内での光路長が短く散乱の影響を受け難いため、標本Sの深部に届き易い。
【0033】
レーザ制御装置21からの制御指令に基づいて電動駆動部13により位置決めされたコリメートレンズ光学系3を極短パルスレーザ光が通過することで、標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置の深さが深くなるにつれて極短パルスレーザ光の光束径が対物レンズ7の瞳よりも徐々に小さくなる。これにより、標本Sの深部を観察する場合に深部の焦点位置に届かないような余分な極短パルスレーザ光を標本Sに照射しなくて済む。
【0034】
例えば、2光子励起の分解能(FWHM(Full Width at Half Maximum):半値全幅)は、下記の式により概算することができる。
Z軸方向の分解能(Z分解能:FWHMz)を式(1)により示す。
FWHMz=0.62×λ/(n−SQRT(n
2−NA
2)) (1)
X軸方向およびY軸方向の分解能(XY分解能:FWHMxy)を式(2)により示す。
FWHMxy=0.36×λ/NA (2)
ここで、λ:励起波長、n:屈折率(通常は水の屈折率1.33を使用)、NA:実効NAである。
【0035】
また、2光子励起の分解能(FWHM)と実効NAの関係は、例えば、
図3に示す通りである。
図3において、縦軸は分解能(FWHM)を示し、横軸は実効NAを示している。微小ポイントを想定した2光子励起の分解能概算表の例を
図4に示す。
図3および
図4によれば、実効NAが大きいほど高解像となり、分解能(FWHM)の数値が小さくなる。また、実効NAが小さくなった場合、XY分解能はあまり劣化しないのに対し、Z分解能は著しく劣化することがわかる。
【0036】
Z軸駆動機構25は、対物レンズ7と標本Sとの光軸方向の距離を変更することにより、標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置を標本SのZ軸方向に移動させることができるようになっている。
【0037】
走査制御装置27は、コンピュータ29からの制御指令に基づいて、2次元走査機構5、レーザ制御装置21およびZ軸駆動機構25を制御するようになっている。具体的には、走査制御装置27は、2次元走査機構5のガルバノミラーを揺動させて、極短パルスレーザ光を標本Sにおける対物レンズ7の焦点面においてXY方向に走査させるようになっている。
【0038】
また、走査制御装置27は、標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置の深さが深くなるほど、その焦点位置がZ軸方向に大きく切り替わるようにZ軸駆動機構25を駆動するようになっている。また、走査制御装置27は、Z軸駆動機構25を駆動するタイミングで同期信号をレーザ制御装置21に出力するようになっている。
【0039】
対物レンズ7の焦点位置をZ軸方向に切り替える量は、例えば、生体試料の脳神経の異なる深さの部位の明るさとZ軸方向の特性とを予め測定したり、異なる深さで複数の蛍光ビーズを入れファントムの各蛍光ビーズの明るさとZ軸方向の特性とを予め測定したりして、得られたZ半値幅を基準に設定することとしてもよい。また、その設定は、ユーザが行うこととしてもよいし、レーザ走査型顕微鏡100の製造工程中またはセットアップ時にメーカが実測して行うこととしてもよい。
【0040】
コンピュータ29は、内部にGUIなどのユーザインターフェースを有しており、ユーザにより設定された観察スケジュールに基づいて、レーザ制御装置21および走査制御装置27に対して制御指令を出力するようになっている。
【0041】
また、コンピュータ29は、検出装置11から出力された光強度信号に基づいて画像を生成し、図示しないモニタに表示させることができるようになっている。これにより、標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置の観察画像をユーザに提供することができるようになっている。
【0042】
このように構成されたレーザ走査型顕微鏡100の作用について説明する。
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡100によれば、レーザ光源1から出射された極短パルスレーザ光は、コリメートレンズ光学系3によりコリメートされて2次元走査機構5により偏向される。そして、極短パルスレーザ光は、ダイクロイックミラー9を介して対物レンズ7により集光され、標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置に照射される。これにより、2次元走査機構5の一対のガルバノミラーの揺動角度に応じて、標本Sの焦点面上で極短パルスレーザ光が2次元的に走査される。また、Z軸駆動機構25により、標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置がZ軸方向に移動させられる。
【0043】
極短パルスレーザ光が照射されることにより、標本Sにおける多光子励起効果によって、対物レンズ7の焦点位置近傍において蛍光が発生すると、その蛍光は対物レンズ7により集光されて極短パルスレーザ光の光路を戻り、ダイクロイックミラー9を透過して検出装置11により検出される。そして、コンピュータ29により、検出装置11から出力される蛍光の輝度に相当する光強度信号に基づいて、標本Sの焦点面の画像が生成される。
【0044】
次に、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡100により標本Sを観察する場合について説明する。
まず、プリスキャンし、ルックアップテーブルを作成する。プリスキャンは、Z軸駆動機構25を駆動し、ユーザにより入力された標本観察のZ軸方向における上限(以下、「表層部」という。)に対物レンズ7の焦点位置をセットし、この状態で極短パルスレーザ光を照射して画像を取得しモニタに表示させる。
【0045】
次いで、コリメートレンズ光学系3を光軸方向に徐々に移動させ、極短パルスレーザ光の光束径を徐々に絞る。ユーザは、モニタに表示された観察画像を確認し、鮮明な画像が得られるコリメートレンズ光学系3の位置をコンピュータ29に記録させる。
【0046】
続いて、Z軸駆動機構25を駆動して、標本観察のZ軸方向における下限(以下、「深層部」という。)に対物レンズ7の焦点位置をセットし、この状態でレーザ光を照射して画像を取得しモニタに表示させる。そして、表層部の場合と同様にして、コリメートレンズ光学系3の位置を調節して極短パルスレーザ光の光束径を徐々に絞り、ユーザが観察画像を確認して鮮明な画像が得られるコリメートレンズ光学系3の位置をコンピュータ29に記録させる。
なお、表層部が標本Sの表面に設定された場合は、対物レンズ7の本来の性能が出せる光束系が自動的に設定されるので、上述のようなプリスキャンにおける位置記録は不要となる。
【0047】
このようにして標本Sの表層部および深層部におけるコリメートレンズ光学系3の位置を特定したら、これらの値を用いて、標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置の深さが深くなるにつれてレーザ光の光束径が対物レンズ7の瞳よりも徐々に小さくなるように、表層部と深層部との間の中間部における深さが異なる複数の層の対応するコリメートレンズ光学系3の位置を求める。
【0048】
中間部における各層に対応するコリメートレンズ光学系3の位置決定は、一般的に用いられている補間方法や、観察を行う焦点位置の全ての深さについてプレスキャンを行う方法等を用いることができる。
【0049】
このような手法により、対物レンズ7の焦点位置の深さが深くなるにつれてレーザ光の光束径が対物レンズ7の瞳よりも徐々に小さくなるように、各焦点位置の深さに対応付けたコリメートレンズ光学系3の位置を決定する。そして、コンピュータ29により、これらの情報を対応付けてルックアップテーブルを作成し、レーザ制御装置21のSRAM23に書き込みする。
【0050】
これにより、レーザ制御装置21により、ルックアップテーブルに基づいて電動駆動部13を制御し、対物レンズ7の焦点位置の深さに対応してコリメートレンズ光学系3の位置を調節することで、標本Sにおける焦点位置の深さが深くなるにつれて、極短パルスレーザ光のNAを対物レンズ7の瞳よりも徐々に小さくしていくことができる。
【0051】
次に、本観察を行う。
まず、走査制御装置27により、Z軸駆動機構25が駆動されて対物レンズ7の焦点位置が標本Sの表層部に配置され、走査制御装置27からレーザ制御装置21に同期信号が送られる。
【0052】
レーザ制御装置21においては、走査制御装置27からの同期信号が入力されることにより、SRAM23に記憶されているルックアップテーブルから表層部に対応するコリメートレンズ光学系3の位置が取得され、電動駆動部13に制御指令が送られる。
【0053】
電動駆動部13においては、モータドライバ19により、レーザ制御装置21からの制御指令に基づいてステッピングモータ17が駆動され、コリメートレンズ光学系3が直動レール15によりガイドされて表層部に対応する位置に移動する。
【0054】
これにより、レーザ光源1から出射された極短パルスレーザ光は、コリメートレンズ光学系3を通過することで、表層部に対応して対物レンズ7の瞳よりも小さいNAに変換され、2次元走査機構5を介して対物レンズ7により標本Sに照射される。
【0055】
そして、2次元走査機構5により、標本Sの表層部において極短パルスレーザ光が2次元的に走査されることで、表層部において発生した蛍光が検出装置11により検出され、コンピュータ29により、その蛍光の輝度に相当する光強度信号に基づいて、対物レンズ7の焦点位置である表層部の画像が生成される。
【0056】
続いて、表層部での極短パルスレーザ光の走査が終了すると、走査制御装置27により、Z軸駆動機構25が駆動されて標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置が次の深さに切り替えられる。また、走査制御装置27からレーザ制御装置21に同期信号が出力され、電動駆動部13により、次の焦点位置の深さに対応する位置にコリメートレンズ光学系3が移動する。
【0057】
この場合において、走査制御装置27の制御により、Z軸駆動機構25が、
図5に示すように、標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置の深さが深くなるほど、Z軸方向に大きく切り替わるように対物レンズ7の焦点位置を移動させる。
【0058】
次いで、次の深さの焦点位置に対して、コリメートレンズ光学系3によってNAが変換された極短パルスレーザ光が2次元走査機構5を介して対物レンズ7によって照射される。そして、その焦点位置近傍において発生した蛍光が検出装置11によって検出され、コンピュータ29によってその対物レンズ7の焦点位置である中間部の画像が生成される。
【0059】
このようにして、Z駆動機構25により標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置の深さが段階的に切り替えられ、各焦点位置近傍において発生した蛍光に基づいて画像が生成される。これにより、標本Sの立体画像を取得することができる。
【0060】
ここで、標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置が浅いと、標本S内での光路長が短く散乱の影響を受け難いため、Z軸方向の分解能が高く観察領域の層が薄くなる。これに対し、標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置が深くなるにつれて、標本S内での光路長が長くなり散乱の影響を受け易くなるため、Z軸方向の分解能が低下し観察領域の層が厚くなる。
【0061】
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡100によれば、走査制御装置27の制御により、標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置の深さが深くなるほど、対物レンズ7の焦点位置がZ軸方向に大きく移動するので、標本Sの深部ほど、Z軸方向に隣接する観察領域の層どうしの距離を離間させ、互いに隣接する観察領域から発せされる蛍光を重複して検出するのを防ぐことができる。これにより、標本Sにおける深さが異なる所望の観察領域ごとに鮮明な画像を取得することができる。
【0062】
したがって、画像の取得時間が長くなるのを防ぎ実験に要する時間を短縮するとともに、生体試料のような標本Sに対して極短パルスレーザ光が長時間照射され続けてしまうことを防止し、標本Sの低侵襲測定を実現することができる。また、画像を取得する回数が不必要に増えるのを防ぎ画像データの保管領域の無駄を削減するとともに、画像の描画回路への負担を抑え画像表示の描画速度を向上することができる。
【0063】
なお、本実施形態においては、焦点位置変更部として、対物レンズ7を光軸方向に移動させるZ軸駆動機構25を例示して説明したが、標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置を標本SのZ軸方向に移動させることができるものであればよく、例えば、標本Sを光軸方向に移動させることにより、標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置を標本SのZ軸方向に移動させるステージを採用することとしてもよい。
【0064】
また、電動駆動部13は、上述の構成に限られることなく、例えば、ピエゾアクチュエータなど、高精度の位置決めが可能なアクチュエータを採用することとしてもよい。
【0065】
本実施形態は以下のように変形することができる。
第1変形例としては、コンピュータ29が、Z軸駆動機構25により標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置の深さが深くなるにつれて、標本Sの画像におけるZ軸方向に交差するX軸方向およびY軸方向の画素数を減らすこととしてもよい。
【0066】
この場合、X軸方向およびY軸方向の画素サイズは、例えば、生体試料の脳神経の異なる深さの部位の明るさとZ軸方向の特性とを予め測定したり、ファントムに異なる深さで複数の蛍光ビーズを入れてその蛍光ビーズの明るさとZ軸方向の特性とを予め測定したりして、得られたXY半値幅を基準にサンプル面の画素サイズを設定することとしてもよい。また、その画素サイズは、ユーザが設定することとしてもよいし、レーザ走査型顕微鏡100の製造工程中またはセットアップ時にメーカが実測して設定することとしてもよい。
【0067】
このようにすることで、標本Sにおける対物レンズ7の焦点位置が深くなるにつれて分解能が低くなり、焦点位置に対してX軸方向およびY軸方向にぼけが生じても、コンピュータ29により画像を形成するX軸方向およびY軸方向の1つ1つの画素サイズを大きくし、分解能に合せた画像を生成することができる。例えば、分解能が1/2になる場合は、X軸方向およびY軸方向の画素数を1/2にしてその分だけ1つ1つの画素サイズを大きくすることとすればよい。
【0068】
また、通常は、標本Sにおける深さが深くなるほど、XYZ半値幅が大きくなることから、深い領域ほどXYZ分解能が劣化することになる。本変形例によれば、深くなるほどXYZ分解能が劣化するのに合わせて、取得するデータ量を必要最低限に留めるとともに、実験に要する時間をより低減し、標本Sをより効果的に低侵襲測定することができる。
【0069】
また、第2変形例としては、コンピュータ29が、標本Sにおける分解能が最も低い深さの焦点位置の解像度により、深さが異なる他の複数の焦点位置の画像を生成することとしてもよい。この場合、通常は、標本Sの深層部におけるXYZ画素サイズ(サンプル面換算)が1番大きくなるため、深層部の解像度により表層部や中間部の他の焦点位置の画像を生成することとすればよい。
【0070】
このようにすることで、標本Sの深さが異なる複数の観察領域全体で鮮明度にばらつきがない立体画像を取得することができる。すなわち、立体画像全体の表示分解能を均一にして見易い3D画像を表示することができる。また、メモリや画像グラフィクスといった画像データの保管、表示機能の負担を最小限に留め、画像表示の描画速度を向上することができる。
【0071】
また、本実施形態においては、光束径調節部として、コリメートレンズ光学系3を例示し、コリメートレンズ光学系3の位置を光軸方向にずらすことにより極短パルスレーザ光の光束径を調節することとしたが、第3変形例としては、光束径調節部として、電動式のズーム光学系(例えば、フォーカルズームレンズ等)を採用することとしてもよい。
【0072】
この場合、電動式のズーム光学系により、コリメートレンズ光学系3によるコリメートの条件に影響を与えることなく極短パルスレーザ光の光束径を変化させることとすればよい。このようにした場合も、光量を低下させることなく、コリメートレンズ光学系3により光束径を調整した場合と同様の効果を得ることができる。
また、光束調節部として、通過させる極短パルスレーザ光の光束を制限する絞りを採用することとしてもよい。