(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
まず、
図1〜4を用いて、実施形態に係る研磨ベルト用ホイール(以下では単に「ホイール」という)1の構造を説明する。ホイール1は研磨機(図示せず)の一部を構成する部品であり、
図1に示すように、エンドレス研磨ベルト(本明細書では単に「研磨ベルト」ともいう)70を支持する役割を担う。ホイール1に研磨ベルト70を取り付けることで研磨ホイールを得ることができ、
図1に示すその研磨ホイールを製品として供給することも可能である。なお、
図1の例ではホイール1の外周面に筒状の薄いクッション80を配し、そのクッション80上に研磨ベルト70を配しているが、クッション80は省略可能である。
【0012】
ホイール1の中心部には研磨機のシャフト(図示せず)が通る貫通孔11が形成され、ホイール1はそのシャフトに通された状態で固定される。なお、ホイール1の固定方法は限定されない。例えば、シャフトの一端に形成された雄ねじにナットを嵌めることでホイール1を固定してもよい。研磨機の種類は限定されず、ホイール1はシャフトを有する任意の研磨機に適用可能である。
【0013】
本明細書では、
図1に示すホイール1の回転軸Aに沿った方向(貫通孔11に通されたシャフトの延びる方向)を当該ホイール1の「幅方向」と定義し、幅方向におけるホイール1の側面を単に「側面」という。
【0014】
図1に示す状態から、研磨ベルト70およびクッション80を外し、さらに、ホイール1の両側面に取り付けられているカバー12を外すと、ホイール1は
図2に示すような外観を呈する。この
図2に示すように、ホイール1は、貫通孔11が形成されたハブ(hub)20と、このハブ20の外周に取り付けられた複数の弧状のワイドラグ(wide lag)30とを備える。ホイール1の外周面13はこれらのワイドラグ30により形成される。各ワイドラグ30はメカニカルストップ(mechanical stop)40という取付具を用いてハブ20に取り付けられる。ハブ20、ワイドラグ30、およびメカニカルストップ40は金属あるいは樹脂などの材料で作製されるが、硬質であればこれらの具体的な材料は限定されない。
【0015】
ハブ20はホイール1の内側部分であり、その中心部には幅方向に沿って貫通孔11が形成されている。本実施形態では、貫通孔11の径はシャフトの外径と同じか、またはシャフトが通ることができる程度にシャフトの外径よりも小さい。しかし、ホイール1をシャフトに固定させるためのアダプタ(図示せず)を用いるのであれば、貫通孔11の径はシャフトの外径より大きくてもよい。ハブの両側面には、メカニカルストップ40を取り付けるための複数のねじ穴22が形成されている(
図4参照)。
【0016】
図3に示すように、ハブ20の外周側は開いており、この開口部からハブ20の内周側にわたって空間が形成されている。この空間の外周側の幅は広く確保されており、したがって、幅方向に沿った空間の断面形状は略T字状であるといえる。この空間には円形のエアチューブ50が嵌め込まれる。幅方向に沿ったエアチューブ50の断面は空間に合わせて略T字状である。エアチューブ50は、ハブ20の一側面において貫通孔11の近くに設けられた、空気注入用のバルブ(valve)21と接続しており、このバルブ21を介して注入される空気により膨張する。
【0017】
ワイドラグ30は、ホイール1の外周面13を形成する弧状の硬質部材である。各ワイドラグ30の外周側端面31は曲率が統一された円弧状に形成されているので、複数のワイドラグ30を円周方向に沿って繋げると、
図2に示すように円形の外周面13が形成される。本実施形態では、外周の中心角が45度である8個のワイドラグ30により外周面13が形成されているが、ワイドラグ30の個数は任意に設定してよく、例えば2個、4個、あるいは9個のワイドラグ30でホイール1の外周面13を形成してもよい。
【0018】
図3に示すように、各ワイドラグ30の内周側端面32はV字状に凹んでいる。内周側端面32の幅はエアチューブ50の外周側端面51の幅と略同じである。
図4に示すように、ワイドラグ30の両側面には外周側端面31と同心円状に形成された(すなわち、円周方向に沿って延びる)二つの溝があり、8個のワイドラグ30が繋がるとホイール1の各側面に二つの円形の溝が形成される。外側の溝33(以下では「外溝33」という)にはゴム製のリング(弾性部材)60が嵌め込まれる。一方、内側の溝34(以下では「内溝34」という)にはメカニカルストップ40の一部が挿入される。リング60が嵌め込まれる外溝33は内溝34よりも深い。外溝33と内溝34とを隔てている壁の一部は、後述するメカニカルストップ40のストッパ42の形状に合わせて凹んでいる(凹部35)。
【0019】
メカニカルストップ40は、
図5に示すように全体として矩形の板状を呈している。取付時にホイール1の側面と向かい合う面のうちハブ20に対応する領域には、メカニカルストップ40をハブ20に固定する際に用いる二つのねじ孔41が設けられ、その面のうちワイドラグ30と対向する領域には略十字状のストッパ42が設けられている。ストッパ42のうち、メカニカルストップ40の短手方向に延びている凸部42aは、内溝34に対応する。凸部42aの幅(メカニカルストップ40の長手方向に沿った長さ)は内溝34の幅よりも小さい。
【0020】
次に、
図6をさらに用いて、ホイール1の組み立て方を説明する。作製者はまず、
図4に示すように、径方向に沿って並んでいるハブ20の二つのねじ穴22の延長線上に凹部35が位置するように、個々のワイドラグ30を配する。この工程により、円形の外溝33および内溝34が形成される。続いて、作製者は一方の側面においてリング60を外溝33に嵌め込む。続いて、作製者はハブ20のねじ穴22とメカニカルストップ40のねじ孔41とにねじを通すことで、
図6に示すようにメカニカルストップ40をハブ20に取り付ける。作製者はこの作業をすべてのメカニカルストップ40について行い、これにより、ホイール1の一方の側面における取付作業が完了する。作製者は、ホイール1の他方の側面においても、リング60の嵌め込みとすべてのメカニカルストップ40の取り付けとを行う。最後に作製者は両側面にカバー12を取り付け、これによりホイール1の組立てが完了する。
【0021】
各ワイドラグ30は、その凹部35に嵌ったストッパ42により、円周方向に移動しないように固定される。各ワイドラグ30は、該ワイドラグ30の径方向内側に配されたエアチューブ50の膨張により径方向外側に移動し得る。しかし、
図6に示すようにストッパ42の凸部42aが内溝34に挿入されているので、その移動はその凸部42aにより制限される。したがって、ホイール1の外径は、
図7に示すように、R1以上R2以下の範囲で変化し得る。最小径R1は研磨ベルト70の内径よりも小さく設定され、最大径R2は研磨ベルト70の固定を考慮して設定される。
【0022】
次に、
図8,9を用いて、ホイール1を用いた研磨方法を説明する。まず、作業者はホイール1をシャフトに固定する。この際にはエアチューブ50は収縮しているので、ワイドラグ30はリング60の弾性力によりハブ20側に寄っており、凸部42aは
図8に示すように内溝34の外周側の壁に接する。このとき、ホイール1の外径は最小値R1である。
【0023】
続いて、作業者はホイール1の外周面13上に研磨ベルト70を配置する(配置工程)。本実施形態では、作業者はまず筒状のクッション80をその外周面13上に配置し、このクッション80上に研磨ベルト70を配置する。もっとも、上述したようにクッション80は必須ではなく、作業者はホイール1の外周面上に研磨ベルト70を直接取り付けてもよいし、内周面にクッション層を備える研磨ベルトをホイール1に直接取り付けてもよいし、クッション層をホイール1のワイドラグ30の外周側端面31に設けてもよい。
【0024】
なお、作業者は研磨ベルト70をホイール1に取り付けた後にそのホイール1をシャフトに取り付けてもよい。
【0025】
続いて、作業者はエアポンプなどの空気供給装置をバルブ21に接続してエアチューブ50内に空気を注入することでエアチューブ50を膨張させる(膨張行程)。その膨張力がリング60の弾性力を上回ると、
図7に示すように、エアチューブ50の外周側端面51が各ワイドラグ30を外側に押し出し、したがって各ワイドラグ30がホイール1の径方向外側に移動する。これにより、ホイール1が外周面13を介して内側から研磨ベルト70に十分な圧力を掛け、研磨ベルト70はその圧力により当該外周面13上でしっかりと固定される。ここで、膨張時のエアチューブ50の内圧は周囲の気圧よりも例えば0.1〜0.25MPa高いが、その気圧差はこれらの値に限定されない。
【0026】
続いて、作業者は研磨機を作動させてホイール1を回転させ、研磨ベルト70に研磨対象の物を当てることでその対象物を研磨する(研磨工程)。その後、研磨された対象物はそのまま物品として、あるいは物品の一部として提供される。
【0027】
場合によっては、ホイール1に取り付けられている研磨ベルト70が若干伸びることが考えられる。しかし、各ワイドラグ30は、膨張しているエアチューブ50により、研磨ベルト70の伸びに追従してさらに外側に移動するので、ホイール1の外周面13は引き続きその研磨ベルト70をしっかりと固定し続ける。その結果、一つの研磨ベルト70を長時間にわたって(すなわち、効率的に)使用することができる。
図9に示すように、各ワイドラグ30は凸部42aが内溝34の内周側の壁に接するまで(すなわち、ホイール1の外径が最大値R2になるまで)径方向外側に移動することができ、その範囲で研磨ベルト70の伸びに追従し得る。
【0028】
もし研磨ベルト70の研磨力が低下した場合には、作業者はエアチューブ50内の空気を抜いた上で研磨ベルト70を交換すればよい。エアチューブ50内の空気が抜かれると、各ワイドラグ30はリング60の弾性力により径方向内側に移動し、ホイール1の外径は最小値R1に戻る。新たな研磨ベルト70の取付方法は上記の通りである。このように、作業者は研磨ベルト70を簡単に取り替えることができる。また、作業者は研磨力の低下に対して研磨ベルト70の交換だけを行えば足りるので、研磨ホイール全体を交換する場合に比べて資源を節約できる。
【0029】
以上説明したように、本発明の一側面に係る研磨ベルト用ホイールは、エンドレス研磨ベルトが取り付けられる外周面を形成する複数の弧状の硬質部材と、複数の硬質部材の径方向内側に配されたエアチューブとを備え、各硬質部材が空気によるエアチューブの膨張により径方向外側に移動する。
【0030】
また、本発明の一側面に係る研磨ホイールは、上記の研磨ベルト用ホイールと研磨ベルトとを備える。
【0031】
また、本発明の一側面に係る研磨方法は、研磨ベルト用ホイールを用いた研磨方法であって、外周面を形成する複数の弧状の硬質部材と、該複数の硬質部材の径方向内側に配されたエアチューブとを備える研磨ベルト用ホイールの該外周面上にエンドレス研磨ベルトを配置する配置行程と、外周面上に研磨ベルトを配置した後に、エアチューブを空気により膨張させることで各硬質部材を径方向外側に移動させる膨張行程と、膨張行程により外周面上に固定された研磨ベルトを用いて対象物を研磨する研磨工程とを含む。
【0032】
また、本発明の一側面に係る物品は、上記の研磨方法により研磨された対象物を含む。
【0033】
このような側面においては、複数の硬質部材のそれぞれがエアチューブの膨張により径方向外側に移動する。したがって、エンドレス研磨ベルトを膨張前に外周面上に容易に配置でき、その後エアチューブを膨らませることでその研磨ベルトを外周面からの圧力でしっかりと固定することができる。また、研磨ベルト用ホイールの外周面が硬質部材で形成されているので、膨らんだエアチューブの形状に依らず研磨ベルトをその外周面に沿って取り付けることができる。そのため、研磨ベルトを所望の外周面の形状に沿って設定することができ、したがって、研磨面を有効に利用することができる。このように、上記の側面においては、研磨ベルトの取り付けの容易性を維持しつつ、その研磨ベルトの表面をより有効に用いることができる。
【0034】
また、エアチューブの正の内圧に起因した膨張により硬質部材が径方向外側に押し出されるので、研磨ベルトが延びた場合でも硬質部材がその膨張力により研磨ベルトの伸びに追従してさらに外側に移動する。そのため、ホイールの外周面によりその研磨ベルトをしっかりと固定し続けることができる。
【0035】
本発明の別の側面では、膨張したエアチューブに接する硬質部材の内周側端面がテーパ状に凹んでいてもよい。この場合には、膨張するエアチューブが硬質部材の幅方向中央に案内されるので、硬質部材を径方向外側に向かって真っすぐに押し出すことができ、その結果、外周面の全体で研磨ベルトをしっかりと固定することができる。
【0036】
本発明の別の側面では、エアチューブの外周側端面の幅と硬質部材の内周側端面の幅とが略同じであってもよい。この場合には硬質部材の内周側端面の全体がエアチューブと接するので、硬質部材を径方向外側に向かって真っすぐに押し出すことができ、その結果、外周面の全体で研磨ベルトをしっかりと固定することができる。
【0037】
本発明の別の側面では、エアチューブ内の空気が抜かれた際に、弾性力により各硬質部材を径方向内側に移動させる弾性部材を更に備えてもよい。この場合には、作業者は自身で硬質部材を元の位置に戻さなくて済み、その分、研磨ホイールの使い勝手が向上する。
【0038】
本発明の別の側面では、弾性部材が、複数の硬質部材にわたって取り付けられたゴム製のリングであってもよい。このようなリングを用いることで、各硬質部材を径方向内側に移動させる仕組みを簡単にすることができる。
【0039】
本発明の別の側面では、個々の硬質部材が取付具(メカニカルストップ)によりハブに取り付けられ、各硬質部材には円周方向に沿って延びる溝が形成され、各取付具には円周方向に沿って延びる凸部が形成され、径方向に沿った各硬質部材の移動が、溝に挿入された凸部により制限されてもよい。この場合には、その取付具が硬質部材の移動を制限する役割を兼ねるので、その分、研磨ベルト用ホイールの部品数、ひいては製造費用を抑えることができる。
【0040】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0041】
上記実施形態ではワイドラグ30の内周側端面がV字状に凹んでいたが、その端面の形状は限定されない。例えば、その端面の両側のみが中央に向かってテーパ状に傾斜し、かつ中央部分がホイールの幅方向に沿って平坦になるように、内周側端面を形成してもよい。また、その内周側端面をU字状に凹ませてもよい。あるいは、これらの例のように硬質部材の内周側端面をテーパ状に凹ませずに、当該端面を平坦に形成してもよい。
【0042】
上記実施形態ではエアチューブ50の外周側端面51の幅とワイドラグ30の内周側端面32の幅とを略同じにしたが、これらの幅は互いに異なってもよい。すなわち、エアチューブ50の外周側端面51の幅はワイドラグ30の内周側端面32の幅より大きくてもよいし小さくてもよい。
【0043】
上記実施形態では弾性部材としてリング60を採用したが、ホイールの外周面を径方向内側に移動させるための部材はこれに限定されず、例えば引きばねを介してワイドラグ30をハブ20に固定させてもよい。あるいは、リング60や引きばねなどの弾性部材を省略してもよい。
【0044】
上記実施形態ではワイドラグ30をハブ20に取り付けるためにメカニカルストップ40を用いたが、取付具の構成は限定されない。これに伴って、ワイドラグ30の径方向の移動を制限する仕組みも、内溝34および凸部42aの組合せ以外の任意の構成を採用してよい。例えば、上記のリング60あるいは引きばねなどの弾性部材が硬質部材の径方向の移動を制限する役割を兼ねてもよい。