(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223072
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】緩衝器
(51)【国際特許分類】
F16F 9/40 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
F16F9/40 B
F16F9/40 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-179561(P2013-179561)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2015-48873(P2015-48873A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(72)【発明者】
【氏名】柴原 和晶
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 謙二
【審査官】
内山 隆史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−287609(JP,A)
【文献】
特開昭51−025838(JP,A)
【文献】
特開2013−015157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動液が封入されたシリンダと、
前記シリンダの外周に設けられた外筒と、
前記シリンダと前記外筒との間に形成されて作動液及びガスが封入されたリザーバと、
前記シリンダに挿入されたピストンと、前記ピストンに連結されて前記シリンダの外部に延出されたピストンロッドと、
前記ピストンロッドのストロークによって前記シリンダから前記リザーバに作動液を流通させる通路と、を備え、
前記通路には、
前記シリンダ室内の作動液が前記リザーバに向けて流出するのを許す逆止弁と、
該逆止弁の下流側に接続された小径ポートと、
該小径ポートの下流側に接続され前記リザーバに開口する前記小径ポートより大径の大径ポートと、を有し、
前記小径ポートから前記大径ポートに作動液を流すことにより作動液を減速し、
前記小径ポートと前記大径ポートとは、偏心して配置されることにより、前記大径ポートから前記リザーバ内に流入する作動液を整流させることを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
作動液が封入されたシリンダと、
前記シリンダの外周に設けられた外筒と、
前記シリンダと前記外筒との間に形成されて作動液及びガスが封入されたリザーバと、
前記シリンダに挿入されたピストンと、前記ピストンに連結されて前記シリンダの外部に延出されたピストンロッドと、
前記ピストンロッドのストロークによって前記シリンダから前記リザーバに作動液を流通させる通路と、を備え、
前記通路は、
前記シリンダ室内の作動液が前記リザーバに向けて流出するのを許す逆止弁と、
該逆止弁の下流側に接続される小径ポートと、
該小径ポートの下流側に接続され前記リザーバに開口する前記小径ポートより大径の大径ポートと、を有し、
前記通路は、複数隣り合うように設けられ、前記小径ポートは前記大径ポートに対して偏心して配置され、隣り合う前記小径ポートは互いに離れる方向に配置されることを特徴とする緩衝器。
【請求項3】
前記シリンダの端部に設けられ、前記ピストンロッドを挿通させて摺動可能に案内するロッドガイドを備え、前記小径ポート及び前記大径ポートは、前記ロッドガイドに設けられていることをと特徴とする請求項1又は2に記載の緩衝器。
【請求項4】
前記大径ポートは、前記シリンダに沿って軸方向に延びる通路であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の緩衝器。
【請求項5】
略水平方向に沿って設置されて横向きで使用される緩衝器であって、
前記小径ポートは、前記大径ポートに対して上方に偏心して配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロッドのストロークに対して減衰力を発生させる緩衝器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄道車両等のサスペンション装置、建築物の制振装置等に使用される筒型の緩衝器において、作動流体である油液及びガスが貯留されたリザーバ内に油液が流入する際、リザーバ内の油液の液面が撹拌されてガスを巻き込む、いわゆるエアレーションが生じることがある。エアレーションが生じて、シリンダ内の油液中に気泡が混入すると、減衰力が不安定になり、減衰効果が低下することになる。
【0003】
また、緩衝器には、例えば特許文献1に記載されているように、略水平方向に設置されて横向きで使用されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−13815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のエアレーションに対しては、リザーバの容量を大きくして油液の液面を高くすることにより、ある程度、防止することが可能であるが、この場合、緩衝器が大型化し、油液の量も大きくなるので、設置スペース、重量増の問題が避けられない。
【0006】
また、特に、特許文献1に記載されているように略水平方向に設置されて横向きで使用される緩衝器の場合、リザーバ内の液面の高さが低くなるため、リザーバへの油液の流入による液面の撹拌が生じやすくなり、エアレーションの発生が問題となる。
【0007】
本発明は、エアレーションの発生を効果的に抑制するようにした緩衝器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、
本発明に係る緩衝器は、作動液が封入されたシリンダと、前記シリンダの外周に設けられた外筒と、前記シリンダと前記外筒との間に形成されて作動液及びガスが封入されたリザーバと、前記シリンダに挿入されたピストンと、前記ピストンに連結されて前記シリンダの外部に延出されたピストンロッドと、前記ピストンロッドのストロークによって前記シリンダから前記リザーバに作動液を流通させる通路と、を備え、
前記通路には、前記シリンダ室内の作動液が前記リザーバに向けて流出するのを許す逆止弁と、該逆止弁の下流側に接続された小径ポートと、該小径ポートの下流側に接続され前記リザーバに開口する前記小径ポートより大径の大径ポートと、を有し、
前記小径ポートから前記大径ポートに作動液を流すことにより作動液を減速し、前記小径ポートと前記大径ポートとは、偏心して配置され
ることにより、前記大径ポートから前記リザーバ内に流入する作動液を整流させることを特徴とする。
また、作動液が封入されたシリンダと、前記シリンダの外周に設けられた外筒と、前記シリンダと前記外筒との間に形成されて作動液及びガスが封入されたリザーバと、前記シリンダに挿入されたピストンと、前記ピストンに連結されて前記シリンダの外部に延出されたピストンロッドと、前記ピストンロッドのストロークによって前記シリンダから前記リザーバに作動液を流通させる通路と、を備え、
前記通路に、前記シリンダ室内の作動液が前記リザーバに向けて流出するのを許す逆止弁と、該逆止弁の下流側に接続される小径ポートと、該小径ポートの下流側に接続され前記リザーバに開口する前記小径ポートより大径の大径ポートと、を有し、前記通路は複数隣り合うように設けられ、前記小径ポートは前記大径ポートに対して偏心して配置され、隣り合う前記小径ポートは互いに離れる方向に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る緩衝器によれば、エアレーションの発生を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る緩衝器の縦断面図である。
【
図2】
図1に示す緩衝器の要部を拡大して示す縦断面図である。
【
図3】
図1に示す緩衝器の出口通路及び弁室の横断面図である。
【
図4】
図1に示す緩衝器のロッドガイドのリザーバ側端面を示す図である。
【
図5】
図1に示す緩衝器の変形例のロッドガイドのリザーバ側端面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示す緩衝器1は、鉄道車両の横揺れ制振用のダンパであり、略水平方向に設置されて横向きで使用されるものである。以下の説明では、設置した状態において、ピストンロッド10に対し上となる部分を上部、下となる部分を下部として説明する。
緩衝器1は、シリンダ2の外周に、円筒状の外筒3が同心に設けられ、これらの間に環状のリザーバ4が形成された二重筒構造となっている。シリンダ2及び外筒3の一端部には、端部プレート5及びベース部材6が設けられ、他端部には、端部プレート7及びロッドガイド8が設けられている。一方の端部プレート5は、外筒3の一端側に溶接されて固定されている。この端部プレート5に、ベース部材6、シリンダ2及びロッドガイド8を順に嵌合し、他方の端部プレート7を外筒3の端部にねじ込むことのより、これらを固定している。
【0012】
シリンダ2内には、ピストン9が摺動可能に挿入され、ピストン9によってシリンダ2内がシリンダ室2A、2Bの2室に区画されている。ピストン9には、ピストンロッド10の一端部がナット11によって連結され、ピストンロッド10の他端側は、ロッドガイド8及び端部プレート7に摺動可能かつ液密的に挿通されて外部に延出している。ロッドガイド8及び端部プレート7と、ピストンロッド10との間は、オイルシール12、13、14によってシールされている。シリンダ2内には、作動液である油液が満たされ、リザーバ4内には、油液及びガスが封入されている。
【0013】
ベース部材6には、シリンダ室2Bとリザーバ4とを連通する通路15が形成され、通路15には、リザーバ4側からシリンダ下室2B側への油液の流通のみを許容する逆止弁16が設けられている。通路15は、リザーバ4の下部で開口し、リザーバ4内でシリンダ2の軸方向に沿って延びる管路17を通してリザーバ4に接続している。
【0014】
ピストン9には、シリンダ室2A、2B間を連通する通路18が設けられている。また、ピストン9には、通路18のシリンダ室2B側からシリンダ室2A側への油液の流通のみを許容する逆止弁19が設けられている。
【0015】
ロッドガイド8には、シリンダ室2Aとリザーバ4とを連通する通路20が設けられている。通路20は、軸方向通路21と、環状通路22と、弁室23と、出口通路24とから構成されている。軸方向通路21は、一端がシリンダ室2Aの上部に開口し、シリンダ2の軸方向に沿ってオイルシール12のシリンダ2側付近まで延びている。環状通路22は、ロッドガイド8の内周面のオイルシール12のシリンダ2側付近に設けられた内周溝と、ピストンロッド10の外周面との間に形成され、上端部が軸方向通路21に連通している。弁室23は、ロッドガイド8の下部に設けられ、環状通路22の下端部に連通している。出口通路24は、一端部が弁室23の側部に開口し、シリンダ2の軸方向に沿って延びて他端部がリザーバ4の下部に開口している。このように、軸方向通路21の一端をシリンダ室2Aの上部に形成したので、組み付けの際にシリンダ室2A内にエアが混入した場合であっても、軸方向通路21の開口から排出することができる。なお、軸方向通路21の一端は、シリンダ室2Aの下部に形成してもよい。
【0016】
図2に示すように、弁室23には、環状通路22側(すなわち、シリンダ室2A側)の油液の圧力を受けて開弁する逆止弁として機能する減衰弁25が設けられている。減衰弁25には、環状通路22側と出口通路24側とを常時連通するオリフィス26が設けられている。減衰弁25は、弁バネ27のバネ力により、環状通路22と弁室23とを連通するポート28を閉じ、シリンダ室2A側の油液の圧力を受けて弁バネ27のバネ力に抗して開弁する。
【0017】
出口通路24は、ロッドガイド8のシリンダ2側端部においてリザーバ4内に開口する大径ポート24Aと、大径ポート24Aの上流側に接続して減衰弁25の下流側であって弁室23内に開口する大径ポートよりも小径の小径ポート24Bとで構成されている。大径ポート24Aと小径ポート24Bとは、互いに偏心して配置されている。これにより、減衰弁25が開弁して小径ポート24Bから大径ポート24Aに油液が流れる際、油液は、大径ポート内で螺旋状に旋回しながらリザーバ4側に向う。小径ポート24B及び大径ポート24Aの軸方向長さは、適宜設定することができるが、大径ポート24Aは、小径ポート24Bから流出する油液の流れが螺旋状に旋回できるように、充分にシリンダ2の軸方向に長くすることが望ましい。出口通路24は、1つ、又は、環状のリザーバ4の円周方向に沿って複数配置することができるが、本実施形態では、
図3及び
図4に示すように、円周方向に沿って3つ配置されている。そして、中央の出口通路24の小径ポート24Bは、大径ポート24Aに対して上方に偏心して配置され、両側の出口通路24の小径ポート24Bは、大径ポート24Aに対して上方で互いに離れる方向に偏心して配置されている。大径ポート24A及び小径ポート24Bの流路面積は、リザーバ4に流出する油液の流速を充分小さくするため、充分大きく設定されている。
【0018】
以上のように構成した本実施形態の作用について次に説明する。
ピストンロッド10の伸び行程時には、シリンダ2内のピストン9の移動により、ピストン9の逆止弁19が閉じ、シリンダ室2A内の油液が加圧されて、ロッドガイド8の通路20を通ってリザーバ4に流れる。また、ベース部材6の逆止弁16が開いて、油液がリザーバ4からシリンダ室2Bに流れる。
【0019】
また、ピストンロッド10の縮み行程時には、シリンダ2内のピストン9の移動により、ピストン9の逆止弁19が開き、ベース部材6の逆止弁16が閉じて、ピストンロッド10がシリンダ2内に侵入した分の油液がシリンダ室2Aから通路20を通ってリザーバ4に流れる。
【0020】
これにより、ピストンロッド10の伸縮行程時共に、油液がシリンダ室2Aから通路20を通ってリザーバ4に流れる際に、減衰弁23によって生じる流通抵抗により、ピストンロッド10のストロークに対して減衰力が発生する。減衰弁23の開弁前(ピストン速度低速域)においては、油液が減衰弁23のオリフィス26を流通する際の抵抗により、ピストン速度の2乗にほぼ比例するオリフィス特性の減衰力が発生する。減衰弁23の開弁後(ピストン速度高速域)においては、その開度に応じて、ピストン速度にほぼ比例するバルブ特性の減衰力が発生する。
【0021】
このとき、ベース部材6側では、管路17を通してリザーバ4の下部から油液を吸込み、シリンダ室2Bに流通させるので、リザーバ4内の上部のガスをシリンダ室2B内に吸込みにくい。また、ロッドガイド8側では、通路20の軸方向通路21により、シリンダ室2Aの上部から油液を吸込み、出口通路24からリザーバ4の下部に流通させるので、シリンダ2内の油液に気泡(ガス)が混入した場合、シリンダ室2Aの上部に移動した気泡を、通路20を通してリザーバ4に戻すことができ、エアレーションの発生を抑制することができる。
【0022】
シリンダ室2Aから通路20によって吸込まれ、減衰弁25を介して出口通路24からリザーバ4に流入する油液は、出口通路24の断面積の小さい小径ポート24Bから断面積の大きい大径ポート24Aに流れることにより、減速される。また、小径ポート24Bと大径ポート24Aとが偏心して配置されていることにより、小径ポート24Bから大径ポート24Aに流れる油液は、螺旋状に旋回して整流される。これにより、大径ポート24Aからリザーバ4内に流入する油液は、減速、整流されて噴流となりにくく、リザーバ4内の油液が撹拌されにくいので、ガスの巻込みによるエアレーションの発生を抑制することができる。
【0023】
出口通路24は、環状のリザーバ4の円周方向に沿って複数配置することにより、リザーバ4の径方向の幅が小さい場合でも、充分な流路面積を確保することができる。また、
図4に示すように、3つの出口通路24のうち、中央の出口通路24の小径ポート24Bを大径ポート24Aに対して上方に偏心して配置し、両側の出口通路24の小径ポート24Bを大径ポート24Aに対して上方で互いに離れる方向に偏心して配置することにより、3つの出口通路24から流出する油液の干渉によって整流効果を高めることができ、ガスの巻込みによるエアレーションの発生を効果的に抑制することができる。
【0024】
上記実施形態の変形例として、出口通路24を2つ配置した例を
図5に示す。
図5に示す例では、小径ポート24Bは、大径ポート24Aに対して、図中上方に偏心して配置されている。この場合、上記実施の形態では
図4に示すように、大径ポート24Aに対する小径ポート24Bの位置を3つそれぞれ異ならせているのと比して2つとも同位置としたので、ロッドガイド8に出口通路24を作ることが容易になり、加工の作業性が向上する。出口通路24は、1つ、あるいは、4つ以上配置してもよい。上記実施形態では、出口通路24の大径ポート24Aは、径が一定になっているが、大径ポート24Aは、
図2中に仮想線で示すように、偏心配置された小径ポート24と同径の基部からリザーバ4側の開口部に向って拡径する略テーパ状としてもよい。さらに、出口通路24は、円形の通路を複数配置する代りに、これらを円周方向に結合した長穴形状としてもよい。但し、この場合、油液の螺旋状の旋回による整流効果が低下することになる。
【0025】
上記実施形態では、ピストンロッド10の伸縮行程時共に、油液が通路20を通してシリンダ室2Aからリザーバ4へ一方向に流通する、いわゆる、ユニフロータイプの緩衝器に本発明を適用した場合について説明しているが、本発明は、これに限らず、シリンダ側からリザーバ側に油液を流通させる通路を有するものであれば、他のタイプの緩衝器にも同様に適用することができる。また、略水平方向に設置されて横向きで使用される緩衝器に限らず、縦向きや傾斜させて使用される緩衝器にも適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1…緩衝器、2…シリンダ、3…外筒、4…リザーバ、9…ピストン、10…ピストンロッド、20…通路、24A…大径ポート、24B…小径ポート