(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の酒田みらい橋は歩道橋であり、道路橋や鉄道橋のように大きな荷重が加わる橋梁に同様の方法でセグメントを製作することは難しく、ウェブと上床版や下床版とを別工程で製作する必要が生じる場合がある。このような場合には、仮にウェブや上床版に鉄筋を用いないように設計しようとすると、両者の接合強度が不足してしまう。
【0007】
また、特許文献1や特許文献2のような従来の接合構造では、ウェブと上床版との接合に鉄筋や鉄骨ジベルなどの鋼材を用いている。そのため、仮に接合強度を確保するために従来の接合技術を適用すると、ウェブと上床版との接合部に鋼材が使用されてしまう。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、鋼材を用いることなくウェブと上床版とを十分な強度をもって接合することのできる橋桁を提供することをその主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一側面によれば、複数のウェブ(5)と当該複数のウェブの上部を連結する上床版(6)とを少なくとも有する橋桁(4)であって、前記ウェブおよび前記上床版はともに無筋コンクリートからなり、各ウェブの上面および前記上床版の下面の少なくとも一方に形成された凹部(33)と、各ウェブの上面および前記上床版の下面の少なくとも他方に形成され、前記凹部(33)に対して補完形状をなす凸部(34)とからなるせん断キー(32)を有し、鉛直に破断した少なくとも1つ断面(
図8)において、前記凹部がその底に向けて末広がりのあり溝形状を呈することにより、前記ウェブおよび前記上床版が互いに一体接合される構成とする。
【0010】
この構成によれば、凹部があり溝形状を呈し、凸部が凹部に対して補完形状をなすことにより、鋼材を用いることなく、ウェブと上床版とを十分な強度をもって接合することができる。
【0011】
また、本発明の一側面によれば、前記各ウェブの上面には複数の前記凹部(33)が形成され、前記上床版の下面には複数の前記凸部(34)が形成される構成とすることができる。
【0012】
この構成によれば、橋軸方向に互いに対向する面が凹部および凸部に複数形成されるため、せん断キーの橋軸方向のせん断耐力を向上させることができる。
【0013】
また、本発明の一側面によれば、前記複数の凹部(33)は、橋軸方向に沿う鉛直断面(
図8)において、底に向けて末広がりのあり溝形状を呈し、橋軸直角方向に沿う鉛直断面において(
図2)、底に向けて狭まるテーパー形状を呈する構成とすることができる。
【0014】
この構成によれば、ウェブの製作を容易にし、かつ品質を向上させることができる。すなわち、ウェブを倒した状態でコンクリートを打設するようにすると、凹部の型枠の下面(橋軸直角方向に沿う鉛直断面の一側面)に空気が溜まり難くなるため、品質を向上させ、かつコンクリートの打設を容易にできる。また、ウェブにプレテンション方式でウェブにプレストレスを付与する場合には、ウェブを倒した状態でコンクリートを打設することにより、緊張材を水平方向に設置・緊張すればよいため、施工が容易である。
【0015】
また、本発明の一側面によれば、前記各ウェブ(5)には、橋軸方向に延在する非金属素材からなる緊張材(35)が前記複数の凹部に突入した前記複数の凸部を貫通する態様で設けられる構成とすることができる。
【0016】
この構成によれば、ウェブと上床版とを引き離す向きの力が作用したときにも、凹部の開口を広げる向きにウェブが変形することが緊張材によって抑制されるため、この向きの力に対する両者の接合強度を向上させることができる。
【0017】
また、本発明の一側面によれば、前記上床版の下面には橋軸直角方向に延在するリブ(26)が一体形成され、前記凹部(34)は、橋軸方向において前記リブと重ならない位置に配置される構成とすることができる。
【0018】
凹部と凸部との接合部には、僅かな隙間が生じる虞や他の部位に比べて強度が低くなる虞があるが、この構成によれば、このようなせん断キーが潜在的に有する悪影響が及ばないようにリブを配置することができ、橋桁の信頼性を向上させることができる。
【0019】
また、本発明の一側面によれば、互いに隣接する少なくとも2つのウェブ(5)の下部を連結する無筋コンクリートからなる下床版(7)を更に有し、前記下床版は、緊張力を付与された非金属素材からなる緊張材(31)の圧縮力によって前記ウェブ(5)に接合される構成とすることができる。
【0020】
この構成によれば、鋼材を用いることなく、ウェブの下部を連結する下床版を橋桁に具備させることができる。また、ウェブの製作とは別工程で下床版を製作するため、橋桁の断面形状における設計自由度を高めることができる。
【0021】
また、本発明の一側面によれば、互いに隣接する少なくとも2つのウェブ(5)の下部を連結する無筋コンクリートからなる下床版(7)を更に有し、前記複数のウェブ、前記上床版および前記下床版のそれぞれの一部(15、16、17)を含む複数のセグメント(14)を橋軸方向に連結してなる構成とすることができる。
【0022】
この構成によれば、橋桁の構築現場でコンクリートの打設作業を行う必要がないため、品質管理が難しい特殊なコンクリートを橋桁に用いることが容易になる。
【0023】
また、本発明の一側面によれば、前記上床版(6)と前記下床版(7)との間に配置される非金属素材からなる外ケーブル(11)を更に有する構成とすることができる。
【0024】
この構成によれば、橋桁がコンクリート製であるために架設径間の端部で大きくなるせん断力を、外ケーブルがない場合に比べて効果的に小さくすることができる。また、外ケーブルにも非金属素材を用いることにより、橋桁の耐久性およびメンテナンス容易性の低下を抑制できる。
【0025】
また、本発明の一側面によれば、前記上床版の橋軸直角方向の両端部に接合された無筋コンクリートからなる一対の壁高欄(8)を更に有し、前記壁高欄は、緊張力を付与された非金属素材からなる緊張材(38)の圧縮力によって前記上床版に接合される構成とすることができる。
【0026】
この構成によれば、鋼材を用いることなく、無筋コンクリートからなる壁高欄を橋桁が具備する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0027】
このように、本発明によれば、鋼材を用いることなくウェブと上床版とを十分な強度をもって接合することのできる橋桁を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら本発明に係る橋桁4を適用した橋梁1の実施の形態について説明する。
【0030】
図1に示すように、橋梁1は、道路橋や鉄道橋として利用されるものであり、2つの橋台2(図には右側の橋台2のみ示す。)と、両橋台2間に構築された1つ以上の橋脚3とに間に架け渡されて連続する連続桁となっている。なお、
図1には、右側の橋台2からこれに隣接する橋脚3までの1スパンを中心にして概略側面を示している。
【0031】
図2および
図3に併せて示すように、橋桁4は、概ね鉛直に延在する一対のウェブ5と、一対のウェブ5の上端を連結するとともに、各ウェブ5から張り出すように構築された上床版6と、一対のウェブ5の下端を連結するように構築された下床版7と、上床版6の橋軸直角方向の両端に設けられた一対の壁高欄8とを主構成要素として含んでいる。ここでは橋桁4は、一対のウェブ5、上床版6および下床版7によって囲まれる内部空間4iが矩形を呈する箱状断面形状をなす単一箱桁橋として構成されている。
【0032】
これら一対のウェブ5、上床版6、下床版7および壁高欄8は、同一配合の高強度コンクリートから形成されており、さらにプレストレスを付与したプレストレスト無筋コンクリートとされている。高強度コンクリートとしては、設計基準強度80N/mm
2のコンクリートに鋼繊維を混入して補強し、高いせん断強度特性を有するものなどを用いるとよい。なお、本願発明者らは、開発したこのような高強度繊維補強コンクリートを用いた梁のせん断耐力実験を実施し、鋼繊維を混入することにより、せん断耐力が2倍になること、およびプレストレスを付与することによりせん断耐力がさらに1.5倍になることを確認している。
【0033】
橋桁4の内部空間4iには複数の外ケーブル11が張設されている。これら外ケーブル11は、橋台2および橋脚3の直上部分である柱頭部9で最も高い位置に配置され(
図1参照)、橋桁4の中間部に設けられた2つの隔壁10へ向けて斜め下方に延在し、両隔壁10間で最も低い位置を橋桁4と平行に延在するように張設されている。なお、隔壁10には点検用の通路孔10aが形成されている。これら外ケーブル11は、互いに平行に左右に4本ずつ対称に配置され、緊張力が加わった状態で両端(
図1には一端側のみを示す)がそれぞれ柱頭部9に定着される。このように、斜めに設置された外ケーブル11に引張のプレストレスが導入されることで、橋桁4のせん断耐力および曲げ耐力が向上する。
【0034】
外ケーブル11としては、例えばパラ系全芳香族ポリアミド繊維(以下、アラミド繊維と称する;例えば、帝人社製のテクノーラ(登録商標))を繊維強化材としたFRPケーブルの束を用いることができる。FRPケーブルや後述するアラミドロッドのような非金属素材からなる緊張材21、31、35〜38は、鉄筋に比べて高い引張強度を有し、軽く、錆びないなどといった優れた特性を持っている。
【0035】
図1および
図4に示すように、橋梁1は、橋軸方向に所定の寸法を有する複数のセグメント14を橋軸方向に並べて連結することで構成されている。
図4および
図5に示すように、各セグメント14は、鉛直に延在する一対のウェブ部15と、一対のウェブ部15の上端を連結するように水平に延在し、上床版6の橋軸方向の一部を構成する上床版部16と、一対のウェブ部15の下端を連結するように水平に延在し、下床版7の橋軸方向の一部を構成する下床版部17と有している。なお、一対の壁高欄8は、ここでは複数のセグメント14の連結後に設置されるため、セグメント14の要素には入っていない。
【0036】
各ウェブ部15は、高さ方向の中位からその上辺及び下辺に向けてその橋軸方向長さが徐々に増大するバタフライ(蝶)形状を呈する板状部18と、板状部18の下端に板状部18よりも厚く(橋軸直角方向の寸法について)形成された下増厚部19と、板状部18の上端に板上部よりも厚く形成された上増厚部20とから構成されている。ウェブ部15には、斜めに延在する非金属素材からなる緊張材21が、セグメント14が配置される位置に応じて適切な向きに適切な本数配置されている。
図4には、
図1で示す橋桁4の右側部分(橋台2寄り)に配置されるセグメント14を示しており、緊張材21が右上から左下へ延びるように配置されている。このように緊張材21が配置されることにより、セグメント14のせん断耐力が向上する。
【0037】
緊張材21としては、例えばアラミド繊維を所望の形状(主に棒状)にして硬化性を有する結合材によって固めた所謂アラミドロッドを用いることができる。上記したようにアラミドロッドのような非金属素材からなる緊張材21は、上記したような優れた特性を持つ一方、アラミド繊維が平滑な表面を有しており、コンクリートやグラウトとの付着が期待できないことから、組ひも状に編んで表面に凹凸を形成したり異形状に形成したりして、付着を担保できるようにするとよい。以下で述べる各所に配置する非金属素材からなる緊張材21、31、35〜38については、同様のものを用いることができる。
【0038】
下増厚部19では、隣接するセグメント14との接合面積が比較的大きくなるように、橋軸方向の両端の高さが橋軸方向の中間部の高さよりも大きく形成されている。上増厚部20は、下増厚部19の中間部と同程度の高さ寸法を有しており、上増厚部20の高さ寸法に上床版部16の厚さを加えた寸法が下増厚部19の両端部の高さと同程度となっている。
【0039】
下増厚部19の正面側の端面(
図5)には、横方向に延在するキー溝22が上下方向に3段形成されている。一方、下増厚部19の背面側の端面(
図4の右側端面)には、横方向に延在し、隣接するセグメント14の正面に形成されたキー溝22に突入するキー突条23が上下方向に3段形成されている。上増厚部20の正面側の端面(
図5)には、横方向に延在するキー突条24が上下方向に2段形成されており、背面側の端面(
図4の右側端面)には、横方向に延在し、隣接するセグメント14の正面に形成されたキー突条24を受容するキー溝25が上下方向に2段形成されている。
【0040】
上床版部16は、
図4および
図5に示すように、板状を呈しており、橋軸方向の中間位置の下面には、橋軸直角方向に延在する2つのリブ26が一体形成されている。上床版部16の正面(
図5)には、横長の凸部27が橋軸直角方向に複数(ここでは7つ)形成されている。一方、上床版部16の背面には、
図6に示すように、隣接するセグメント14の正面に形成された凸部27を受容する横長の凹部28が橋軸直角方向に凸部27と同数形成されている。
【0041】
図4および
図6に示すように、互いに隣接する2つのセグメント14は、凸部27およびキー突条23、24が対応する凹部28およびキー溝22、25に突入する範囲で設定された所定の間隙Lをもって配置されており、この隙間に無収縮モルタル29が充填されることで互いに密接している。
【0042】
図4および
図5に示すように、下床版部17は、ウェブ部15の下増厚部19の高さよりも小さな厚さを有する平板状に形成されている。下床版部17にも正面(
図5)には、横長の凸部27が橋軸直角方向に複数(ここでは3つ)形成され、図示は省略するが、背面には、隣接するセグメント14の正面に形成された凸部27を受容する横長の凹部28が橋軸直角方向に凸部27と同数形成されている。
【0043】
図7に示すように、ウェブ部15の下増厚部19の内面(橋桁4の中心に向く面)には、鉛直方向に延在する溝および凸状が交互に現れるように橋軸方向に複数形成された凹凸面30が形成されている。下床版部17の側面はこの凹凸面30に対して補完形状をなしている。ウェブ部15の製作手順については後述するが、下床版部17は、一対のウェブ部15を所定位置に配置した状態で高強度コンクリートの打設が行われることにより、ウェブ部15の下増厚部19の内面に密接するようにウェブ部15と一体に形成される。
【0044】
そして、下床版部17の高さ方向の中央には、橋軸直角方向に延在する非金属素材からなる緊張材31が、一方のウェブ部15の外側面から他方のウェブ部15の外側面に至るように、橋軸方向に所定の間隔をもって複数本(ここでは5本)配置されている。緊張材31はここでは下床版部17に対してプレテンション方式で設置される。具体的には、一対のウェブ部15の各下増厚部19に緊張材31を挿通させる図示しないシースを設置しておき、一対のウェブ部15を所定位置に配置した状態で緊張材31を配置・緊張し、この状態で下床版部17の高強度コンクリートを打設する。ウェブ部15に対してはシースにグラウトを注入することで緊張材31を定着させる。つまり、ウェブ部15は、緊張材31の定着部として利用され、所定の定着長が確保されるように下増厚部19の幅寸法が設定される。
【0045】
図2および
図8に示すように、各ウェブ部15と上床版部16とは、橋軸方向に配置された複数(ここでは4つ)のせん断キー32によって互いに接合している。これらのせん断キー32は、上床版部16に一体形成されたリブ26と重ならない位置に配置されている。各せん断キー32は、ウェブ部15の上面に形成された凹部33と、上床版部16の下面に形成され、凹部33に対して補完形状をなす凸部34とから構成される。本実施形態では、先に製作するウェブ部15に凹部33を形成しており、後から上床版部16を製作する際に、凹部33に流し込むように高強度コンクリートを打設することによって凹部33に密接した補完形状をなす凸部34が形成される。
【0046】
図9にも併せて示すように、先に形成される凹部33は、平面視で矩形の開口を形成しており、開口縁から下方へ延びる4つの側面33a、33bを有している。橋軸直角方向の断面(
図2)においては、それぞれ橋桁4の内方および外方に向いて互いに対向する2つの側面33aが、凹部33の底に向けて狭まるテーパー形状を呈している。一方、橋軸方向の断面(
図8)においては、それぞれ橋桁4の前方および後方に向いて互いに対向する2つの側面33bが、凹部33の底に向けて末広がりのあり溝形状を呈している。
【0047】
また、
図2に示すように、各ウェブ5には、橋軸方向に延在する非金属素材からなる緊張材35が上増厚部20および下増厚部19に一本ずつ配置されている。すなわち、箱型断面の四隅に緊張材35が配置されている。緊張材35はここでは、ポストテンション方式で設置されている。具体的には、一対のウェブ部15には緊張材35を挿通させるシースを設置しておき、一対のウェブ部15に下床版部17および上床版部16をそれぞれ一体に構築した後にシース内に緊張材35を配置・緊張し、シース内にグラウトを注入して緊張材35を定着させる。
【0048】
ここで、上増厚部20に配置される緊張材35は、複数の凹部33に突入した複数の凸部34を貫通する態様で設けられている。したがって、ウェブ部15のみを構築した状態では、
図9において実線で示す緊張材35と同様に、シースも凹部33の内部を通過するように露出した状態となる。
【0049】
また、
図4および
図8に示すように、上床版部16にも、板状部18の高さ方向の中央およびリブ26の中央に、橋軸直角方向に延在する非金属素材からなる緊張材36、37が複数配置されている。ここでは上床版部16の板状部18に、等間隔に8本の緊張材36が配置され、各リブ26に1本の緊張材37が配置されている。本実施形態では、これらの緊張材36、37のうち、板状部18に配置される8本の緊張材36がプレテンション方式で設置され、リブ26に配置される2本の緊張材37がポストテンション方式で設置される。そのため、ウェブ部15の上増厚部20にも、下増厚部19と同様に緊張材37を挿通させるシースが予め設置されており、上床版部16の高強度コンクリートを打設する前に、これらのシースに接続するようにリブ26の型枠支保工47(
図13)の内部にシースを設置する。
【0050】
そして、ウェブ部15の上面に形成された凹部33は、上記したように2本のリブ26と重ならない位置であって、さらに板状部18に配置される8本の緊張材36とも概ね重ならない位置に配置されている。これにより、上床版部16の高強度コンクリートを打設する際に、凹部33内の高強度コンクリートの締め固めを十分行うことができ、密度の高い凸部34を形成してせん断キー32の信頼性(設計強度)を担保できる。
【0051】
図3および
図10に示すように、壁高欄8は、複数のセグメント14の連結後に設置されるため、各セグメント14の橋軸方向長さよりも長く形成されている。壁高欄8は、外側および内側の2列に配置された非金属素材からなる複数の緊張材38によって上床版6に接合されている。つまり、ポストテンション方式で緊張力を付与された緊張材38の圧縮力によって壁高欄8が上床版6に接合されている。具体的には、壁高欄8および上床版6の緊張材38が設置される位置に予めシースを設けておき、上床版6の上面に無収縮モルタル39を敷設して壁高欄8を設置した後に、緊張材38をシースに挿通する。その後、緊張材38に緊張力を付与した状態でシースにグラウトを注入することで、緊張材38を壁高欄8および上床版6に定着させる。なお、壁高欄8の下面には段差が形成されており、上床版6の上面にもこれに対応する段差が形成されている。壁高欄8の外面には、厚さが比較的薄くされた肉抜き部8aが、外側の列に緊張材38が配置されない部分に形成されており、これにより、壁高欄8の軽量化と凹み模様による外観意匠の向上が図られている。
【0052】
次に、
図11〜
図13を順次参照して、実施形態に係る橋桁4の構築方法の概要について説明する。
【0053】
まず、工場などでプレキャストコンクリート製のウェブ部15を製作する手順について
図11を参照しながら説明する。本実施形態では、ウェブ部15にプレテンション方式のプレストレスを付与するため、ウェブ部15を横向きに倒した状態で製作する。(A)に示すように、一対の反力架台41(図には一方のみを示す。)の間にウェブ部15の型枠42を組み立て、必要なシースを適切な位置に配置するとともに、型枠42および反力架台41を貫通させるように複数の緊張材21を配置する。各緊張材21の両端部は、鋼製の定着体43を用いて反力架台41に係止させる。定着体43は、緊張材21を定着させる筒状の定着体本体44と、定着体本体44の外周面に形成された雄ねじに螺合する定着体ナット45とから構成されている。
【0054】
緊張材21を定着体本体44に定着させた後、定着体ナット45を締め付けることで各緊張材21に所定の緊張力(引張力)を加える。次に、(B)に示すように、緊張材21に緊張力が加えられた状態で、ウェブ部15の高強度コンクリートを打設する。ここで、凹部33の上下に位置する対向面が底に向けて狭まるテーパー形状となっていることから、凹部33の型枠42の下面は、ウェブ部15の上面を形成する型枠42から離れるにつれて上方に傾斜している。したがって、型枠42下に気泡が溜まりにくく、凹部33の品質が確保される。
【0055】
高強度コンクリートが硬化した後、(C)に示すように、型枠42と反力架台41との間で緊張材21を切断する。これにより、緊張材21が圧縮力を発生し、圧縮のプレストレスが付与されたウェブ部15の製作が完了する。その後、(D)に示すように、反力架台41から定着体43を取り外し、切断した側から緊張材21を叩いて無収縮モルタル46を除去することで、定着体43を次に製作するウェブ部15に転用できる。
【0056】
次に、
図12を参照して下床版部17の製作手順について説明する。まず、製作した一対のウェブ部15を所定位置に立設し、下床版部17の図示しない妻型枠を組み立て、5本のシースを適切な位置に設置して下床版部17の高強度コンクリートを打設する。高強度コンクリートの硬化後、各シースに緊張材31を挿通し、定着体43および反力架台41を用いて各緊張材31に緊張力を付与し、その状態のままシース内にグラウトを注入する。グラウトが硬化して緊張材31と一対のウェブ部15および下床版部17とが定着した後、ウェブ部15と反力架台41との間で緊張材31を切断する。これにより、緊張材31が圧縮力を発生し、一対のウェブ部15および下床版部17に圧縮のプレストレスが付与され、3つの部材が十分な接合強度をもって一体となる。
【0057】
最後に、
図13を参照して上床版部16の製作手順を説明する。一対のウェブ部15の間および両ウェブ部15の側方に型枠支保工47を組み立て、各リブ26にシースを設置するとともに、板状部分に8本の緊張材36を配置する。各緊張材36には、図示外の反力架台41および定着体43を用いて緊張力を加え、この状態で上床版部16の高強度コンクリートを打設する。高強度コンクリートが硬化した後、同様に緊張材36を切断して上床版部16の板状部18にプレストレスを付与する。その後、リブ26に設けたシース内に緊張材37を挿通し、上記したポストテンションの要領で、リブ26にプレストレスを付与する。また、箱型断面の四隅すなわち各ウェブ部15の下増厚部19および上増厚部20に緊張材35によって橋軸方向のプレストレスを付与し、セグメント14の製作が完了する。なお、各ウェブ部15と上床版部16との接合は、橋軸方向に配置した4つのせん断キー32によって主に行われる。
【0058】
このようにして一体に形成されたセグメント14を必要な数だけ製作した後、架設径間に設置した図示しない支保工上に複数のセグメント14を所定の間隙Lをもって橋軸方向に配置し、隙間に無収縮モルタル29(
図4)を充填して互いに密接させる。その後、
図1に示すように外ケーブル11を張り、外ケーブル11に緊張力を加えて全てのセグメント14およびこれらの両側の柱頭部9を連結することで橋桁4の架設が完了する。さらにその後、橋桁4の両側部に一対の壁高欄8を設置して橋桁4が完成する。
【0059】
このように構成された橋桁4は、道路橋は鉄道橋として利用されることにより、交通荷重(輪荷重)が上床版6に曲げモーメントを発生させる。そのため、
図2に示すように、ウェブ5と上床版6との接合部にはウェブ5と下床版7との接合部の強度よりも高い強度が要求される。これに対し、本実施形態では、
図8に示すようにウェブ5の上面に形成した凹部33を橋軸方向の鉛直断面において2つの側面33bが底に向けて末広がりとなるあり溝形状としたことにより、上床版6の下面に形成した凸部34が上床版6をウェブ5から引き離す方向の力に対しても抵抗する。このようにしてウェブ5と上床版6との接合強度を十分大きくしたことにより、鋼材を用いないウェブ5と上床版6との接合が可能になる。
【0060】
本実施形態では、各ウェブ5の上面に複数の凹部33を形成し、上床版6の下面に複数の凸部34を形成しており、これにより、橋軸方向に互いに対向する2つの側面33bが各凹部33に形成され、せん断キー32の橋軸方向のせん断耐力が向上している。また、各凹部33を、
図8に示す橋軸方向に沿う鉛直断面において2つの側面33bが底に向けて末広がりとなるあり溝形状とし、
図2に示す橋軸直角方向に沿う鉛直断面において2つの側面33aが底に向けて狭まるテーパー形状としたことにより、
図11のようにウェブ5(ウェブ部15)を横向きに倒した状態で製作する際に、凹部33の型枠42の下面に空気が溜まり難くなり、凹部33の品質が向上するとともに、緊張材21が水平配置されて緊張力の付加が容易になる。
【0061】
本実施形態では、
図9に示すように、橋軸方向に延在する非金属素材からなる緊張材35を凹部33に突入した凸部34のすべてを貫通する態様で各ウェブ5(ウェブ部15)に設けている。これにより、ウェブ5と上床版6(上床版部16)とを引き離す向きの力が作用したときにも、凹部33の開口を広げる向きにウェブ5が変形することが緊張材35によって抑制され、この向きの力に対する両者の接合強度が向上する。
【0062】
せん断キー32を構成する凹部33と凸部34との接合部には、僅かな隙間が生じる虞や他の部位に比べて強度が低くなる虞がある。これに対し本実施形態では、
図8に示すように、上床版6の下面に橋軸直角方向に延在するように一体形成したリブ26を、橋軸方向において凹部33と重ならない位置に配置している。これにより、せん断キー32が潜在的に有する悪影響がリブ26に及ぶことが防止され、橋桁4の信頼性が向上する。
【0063】
本実施形態では、
図2に示すように、緊張力を付与された緊張材31の圧縮力によってウェブ5に接合される下床版7により、一対のウェブ5の下部が連結される構成としている。これにより、鋼材を用いることなく、下床版7を橋桁4に具備させることが可能になる。また、ウェブ5の製作とは別工程で下床版7(下床版部17)を製作するため、橋桁4の断面形状における設計自由度が高まる。
【0064】
また、本実施形態では、
図4に併せて示すように、一対のウェブ部15、上床版部16および下床版部17を含む複数のセグメント14を橋軸方向に連結して橋桁4を構成させており、これにより、橋桁4の構築現場で上床版6などのコンクリートの打設作業がなく、品質管理が難しい特殊なコンクリートの利用が容易になる。
【0065】
橋桁4はコンクリート製であるために架設径間の端部でせん断力が大きくなる。これに対し本実施形態では、
図1〜
図3に示すように、上床版6と下床版7との間に非金属素材からなる外ケーブル11を配置している。これにより、架設径間の端部のせん断力が小さくなるとともに、橋桁4の耐久性およびメンテナンス容易性が改善する。
【0066】
加えて、本実施形態では、
図3に示すように、上床版6の橋軸直角方向の両端部に接合される一対の壁高欄8を、無筋コンクリートから形成し、緊張力が付与された緊張材38の圧縮力によって上床版6に接合している。これにより、鋼材を用いない壁高欄8の設置が可能になる。
【0067】
以上で具体的実施形態についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、橋桁4を単一箱桁橋として構成したが、箱形断面部を2つ以上有する多主桁箱桁橋、箱形断面部が連続する多重箱桁橋などとして構成してもよい。また、上記実施形態では、橋桁4を、3支点間以上の多支間(径間)にわたって連続する多径間連続橋として構成したが、2支点間を連絡する単純桁橋として構成してもよい。
【0068】
また上記実施形態では、一対のウェブ5が概ね鉛直に延在し、上床版6が一対のウェブ5から側方へ張り出すように橋桁4の断面形状を設定しているが、一対のウェブ5が下床版7の側縁から上方へ向けて開くように若干の傾斜角度をもって上床版6に至るような断面形状としたり、上床版6が一対のウェブ5から側方へ張り出さない断面形状としたりすることも可能である。
【0069】
上記実施形態では、架設径間に支保工を組み立て、その上に複数のセグメント14を橋軸方向に並べて柱頭部9を含めて一体化することで橋桁4を構築しているが、架設径間を跨ぐように橋軸方向に設置した架設用ガーダで各セグメント14を吊り上げ、その状態でセグメント14の接合、セグメント14と柱頭部9との接合、外ケーブル11を用いたプレストレス付与による一体化を行うスパンバイスパン工法で橋桁4を構築してもよい。あるいは、複数のセグメント14を架設径間の直下で連結して主桁を構築し、この主桁をガーダで吊り上げたり、複数のセグメント14から主桁を構成するのではく、支間長に応じた一体物として製作した主桁をガーダで引き上げたりして架設するリフティング工法で橋桁4を構築してもよい。
【0070】
また上記実施形態では、ウェブ5に凹部33を形成し、上床版6に凸部34を形成してせん断キー32を構成しているが、ウェブ5に凸部34を形成し、上床版6に凸部34と補完形状をなす凹部33を形成してせん断キー32を構成してもよい。さらに、凹部33のあり溝形状は、互いに対向する側面33bを傾斜面として構成するものに限られず、段差を形成することで末広がりとなるようにしてもよい。
【0071】
この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、形状、素材など、および手順は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。一方、上記実施形態に示した構造および手順の各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択してもよい。