特許第6223162号(P6223162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6223162ボンド型アンカーの残存引張り力確認方法及びシステム、変位確認方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223162
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】ボンド型アンカーの残存引張り力確認方法及びシステム、変位確認方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 33/00 20060101AFI20171023BHJP
   E02D 5/80 20060101ALI20171023BHJP
   G01L 5/04 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   E02D33/00
   E02D5/80 Z
   G01L5/04 Z
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-255515(P2013-255515)
(22)【出願日】2013年12月10日
(65)【公開番号】特開2015-113615(P2015-113615A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】594135151
【氏名又は名称】一般財団法人ダム技術センター
(73)【特許権者】
【識別番号】391019740
【氏名又は名称】三信建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】川崎 秀明
(72)【発明者】
【氏名】山崎 淳一
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−096562(JP,A)
【文献】 特開2007−023654(JP,A)
【文献】 特開2009−293325(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0201100(US,A1)
【文献】 地盤工学会,グラウンドアンカー設計・施工基準、同解説,社団法人地盤工学会,2001年 1月10日,訂正第3刷,PP.120〜121、式(6.5)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/00〜 37/00
E02D 5/22〜 5/80
G01L 5/00〜 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊張定着後に引張り部にグラウトを充填してテンドンを拘束してなるボンド型アンカーの残存引張り力確認方法であって、前記テンドンに添うように計測用引張り材を張設し、前記引張り材に作用する引張り力を計測する方法において、
引張り部領域において異なる自由長を有するように、複数の計測用引張り材を前記テンドンに添わせて張設する、ことを特徴とするボンド型アンカーの残存引張り力確認方法。
【請求項2】
引張り部領域の全体または一部で無拘束状態となるように前記計測用引張り材を張設する、ことを特徴とする請求項1に記載のボンド型アンカーの残存引張り力確認方法。
【請求項3】
前記計測用引張り材に作用する引張り力を計測し、その計測値に基づいて、ボンド型アンカーの残存引張り力の変化量を求める、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のボンド型アンカーの残存引張り力確認方法。
【請求項4】
前記計測用引張り材に作用する引張り力を計測し、その計測値に基づいて地盤の変化量を算出し、算出した前記地盤の変化量に基づいてボンド型アンカーの残存引張り力の変化量を求める、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のボンド型アンカーの残存引張り力確認方法。
【請求項5】
緊張定着後に引張り部にグラウトを充填してテンドンを拘束してなるボンド型アンカーの残存引張り力確認システムであって、
引張り部領域において異なる自由長を有するように、前記テンドンに添わせて張設された複数の計測用引張り材と、
前記計測用引張り材に作用する荷重を計測するための荷重計測手段と、を具備し、
アンカーの引張り部領域の全体または一部で無拘束状態となるように、前記計測用引張り材が張設されている、ことを特徴とするボンド型アンカーの残存引張り力確認システム。
【請求項6】
緊張定着後に引張り部にグラウトを充填してテンドンを拘束してなるボンド型アンカーが設置された地盤や構造物内の変位を確認する方法であって、引張り部領域において異なる自由長を有するように、複数の計測用引張り材を前記テンドンに添わせて張設し、前記引張り材に作用する引張り力を計測する、ことを特徴とする変位確認方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩盤PS工などとして用いられているボンド型アンカーの残存引張り力確認に関する技術であり、具体的には、計測用の引張り材を添わせて張設し、アンカー設置後に計測用引張り材に作用する引張り力をモニタリングすることにより、ボンド型アンカーの残存引張り力を効率的に計測する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グラウンドアンカーは、作用する引張り力を適当な地盤に伝達する機能をもったシステムで、図1に示すようにアンカー体51、引張り部52、アンカー頭部53から構成される。通常、地表からボーリングを行い、PC鋼材などからなるテンドンの挿入とグラウト注入により、地中の適当な地盤にアンカー体51を造成し、地表部のアンカー頭部53からテンドンを介して引張り力をアンカー体51および地盤に作用させた状態で供用される。この時、引張り部52のテンドンは、グラウトで拘束されておらず、外力の変化などによる地盤の変形に追随できる構造を有している。
供用中のグラウンドアンカーが十分な機能を発揮するためには、作用する引張り力(残存引張り力)を維持する必要があるが、維持管理において図2に示すように荷重計などを用いた引張り力のモニタリングが行われている。このモニタリングにより残存引張り力の増加や減少が確認された場合には、その原因を把握するとともに、再緊張や緊張力緩和、さらには必要に応じて増し打ちなどの対策が実施される。
現在、グラウンドアンカーは、構造物や斜面の安定、掘削地盤の支保などに広く用いられており、構造物の安定では、図3に示すように、ダム、建物の基礎、擁壁や橋脚・鉄塔などに用いられている。
【0003】
一方、引張り力の導入後に引張り部にグラウト注入を行うことにより、引張り部のテンドンの全体または一部を拘束するタイプのグラウンドアンカーは、「ボンド型アンカー」と呼ばれ、岩盤PS工やダムなどの岩盤上に構築された大型構造物の安定に用いられている。このボンド型アンカーは、供用中に地盤の変形がほとんど発生しない岩盤などに用いられることが多いが、一般的なグラウンドアンカーに比べて以下のような特徴を有している。
【0004】
・予めアンカーに引張り力を作用させ、地盤および構造物を締め付けた状態でテンドンを拘束することにより、地山内の荷重変化時に地盤を変形させない機能を有している。
・引張り部(自由長部)テンドンの周囲がグラウトで保護されるため、十分な防食効果が期待できる。これによりテンドンの防食構造を簡易なものにすることができる。また、同等の防食を施した場合は、防食性能がアップする。
・引張り力が作用した状態でテンドンを拘束するため、残存引張り力の変動がほとんどない。
・アンカー頭部に作用する応力を拘束した引張り部に分散させることにより、アンカー頭部に応力が集中することを防ぐことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ボンド型アンカーは、設計で期待する引張り力(設計アンカー力)を予め作用させた上で引張り部をグラウトで拘束することにより、岩盤や構造物を締め付けた状態を保持して安定させるため、一般的には防食性能が優れ、維持管理、特に残存引張り力のモニタリングが不要とされている。しかし、構造物に設計アンカー力以上の外力が作用した場合には、アンカーおよび構造物に変形が生じて残存引張り力が増加する。この現象は、アンカーの防食性能を低下させるとともに、場合によっては引張り材の破断などによりアンカーを破壊する可能性もある。また、想定以上の外力の作用は、構造物の安定度の低下に繋がる。このため、従来は想定する外力に対して十分な余裕を持ったアンカーの設計が行われている。
【0006】
これに対しては、アンカーの残存引張り力のモニタリングを実施することにより、現象を発生とともに把握することができ、適切な対策を実施することができる。また、地盤や構造物内の変位を把握することができれば、地盤や構造物の動きをより的確にとらえることができる。しかし、ボンド型アンカーでは、グラウトにより引張り部のテンドンを拘束しているため、引張り力の変化がアンカー頭部へ伝達されず、図2に示すような従来のアンカー頭部に設置した荷重計による計測では残存引張り力を確認することができないという問題があった。
【0007】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、ボンド型アンカーの残存引張り力を効率的に計測できる方法およびシステムを提供することを目的とするものである。また、本発明の他の目的は、この技術を応用して地盤や構造物内の変位を確認できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するため、ボンド型アンカーの残存引張り力を効率的に計測する方法として、引張り力の増減と密接な関係がある地盤の変形から荷重を求める方法に着目した。
【0009】
ここでは、一般的なグラウンドアンカーとボンド型アンカーのモデルを用いて、外力の変化と残存引張り力の変動について、それぞれの関係を確認する。
【0010】
図4に示す一般的なグラウンドアンカーにおいて、外力の増加により地盤Aが変形しようとする場合、その力がアンカーに作用している引張り力以下の場合は、変形が抑止された状態でつり合う。このため、テンドン54に変形が生じず、残存引張り力も増加しない。しかし、地盤が変形しようとする力がアンカーに作用している引張り力を超えると、つり合うことができなくなり地盤の変形と共にテンドン54が伸びる。そして、テンドン54が伸ばされることにより、残存引張り力が増加して、変形しようとする力とつり合って安定する。この時、テンドン54に作用している応力は、図4下側に示すように、実線から破線の状態に変化する。一般的なグラウンドアンカーの引張り部52ではテンドンが拘束されていないため、地盤Aにおいてテンドン54に作用した引張り力の変化がアンカー頭部53に伝わり、アンカー頭部53に設置した荷重計により計測することができる。
【0011】
図5に示す全長ボンド型アンカーの場合も、地盤Aが変形しようとする力がアンカーに作用している引張り力以下であれば、一般的なグラウンドアンカー同様、変形は抑止されて、テンドン4に変形が生じず残存引張り力が増加しない。また、地盤が変形しようとする力がアンカーに作用している引張り力を超えると、つり合いが崩れ、地盤の変形と共にテンドン4が伸び、残存引張り力が増加するが、これにより変形しようとする力とつり合って安定する。しかし、図5に示すような全長ボンド型アンカーでは、引張り部2のテンドン4がグラウト5-2により拘束されているため、テンドン4に作用する引張り力の伝達が行われず、地上より確認することができない。
【0012】
図6のような構造物区間のテンドンを拘束した部分ボンド型アンカーにおいても、つり合いの原理、引張り力の伝達については、上述した全長ボンド型アンカーと同様である。
【0013】
以上より、一般的なグラウンドアンカー、全長ボンド型アンカー、および部分ボンド型アンカーは、共に、地盤が変形しようとする力とのつり合いが保てなくなった時に残存引張り力が増加し、その増加量は変形量とテンドン自由長の関係として、以下の式で表すことができる。
【0014】
そこで本発明では、上記の(式1)〜(式3)の関係に着目し、図7に示すようにボンド型アンカーに一般的なグラウンドアンカーのテンドン構造を有した引張り材(たとえばPC鋼材)を添わせて荷重計測用に用いることにより、ボンド型アンカーの残存引張り力の確認を可能にしている。
【0015】
すなわち、前述した従来技術の課題は、下記の(1)〜(5)に記載のボンド型アンカーの残存引張り力確認方法又はシステムによって解決される。また、この技術は、下記の(6)に記載の変位確認方法に応用することができる。
【0016】
(1)緊張定着後に引張り部にグラウトを充填してテンドンを拘束してなるボンド型アンカーの残存引張り力確認方法であって、前記テンドンに添うように計測用引張り材を張設し、前記引張り材に作用する引張り力を計測する方法において、引張り部領域において異なる自由長を有するように、複数の計測用引張り材を前記テンドンに添わせて張設する、ことを特徴とするボンド型アンカーの残存引張り力確認方法。
【0017】
(2)引張り部領域の全体または一部で無拘束状態となるように前記計測用引張り材を張設する、ことを特徴とする上記(1)に記載のボンド型アンカーの残存引張り力確認方法。
【0018】
(3)前記計測用引張り材に作用する引張り力を計測し、その計測値に基づいて、ボンド型アンカーの残存引張り力の変化量を求める、ことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のボンド型アンカーの残存引張り力確認方法。
【0019】
(4)前記計測用引張り材に作用する引張り力を計測し、その計測値に基づいて地盤の変化量を算出し、算出した前記地盤の変化量に基づいてボンド型アンカーの残存引張り力の変化量を求める、ことを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のボンド型アンカーの残存引張り力確認方法。
【0020】
(5)緊張定着後に引張り部にグラウトを充填してテンドンを拘束してなるボンド型アンカーの残存引張り力確認システムであって、
引張り部領域において異なる自由長を有するように、前記テンドンに添わせて張設された複数の計測用引張り材と、
前記計測用引張り材に作用する荷重を計測するための荷重計測手段と、を具備し、
アンカーの引張り部領域の全体または一部で無拘束状態となるように、前記計測用引張り材が張設されている、ことを特徴とするボンド型アンカーの残存引張り力確認システム。
【0021】
(6)緊張定着後に引張り部にグラウトを充填してテンドンを拘束してなるボンド型アンカーが設置された地盤や構造物内の変位を確認する方法であって、引張り部領域において異なる自由長を有するように、複数の計測用引張り材を前記テンドンに添わせて張設し、前記引張り材に作用する引張り力を計測する、ことを特徴とする変位確認方法。
【発明の効果】
【0022】
従来技術では残存引張り力は計測できないとされていたボンド型アンカーについて、残存引張り力の把握が可能になる。また、ボンド型アンカーの残存引張り力を把握することで、地盤や構造物内の変位を把握することが可能になり、その結果、地盤や構造物の動きを的確に把握できるようになる。
【0023】
また、本発明に係るボンド型アンカーの残存引張り力確認方法は、テンドンに添うように計測用引張り材を張設するといった簡易な構造で達成されるので、残存引張り力の把握に必要なシステムを低コストで構築することができる。
【0024】
さらに、計測手段である荷重計などがアンカー頭部に設置されるため、計測手段の十分な保護と維持管理が可能であり、必要に応じて新しいものと交換することも可能であるため、長期的な計測を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】一般的なグラウンドアンカーを示す図である。
図2】荷重計を備えた一般的なグラウンドアンカーを示す図である。
図3】一般的なグラウンドアンカーの用途を示す図である。
図4】地盤変形時における「一般的なグラウンドアンカー」の残存引張り力の変化を示す図である。
図5】地盤変形時における「全長ボンド型アンカー」の残存引張り力の変化を示す図である。
図6】地盤変形時における「部分ボンド型アンカー」の残存引張り力の変化を示す図である。
図7】本発明に係る残存引張り力確認システムを備えたボンド型アンカーを示す図である。
図8図7のa−a断面を示す図である。
図9】本発明の他の実施形態を示す図である。
図10】本発明の他の実施形態を示す図である。
図11図10のa−a断面を示す図である。
図12】本発明の他の実施形態を示す図である。
図13】実施例1を示す図である。
図14】実施例2を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(ボンド型アンカー)
はじめに、図7及び図8に基づいて、本発明の適用対象であるボンド型アンカーの概略構成について説明する。図7は、本発明に係る残存引張り力確認システムを備えたボンド型アンカーの一例を示す図である。図8は、図7のa−a断面を示す図である。
【0027】
図7及び図8に示すボンド型アンカーは、アンカーの緊張定着後に引張り部2にグラウト5-2を充填してテンドン4を拘束することにより設置される。このボンド型アンカーは、図7に示すように、主としてアンカー体1と引張り部2とアンカー頭部3で構成され、アンカーの引張り力を伝達する部材としてアンカーテンドン4を具備している。
【0028】
アンカー体1は、グラウト5-1により造成され、引張り部2からの引っ張り力を、地盤に伝達させるために設置される抵抗部分である。このアンカー体1の部位において、アンカーテンドン4にはグラウト5-1が付着しており、両者は一体化している。
【0029】
引張り部2は、アンカー頭部3からの引張り力をアンカー体1に伝達させるために設置される部分である。引張り力の導入後において引張り部2にグラウト5-2を注入しているので、引張り部2におけるアンカーテンドン4は、本実施形態では引張り部2の全体に亘ってグラウト5-2で拘束されている。
【0030】
アンカー頭部3は、構造物からの力を引張り力として引張り部2に伝達させるための部分であり、定着具6や支圧板7を有している。アンカー頭部3におけるアンカーテンドン4は、ナットやくさびなどにより構造物に定着される。
【0031】
グラウト5-2により拘束されているアンカーテンドン4は、アンカーの引張り力を伝達する役割を担っており、PC鋼材などで構成されている。
【0032】
なお、本実施形態では本発明の適用対象の代表例として全長ボンド型アンカーを引用しているが、本発明の適用対象は、図5に示すような全長ボンド型アンカーに限定されるものではなく、図6に示すような部分ボンド型アンカーに適用することも可能である。
【0033】
(ボンド型アンカーの残存引張り力確認システム)
本発明に係る残存引張り力確認システムは、上述したようなボンド型アンカーの残存引張り力を確認するためのシステムである。残存引張り力とは、アンカーの供用時に作用しているテンドンの引張り力をいう。
【0034】
この残存引張り力確認システムは、荷重計測用引張り材を構成するPC鋼材10と、荷重計測手段を構成する荷重計12を含んで構成されている。
【0035】
荷重計12は、荷重計測用PC鋼材10に作用する荷重を計測する役割を担っている。
荷重計測用PC鋼材10は、図7に示すように、アンカーテンドン4に添うように張設されている。アンカー体領域における荷重計測用PC鋼材10には、アンカー体1のグラウト5-1が付着している。引張り部領域における荷重計測用PC鋼材10は、筒状のシースによって周囲が被覆されている。このシースで被覆された範囲が自由長となる。
【0036】
このようにシースで被覆されている結果、本実施形態における荷重計測用PC鋼材10は、アンカーの引張り部領域の全体に亘って無拘束状態(すなわちグラウト5-2で拘束されていない状態)が確保されている。なお、この出願でいう「アンカー体領域」とは、アンカー長手方向におけるアンカー体1が占める範囲をいう。また、「引張り部領域」とは、アンカー長手方向における引張り部2が占める範囲をいう。本実施形態の場合では、引張り部領域の全体に亘って荷重計測用PC鋼材10がシースで被覆されているので、引張り部領域の長さと荷重計測用PC鋼材の自由長(無拘束の長さ)が等しくなっている。
【0037】
このように、アンカーテンドン4の方はグラウト5-2により拘束されているのに対して、荷重計測用PC鋼材10の方は、被覆するシースにより無拘束状態が確保されているので、該PC鋼材10に作用する応力をアンカー頭部3の側に伝達できる構造となっている。
【0038】
(ボンド型アンカーの残存引張り力確認方法)
次に、ボンド型アンカーの残存引張り力確認方法について説明する。
【0039】
前述したボンド型アンカーの設置において、図7に示すように、アンカーテンドン4に添うように荷重計測用PC鋼材10を張設するととともに、このPC鋼材10の基端側に荷重計12を取り付ける。
【0040】
荷重計測用PC鋼材10は、引張り部領域の全域にわたってその周囲がシースで被覆されている。したがって、緊張定着後に引張り部2にグラウト5-2を充填すると、アンカーテンドン4が当該グラウトで拘束される一方、引張り部領域においてシースで被覆された荷重計測用PC鋼材10は、当該領域においてグラウト5-2で拘束されていない無拘束状態が確保される。
【0041】
ボンド型アンカーの残存引張り力の把握にあたっては、アンカー設置後において荷重計測用PC鋼材10に作用する引張り力をモニタリングする。具体的には、荷重計測用PC鋼材10の頭部に設置した荷重計12で計測した荷重の増加量から地盤の変形量を算定することにより、アンカーに作用する引張り力の増加量を求めて、定着時緊張力に加算することにより、残存引張り力を算出できる。ただし、全長ボンド型アンカーの場合、テンドン自由長に相当する付着切れ長が不明であるため、残存引張り力増加の事象の確認のみを行うことができる。
【0042】
なお、残存引張り力の具体的な算出方法については、後述する実施例において説明する。
【0043】
(第2実施形態)
上述した実施形態では、アンカーテンドンに1本の荷重計測用PC鋼材を添わせて配置しているが、複数本の荷重計測用PC鋼材を配置する態様も採用可能である。たとえば、図9に示すように、引張り部領域において異なる自由長(無拘束の長さ)を有するように、3本の荷重計測用PC鋼材10をアンカーテンドン4に添わせて張設する。このような異なる自由長は、異なる長さのシースで荷重計測用PC鋼材10の引張り部領域を予め被覆しておくことで確保できる。
【0044】
上述したように、引張り部領域において自由長の異なる複数の荷重計測用PC鋼材10を添わせることにより、地盤が変形しようとする位置(深度)を推定することも可能である。
【0045】
また、このように自由長の異なる複数の荷重計測用PC鋼材10をアンカーテンドン4に添わせることで、たとえば、図9において、荷重計AおよびBの計測値が増加し荷重計Cに変化がない場合には、区間bで地盤の変形が生じたことがわかる。また、たとえば荷重計A、B、Cのすべてにおいて計測値が増加した場合には、区間cで地盤の変形が生じたことがわかる。
【0046】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態として、引張り材をカプセルの中に収納した二重防錆タイプのボンド型アンカーテンドンに荷重計測用PC鋼材を組み込んだ例を図10および図11に示す。
【0047】
図10において、カプセル14の内部は2つの部屋から構成されており、打設したアンカーの緊張定着後に、手前側の部屋にグラウト5-2を充填してアンカーテンドン4を拘束する構造となっている。図11は、図10のa−a断面を示したものであるが、6本のアンカーテンドン4の中央部に、シースで被覆した荷重計測用PC鋼材10を配置している。
【0048】
このように複数本のアンカーテンドン4に荷重計測用PC鋼材10を組み込んで一体化することにより、アンカーの施工性を低下させることなく荷重計測用PC鋼材の配置が可能となる。
【0049】
なお、荷重計測用PC鋼材10は、図12に示すようにアンカーテンドンの周囲に添わせるように配置することも可能である。
【0050】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
【実施例1】
【0051】
【実施例2】
【0052】
さらに、本発明は、地盤や構造物内の変位を把握するための地中変位計として応用することもできる。
【0053】
図14に示すように、自由長の異なる4本の荷重計測用PC鋼材10(引張り材)を束ねて設置し、それぞれのPC鋼材の引張り力の変化を荷重計A〜Dで計測することにより、地盤の変位量とともに発生した位置(深度)を推定することができる。
【0054】
計測において、表1のように観測された場合、地盤の変位が区間bで1.0−0.6=0.4cm、区間cで0.6cm発生していることがわかる。
【0055】
【表1】
【符号の説明】
【0056】
1 アンカー体
2 引張り部
3 アンカー頭部
4 アンカーテンドン(テンドン)
5 グラウト
-1 グラウト
-2 グラウト
6 定着具
7 支圧板
10 荷重計測用PC鋼材(計測用引張り材)
12 荷重計(荷重計測手段)
14 カプセル
51 アンカー体
52 引張り部
53 アンカー頭部
54 アンカーテンドン(テンドン)
55 荷重計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14