【文献】
武居俊輔 ほか,CERAHIVE培養担体モジュールによる間葉系幹細胞軟骨分化に対する連続培養効果,再生医療増刊号,2013年 2月28日,Vol. 12, Suppl,p. 256, D-1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ウェル底面の多孔体が、気孔率20%以上50%以下、かつ、平均気孔径が0.1μm以上5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養モジュール。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について、図面を参照して詳細に説明する。
図1に、本発明に係る細胞培養モジュールの概略を示す。
図1に示した細胞培養モジュールAは、表面に複数のウェル1aが設けられた円板状の細胞培養担体1を載置する保持部材2と、保持部材2の細胞培養担体載置面(上面)に被せられる蓋部材3とから構成されている。
前記保持部材2の上面には、円形状の凹部2aが形成され、その径は、細胞培養担体1の径よりもわずかに大きく形成され、Oリング4を介して、前記凹部2a内に細胞培養担体1が収容、載置される。
その結果、細胞培養担体1の下面と保持部材2の上面との間に、前記凹部2aによって第1の空間S1が形成される。
【0018】
尚、上記説明において、細胞培養担体1が円板状(平面視において円形)の場合を例にとって説明したが、細胞培養担体1が平面視において、例えば矩形状、六角形状等の多角形状であっても良い。また、細胞培養担体1が多角形状の場合には、前記保持部材2の凹部2aも、前記細胞培養担体1の形状に対応して、同一形状になされる。
また、細胞培養担体1がOリング4を介して、前記凹部2a内に収容、載置される場合を例にとって説明したが、細胞培養担体1が多角形状の場合には、前記細胞培養担体1の形状に対応して、同一形状に形成されたゴム製の枠部材を用いるのが好ましい。
【0019】
また、蓋部材3の下面には細胞培養担体1のサイズに対応した凹部3aが形成され、蓋部材3の下面は細胞培養担体1上面の外周部及び保持部材2に密着される。
その結果、蓋部材3下面と細胞培養担体1の上面との間に、前記凹部3aによって第2の空間S2が形成される。
尚、蓋部材3の凹部3aも前記保持部材2の凹部2aと同様に、細胞培養担体1が平面視において、例えば矩形状、六角形状等の多角形状である場合には、前記細胞培養担体1の形状に対応して、同一形状になされる。
【0020】
前記保持部材2の上面と蓋部材3の下面との間にはOリング5が設けられ、前記第1の空間S1、前記第2の空間S2内の培養液が外部に漏れないように構成されている。
このように、前記保持部材2と蓋部材3とによって、内部空間Sを有する密閉容器が形成され、また前記内部空間Sは、前記細胞培養担体1とによって第1の空間S1、第2の空間S2に分けられる。
【0021】
前記蓋部材3の凹部3aは、前記したように円形状または多角形状に形成され、その径は、細胞培養担体1の径よりもわずかに小さいことが好ましい。ただし、蓋部材3が細胞培養担体1表面のウェル1aを覆うことがないように形成される。前記蓋部材3をこのように形成することにより、細胞培養担体1から剥離された培養細胞が細胞培養担体1の外縁部や背面側(第1の空間S1側)に周り込むことを防止することができる。
【0022】
また、前記保持部材2には、前記凹部2aの底面に一端が開口する流路2bが形成されている。この流路2bは前記凹部2a内に培養液を供給する培養液供給流路であり、この流路2bの他端は前記保持部材2の側壁に開口し、図示しない培養液供給源に接続されている。
【0023】
また、前記蓋部材3には、前記凹部3aの底面に一端が開口する第1の流路3bが形成されている。
前記第1の流路3bは、細胞注入・培養液排出・細胞回収流路であり、前記凹部3a内に幹細胞を含む培養液を供給する細胞注入機能と、前記培養液供給流路2bから培養液が供給される状態において、培養液成分のみを前記排出する培養液排出機能と、前記培養液供給流路2bから供給される培養液の液圧により、細胞培養担体1から剥離された培養細胞を培養液ごと回収する機能を備えている。
この第1の流路3bの他端は前記蓋部材3の上面に開口し、図示しない、細胞注入部、培養液排出部、細胞回収部に、切換弁を介して切換え可能に接続されている。
尚、前記第1の流路3bから培養液排出部に排出された培養液は、廃棄されることなく、前記培養液供給流路2bを介して、再び前記凹部3a内に供給され、前記培養液が循環するように構成しても良い。
【0024】
更に、前記蓋部材3には、前記凹部3aの側面に一端が開口する第2の流路3cが形成されている。
この第2の流路3cは、前記培養液供給流路2bから培養液が供給されない状態において、前記凹部3a(内部空間S2)内の培養液を排出する培養液排出流路であり、この流路3cの他端は前記蓋部材3の上壁に開口し、図示しない培養液排出部と接続されている。
尚、前記第2の流路3cから培養液排出部に排出された培養液は、廃棄されることなく、前記培養液供給流路2bを介して、再び前記凹部3a内に供給され、前記培養液が循環するように構成しても良い。
【0025】
また、前記
第2の流路3cにおける前記凹部3aの開口の下端と、細胞培養担体1の上面との距離寸法tが0mmを超えて5mm以下になるように、前記
第2の流路3cの開口が形成されている。
このような距離寸法tの範囲内に、前記
第2の流路3cの開口を形成することにより、第2の空間S2に導入された培養液を90%以上98%以下排出することができる。言い換えれば、細胞培養担体1上、0mmを超えて5mm以下の培養液を残して、第2の空間S2に存在する培養液を排出することができる。
【0026】
前記細胞培養担体1の材質は、特に限定されるものではなく、生体親和性及び生体適合性に優れ、細胞の足場として適しているとされるジルコニア、チタニア、アルミナ、ハイドロキシアパタイトのほか、イットリア、カーボン等のセラミックス、ガラス、樹脂等を用いることができる。
また、細胞培養担体1の全体が多孔体である以外に、一部緻密体であっても良い。特に、三次元細胞塊を効率的に凝集させるためには、細胞培養担体の裏面から培養液をウェル内に浸透可能である多孔体からなる細胞培養担体が好ましい。更に言えば、少なくともウェルの底面が多孔体からなる細胞培養担体であることが好ましい。
尚、前記少なくともウェルの底面とは、ウェルの最底部(最も低い位置)からウェル壁面に沿う壁面長さの50%以下(壁面長さの1/2以下)の範囲を意味する。
【0027】
この場合の多孔体部分は、培養液等の浸透性や細胞培養担体自体の強度を保持の観点から、気孔率20〜50%、かつ、平均気孔径0.1〜5μmであることが好ましい。より好ましくは、平均気孔径0.1〜1μm、さらに好ましくは、0.1〜0.5μmである。なお、前記気孔率及び平均気孔径は、水銀ポロシメータを用いた水銀圧入法による測定値で表したものである。
さらに前記細胞培養担体は、前記したように、円形状または多角形状であっても良い。特に六角形状の細胞培養担体の場合には、同じ面積の円形状の細胞培養担体に比べより多くのウェルを形成することができるため、より好ましい。
【0028】
また、本発明に係る細胞培養方法は、上面に複数のウェル1aが設けられた細胞培養担体1を前記保持部材2に載置し、前記保持部材2に蓋部材3を密着固定した後、前記保持部材2の凹部2aに通じる培養液供給流路2bから前記細胞培養担体1の裏面側に第1培養液を供給し、該細胞培養担体1の上面まで浸透させる第1の培養液を供給する供給工程と、第1の培養液の供給を停止し、前記蓋部材3の第1の流路3bから前記細胞培養担体1の上面に未分化の細胞を含む第2の培養液を注入し、細胞を播種する細胞播種工程と、前記第1の培養液と前記細胞を除いた前記第2の培養液とを第2の流路3cを介して排出する工程と、前記凹部2aに前記第1の培養液をさらに供給し、前記細胞培養担体1全体を前記第1の培養液に浸漬させて、前記ウェル1a内で幹細胞の凝集化を進行させる工程と、前記凹部3a内から前記細胞を除いた前記第2の培養液を、第2の流路3cを介して排出した後、凝集化した前記幹細胞を硝子軟骨細胞、脂肪細胞及び骨芽細胞等の組織細胞等に分化誘導するための第3の培養液を前記凹部2a,3a内に培養液供給流路2bを介して供給し、前記細胞培養担体1全体を前記第3の培養液に浸漬させて、前記ウェル1a内で幹細胞を、組織細胞に分化誘導する工程と、を経ることにより行われる。
【0029】
更に、前記分化誘導する工程の後、前記培養液供給流路2bから高液圧の培養液を前記細胞培養担体1の裏面側(凹部2a)に供給することにより、分化誘導した培養細胞を培養液とともに第1の流路3bから導出し、回収する培養細胞回収工程とを経ることにより行われる。
【0030】
上述した本発明に係る担体を用いて、このような工程を経ることにより、間葉系幹細胞やES細胞、iPS細胞の凝集塊を効率的に形成し、かつ、培養された細胞の細胞培養担体からの剥離及び回収までを連続的に簡便に行うことができる。
特に、細胞播種工程の後、前記第1の培養液と、前記細胞を除いた前記第2の培養液とを第2の流路(培養液排出流路)3cを介して排出するため、細胞の凝集化の期間を短縮することができる。また、前記幹細胞を除いた前記第2の培養液とを、第2の流路(培養液排出流路)3cから排出した後、分化誘導するための第3の培養液が、培養液供給流路2bから前記凹部2a内(空間S1,S2)に供給され、前記第2の培養液と、第3の培養液の置換が速やかに行われるため、分化誘導に要する期間を短くすることができる。
【0031】
以下、上記細胞培養方法を各工程順に、
図2乃至
図8を参照して詳細に説明する。
まず、
図2に示す第1の培養液の供給工程において、表面に複数のウェル1aが設けられた細胞培養担体1を保持部材2に載置し、細胞培養担体1の上面外周部及び保持部材2に蓋部材3を密着固定する。そして、前記保持部材2の凹部2aに通じる培養液供給流路2bから第1の培養液を供給し、細胞培養担体1の上面まで第1の培養液を十分に浸透させる。
このように、細胞培養の前処理工程として、予め、細胞培養担体1全体に第1の培養液を十分に供給し、細胞培養担体上面まで第1の培養液に浸漬した状態としておく。このような工程を経ることにより培養液に培養の阻害要因となり得る気泡を包含させることなく、複数のウェル内に満遍なく培養液を行き渡らせることができる。
尚、毛細管現象により、細胞培養担体上面まで第1の培養液に浸漬した状態をなすため、細胞培養担体1は、上述したような気孔率及び平均気孔径を備えた少なくともウェルの底面が多孔体により構成することが好ましい。
【0032】
前記第1の培養液(培地)の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、ES細胞を培養する場合は、DMEM、F12、KNOCKOUT DMEM等が好ましい。さらに、これらの培地に、FBS(ウシ血清)、非必須アミノ酸、ピルビン酸、グルタミン酸等の細胞を維持するのに必要な物質が添加される。
また、間葉系幹細胞を培養する場合には、例えば、MEM、α−MEM、DMEM、イーグル培地等が好ましい。さらに、これらの培地に、FBS(ウシ血清)、グルタミン酸等の細胞を維持するのに必要な物質が添加される。
【0033】
次に、
図3に示すように、細胞播種工程において、第1の培養液の供給を停止した後、蓋部材3の第1の流路(細胞注入・培養液排出・細胞回収流路)3bから細胞培養担体1上面に未分化の細胞Cを含む第2の培養液を注入し、細胞Cを播種する。
このような注入による播種においては、ウェル1a内外を問わず、細胞培養担体1上面全体に細胞Cが播種されるが、細胞培養担体上面まで第1の培養液に浸漬した状態で、5分〜72時間、好ましくは24時間以上静置することにより、ウェル外の細胞がウェル1a内に移動して付着し、ウェル1a内で凝集塊を形成させることができる。
すなわち、第1の培養液と、未分化の細胞を含む第2の培養液とを懸濁させた状態で未分化の細胞Cを細胞培養担体1の上面に播種することにより、負荷をかけることなく、播種した細胞Cをウェル1a内に導入することができ、スムーズな凝集化を促すことができる。
【0034】
前記第2の培養液(培地)の種類は、前記第1の培養液と同様のものでもよい。
また、培養する細胞の種類は、特に限定されるものではないが、本発明に係る培養方法は、特に、ES細胞や間葉系幹細胞に好適に適用することができる。細胞は、1×10
4〜1×10
6個/cm
2程度播種することが好ましい。
【0035】
次に、
図4に示すように、所定時間静置し、前記播種した細胞が前記細胞培養担体1のウェル内に沈降させる。その後、前記第1の培養液と前記細胞を除いた前記第2の培養液とを第2の流路(培養液排出流路)3cを介して排出する。
前記第2の流路3cの開口が凹部3aの側面に設けられ、側方から前記第2の培養液を排出するようになされるため、ウェル1a内に存在する細胞の流出を抑制することができる。
【0036】
ここで、第2の流路3cにおける前記凹部3aの開口の下端と、細胞培養担体1の上面との距離寸法が、0mmを超えて5mm以下になるように、前記第2の流路3cの開口が形成されている。そのため、前記開口を介して、第2の空間S2内の培養液の90%以上98%以下を排出することができる。言い換えれば、細胞培養担体上面が第1の培養液及び第2の培養液浸漬した状態で、第2の空間S2内の第1の培養液及び第2の培養液を排出することができる。
【0037】
次に、
図5に示すように、細胞凝集化工程において、培養液供給流路2bから凹部2a,3a(細胞培養担体1の裏面側)に第1の培養液を供給しながら、第1の培養液及び第2の培養液の培養液成分のみを蓋部材3の第1の流路(細胞注入・培養液排出・細胞回収流路)3bから排出させ、ウェル内1aで細胞を凝集化させる。
このように培養液を流通させることにより、細胞培養担体1のウェル1a内の細胞は、常に第1の培養液の供給を受けることができるため、ウェル1a内での細胞の凝集化が効率的に行われる。
尚、第1の培養液の供給速度は、ウェル11内で凝集化した細胞が剥離しないように、0.1ml/時間程度であることが好ましい。
【0038】
そして、
図6に示すように、幹細胞を、硝子軟骨細胞、脂肪細胞及び骨芽細胞等の組織細胞、心筋細胞、神経細胞、肝細胞等に分化誘導するため、まず前記凹部3a内から、前記第1の培養液と、前記細胞を除いた前記第2の培養液とを第2の流路(培養液排出流路)3cを介して排出する。
前記したように、第2の流路3cにおける前記凹部3aの開口下端と、細胞培養担体1の上面との距離寸法が、0mmを超えて5mm以下になるように、前記第2の流路3cの開口が形成されているため、前記開口を介して、細胞培養担体上面が第1の培養液及び第2の培養液浸漬した状態で、第2の空間S2内の第1の培養液及び第2の培養液を排出することができる。
【0039】
前記第1の培養液及び第2の培養液の排出後、
図7に示すように、凝集化した前記幹細胞を組織細胞等に分化誘導するための第3の培養液を前記凹部2a,3a内に培養液供給流路2bを介して供給し、前記細胞培養担体1全体を前記第3の培養液に浸漬させて、前記ウェル1a内で幹細胞を、組織細胞等に分化誘導する。
このように、幹細胞の培養に用いた担体のままで、第3の培養液に速やかに置換することにより、ウェル11a内において、間葉系細胞から硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞等への分化誘導を行うことができる。
【0040】
前記第3の培養液は、凝集化した間葉系幹細胞を硝子軟骨細胞や脂肪細胞、骨芽細胞等の組織細胞等に分化誘導するための培地であり、基本培地としてはDMEMを使用することができ、適宜改良して用いてもよい。さらに、TGFβ、BMP等を添加することが好ましく、また、アスコルビン酸、プロリン、デキサメタゾン、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸等の添加剤を添加してもよい。
TGFβは、TGFβファミリーに属するものであればいずれでもよいが、TGFβ−3を用いることが好ましい。また、TGFβと同様の作用を示す低分子化合物を用いて代替することもできる。添加するTGFβの量は1〜50ng/ml、より好ましくは10ng/mlである。
BMPとしては、BMP2、BMP4、BMP6等が用いられ、BMP6を用いることが好ましい。また、低分子化合物を用いて代替することもできる。添加するBMPの量は、100〜500ng/ml、より好ましくは200ng/mlである。
また、添加するアスコルビン酸(好ましくはアスコルビン酸2−リン酸)の量は、10〜100μg/ml、好ましくは50μg/mlである。
また、添加するプロリンの量は、10〜100μg/ml、好ましくは約40μg/mlである。また、添加するデキサメタソンの量は、10〜500nM、好ましくは100nMである。また、添加するインスリン、トランスフェリン、亜セレン酸は、市販のITS溶液を適正濃度になるように添加する。
なお、間葉系幹細胞から軟骨、脂肪、骨芽細胞に誘導する分化誘導培地が市販されており、これらも使用可能であることはいうまでもない。
【0041】
そして、
図8に示すように、前記分化誘導工程の後、前記培養液供給流路2bから高液圧の第3の培養液を前記細胞培養担体1の裏面側(凹部2a)に供給することにより、分化誘導した第3の培養細胞を細胞培養担体1から剥離し、培養液とともに第2の流路3bから導出し、回収することによって培養細胞が回収される。
【0042】
尚、前記培養液供給流路2bから高液圧の第3の培養液を前記細胞培養担体1の裏面側(凹部2a)に供給することにより、前記細胞培養担体1から細胞を剥離、回収方法のほか、例えば、
図9に示すように、第3の培養液を細胞培養担体1上に導入する導入流路3dを蓋部材3に設け、導入流路3dから第3の培養液を供給することにより、前記細胞培養担体1から細胞を剥離、回収しても良い。
この導入流路3dは、
図9(b)に示すように、凹部3aの中心に対して、平面視上120度間隔をもって形成され、導入流路3dの軸線が中心側に偏る方向に形成されている。更に
図9(a)に示すように、導入流路3dは、蓋部材3の上面から下面に向かって所定の角度θ例えば、20〜90°をもって斜めに形成されている。
このように、導入流路3dが形成されているため、凹部3aに導入される第3の培養液は螺旋流となり、細胞培養担体1から細胞を容易に剥離することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]hMSCの硝子軟骨細胞への分化誘導
平均粒子径が0.3μmのジルコニア原料粉を用いて、開口径及び深さが600μmのウェル約300個が配列した六角形状のジルコニア製の細胞培養担体(直径15mm)を成形し、1150℃で2時間焼成して、開口径及び深さが450μmの担体を作製し、細胞培養担体とした。
この細胞培養担体を滅菌処理後、
図1に示すように保持部材2に載置し、前記細胞培養担体1の上面外周部及び前記保持部材2に蓋部材3を密着固定した後、前記保持部材2の凹部2aに通じる培養液供給流路2bから前記細胞培養担体1の裏面側に第1培養液としてDMEMを供給し、該細胞培養担体1の上面まで浸透させた。
【0044】
その後、DMEMの供給を停止し、前記蓋部材3の第1の流路3bから前記細胞培養担体1の上面に不死化されたhMSCを1×10
6個を含むDMEMを注入して播種し、24時間静置した。
その後、前記第1培養液であるDMEMと、前記不死化されたhMSCを除いた前記第2の培養液であるDMEMを第2の流路3cから排出した。
【0045】
その後、前記FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMを培養液供給流路2bから供給し、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
そして、播種してから3日目に、前記FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMを、前記第2の流路3cを介して排出した。
【0046】
その後、TGFβ−3を10ng/ml、DEXを100nM、アスコルビン酸を50μg/ml、プロリンを40μg/ml、ITS及びピルビン酸を含むDMEM(軟骨分化誘導培地)を、培養液供給流路2bから供給し、前記細胞培養担体1全体を前記培養液に置換、浸漬して、1週間分化誘導を行った。尚、培地は、新たな培地を培養液供給流路2bから連続的に供給し、前記第2の流路3cから排出することにより行った。
得られた軟骨細胞のコラーゲン2の発現量を、ハウスキーピング遺伝子(GAPDH)を用いて確認した。その結果を
図10に示す。
この
図10における縦軸は、Fold Change (Collagen2/GAPDH)である。
【0047】
[比較例1]hMSCの硝子軟骨細胞への分化誘導
実施例1と同様な条件で、細胞培養担体を、
図1に示すように保持部材2に載置し、前記細胞培養担体1の上面外周部及び前記保持部材2に蓋部材3を密着固定した後、前記保持部材2の凹部2aに通じる培養液供給流路2bから前記細胞培養担体1の裏面側に第1培養液としてDMEMを供給し、該細胞培養担体1の上面まで浸透させた。
【0048】
その後、DMEMの供給を停止し、前記蓋部材3の幹細胞滴下流路(第1の流路)3bから前記細胞培養担体1の上面に不死化されたhMSCを1×10
6個を含むDMEMを注入して播種し、24時間静置した。
その後、前記第1培養液であるDMEMと、前記不死化されたhMSCを除いた前記第2の培養液であるDMEMを第2の流路3cから排出することなく、播種後、3日間、前記FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMを培養液供給流路2bから供給し、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
そして、播種してから3日目に、前記FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMを、前記第2の流路3cを介して排出した。
【0049】
その後、TGFβ−3を10ng/ml、DEXを100nM、アスコルビン酸を50μg/ml、プロリンを40μg/ml、ITS及びピルビン酸を含むDMEM(軟骨分化誘導培地)を、培養液供給流路2bから供給し、前記細胞培養担体1全体を前記培養液に置換、浸漬して、1週間分化誘導を行った。
尚、培地は、新たな培地を培養液供給流路2bから連続的に供給し、前記第2の流路3cから排出することにより行った。
得られた軟骨細胞のコラーゲン2の発現量を、ハウスキーピング遺伝子(GAPDH)を用いて確認した。その結果を
図10に示す。
【0050】
図10に示すように、実施例1のコラーゲン2の発現量は、比較例1に比べて約1.6倍多くなっていることから、幹細胞を硝子軟骨細胞、脂肪細胞及び骨芽細胞等の組織細胞、心筋細胞、神経細胞、肝細胞等に分化誘導するための期間を短縮化できることが確認された。
【0051】
[実施例2]
実施例1と同様に、DMEMの供給を停止し、前記蓋部材3の第1の流路3bから前記細胞培養担体1の上面に不死化されたhMSCを1×10
6個を含むDMEMを注入して播種し、3時間静置した。
【0052】
播種してから3時間後に、その後、前記第1培養液であるDMEMと、前記不死化されたhMSCを除いた前記第2の培養液であるDMEMを第2の流路3cから排出した。
その後、前記FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMを培養液供給流路2bから供給することなく、TGFβ−3を10ng/ml、DEXを100nM、アスコルビン酸を50μg/ml、プロリンを40μg/ml、ITS及びピルビン酸を含むDMEM(軟骨分化誘導培地)を、培養液供給流路2bから供給し、前記細胞培養担体1全体を前記培養液に置換、浸漬して、37℃、5%CO
2の条件下で、1週間分化誘導を行った。
尚、培地は、新たな培地を培養液供給流路2bから連続的に供給し、前記第2の流路3cから排出することにより行った。
実施例1と同様にコラーゲン2の発現量を確認したところ、実施例1よりも多いことが確認された。
【0053】
[実施例3]
実施例1と同様に、DMEMの供給を停止し、前記蓋部材3の幹細胞滴下流路(第1の流路)3bから前記細胞培養担体1の上面に不死化されたhMSCを1×10
6個を含むDMEMを滴下して播種し、24時間静置した。
【0054】
播種してから24時間後に、その後、前記第1培養液であるDMEMと、前記不死化されたhMSCを除いた前記第2の培養液であるDMEMを第2の流路3cから排出した。
その後、前記FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMを培養液供給流路2bから供給することなく、TGFβ−3を10ng/ml、DEXを100nM、アスコルビン酸を50μg/ml、プロリンを40μg/ml、ITS及びピルビン酸を含むDMEM(軟骨分化誘導培地)を、培養液供給流路2bから供給し、前記細胞培養担体1全体を前記培養液に置換、浸漬して、37℃、5%CO
2の条件下で、1週間分化誘導を行った。
尚、培地は、新たな培地を培養液供給流路2bから連続的に供給し、前記培養液排出流路3cから排出することにより行った。
実施例1と同様にコラーゲン2の発現量を確認したところ、実施例1及び2よりも多いことが確認された。
【0055】
[参考例1]
実施例1と同様に、DMEMの供給を停止し、前記蓋部材3の第1の流路3bから前記細胞培養担体1の上面に不死化されたhMSCを1×10
6個を含むDMEMを注入して播種した。
【0056】
その後、前記第1培養液であるDMEMと、前記不死化されたhMSCを除いた前記第2の培養液であるDMEMを第2の流路3cから排出することなく、更に前記FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMを培養液供給流路2bから供給することなく、播種した直後に、TGFβ−3を10ng/ml、DEXを100nM、アスコルビン酸を50μg/ml、プロリンを40μg/ml、ITS及びピルビン酸を含むDMEM(軟骨分化誘導培地)を、培養液供給流路2bから供給し、前記細胞培養担体1全体を前記培養液に浸漬して、37℃、5%CO
2の条件下で、1週間分化誘導を行った。
尚、軟骨分化誘導培地の交換は4日おきに行った。培地交換は、新たな培地を培養液供給流路2bから供給し、前記第2の流路3cから排出することにより行った。
得られた細胞塊を5μmの厚さにスライスし、サフランニンOを用いて染色し、分化の指標である軟骨小腔様構造の割合を確認した。その結果を
図11(a)に示す。
【0057】
[参考例2]
実施例2と同様に、DMEMの供給を停止し、前記蓋部材3の第1の流路3bから前記細胞培養担体1の上面に不死化されたhMSCを1×10
6個を含むDMEMを注入して播種し、3時間静置した。
【0058】
その後、前記第1培養液であるDMEMと、前記不死化されたhMSCを除いた前記第2の培養液であるDMEMを第2の流路3cから排出することなく、更に前記FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMを培養液供給流路2bから供給することなく、TGFβ−3を10ng/ml、DEXを100nM、アスコルビン酸を50μg/ml、プロリンを40μg/ml、ITS及びピルビン酸を含むDMEM(軟骨分化誘導培地)を、培養液供給流路2bから供給し、前記細胞培養担体1全体を前記培養液に浸漬して、37℃、5%CO
2の条件下で、1週間分化誘導を行った。
尚、培地は、新たな培地を培養液供給流路2bから連続的に供給し、前記第2の流路3cから排出することにより行った。
得られた細胞塊を5μmの厚さにスライスし、サフランニンOを用いて染色し、分化の指標である軟骨小腔様構造の割合を確認した。その結果を
図11(b)に示す。
【0059】
[参考例3]
実施例1と同様に、DMEMの供給を停止し、前記蓋部材3の第1の流路3bから前記細胞培養担体1の上面に不死化されたhMSCを1×10
6個を含むDMEMを注入して播種し、24時間静置した。
【0060】
その後、前記第1培養液であるDMEMと、前記不死化されたhMSCを除いた前記第2の培養液であるDMEMを第2の流路3cから排出することなく、更に前記FBS(ウシ血清)10%を含むDMEMを培養液供給流路2bから供給することなく、TGFβ−3を10ng/ml、DEXを100nM、アスコルビン酸を50μg/ml、プロリンを40μg/ml、ITS及びピルビン酸を含むDMEM(軟骨分化誘導培地)を、培養液供給流路2bから供給し、前記細胞培養担体1全体を前記培養液に浸漬して、37℃、5%CO
2の条件下で、1週間分化誘導を行った。
尚、培地は、新たな培地を培養液供給流路2bから連続的に供給し、前記第2の流路3cから排出することにより行った。
得られた細胞塊を5μmの厚さにスライスし、サフランニンOを用いて染色し、分化の指標である軟骨小腔様構造の割合を確認した。その結果を
図11(c)に示す。
【0061】
図11(a)〜(c)において軟骨小腔様構造を矢印で示すが、
図11(a)、(b)、(c)の順で、軟骨小腔様構造が拡大(成長)していることがわかる。ここで、硝子軟骨組織は成熟すると軟骨小腔とよばれる構造をとることが知られており、また、作製した細胞塊においても分化が進むと軟骨小腔様構造を形成することが分かっている。すなわち、この軟骨小腔様構造が成長し、その割合が大きくなることは、より分化が進んでいることを表している。
したがって、播種した後の静置時間を長く、培地を、新たな培地を培養液供給流路2bから連続的に供給し、前記第2の流路3cから排出することにより、より分化誘導が進むことが確認された。