【実施例】
【0022】
図1は、本発明の一実施例としてのシンカー装置1を備えた横編機2の主要部分について、(a)で可動シンカー10の開状態、(b)で可動シンカー10の閉状態を、歯口3に臨む針床4の先端付近の断面でそれぞれ示す。針床4は、歯口3側が高く、歯口3から離れると低く傾斜する。ただし、
図1では、説明の便宜上、歯口中心面3aを傾斜させて、針床4が水平な状態として説明する。後述するように、歯口中心面3aに関して面対称の位置に、歯口3を挟んで対向する針床5が配置される。
【0023】
針床4は、基板6を有する。基板6には、ニードルプレート7を挿入する溝が形成される。ニードルプレート7は、基板6に、紙面に垂直な方向に一定の間隔をあけて並設され、ニードルプレート7間は、後述するように、針溝20となって編針21を収容する。基板6にニードルプレート7が挿入されると、紙面に垂直な方向に貫通するワイヤ8,9を挿通させて、固定する。
【0024】
シンカー装置1は、可動シンカー10およびシンカージャック11と、固定シンカー12とを含む。可動シンカー10は、ニードルプレート7に設ける薄肉部7aに収容されて揺動可能であって、針溝20で編針21の上方に収容されて歯口3に向う方向に進退可能なシンカージャック11によって駆動される。可動シンカー10は、後述するように、薄肉部7aの下部に形成される揺動支持部7bで支持される揺動支承部10aを含む。可動シンカー10は、揺動支承部10aから歯口3に進入する方向に延びて、先端部分に、編糸受け部10dおよび付き上がり防止部10eを有する作用腕10bと、歯口3から離れる方向に揺動支承部10aから延びて、先端に、駆動受け部10fを有する駆動腕10cと、作用腕10bの編糸受け部10dが歯口3下方に向う揺動方向に付勢するばね13とを、さらに含む。本実施例の可動シンカー10では、ばね13が一体的に形成されているけれども、別体の線ばねを組合せてもよい。
【0025】
シンカージャック11は、広幅部11aと、バット11bと、駆動部11cと、先端部11dと、基部11eとを含む。基部11eは、編針21と同等に、針溝20内に収容されて進退可能な幅を有し、編針21の上方に配置される。広幅部11aは、基部11eの上方に設けられ、基部11eの幅を超えて、可動シンカー10が収容される側の側方へ広がる幅を有する。駆動部11cは、広幅部11aで歯口3に向う方向の先端付近に設けられる。駆動部11cは、可動シンカー10を針溝20側の側面で支持する先端部11dに近い位置で可動シンカー10を駆動するので、可動シンカー10の上方や下方からではなく、側方から駆動することができ、シンカー装置1としての嵩が高くならないようにすることができる。基部11eは、広幅部11aに対し、歯口3から離れる基端側となり、広幅部11aの基端よりも、歯口3から離れる位置まで延びる。進退駆動用のバット11bは、基部11eの端部に設けられる。基部11eの基端付近には、上方に広幅部11aが存在しないので、広幅部11eよりも低い位置からでも、バット11bを針溝20外に突出させることができる。
【0026】
図1(a)に示すようなシンカージャック11の歯口3に向う方向への進出で、可動シンカー10の駆動腕10cの駆動受け部10fを下方に押圧するように駆動する。この駆動は、ばね13による付勢に抗して、作用腕10bの編糸受け部10dを歯口3上方に向うように揺動させ、可動シンカー10を開状態にすることができる。
図1(b)に示すように、シンカージャック11を後退させると、駆動受け部10fが駆動部11cからの押圧を受けなくなる。ばね13による付勢で、可動シンカー10は閉状態となる。開状態から閉状態に変化する際に、作用腕10bの先端側に設ける編糸受け部10dが歯口3の下方に向うように揺動する。編糸受け部10dは、編成されて編針21に係止される編目を、シンカーループの押下げで押える。編糸受け部10dの上方に設ける付き上がり防止部10eは、歯口中心面3aに接近する。歯口中心面3aに接近した付き上がり防止部10eは、
図2に示す対向する針床5から、当該針床5側に設ける可動シンカー30の編糸受け部30dでは押えられずに、歯口3に進出する編針31とともに付き上がる編目があれば作用し、付き上がりを抑える。
【0027】
本実施例では、シンカージャック11が歯口3に向う方向に前進すると可動シンカー10が閉状態となり、歯口3から離れる方向に後退すると可動シンカー10が開状態となるようにしている。しかしながら、シンカージャック11を歯口3に向う方向に進退させると、可動シンカー10がそれぞれ閉開するのではなく、それぞれ開閉するように、駆動部11cなどの形状を変更してもよい。すなわち、シンカージャック11が歯口3に向う方向への進退の一方で可動シンカー10が開き、他方で可動シンカー10が閉じるように切替えられればよい。シンカージャック11を進退させるバット11bは、歯口3から離れる方向で後端付近に設けられ、針溝20から上方に突出する。ニードルプレートの薄肉部7aには、揺動支持部7bの上方を、ニードルプレート7の並設方向に貫通する押え板14を有する。押え板14は、ばね13を介して、可動シンカー10の揺動支承部10aがニードルプレート7の揺動支持部7bに嵌合するように押える。
【0028】
固定シンカー12は、歯口中心面3aに近い位置で、天歯となる線材15を支持する。固定シンカー12は、歯口3に臨む針床4の先端から基板6の下部までの範囲に設けられ、針床4に対して、紙面に垂直な方向に貫通するワイヤ16,17で固定される。シンカージャック11の広幅部11aは、ニードルプレート7を紙面に垂直な方向に貫通する押え板18およびワイヤ19に臨む。押え板18は、シンカージャック11を上方から押え、針溝20からの脱落を防ぐ。
【0029】
図2は、(a)で、歯口3付近を上方から見た構成を拡大して示し、(b)で横編機2としての歯口3付近の構成を示す。ただし、後述するように、ループプレッサー24に関しては、(a)で歯口3に進出させている状態、(b)で歯口3から退避している状態をそれぞれ示す。横編機2では、歯口3を挟んで、針床4と針床5とが対向して配置される。針床4では、並設されるニードルプレート7間に針溝20が形成される。針溝20には、編針21が収容され、歯口3に対して進退可能である。本実施例では、編針21として、針本体22とスライダー23とを組合せる複合針を使用する。編針21として、フックをべらで開閉するべら針を使用することもできる。
【0030】
針本体22の歯口3側の先端には、フック22aが形成される。本実施例のスライダー23は、二枚のブレード23a,23bと、基体23cとを有する。分れている二枚のブレード23a,23bは、基体23cの進退で、歯口3に対して進退させる。二枚のブレード23a,23bの先端部分は、針本体22のフック22aに対して相対移動可能なように、針本体22に形成されるスライダー溝22bに収容される。ブレード23a,23bの先端はフック22aに対する進退で、フック22aの鈎口をそれぞれ閉開するとともに、編目を係止する状態でフック22aを越えて歯口3に進出し、対向する針床の編針に目移しすることもできる。したがって、針床4,5で歯口3を挟む際には、編針21のフック22a同士を対向させる。
【0031】
各針床4,5で、
図2(a)では上下方向、
図2(b)では紙面に垂直な方向となる長手方向に隣接する編針21のフック22aの中間位置には、固定シンカー12の度決め部12aが配置される。可動シンカー10の作用腕10bの先端は、度決め部12aの一側面側とフック22aとの間に配置される。
【0032】
図2(a)では、編針21、固定シンカー12とともに、可動シンカー10,30も歯口3を挟んで対向し、対称配置になっている。このような対称配置は、針床5では、針床4のニードルプレート7、可動シンカー10、およびシンカージャック11とそれぞれ対称な形状のニードルプレート27、可動シンカー30、およびシンカージャック31とを使用して実現される。対称配置では、対向する針床4,5間で、可動シンカー10,30が配置されなくて、隙間同士が対向する部分が生じる。隙間同士の対向部分は、ループプレッサー24などの糸案内部材を作用させる間隙として利用することができる。
【0033】
ループプレッサー24は、後針床5上に支持される補助床から先端部を歯口3に進退することが可能なものを使用する。ただし、補助床の図示は省略する。このようなループプレッサー24は、たとえば国際公開第03/018892号に開示されており、先端部は、両方の針床4,5でそれぞれ編成される編目を押える機能や編糸をフック22a内に案内する機能を有する。
【0034】
なお、同一の可動シンカー10を、前後の針床4,5で共通に使用することもできる。この場合、同一のニードルプレート7を前後の針床4,5で共通に使用する。ただし、前後の針床4,5の可動シンカー10は、歯口3を挟んで対向する対称配置にはならず、交互に配置される。
【0035】
図3は、
図2の横編機2の構成を、(a)で歯口3付近の針床4側を拡大して示し、(b)でその右側面から見た構成を、簡略化して示す。固定シンカー12は、歯口3に臨む先端付近で天歯となる線材15を支持する。図の歯口中心面3a側に設ける小径の挿通孔に挿通可能な細い線材15を用いると、天歯の位置を歯口中心面3a側に近付けることができる。
【0036】
ニードルプレート7の薄肉部7aに形成される揺動支持部7bは、針溝20で編針21が収容される底部付近で、編針21と並ぶ高さの範囲に形成される。これによって、可動シンカー10の揺動支承部10aは、針溝20側の側面を編針21によって支持される。シンカージャック11は、広幅部11aから歯口3に向う方向に延びる先端部11dを有する。先端部11dは、針溝20に収容されて進退可能な幅に形成され、針溝20で編針21の上方に配置されて、ばね13の針溝20側の側面を支持する。
【0037】
特許文献2、3に開示されているような可動シンカーを用いる場合でも、本実施例の考え方を適用して、シンカージャックを変更して、針溝20側の側面をシンカージャックと編針21とで押え、スペーサーを省略することができる。スペーサーを省略することで、針溝20でシンカージャックを収容する空間として、スペーサーが占めていた、編針21の上方となる針溝20の部分まで利用することができる。また、本実施例では、ニードルプレート7に設ける薄肉部7aは、編針21が可動シンカー10を支持する部分まで下げて形成することができることからも、嵩が高くならないようにすることができる。このように、シンカージャック11および編針21も可動シンカー10を針溝20側の側面から押えるために使用することで、配置スペースも適切に確保することができる。
【0038】
可動シンカー10のばね13は、作用腕10bから、押え板14の下方で揺動支承部10aとの間を通り、駆動受け部10f付近で折返し、押え板14の上方を通って作用腕10bの上方まで延びる先端部13cが薄肉部7aの上部7cに当接する。なお、ばね13は、押え板14の下面に向って膨らみ、上端で押え板14の下面に当接する当接部13aと、折返し部13bとを有する。当接部13aが押え板14の下面に当接することで、可動シンカー10の上方への規制を行い、揺動時の支持も行う。このようにして、可動シンカー10のばね13を、ニードルプレート7に貫通させる押え板14の下方と上方とに形成される空間を利用して、薄肉部7aに収容することができる。
【0039】
図4は、
図1のシンカー装置1を備えた横編機2を形成するシンカージャック11を(a)、可動シンカー10を(b)、ニードルプレート7を(c)、および固定シンカー12を(d)で、平面図および正面図としてそれぞれ示す。ただし、
図4(c)のニードルプレート7については右側面図も示す。ニードルプレート7と固定シンカー12とは、同等の厚さを有する。ニードルプレート7には、薄肉部7aが設けられ、可動シンカー10を収容する。ニードルプレートの薄肉部7aには、シンカージャック11の広幅部11aで針溝20から側方にはみ出す部分も収容される。シンカージャック11では、前端側の先端部11d、および後端側のバット11bと基部11eとが、編針21と同様に、針溝20に収容され、針溝20内で編針21の直上で積層配置される。固定シンカー12では、度決め部12aを含む先端側で、両側方から厚みを減少させている。
【0040】
図5は、
図1のシンカー装置1を備えた横編機2を駆動するために、キャリッジに搭載するカム40の例を(a)で簡略化して示し、カム40で駆動されるシンカージャック11および編針21の一部を(b)で示す。カム40は、編針21の針本体22の後端に結合部25aで結合して、駆動を受けるバット25bを有するニードルジャック25を駆動する編成カムとして、天山カム41、ニードルレイジングカム42および度山カム43,44を有する。カム40には、スライダー23の基体23cのバット23d,23eを駆動するスライダーカムも設けられるけれども、図示を省略する。カム40には、さらに、シンカージャック11のバット11bを駆動するシンカーカム45が設けられる。シンカーカム45には、左右に配置される固定ガイド部45a,45bと、中央に配置されて、左右に移動可能な移動ガイド部45cとが設けられる。移動ガイド部45cは、バット11bに押されると、シンカーカム45の中央に設けられる移動範囲45dの左端45eと右端45fとの間を移動する。
【0041】
カム40を搭載するキャリッジが図に対して左方に移動し、バット25bがニットルート25xに沿って右方に案内される場合を想定する。キャリッジが右方に移動してから反転して左方に移動する場合、移動ガイド部45cは左端45e側に寄って待機している。キャリッジの右方への移動の最後で、カム40は、シンカージャック11を、可動シンカー10が編糸受け部10dで編目を押下げる閉状態になるように後退させる。キャリッジが左方に移動すると、シンカージャック11のバット11bは、シンカーカム45によって、ルート11xに沿うように案内される。シンカージャック11が後退していれば、バット11bはルート11xに沿って、後退位置を保つように案内される。バット11bがルート11xよりも前進しているような場合は、最初に、位相A−Aで、左方の固定ガイド部45aの作用を受けてシンカージャック11を後退させる。後退位置では、可動シンカー10が
図1(b)に示すような閉状態となり、編糸受け部10dが編目を押える。位相B−Bから位相C−Cにかけて、バット25bは、ニードルレイジングカム42の上昇カム面で案内され、フック22aを歯口3に、給糸可能な位置まで進出させる。フック22aは、鈎口先端がブレード23a,23bの先端から離れて歯口3側に前進し、フック22aの鈎口が開く。フック22a内に係止されていた編目は、フック22aの鈎口からブレード23a,23bの先端側に移動し、編目は付き上がることなくクリアされる。
【0042】
移動ガイド部45cが左端45eに寄って待機していれば、バット11bが移動ガイド部45cを右端45fまで右方に移動させる。右端45fに移動した移動ガイド部45cは停止し、バット11bは上昇カム面の作用を受け、シンカージャック11を前進させ、位相D−Dまでに、可動シンカー10を
図1(a)に示す開状態にする。開状態は、位相F−Fまで続く。ニットルート25xに沿うニードルジャック25の案内で、編針21は、フック22aを歯口3に最も進出させる中央位置40aを通ってから、後退する。位相D−Dから位相E−Eで、編針21は、フック22aに編糸が給糸され、バット25bが天山カム41および度山カム44の下降カム面で案内されて、新たな編目を形成する。編目形成の際の度決めには可動シンカー10が関与しないで、固定シンカー12の度決め部12aのみが使用される。固定シンカー12の使用で、編目形成時の度決めやノックオーバーを高精度に行うことができる。
【0043】
編針21の後退で、フック22aの鈎口は、ブレード23a,23bの先端で閉じられ、ブレード23a,23bの先端側に移動していた編目は、フック22aを乗越えて歯口3内にノックオーバーされる。位相F−F以降は、針床に引込んだフック22aを戻す際に、可動シンカー10も閉状態に戻して、新たな編目を押えさせる。キャリッジが通り過ぎて、バット11bがシンカーカム45で駆動されなくなっても、可動シンカー10は、ばね13で付勢されるので、閉状態は保持される。