特許第6223215号(P6223215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧

特許6223215光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法および該製造方法により得られる光応答性架橋型液晶高分子フィルム
<>
  • 特許6223215-光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法および該製造方法により得られる光応答性架橋型液晶高分子フィルム 図000012
  • 特許6223215-光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法および該製造方法により得られる光応答性架橋型液晶高分子フィルム 図000013
  • 特許6223215-光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法および該製造方法により得られる光応答性架橋型液晶高分子フィルム 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223215
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法および該製造方法により得られる光応答性架橋型液晶高分子フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20171023BHJP
   C08F 2/00 20060101ALI20171023BHJP
   C08F 220/36 20060101ALI20171023BHJP
   C08F 220/30 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   C08J5/18CEY
   C08F2/00 C
   C08F220/36
   C08F220/30
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-17808(P2014-17808)
(22)【出願日】2014年1月31日
(65)【公開番号】特開2015-145450(P2015-145450A)
(43)【公開日】2015年8月13日
【審査請求日】2016年11月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100090343
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 百合子
(74)【代理人】
【識別番号】100119552
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 公秀
(72)【発明者】
【氏名】松尾 直之
(72)【発明者】
【氏名】須藤 剛
【審査官】 久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−262195(JP,A)
【文献】 特表2007−522533(JP,A)
【文献】 特開2008−239873(JP,A)
【文献】 特開2002−256031(JP,A)
【文献】 特開2003−238962(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0160213(US,A1)
【文献】 特表2006−526165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00−5/02、5/12−5/22
C08F 2/00−2/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能液晶性モノマー、単官能液晶性モノマー、多官能光応答性モノマー、光重合開始剤および溶媒を少なくとも含有する光重合性モノマー溶液を、前記溶媒の蒸気圧が100mmHg以下の条件でウェットコーティング法により配向膜上に塗布し、溶媒を除去し、光重合性膜を形成する工程と、
非酸素雰囲気下、前記光重合性膜に対して光照射を行い、前記光重合性モノマーを重合させ、フィルムを形成する工程と
を有する、光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記多官能光応答性モノマーが、アゾベンゼン構造を有する多官能光応答性モノマーである、請求項1に記載の光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記溶媒が、テトラヒドロフラン、トルエン、メチルエチルケトン、ジクロロメタン、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、メチルセロソルブ、酢酸エチル、酢酸ブチル、キシレン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルイソブチルケトン、ベンゼン、ノルマルヘキサン、エチレングリコール、メトキシプロピルアセテート、N−メチル−2−ピロリドン、ホルミルジメチルアミン、シクロヘキサン、アセトン、メタノールおよびエタノールから選択される少なくとも1種である、請求項1または請求項2に記載の光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記フィルムを形成する工程が、窒素ガス雰囲気下で行われる、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記フィルムを形成する工程が、カバー材料で前記光重合性膜を被覆することなく行われる、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法。
【請求項6】
支持体上に25cm以上の前記配向膜を設け、25cm以上の大面積のフィルムを形成する、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法。
【請求項7】
モノマー単位として多官能液晶性モノマー、単官能液晶性モノマーおよび多官能光応答性モノマーを含有する、厚みが1μm〜30μmであり、25cm以上の大面積の光応答性架橋型液晶高分子フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法および該製造方法により得られる光応答性架橋型液晶高分子フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
光応答性を有する液晶高分子フィルムは、液晶性に基づく異方性と高分子の成形加工性を兼ね備えた高機能性材料であり、応用研究が盛んに行われ、広範囲な分野での実用化が期待されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、架橋液晶高分子フィルムの光運動におけるアゾベンゼン架橋剤の分子長効果が報告されている。
【0004】
また、特許文献1には、紫外線や可視光の照射により可逆的に異性化し得るフォトクロミック分子を含有する架橋液晶高分子成形体を備える光駆動型アクチュエータが開示されている。また、特許文献2には、前記架橋液晶高分子成形体を無端状ベルトの形状に成形した光駆動型回転子が開示されている。
【0005】
ここで、従来の液晶高分子フィルムの製造には、以下に示すような煩雑な工程が必要となる。
【0006】
図2は、従来の液晶高分子フィルムの製造方法の概略を示す工程図である。
従来の液晶高分子フィルムの製造方法は、原料調製工程、セル作製工程、光重合工程および採取工程を有する。原料調製工程においては、液晶材料、光重合開始剤等を含む各原料を配合し(S101)、減圧乾燥する(S102)。
【0007】
得られた原料混合物は、通常粉体であり、以下で説明する光重合工程で使用される。一方で、この原料混合物を重合させるためのセル(基板)を作製しておく。セル作製工程では、セルの構成材料であるガラス基板を洗浄し(S103)、ポリイミドを塗布し配向膜を成膜する(S104)。得られた配向膜はアニール処理され(S105)、ラビング処理が施される(S106)。
【0008】
このようにして作製した配向膜付きガラス基板を2枚用意し、これらのガラス基板同士を貼り合わせ、セル(基板)を作製する(S107)。続いて、光重合工程において、まずセル作製工程で得られたセルを加温し(S108)、原料調製工程で得られた粉体の状態の原料混合物を熔融し、セルの2枚のガラス基板間に毛細管現象を利用して注入し(S109)、降下温度を厳密に制御しながらセルを冷却し(S110)、光照射を行い原料を光重合させる。重合完了後、採取工程にて、ガラス基板からなるセルを破壊し(S112)、液晶高分子フィルムを採取する(S113)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5224261号公報
【特許文献2】特許第5067964号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】佐々木隆太、間宮純一、木下基、宍戸厚、池田富樹、「架橋液晶高分子フィルムの光運動におけるアゾベンゼン架橋剤の分子長効果」、第60回高分子討論会(2011年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来の液晶高分子フィルムの製造には、以下のような問題点がある。(1)かなりの手間と長い時間(およそ2日間)を必要とする割には、少量のフィルムしか得られない;(2)連続生産が困難である;(3)ガラス基板を使用するという理由から、大面積化が困難である;(4)セルの2枚のガラス基板間に毛細管現象を利用して原料混合物を注入することから、フィルムの膜厚を制御しにくい。
また、良好な光応答性を発現させるためにフィルムの膜厚を厚くしようとすると、厚み方向への配向規制力が及ばず、分子の配向が乱れて、フィルムが白濁してしまうという問題点もある。
【0012】
したがって本発明の目的は、前記のような従来技術の課題を解決し、製造上の煩雑さを解消し、簡単に、短時間で、かつ良好な膜厚の制御を達成しながら、大面積化されたフィルムの連続生産を可能にするとともに、フィルムの白濁を防止しつつ厚膜化を達成し良好な光応答性を有する、光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、溶媒の蒸気圧が100mmHg以下の条件下、ウェットコーティング法により光重合性モノマー溶液を配向膜上に塗布することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
【0014】
すなわち本発明は、以下の通りである。
1.多官能液晶性モノマー、単官能液晶性モノマー、多官能光応答性モノマー、光重合開始剤および溶媒を少なくとも含有する光重合性モノマー溶液を、前記溶媒の蒸気圧が100mmHg以下の条件でウェットコーティング法により配向膜上に塗布し、溶媒を除去し、光重合性膜を形成する工程と、
非酸素雰囲気下、前記光重合性膜に対して光照射を行い、前記光重合性モノマーを重合させ、フィルムを形成する工程と
を有する、光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法。
2.前記多官能光応答性モノマーが、アゾベンゼン構造を有する多官能光応答性モノマーである、前記1に記載の光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法。
3.前記溶媒が、テトラヒドロフラン、トルエン、メチルエチルケトン、ジクロロメタン、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、メチルセロソルブ、酢酸エチル、酢酸ブチル、キシレン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルイソブチルケトン、ベンゼン、ノルマルヘキサン、エチレングリコール、メトキシプロピルアセテート、N−メチル−2−ピロリドン、ホルミルジメチルアミン、シクロヘキサン、アセトン、メタノールおよびエタノールから選択される少なくとも1種である、前記1または2に記載の光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法。
4.前記フィルムを形成する工程が、窒素ガス雰囲気下で行われる、前記1〜3のいずれか一つに記載の光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法。
5.前記フィルムを形成する工程が、カバー材料で前記光重合性膜を被覆することなく行われる、前記1〜4のいずれか一つに記載の光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法。
6.支持体上に25cm以上の前記配向膜を設け、25cm以上の大面積のフィルムを形成する、前記1〜5のいずれか一つに記載の光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法。
7.モノマー単位として多官能液晶性モノマー、単官能液晶性モノマーおよび多官能光応答性モノマーを含有する、厚みが1μm〜30μmであり、25cm以上の大面積の光応答性架橋型液晶高分子フィルム。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法では、特に、光重合性モノマー溶液をウェットコーティング法により配向膜上に塗布して形成した光重合性膜を光重合させているので、従来技術のようにガラス基板を用いる必要がなく、また、光重合性膜の形成速度および制御も容易となるとともに、大面積化も可能となる。さらに、本発明の製造方法では、溶媒の蒸気圧が100mmHg以下の条件下、ウェットコーティング法により光重合性モノマー溶液を配向膜上に塗布し光重合性膜を形成している。溶媒の蒸気圧を低く抑えることにより、液晶性モノマーの配向に十分な時間が確保され、フィルムの白濁を防止しつつ厚膜化(例えば、1μm以上)を達成し良好な光応答性を提供することができる。
【0016】
したがって本発明によれば、製造上の煩雑さを解消し、簡単に、短時間で、かつ良好な膜厚の制御を達成しながら、大面積化されたフィルムの連続生産を可能にするとともに、フィルムの白濁を防止しつつ厚膜化を達成し良好な光応答性を有する、光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法を提供することができる。
【0017】
またアゾベンゼン構造を有する多官能光応答性モノマーを使用する形態によれば、光エネルギーを運動エネルギーに変換可能な光機能性材料を、簡単に、短時間で、かつ膜厚の制御を達成しながら、大面積でもって、良好な光応答性を付与しつつ連続生産することが可能となる。特にアゾベンゼン構造を有する多官能光応答性モノマーは、溶液状態における液晶分子の自由度が低く、液晶分子を所望の方向に配向させることが困難であったため、ウェットコーティング法を採用し難く、従来は前記図2で示すような原料調製工程、セル作製工程、光重合工程および採取工程を採用していたが、本発明によりアゾベンゼン構造を有する多官能光応答性モノマーを使用した場合であってもウェットコーティング法を採用可能であり、上記のような顕著な効果を奏することができる。
【0018】
また、溶媒が、テトラヒドロフラン、トルエン、メチルエチルケトン、ジクロロメタン、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、メチルセロソルブ、酢酸エチル、酢酸ブチル、キシレン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルイソブチルケトン、ベンゼン、ノルマルヘキサン、エチレングリコール、メトキシプロピルアセテート、N−メチル−2−ピロリドン、ホルミルジメチルアミン、シクロヘキサン、アセトン、メタノールおよびエタノールから選択される少なくとも1種である形態によれば、フィルムの白濁を防止しつつさらなる厚膜化を達成し、一層優れた光応答性を付与することができる。
【0019】
また、フィルムを形成する工程を、窒素ガス雰囲気下で行う形態によれば、非酸素雰囲気を低コストで準備することが可能となる。
【0020】
また、フィルムを形成する工程を、カバー材料で光重合性膜を被覆することなく行う形態によれば、フィルム形成に伴う手間およびコストを一層減じることができる。従来技術では、カバー材がなければ(両面を配向膜で囲わなければ)、液晶分子の配向性を充分に確保できないという問題があったが、驚くべきことに、本発明の方法によりカバー材料を用いなくても(配向膜を片面のみ使用しても)、液晶分子の充分な配向性が得られる。また、従来、カバー材料で光重合性膜を被覆すると、液晶分子の凹凸に起因して酸素が残存し、非酸素雰囲気状態としてもこの残存酸素によって光重合反応が阻害されるが、本発明の当該形態では、このような残存酸素の悪影響を防止できる。
【0021】
また、支持体上に25cm以上の配向膜を設ける形態では、従来にない25cm以上の大面積の光応答性架橋型液晶高分子フィルムを製造することができる。またその厚みも1μm〜30μmであることができ、良好な光応答性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の製造方法の概略を示す工程図である。
図2図2は、従来の液晶高分子フィルムの製造方法の概略を示す工程図である。
図3図3(a)および(b)は、本発明により得られたフィルムの構造を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法は、多官能液晶性モノマー、単官能液晶性モノマー、多官能光応答性モノマー、光重合開始剤および溶媒を少なくとも含有する光重合性モノマー溶液を、前記溶媒の蒸気圧が100mmHg以下の条件でウェットコーティング法により配向膜上に塗布し、溶媒を除去し、光重合性膜を形成する工程(光重合性膜の形成工程)と、非酸素雰囲気下、前記光重合性膜に対して光照射を行い、前記光重合性モノマーを重合させ、フィルムを形成する工程(フィルムの形成工程)とを有する。
【0024】
(光重合性膜の形成工程)
本発明で使用される光重合性モノマー溶液は、溶媒中に、多官能液晶性モノマー、単官能液晶性モノマー、多官能光応答性モノマーおよび光重合開始剤を溶解させて得られる。
【0025】
これらのモノマー類としては、末端に重合性基を有し、これに環状単位等からなるメソゲン基を有するもの等が好適なものとして挙げられる。メソゲン基となる前記環状単位としては、たとえば、ビフェニル系、フェニルベンゾエート系、フェニルシクロヘキサン系、アゾキシベンゼン系、アゾメチン系、アゾベンゼン系、フェニルピリミジン系、ジフェニルアセチレン系、ジフェニルベンゾエート系、ビシクロへキサン系、シクロヘキシルベンゼン系、ターフェニル系等が挙げられる。なお、これら環状単位の末端は、たとえば、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
また、モノマー類は、屈曲性を付与するスペーサー部を介して結合していてもよい。スペーサー部としては、ポリメチレン鎖、ポリオキシメチレン鎖等が挙げられる。スペーサー部を形成する構造単位の繰り返し数は、メソゲン部の化学構造により適宜に決定されるがポリメチレン鎖の繰り返し単位は0〜20、好ましくは2〜12、ポリオキシメチレン鎖の繰り返し単位は0〜10、好ましくは1〜3である。
【0026】
これらのモノマー類に含まれる官能基としては、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、ビニルオキシ基、ビニル基、又はエポキシ基等の重合性基が挙げられるが、容易に重合できることから、(メタ)アクリロイルオキシ基や(メタ)アクリルアミド基が好ましい。
【0027】
多官能液晶性モノマーおよび単官能液晶性モノマーは、本発明の効果の観点から、フェニルベンゾエート系化合物であるのが好ましい。
【0028】
多官能液晶性モノマーは、例えば下記式(1)で表すことができる。
【0029】
【化1】
【0030】
(式(1)中、nは3〜9の整数を表す。)
式(1)におけるnは、4〜8の整数が好ましく、5〜7の整数がより好ましい。
【0031】
多官能液晶性モノマーとして、1,4−ビス[4−(6−アクリロイルオキシヘキシルオキシ)ベンゾイルオキシ]−2−メチルベンゼン(式(1)で表される化合物において、nが6である化合物。以下、「C6A」という。)は、例えば、下記スキームのように合成できる。
すなわち、パラヒドロキシ安息香酸エチルにウィリアムソンエーテル合成を行うことにより、化合物1を得、化合物1に脱保護を行うことにより、化合物2を合成する。さらに、化合物2にショッテンバウマン反応を行うことにより、化合物3を得、最後に、化合物3とメチルヒドロキノンを脱水縮合することにより、C6Aを合成する。
【0032】
【化2】
【0033】
また、単官能液晶性モノマーは、例えば下記式(2)で表すことができる。
【0034】
【化3】
【0035】
(式(2)中、nは3〜9の整数を表す。)
式(2)におけるnは、4〜8の整数が好ましく、5〜7の整数がより好ましい。
【0036】
単官能液晶性モノマーとして、4−ヘキシルオキシフェニル4−(6−アクリロイルオキシヘキシルオキシ)ベンゾエート(式(2)で表される化合物において、nが6である化合物。以下、「A6BZ6」という。)は、例えば、下記スキームのように合成できる。
すなわち、ヒドロキノンにウイリアムソンエーテル合成を行うことにより化合物4を得、該化合物4を、上記C6Aの合成のスキームに従い合成した化合物3と脱水縮合することにより、A6BZ6を合成する。
【0037】
【化4】
【0038】
多官能光応答性モノマーとしては、特に限定されず公知のものを用いることができ、例えば、トランス−シス異性化するアゾベンゼン、スチルベン構造等や、開環−閉環光異性化し得るスピロピラン、ジアリール構造等を挙げることができる。中でも、下記式に示すアゾベンゼンは、アゾベンゼン骨格に結合している置換基にもよるが、300〜400nm程度の紫外光を照射すると、棒状のトランス体から屈曲したシス体に異性化する。そして、500〜650nm程度の可視光を照射すると元のトランス体に戻り、異性化の際に分子間距離が大きく変化することから特に好ましい例として挙げることができる。
【0039】
【化5】
【0040】
中でも、本発明の効果の観点から、下記式で表されるアゾベンゼン構造を有する多官能光応答性モノマーが好ましい。
【0041】
【化6】
【0042】
(式(3)中、nは1〜6の整数を表す。)
式(3)におけるnは、2〜5の整数が好ましく、3〜4の整数がより好ましい。
【0043】
多官能光応答性モノマーとして、4,4’−ビス[3−(アクリロイルオキシ)プロピルオキシ]アゾベンゼン(式(3)で表される化合物において、nが3である化合物。以下、「DA3AB」という。)は、例えば、下記スキームのように合成できる。
すなわち、パラニトロフェノールにウイリアムソンエーテル合成を行うことにより、化合物5を得、化合物5を還元することにより、化合物6を得る。化合物6をアゾカップリングすることにより、化合物7を合成する。さらに化合物7に再度ウイリアムソンエーテル合成を行うことにより、化合物8を得る。最後に化合物8にショッテンバウマン反応を行うことにより、DA3ABを合成する。
【0044】
【化7】
【0045】
前記の各種モノマー類を溶解する溶媒は、ウェットコーティング法により光重合性モノマー溶液を配向膜上に塗布する際、蒸気圧が100mmHg以下であることが必要である。蒸気圧が100mmHg以下の溶媒を用いることで乾燥時の溶媒の揮発速度が抑制されるため、厚膜のフィルムを作製する場合であっても、光重合性膜作製時の分子配向性を維持することができ、良好な光応答性を有する光応答性架橋型液晶高分子フィルムを得ることができる。
【0046】
蒸気圧は雰囲気温度により変化するが、一般的な塗布工程の作業環境は、5〜50℃であるので、この温度範囲で蒸気圧が100mmHg以下である溶媒を選択するのが好ましい。さらに好ましい前記蒸気圧は、10〜90mmHg、特に好ましい前記蒸気圧は、15〜80mmHgである。
【0047】
溶媒のある温度における蒸気圧は、例えば下記式(4)で示すアントワンの式を用いて算出される。
log10P[mmHg]=A−B/(t+C) (4)
式(4)において、Pは蒸気圧、tは温度(℃)であり、A,BおよびCは物質に固有なアントワン定数である。
上記式(4)より、蒸気圧(mmHg)は、P=10(A−B/(t+C))により計算できる。
【0048】
本発明で使用される溶媒は、好適には、テトラヒドロフラン、トルエン、メチルエチルケトン、ジクロロメタン、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、メチルセロソルブ、酢酸エチル、酢酸ブチル、キシレン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルイソブチルケトン、ベンゼン、ノルマルヘキサン、エチレングリコール、メトキシプロピルアセテート、N−メチル−2−ピロリドン、ホルミルジメチルアミン、シクロヘキサン、アセトン、メタノールおよびエタノールから選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0049】
本発明において、それのみの蒸気圧が100mmHgを超える溶媒であっても2種以上を混合して用いることができる。溶媒を2種以上混合する場合であっても、溶媒全体の蒸気圧を100mmHg以下に調整することで本発明の方法に好適に用いることができる。なお、混合溶媒の蒸気圧は、混合溶液の各成分の蒸気圧がそれぞれの純液体の蒸気圧と混合溶液中のモル分率の積で表される、という以下のラウールの法則が適用できる。
【0050】
【数1】
【0051】
例えば、溶媒としてテトラヒドロフラン(20℃における蒸気圧129.68mmHg(17,289Pa)、溶媒A)とトルエン(20℃における蒸気圧21.86mmHg(2,914Pa)、溶媒B)の混合溶媒を用いた場合、テトラヒドロフランのモル分率を0.7としたとき、混合溶媒中の溶媒Aの分圧は91mmHg、溶媒Bの分圧は7mmHgとなる。
【0052】
光重合開始剤としては、例えば、例えばベンゾインエーテル系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、α−ケトール系光重合開始剤、芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤、光活性オキシム系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンジル系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、ケタール系光重合開始剤、チオキサントン系重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、チタノセン系光重合開始剤等を用いることができる。光重合開始剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0053】
具体的には、ベンゾインエーテル系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。アセトフェノン系光重合開始剤としては、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン[例えば、商品名「イルガキュア184」(チバスペシャリティーケミカル社製)等]、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−(t−ブチル)ジクロロアセトフェノン等が挙げられる。α−ケトール系光重合開始剤としては、例えば、2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル]−2−メチルプロパン−1−オン等が挙げられる。芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤としては、例えば、2−ナフタレンスルホニルクロライド等が挙げられる。光活性オキシム系光重合開始剤としては、例えば、1−フェニル−1,1−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)−オキシム等が挙げられる。ベンゾイン系光重合開始剤には、例えば、ベンゾイン等が含まれる。ベンジル系光重合開始剤には、例えば、ベンジル等が含まれる。ベンゾフェノン系光重合開始剤は、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、ポリビニルベンゾフェノン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が含まれる。ケタール系光重合開始剤には、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン[例えば、商品名「イルガキュア651」(チバスペシャリティーケミカル社製)等]等が含まれる。チオキサントン系光重合開始剤には、例えば、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、ドデシルチオキサントン等が含まれる。アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、例えば、商品名「ルシリンTPO」(BASF社製)等が含まれる。チタノセン系光重合開始剤としては、例えば商品名「イルガキュア784」(BASF社製)等が含まれる。
【0054】
本発明の光重合性モノマー溶液において、多官能液晶性モノマー(a)、単官能液晶性モノマー(b)、多官能光応答性モノマー(c)の配合割合は、所望のドメインサイズ(例えば0.5μm以上)や架橋密度を考慮して決定すればよいが、例えばモル比として、(a)30〜70モル%、(b)10〜50モル%、(c)10〜40モル%とするのが好ましく、より好ましくは(a)40〜60モル%、(b)20〜40モル%、(c)15〜35モル%である。各モノマーの配合割合が前記範囲であると、混合物の液晶相発現の観点からとなるため好ましい。
【0055】
また、光重合性モノマー溶液において、光重合開始剤の配合割合は、該モノマー類(a),(b),(c)の官能基(重合性基)の総モル数に対して、例えば1〜10モル%とするのが好ましく、より好ましくは2〜5モル%である。光重合開始剤の配合割合が前記範囲であると、反応効率及び分子量制御の観点からとなるため好ましい。
【0056】
なお、光重合性モノマー溶液には、必要に応じて公知の各種添加剤を配合することもできる。添加剤としては、例えば、レベリング剤、カーボンナノチューブ,フラーレン,グラフェンなどの有機系ナノ材料、及び金,銀,銅,シリカなどの無機系ナノ材料等が挙げられる。
【0057】
また、本発明の光重合性モノマー溶液において、多官能液晶性モノマー、単官能液晶性モノマー、多官能光応答性モノマーおよび光重合開始剤並びに必要に応じて使用される添加剤は、溶媒中に例えば0.01〜0.20質量%の範囲で溶解するのが好ましく、0.02〜0.10質量%の範囲で溶解するのがより好ましい。溶媒に溶解させる全成分の配合量が前記範囲であると、塗工時の溶液粘度調整の観点からとなるため好ましい。
【0058】
光重合性モノマー溶液の調製方法としては、公知の方法により調製できるが、例えば、溶媒に多官能液晶性モノマー、単官能液晶性モノマー、多官能光応答性モノマーおよび光重合開始剤を添加し、必要により加温して、撹拌混合することにより調製することができる。
【0059】
得られた光重合性モノマー溶液はウェットコーティング法により配向膜上に塗布し、光重合性膜を形成する。
ウェットコーティング法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。
【0060】
配向膜としては、特に制限はないが、光重合性モノマー溶液のぬれ性に優れ、多官能液晶性モノマーおよび単官能液晶性モノマーを特定の方向に配向させることができるものが好ましい。このような配向膜として、具体的には、例えば、ポリアミド、ポリイミド、レシチン、シリカ、ポリビニルアルコール、エステル変性ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルのケン化度を調節したポリマー、シランカップリング剤等を塗布等して形成した配向膜を挙げられことができる。また、前記基材の表面をそのままラビング処理してもよい。
【0061】
配向処理の方法としては、例えば、ラビング処理、斜方蒸着処理、マイクログルーブ法、延伸高分子膜法等を挙げることができる。製造工程の容易さや配向均一性の高さの観点においては、配向処理法として、ラビング処理を用いることが好ましい。
【0062】
塗布の厚さとしては、フィルムの使用目的により適宜調整すればよく、例えば溶媒除去後の厚みが1〜30μmとなるように塗布すればよい。
【0063】
形成された塗膜は、乾燥により溶媒を除去することが望ましい。乾燥温度としては、使用する溶媒により適宜調整すればよいが、ポリビニルアルコールを用いた場合、例えば80〜120℃が好ましく、乾燥時間としては、例えば60〜240秒が好ましい。また、溶媒に水を用いた場合、例えば90〜110℃が好ましく、乾燥時間としては、例えば100〜200秒が好ましい。前記範囲の条件で乾燥することで残存溶媒を低減させることができる。
この乾燥工程により光重合性モノマー溶液から形成された膜表面の分子が一方向に沿って並ぶ。
【0064】
(フィルムの形成工程)
フィルムを形成する工程では、非酸素雰囲気下、光重合性膜に対して光照射を行い、光重合性モノマーを重合させる。
ここで本発明でいう非酸素雰囲気下とは、実質的に酸素を含まない、例えば、酸素濃度が500ppm以下であることが好ましく、より好ましくは200ppm以下、更に好ましくは100ppm以下である。中でも、非酸素雰囲気を低コストで準備できるという観点から、窒素ガス雰囲気下でフィルムを形成するのが好ましい。
光照射は、光重合開始剤を活性化させて、モノマー成分の反応を生じさせることができればよい。エネルギー線の照射装置としては、慣用のものを使用できる。例えば、紫外線を照射する場合には、水銀灯、蛍光灯、ナトリウムランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ネオン管、ネオンランプ、高輝度放電灯などを用いることができる。
【0065】
本発明では、カバー材料で前記光重合性膜を被覆することなく、光重合性モノマーを重合させることができる。これにより、フィルム形成に伴う手間およびコストを一層減じることができる。従来技術では、カバー材を用いて光重合性膜の両面を配向膜で囲わなければ、液晶分子の配向性を充分に確保できないという問題があった。しかし本発明では、カバー材料での被覆を省略しても(配向膜を片面のみ使用しても)、液晶分子の充分な配向性が得られる。なお、従来技術では、カバー材料で光重合性膜を被覆すると、液晶分子の凹凸に起因して酸素が残存し、その後に非酸素雰囲気状態を提供してもこの残存酸素によって光重合反応が阻害されるが、本発明では、このような残存酸素の悪影響を防止することができる。
【0066】
本発明では、従来にはない、25cm以上の大面積の光応答性架橋型液晶高分子フィルムを提供することができる。
このような大面積の光応答性架橋型液晶高分子フィルムは、支持体上に25cm以上の配向膜を設け、前記の光重合性膜の形成工程およびフィルムの形成工程を行えばよい。
【0067】
支持体の材質としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー等の汎用性高分子、エラストマー、あるいはシリコンゴム、金属薄膜、紙等の公知の材料を用いることができる。
なお配向膜および支持体の形状は特に制限されない。
また本発明の25cm以上の大面積の光応答性架橋型液晶高分子フィルムの厚みは、良好な光応答性を提供するという観点から、例えば1μm〜30μmであり、好ましくは2〜20μmである。
【0068】
以下、本発明の光応答性架橋型液晶高分子フィルムの製造方法を図1により説明する。
図1は、上記で説明した本発明の製造方法の概略を示す工程図である。
光重合性膜の形成工程では、溶媒中に、多官能液晶性モノマー、単官能液晶性モノマー、多官能光応答性モノマーおよび光重合開始剤を溶解させ、原料混合物を調製する(S10)。続いて、配向膜を準備し(S11)、ラビング処理を行い(S12)、上記で調製した原料混合物をウェットコーティング法により配向膜上に塗布し、溶媒を除去し、光重合性膜を形成する(S13)。
フィルムの形成工程では、非酸素雰囲気下、光重合性膜に対して光照射を行い、前記光重合性モノマーを重合させ(S14)、形成したフィルムを採取する(S15)。
【0069】
このように、本発明の製造方法は、図2で示すような従来の液晶高分子フィルムの製造工程における問題点を解決し、(1)短時間(例えば1時間以内)で、(2)連続生産を可能とし、(3)大面積化を達成でき、(4)ウェットコーティング法を採用することから、フィルムの膜厚を制御しやすい、という効果を奏する。
さらに本発明の製造方法は、蒸気圧が100mmHg以下の溶媒を用いて、ウェットコーティング法により光重合性モノマー溶液を配向膜上に塗布し光重合性膜を形成しているため、配向膜上で液晶性モノマーが配向するのに十分な時間が確保され、厚み方向への配向規制力が及ぶようになり、フィルムを白濁させることなく、良好な光応答性を提供することができる。
【0070】
本発明の光応答性架橋型液晶高分子フィルムは、液晶の配向に直接関与するハードコア部であるメソゲンの配向可能領域たるドメイン領域が存在し、図3に示すように高分子骨格が三次元網構造30を形成している。これにより、配向したメソゲンが高分子マトリックス内に緩やかに拘束され、高分子骨格の動きがメソゲンの配向と強く相関した構造となる。架橋構造は、長距離に亘って配向秩序が保たれた構造をとっていることがより好ましい。
上記のように、多官能光応答性モノマーとしてアゾベンゼン構造を有するモノマー32を採用した場合、紫外光を照射すると、図3(a)で示す棒状のトランス体から図3(b)で示す屈曲したシス体に異性化する。そして異性化したアゾベンゼンに可視光を照射すると元のトランス体に戻る。トランス体からシス体への異性化によって、メソゲンの配向秩序が低下し、矢印Aに示すように異方的収縮が誘起される。なお図3中、34は多官能液晶性モノマーであり、36は単官能液晶性モノマーである。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0072】
〔実施例1〕
(光重合性膜を形成する工程)
光重合性モノマー溶液として、以下の各モノマーを使用した。
多官能液晶性モノマー:C6A(上記スキームにより作製)
単官能液晶性モノマー:A6BZ6(上記スキームにより作製)
多官能光応答性モノマー:DA3AB(上記スキームにより作製)
光重合開始剤:下記式で表されるBASF社製チタノセン系光重合開始剤(商品名「イルガキュア784」)
【0073】
【化8】
【0074】
溶媒:テトラヒドロフラン(THF)(アントワン式から20℃での蒸気圧Pは129.68mmHgであり、10℃での蒸気圧Pは、80.58mmHgである。)
添加剤:BYK−Chemie社製レベリング剤(商品名「BYK361」)
【0075】
光重合性モノマー溶液中、多官能液晶性モノマー:単官能液晶性モノマー:多官能光応答性モノマーは、60:20:20(モル%)の割合で混合した。光重合開始剤は、該モノマー類の官能基(重合性基)の総モル数に対して2モル%となるように配合した。レベリング剤は、光重合性モノマー溶液全体に対して0.05質量%となるように配合した。これら各原料の全体の濃度が15質量%となるようにTHFに溶解し、攪拌機で1時間撹拌し、光重合性モノマー溶液を調製した。
【0076】
以下に光重合性モノマー溶液に配合した各原料の詳細を示す。
【0077】
【表1】
【0078】
続いて、支持体として、ケン化処理したTAC(富士フィルム社製トリアセチルセルロース、40μm厚)を用いた。
前記TACに対して、ポリビニルアルコール(PVA)水溶液(JVP社製VC−10、完全ケン化型、5wt%水溶液)をワイヤーバー#5で塗工・成膜し、100℃、3分の条件で乾燥オーブンへ投入、乾燥させて、TAC上にPVA膜を成膜した。成膜したPVA膜面をレーヨン製の布で一方向に5回ほど擦り、ラビング処理を施して、液晶分子を配向させる配向膜を得た。なお、次のウェットコーティングの際に光重合性モノマー溶液のハジキを抑制する目的で、キーエンス社製イオナイザーSJ−F305を用い、上記TACおよびPVA膜の除電処理を行った。
続いて、光重合性モノマー溶液を、10℃の雰囲気下、ワイヤーバー#9で前記PVA配向膜上に塗布し、50℃、3分の条件で乾燥オーブンにて乾燥させて溶媒を除去し、光重合性膜(TAC/PVC膜/光重合性膜)を得た。溶媒除去後、ドライ状態(製膜後)の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、光重合性膜の厚みは1.1μmであった。
【0079】
(フィルムの形成工程)
次に、窒素パージ(酸素濃度≦100ppm)されたパージボックス内へ前記TAC/PVC膜/光重合性膜を投入し、波長フィルタ(渋谷光学社製ロングパスフィルタ、OG530、3mm厚及び渋谷光学社製熱線吸収フィルタ、KG5、2mm厚)を介して500乃至600nmの波長を有する光が選択的に透過する状態として、且つ被照射面にて2〜3mW/cmの照射エネルギー密度となるように出力調整をした超高圧水銀ランプ(ジャテック社製UV−CURE850)を光重合性膜へ約30分照射して光重合性モノマーを重合させ、200mm×300mmサイズのフィルムを形成した。
【0080】
得られたフィルムについて、以下の評価を行なった。
(1)光学特性
(1−1)ヘイズメータで測定したところ、波長590nmにおいて透過率88%、ヘイズ1.1%の透明度及び配向性の高いフィルムであることが確認できた。
(1−2)走査型電子顕微鏡(SEM)で、凍結ミクロトームにて断面出しを行ったサンプルフィルムの成膜部の厚み測定を行ったところ、1.1μm厚程度の厚みを有することが確認された。
【0081】
(2)光応答性
<測定条件>
装置:TA Instruments社製粘弾性計測装置RSA IIIの引張モード
サンプル:TACに含まれるUV吸収剤による評価ばらつきを排除する目的で、アクリル系粘着剤(25mm厚)/PET(ポリエチレンテレフタレート、25mm厚)/アクリル系粘着剤(25mm厚)からなる基材に、重合した光応答性架橋型液晶高分子層を転写して、被評価検体とした。
被評価検体セッティング条件:被評価検体幅5mm、チャック間距離10mm、歪み0.1%(一定)
UV照射条件:被評価検体をチャッキングして0.1%歪みを与えて、10分待機したのち、チャッキング部全面に対して波長365nm、照射エネルギー密度80mW/cmの条件でUV(紫外線)を照射した。UV照射によって光応答性架橋型液晶高分子層のアゾベンゼンが異性化し、それに伴ってサンプルが屈曲する応力を評価した。
発生応力の定義:UV照射前の応力と照射後の応力最大値の差が光応答によって発生した応力[MPa]と定義付けた。
【0082】
上記の条件で評価した結果、被評価検体は、12.2MPaの高い発生応力を示した。
【0083】
〔実施例2〕
実施例1において、光重合性モノマー溶液における溶媒として、以下の2種類の溶媒AおよびBからなる混合溶媒を使用した。光重合性モノマー溶液の塗布時の雰囲気温度を20℃とし、実施例1と同様にして光応答性架橋型液晶高分子フィルムを作製した。
溶媒A:テトラヒドロフラン(沸点66℃、20℃における蒸気圧129.68mmHg、モル分率0.7)
溶媒B:トルエン(沸点110℃、20℃における蒸気圧21.86mmHg)
混合溶媒の分圧(ラウールの法則より算出):溶媒Aの分圧91mmHg、溶媒Bの分圧7mmHg
【0084】
ヘイズメータで測定した光学特性は、波長590nmにおいて透過率88%、ヘイズ1.0%の透明度及び配向性の高いフィルムであることが確認できた。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いる成膜部の厚み測定では、1μm厚程度の厚みを有することが確認された。
また、光応答性の試験において、本実施例2の被評価検体は、13.0MPaの高い発生応力を示した。
【0085】
〔実施例3〕
実施例1において、光重合性モノマー溶液における溶媒として、以下の2種類の溶媒AおよびBからなる混合溶媒を使用した。光重合性モノマー溶液の塗布時の雰囲気温度を20℃とし、実施例1と同様にして光応答性架橋型液晶高分子フィルムを作製した。
溶媒A:テトラヒドロフラン(沸点66℃、20℃における蒸気圧129.68mmHg、モル分率0.75)
溶媒B:シクロヘキサノン(沸点155℃、20℃における蒸気圧1.95mmHg)
混合溶媒の分圧(ラウールの法則より算出):溶媒Aの分圧97mmHg、溶媒Bの分圧0.5mmHg
【0086】
ヘイズメータで測定した光学特性は、波長590nmにおいて透過率89%、ヘイズ1.2%の透明度及び配向性の高いフィルムであることが確認できた。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いる成膜部の厚み測定では、1.1μm厚程度の厚みを有することが確認された。
光応答性の試験において、本実施例3の被評価検体は、12.8MPaの高い発生応力を示した。
【0087】
〔比較例1〕
光重合性モノマー溶液を、20℃の雰囲気下、ワイヤーバー#9でPVA配向膜上に厚さ1.2μmとして塗布したこと以外は実施例1と同様にして光応答性架橋型液晶高分子フィルムを作製した。なお、THFの20℃の蒸気圧Pは、アントワン式から129.88mmHgである。
【0088】
フィルムは白濁していることが目視から判断され、波長590nmにおいて透過率65.5%、ヘイズ12%であった。また光応答性の試験において、比較例1の被評価検体は、6MPaの発生応力を示した。
【0089】
〔比較例2〕
図2で説明した従来技術に従い、フィルムを製造した。その結果、実施例1と同等の特性を示す光応答性架橋型液晶高分子フィルムが製造できたが、製造時間がかかり(実施例1より25時間以上かかった)、サイズは10mm×10mmと小さく、実用性に乏しいものであった。また、比較例1の被評価検体の膜厚は19μmであり、5MPaの発生応力を示した。
【0090】
(参考例1)
塗布環境温度を20℃にし(溶媒の蒸気圧:129.68mmHg)、ワイヤーバーを#4へ変更し、塗工・乾燥を累積3回繰り返して積層製膜する事以外は実施例1と同様の方法で光応答性架橋型液晶高分子を製造した。得られた塗膜をヘイズメータで測定したところ、波長590nmにおいて透過率88.4%、ヘイズ1.2%の透明度及び配向性の高い製膜(厚み1μm)が出来ている事を確認したが、本発明に対して塗工・乾燥工程を繰り返し行っている為に所望の塗膜を得るのに時間を有した。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の製造方法は、製造上の煩雑さを解消し、簡単に、短時間で、かつ良好な膜厚の制御を達成しながら、大面積化されたフィルムを連続生産することができ、また良好な光応答性を達成した光応答性架橋型液晶高分子フィルムを提供でき、得られたフィルムは、例えばアクチュエータ、プラスチックモータ、マイクロ流路(バルブ)、ロボットアーム等に有用である。
【符号の説明】
【0092】
30 三次元網目構造
32 アゾベンゼン構造を有するモノマー
34 多官能液晶性モノマー
36 単官能液晶性モノマー
図1
図2
図3