(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来の鉄筋コンクリート柱の構造設計では、地震時等の外力に対して十分な耐力を発現し得るコンクリート強度や配筋量について検討するものの(例えば、特許文献1参照)、軸力に対する座屈破壊の検討を行うことは一般的ではなかった。
【0003】
鉄筋コンクリート柱は、建築基準法施行令第77条第5号によって径長さ比(柱高さ/断面の小径)が15以下に制限されていたため、柱高さ(柱の長さ)に対して十分な大きさの断面寸法(太さ)を有しており、座屈破壊に対して十分な耐力を備えていると考えられていた。
【0004】
また、特許文献2には、地震時の応力が大きくなる部分である柱頭部および柱脚部(高強度部分)と、それ以外の中央部(普通強度部分)において、強度が異なる鉄筋材を主筋として用いた鉄筋コンクリート柱が開示されているが、座屈防止を目的として主筋の高強度部分と普通強度部分が設定されたものではない。
【0005】
ところが、平成23年の建築基準法の法改正により、鉄筋コンクリート柱に座屈が発生しないことが確認されれば、径長さ比を15以上にすることが可能となった。
このような長柱については、オイラー座屈の式を用いて座屈耐力の算定を行うのが一般的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
火災時における鉄筋コンクリート柱は、外部からの加熱により部材表層コンクリートの温度が断面中央に比べて早期に上昇する。その結果、部材表層コンクリートの圧縮強度やヤング係数が低下するため(
図5、
図6参照)、表層部に配置される主筋に作用する応力が増加する。主筋に作用する応力が降伏点を越えて主筋が降伏すると、主筋のヤング係数が急激に低下し、部材全体のヤング係数も大幅に低下する。そのため、常温時に構造設計において座屈しないように設計された鉄筋コンクリート柱であっても、火災時における座屈の発生が懸念される。
【0008】
本発明は、前記の問題点を解決するためになされたものであって、火災などにより加熱された場合であっても、安全性が確保された鉄筋コンクリート柱を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、第一の発明に係る鉄筋コンクリート柱は、主筋の長手方向の中央部は高強度鉄筋からなり、前記主筋の他の部分は前記高強度鉄筋に連結された普通鉄筋からなることを特徴としている。
なお、前記高強度鉄筋と前記普通鉄筋とは、摩擦圧接により接合されているのが望ましい。
【0010】
かかる鉄筋コンクリート柱によれば、座屈が生じやすいとされる長手方向の中央部に高強度鉄筋を配筋して主筋の降伏点が高められているため、座屈耐力を向上させることができる。
また、比較的高価な高強度鉄筋を主筋の中央部のみに採用しているため、コスト低減化を図ることができる。
また、本発明によれば、柱の断面積や鉄筋量を増加させなくても座屈耐力を高めることができるので、材料費や施工時の手間の増加を抑制することができる。
【0011】
また、第二の発明に係る鉄筋コンクリート柱は、長手方向の中央部において、主筋の内側に鉄筋(補強筋)が添設されていることを特徴としている。
【0012】
かかる鉄筋コンクリート柱によれば、補強筋によって主筋の降伏点が高められているため、座屈耐力を向上させることができる。
また、補強筋は、主筋の内側に配筋されているため、外側の主筋に比べ温度上昇が遅いので圧縮強度やヤング係数の低下が遅く座屈耐力の低下を遅らせることができる。さらに、補強筋のかぶり厚さ確保のために柱の断面積を大きくする必要がない。
【発明の効果】
【0013】
本発明の鉄筋コンクリート柱によれば、火災などにより加熱された場合であっても、安全性を確保することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第一の実施形態>
本実施形態では、径長さ比が15を超える鉄筋コンクリート柱1について説明する。
本実施形態の鉄筋コンクリート柱1は、
図1に示すように、断面正方形のコンクリート硬化体2と、コンクリート硬化体の各角部に配筋された主筋3,3,…とからなる。
【0016】
主筋3は、主筋の長手方向中央部が高強度鉄筋3aからなり、その他の部分が普通鉄筋3bからなる。
主筋3を構成する高強度鉄筋3aと普通鉄筋3b,3bは、端面同士を突き合わせた状態で摩擦圧接により接合されている。
【0017】
本実施形態では、高強度鉄筋3aとして、降伏点が高いUSD685を使用し、普通鉄筋3bとしてUSD685よりも降伏点が低いSD490を使用している(
図5参照)。
なお、高強度鉄筋3aおよび普通鉄筋3bを構成する材料は、前記のものに限定されない。
【0018】
高強度鉄筋3aは、主筋3の全長に対して40%程度の長さを有している。なお、高強度鉄筋3aの長さは限定されない。
また、高強度鉄筋3aおよび普通鉄筋3bは、同一の鉄筋径を有している。
【0019】
鉄筋コンクリート柱1は、火災時における部材表層コンクリートの温度が、断面中央に比べて早期に上昇して、その結果部材表層コンクリートの圧縮強度やヤング係数が低下するため(
図5、
図6参照)、表層部に配置される主筋にかかる力が増加する。主筋にかかる応力が降伏点を越えて主筋が降伏すると、主筋のヤング係数が急激に低下し、部材全体のヤング係数が低下するため、部材全体の曲げ剛性(E(t)・I)が大きく低下する。
【0020】
そのため、主筋3として高強度鉄筋3aを使用することで、主筋3の降伏点を上昇させて、火災時に降伏させないようにする。
なお、高強度鉄筋3aの長さは限定されない。
【0021】
本実施形態の鉄筋コンクリート柱1によれば、中央部に高強度鉄筋3aを配筋して中央部主筋3の降伏点が高められているため、主筋が中央部で降伏し難く主筋の一部が降伏しても部材全体として座屈耐力の大幅な低減を抑えることができる(
図4の(b)参照)。座屈時に変形が大きくなる箇所とその付近のみの主筋を高強度化することにより、鉄筋コンクリート柱1の全長に渡って主筋を高強度化しなくとも、鉄筋コンクリート柱1の初期不整や不均一な加熱による二次曲げが座屈耐力の低減に与える影響を小さくすることができる。
また、主筋3を構成する高強度鉄筋3aと普通鉄筋3b,3bは、端面同士を突き合わせた状態で工場において摩擦圧接により接合されているので、ガス圧接継手、機械式継手、溶接式継手などに比べて、ふくらみが少なく外部から加熱された場合に、熱を受けやすいコンクリート表面に近い部分を減らすことができ、好適である。
【0022】
また、主筋3の中央部のみに高強度鉄筋3aを採用しているため、主筋3の全てを高強度鉄筋にするのに比べて材料費においてはコスト低減化を図ることができる。
また、鉄筋コンクリート柱1は、主筋全てを普通鉄筋とした場合に比べて断面積や鉄筋量を増加させることなく座屈耐力を高めているので、材料費や施工時の手間の増加を抑制することができる。
そのため、開放的な空間の提供することができ、また、コンクリートの充填性が損なわれることない。
【0023】
<第二の実施形態>
第二の実施形態の鉄筋コンクリート柱1は、
図2に示すように、断面正方形のコンクリート硬化体2と、コンクリート硬化体2の各角部に配筋された主筋3,3,…と、鉄筋コンクリート柱1の長手方向の中央部に配筋された補強筋4,4,…とからなる。
【0024】
本実施形態の補強筋4は、高強度鉄筋により構成されている。本実施形態では、補強筋4として、USD685を使用する。
一方、主筋3は、普通鉄筋からなる。本実施形態では、普通鉄筋としてUSD685よりも降伏点が低いSD490を使用している(
図5参照)。
なお、主筋3および補強筋4を構成する鉄筋の種類は限定されない。
【0025】
補強筋4は、
図2の(b)に示すように、主筋3の内側に沿って配筋(添設)されている。すなわち、補強筋4は、4本の主筋3,3,…で囲まれた領域(4本の主筋3,3,…を頂点とする矩形領域)内に配筋されている。本実施形態では、主筋3と同様に、4本の補強筋4,4,…が配筋されている。
【0026】
本実施形態の補強筋4は、主筋3長さの40%程度の長さを有している。なお補強筋4の長さは限定されるものではなく、例えば、主筋3と同じ長さであってもよい。
【0027】
補強筋4は、軸方向中間点の高さ位置が、鉄筋コンクリート柱1の軸方向中間点の高さ位置と一致するように配筋されている。
また、本実施形態では、主筋3と補強筋4との離隔距離(あき)が25mmを確保できるようにする。なお、主筋3と補強筋4との離隔距離(あき)の大きさは限定されず、内側であれば主筋3に接してもよいし、平面視柱中心でもよい。
【0028】
高強度鉄筋3aは、火災時に座屈による変形が大きくなる箇所に配筋されている。
鉄筋コンクリート柱1は、火災時における部材表層コンクリートの温度が、断面中央に比べて早期に上昇してその結果部材表層コンクリートの圧縮強度やヤング係数が低下するため(
図5、
図6参照)、表層部に配置される主筋にかかる力が増加する。主筋にかかる応力が降伏点を越えて主筋が降伏すると、主筋のヤング係数が急激に低下し、部材全体のヤング係数が低下するため、部材全体の曲げ剛性が大きく低下する。
【0029】
そのため、補強筋4を主筋3に添設することで、主筋3の降伏点を上昇させて、火災時に降伏させないようにする。
【0030】
本実施形態の鉄筋コンクリート柱1によれば、中央部に補強筋4を配筋して中央部主筋3にかかる応力が低減されているため、主筋が中央部で降伏し難く主筋の一部が降伏しても部材全体として座屈耐力の大幅な低減を抑えることができる(
図4の(c)参照)。座屈時に変形が大きくなる箇所とその付近のみの主筋に補強筋を配筋することにより、柱の全長に渡って補強筋を配筋しなくとも、鉄筋コンクリート長柱の初期不整や不均一な加熱による二次曲げが座屈耐力の低減に与える影響を小さくすることができる。
【0031】
また、鉄筋コンクリート柱1の中央部のみに補強筋4(高強度鉄筋)を採用しているため、コスト低減化を図ることができる。補強筋4は、主筋3の内側に配筋されているため、外側の主筋に比べ温度上昇が遅いので圧縮強度やヤング係数の低下が遅く座屈耐力の低下を遅らせることができるし、かぶり厚さ確保のために鉄筋コンクリート柱1の断面積を増加させる必要はない。
そのため、開放的な空間の提供することができ、また、コンクリートの充填性が損なわれることない。
【0032】
主筋3が高強度鉄筋3aと普通鉄筋3b,3bとが連結されてなる場合(
図3の(b)参照)と、普通鉄筋からなる主筋3に補強筋4が鉄筋コンクリート柱1の長手方向の中央部に添設されている場合(
図3の(c)参照)について、それぞれ火災時の座屈耐力を算出した。
なお、比較例として、主筋3が全長にわたって、高強度鉄筋(USD685)により構成されている場合(
図3の(a)参照)と、普通鉄筋(SD490)からなる主筋のみが配筋された鉄筋コンクリート柱1についても火災時の座屈耐力を算出した。
【0033】
本計算では、
図3の(a)〜(c)に示すように、1辺が250mmの断面正方形の鉄筋コンクリート柱について行った。
具体的な計算方法は次の通りである。
【0034】
まず、鉄筋コンクリート柱1の断面を196要素の集合体にモデル化する。
次に、想定される軸力が与えられた鉄筋コンクリート柱1の熱応力解析を行い、加熱開始後の時刻tにおける各要素の瞬間ヤング係数を算出する。
外力として軸力が与えられたコンクリート柱1における軸応力とひずみ(軸力ひずみε
σ)の関係は、温度毎に異なる。
【0035】
また、鉄筋コンクリート柱1には、熱膨張に伴う熱膨張ひずみε
thと、単位応力あたりの収縮ひずみである過渡ひずみε
trが生じる。
なお、過渡ひずみε
trは、例えば、400℃のとき、単位応力あたりの収縮ひずみは約1.5×10
2μ/(N/mm
2)であるので、軸応力が20N/mm
2であれば、1.5×10
2×20=3.0×10
3μとなる。
【0036】
軸力(応力)とひずみの関係から得られる軸力ひずみε
σに、火災時の熱膨張により要素に発生する熱膨張ひずみε
thおよび火災時の圧縮力と温度により要素に発生する過渡ひずみε
trを加えたひずみを全ひずみε
totとする(式1)。
【0038】
なお、軸力ひずみε
σに熱膨張ひずみε
thを加えると全体のひずみ量は増加し、過渡ひずみε
trを加えると全体のひずみ量は減少するため、各要素の全ひずみε
totは、ひずみ軸に沿って平行移動する形となる。
【0039】
続いて、各要素の全ひずみε
totが等しくなる(平面保持)と仮定して、時刻tにおける熱応力解析を行うことで各要素の軸力ひずみε
σを算出し、当該軸力ひずみε
σに対応する瞬間ヤング係数E(t)を算出する。熱応力解析を行う際には、温度把握作業S1で求めたデータを使用する。
瞬間ヤング係数E (t)は、応力とひずみとの関係により求まる曲線との接線勾配により求めた。
【0040】
次に、各要素の曲げ剛性を断面全体で積分することで断面全体の曲げ剛性である全体曲げ剛性E(t)・Iを算出する。
【0041】
曲げ剛性は、各要素の瞬間ヤング係数E(t)に、断面全体の図心軸に関する断面二次モーメントIを乗じることで算出する。
【0042】
各要素の曲げ剛性E(t)・Iを算出したら、式2を用いて断面全体で積分することで、時刻tにおける全体曲げ剛性を算出する。
【0044】
そして、全体曲げ剛性E(t)・Iを式3に示すオイラー座屈の式に代入して時刻tにおける座屈耐力P
E(t)を算出する。
座屈耐力P
E(t)は、全体曲げ剛性E(t)・Iと設計で想定される座屈長さl
kを用いて算出する。
【0046】
図4の(a)〜(c)に経過時間と座屈耐力の関係とを示す。
図4の(a)に示すように、主筋を全て高強度鉄筋にした場合は55分で破壊するのに対し、主筋3が全長にわたって普通鉄筋の場合は41分で破壊した。
そのため、主筋3として高強度鉄筋を採用することで、鉄筋の早期降伏を抑制することができる。
【0047】
図4の(b)に示すように、主筋の全てが普通鉄筋の場合は41分で破壊したのに対し、主筋の中間部を高強度鉄筋に置き換えた場合は48分で破壊する結果となった。したがって、主筋の一部のみを高強度鉄筋に置き換えた場合であっても、鉄筋の早期降伏を抑制することができ、火災時の安全性を確保することができる。
【0048】
さらに、
図4の(c)に示すように、主筋の全てが普通鉄筋の場合は41分で破壊したのに対し、普通鉄筋からなる主筋3の内側に高強度鉄筋(補強筋4)を添設した場合は52分で破壊する結果となった。したがって、補強筋4を配筋することで、鉄筋の早期降伏を抑制することができ、火災時の安全性を確保することができる。
【0049】
このように、前記各実施形態の鉄筋コンクリート柱によれば、初期不整や不均一な加熱による二次曲げが耐火時間に与える影響を小さくすることができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、コンクリート硬化体を構成するコンクリートは、高強度コンクリートであってもよいし、普通コンクリートであってもよい。