特許第6223256号(P6223256)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6223256マンホール蓋管理装置、マンホール蓋管理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223256
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】マンホール蓋管理装置、マンホール蓋管理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/30 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
   G06F17/30 320Z
   G06F17/30 170B
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-69936(P2014-69936)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-191573(P2015-191573A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135771
【氏名又は名称】株式会社パスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島村 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 一夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 耕平
(72)【発明者】
【氏名】崔 載永
(72)【発明者】
【氏名】チャタクリ スバス
(72)【発明者】
【氏名】朱 林
【審査官】 田中 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−059319(JP,A)
【文献】 特開2012−155592(JP,A)
【文献】 特許第3462841(JP,B2)
【文献】 特開2009−266003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/30
G06Q 10/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上を撮影した画像を含んだ地理空間情報に基づいてマンホール蓋を管理するマンホール蓋管理装置であって、
予め標本マンホール蓋の種類ごとに当該標本マンホール蓋の表面画像に関する情報を格納した標本データベースと、
前記地理空間情報から前記マンホール蓋の表面画像である観察蓋画像を抽出すると共に当該マンホール蓋の設置位置を検出し注目マンホール蓋を特定する注目対象特定手段と、
前記標本データベースにて、前記観察蓋画像に基づいて前記注目マンホール蓋と前記標本マンホール蓋との照合処理を行い、前記注目マンホール蓋の前記種類を判別する種類判別手段と、
前記注目マンホール蓋について前記設置位置及び前記種類を対応付けて管理対象マンホール蓋として管理対象データベースに登録する管理対象登録手段と、
を有し、
前記種類判別手段は、前記管理対象データベースに前記設置位置が前記注目マンホール蓋と共通する前記管理対象マンホール蓋がある場合には、当該注目マンホール蓋についての前記照合処理を省略すること、を特徴とするマンホール蓋管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマンホール蓋管理装置において、
前記管理対象登録手段は、
前記注目マンホール蓋の前記設置位置及び前記種類にさらに当該注目マンホール蓋の前記観察蓋画像に関する情報を対応付けて前記管理対象マンホール蓋として前記管理対象データベースに登録し、
前記管理対象データベースに前記設置位置が前記注目マンホール蓋と共通する前記管理対象マンホール蓋がある場合には、当該注目マンホール蓋の前記観察蓋画像に関する情報を当該管理対象マンホール蓋に対応付けて前記管理対象データベースに記録し、
複数時期の前記観察蓋画像の比較を可能としたことを特徴とするマンホール蓋管理装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のマンホール蓋管理装置において、
前記種類判別手段は、前記照合処理として、前記注目マンホール蓋及び前記標本マンホール蓋それぞれの表面画像から生成される回転不変なテクスチャ画像について画素値のヒストグラムを比較すること、を特徴とするマンホール蓋管理装置。
【請求項4】
コンピュータを用いて、地上を撮影した画像を含んだ地理空間情報に基づいてマンホール蓋を管理するマンホール蓋管理方法であって、前記コンピュータが行うステップとして、
前記地理空間情報から前記マンホール蓋の表面画像である観察蓋画像を抽出すると共に当該マンホール蓋の設置位置を検出し注目マンホール蓋を特定する注目対象特定ステップと、
標本マンホール蓋の種類ごとに当該標本マンホール蓋の表面画像に関する情報を格納した標本データベースにて、前記観察蓋画像に基づいて前記注目マンホール蓋と前記標本マンホール蓋との照合処理を行い、前記注目マンホール蓋の前記種類を判別する種類判別ステップと、
前記注目マンホール蓋について前記設置位置及び前記種類を対応付けて管理対象マンホール蓋として管理対象データベースに登録する管理対象登録ステップと、
を有し、
前記種類判別ステップは、前記管理対象データベースに前記設置位置が前記注目マンホール蓋と共通する前記管理対象マンホール蓋がある場合には、当該注目マンホール蓋についての前記照合処理を省略すること、を特徴とするマンホール蓋管理方法。
【請求項5】
地上を撮影した画像を含んだ地理空間情報に基づいてマンホール蓋を管理する処理をコンピュータに行わせるためのプログラムであって、当該コンピュータを、
予め標本マンホール蓋の種類ごとに当該標本マンホール蓋の表面画像に関する情報を格納した標本データベース、
前記地理空間情報から前記マンホール蓋の表面画像である観察蓋画像を抽出すると共に当該マンホール蓋の設置位置を検出し注目マンホール蓋を特定する注目対象特定手段、
前記標本データベースにて、前記観察蓋画像に基づいて前記注目マンホール蓋と前記標本マンホール蓋との照合処理を行い、前記注目マンホール蓋の前記種類を判別する種類判別手段、及び、
前記注目マンホール蓋について前記設置位置及び前記種類を対応付けて管理対象マンホール蓋として管理対象データベースに登録する管理対象登録手段、
として機能させ
前記種類判別手段は、前記管理対象データベースに前記設置位置が前記注目マンホール蓋と共通する前記管理対象マンホール蓋がある場合には、当該注目マンホール蓋についての前記照合処理を省略すること、を特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地上を撮影した画像を含んだ地理空間情報に基づいてマンホール蓋を管理するマンホール蓋管理装置、マンホール蓋管理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、社会インフラの点検と保守の必要性が公になってきたが、社会的に技術がまだ十分でない現実がある。社会インフラの一つとして人が生活するための基盤となる下水道が町に都市に配置されている。下水道にはマンホールが設置され、マンホールにはマンホール蓋が設備されている。
【0003】
マンホールの蓋は車両通行下の過酷な設置環境に置かれる一方、大雨による蓋の飛散浮上の防止や人や車両の転落防止が要求され、極めて過酷な条件の下、安定に存在する必要がある。そのため、マンホール蓋の耐用年数は管渠やマンホールに比べると短く、保守・点検の必要性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−266003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は近年ほど社会インフラの点検と保守の必要性が認識されていなかったこともあり、マンホールを設置した位置・時期、種類などについての記録が残されていないことも多い。一方、マンホールの数は膨大であり、また種類も多いため、人手によりマンホール蓋の設置位置を調べたり種類を判別したりすることは多大な労力を要するという問題があった。
【0006】
本発明は、地上を撮影した画像を含んだ地理空間情報に基づいてマンホール蓋の管理対象データベースを効率的に作成することを可能とするマンホール蓋管理装置、マンホール蓋管理方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係るマンホール蓋管理装置は、地上を撮影した画像を含んだ地理空間情報に基づいてマンホール蓋を管理するマンホール蓋管理装置であって、予め標本マンホール蓋の種類ごとに当該標本マンホール蓋の表面画像に関する情報を格納した標本データベースと、前記地理空間情報から前記マンホール蓋の表面画像である観察蓋画像を抽出すると共に当該マンホール蓋の設置位置を検出し注目マンホール蓋を特定する注目対象特定手段と、前記標本データベースにて、前記観察蓋画像に基づいて前記注目マンホール蓋と前記標本マンホール蓋との照合処理を行い、前記注目マンホール蓋の前記種類を判別する種類判別手段と、前記注目マンホール蓋について前記設置位置及び前記種類を対応付けて管理対象マンホール蓋として管理対象データベースに登録する管理対象登録手段と、を有する。
【0008】
(2)上記(1)に記載するマンホール蓋管理装置において、前記管理対象登録手段は、前記注目マンホール蓋の前記設置位置及び前記種類にさらに当該注目マンホール蓋の前記観察蓋画像に関する情報を対応付けて前記管理対象マンホール蓋として前記管理対象データベースに登録し、前記管理対象データベースに前記設置位置が前記注目マンホール蓋と共通する前記管理対象マンホール蓋がある場合には、当該注目マンホール蓋の前記観察蓋画像に関する情報を当該管理対象マンホール蓋に対応付けて前記管理対象データベースに記録し、複数時期の前記観察蓋画像の比較を可能とする構成とすることができる。
【0009】
(3)上記(1)及び(2)に記載するマンホール蓋管理装置において、前記種類判別手段は、前記管理対象データベースに前記設置位置が前記注目マンホール蓋と共通する前記管理対象マンホール蓋がある場合には、当該注目マンホール蓋についての前記照合処理を省略する構成とすることができる。
【0010】
(4)上記(1)から(3)に記載するマンホール蓋管理装置において、前記種類判別手段は、前記照合処理として、前記注目マンホール蓋及び前記標本マンホール蓋それぞれの表面画像から生成される回転不変なテクスチャ画像について画素値のヒストグラムを比較する構成とすることができる。
【0011】
(5)本発明に係るマンホール蓋管理方法は、地上を撮影した画像を含んだ地理空間情報に基づいてマンホール蓋を管理するマンホール蓋管理方法であって、前記地理空間情報から前記マンホール蓋の表面画像である観察蓋画像を抽出すると共に当該マンホール蓋の設置位置を検出し注目マンホール蓋を特定する注目対象特定ステップと、標本マンホール蓋の種類ごとに当該標本マンホール蓋の表面画像に関する情報を格納した標本データベースにて、前記観察蓋画像に基づいて前記注目マンホール蓋と前記標本マンホール蓋との照合処理を行い、前記注目マンホール蓋の前記種類を判別する種類判別ステップと、前記注目マンホール蓋について前記設置位置及び前記種類を対応付けて管理対象マンホール蓋として管理対象データベースに登録する管理対象登録ステップと、を有する。
【0012】
(6)本発明に係るプログラムは、地上を撮影した画像を含んだ地理空間情報に基づいてマンホール蓋を管理する処理をコンピュータに行わせるためのプログラムであって、当該コンピュータを、予め標本マンホール蓋の種類ごとに当該標本マンホール蓋の表面画像に関する情報を格納した標本データベース、前記地理空間情報から前記マンホール蓋の表面画像である観察蓋画像を抽出すると共に当該マンホール蓋の設置位置を検出し注目マンホール蓋を特定する注目対象特定手段、前記標本データベースにて、前記観察蓋画像に基づいて前記注目マンホール蓋と前記標本マンホール蓋との照合処理を行い、前記注目マンホール蓋の前記種類を判別する種類判別手段、及び、前記注目マンホール蓋について前記設置位置及び前記種類を対応付けて管理対象マンホール蓋として管理対象データベースに登録する管理対象登録手段、として機能させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、地上を撮影した画像を含んだ地理空間情報に基づいてマンホール蓋の管理対象データベースが効率的に作成され、マンホール蓋の管理が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るマンホール蓋管理システムの概略の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係るマンホール蓋管理システムによる処理の概略のフロー図である。
図3】路面のオルソ画像の例である。
図4図3に示す画像に対する画像分割手段による領域分割処理結果の例を示す画像である。
図5】部分画像抽出手段による処理を示す模式図である。
図6】回転不変特徴抽出手段による処理を示す模式図である。
図7】回転不変特徴LBPを説明する模式図である。
図8】標本データベースの一例の模式図である。
図9】管理対象データベースの一例の模式図である。
図10】蓋検知手段での種類判別処理及び登録処理手段の処理の概略のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)であるマンホール蓋管理システム2について、図面に基づいて説明する。本システムは、地上を撮影した画像においてマンホールの蓋を検出し管理台帳を作成する。地上の画像は例えば、自動車にカメラ及びレーザスキャナを搭載したモービルマッピングシステム(Mobile Mapping System:MMS)を用いて、道路を走行しながら取得することができる。なお、MMSはカメラによるカラー画像データと共にレーザスキャナによって三次元座標を表す点群データを得ることができる。また、MMSではレーザスキャンや撮像動作と同期して、車体の位置・姿勢を計測する。つまり、MMSにより取得される画像データ、点群データは地上での位置と関連づけられ、地理空間情報を構成する。車体の位置・姿勢の計測は例えば、GPS/IMU(Global Positioning System:全地球測位システム、Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)を用いて行われる。
【0016】
図1はマンホール蓋管理システム2の概略の構成を示すブロック図である。本システムは、演算処理装置4、記憶装置6、入力装置8及び出力装置10を含んで構成される。演算処理装置4として、本システムの処理を行う専用のハードウェアを作ることも可能であるが、本実施形態では演算処理装置4は、コンピュータ及び、当該コンピュータ上で実行されるプログラムを用いて構築される。
【0017】
演算処理装置4はコンピュータのCPU(Central Processing Unit)からなり、後述する画像分割手段20、部分画像抽出手段22、回転不変特徴抽出手段24、蓋検知手段26、及び登録処理手段28として機能する。
【0018】
記憶装置6はコンピュータに内蔵されるROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)などで構成される。記憶装置6は演算処理装置4にて実行される各種のプログラムや、本システムの処理に必要な各種データなどを記憶し、演算処理装置4との間でこれらの情報を入出力する。例えば、記憶装置6には、処理対象データとして路面画像データ40や車載GPS/IMUの計測データなどMMSで取得された計測データが格納される。さらに記憶装置6には標本データベース42及び管理対象データベース44が格納される。
【0019】
入力装置8はキーボード、マウスなどであり、ユーザが本システムへの操作を行うために用いる。
【0020】
出力装置10はディスプレイ、プリンタなどであり、本システムにより抽出されたマンホール蓋の情報、記憶装置6に登録されたデータベースの内容などを画面表示、印刷等によりユーザに示す等に用いられる。
【0021】
画像分割手段20は、路面画像データ40から得られる路面など地表面の画像を、それぞれ画素値が所定の類似性を有する画素からなる複数の画像断片(部分画像領域)に分割する。画像分割手段20は分割に際し、画像断片の形状についてコンパクトネスやスムースネスなどのパラメータに関する条件を考慮することができる。なお、分割対象とする地表面の画像には好適にはオルソ画像を用いる。
【0022】
部分画像抽出手段22は、部分画像領域のうち、検出対象とするマンホール蓋の形状(注目形状)に適合するものを選び、その部分画像領域から、注目形状での形状フィッティング処理で定めた輪郭内の画像をマンホール蓋の画像の候補(候補部分画像)として抽出する。本実施形態では、注目形状は円とし、部分画像抽出手段22は部分画像領域を楕円フィッティングし、扁平率が予め定めた真円基準値以下である部分画像領域から楕円フィッティングで切り出された画像を候補部分画像として抽出する。
【0023】
回転不変特徴抽出手段24は候補部分画像から回転不変なテクスチャ画像を生成し、当該テクスチャ画像について画素値のヒストグラムを求める(ヒストグラム生成手段)。
【0024】
蓋検知手段26は、候補部分画像についてのヒストグラムの形状に基づいて候補部分画像におけるマンホール蓋の有無を検知する。また、蓋検知手段26は、候補部分画像についての当該ヒストグラムを、標本データベース42に予め格納された標本とされるマンホール蓋の画像から生成したテクスチャ画像についての画素値のヒストグラムと照合し、照合結果に基づいて候補部分画像がマンホール蓋であることを検知する構成とすることもできる。さらに、蓋検知手段26は当該照合結果に基づいて、マンホール蓋の種類を判別する種類判別手段としても機能する。
【0025】
上述したように画像分割手段20、部分画像抽出手段22、回転不変特徴抽出手段24及び蓋検知手段26は地表面の画像を含む地理空間情報からマンホール蓋の候補部分画像(観察蓋画像)を抽出する。この抽出処理では候補部分画像の地上での位置も特定される。当該位置は検出されたマンホール蓋の設置位置とされる。
【0026】
登録処理手段28は、検出された個々のマンホール蓋(注目マンホール蓋)について設置位置及び種類を対応付けて管理対象マンホール蓋として管理対象データベース44に登録する管理対象登録手段である。
【0027】
ここで上述した画像分割手段20、部分画像抽出手段22、回転不変特徴抽出手段24及び蓋検知手段26は、管理対象登録手段での登録処理における注目マンホール蓋を特定する注目対象特定手段として機能している。すなわち、画像分割手段20、部分画像抽出手段22、回転不変特徴抽出手段24及び蓋検知手段26は、地理空間情報からマンホール蓋の表面画像である観察蓋画像を抽出すると共に当該マンホール蓋の設置位置を検出して注目マンホール蓋を特定する。
【0028】
路面画像データ40は地表面を撮影した画像であり、本実施形態ではMMSのカメラで撮影される路面及びその近傍の画像である。路面画像データ40はオルソ補正された画像でもよいし、オルソ補正されていない画像でもよい。
【0029】
標本データベース42は、標本とするマンホール蓋(標本マンホール蓋)の種類ごとに当該標本マンホール蓋の表面画像に関する情報を予め格納したデータベースである。標本マンホール蓋は、例えば、マンホールの管理者などがマンホールの設置時などに取得した情報に基づいて登録される。また、過去の実地観察・計測にて把握されたマンホール蓋の情報も標本マンホール蓋として標本データベース42に登録することができる。
【0030】
管理対象データベース44は、路面画像データ40にて観察されたマンホール蓋(管理対象マンホール蓋)について設置位置及び種類を対応付けて記憶し、マンホール蓋の保守、点検にて管理台帳として機能する。管理対象データベース44には、管理対象マンホール蓋についての設置位置及び種類にさらに観察蓋画像に関する情報を対応付けて格納することができる。観察蓋画像に関する情報は、観察蓋画像そのものでもよいし、当該画像から得られた上述のテクスチャ画像やヒストグラムでもよい。
【0031】
図2は、マンホール蓋管理システム2による処理の概略のフロー図である。図2を参照しながら、演算処理装置4の動作を説明する。
【0032】
後述するようにマンホール蓋管理システム2において地表面の画像からマンホール蓋を検出する処理では、マンホール蓋の画像はできるだけ真上から撮影した、歪みが小さい画像であることが望ましい。MMSで取得される画像は通常、車両上から斜め下を向いて撮影されるため、演算処理装置4は路面画像データ40に対してオルソ補正を施して地表面を真上から見た正射影画像である路面オルソ画像を生成する(ステップS1)。なお、路面画像データ40としてオルソ補正後の画像が格納されている場合にはこの処理は省略され、また路面画像データ40がほぼ真上から撮影された画像である場合などもオルソ補正処理を省略可能である。
【0033】
画像分割手段20は路面オルソ画像を複数の部分画像領域に分割する(ステップS2)。この分割処理は一般にセグメンテーションと称される手法により実現される。例えば、代表的なセグメンテーションの方式としてk平均法や平均シフト法が知られている。
【0034】
図3は路面オルソ画像の例であり、図4図3に示す画像に対する画像分割手段20による領域分割処理結果の例を示す画像である。すなわち図3の路面のオルソ画像50を領域分割した結果が図4の画像52であり、複数の部分画像領域54が生成されている。画像50にはマンホール蓋60及び道路標示である白線62が映っている。画像52ではマンホール蓋60、白線62の輪郭にほぼ沿った境界を有する部分画像領域54a,54bが生成される他、道路の舗装面部分も複数の部分画像領域54に分割されている。
【0035】
図2に戻り領域分割に続く処理を説明する。部分画像抽出手段22は、部分画像領域54のうちマンホール蓋に対応する部分画像領域54aを見つけ、当該部分画像領域から候補部分画像を抽出する。例えば、部分画像抽出手段22は部分画像領域の色、形状の情報を用いてマンホール蓋に対応する部分画像領域54aを見つけ(ステップS3)、当該部分画像領域54aについてマンホール蓋の形状に応じた形状フィッティング処理を行って(ステップS4)、当該部分画像領域54aからマンホール蓋の画像と推定される候補部分画像を抽出する(ステップS5)。
【0036】
例えば、部分画像抽出手段22は、ステップS3において、マンホール蓋の形状に関し略円形であることを条件とする。また、マンホール蓋は周囲の舗装面とは色、輝度が異なり得るので、これを条件に含めて、マンホール蓋の部分画像領域54aを検出することができる。略円形であることは、例えば、各部分画像領域54を楕円フィッティグし、扁平率及びフィッティング誤差から判断することができる。具体的には、フィッティング誤差が予め定めたしきい値以下であり、扁平率が予め定めた真円基準値以下である場合に略円形であると判定することができる。なお、形状が略円形であることは楕円フィッティング処理以外の手法で判断してもよい。
【0037】
図4の例に示されるように、領域分割処理で生成されるマンホール蓋の部分画像領域54aの境界は必ずしもマンホール蓋の輪郭とは一致しない。すなわち、不規則な凹凸を有し、基本的に滑らかな円となるマンホール蓋の輪郭とは相違する。ステップS4の形状フィッティング処理はマンホール蓋のエッジに適合する滑らかな円(又は楕円)の輪郭を定める。ここで、ステップS3にてマンホール蓋の部分画像領域の検出に楕円フィッティング処理を行った場合、ステップS4における楕円フィッティングではステップS3の結果を流用することができる。
【0038】
この形状フィッティングでは路面オルソ画像におけるマンホール蓋の輪郭の形状、大きさ及び位置が定まり、部分画像抽出手段22はステップS45において当該輪郭の内側の画像をマンホール蓋の画像の候補(候補部分画像)として切り出す。
【0039】
図5図2のステップS3〜S5の処理を示す模式図であり、画像70は路面オルソ画像50に検出されたマンホール蓋の部分画像領域54aの形状を示す二値化画像である。画像72は画像70にて白で示す部分画像領域54aの形状に対し楕円近似のアルゴリズムを用いて形状フィッティングを行った結果を示している。画像74は路面オルソ画像から、画像72に示す輪郭の内側に存在する部分を抽出して得られた候補部分画像を示している。
【0040】
図2に戻りマンホール蓋の画像データの抽出(ステップS3〜S5)に続く処理を説明する。回転不変特徴抽出手段24はステップS5で抽出された候補部分画像から回転不変なテクスチャ画像を生成し(ステップS6)、当該テクスチャ画像について画素値のヒストグラムを求める(ステップS7)。図6はステップS6,S7の処理を示す模式図である。図6において、画像80は候補部分画像の例であり、画像82は候補部分画像80から生成された回転不変な特徴量を画素値とするテクスチャ画像である。そして、ヒストグラム84がテクスチャ画像82の画素値のヒストグラムである。
【0041】
回転不変特徴抽出手段24はステップS6にて回転不変なテクスチャ画像を生成する。つまり、或る傾きθで置かれた候補部分画像80から生成されるテクスチャ画像をT、他の傾きθで置かれた候補部分画像80から生成されるテクスチャ画像をTとすると、回転不変特徴抽出手段24はTを角度(θ−θ)回転させるとTとなるようなテクスチャ画像を生成する。
【0042】
本実施形態では回転不変なテクスチャ画像として回転不変特徴を有する局所二値化パターン(Local Binary Pattern:LBP)である回転不変特徴LBPを生成する。図7は回転不変特徴LBPを説明する模式図であり、これを用いて候補部分画像の任意の画素Pに対する回転不変特徴LBPの画素値の計算方法を説明する。ここではLBPを画素Pを中心とする3×3画素を用いて計算する。Pの近傍8画素(局所画像90)の位置を例えば、左上から時計回りに1〜8のインデックスiで表す。近傍8画素を近傍画素Pと中心画素Pとの画素値の大小関係により二値化する。例えば、画素iについての二値化値Bを画素値の差(P−P)の符号に応じて定める(局所二値化画像92)。具体的には(P−P)≧0ならばB=1、(P−P)<0ならばB=0に定める。
【0043】
通常のLBPでは、各画素iに対応して固定の重み係数Cを設定し、積Bのiについての総和をLBPの画素値とする。例えば、C≡2i−1とすることができる。
【0044】
本実施形態では近傍8画素と8種類の重み係数Cとの対応関係を近傍8画素の中心画素の周りでの並び順に沿って順にずらして、通常の方法でのLBP画素値を8通り算出する(重み係数94)。具体的には、j=0〜7なる自然数、kを(i−j)を8で除したときの非負の剰余とし、各jについて積Bの総和Sを求める。ここで、候補部分画像が回転して画素Pの位置が変わり、それと共にその近傍8画素の画素Pの周りの並び順が変化しても、8通りの総和Sからなる数値群は変化しない。よって例えば、それらの最小値は回転不変特徴量となる。そこで本実施形態では8通りの総和Sの最小値を、画素Pに対応する回転不変特徴LBPの画素値Qとする。
【0045】
ここで、LBPは照明強度の変化の影響を受けにくい性質を有し、これは回転不変特徴LBPも同様である。この性質は、天候や撮影時刻に応じて変化する路面の照明状況の影響を受けにくくする点で好都合である。
【0046】
回転不変特徴抽出手段24はこのように候補部分画像80から生成した回転不変なテクスチャ画像82の画素値のヒストグラム84を求める。このヒストグラムは路面オルソ画像における候補部分画像の向きによらず一定となる。
【0047】
このように生成したテクスチャ画像のヒストグラムは、路面オルソ画像のうちマンホール蓋のような人工的な模様を有する部分におけるものと、舗装面のように明確な模様を有さない部分におけるものとで異なる様相を示す。そこで、候補部分画像についての当該ヒストグラムの形状に基づいて候補部分画像におけるマンホール蓋の有無を判別することが可能である。
【0048】
さらに、マンホール蓋同士でも種類が異なり模様に違いが生じるとヒストグラムの形状に差が生じる。そこで、ヒストグラムの照合によりマンホール蓋の種類の判別が可能である。蓋検知手段26はこれを利用して、候補部分画像についてのヒストグラムと標本データベース42に記憶されているマンホール蓋について得られるヒストグラムとを照合し、照合結果に基づいて候補部分画像がマンホール蓋であることを検知すると共に、その種類を判別する(図2のステップS8)。
【0049】
以降、候補部分画像がマンホール蓋であると検知されることを念頭において、候補部分画像を観察蓋画像と呼ぶことにする。
【0050】
図8は標本データベース42の一例の模式図である。標本データベース42は上述の照合に際して標本として用いられる既知のマンホール蓋に関する情報を格納する。図8に示す例では、標本マンホール蓋ごとにタイプ番号、マンホール蓋の表面画像に関する情報の他、設置時期、材質、構造などの属性情報が登録される。標本マンホール蓋の表面画像に関する情報は、マンホール蓋の表面画像そのものでもよいし、当該画像から得られた上述のテクスチャ画像やヒストグラムでもよい。
【0051】
上述のように蓋検知手段26は路面オルソ画像から抽出されたマンホール蓋(注目マンホール蓋)の画像である観察蓋画像と標本データベース42に登録された標本マンホール蓋とを照合する種類判別処理を行う。この種類判別処理では、例えば、注目マンホール蓋及び標本マンホール蓋それぞれの表面画像から生成される回転不変なテクスチャ画像について画素値のヒストグラムを比較・照合する。
【0052】
ヒストグラムの比較・照合はヒストグラム間の距離に基づいて行うことができ、例えば、蓋検知手段26は、注目マンホール蓋との当該距離が最も小さくなる標本マンホール蓋を当該注目マンホール蓋に該当するものと判定する。蓋検知手段26は照合結果を登録処理手段28へ出力したり、注目マンホール蓋の画像と照合結果の標本マンホール蓋の画像とを対比可能に出力装置10のディスプレイ等に表示してユーザに確認を求めたりすることができる。
【0053】
ヒストグラムの距離は例えば、Matsusita Distanceを用いて測ることができ、その場合、注目マンホール蓋に関するヒストグラムH(i),標本マンホール蓋に関するH(i)の距離M(H,H)は次式で与えられる。なお、iはヒストグラムのビンのインデックスであり、H(i),H(i)はそれぞれ各ヒストグラムのビンiでの度数である。
【数1】
【0054】
登録処理手段28は蓋検知手段26での照合結果を受けて、注目マンホール蓋について設置位置及び、マンホール蓋の種類を対応付けて管理対象マンホール蓋として管理対象データベース44に登録する(図2のステップS9)。
【0055】
図9は管理対象データベース44の一例の模式図である。登録処理手段28は、注目マンホール蓋について、観察蓋画像が検出された地表面上の位置を設置位置とし、蓋検知手段26で判定されたマンホール蓋の種類と対応付けて管理対象マンホール蓋として管理対象データベース44に登録する。また登録処理手段28は管理対象マンホール蓋ごとに観察蓋画像に関する情報を記録することができる。さらに、登録処理手段28は検出された観察蓋画像と設置位置が共通する管理対象マンホール蓋が管理対象データベース44に存在する場合には、新たに得られた観察蓋画像に関する情報を当該管理対象マンホール蓋に対応付けて管理対象データベース44に記録してもよい。これにより、マンホール蓋管理システム2は管理対象マンホール蓋について複数時期の観察蓋画像を比較することができ、マンホール蓋の経時変化を検出して管理・保守に利用することができる。また、管理対象マンホール蓋に対する保守の履歴なども、当該管理対象マンホール蓋に対応付けて記録することができる。
【0056】
図10は蓋検知手段26による種類判別処理及び登録処理手段28による処理の概略のフロー図である。路面画像データ40から注目マンホール蓋の画像が抽出されると(ステップS20)、蓋検知手段26はその検出位置が管理対象データベース44に既に登録されている管理対象マンホール蓋の設置位置と一致するかを調べる(ステップS21)。一致する管理対象マンホール蓋がなければ(ステップS21にて「No」の場合)、蓋検知手段26は標本データベース42に登録された標本マンホール蓋との回転不変特徴LBPのヒストグラムのマッチングを行う(ステップS22)。マッチングが成立した場合は(ステップS23にて「Yes」の場合)、注目マンホール蓋は標本マンホール蓋の1つと判断され、その標本マンホール蓋の種類が注目マンホール蓋の設置位置、画像情報と共に管理対象データベース44に新規登録される(ステップS24)。
【0057】
一方、標本データベース42とのマッチング処理S22にて標本データベース42に注目マンホール蓋と一致するものがなかった場合は(ステップS23にて「No」の場合)、登録処理手段28は注目マンホール蓋を管理対象データベース44に新規登録する(ステップS24)と共に、標本データベース42に標本マンホール蓋として新規登録することができる(ステップS25)。
【0058】
また、注目マンホール蓋の検出位置が管理対象データベース44に登録済みである場合は(ステップS21にて「Yes」の場合)、蓋検知手段26はマンホール蓋の種類を判別するマッチング処理S22を省略して、注目マンホール蓋の画像情報を、位置が一致した管理対象マンホール蓋に対応付けて記録する(ステップS26)。ここで、マンホール蓋は一旦設置されると長期に亘り基本的には同じ種類のままであることから、マッチング処理S22を上述のように省略することが可能となる。
【0059】
なお、図10に示す各ステップにてマンホール蓋管理システム2は処理結果を出力装置10に表示するなどして利用者に示し、利用者が確認して次のステップに進むか指示するようにすることができる。
【0060】
さて、1つの管理対象マンホール蓋に記録された撮影時期が異なる複数の画像情報について、上述した回転不変なテクスチャ画像のヒストグラムの比較を行うことでマンホール蓋の経時変化などを検出することができる。例えば、マンホール蓋管理システム2は2時期間でのヒストグラムの距離についてしきい値判定や、当該距離に基づく3時期以上での画像の変化傾向などから、摩耗や破損等の経時変化の可能性があるマンホール蓋を検出して利用者に提示することができる。
【0061】
マンホール蓋管理システム2によれば、例えば、MMSにより広範囲の路面等を効率的に撮影した画像を、迅速に処理してマンホール蓋を自動検出することができる。すなわち、広範囲、長距離の道路に亘る多くのマンホール蓋やハンドホール蓋の保守点検の省力化が図れる。また、従来は保守点検作業は交通量の多い場所では実質行うことが困難であったが、マンホール蓋管理システム2は交通量に影響されることなく取得できるMMSのデータを利用して正確かつ安全にマンホール蓋の状態を把握することができる。
【0062】
管理対象データベース44は、マンホール蓋管理システム2により把握されたマンホール蓋の状態を記録し、管理台帳として保守・点検に利用することができる。管理対象マンホール蓋は設置位置を記録されるので、保守点検作業の対象となるマンホール蓋の位置を把握することができ、特にその位置を地図上に表示して作業効率の向上を図ることも容易にできる。また、管理対象データベース44に複数時期の画像情報を記録することで、現地調査に依存しない経年変化の分析が可能となり、これにより作業に優先順位を決めて事故の発生を予防するための計画立案が可能となる。
【0063】
上述の実施形態ではマンホール蓋の形状(注目形状)は円としたが他の所定形状にも適用できる。例えば、上述した形状フィッティングを矩形に対応したものとして、矩形のマンホール蓋を自動検出することができる。
【0064】
また、回転不変なテクスチャ画像は、LBPの基づく回転不変量からなるもの以外でもよい。例えば、回転不変特徴量としてDifference-of-Gaussian(DoG)に基づく回転不変量、同時生起行列に基づく回転不変量などが知られており、それらからなるテクスチャ画像を用いることもできる。
【符号の説明】
【0065】
2 マンホール蓋管理システム、4 演算処理装置、6 記憶装置、8 入力装置、10 出力装置、20 画像分割手段、22 部分画像抽出手段、24 回転不変特徴抽出手段、26 蓋検知手段、28 登録処理手段、40 路面画像データ、42 標本データベース、44 管理対象データベース。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
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図10