特許第6223308号(P6223308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223308
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】編地の編成方法
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/00 20060101AFI20171023BHJP
   D04B 1/24 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   D04B1/00 Z
   D04B1/24
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-190392(P2014-190392)
(22)【出願日】2014年9月18日
(65)【公開番号】特開2016-60990(P2016-60990A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2016年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】谷口 多哉
(72)【発明者】
【氏名】谷河 豪
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−148764(JP,A)
【文献】 特開2014−163027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00−39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床を備え、前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いた編地の編成方法において、
編幅方向の所定範囲を伸び抑制領域としたとき、
割増やし編成とミス編成とを含む基本編成をn回(但し、nは1以上の自然数)の折り返しによりn+1回行い、前記伸び抑制領域の一編目列を編成する工程αと、
前記割増やし編成で選択された起点編目と、前記起点編目から引き出された新規編目とを重ね合わせて重ね目を形成する工程βと、
前記重ね目を含む前記伸び抑制領域の編目に対して新たな編目を編成する工程γとを備え、
前記工程αでは、n+1回目の基本編成における割増やし編成は、n回目以前の全ての基本編成でミス編成を行った編目の少なくとも一つに対して行う編地の編成方法。
【請求項2】
前記工程βは、前記工程αの後に行う請求項1に記載の編地の編成方法。
【請求項3】
前記基本編成は、一目の割増やし編成と二目のミス編成とで構成される基本単位を複数回繰り返す編成であり、
前記工程αでは、前記基本編成を2回の折り返しにより3回行い、前記伸び抑制領域の一編目列を編成するにあたり、n+1回目の基本編成における割増やし編成は、n回目以前の全ての基本編成でミス編成を行った基本単位における編目のいずれかに対して行う請求項1または請求項2に記載の編地の編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエール方向およびコース方向の双方に伸び難い組織を備える編地の編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツ用のインナーウエアやサポーター、医療用のサポーターなどの伸縮性が要求される編地は、弾性編糸を使用して編成されることがある。上記サポーターなどは、腕や脚部などの関節部分の可動域は着圧を低くするとともに、それ以外の筋肉部分や患部などの所望箇所は締め付ける(伸びを抑制する)必要がある。例えば、特許文献1には、弾性糸を含有し、編地中に伸度の異なる低伸度部と高伸度部とを有する丸編地において、低伸度部は、熱融着糸を含有すること、さらにミスループを有する編成組織とすることで伸びを抑制することが記載されている。また、特許文献2には、複数の大きさの度目が形成された丸編地において、周辺よりも緊締力が強い緊締部は、編目の大きさを他の編目よりも小さくすることで伸びを抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−012733号公報
【特許文献2】特開2013−167038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1,2の技術では、編地のウエール方向およびコース方向の双方の伸びを抑制するには不十分である。特許文献1は、ミスループを有することでニットループに比較してコース方向の伸びを抑制することはできるが、更に伸びを抑制することが望まれている。特許文献1は、熱融着糸を用いることで伸びを抑制できるが、弾性糸を用いた場合ではミスループにおいても伸びるためである。特許文献2は、編目の大きさを変化させることでその周辺に比較して伸びを抑制することはできるが、編目同士が繋がっているため、周辺の編目に引っ張られると伸び易く、伸びの抑制には不十分である。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、本発明の目的の一つは、ウエール方向およびコース方向の双方に伸び難い組織を備える編地の編成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の編地の編成方法は、少なくとも前後一対の針床を備え、前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いた編地の編成方法において、編幅方向の所定範囲を伸び抑制領域としたとき、以下の工程α〜工程γを備える。
[工程α]…割増やし編成とミス編成とを含む基本編成をn回(但し、nは1以上の自然数)の折り返しによりn+1回行い、前記伸び抑制領域の一編目列を編成する。このとき、n+1回目の基本編成における割増やし編成は、n回目以前の全ての基本編成でミス編成を行った編目の少なくとも一つに対して行う。
[工程β]…前記割増やし編成で選択された起点編目と、前記起点編目から引き出された新規編目とを重ね合わせて重ね目を形成する。
[工程γ]…前記重ね目を含む前記伸び抑制領域の編目に対して新たな編目を編成する。
【0007】
ここで、一編目列を編成するとは、同じコースにおいて、n回の折り返し編成(但し、nは1以上の自然数)を行うことで、一編成コースを完了することである。割増やし編成とは、一方の針床に係止される編目から選択された起点編目を他方の針床に目移しすると共に、その起点編目から引き出される新規編目を一方の針床に形成する公知の編成動作である(特許第2604653号公報などを参照)。
【0008】
本発明の編地の編成方法の一形態として、前記工程βは、前記工程αの後に行うことが挙げられる。
【0009】
本発明の編地の編成方法の一形態として、前記基本編成は、一目の割増やし編成と二目のミス編成とで構成される基本単位を複数回繰り返す編成であることが挙げられる。このとき、前記工程αでは、前記基本編成を2回の折り返しにより3回行い、前記伸び抑制領域の一編目列を編成するにあたり、n+1回目の基本編成における割増やし編成は、n回目以前の全ての基本編成でミス編成を行った基本単位における編目のいずれかに対して行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明の編地の編成方法によれば、割増やし編成とミス編成とを含む基本編成を複数回繰り返すことで、ウエール方向およびコース方向の双方の伸びを抑制できる。まず、割増やし編成で選択された起点編目と新規編目とを重ね合わせることで、起点編目および新規編目の編糸同士に摩擦力が生じ、この摩擦力によってウエール方向およびコース方向の双方の伸びを抑制できる。特に、割増やし編成で選択された起点編目と新規編目とを重ね合わせるため、起点編目と新規編目の各シンカーループが互いに引っ掛かるため、この引っ掛かり部分における摩擦力によって、さらに伸びを抑制できる。また、重ね目に続く新たな編目で起点編目と新規編目とを一体に繋ぐことで、二目の編目で新たな編目を支持するため、一目の編目で新たな編目を支持するよりも、ウエール方向の伸びを抑制できる。次に、ミス編成を行うことで、ミス編成によって形成される渡り糸が、基本編成の繰り返しにより複数本並列することになる。そのため、複数本の渡り糸同士が擦れ合うことで渡り糸同士に摩擦力が生じ、この摩擦力によってコース方向の伸びを抑制できる。また、ミス編成によって、ニット編成に比較して編地の編幅方向の単位長さ当たりの糸の絶対量を低減できることでも、コース方向の伸びを抑制することができる。以上より、本発明の編地の編成方法によれば、割増やし編成で選択された起点編目および新規編目の編糸同士の摩擦力、渡り糸同士の摩擦力、および編目の編糸と渡り糸との摩擦力といった編糸同士の摩擦力が発生する場面が多い。よって、各摩擦力によって抵抗力が大きいため、ウエール方向およびコース方向の双方に伸び難い組織を備える編地を編成することができる。
【0011】
工程αの後に工程βを行うことで、工程αにおける割増やし編成で選択された起点編目と新規編目とでミス編成による渡り糸を挟むことができる。起点編目と新規編目とで渡り糸を挟むことで、渡り糸と各編目との摩擦力がさらに大きくなるため、より伸びを抑制することができる。また、渡り糸は、基本編成の回数により、割増やしで選択された起点編目および新規編目に挟まれる本数が変わるため、この渡り糸の本数の違いによって、編地に凹凸ができ様々なリブ状の組織表現ができる。このリブ状の組織表現については後述する。
【0012】
渡り糸は、長過ぎると収縮力が働きやすく、編地に皺などを発生させて編地の見栄えに影響を及ぼす虞がある。そこで、基本編成を、一目の割増やし編成と二目のミス編成とで構成される基本単位を複数回繰り返す編成とすることで、渡り糸の長さを適度にでき、編地の見栄えを向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1に係る編地の編成方法を示す編成工程図である。
図2】実施形態1に係る編地の編成方法によって編成された編地のループ図である。
図3】実施形態1に係る編地の編成方法によって編成されたテーピング効果のあるサポートパンツを示し、左図はその前方、右図はその後方の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、弾性糸を用いて編地を編成する際、編地の伸びを抑制したい領域に本発明の編地の編成方法を適用した例を説明する。
【0015】
<実施形態1>
本発明の編地の編成方法の実施形態を図面に基づいて説明する。図中の同一符号は、同一名称物を示す。実施形態では、左右方向に延び、かつ前後方向に互いに対向する一対の針床を備え、前後の針床間で編目の目移しが可能であると共に、少なくとも一方の針床がラッキング可能な2枚ベッド横編機を用いた編成例を説明する。この横編機に備わる編針は、編針の側面に目移し用の羽根を備えず、フックを有する針本体とフックを開閉する2枚のブレードを有するスライダーとを備え、2枚のブレードの間で編目の受け渡しをすることができる複合針である。なお、使用する横編機は、4枚ベッド横編機であってもよい。
【0016】
図1は、実施形態1に係る編地の編成方法を示す編成工程図である。図1の左欄の『S+数字』は編成工程の番号を、右欄は各編成工程における針床の編成状態を示す。右欄において、FBは前針床を、BBは後針床を示し、A〜Jの黒点は編針、黒丸はその編成工程で編成された編目、白丸は編針に係止される旧編目、二重丸は重ね目、逆三角形は給糸口を示す。なお、説明の便宜上、使用する針数は実際の編成よりも少なくしている。以下では、給糸口8から給糸される弾性糸で編成された平面状の編地を例に説明する。
【0017】
S1には、FBの編針A〜Jを用いて平面状のベース編地部を編成した状態が示されている。S1は、編幅方向の左方(紙面左方)に給糸口8を移動させた状態である。このS1の状態からS2以降の編成を行うことで、ベース編地部の編幅方向の所定範囲に、ベース編地部に比較して伸びが抑制された伸び抑制領域100を編成していく。ここでは、FBの編針C〜Hに係止された編目による領域を伸び抑制領域100とし、この伸び抑制領域100に対して本実施形態の編成を行う。本実施形態では、一目の割増やし編成と二目のミス編成とで構成される基本単位を針床の長手方向に2回行う編成を基本編成とし、伸び抑制領域100内で給糸口を2回折り返す中で基本編成を3回行い、伸び抑制領域100の一編目列を編成する。図1では、編針C,D,Eに係止された編目に対する編成および編針F,G,Hに係止された編目に対する編成の各々を基本単位とする。つまり、伸び抑制領域100における編針C〜Hに係止された編目に対する給糸口8の1回の右行または左行に伴う編成が基本編成である。
【0018】
S2では、編幅方向の右方に給糸口8を移動させ、FBの編針A,Bにニット編成を行い、伸び抑制領域100において1回目の基本編成B1を行う。1回目の基本編成B1は、FBの編針C,D,F,Gに係止された編目1,2,4,5に対してミス編成を行い、FBの編針E,Hに係止された編目3,6に対して割増やし編成を行う。割増やし編成によって、FBの編針Eに係止された編目3および編針Hに係止された編目6は、起点編目としてそれぞれBBの編針E,Hに目移しされると共に、FBの編針E,Hに編目(新規編目)13,16が形成される。新規編目13,16はそれぞれ、起点編目3,6からBBの長手方向と直交する方向に真っ直ぐに引き出される。それは、目移し用の羽根を持たない複合針は、前後の針床でフック同士が正対するからである。
【0019】
S3では、編幅方向の左方に給糸口8を折り返して移動させ(1回目の折り返し)、伸び抑制領域100において2回目の基本編成B2を行う。2回目の基本編成B2は、FBの編針H,F,E,Cに係止された編目16,4,13,1に対してミス編成を行い、FBの編針G,Dに係止された編目5,2に対して割増やし編成を行う。割増やし編成は、1回目の基本編成B1でミス編成を行った編目に対して、各基本単位からそれぞれ一目選択して行う。割増やし編成によって、FBの編針Gに係止された編目5および編針Dに係止された編目2は、起点編目としてそれぞれBBの編針G,Dに目移しされると共に、FBの編針G,Dに編目(新規編目)15,12が形成される。
【0020】
S4では、編幅方向の右方に給糸口8を折り返して移動させ(2回目の折り返し)、伸び抑制領域100において3回目の基本編成B3を行い、さらにFBの編針I,Jにニット編成を行う。3回目の基本編成B3は、FBの編針D,E,G,Hに係止された編目12,13,15,16に対してミス編成を行い、FBの編針C,Fに係止された編目1,4に対して割増やし編成を行う。割増やし編成は、1回目の基本編成B1および2回目の基本編成B2の双方でミス編成を行った編目に対して、各基本単位からそれぞれ一目選択して行う。割増やし編成によって、FBの編針Cに係止された編目1および編針Fに係止された編目4は、起点編目としてそれぞれBBの編針C,Fに目移しされると共に、FBの編針C,Fに編目(新規編目)11,14が形成される。以上説明したS2〜S4によって、S1においてFBの編針C〜Hに係止された編目1〜6の全てに対して割増やし編成が行われたことになる。S2〜S4が工程αに相当する。
【0021】
S5では、S2〜S4の割増やし編成によってBBに目移しされた起点編目1〜6を、各起点編目1〜6に相対する新規編目11〜16に重ね合わせて重ね目1;11〜6;16を形成する(工程βに相当)。各重ね目1;11〜6;16は、FBの編針C〜Hに係止される。重ね目の形成は、FBに形成された新規編目11〜16を、各新規編目11〜16に相対する起点編目1〜6に重ね合わせてもよい。この場合、各重ね目1;11〜6;16は、BBの編針C〜Hに係止される。
【0022】
S6では、編幅方向の左方に給糸口8を移動させ、FBの編針J〜Aにニット編成を行う。つまり、重ね目1;11〜6;16に対して新たな編目(止め編目)21〜26を編成する(工程γに相当)。そうすることで、起点編目1〜6と新規編目11〜16とがそれぞれ重ね合わさった状態を固定することができる。
【0023】
その後は、編地の伸びを抑制したい領域が所望の大きさとなるまで、S2〜S6を繰り返し行えばよい。
【0024】
以上説明した編成方法によって得られた編地は、図2に示すように、伸び抑制領域100において、起点編目1〜6と新規編目11〜16とが重ね合わされ、各重ね目1;11〜6;16はそのウエール方向に連続して編成された止め編目21〜26によって固定されている。また、上記編地は、伸び抑制領域100内で給糸口を2回折り返すことで基本編成を3回行って編成されているが、各基本編成はウエール方向には編目が伸びずに同じコースを編成することになるため、3回の基本編成で伸び抑制領域100の一編目列が編成されている。図2では、伸び抑制領域100における基本編成について、1回目の基本編成B1による編糸を太線(図1のS2に相当)、2回目の基本編成B2による編糸を二点鎖線(図1のS3に相当)、3回目の基本編成B3による編糸を中線(図1のS4に相当)で示す。また図2の下側のC〜Hは、図1に示す編針に対応する。
【0025】
本実施形態では、工程αの後に工程βを行うため、n+1回目の基本編成B(n+1)におけるミス編成によって形成された渡り糸M(n+1)は、n回目以前の基本編成Bnにおける割増やし編成で選択された起点編目と新規編目との間に挟まれる。具体的には、2回目の基本編成B2におけるミス編成によって形成された渡り糸M2は、1回目の基本編成B1における割増やし編成で選択された起点編目3と新規編目13との間および起点編目6と新規編目16との間に挟まれる。同様に、3回目の基本編成B3におけるミス編成によって形成された渡り糸M3は、1回目の基本編成B1における割増やし編成で選択された起点編目3と新規編目13との間および起点編目6と新規編目16との間、2回目の基本編成B2における割増やし編成で選択された起点編目2と新規編目12との間および起点編目5と新規編目15との間に挟まれる。1回目の基本編成B1におけるミス編成によって形成された渡り糸M1は、どの編目にも挟まれることはない。
【0026】
つまり、起点編目1と新規編目11との間および起点編目4と新規編目14との間に挟まれる渡り糸は0本であり、起点編目2と新規編目12との間および起点編目5と新規編目15との間に挟まれる渡り糸は1本であり、起点編目3と新規編目13との間および起点編目6と新規編目16との間に挟まれる渡り糸は2本である。このように、起点編目と新規編目との間に挟まれる渡り糸の本数の違いによって、編地に凹凸が形成され、リブ状の組織表現ができる。
【0027】
上記編地は、伸びを抑制したい所望の領域(編幅方向において伸び抑制領域100)にウエール方向およびコース方向の双方に伸び難い組織を備えることができる。その理由は、起点編目1〜6および新規編目11〜16の編糸同士の摩擦力、渡り糸M1〜M3同士の摩擦力、および起点編目と新規編目との間に渡り糸が挟まれることによる各編目の編糸とその渡り糸との摩擦力といった編糸同士の種々の摩擦力が生じるためである。
【0028】
また、本実施形態では、図2に示すように、伸び抑制領域100における編目列の段数は、それ以外の編地領域の編目列の段数よりも少ない。この編目列の段数の差によっても、伸びを抑制することができる。
【0029】
なお、弾性糸ではない編糸を用いて編地を編成した場合でも、ニットの特性上、編地に伸びが生じる場合がある。本実施形態の編地の編成方法によれば、弾性糸ではない編糸を使用する場合においても、ウエール方向およびコース方向の双方に伸び難い組織を備える編地を編成することができる。
【0030】
上述した編成方法では、一目の割増やし編成と二目のミス編成とで構成される基本単位を針床の長手方向に2回行う編成を基本編成とする例を説明したが、基本編成の構成は問わない。基本単位として割増やし編成とミス編成とをそれぞれ少なくとも一目ずつ備えていれば、割増やし編成の目数やミス編成の目数は問わない。また、割増やし編成とミス編成は、工程αの条件を満たせばよく、各編成の並び順や編成順序なども問わない。但し、ミス編成が連続する場合(特に弾性糸を用いる場合)、ミス編成によって形成される渡り糸が長くなり過ぎることで渡り糸に収縮力が働きやすくなり、編地の見栄えに影響を及ぼす虞がある。そのため、連続するミス編成は八目以下とすることが好ましい。また、割増やし編成は連続して行うこともできる(下記パターン1,2)。さらに、伸び抑制領域の全ての編目に対して割増やし編成を行うのではなく、割増やし編成の一部をミス編成に変えることもできるし、(下記パターン3)、割増やし編成の一部をニット編成に変えることもできる(下記パターン4)。しかし、ニット編成を行うと、ミス編成に比較して編糸の絶対量が増え、かつ重ね目による伸び抑制もできないため、基本単位に一目程度とすることが好ましい。
【0031】
例えば、割増やし編成を行う編目を『□』、ミス編成を行う編目を『−』、ニット編成を行う編目を『●』とすると、以下に例示するパターンを挙げることができる。
[パターン1]
1回目の基本編成:−−−−□□−−−−□□−−−−□□
2回目の基本編成:−−□□−−−−□□−−−−□□−−
3回目の基本編成:□□−−−−□□−−−−□□−−−−
[パターン2]
1回目の基本編成:−−−−−−□□□−−−−−−□□□
2回目の基本編成:−−−□□□−−−−−−□□□−−−
3回目の基本編成:□□□−−−−−−□□□−−−−−−
[パターン3]
1回目の基本編成:−−−−−−□−□−−−−−−□−□
2回目の基本編成:−−−□−□−−−−−−□−□−−−
3回目の基本編成:□−□−−−−−−□−□−−−−−−
[パターン4]
1回目の基本編成:−−−−−−□●□−−−−−−□●□
2回目の基本編成:−−−□●□−−−−−−□●□−−−
3回目の基本編成:□●□−−−−−−□●□−−−−−−
【0032】
上述した編成方法では、平面状の編地において、編幅方向の所定範囲として一部領域を伸び抑制領域とする例を説明したが、編幅方向の全領域を伸び抑制領域とすることもできる。つまり、伸びを抑制したい箇所に上述した編成方法を行えばよい。また、平面状の編地以外にも、筒状の編地でも編成できる。筒状編地を連続的に編成する場合には、例えば、前後針床の一方の針床で本実施形態の編成方法を適用した一側編地部の1コース分を編成し、その後に他方の針床で本実施形態の編成方法を適用した他側編地部の1コース分を編成することが挙げられる。前後針床で順次一側編地部と他側編地部とを編成することで、一側編地部と他側編地部とは両端部で繋がっているため、筒状編地となる。このとき、筒状編地の編幅方向の所望の位置に本実施形態の編成方法を適用すればよい。
【0033】
図3は、上述した編成方法によって編成されたテーピング効果のあるサポートパンツを示す。左図はそのサポートパンツの前方、右図はその後方の模式図である。針床の長手方向に並ぶ基本単位の増減により、図3に示すように、曲線状の伸び抑制領域100(ハッチング部分)も形成することができる。また、所望の伸び抑制領域に応じて、基本単位の途中で折り返す基本編成も実施できる。つまり、図3に示すように、膝関節や脹脛などのサポートしたい領域(ハッチング部分)に本実施形態の編成方法を適用すればよい。筒状編地に伸び抑制領域を配置するにあたり、周回編成を行う際は、サポートパンツの前方の領域を編成した後、サポートパンツの後方の領域を編成すればよい。
【0034】
<実施形態2>
実施形態2では、工程αにおいて基本編成を行う度に工程βを行う例を説明する。実施形態2においても、図1の編成工程図を参照しながら説明する。まず、1回目の基本編成B1を行う(図1のS2)。この1回目の基本編成B1における割増やし編成で選択された起点編目3と新規編目13、および起点編目6と新規編目16のそれぞれを重ね合わせる(工程β)。次に、2回目の基本編成B2を行う(図1のS3)。この2回目の基本編成B2における割増やし編成で選択された起点編目2と新規編目12、および起点編目5と新規編目15のそれぞれを重ね合わせる(工程β)。そして、3回目の基本編成B3を行う(図1のS4)。この3回目の基本編成B3における割増やし編成で選択された起点編目1と新規編目11、および起点編目4と新規編目14のそれぞれを重ね合わせる(工程β)。最後に、重ね目1;11〜6;16に対して新たな編目(止め編目)21〜26を編成する(図1のS6)。
【0035】
実施形態2では、基本編成を行う度に、各基本編成における割増やし編成で選択された起点編目と新規編目とを重ね合わせるため、起点編目と新規編目との間に渡り糸は挟まれない。しかし、実施形態2の編成方法によっても、起点編目1〜6および新規編目11〜16の編糸同士の摩擦力、および渡り糸M1〜M3同士の摩擦力が生じるため、ウエール方向およびコース方向の双方に伸び難い組織を備える編地を編成することができる。なお、編地内に実施形態1の編成と実施形態2の編成とを混在させてもよく、伸び抑制領域100の同一編目列内に混在させてもよい。
【0036】
<実施形態3>
実施形態1,2では、目移し用の羽根を有さない複合針(例えば、特許第2946323号公報などを参照)を備える横編機を用いた場合の編成方法を説明した。これに対して、目移し用の羽根を有する複合針を備える横編機を用いて実施形態1,2で説明した編成を行うことができる。目移し用の羽根を有する複合針は、その一方の側面に目移し用の羽根を備えたべら針(例えば、特許第5032822号公報などを参照)や、複合針(例えば、特開平5−78962号公報などを参照)で、その羽根を介して対向する針床間で編目の目移しを行う構造を備える。そのため、対向する針床の編針のフック同士は針床の長手方向に若干ずれている。このずれによって、目移し用の羽根を有する複合針を備える横編機を用いて割増やし編成を行った場合、起点編目の一方の根元に新規編目の両シンカーループが巻き付く。よって、起点編目と新規編目とが絡んだ状態となるため、起点編目および新規編目の編糸同士の摩擦をさらに高めることができ、伸びを抑制する効果を向上することができる。
【符号の説明】
【0037】
100 伸び抑制領域
1〜6 編目(起点編目)
11〜16 編目(新規編目)
1;11〜6;16 重ね目
21〜26 編目(止め編目)
B1,B2,B3 基本編成
M1,M2,M3 渡り糸
8 給糸口
図1
図2
図3