特許第6223347号(P6223347)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6223347親水性コポリマーコーティングを有するタンパク質クロマトグラフィーマトリックス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223347
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】親水性コポリマーコーティングを有するタンパク質クロマトグラフィーマトリックス
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20171023BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20171023BHJP
   B01J 20/24 20060101ALI20171023BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   G01N30/88 201R
   G01N30/88 D
   G01N30/88 J
   G01N30/06 Z
   G01N30/88 101K
   G01N30/88 101S
   B01J20/24 C
   B01J20/26 L
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-540079(P2014-540079)
(86)(22)【出願日】2012年11月1日
(65)【公表番号】特表2015-502528(P2015-502528A)
(43)【公表日】2015年1月22日
(86)【国際出願番号】US2012063049
(87)【国際公開番号】WO2013067171
(87)【国際公開日】20130510
【審査請求日】2015年10月30日
(31)【優先権主張番号】61/554,317
(32)【優先日】2011年11月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598063203
【氏名又は名称】パーデュー・リサーチ・ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】PURDUE RESEARCH FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(72)【発明者】
【氏名】ワース,メアリー,ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ファ,イミン
(72)【発明者】
【氏名】ツァン,ツァオルイ
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−508188(JP,A)
【文献】 米国特許第05362859(US,A)
【文献】 特開平08−103653(JP,A)
【文献】 特開昭57−038937(JP,A)
【文献】 特開平06−237797(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0042363(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0161121(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0021756(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0062451(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/019969(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0029196(US,A1)
【文献】 米国特許第06451260(US,B1)
【文献】 米国特許第03808125(US,A)
【文献】 特開昭57−171257(JP,A)
【文献】 米国特許第07303821(US,B1)
【文献】 JANNE VIRTANEN, et al.,Studies on Copolymerization of N-Isopropylacrylamide and Glycidyl Methacrylate,Journal of Polymer Science Part A:Polymer Chemistry,日本,2001年 5月 6日,P4
【文献】 Synthsis of non-porous poly(glycidylmethacrylate-co-ethylenedimethacrylate)beads and their application in separation of biopolymers,Talanta,2005年 3月14日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/88
G01N 33/48
B01D 15/08
B01J 20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.固体担体、及び
b.固体担体上の表面コーティング
を含むアフィニティークロマトグラフィーマトリックスであって、
表面コーティングがコポリマーを含み、コポリマーがアクリルアミドと、グリシドキシルメタクリレート、メタクリレート、又は2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートを含む第2のモノマーとを含み、コポリマー中のグリシドキシルメタクリレート:アクリルアミドのモル比率が20:1であり、コポリマー中のメタクリレート:アクリルアミドのモル比率が2:1であり、コポリマー中の2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート:アクリルアミドのモル比率が2:1である、前記マトリックス。
【請求項2】
表面コーティングが、結合リガンドを更に含む、請求項1に記載のマトリックス。
【請求項3】
結合リガンドが、ストレプトアビジン、プロテインA、プロテインG、抗体、ヘキサヒスチジン及び金属親和性剤からなる群から選択される、請求項2に記載のマトリックス。
【請求項4】
固体担体が、二酸化ケイ素を含む、請求項1に記載のマトリックス。
【請求項5】
固体担体が、二酸化ケイ素粒子又は二酸化ケイ素の多孔性モノリスを含む、請求項1に記載のマトリックス。
【請求項6】
固体担体が、無孔性二酸化ケイ素粒子である、請求項1に記載のマトリックス。
【請求項7】
固体担体が、2μm以下の直径を有する二酸化ケイ素粒子である、請求項1に記載のマトリックス。
【請求項8】
固体担体が、50nm〜500nmの直径を有する二酸化ケイ素粒子である、請求項1に記載のマトリックス。
【請求項9】
混合物からターゲット分子を精製又は抽出する方法であって、
a. 混合物を、固体担体及び固体担体上の表面コーティングを含むマトリックスと接触させる工程であって、表面コーティングはコポリマー及び結合リガンドを含み、コポリマーはアクリルアミドと、グリシドキシルメタクリレート、メタクリレート、又は2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートを含む第2のモノマーとを含み、コポリマー中のグリシドキシルメタクリレート:アクリルアミドのモル比率が20:1であり、コポリマー中のメタクリレート:アクリルアミドのモル比率が2:1であり、コポリマー中の2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート:アクリルアミドのモル比率が2:1であり、結合リガンドがターゲット分子に結合する工程;及び
b.マトリックスを、リガンドからターゲット分子を放出させる溶離液と接触させることによりターゲット分子を回収する工程
を含む、方法。
【請求項10】
工程aと工程bの間に、マトリックスを、結合していない物質をマトリックスから除去することができる洗浄溶液と接触させる工程を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
混合物が、血清、細胞溶解物、血清の抽出物、細胞溶解物の抽出物又はタンパク質医薬品である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
ターゲット分子が、タンパク質、ペプチド、核酸、糖タンパク質及び糖を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
合物から500pM未満で存在するターゲット分子を精製又は抽出することができる、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
合物から50fmol未満で存在するターゲット分子を精製又は抽出することができる、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦支援研究の記載
本発明は、1R21 CA139108の下で国立衛生研究所からの政府支援を受けてなされた。政府は本発明において、一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
本特許出願は、35U.S.C.119の下で2011年11月1日に出願された米国仮特許出願第61/554,317号に基づく優先権を主張する。
【0003】
一般に、本発明は、クロマトグラフィーの分野に関連する。ある特定の実施形態では、本発明はアフィニティークロマトグラフィーを含むタンパク質クロマトグラフィーに関するマトリックス及び方法を提供する。
【背景技術】
【0004】
一般に、クロマトグラフィー法は、タンパク質、核酸及び多糖類等の目的の分子を混合物から分離及び/又は精製するために使用される。例えば、アフィニティークロマトグラフィーは、混合物中のターゲット分子にとって特異的なリガンドを結合させているマトリックスに混合物を通すことを含む。リガンドと接触すると、ターゲット分子はマトリックスに結合し、混合物から分離して保持される。アフィニティークロマトグラフィーは、非常に特異的で、速く、経済的で、かつ高収率である精製方法を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
タンパク質クロマトグラフィー法は、組織及び生体流体中で特定の疾患に関連するバイオマーカーを検出するために有用である。一般に、これらのバイオマーカーの早期検出は疾患の治療の成功に重要であり、新しいバイオマーカーが発見されるにしたがって、これらのバイオマーカーの検出は益々有用である。しかしながら、通常、バイオマーカーは生体試料中に、非常に低い濃度で存在する。例えば、アガロースビーズ及び磁気ビーズ等のアフィニティークロマトグラフィー用の市販の粒子は、微量のこれらのバイオマーカーを分離するためには適していない。したがって、低濃度で存在するバイオマーカーや他のターゲット分子を溶液、特に血清等の生体溶液又は細胞溶解物から回収するために、新しいタンパク質クロマトグラフィーの材料及び方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、固体担体、コポリマーを有する表面コーティング、及び結合リガンドを含むアフィニティークロマトグラフィーマトリックスに関する。コポリマーは、グリシドキシルメタクリレート及びアクリルアミドモノマーを含み得る。これらのモノマーは、1:5〜1:200の範囲の特定の比率で存在し得る。
【0007】
本発明はまた、ターゲット分子(例えば、バイオマーカー等)を混合物から精製又は抽出する方法であって、混合物を、固体担体、コポリマーを有する表面コーティング及び結合リガンドを含むマトリックスと接触させ、結合リガンドをターゲット分子に結合させる工程、及びマトリックスを、ターゲット分子を放出させる溶離液と接触させることによりターゲット分子を回収する工程を含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の1つの実施形態の概略図を示す。図1は、微量の生体分子のアフィニティー抽出のためのアフィニティービーズとして使用することができるコーティングされたシリカ粒子を示す。
図2図2は、コーティングされたシリカビーズ、磁気ビーズ及びアガロースビーズによる羊の血清中に10ng/mLで存在するEphA2の抽出効率のグラフを示す。
図3図3は、コーティングされたシリカビーズ、磁気ビーズ及びアガロースビーズによる2回の抽出後の前立腺特異抗原(PSA)のマススペクトルのグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において使用される、用語「タンパク質クロマトグラフィー」とは、液体溶液が流れる固定相を充填したカラムを使用して、タンパク質を混合物から分離することをいう。
【0010】
本明細書において使用される、用語「アフィニティークロマトグラフィー」とは、タンパク質の分離及び本発明との関連において、粒子の表面に結合された、例えば抗体等のリガンドを使用して、例えばタンパク質又はペプチド等の目的の分子を選択的に抽出するクロマトグラフィーをいう。
【0011】
本明細書において使用される、用語「コポリマー」は、二種以上のモノマーを使用することによって作られたポリマーを意味する。
【0012】
本発明は、ELISAアッセイの感度及び選択性を有する改良されたクロマトグラフィー媒体及びそれを用いた方法に関する。1つの実施形態では、本発明は、固体担体、コポリマーを有する固体担体上の表面コーティング及び結合リガンドを含むクロマトグラフィーマトリックスに関する。
【0013】
固体担体は、シリカ(二酸化ケイ素)をベースとした粒子又はモノリスであり得る。シリカをベースとした粒子状固体担体では、粒子(又はビーズ)の大きさは、シリカ粒子の直径及びコポリマー膜の厚さにより異なり得る。粒子の直径は、約50nm〜約2μmの範囲であり得る。好適には、粒子は約2μm未満である直径を有する。他の好適な実施形態では、直径は約200nm〜約800nm、より好適には約300nm〜約500nmの範囲である。表面積の予測がしやすいという理由で、球状粒子が好ましい。狭い粒子径分布もまた好ましい。例えば、直径に対して約10%未満の粒子径分布とすることで、全ての粒子が同程度の速度で遠心分離される。好適には、粒子は無孔性である。
【0014】
コポリマーを有する表面コーティングは、当業者に知られた任意の方法を使用して生成され、表面に付着され得る。コポリマー膜を成長させ、それを表面に付着させる1つの方法には、Xiao and Wirth, Macromolecules 35: 2919-2925, 2002に記載されているような原子移動ラジカル重合法によるものがあり、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0015】
本発明のコポリマーを有する表面コーティングを形成するために、上記のようなXiao and Wirth法は、第2のモノマーをアクリルアミドモノマーに加えることにより変更され得る。コポリマーコーティング中のポリアクリルアミドは、タンパク質及び他の分子がマトリックス自体に非特異的に付着することを防ぐ。
【0016】
好適には、第2のモノマーは、タンパク質クロマトグラフィーの使用において1以上のリガンドの結合を可能にすることによって機能するものである。種々のモノマーがコポリマー中の第2のモノマーとして含まれ得る。第2のモノマーは、1以上のリガンドと結合することができる1以上の官能基/部位を含み得る。1つの実施形態では、第2のモノマーは、グリシドキシルメタクリレート(IUPAC名:オキシラン-2-イルメチル2-メチルプロパ-2-エノエート)であるか、又は、例えば抗体等のリガンドを結合させるためのグリシドキシルメタクリレート官能基を含み、リガンドがターゲット分子(例えば目的のタンパク質等)に結合し得る。
【0017】
第2のモノマー上の結合部位は、カルボン酸又はスルホン酸等の官能基の陽イオン結合部位であり得るか、又は、アミノ基の陰イオン結合部位であり得る。第2のモノマー、又は第2のモノマー上の官能基/部位は、不飽和分子を含んでもよく、それぞれ好適には少なくとも1つのヘテロ原子を有する。陽イオン交換種は、メタクリル酸;アクリル酸、アクリル酸のディールスアルダー付加体;メチル、エチル、ブチル、イソブチル、エチルヘキシル、ラウリル、ステアリル、ヒドロキシエチル、及びジメチルアミノエチルを含むメタクリレート;メチル、エチル、ブチル、イソブチル、t-ブチル、エチルヘキシル、ラウリル、ステアリル及びヒドロキシエチルを含むアクリレート;グリシジルメタクリレート;トリアルコキシシランメタクリレート、例えば3-(メタクリルオキシ)プロピルトリメトキシシラン及び3-(メタクリルオキシ)プロピル-トリエトキシシラン、メタクリルオキシメチルトリメトキシシラン、メタクリルオキシメチルトリエトキシシラン;アクリロニトリル;2-イソプロペニル-2-オキサゾリン;スチレン;α-メチルスチレン;ビニルトルエン;ジクロロスチレン;N-ビニルピロリジノン、ビニルアセテート、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシメチルトリアルコキシシラン並びにビニルクロライドを含むが、これらに限定されない。
【0018】
陰イオン交換種は、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、及びその多くの変化体を含むが、これらに限定されない。エチルはリンカーであり、メチルのように短くても、ブチルのように長くてもよく、ジメチル基は水素、エチル、プロピル、又はブチル基であってもよい。
【0019】
他の種は、無水マレイン酸、ジブチルマレエート、ジシクロヘキシルマレエート、ジイソブチルマレエート、ジオクタデシルマレエート、N-フェニルマレイミド、シトラコン酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ブロモマレイン酸無水物、クロロマレイン酸無水物、ナディック酸無水物、メチルナディック酸無水物、アルケニルコハク酸無水物、マレイン酸、フマル酸、ジエチルフマレート、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、及びそれぞれのエステル、イミド、塩、並びにこれらの化合物のディールスアルダー付加体を含み得るが、これらに限定されない。これらの種はまた、シラン化合物を含む。
【0020】
コポリマー中の第2のモノマーとアクリルアミドの相対量は、約20:1〜約1:200の範囲であり得る。比率は、官能基を有する第2のモノマーの特性(identity)に依存する。1つの実施形態では、比率は、グリシドキシルメタクリレートのモル:アクリルアミドのモルについて、約1:約50〜、より好適には約1:約20の範囲であり得る。別の実施形態では、比率は、アクリルアミドのモル:メタクリレートのモルについて、約1:約10〜約1:約1、最も好適には1:約2の範囲であり得る。更なる実施形態では、比率は、アクリルアミドのモル:2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートのモルについて、約1:約10〜約1:約1、最も好適には約1:約2の範囲であり得る。
【0021】
1つの実施形態では、第2のモノマーはグリシドキシルメタクリレートであり、グリシドキシルメタクリレート:アクリルアミドの好適な比率は約1:20である。
【0022】
例えばグリシドキシルメタクリレート基等の官能基に結合するリガンドは、天然のものでも合成されたものでもよく、抗体及び抗原、受容体及び受容体結合分子、アビジン及びビオチン、カルシウム及び金属イオン等のイオン及びイオン結合分子、オリゴヌクレオチド等の核酸結合部位、レクチン並びに炭水化物分子を含むが、これらに限定されない。1つの実施形態では、結合リガンドは、ストレプトアビジン、プロテインA、プロテインG、及び抗体からなる群から選択される。別の実施形態では、結合リガンドは、ヘキサヒスチジン及びニッケルニトリロアミン等の金属親和性剤からなる群から選択される。
【0023】
結合リガンドは、当業者に知られた任意の方法により固体担体上の表面コーティングに結合させることができる。結合リガンドを結合させるためにポリマーコーティングを官能基化する方法は当技術分野において知られており、例えば、コーティングはアンモニア、アミン、アミン標識ポリチミン又はアミン標識オリゴヌクレオチドと反応させることができる。結合リガンドの結合によってアフィニティークロマトグラフィーにおいて有用な材料が製造される。例えば、コーティング中の第2のモノマー(例えばグリシドキシルメタクリレート等)は、1以上の種類の結合リガンドをビーズの外表面上のコポリマー膜に結合させることによってアフィニティークロマトグラフィーにおいて使用するために官能基化され得る。
【0024】
図1は、微量の生体分子をアフィニティー抽出するためのアフィニティービーズとして使用することができるコーティングされたシリカ粒子の1つの実施形態の概略図を示す。ここで、混合SAM層は、重合の開始剤とメチル基の水平重合により形成される自己組織化単分子膜である。クロマトグラフィーマトリックスは混合SAM層を必要としない。Xiao and Wirthの文献にしたがって、コポリマー層は、当業者に知られた標準的な技術によりシリカ上に形成され得る。用語「ATRP」とは、原子移動ラジカル重合法をいう。PAAmはタンパク質吸着に対し強い耐性があり、一方で、グリシドキシは、mAbsを粒子に結合させる。シリカ粒子は、単分散性が高く(+/- 3%)、微量遠心分離機において迅速に遠心沈殿する。
【0025】
使用される結合リガンドの種類に依存して、得られるタンパク質(例えばアフィニティー)クロマトグラフィーマトリックスは、例えば特定のタンパク質、ペプチド、核酸、糖タンパク質及び糖等の特定のターゲット分子を混合物及び溶液から精製、抽出、単離、及び/又は分離するために使用され得る。例えば、得られるアフィニティークロマトグラフィーマトリックスは、微量のバイオマーカーを生体流体及び細胞溶解物から単離するために特に有用であり得る。
【0026】
本発明はまた、ターゲット分子を混合物から精製、抽出等する方法であって、本明細書に記載されるタンパク質クロマトグラフィーマトリックスと混合物を接触させる工程、ここで結合リガンドがターゲット分子に結合する、及びマトリックスを、ターゲット分子を放出させる溶離液と接触させることによりターゲット分子を回収する工程、を含む方法に関する。混合物は、血清、細胞溶解物、血清の抽出物、細胞溶解物の抽出物、タンパク質医薬品(モノクローナル抗体及びインスリンを含むがこれらに限定されない)であり得る。
【0027】
クロマトグラフィーマトリックスと混合物との接触工程は、粒子を液体試料中に懸濁する工程、又は液体試料を粒子の充填カラムに通して流す工程を含み得る。1つの実施形態では、マトリックスを含むビュレットに混合物又は混合物を含む溶液を流し込むことにより、混合物をマトリックスに接触させてもよい。混合物は、重力により、ポンプ輸送により、又はクロマトグラフシステムを使用することによりマトリックスを通過する。別の実施形態では、マトリックスを含むカラムに混合物又は混合物を含む溶液を注入することにより、混合物をマトリックスと接触させ得る。混合物は圧力によりマトリックスを通過する。
【0028】
必要に応じて、ターゲット分子を有する混合物とマトリックスとを接触させた後、ターゲット分子が結合したマトリックスを洗浄溶液で洗浄してもよい。洗浄溶液は、典型的にはPBS(リン酸緩衝食塩液)である。洗浄溶液によって結合していない物質をマトリックスから除去することができる。
【0029】
本発明の方法は、従来のマトリックスを使用する分離よりも優れた感度を示す。1つの実施形態では、本発明のクロマトグラフィーマトリックスを使用するターゲット分子のアフィニティー抽出/分離の一般的な感度は、約500pM未満、好適には約250pM未満、より好適には約100pM未満である。同様に、本発明のクロマトグラフィーマトリックスを使用するターゲット分子のアフィニティー抽出/分離により検出することができるタンパク質の量は、約50fmol未満、好適には約25fmol未満、より好適には約10fmol未満である。
【0030】
結合リガンドは、共有結合及び非共有結合を含むがこれらに限定されないいくつかの異なる機構を使用してターゲット分子を結合し得る。溶離液とマトリックスとの接触によりターゲット分子を回収する工程は、例えば抗体-タンパク質複合体等のリガンド-ターゲット分子複合体を分解させる(break)条件を使用する必要があり得る。典型的には、これは、酸性溶液(pH5未満;好適にはpH3)又は塩基性溶液(pH8より大きい、好適にはpH9)のいずれかを使用してpHを変更することにより実施される。溶離液は水性溶媒もしくはメタノールもしくはアセトニトリル等の非水性溶媒、又は非水性溶媒と混合した水であり得る。
【0031】
本発明は、アフィニティークロマトグラフィーの既知の方法、例えばカラム分離及び免疫沈降法において使用され得るタンパク質クロマトグラフィーマトリックスを調製するために有用である。1つの実施形態では、試料溶液を本発明のアフィニティークロマトグラフィービーズと接触させて、リガンドとターゲット分子(例えばリガンド結合パートナー)の間に特定の結合を生じさせる。非特異的に結合した物質は、混合物の溶液により、又は任意の洗浄工程によりビーズから洗い流すことができる。特異的に結合した物質は溶出又は沈殿により回収される。
【0032】
特定の実施形態では、ELISAのために開発された相補的な抗体を使用することにより特異的結合物質を2回目のアフィニティー抽出にかけ、精製度を高めて選択性を向上させる。2回目は、リガンドと他のターゲット分子との交差反応性、例えば第1の抗体と他のタンパク質との交差反応性を避けるために実施され得る。2回目は、同一の不要なタンパク質と交差反応をしないように選択された異なるリガンド、例えば抗体等を使用し得る。
【0033】
上記のクロマトグラフィーマトリックスは、高いレベルの非特異的結合を示すアガロースビーズ、及びタンパク質の回収率が低い磁気ビーズ等の現在入手可能な媒体と比較して、優れたアフィニティークロマトグラフィー用の媒体を提供する。
【0034】
以下の実施例に示すように、市販されているアガロース又は磁気アフィニティービーズではない、コーティングされたシリカ粒子(又はビーズ)は微量のタンパク質を血清等の生体流体から精製するために使用することができる。
【0035】
本発明の好適な実施形態が本明細書において記載される一方で、このような実施形態はほんの一例として示されているということが理解されるであろう。多数の変更が、本発明の精神から逸脱することなく当業者によって見出されるであろう。したがって、添付された特許請求の範囲は、本発明の精神及び範囲に属するそのような全ての変更を含むよう意図されている。
【実施例】
【0036】
実施例1 血清からのエフリンA型受容体2(EphA2)のアフィニティー抽出
蛍光標識EphA2(ここで、EphA2は乳癌のバイオマーカー候補物質である)を、1.0mLの羊の血清中に添加し、10ng/mLの濃度にした。EphA2を血清から抽出する性能について、3つのアフィニティークロマトグラフィー媒体を試験した。3つの抽出媒体は、(1)グリシドキシルメタクリレートとアクリルアミドをそれぞれ1:20の比率でコーティングしたシリカ粒子;330nmの無孔性シリカビーズを使用して製造され、そこにシラン開始剤を結合させ、その上にアクリルアミドとグリシドキシルメタクリレートのコポリマーを生成させ、最終的に抗-EphA2を結合させたもの;(2)市販の磁気ビーズ(Invitrogen、今ではLife Technologies)に、それに記載された手順にしたがって同一の抗-EphA2を結合させたもの;(3)市販のアガロースビーズ(GE Healthcare)に、それに記載された手順にしたがって同一の抗-EphA2を結合させたもの、であった。結果を表1に示す。
【0037】
各場合において、市販のビーズを、各パッケージ中の使用説明書にしたがって使用した。市販のビーズ及びシリカビーズを、それぞれ1mLのEphA2試料と混合し、穏やかな撹拌条件下で平衡化させた。セファロース及びシリカビーズの場合には粒子を穏やかに遠心分離し、磁気ビーズの場合には、強力な磁石を使用してビーズを採取した。ビーズをリン酸緩衝食塩液中に再度懸濁してすすぎ、その後、再度遠心分離又は磁石により採取した。この洗浄工程を、少なくとも3回実施した。トリエチルアミンを使用してEphA2をその抗体から放出させて容量25μL中にEphA2を回収し、EphA2を蛍光により分析した。また、ビーズを2回連続抽出において試験し、ここで、EphA2が放出されたpHである溶液をリン酸緩衝溶液で1mLに希釈した後、新しいビーズ一式を第2の抽出に用いた。結果は、コーティングされたシリカビーズのみが第2の抽出を可能にするのに十分に高いレベルでEphA2を血清から首尾よく回収し、タンパク質精製を改善したことを示している。
【表1】
【0038】
図2はコーティングされたシリカアフィニティービーズが第1の抽出において94%のEphA2を血清から回収したことを示す。血清試料の最初の体積は1.0mLであり、溶出した体積は25μLであった。最初の濃度は10ng/mLであり、最終的な濃度は400ng/mLであった。データは溶離液中のEphA2の標準の検量線に対する比較により得られた。
【0039】
実施例2 血清からの前立腺特異抗原(PSA)のアフィニティー抽出
実施例1の結果を実証するために、ヒトPSAを羊血清中に添加し、10ng/mLの濃度にし、1.0mLの試料を、コーティングされたシリカビーズ、磁気ビーズ(ダイナビーズ(Dynabeads))、及びアガロース(セファロース(Sepharose))ビーズにより抽出した。抽出したPSAを、25μLのトリフルオロ酢酸及びシナピン酸のアセトニトリル/水の溶液中に溶出した。マススペクトルをMALDIプレート上に配置された1μLのアリコートから測定した。3回の繰返し実験を実施した。図3のマススペクトルに示されているように、コーティングされたシリカビーズのみが、測定可能な量のPSAを首尾よく抽出した。マススペクトルは本発明の方法が高い選択性を有していることを示しており、分析されるタンパク質が約10ng/mLの濃度の場合、血清タンパク質からの干渉は微量であることを意味している。
本発明の実施形態として、例えば以下を挙げることができる。
(1) a.固体担体、及び
b.固体担体上の表面コーティング
を含むクロマトグラフィーマトリックスであって、
表面コーティングがコポリマー及び結合リガンドを含み、コポリマーがアクリルアミド及び第2のモノマーを含む、
クロマトグラフィーマトリックス。
(2) 第2のモノマーが、メタクリル酸;アクリル酸;アクリル酸のディールスアルダー付加体、メチル、エチル、ブチル、イソブチル、エチルヘキシル、ラウリル、ステアリル、ヒドロキシエチル、及びジメチルアミノエチルを含むメタクリレート;メチル、エチル、ブチル、イソブチル、t-ブチル、エチルヘキシル、ラウリル、ステアリル及びヒドロキシエチルを含むアクリレート;グリシジルメタクリレート;トリアルコキシシランメタクリレート;アクリロニトリル;2-イソプロペニル-2-オキサゾリン;スチレン;α-メチルスチレン;ビニルトルエン;ジクロロスチレン;N-ビニルピロリジノン、ビニルアセテート、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシメチルトリアルコキシシラン、ビニルクロライド;2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート;無水マレイン酸;ジブチルマレエート;ジシクロヘキシルマレエート;ジイソブチルマレエート;ジオクタデシルマレエート;N-フェニルマレイミド;シトラコン酸無水物;テトラヒドロフタル酸無水物;ブロモマレイン酸無水物;クロロマレイン酸無水物;ナディック酸無水物;メチルナディック酸無水物;アルケニルコハク酸無水物;マレイン酸;フマル酸;ジエチルフマレート;イタコン酸;シトラコン酸;クロトン酸;及びこれらの混合物を含む、(1)に記載のマトリックス。
(3) 第2のモノマーが、グリシドキシルメタクリレート、メタクリレート、又は2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートを含む、(1)に記載のマトリックス。
(4) コポリマー中の第2のモノマー:アクリルアミドの比率が、約20:1〜約1:200の範囲である、(1)に記載のマトリックス。
(5) 第2のモノマーがグリシドキシルメタクリレートであり、コポリマー中のグリシドキシルメタクリレート:アクリルアミドの比率が約1:20である、(1)に記載のマトリックス。
(6) 固体担体が、二酸化ケイ素を含む、(1)に記載のマトリックス。
(7) 固体担体が、二酸化ケイ素粒子又は二酸化ケイ素の多孔性モノリスを含む、(1)に記載のマトリックス。
(8) 固体担体が、無孔性二酸化ケイ素粒子である、(1)に記載のマトリックス。
(9) 固体担体が、2μm以下の直径を有する二酸化ケイ素粒子である、(1)に記載のマトリックス。
(10) 結合リガンドが、ストレプトアビジン、プロテインA、プロテインG、抗体、ヘキサヒスチジン及び金属親和性剤からなる群から選択される、(1)に記載のマトリックス。
(11) 結合リガンドが、ニッケルニトリロアミンである、(1)に記載のマトリックス。
(12) 混合物からターゲット分子を精製又は抽出する方法であって、
a.混合物を、固体担体及び固体担体上の表面コーティングを含むマトリックスと接触させる工程であって、表面コーティングはコポリマー及び結合リガンドを含み、コポリマーはアクリルアミド及び第2のモノマーを含み、結合リガンドがターゲット分子に結合する工程;及び
b. マトリックスを、リガンドからターゲット分子を放出させる溶離液と接触させることによりターゲット分子を回収する工程
を含む、方法。
(13) 工程aと工程bの間に、マトリックスを、結合していない物質をマトリックスから除去することができる洗浄溶液と接触させる工程を更に含む、(12)に記載の方法。
(14) 混合物が、血清、細胞溶解物、血清の抽出物、細胞溶解物の抽出物又はタンパク質医薬品である、(12)に記載の方法。
(15) ターゲット分子が、タンパク質、ペプチド、核酸、糖タンパク質及び糖を含む、(12)に記載の方法。
(16) 約500pM未満で存在する混合物からターゲット分子を精製又は抽出することができる、(12)に記載の方法。
(17) 約50fmol未満で存在する混合物からターゲット分子を精製又は抽出することができる、(12)に記載の方法。
図1
図2
図3