(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223353
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】メラニン生成抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/37 20060101AFI20171023BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
A61K8/37
A61Q19/02
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-547038(P2014-547038)
(86)(22)【出願日】2013年11月14日
(86)【国際出願番号】JP2013080832
(87)【国際公開番号】WO2014077334
(87)【国際公開日】20140522
【審査請求日】2016年11月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-251422(P2012-251422)
(32)【優先日】2012年11月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】中村 未央
(72)【発明者】
【氏名】土師 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 明
(72)【発明者】
【氏名】藤原 留美子
(72)【発明者】
【氏名】柴田 貴子
【審査官】
松本 直子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−273417(JP,A)
【文献】
特開2006−160701(JP,A)
【文献】
特開平9−132527(JP,A)
【文献】
特開2009−256215(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0248762(US,A1)
【文献】
特表2009−509929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00− 90/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ皮酸フェニルエチルを活性成分として含んで成るメラニン生成抑制剤。
【請求項2】
ケイ皮酸フェニルエチルを活性成分として含んで成る美白剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ皮酸フェニルエチルを活性成分として含んで成るメラニン生成抑制剤又は美白剤に関する。
【背景技術】
【0002】
メラニンは表皮に存在する色素細胞(メラノサイト)が産生する黒褐色の色素であり、アミノ酸の一種であるチロシンを基質としてチロシナーゼなどの酵素の働きにより酸化的縮合反応により形成される不溶性の高分子である。さらに詳細には黒色を呈するユーメラニンと赤色を呈するフェオメラニンに分類される。これらのメラニンはメラノサイトによって産生された後、メラニンを含む顆粒(メラノソーム)としてその周囲に存在する表皮角化細胞(ケラチノサイト)に受け渡され、そのターンオーバーとともに表皮から排泄される。しかしながら、紫外線の暴露やストレス等により活性化したメラノサイトは過剰なメラニンを生産し、これが沈着することにより、日焼け後の色素沈着、しみ、そばかす、肝斑等として皮膚に表れ、美容上の悩みの原因ともなっている。
【0003】
これまでに、システイン、グルタチオン、ビタミンCのほか、トリコデルマ属に属する微生物由来の産生物(特許文献1)、ラクトフェリン加水分解物(特許文献2)、コウジ酸のアミノ酸誘導体とペプチド誘導体(特許文献3)がチロシナーゼ阻害作用を有しメラニンの生成を抑制し得ること、また、フラノン等の特定の香料化合物がチロシナーゼ阻害剤やメラニン生成抑制剤として使用できることが報告されている(特許文献4、特許文献5、特許文献6)。
さらに、α−イロンとして知られる4−(2,5,6,6−テトラメチル−シクロヘキセン1−イル)−3−ブテン−2−オン(特許文献7)や、γ−イロン、α−イロンの前駆物質であるイリフロレンタール、イリバリダール(特許文献8)がメラニン生成抑制効果を有することが報告されている。
【0004】
しかしながら、従来知られているメラニン生成抑制剤は、近年美白剤として注目を浴びているヒドロキノンのように安全性に問題がある場合や、その効果が実用的に十分でない場合などがあり、メラニン生成抑制作用を有する新規成分の探求が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−145189号公報
【特許文献2】特開平5−320068号公報
【特許文献3】特開平4−187618号公報
【特許文献4】特開2000−302642号公報
【特許文献5】特開2001−163719号公報
【特許文献6】特開2001−240528号公報
【特許文献7】特開2011−157286号公報
【特許文献8】特開平9−241154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、安全性に優れ、有意な作用を有する新規なメラニン生成抑制を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題の解決に向けて鋭意検討を重ねた結果、ケイ皮酸フェニルエチルが、細胞毒性を示すことなく、かつ優れたメラニン生成抑制効果を有することを見出した。
【0008】
従って、本願は以下の発明を包含する:
[1] ケイ皮酸フェニルエチルを活性成分として含んで成るメラニン生成抑制剤。
[2] ケイ皮酸フェニルエチルを活性成分として含んで成る美白剤。
[3] 皮膚中の過剰なメラニン生成の抑制が必要な対象に対して、ケイ皮酸フェニルエチルを適用することを含んで成る、皮膚中の過剰なメラニン生成を抑制するための美容的又は治療的方法。
[4] 皮膚の美白が必要な対象に対して、ケイ皮酸フェニルエチルを適用することを含んで成る、皮膚の美白方法。
[5] 皮膚中の過剰なメラニン生成を抑制するための、ケイ皮酸フェニルエチルの使用。
[6] 皮膚の美白のための、ケイ皮酸フェニルエチルの使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、皮膚における過剰なメラニン生成を有意に抑制することができる。このため、本発明のメラニン生成抑制剤は、日焼け後の色素沈着、しみ、そばかす、肝斑等の予防及び/又は改善に有効な美白剤として用いることができる。また、本発明のメラニン生成抑制剤の成分として含まれる合成香料は、その存在が天然に多く認められているネイチャーアイデンティカル(NI)であり、細胞毒性をほとんど示さないことから、化粧品又は医薬品の使用において、十分な安全性を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
メラニン生成抑制剤の香料成分のスクリーニングは、下記の実施例で詳細に記載した通り、B16メラノーマに各種候補香料を作用させ、細胞毒性及び対照(溶媒のみ添加)比較したメラニン量比率(%)を評価することにより行った。
【0011】
その結果、ケイ皮酸フェニルエチルが、細胞毒性を示すことなく、優れたメラニン生成抑制効果を有することが見出された。
【0012】
・ケイ皮酸フェニルエチル(CAS名 2-プロペン酸 3-フェニル-2-フェニルエチルエステル, CAS No.103-53-7)
ケイ皮酸フェニルエチルは、
【化1】
の化学構造を有する化合物である。天然に微量存在するバルサミック香を有する化合物として知られ、フレーバーとしてもよく用いられている。
【0013】
本発明のメラニン生成抑制剤又は美白剤(以下、「本剤」ともいう)は、その使用目的に合わせて用量、投与形態、剤型を適宜決定することが可能である。例えば、本剤中に活性成分として含まれる香料成分は、薬剤全量中、典型的には0.00001〜10質量%、好適には0.0001〜1質量%、最適には0.0001〜0.1質量%配合する。本剤の投与形態は特に制限されるものではなく、経口、非経口、外用、吸入等であってよいが、好ましくは皮膚外用剤である。剤型としては、例えば軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤等の外用剤、注射剤、点滴剤、若しくは坐剤等の非経口投与剤、又は錠剤、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、エキス剤、シロップ剤等の経口投与剤を挙げることができる。特に、香水、コロン、シャンプー・リンス類、スキンケア、ボディシャンプー、ボディリンス、ボディパウダー類、芳香剤、消臭剤、浴剤、ローション、クリーム、石鹸、歯磨剤、エアゾール製品等の化粧料、その他の香料一般に用いられる形態が好ましい。
【0014】
また、本剤には、上記必須成分以外に、例えば、通常の食品や医薬品に使用される賦形剤、防湿剤、防腐剤、強化剤、増粘剤、乳化剤、酸化防止剤、甘味料、酸味料、調味料、着色料、香料等、化粧品等に通常用いられる美白剤、保湿剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0015】
さらに、本剤を皮膚外用剤として使用する場合、皮膚外用剤に慣用の助剤、例えばエデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸及びその誘導体、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸及びその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類、レチノイン酸、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等のビタミンA類なども適宜配合することができる。
【0016】
以下、具体例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
1)細胞播種・試験物質の添加
マウスB16メラノーマ細胞を6ウェルプレートに100,000細胞/ウェルで播種した。翌日、試験物質溶液(溶媒:エチルアルコール)を添加し、細胞増殖試験及びメラニン生成抑制試験に供した。試験物質として、ネイチャーアイデンティカルの合成香料であるケイ皮酸フェニルエチル(豊玉香料株式会社)を用いて、以下の試験に供した。
【0018】
2)細胞増殖試験
試験物質溶液添加から3日後に培地を吸引除去した後、10%のアラマブルー溶液を含むEMEM培地を1ml添加して、37℃で反応させた。30分後に100μlを94ウェルプレートに移し、励起波長544nm、測定波長590nmで蛍光を測定した。その値を生細胞数の相対値として、試験物質無添加群(溶媒のみ添加)を100とする試験物質添加群の細胞数比率(%細胞数)を算出した。%細胞数が高いほど細胞毒性が低いことを意味する。
【0019】
3)メラニン生成抑制試験
試験物質添加から3日後に培地を吸引除去し、バッファー(リン酸緩衝液50mM、pH6.8)を用いて洗浄した後、1M NaOH溶液を添加して細胞を溶解し、475nmの吸光度を測定した。この値をメラニン量の相対値として、試験物質無添加群(溶媒のみ添加)を100とした試験物質添加群のメラニン量比率(%)を算出した。メラニン量比率が低いほどメラニン生成抑制効果が高いことを意味する。
【0020】
上記細胞増殖試験及びメラニン生成抑制試験の結果を以下に示す。
【表1】
上記の表からも明らかなように、ケイ皮酸フェニルエチルは、細胞毒性をほとんど示さない一方で、優れたメラニン生成抑制効果を示した。
【0021】
以下、本剤の配合例を示すが、本発明の実施は以下に限定されるものではない。
【0022】
乳液
処方 (重量%)
(1)ステアリン酸 2.0
(2)セチルアルコール 1.5
(3)ワセリン 4.0
(4)スクワラン 5.0
(5)グリセロールトリー2−エチルヘキサン酸エステル 2.0
(6)ソルビタンモノオレイン酸エステル 2.0
(7)ジプロピレングリコール 5.0
(8)PEG1500 0.3
(9)トリエタノールアミン 0.1
(10)防腐剤 適量
(11)本発明のメラニン生成抑制剤:ケイ皮酸フェニルエチル 0.0005
(12)精製水 残余
【0023】
クリーム
処方 (重量%)
(1)グリセリン 10.0
(2)ブチレングリコール 5.0
(3)カルボマー 0.1
(4)苛性カリ 0.2
(5)ステアリン酸 2.0
(6)スタリン酸グリセリル 2.0
(7)イソステアリン酸グリセリル 2.0
(8)ワセリン 5.0
(9)防腐剤 適量
(10)酸化防止剤 適量
(11)本発明のメラニン生成抑制剤:ケイ皮酸フェニルエチル 0.002
(12)精製水 残余
(13)キレート剤 適量
(14)顔料 適量
(15)ステアリルアルコール 2.0
(16)ベヘニルアルコール 2.0
(17)パーム硬化油 2.0
(18)スクワラン 10.0
(19)4−メトキシサリチル酸カリウム 3.0
【0024】
処方 (重量%)
クリーム
(1)グリセリン 3.0
(2)ジプロピレングリコール 7.0
(3)ポリエチレングリコール 3.0
(4)ステアリン酸グリセリル 3.0
(5)イソステアリン酸グリセリル 2.0
(6)ステアリルアルコール 2.0
(7)ベヘニルアルコール 2.0
(8)流動パラフィン 7.0
(9)シクロメチコン 3.0
(10)ジメチコン 1.0
(11)オクチルメトキシシンナメート 0.1
(12)ヒアルロン酸Na 0.05
(13)防腐剤 適量
(14)酸化防止剤 適量
(15)ダマセノン 0.001
(16)本発明のメラニン生成抑制剤:ケイ皮酸フェニルエチル 0.0005
(17)精製水 残余
(18)キレート剤 適量
(19)顔料 適量
【0025】
ジェル
処方 (重量%)
(1)エチルアルコール 10.0
(2)グリセリン 5.0
(3)ブチレングリコール 5.0
(4)カルボマー 0.5
(5)アミノメチルプロパノール 0.3
(6)PEG−60水添ヒマシ油 0.3
(7)メントール 0.02
(8)防腐剤 適量
(9)キレート剤 適量
(10)ダマスコン 0.0004
(11)本発明のメラニン生成抑制剤:ケイ皮酸フェニルエチル 0.0005
(12)精製水 残余
【0026】
エアゾール
処方 (重量%)
(1)グリセリン 2.0
(2)ジプロピレングリコール 2.0
(3)PEG−60水添ヒマシ油 0.3
(4)HPβCD 1.0
(5)防腐剤 適量
(6)キレート剤 適量
(7)染料 適量
(8)本発明のメラニン生成抑制剤:ケイ皮酸フェニルエチル 0.001
(9)精製水 適量
(10)LPG 残余
【0027】
フレグランス
処方 (重量%)
(1)アルコール 75.0
(2)精製水 残余
(3)ジプロピレングリコール 5.0
(4)ダマスコン 0.0005
(5)本発明のメラニン生成抑制剤:ケイ皮酸フェニルエチル 0.002
(6)酸化防止剤 8.0
(7)色素 適量
(8)紫外線吸収剤 適量