(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る合わせガラスの一実施形態を示す断面図である。
【
図2】湾曲状の合わせガラスのダブリ量を示す正面図(a)及び断面図(b)である。
【
図3】湾曲形状のガラス板と、平面形状のガラス板の、一般的な周波数と音響透過損失の関係を示すグラフである。
【
図4】合わせガラスの厚みの測定位置を示す概略平面図である。
【
図5】従来の合わせガラスにおける周波数と音響透過損失の関係を示すグラフである。
【
図6】従来の合わせガラスにおける周波数と音響透過損失の関係を示すグラフである。
【
図7】ヤング率とガラス板の総厚に関するシミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図8】合わせガラスの取付方法を示す概略図である。
【
図9】外側ガラス板の評価の結果を示すグラフである。
【
図10】音響透過損失を出力するためのシミュレーションのモデル図である。
【
図11】中間膜の厚みに関する評価の結果を示すグラフである。
【
図12】中間膜の厚みに関する評価の結果を示すグラフである。
【
図13】中間膜の厚みに関する評価の結果を示すグラフである。
【
図14】中間膜の厚みに関する評価の結果を示すグラフである。
【
図15】中間膜の厚みに関する評価の結果を示すグラフである。
【
図16】ガラス板の総厚に関する評価の結果を示すグラフである。
【
図17】合わせガラスの取付角度に関する評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る合わせガラスの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る合わせガラスの断面図である。同図に示すように、本実施形態に係る合わせガラスは、外側ガラス板(第1ガラス板)1、内側ガラス板(第2ガラス板)2、及びこれらのガラス板の間に挟持される中間膜3で構成されている。外側ガラス1とは、外乱を受けやすい側に配置されるガラス板であり、内側ガラス2は、その反対側に配置されるガラス板である。したがって、例えば、この合わせガラスを自動車のガラスとして用いる場合には、車外側のガラス板が外側ガラス板になり、建築材として用いる場合には、屋外を向く側が外側ガラス板になる。但し、受け得る外乱によっては、これとは反対の配置になることもある。以下、各部材について説明する。
【0016】
<1.外側ガラス板及び内側ガラス板>
外側ガラス板1及び内側ガラス板2は、公知のガラス板を用いることができ、熱線吸収ガラス、あるいは一般的なクリアガラスやグリーンガラス、またはUVグリーンガラスで形成することもできる。但し、この合わせガラスを自動車の窓に用いる場合には、自動車が使用される国の安全規格に沿った可視光線透過率を実現する必要がある。例えば、外側ガラス板1により必要な日射吸収率を確保し、内側ガラス板2により可視光線透過率が安全規格を満たすように調整することができる。以下に、クリアガラスの組成の一例と、熱線吸収ガラスの組成の一例を示す。
【0017】
(クリアガラス)
SiO
2:70〜73質量%
Al
2O
3:0.6〜2.4質量%
CaO:7〜12質量%
MgO:1.0〜4.5質量%
R
2O:13〜15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe
2O
3に換算した全酸化鉄(T−Fe
2O
3):0.08〜0.14質量%
【0018】
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe
2O
3に換算した全酸化鉄(T−Fe
2O
3)の比率を0.4〜1.3質量%とし、CeO
2の比率を0〜2質量%とし、TiO
2の比率を0〜0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO
2やAl
2O
3)をT−Fe
2O
3、CeO
2およびTiO
2の増加分だけ減じた組成とすることができる。
【0019】
一般的には、軽量化と遮音性を両立する外側ガラス板と内側ガラス板の厚みの合計は4.0mm程度であるところ、本実施形態に係る合わせガラスにおいては、軽量化を目的としているため、外側ガラス板1と内側ガラス板2の厚みの合計は、2.4〜3.8mmであることが好ましく、2.6〜3.4mmであることがさらに好ましく、2.7〜3.2mmであることが特に好ましい。このように、軽量化のためには、外側ガラス板1と内側ガラス板2との合計の厚みを小さくすることが必要であるので、各ガラス板のそれぞれの厚みは、特には限定されないが、例えば、以下のように、外側ガラス板1と内側ガラス板2の厚みを決定することができる。
【0020】
外側ガラス板1は、主として、外部からの障害に対する耐久性、耐衝撃性が必要であり、例えば、この合わせガラスを自動車のウインドシールドとして用いる場合には、小石などの飛来物に対する耐衝撃性能が必要である。他方、厚いほど重量が増し好ましくない。この観点から、外側ガラス板1の厚みは1.8mm以上、1.9mm以上、2.0mm以上、2.1mm以上、2.2mm以上の順で好ましい。一方、外側ガラスの厚みの上限は、5.0mm以下、4.0mm以下、3.1mm以下、2.5mm以下、2.4mm以下の順で好ましい。この中で、2.1mmより大きく2.5mm以下、特に、2.2mm以上2.4mm以下が好ましい。何れの厚みを採用するかは、ガラスの用途に応じて決定することができる。
【0021】
上記のように外側ガラス板1の厚みを規定する場合、内側ガラス板2は、合わせガラスの軽量化のため、外側ガラス板1よりも厚みを小さくすることが好ましい。具体的には、ガラスの強度を考慮すると、内側ガラス板2の厚みは、0.6mm以上、0.8mm以上、1.0mm以上、1.3mm以上の順で好ましい。一方、内側ガラス板2の厚みの上限は、5.0mm以下、4.0mm以下、3.1mm以下、2.5m以下、2.0mm以下、1.6mm以下、1.4mm以下、1.3mm以下、1.1mm未満の順で好ましい。この中で、例えば、0.6mm以上1.1mm未満、または2.1mmより大きく2.5mm以下、特に、2.2mm以上2.4mm以下が好ましい。内側ガラス板2についても、何れの厚みを採用するかは、ガラスの用途に応じて決定することができる。
【0022】
また、本実施形態に係る外側ガラス板1及び内側ガラス板2の形状は、平面形状及び湾曲形状のいずれであってもよい。しかしながら、後述するガラスの音響透過損失(STL)は湾曲形状の方が低下するため、湾曲形状ガラスは特に音響対策が必要である。湾曲形状の方が平面形状よりSTL値が低下するのは湾曲形状の方が共振による影響が大きいためと考えられる。
【0023】
さらに、ガラスが湾曲形状である場合には、ダブリ量が大きくなると遮音性能が低下するとされている。ダブリ量とは、ガラス板の曲げを示す量であり、例えば、
図2に示すように、ガラス板の上辺の中央と下辺の中央とを結ぶ直線Lを設定したとき、この直線Lとガラス板との距離のうち最も大きいものをダブリ量Dと定義する。
【0024】
図3は、湾曲形状のガラス板と、平面形状のガラス板の、一般的な周波数と音響透過損失の関係を示すグラフである。
図3によれば、湾曲形状のガラス板は、ダブリ量が30〜38mmの範囲では、音響透過損失に大きな差はないが、平面形状のガラス板と比べると、4000Hz以下の周波数帯域で音響透過損失が低下していることが分かる。したがって、湾曲形状のガラス板を作製する場合、ダブリ量は小さい方がよいが、例えば、ダブリ量が30mmを超える場合には、後述するように、中間膜のコア層のヤング率を18MPa(周波数100Hz,温度20℃)以下とすることが好ましい。
【0025】
ここで、ガラス板が湾曲している場合の厚みの測定方法の一例について説明する。まず、測定位置については、
図4に示すように、ガラス板の左右方向の中央を上下方向に延びる中央線S上の上下2箇所である。測定機器は、特には限定されないが、例えば、株式会社テクロック製のSM−112のようなシックネスゲージを用いることができる。測定時には、平らな面にガラス板の湾曲面が載るように配置し、上記シックネスゲージでガラス板の端部を挟持して測定する。なお、ガラス板が平坦な場合でも、湾曲している場合と同様に測定することができる。
【0026】
<2.中間膜>
上記のように、外側ガラス板1と内側ガラス板2の合計厚みを小さくすると、一般的には遮音性が低下するという問題が懸念されるが、この点について、本発明者は、以下のように検討した。
【0027】
まず、人間が聞き取りやすい音の周波数は、一般的に2000〜5000Hzといわれている。また、一般的に、4.0mm程度の厚みの合わせガラスは、コインシデンス効果により、この2000〜5000Hzの周波数領域で遮音性能が低下することも知られている。
図5は、外側ガラス板と内側ガラス板の厚みがそれぞれ2.0mmの合わせガラスにおける周波数と音響透過損失(SLT)との関係をシミュレーションした結果を示すグラフである。このグラフによれば、人間が聞き取りやすい2000〜5000Hzの周波数領域で音響透過損失が低下していることが分かる。
【0028】
この点についてさらに検討すると、一般的に、ガラスは、厚みが小さくなると、以下の数1などに示されるように、コインシデンス周波数が高周波数側にシフトすることが知られている。
【数1】
【0029】
図6は、一般的なヤング率の比較的低い中間膜を使用した合わせガラスの周波数と音響透過損失(STL)との関係を示すグラフである。同図に示すように、外側ガラス板及び内側ガラス板がともに2mmの第1合わせガラスのSTLと、外側ガラス板が2mm、内側ガラス板が1.5mmの第2合わせガラスのSTLとを比較すると、総厚の小さい第2合わせガラスのコインシデンス周波数は、第1合わせガラスよりも高周波数側にシフトしていることが分かる。さらに、総厚を小さくすることで、面密度が低下していることから、STLも低下している。
【0030】
しかしながら、本発明者は、周波数100Hz,温度20℃において、ヤング率が100MPa以上の中間膜3を用いると、ガラス板の総厚を小さくしても、上述した2000〜5000Hzの周波数領域において、音響透過損失が総厚の大きい合わせガラスよりも向上することを見出した。
図7は、周波数100Hz,温度20℃において、ヤング率が100MPaの中間膜3を用いたときの、外側ガラス板及び内側ガラス板がともに2mmの第3合わせガラスのSTLと、外側ガラス板が2mm、内側ガラス板が1.0mmの第4合わせガラスのSTLを示すグラフである。同図によれば、第4合わせガラスのように内側ガラス板2の厚みを1.0mmまで小さくしても、総厚の大きい第3合わせガラスと比べ、コインシデンス周波数が高周波数側にシフトするものの、上記周波数領域では、音響透過損失はほとんど低下せず、むしろ向上する領域が生じ、遮音性能が向上することを見出した。
【0031】
以上のような観点から、合わせガラスの総厚及び各ガラス板1、2の厚みを上述したように規定するとともに、中間膜3は、ヤング率を基準として選択することができる。具体的には、周波数100Hz,温度20度において、100〜1000MPaであることが好ましく、200〜1000MPaであることがさらに好ましい。更には、400〜1000MPaが好ましい。後述のように、ヤング率が小さすぎると上述した周波数領域においてコインシデンス周波数が上昇する現象がおきないためであり、他方、大きすぎると耐衝撃性能が低下するため好ましくない。測定方法としては、例えば、Metravib社製固体粘弾性測定装置DMA 50を用い、ひずみ量0.05%にて周波数分散測定を行うことができる。以下、本明細書においては、特に断りのない限り、ヤング率は上記方法での測定値とする。但し、ヤング率が200MPa以下の場合の測定は実測値を用いるが、200MPaより大きい場合には実測値に基づく算出値を用いる。この算出値とは、実測値からWLF法を用いることで算出されるマスターカーブに基づくものである。
【0032】
また、中間膜のtanδは、周波数100Hz,温度20℃において、0.1〜3.0であることが好ましく、0.1〜1.0であることがさらに好ましく、0.2〜0.4であることが特に好ましい。tanδが上記範囲にあると、音を吸収しやすくなり、遮音性能が向上する。しかし、tanδが大きくなりすぎると、中間膜3が柔らかくなりすぎ、取り扱いが困難になるため、好ましくない。逆に小さくなりすぎると、中間膜3が硬くなりすぎて、耐衝撃性能が低下するため、好ましくない。
【0033】
中間膜3を構成する材料は、特には限定されないが、少なくともヤング率が上記のような範囲とすることができる材料であることが必要である。例えば、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)によって構成することができる。ポリビニルブチラール樹脂は、各ガラス板との接着性や耐貫通性に優れるので好ましい。
【0034】
一般に、ポリビニルアセタール樹脂の硬度は、(a)出発物質であるポリビニルアルコールの重合度、(b)アセタール化度、(c)可塑剤の種類、(d)可塑剤の添加割合などにより制御することができる。したがって、それらの条件から選ばれる少なくとも1つを適切に調整することにより、硬質なポリビニルブチラール樹脂を作成することができる。さらに、アセタール化に用いるアルデヒドの種類、複数種類のアルデヒドによる共アセタール化か単種のアルデヒドによる純アセタール化かによっても、ポリビニルアセタール樹脂の硬度を制御することができる。一概には言えないが、炭素数の多いアルデヒドを用いて得られるポリビニルアセタール樹脂ほど、軟質となる傾向がある。なお、所定のヤング率が得られる場合は、上記樹脂等に限定されることはなく、必要に応じて他の添加剤を配合することもできる。
【0035】
また、中間膜3は、例えば、0.5〜5.0mmであることが好ましく、0.6〜3.0mmであることがさらに好ましい。中間膜3が小さくなりすぎると、遮音性能が低下したり、あるいは耐貫通性能が低下するおそれがあることによる。他方、大きくなりすぎるとコストアップにつながり好ましくない。なお、中間膜3は、一枚の層で形成することもできるが、同じ材料からなる層を積層することで構成することもできる。同じ材料の層を積層する場合には、層の間にフィルムを挟んでもよい。この場合、中間膜の厚みは、フィルムを除いた中間膜の層の和を言う。
【0036】
なお、中間膜3の厚みは全面に亘って一定である必要はなく、例えば、ヘッドアップディスプレイに用いられる合わせガラス用に楔形にすることもできる。この場合、中間膜3の厚みは、最も厚みの薄い箇所、つまり合わせガラスの最下辺部を測定する。中間膜3が楔形の場合、外側ガラス板及び内側ガラス板は、平行に配置されないが、このような配置も本発明における外側ガラス板と内側ガラス板との「対向配置」に含まれるものとする。すなわち、本発明の「対向配置」は、例えば、1m当たり3mm以下の変化率で厚みが広くなる中間膜3を使用した時の外側ガラス板1と内側ガラス板2の配置を含む。
【0037】
<3.合わせガラスの製造方法>
本実施形態に係る合わせガラスの製造方法は、特に限定されず、従来公知の合わせガラスの製造方法を採用することができる。例えば、まず、中間膜3を外側ガラス板1及び内側ガラス板2の間に挟み、これをゴムバッグに入れ、減圧吸引しながら約70〜110℃で予備接着する。予備接着の方法は、これ以外でも可能である。例えば、中間膜3を外側ガラス板1及び内側ガラス板2の間に挟み、オーブンにより45〜65℃で加熱する。続いて、この合わせガラスを0.45〜0.55MPaでロールにより押圧する。次に、この合わせガラスを、再度オーブンにより80〜105℃で加熱した後、0.45〜0.55MPaでロールにより再度押圧する。こうして、予備接着が完了する。
【0038】
次に、本接着を行う。予備接着がなされた合わせガラスを、オートクレーブにより、8〜15気圧で、100〜150℃によって、本接着を行う。具体的には、14気圧で145℃の条件で本接着を行うことができる。こうして、本実施形態に係る合わせガラスが製造される。
【0039】
<4.合わせガラスの取付構造>
上述した合わせガラスは、例えば、自動車、建築物などの取付構造体に取付けることができる。このとき、合わせガラスは、取付部を介して取付構造物に取付けられる。取付部とは、例えば、自動車に取付けるためのウレタン枠などのフレーム、接着材、クランプなどが該当する。自動車への取付の一例を挙げると、
図8(a)に示すように、まず、合わせガラス10の両端にピン50を取付けておき、取付対象となる自動車のフレーム70に接着材60を塗布する。フレームには、ピンが挿入される貫通孔80が形成されている。そして、
図8(b)に示すように、合わせガラス10をフレーム70に取付ける。まず、ピン50を貫通孔80に挿入し、合わせガラス10をフレーム70に対して仮止めする。このとき、ピン50には段差が形成されているため、ピン50は貫通孔80の途中までしか挿入されず、これにより、フレーム70と合わせガラス10との間に隙間が生じる。そして、この隙間には上述した接着材60が塗布されているため、時間の経過とともに接着材60を介して合わせガラス10とフレーム70が固定される。
【0040】
このような合わせガラスの取付構造体への取付において、合わせガラス10の取付角度はθは、
図8(c)に示すように、垂直Nから45度以下にすることが好ましい。
【0041】
<5.特徴>
本実施形態によれば、周波数100Hz,温度20℃において、中間膜3のヤング率を100〜1000MPaとしているため、外側ガラス板1と内側ガラス板2の総厚を小さくしても、総厚が大きい合わせガラスに比べ、2000〜5000Hzの周波数領域での音響透過損失を向上させることができる。これにより、合わせガラスの軽量化が可能となるとともに、懸念される遮音性能については、人間が聞き取りやすい周波数領域において低下するのが防止される。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0043】
<1.外側ガラス板の厚みの評価>
まず、外側ガラス板の厚みの評価を行った。ここでは、以下に示す7つの合わせガラスを準備した。各合わせガラスは、外側ガラス板、内側ガラス板、及びこれらに挟持される中間膜で構成されている。中間膜の厚みは0.76mm、周波数100Hz,温度20℃におけるヤング率は100MPaとした。
【表1】
【0044】
上記各合わせガラスを垂直から60度の角度をなすように配置し、平均粒径が約10mmの花崗岩を時速64kmで各合わせガラスに衝突させた。各合わせガラスには、それぞれ30個の花崗岩を衝突させ、亀裂の発生率を算出した。結果は、
図9の通りである。同図に示すように、外側ガラス板の厚さが2.1mmである合わせガラス1〜5は、内側ガラス板の厚さに関わらず、亀裂の発生率が5%以下であった。一方、外側ガラス板の厚みが1.8mm以下である合わせガラス6,7は、内側ガラスの厚さにかかわらず、亀裂の発生率が8%となった。したがって、飛来物に対する耐衝撃性の観点から、外側ガラス板の厚さは、上記のように、1.8mmより大きいことが好ましい。更に好ましくは2.0mm以上である。
【0045】
<2.中間膜のヤング率に関する評価>
以下の通り、各ガラス板の厚みと中間膜のヤング率を変化させ、実施例及び比較例に係る合わせガラスを準備した。各ガラス板は、上述したクリアガラスで形成した。中間膜の厚みは0.76mmとした。また、中間膜の厚みは、周波数100Hz,温度20℃で測定している。この条件は、以下の説明ですべて同じである。
【表2】
【0046】
上記実施例及び比較例について、音響透過損失をシミュレーションにより、評価した。シミュレーション条件は、以下の通りである。
【0047】
まず、シミュレーションは、音響解析ソフト(ACTRAN、Free Field technology社製)を用いて行った。このソフトでは、有限要素法を用いて次の波動方程式を解くことにより、合わせガラスの音響透過損失(透過音圧レベル/入射音圧レベル)を算出することができる。
【数2】
【0048】
次に、算出条件について説明する。
(1) モデルの設定
本シミュレーションで用いた合わせガラスのモデルを
図10に示す。このモデルでは、音の発生源側から外側ガラス板、中間膜、内側ガラス板、ウレタン枠の順で積層した合わせガラスを規定している。ここで、ウレタン枠をモデルに追加しているのは、ウレタン枠の有無により音響透過損失の算出結果に少なからず影響があると考えられる点、及び、合わせガラスと車両のウインドシールドの間にはウレタン枠が用いられて接着していることが一般的である点を考慮したためである。
(2) 入力条件1(寸法等)
【表3】
【0049】
なお、ガラス板の寸法である800×500mmは、実際の車両で用いられるサイズよりも小さい。ガラスサイズが大きくなるとSTL値は悪くなる傾向にあるが、これは、サイズが大きいほど拘束箇所が大きくなり、それにともない振幅が大きくなるからである。但し、ガラスサイズが異なっても、上述した周波数毎の相対的値の傾向は同じである。
【0050】
また、ランダム拡散音波とは、所定の周波数の音波が外側ガラス板に対してあらゆる方向の入射角をもって伝番していく音波であり、音響透過損失を測定する残響室での音源を想定したものとなっている。
(3) 入力条件2(物性値)
【表4】
[中間膜のヤング率及び損失係数について]
主な周波数毎に異なった値を用いた。これは、中間膜は粘弾性体のため、粘性効果によりヤング率は周波数依存性が強いためである。なお、温度依存性も大きいが、今回は温度一定(20℃)を想定した物性値を用いた。
【表5】
なお、以上のシミュレーション方法は、以下の3,4項においても同じである。
【0051】
結果は、
図11〜
図15のグラフに示すとおりである。
図11〜
図13によれば、内側ガラス板の厚みが小さくても実施例1〜3は、比較例3〜5に比べ、それぞれ人間に聞き取りやすい2000〜5000Hzの周波数域での遮音性能が高くなる領域が表れている。また、
図14及び
図15に示すように、比較例1,2のように内側ガラス板の厚みを小さくすれば、比較例6,7と比べ、音響透過損失が高くなる領域が生じるが、その領域は、5000Hz以上の領域であり、人間が聞き取りやすい周波数域からは外れていることが分かる。これは、中間膜のヤング率が100MPaよりも小さいことに起因すると考えられる。したがって、ガラス板の総厚を小さくしても、中間膜のヤング率が100MPa以上であれば、人間に聞き取りやすい2000〜5000Hzの周波数域での遮音性能が高くなる領域が表れることが分かった。
【0052】
<3.ガラス板の総厚に関する評価>
以下の通り、実施例及び比較例に係る合わせガラスを準備した。ここでは、内側ガラス板の厚みを変化させ、音響透過損失を上記シミュレーション方法により算出した。中間膜の厚みは0.76mm、ヤング率はすべて100MPaとした。
【表6】
【0053】
結果は、
図16のグラフに示すとおりである。この結果によれば、実施例4〜11は、比較例8の総厚が4.0mmの合わせガラスよりも、ガラス板の総厚が小さいにも関わらず、2000〜5000Hzの周波数域の中で音響透過損失が高い領域が表れている。この結果は、実施例10のように、両ガラス板の厚みが同じである場合でも同様であった。したがって、ガラス板の総厚を3.8mm以下にすると、一般的な4.0mmの合わせガラスと比べ、人間に聞き取りやすい2000〜5000Hzの周波数領域での遮音性能が高くなる領域が表れることが分かった。すなわち、ガラス板の総厚が小さくなっても、全体として遮音性能が低下しないことが分かった。
【0054】
<4.合わせガラスの取付角度に関する評価>
続いて、音の入射角を変化させたシミュレーションにより、合わせガラスの取付角度について評価を行った。ここでは、垂直からの角度を0〜75度に変化させて音響透過損失を算出した。各ガラス板は、上述したクリアガラスで形成した。また、中間膜の厚みは0.76mmとし、ヤング率は100MPaとした。また、外側ガラス板及び内側ガラス板の厚みは、それぞれ、2.0mm、1.0mmとした。
【表7】
【0055】
上記実施例及び比較例について、音響透過損失を上記シミュレーション方法により、評価した。但し、入力条件として合わせガラスの取付角度を追加してシミュレーションを行った。結果は、
図17に示すとおりである。同図によれば、取付角度が60度を超えると、3000Hz付近の周波数で、音響透過損失が急激に低下していることが分かる。したがって、人間に聞き取りやすい2000〜5000Hzの周波数領域での遮音性能を高くするためには、合わせガラスの垂直からの取付角度を45度以下とすることが好ましいことが分かった。また、60度以下であれば、遮音性能を高めることができ、場合によっては、75度以下とすることで、遮音性能を高めることができる。