特許第6223376号(P6223376)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223376
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】GIP上昇抑制剤の評価又は選択方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20171023BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20171023BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20171023BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   G01N33/68
   C12Q1/68 A
   G01N33/15 Z
   G01N33/50 Z
   G01N33/50 P
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-40187(P2015-40187)
(22)【出願日】2015年3月2日
(65)【公開番号】特開2015-194481(P2015-194481A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2017年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2014-60341(P2014-60341)
(32)【優先日】2014年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】古賀 義隆
(72)【発明者】
【氏名】大崎 紀子
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 学
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 KIM, W et al,The role of incretins in glucose homeostasis and diabetes treatment,Pharmacological reviews,2008年,Vol. 60, No. 4,p. 470-512
【文献】 NAUCK, M et al,Lack of effect of synthetic human gastric inhibitory polypeptide and glucagon-like peptide 1 [7-36 amide] infused at near-physiological concentrations on pentagastrin-stimulated gastric acid secretion in normal human subjects,Digestion,1992年,Vol. 52,p. 214-221
【文献】 Sommer CA et al.,RNA-Seq Analysis of Enteroendocrine Cells Reveals a Role for FABP5 in the Control of GIP Secretion,Molecular Endocrinology,2014年,Vol. 28, No. 11,p. 1855-1865
【文献】 山田祐一郎,インクレチンの多彩な膵外作用,医学のあゆみ,日本,2009年,Vol. 231, No. 7,p. 759-762
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
C12Q 1/68
G01N 33/15
G01N 33/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(A)〜(D):
(A)FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質を発現可能な哺乳動物由来の組織又は細胞に、被験物質を接触させる工程、
(B)該哺乳動物由来の組織又は細胞におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を測定する工程、
(C)前記(B)で測定した発現量又は活性を、対照群におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性と比較する工程、
(D)前記(C)の結果に基づいて、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を減少させる被験物質を、GIP上昇抑制剤として評価又は選択する工程、
を含む、GIP上昇抑制剤の評価又は選択方法。
【請求項2】
前記(B)で測定した発現量又は活性が、前記対照群における発現量又は活性に対して統計学的に有意に減少していた場合に、前記被験物質はGIP上昇抑制効果があると評価される、請求項記載の方法。
【請求項3】
前記(B)で測定した発現量又は活性が、前記対照群における発現量又は活性を100%としたときに90%以下である場合に、前記被験物質はGIP上昇抑制効果があると評価される、請求項記載の方法。
【請求項4】
以下の工程(A')〜(D'):
(A')被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程、
(B')該非ヒト哺乳動物から採取した小腸におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を測定する工程、
(C')前記(B')で測定した発現量又は活性を、対照群の非ヒト哺乳動物から採取した小腸におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性と比較する工程、
(D')前記(C')の結果に基づいて、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を減少させる被験物質を、GIP上昇抑制剤として評価又は選択する工程、
を含む、GIP上昇抑制剤の評価又は選択方法。
【請求項5】
前記(B')で測定した発現量又は活性が、前記対照群における発現量又は活性に対して統計学的に有意に減少していた場合に、前記被験物質はGIP上昇抑制効果があると評価される、請求項記載の方法。
【請求項6】
前記(B')で測定した発現量又は活性が、前記対照群における発現量又は活性を100%としたときに90%以下である場合に、前記被験物質はGIP上昇抑制効果があると評価される、請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GIP上昇抑制剤の評価又は選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GIP(glucose−dependent insulinotropic polypeptide)は、脂質や糖質、アミノ酸を摂取することで、消化管上皮の分泌細胞(K細胞)より分泌されるインクレチンである。GIPは、グルコース依存的に膵臓β細胞からインスリン分泌を促進し、血糖値の調節に寄与する。近年、人為的に血中GIP濃度を高くしたマウスは、高脂肪食摂取下において脂質燃焼が抑制されることが報告されている。また、GIP受容体欠損マウスは高脂肪食負荷による内臓脂肪や皮下脂肪の蓄積が抑制されることが明らかになっている。これらの知見から、食後のGIP調節が肥満予防や改善に有効であると考えられる。さらにGIPは、胃酸分泌抑制作用や胃運動抑制作用を有することが知られていることから、GIPの上昇抑制は、食後の消化促進や胃もたれの改善に有効であると考えられる。したがって、GIPの上昇を抑制する物質の開発が望まれており、そのために、物質のGIPの上昇抑制能を高感度で迅速に評価することができる方法の開発が求められている。
【0003】
従来のGIP上昇抑制剤の評価又は選択方法としては、細胞におけるCPT1遺伝子やCPT1蛋白質の発現、又はCPT1蛋白質の活性を指標とする方法(特許文献1)、FAT/CD36遺伝子又はFAT/CD36蛋白質の発現を指標とする方法(特許文献2)などが知られている。
【0004】
FABPs(fatty acid−binding proteins)は、細胞内の脂肪酸結合蛋白質ファミリーであり、脂肪酸に高い結合性を有する14〜15kDaのタンパク質である(非特許文献1、2)。脂肪酸はエネルギー源、代謝制御のシグナル分子など細胞内で多岐にわたる機能を有する。FABPsは、不溶性の脂肪酸に結合して細胞内の様々な器官への輸送を可能にすることにより、脂肪酸の機能発現に重要な役割を果たしている。
【0005】
FABPsのアイソフォームであるFABP4とFABP5は、アミノ酸配列と立体構造の相同性が高く脂肪細胞とマクロファージに共発現している(非特許文献2〜4)。FABP4とFABP5に関してノックアウトマウスを用いた機能解析が行われている(非特許文献2〜15)。FABP4は、脂肪細胞の細胞質タンパク質の1〜3%を占めており、脂肪細胞の分化マーカーとして広く利用されている(非特許文献5)。FABP4については、脂肪細胞においては分子シャペロンとしての機能以外に、脂質によるシグナル伝達や細胞小器官の応答にも関わっていること、またマクロファージにおいては炎症反応に関わっていることが報告されている(非特許文献2、6、9)。FABP5については、ケラチノサイトにおける乾癬の病変形成への関与が示唆され(非特許文献7)、また膵臓において自然免疫応答キー分子であるサイトカイン(IL−12p70)の制御に関与することが報告されている(非特許文献8)。
【0006】
2型糖尿病モデルであるob/obマウスにおいてFABP4をノックアウトしたマウスはインスリン感受性低下の抑制が認められた(非特許文献11)。また、FABP4ノックアウトマウスに高脂肪食を与えると野生型と比較してインスリン感受性の低下は抑制されるが、体重増加や脂肪肝には影響が認められなかった(非特許文献4、10)。FABP4ノックアウトマウスの脂肪細胞ではFABP5の発現が上昇していることから、FABP5が代償的に働いていると考えられている(非特許文献16、17)。FABP5ノックアウトマウスでもFABP4ノックアウトマウスと同様の傾向が認められている(非特許文献12)。シングルノックアウトマウスでの結果を受けて、FABP4/5ダブルノックアウトでの解析が行われ、高脂肪食を与えた際に野生型と比較して、食事誘導性肥満、インスリン抵抗性、2型糖尿病、脂肪肝の惹起が抑制されたことが報告されている(非特許文献13、14、15)。
【0007】
FABPの阻害剤であるBMS309403を2型糖尿病又は動脈硬化のモデルマウスに経口投与すると、病態の改善が認められた(非特許文献18)。食事誘導性肥満のマウスに対するFABP4/5阻害剤の投与は、血中のトリグリセリド値、遊離脂肪酸値の低減等、脂質異常症の改善をもたらした(非特許文献19)。
【0008】
しかしながら、腸で主に発現しているFABPは、FABP2であり、そのため、腸における脂質代謝の役割はFABP2が果たしていると従来考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−080804号公報
【特許文献2】特開2011−080803号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Hum.Genomics,2011,5:170−191
【非特許文献2】Nat.Rev.Drug Discov.,2008,7:489−503
【非特許文献3】Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A,1986,83:3786−3790
【非特許文献4】Nat.Med.,2001,7:699−705
【非特許文献5】Biochim.Biophys.Acta.,1999,1441:106−116.
【非特許文献6】J.Biol.Chem.,2007,282:32424−32432.
【非特許文献7】J.Invest.Dermatol.,2011,131:604−612
【非特許文献8】Biochem.Biophys.Res.Commun.,2006,345:459−466
【非特許文献9】J.Biol.Chem.,2005,280:12888−12895
【非特許文献10】Science,1996,274:1377−1379
【非特許文献11】Endocrinology,2000,141:3388−3396
【非特許文献12】Diabetes,2003,52:300−307
【非特許文献13】Cell Metab.,2005,1:107−119
【非特許文献14】Diabetes,2006,55:1915−1922
【非特許文献15】Circulation,2004,110:1492−1498
【非特許文献16】Diabetes,2000,49:904−911
【非特許文献17】Am.J.Physiol.Endocrinol.Metab.,2006,290:E814−E823
【非特許文献18】Nature,2007,447:959−965
【非特許文献19】J.Lipid Res.,2011,52:646−656
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、GIP上昇抑制剤の評価又は選択方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、GIPを分泌する腸細胞にFABP4及びFABP5(本明細書において、これらをまとめてFABP4/5とも称することがある)が発現していること、当該FABP4/5を阻害することによって血中GIP濃度が低下すること、したがってFABP4/5を阻害する物質がGIP上昇抑制剤として有用であることを見出した。これらの知見から、本発明者らは、FABP4/5の発現又は活性の抑制作用を指標として、GIP上昇抑制剤を評価又は選択することが可能であることを見出した。
【0013】
したがって、本発明は、以下の工程(A)〜(D):
(A)FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質を発現可能な哺乳動物由来の組織又は細胞に、被験物質を接触させる工程、
(B)該哺乳動物由来の組織又は細胞におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を測定する工程、
(C)上記(B)で測定した発現量又は活性を、対照群におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性と比較する工程、
(D)上記(C)の結果に基づいて、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を減少させる被験物質を、GIP上昇抑制剤として評価又は選択する工程、
を含む、GIP上昇抑制剤の評価又は選択方法を提供する。
【0014】
また本発明は、以下の工程(A')〜(D'):
(A')被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程、
(B')該非ヒト哺乳動物から採取した小腸におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を測定する工程、
(C')上記(B')で測定した発現量又は活性を、対照群の非ヒト哺乳動物から採取した小腸におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性と比較する工程、
(D')上記(C')の結果に基づいて、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を減少させる被験物質を、GIP上昇抑制剤として評価又は選択する工程、
を含む、GIP上昇抑制剤の評価又は選択方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、各種物質のGIP上昇抑制効果をより簡便かつ正確に評価することができ、優れたGIP上昇抑制剤を選択することが可能となる。また、本発明の方法により選択されたGIP上昇抑制剤は、肥満等の発症可能性の低下、予防若しくは改善、体重増加の予防若しくは体重の低下、又は食後の消化促進や胃もたれの改善をするための有効成分として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】腸細胞におけるFABP5とGIPの共免疫染色。
図2】脂質乳剤単回投与後のマウスにおける血中TG及び血中GIP濃度。A:血中ΔTG及び血中ΔGIPの経時変化、B:血中GIP濃度のiAUC(0−1h)及びCmax。
図3】小腸初代培養細胞における脂質誘導性GIP分泌に対するFABP4/5阻害剤の影響。A:BMS309403による影響、B:Compound2による影響。
図4】実施例4で用いたFABP5活性測定法の原理。
図5】GIP上昇抑制物質によるFABP5阻害活性。
図6】魚油のGIP上昇抑制作用。A:血中GIP濃度変化量(ΔGIP)、B:血中GIP濃度のiAUC(0−4h)。*:P<0.05.
【発明を実施するための形態】
【0017】
従来、腸にFABPsが発現していることは知られており、またマウス腸管組織切片の免疫染色により、FABP4が腸腺上皮細胞の細胞膜上に局在していることが知られていた([www.rndsystems.com/ihc_molecule_images.aspx?m=1416])。一方で従来、腸で主に発現しているFABPはFABP2であることが知られており、そのため腸における脂質代謝はFABP2が担っていると考えられていた。
【0018】
しかしながら、本発明者らが腸管組織切片においてGIPとFABP5との共免疫染色を行ったところ、GIPのシグナルが検出される細胞において、FABP5の強いシグナルが認められた(図1)。この結果から、FABP4/5がともに腸上皮細胞に発現している蛋白質であることが明らかになった。また後述の実施例に示すように、FABP4/5を阻害することによってGIP濃度が低下したことから、FABP4/5がGIP分泌に関わっていることが判明した。したがって、FABP4/5を阻害する物質はGIP上昇抑制剤として有用であり、かつFABP4/5遺伝子の発現量、又はFABP4/5蛋白質の発現量や活性を測定することにより、各種物質のGIP上昇抑制効果を評価することができ、またGIP上昇抑制剤を選択することができる。
【0019】
したがって、本発明においては、FABP4/5阻害作用を指標として、各種物質のGIP上昇抑制作用を評価し、又当該評価結果に基づいてGIP上昇抑制剤を選択する。本明細書において「GIP上昇抑制」とは、脂質及び糖質を含む食事、特に脂質を多く含む食事、そのなかでもトリアシルグリセロールを多く含む食事を摂取することにより、小腸に存在するK細胞から分泌されたGIPの上昇を抑制することをいう。すなわち、本明細書における「GIP上昇抑制」とは、主として食後に生じるGIP上昇を抑制することをいう。そして、本明細書における「GIP上昇抑制作用」は、K細胞からのGIP分泌を抑制することでGIP上昇を抑制するGIP分泌抑制作用、及び血中GIP濃度を低下させることによりGIP上昇を抑制するGIP低下作用のいずれをも含む概念である。
【0020】
本明細書において「FABP4/5の発現」とは、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現をいう。また本明細書において「FABP4/5の活性」とは、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性をいう。
【0021】
本発明のGIP上昇抑制剤の評価又は選択方法は、in vitro又はex vivoで行うことも、in vivoで行うこともできる。
【0022】
in vitro又はex vivoで行う場合、本発明のGIP上昇抑制剤の評価又は選択方法は、以下の工程(A)〜(D)を含む。
(A)FABP4/5を発現可能な哺乳動物由来の組織又は細胞に、被験物質を接触させる工程、
(B)該哺乳動物由来の組織又は細胞におけるFABP4/5の発現量又は活性を測定する工程、
(C)上記(B)で測定した発現量又は活性を、対照群におけるFABP4/5の発現量又は活性と比較する工程、
(D)上記(C)の結果に基づいて、FABP4/5の発現量又は活性を減少させる被験物質を、GIP上昇抑制剤として評価又は選択する工程。
【0023】
上記本発明の方法に使用される被験物質は、GIP上昇抑制剤として使用することを所望する物質であれば、特に制限されない。被験物質は、天然に存在する物質であっても、化学的又は生物学的方法等で人工的に合成した物質であってもよく、また化合物であっても、組成物若しくは混合物であってもよい。
【0024】
上記工程(A)に用いられる、FABP4/5を発現可能な哺乳動物由来の組織又は細胞の例としては、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質を発現している、哺乳動物から単離された組織若しくは細胞、又はその培養物が挙げられる。当該単離された組織若しくは細胞、又はその培養物としては、哺乳動物から採取された十二指腸や空腸等の小腸組織又は細胞、脂肪組織又は細胞、胸腺上皮組織又は細胞、皮膚上皮組織又は細胞、及びそれらの培養物;小腸初代培養細胞;Caco−2細胞、IEC−6細胞、IEC−18細胞、STC−1細胞、GLUTag細胞等の小腸培養細胞;3T3−L1細胞、などが挙げられる。
【0025】
あるいは、上記工程(A)に用いられる、FABP4/5を発現可能な哺乳動物由来の組織又は細胞の例としては、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質を発現するように遺伝的に改変された哺乳動物の組織若しくは細胞、又はその培養物が挙げられる。当該遺伝的に改変された哺乳動物の組織又は細胞、及びその培養物は、例えば、哺乳動物の任意の組織又は細胞にFABP4蛋白質又はFABP5蛋白質をコードする遺伝子を導入して、該組織又は細胞がFABP4/5を発現するように、あるいはFABP4/5の発現が強化されるように形質転換することによって作製することができる。遺伝子を細胞に導入する方法としては、エレクトロポレーションやリポフェクションなどによるベクター導入が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
本発明の方法で使用されるFABP4/5を発現可能な組織又は細胞が由来する哺乳動物としては、特に限定されないが、例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ等が挙げられる。
【0027】
上記FABP4/5を発現可能な哺乳動物由来の組織又は細胞と被験物質との接触は、例えば被験物質を所定の濃度になるように予め培養液中に添加した後、当該組織又は細胞を培養液に載置すること、あるいは、当該組織又は細胞が載置された培養液に、被験物質を所定の濃度になるように添加することにより行うことができる。接触後の組織又は細胞は、例えば室温(25℃)〜37℃で通常3〜48時間程度、好ましくは6〜24時間程度培養するのが好ましい。
【0028】
上記培養液に対する上記組織又は細胞の播種時の濃度は、細胞が増殖可能な濃度であれば特に限定されない。また、被験物質の添加濃度は、0.00001〜10質量%(乾燥残分)とするのが好ましく、特に0.0001〜3質量%(乾燥残分)とするのが好ましい。
【0029】
上記組織又は細胞を培養する培地は、常用の培地を用いることができ、例えば10%FBS含有Dulbecco's Modified Eagle's Mediumなどが挙げられる。細胞継代、増殖時にはこれらの培地に、血清、増殖因子、インスリン等の増殖添加剤や抗菌剤等を添加することが好ましい。
【0030】
次いで、工程(B)において、上記組織又は細胞を回収して、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を測定する。遺伝子の発現量の測定は、mRNAレベルで検出する場合は、例えば細胞からtotal RNAを抽出して、リアルタイムRT−PCR法、RNA分解酵素プロテクションアッセイ法、あるいはノーザンブロット解析法等を利用して、FABP4/5遺伝子から転写されたmRNAを検出定量することにより行うことができる。
【0031】
FABP4/5蛋白質の発現量の測定は、通常の免疫測定法、例えばRIA法、EIA法、ELISA、バイオアッセイ法、ウェスタンブロットなどにより行うことができるが、ウェスタンブロットが安価かつ簡便で望ましい。FABP4/5蛋白質の活性の測定は、FABP4/5蛋白質に対する結合基質の結合量を測定することなどにより行うことができる。
【0032】
工程(C)〜(D)においては、上記工程(B)で測定した、被験物質に接触させたFABP4/5を発現可能な哺乳動物由来の組織又は細胞(試験群)におけるFABP4/5の発現量又は活性を、対照群におけるFABP4/5の発現量又は活性と比較し、当該比較結果に基づいて、GIP上昇抑制剤として使用できる被験物質を選択する。
【0033】
対照群としては、試験群と同じFABP4/5を発現可能な哺乳動物由来の組織又は細胞であって、被験物質に接触させなかったものが挙げられる。あるいは、対照群としては、生来的にFABP4/5の発現能がない又はほとんどない哺乳動物由来の組織又は細胞;試験群と同じ組織又は細胞を、FABP4/5が発現しないように改変したもの;さらにこれら組織又は細胞を被験物質に接触させたもの、などが挙げられる。FABP4/5が発現しないように改変した組織又は細胞としては、siRNAによるFABP4/5ノックダウン細胞、FABP4/5ノックアウトマウス由来の組織又は細胞などが挙げられる。対照群におけるFABP4/5の発現量又は活性の測定は、上記工程(B)に関して説明した試験群の場合と同様の手順で行うことができる。
【0034】
次いで、試験群におけるFABP4/5の発現量又は活性と、対照群におけるFABP4/5の発現量又は活性とを比較する。試験群における発現量又は活性が対照群と比べて減少した場合、被験物質にはGIP上昇抑制効果があると評価し、該被験物質をGIP上昇抑制剤として選択する。例えば、対照群における発現量又は活性に対して、試験群における発現量又は活性が統計学的に有意に減少していた場合に、被験物質にはGIP上昇抑制効果があると評価する。別の例としては、対照群における発現量又は活性を100%としたときに、試験群における発現量又は活性が90%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは60%以下である場合に、被験物質にはGIP上昇抑制効果があると評価する。GIP上昇抑制効果があると評価された被験物質は、GIP上昇抑制剤として選択される。
【0035】
in vivoで行う場合、本発明のGIP上昇抑制剤の評価又は選択方法は、以下の工程(A')〜(D')を含む。
(A')被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程、
(B')該非ヒト哺乳動物から採取した小腸におけるFABP4/5の発現量又は活性を測定する工程、
(C')上記(B')で測定した発現量又は活性を、対照群の非ヒト哺乳動物から採取した小腸におけるFABP4/5の発現量又は活性と比較する工程、
(D')上記(C')の結果に基づいて、FABP4/5の発現量又は活性を減少させる被験物質を、GIP上昇抑制剤として評価又は選択する工程。
【0036】
上記工程(A')に用いられる非ヒト哺乳動物としては、性別、月齢を問わず、いかなる種類の動物でもよい。例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、及びサル等の霊長類を挙げることができるが、入手や取扱いが容易な点から、ラットやマウスなどのげっ歯類が好ましい。
【0037】
上記非ヒト哺乳動物への被験物質の投与方法としては、例えば、経口投与、消化管内投与、腹腔内投与、血管内投与、皮内投与、皮下投与等が挙げられる。簡便さや低侵襲性の点からは経口投与する方法が好ましい。あるいは、GIPは十二指腸及び空腸のK細胞より分泌されることから、カニュレーション等を用い、十二指腸や空腸に直接還流させる方法も好ましい。
【0038】
被験物質の投与量は、0.0004mg/g体重以上、好ましくは0.04〜2mg/g体重である。投与回数は単回であっても、間隔をあけて数回に分けて投与してもよい。食餌毎の投与が好ましく、食前60分〜食後60分の間に投与することがより好ましい。
【0039】
次いで、工程(B')において、被験物質を投与した非ヒト哺乳動物の小腸におけるFABP4/5の発現量又は活性を測定する。測定の方法は、侵襲的方法でも非侵襲的方法でもよく、特に限定されない。
【0040】
例えば、被験物質の投与1〜360分後、好ましくは5〜120分後に、上記非ヒト哺乳動物から小腸を採取する。小腸の採取は、麻酔下又は安楽死直後に開腹し、胃の幽門より下部を採取する。次いで、採取した細胞のFABP4/5の発現量又は活性を測定する。
【0041】
工程(C')〜(D')においては、上記で得られた被験物質を投与した非ヒト哺乳動物の小腸(試験群)におけるFABP4/5の発現量又は活性を、被験物質を投与しなかった同じ非ヒト哺乳動物から採取した小腸(対照群)の発現量又は活性と比較する。試験群における発現量又は活性が対照群と比べて減少した場合、被験物質にはGIP上昇抑制効果があると評価し、該被験物質をGIP上昇抑制剤として選択する。
【0042】
本方法におけるその他の手法、例えば使用できる被験物質の種類、FABP4/5の発現量又は活性の測定手順、試験群と対照群との比較手順、被験物質の評価又は選択の手順は、上述したin vitro又はex vivoで行う方法の場合と同じである。
【0043】
必要に応じて、選択された物質をさらなるスクリーニングにかけてもよい。例えば、上記方法でGIP上昇抑制効果があると評価又は選択された試験物質について、哺乳類小腸K細胞モデルの培養細胞株を用いた分泌刺激試験や実験動物を用いた単回投与実験によってK細胞からのGIP上昇抑制能を直接測定することにより、より強力なGIP上昇抑制作用を有する物質をさらに選別することができる。
【0044】
以上の手順で本発明により選択されたGIP上昇抑制剤は、食後のGIPを減少させ、肥満の発症可能性の低下、予防若しくは改善のため、体重減少や体重の増加抑制のため、又は消化促進や胃もたれを改善するための有効成分として使用される。
【0045】
したがって、別の一態様において、本発明は、上記工程(A)〜(D)又は(A')〜(D')を含む食欲抑制剤の評価又は選択方法を提供する。さらに別の一態様において、本発明は、上記工程(A)〜(D)又は(A')〜(D')を含む肥満予防及び/又は改善剤の評価又は選択方法を提供する。さらに別の一態様において、本発明は、上記工程(A)〜(D)又は(A')〜(D')を含む体重増加抑制剤の評価又は選択方法を提供する。なお別の一態様において、本発明は、上記工程(A)〜(D)又は(A')〜(D')を含む消化促進剤又は胃もたれ改善剤の評価又は選択方法を提供する。
これらの方法の工程(D)又は(D')では、工程(C)又は(C')の結果に基づいて、FABP4/5の発現量又は活性を減少させる被験物質を、食欲抑制剤、肥満予防及び/又は改善剤、体重増加抑制剤、あるいは消化促進剤又は胃もたれ改善剤として、それぞれ評価又は選択する。
【0046】
本発明の例示的実施形態として、さらに以下の組成物、製造方法、用途あるいは方法を本明細書に開示する。ただし、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0047】
<1>以下の工程(A)〜(D):
(A)FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質を発現可能な哺乳動物由来の組織又は細胞に、被験物質を接触させる工程、
(B)該哺乳動物由来の組織又は細胞におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を測定する工程、
(C)上記(B)で測定した発現量又は活性を、対照群におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性と比較する工程、
(D)上記(C)の結果に基づいて、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を減少させる被験物質を、GIP上昇抑制剤として評価又は選択する工程、
を含む、GIP上昇抑制剤の評価又は選択方法。
【0048】
<2>以下の工程(A)〜(D):
(A)FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質を発現可能な哺乳動物由来の組織又は細胞に、被験物質を接触させる工程、
(B)該哺乳動物由来の組織又は細胞におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を測定する工程、
(C)上記(B)で測定した発現量又は活性を、対照群におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性と比較する工程、
(D)上記(C)の結果に基づいて、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を減少させる被験物質を、食欲抑制剤として評価又は選択する工程、
を含む、食欲抑制剤の評価又は選択方法。
【0049】
<3>以下の工程(A)〜(D):
(A)FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質を発現可能な哺乳動物由来の組織又は細胞に、被験物質を接触させる工程、
(B)該哺乳動物由来の組織又は細胞におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を測定する工程、
(C)上記(B)で測定した発現量又は活性を、対照群におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性と比較する工程、
(D)上記(C)の結果に基づいて、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を減少させる被験物質を、肥満予防及び/又は改善剤として評価又は選択する工程、
を含む、肥満予防及び/又は改善剤の評価又は選択方法。
【0050】
<4>以下の工程(A)〜(D):
(A)FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質を発現可能な哺乳動物由来の組織又は細胞に、被験物質を接触させる工程、
(B)該哺乳動物由来の組織又は細胞におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を測定する工程、
(C)上記(B)で測定した発現量又は活性を、対照群におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性と比較する工程、
(D)上記(C)の結果に基づいて、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を減少させる被験物質を、体重増加抑制剤として評価又は選択する工程、
を含む、体重増加抑制剤の評価又は選択方法。
【0051】
<5>以下の工程(A)〜(D):
(A)FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質を発現可能な哺乳動物由来の組織又は細胞に、被験物質を接触させる工程、
(B)該哺乳動物由来の組織又は細胞におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を測定する工程、
(C)上記(B)で測定した発現量又は活性を、対照群におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性と比較する工程、
(D)上記(C)の結果に基づいて、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を減少させる被験物質を、消化促進剤として評価又は選択する工程、
を含む、消化促進剤の評価又は選択方法。
【0052】
<6>以下の工程(A)〜(D):
(A)FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質を発現可能な哺乳動物由来の組織又は細胞に、被験物質を接触させる工程、
(B)該哺乳動物由来の組織又は細胞におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を測定する工程、
(C)上記(B)で測定した発現量又は活性を、対照群におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性と比較する工程、
(D)上記(C)の結果に基づいて、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を減少させる被験物質を、胃もたれ改善剤として評価又は選択する工程、
を含む、胃もたれ改善剤の評価又は選択方法。
【0053】
<7>好ましくは、上記FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質を発現可能な哺乳動物由来の組織又は細胞が以下である、
<1>〜<6>のいずれか1に記載の方法:
(1)哺乳動物から採取された小腸組織若しくは細胞、又はその培養物;
(2)哺乳動物から採取された脂肪組織若しくは細胞、胸腺上皮組織若しくは細胞、皮膚上皮組織若しくは細胞、又はその培養物;
(3)FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質を発現するように遺伝的に改変された哺乳動物の組織若しくは細胞、又はその培養物;
(4)小腸初代培養細胞;又は、
(5)Caco−2細胞、IEC−6細胞、IEC−18細胞、STC−1細胞、GLUTag細胞、又は3T3−L1細胞。
【0054】
<8>好ましくは、上記対照群が以下である、<1>〜<7>のいずれか1に記載の方法:
(1)上記FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質を発現可能な哺乳動物由来の組織又は細胞であって、上記被験物質に接触させなかったもの;
(2)生来的にFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現能がない又はほとんどない哺乳動物由来の組織又は細胞;
(3)上記FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質を発現可能な哺乳動物由来の組織又は細胞を、当該遺伝子又は蛋白質が発現しないように改変したもの;又は
(4)該(2)又は(3)の組織又は細胞を被験物質に接触させたもの。
【0055】
<9>好ましくは、上記(B)で測定した発現量又は活性が、上記対照群における発現量又は活性に対して統計学的に有意に減少していた場合に、上記被験物質はGIP上昇抑制効果、食欲抑制効果、肥満予防及び/又は改善効果、体重増加抑制効果、消化促進効果、あるいは胃もたれ改善効果があると評価される、<1>〜<8>のいずれか1に記載の方法。
【0056】
<10>好ましくは、上記(B)で測定した発現量又は活性が、上記対照群における発現量又は活性を100%としたときに90%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは60%以下である場合に、上記被験物質はGIP上昇抑制効果、食欲抑制効果、肥満予防及び/又は改善効果、体重増加抑制効果、消化促進効果、あるいは胃もたれ改善効果があると評価される、<1>〜<8>のいずれか1に記載の方法。
【0057】
<11>以下の工程(A')〜(D'):
(A')被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程、
(B')該非ヒト哺乳動物から採取した小腸におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を測定する工程、
(C')上記(B')で測定した発現量又は活性を、対照群の非ヒト哺乳動物から採取した小腸におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性と比較する工程、
(D')上記(C')の結果に基づいて、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を減少させる被験物質を、GIP上昇抑制剤として評価又は選択する工程、
を含む、GIP上昇抑制剤の評価又は選択方法。
【0058】
<12>以下の工程(A')〜(D'):
(A')被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程、
(B')該非ヒト哺乳動物から採取した小腸におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を測定する工程、
(C')上記(B')で測定した発現量又は活性を、対照群の非ヒト哺乳動物から採取した小腸におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性と比較する工程、
(D')上記(C')の結果に基づいて、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を減少させる被験物質を、食欲抑制剤として評価又は選択する工程、
を含む、食欲抑制剤の評価又は選択方法。
【0059】
<13>以下の工程(A')〜(D'):
(A')被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程、
(B')該非ヒト哺乳動物から採取した小腸におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を測定する工程、
(C')上記(B')で測定した発現量又は活性を、対照群の非ヒト哺乳動物から採取した小腸におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性と比較する工程、
(D')上記(C')の結果に基づいて、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を減少させる被験物質を、肥満予防及び/又は改善剤として評価又は選択する工程、
を含む、肥満予防及び/又は改善剤の評価又は選択方法。
【0060】
<14>以下の工程(A')〜(D'):
(A')被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程、
(B')該非ヒト哺乳動物から採取した小腸におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を測定する工程、
(C')上記(B')で測定した発現量又は活性を、対照群の非ヒト哺乳動物から採取した小腸におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性と比較する工程、
(D')上記(C')の結果に基づいて、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を減少させる被験物質を、体重増加抑制剤として評価又は選択する工程、
を含む、体重増加抑制剤の評価又は選択方法。
【0061】
<15>以下の工程(A')〜(D'):
(A')被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程、
(B')該非ヒト哺乳動物から採取した小腸におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を測定する工程、
(C')上記(B')で測定した発現量又は活性を、対照群の非ヒト哺乳動物から採取した小腸におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性と比較する工程、
(D')上記(C')の結果に基づいて、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を減少させる被験物質を、消化促進剤として評価又は選択する工程、
を含む、消化促進剤の評価又は選択方法。
【0062】
<16>以下の工程(A')〜(D'):
(A')被験物質を非ヒト哺乳動物に投与する工程、
(B')該非ヒト哺乳動物から採取した小腸におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を測定する工程、
(C')上記(B')で測定した発現量又は活性を、対照群の非ヒト哺乳動物から採取した小腸におけるFABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性と比較する工程、
(D')上記(C')の結果に基づいて、FABP4遺伝子若しくはFABP5遺伝子の発現量、FABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の発現量、又はFABP4蛋白質若しくはFABP5蛋白質の活性を減少させる被験物質を、胃もたれ改善剤として評価又は選択する工程、
を含む、胃もたれ改善剤の評価又は選択方法。
【0063】
<17>好ましくは、上記対照群が被験物質を投与しなかった上記非ヒト哺乳動物から採取した小腸である、<11>〜<16>のいずれか1に記載の方法。
【0064】
<18>好ましくは、上記(B')で測定した発現量又は活性が、上記対照群における発現量又は活性に対して統計学的に有意に減少していた場合に、上記被験物質はGIP上昇抑制効果、食欲抑制効果、肥満予防及び/又は改善効果、体重増加抑制効果、消化促進効果、あるいは胃もたれ改善効果があると評価される、<11>〜<17>のいずれか1に記載の方法。
【0065】
<19>好ましくは、上記(B')で測定した発現量又は活性が、上記対照群における発現量又は活性を100%としたときに90%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは60%以下である場合に、上記被験物質はGIP上昇抑制効果、食欲抑制効果、肥満予防及び/又は改善効果、体重増加抑制効果、消化促進効果、あるいは胃もたれ改善効果があると評価される、<11>〜<17>のいずれか1に記載の方法。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0067】
(FABP4/5阻害剤)
以下の実施例では、FABP4/5阻害剤として、下記のBMS309403(AstaTech,Inc.)又はCompound2(J Lipid Res.2011,52,646−656)を用いた。
【0068】
【化1】
【0069】
実施例1 腸細胞におけるFABP4/5の発現
(免疫染色)
C57BL/6Jマウス(雄)(日本クレア)より採取した十二指腸を4%Paraformaldehyde水溶液で固定後、凍結切片を作製し、免疫染色を行った。GIP及びFABP5における抗体を用いて二重蛍光染色を行い、腸細胞におけるFABP5の発現を検討した。一次抗体として、GIPの抗体にはT−4340(Peninsula製)を用いた。また、FABP5の抗体にはAF1476(R&D systems製)を用いた。また二次抗体にはAlexa Fluor 488 Donkey Anti−Rabbit IgG(Invitrogen製)、Alexa Fluor 568 Dnkey Anti−goat IgG(Invitrogen製)を用いた。常法に従い、4%Paraformaldehyde水溶液において4℃にて10分間固定し、PBS洗浄後、一次抗体(100倍ブロッキング液:10%Donkey Serum in PBS)において室温で3時間反応させた。再度PBS洗浄した後、二次抗体(500倍ブロッキング液)を室温で1時間反応させ、PBS洗浄後、Prolong Gold antifade reagent with DAPI(Invitrogen製)にて核染色及び封入し、顕微鏡下で観察した(405nm、488nm、568nmのレーザー使用)。
【0070】
(結果)
染色像を図1に示した。マウス小腸において、絨毛に存在する細胞の管腔側に連続的にFABP5の発現が認められた(矢印)。また、GIP陽性であるK細胞(白点線内)においてもFABP5の発現が認められた。なお、FABP4が腸腺上皮の細胞膜上に局在していることは既に知られている([www.rndsystems.com/ihc_molecule_images.aspx?m=1416])。したがって本実施例の結果から、FABP4/5がともに腸の上皮細胞で発現していることが明らかにされた。
【0071】
実施例2 FABP4/5阻害がGIP分泌に及ぼす影響
(マウス単回投与試験)
18時間絶食したマウス(C57BL/6J、雄性、9週齢、n=4−5、日本クレア)に、麻酔下にてFABP4/5阻害剤BMS309403(30mg/kg体重)を含む溶媒(10% 1−methyl−2−pyrrolione、5%cremophor、2%ethanol)、又は溶媒のみ(コントロール)を経口ゾンデにて胃内投与した。30分後、脂質乳剤(トリオレイン;2mg/g体重)を胃内投与した。採血は、脂質乳剤投与前、投与後10、30、及び60分において眼窩静脈叢採血により行った。採取した血液を11,000rpm、4℃で10分間遠心分離を行い、血漿を調製した。血中GIP濃度、血中トリグリセリド(TG)濃度については、それぞれGIP ELISAキット(ラット/マウス用)(ミリポア)及びトリグリセライドE−テストワコー(和光純薬工業)用いて測定した。
【0072】
(結果)
脂質乳剤単回投与後のマウスにおける血中のTG濃度変化量(ΔTG)及びGIP濃度変化量(ΔGIP)の経時変化、ならびに血中GIP濃度のiAUC(0−1h)及びCmaxを図2に示す。脂質乳剤投与後における血中TG濃度及び血中GIP濃度の上昇は、コントロール群と比較して阻害剤添加群において統計学的に有意に低減した(図2A)。また、血中GIP濃度のiAUC及びCmaxもまた、コントロール群と比較して阻害剤添加群において統計学的に有意に低減した(図2B)。
【0073】
実施例3 小腸初代培養細胞でのFABP4/5阻害試験
(小腸初代培養細胞の調製)
13〜17週齢のC57BL/6Jマウスを麻酔下で頸椎脱臼により安楽死させた後、上部小腸(胃幽門直下から10cm)を摘出して、氷冷したL−15培地(Sigma)に浸透した。これを氷冷PBS中に移し、腸管に付着した脂肪及び血管等を丁寧に除去し、管腔内を氷冷PBSで洗浄した後、メスを用いて組織を微塵切り(2mm2以下の小片)にした。小片をPBSで3〜4回洗浄した後、Collagenase XI(Sigma;0.4mg/mL)を溶解したDMEM(Sigma)を10mL添加し、10秒間激しく振とうしてから37℃で5分間インキュベートした。上清を除去した後、再びCollagenase溶液を10mL添加して10秒間激しく振とうし、37℃で5分間インキュベートした。その後、上清を除去し、再びCollagenase溶液を10mL添加して10秒間激しく振とうし、37℃で15分間インキュベートした。その間、5分ごとに10秒間の振とうを行った。インキュベート後に上清を回収し(上清1)、同様にCollagenase溶液を添加して15分間インキュベートし、上清を回収した(上清2)。上清1と上清2を100rcf(約800rpm)で3分間遠心した(室温)。上清を除去し、それぞれ10mLのDMEMに懸濁した後、これらを合わせて100rcfで3分間遠心した(室温)。上清を除去し、7mLのDMEM(10%FBS(Invitrogen)、1%Glutamax(Invitrogen)、1%penicilin/streptomycin(Invitrogen)含有)に懸濁した。これをmatrigelTM(BD Biosciences)でコートした48ウェルプレートに播種し(1匹辺り24ウェル)、37℃、5%CO2下でインキュベートした。
【0074】
(GIP分泌刺激)
24時間培養した小腸初代培養細胞を刺激培地(4.5mM KCl、138mM NaCl、4.2mM NaHCO3、1.2mM NaH2PO4、2.6mM CaCl2、1.2mM MgCl2、10mM HEPES、NaOH(pH7.4に調整))で1回穏やかに洗浄した後、刺激培地のみ、又はFABP4/5阻害剤(10又は25μM)を含む刺激培地を添加してインキュベートした。30分後、刺激培地で1回穏やかに洗浄し、刺激培地のみ(コントロール)、脂質ミセル(PPM:刺激培地+500μMタウロコール酸Na、200μMオレイン酸、50μM 2−モノオレイン)、又はPPM+FABP4/5阻害剤(10又は25μM)を添加し、30分後に培地を回収した。FABP4/5阻害剤としては、BMS309403又はCompound2を用いた。
【0075】
(GIP分泌率の測定)
回収した培地を、8,000rpm、4℃で5分間遠心して上清を得た(Secretion sample)。上清回収後のプレートにCell Lysis Buffer(0.5%(w/v)Sodium Deoxycholate monohydrate、1%(v/v)Igepal CA−630、50mmoL/L Tris−HCl(pH7.4)、150mmol/L NaCl、1 tablet EDTA−free protease inhibitor cocktail tablet(Roche))を添加し、凍結融解した後に細胞を回収した。これを12,000rpm、4℃で5分間遠心し、上清を得た(Lysis sample)。これらのサンプルについてGIP ELISAキット(ラット/マウス用)(ミリポア)を用いてGIPの定量を行い、GIP分泌率を求めた。GIP分泌率の算出方法を下記に示す。
【0076】
【化2】
【0077】
(結果)
PPM刺激された小腸初代培養細胞におけるGIP分泌率を図3に示す。PPM刺激された細胞(PPM群)では、コントロール群と比較して、刺激後30分でのGIP分泌率が統計学的に有意に上昇した。一方、PPM刺激に加えてFABP4/5阻害剤を添加した細胞(PPM+阻害剤群)では、PPM群に対してGIP分泌率の上昇が統計学的に有意に抑制された。PPM刺激+BMS309403添加群では、用量依存的なGIP分泌の上昇抑制傾向が認められた(図3A)。
【0078】
実施例4 FABP5活性に基づくGIP上昇抑制剤のスクリーニング
FABP5活性に基づいてGIP上昇抑制剤をスクリーニングした。試験物質のFABP5活性に及ぼす影響は、FABP5蛋白質への試験物質の拮抗的な結合を利用してFABP5活性を測定することにより調べた。本実施例で用いたFABP5活性測定法の原理を図4に示す。1−anilinonaphthalene−8−sulfonic acid(1,8−ANS)は、FABP5に結合することで蛍光を発することが報告されている物質である(Hum.Mol.Genet.,2014,23(24):6495−6511)。1,8−ANSは、疎水性環境下でのみ蛍光を発する物質であり、親水性環境下では蛍光を発しない(図4A)。一方、FABP5存在下では、1,8−ANSはFABP5との結合により分子周辺が疎水性環境となるため蛍光を発するようになる(図4B)。しかし、FABP5に対する結合定数がより小さい物質がさらに存在すると、その物質が1,8−ANSより優先的にFABP5に結合するため、1,8−ANSは蛍光を発しなくなる(図4C)。上記方法で蛍光強度の上昇を抑制した試験物質は、FABP5蛋白質と結合してその活性を阻害する物質である。
【0079】
(試験物質によるFABP5阻害活性の測定)
大腸菌由来組換型FABP5を定法により発現させ、精製した。96穴プレートに、精製したFABP5蛋白質、1,8−ANS及び試験物質を添加し、室温にて5分間静置した後、プレートリーダーにて蛍光強度(励起波長:355nm、蛍光波長:480nm)を測定した。試験物質としては、実施例3で用いたGIP上昇抑制作用を有するFABP5阻害剤(Compound2)、及び後述の参考例1で示すようにGIP上昇抑制作用を有する油脂である魚油を用いた。評価系中の試験物質の最終濃度は0.002%〜0.1%(w/v)とした。
【0080】
(結果)
評価結果を図5に示す。FABP5と1,8−ANSが共存することによりbufferのみ、又はFABP5や1,8−ANS単独と比較して有意な蛍光強度の上昇が認められた。この蛍光強度の上昇は、GIP上昇抑制作用を有するFABP5阻害剤の添加により統計学的に有意に抑制された(t−test、p<0.05)。また、GIP上昇抑制作用を有する油脂である魚油を添加した場合も、蛍光強度は統計学的に有意に低下した(t−test、p<0.05)。一方、GIP上昇抑制作用を有さない試験物質を添加した場合は、蛍光強度は低下しなかった(データ示さず)。これらの結果は、FABP5の活性を指標に、試験物質のGIP上昇抑制作用を評価することができることを示している。
【0081】
参考例1 魚油のGIP上昇抑制作用
マウス単回食餌試験により、魚油のGIP上昇抑制作用を調べた。18時間絶食したマウス(C57BL/6J、雄性、8週齢、n=10、日本クレア)に、60分間、高脂肪食(HF)食(25%なたね油+5%パーム油)又は、魚油食(15.4%なたね油+5%パーム油+9.6%魚油(10%DHA))を粉末飼料として自由摂餌させた。自由摂餌前、摂餌後60、120、及び240分において各マウスの眼窩静脈叢から採血した。採取した血液を11,000rpm、4℃で10分間遠心分離を行い、血漿を調製し、GIP ELISAキット(ラット/マウス用)(ミリポア)を用いて血中GIP濃度を測定した。試験食摂餌後のマウスにおける血中GIP濃度変化量(ΔGIP)の経時変化、および血中GIP濃度のiAUC(0−4h)を図6A、Bに示す。血中GIP濃度の上昇は、HF食群と比較して魚油食群において統計学的に有意に低減した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6