特許第6223397号(P6223397)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6223397質量スペクトル分析の方法及び質量分析計
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223397
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】質量スペクトル分析の方法及び質量分析計
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/40 20060101AFI20171023BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   H01J49/40
   G01N27/62 E
【請求項の数】25
【外国語出願】
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2015-175391(P2015-175391)
(22)【出願日】2015年9月7日
(62)【分割の表示】特願2012-555504(P2012-555504)の分割
【原出願日】2010年12月30日
(65)【公開番号】特開2016-6795(P2016-6795A)
(43)【公開日】2016年1月14日
【審査請求日】2015年10月7日
(31)【優先権主張番号】1003447.8
(32)【優先日】2010年3月2日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】592071853
【氏名又は名称】レコ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】LECO CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(72)【発明者】
【氏名】アナトリー・ヴェレンチコフ
【審査官】 山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/008386(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/110026(WO,A1)
【文献】 特開2005−079037(JP,A)
【文献】 特表2005−538346(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0136903(US,A1)
【文献】 国際公開第2008/071921(WO,A2)
【文献】 特表2010−506349(JP,A)
【文献】 ソ連国特許発明第01725289(SU,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/40
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量スペクトル分析の方法であって、
多数の飛行経路に沿って等時性イオン振動を与える静電トラップの静電場、高周波場、または磁場にイオンパケットを通過させるステップと、
イオンパケットを検出するステップと、
検出されたイオンパケットの整数のイオン振動周期を有する多重信号のセット(マルチプレット)のスパンに対応する飛行時間スペクトルを記録するステップと、
マルチプレット含有信号から質量スペクトルを再構成するステップと
を含み、
再構成された前記質量スペクトルが、質量スペクトル分析に使用することができる方法。
【請求項2】
質量スペクトル分析の方法であって、
イオンをイオンパケットに変換するための変換器において分析された試料から多重種のイオンパケットを形成するステップと、
少なくとも2つの方向で空間イオントラッピングを行うと共に中央のイオン軌道に沿って等時性イオン運動を与える静電トラップ内に静電場を配置するステップと、
前記静電場を通じたイオン通過のために前記イオンパケットを入射するステップであって、前記イオンパケットのイオンが多重イオン振動を形成でき、多数の飛行経路に従うことができ、同一のイオンパケットからの他のイオンに比べて異なる数の振動を当該静電場内に完成できる、前記イオンパケットを入射するステップと、
イオンを検出し、スパンΔN内で整数N個のイオン振動周期を有する多重信号のセット(マルチプレット)について検出器においてイオンパケットの飛行時間を測定するステップと、
マルチプレットを含む前記検出された信号から質量スペクトルを再構成するステップと
を含み、
再構成された前記質量スペクトルが、質量スペクトル分析に使用することができる方法。
【請求項3】
前記静電場が、局所的に直交するZ方向に延在した、X−Y平面内で2次元の静電場を含み、
前記イオンパケットの入射が、軸Xに対して傾斜角度αで配置されて、前記イオン軌道が単一イオン振動周期あたり前記Z方向に平均シフトZ1だけ移動する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Z方向に空間的なイオンが集束するZ集束ステップと、
前記入射ステップで入射されたイオンパケットの角度の広がりおよび空間の広がりを調整するイオンパケット調整ステップと、をさらに含み、
前記Z集束ステップ前記イオンパケット調整ステップが共に、重なった信号ピークの個数を減少させるためにm/z独立性であり較正試験で決定されるまたはm/z依存性である前記マルチプレット内のスパンおよび強度分布を制御するように構成される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記方法の前記静電場のパラメータのパラメータが、(i)1、(ii)2〜3、(iii)3〜5、(iv)5〜10、(v)10〜20、(vi)20〜50、および(vii)100を超える値、で構成される群から選択される1つとして、当該イオンパケットの入射から検出までの距離が変化しないように調整される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記検出ステップが、単一振動ごとにイオンパケットの一部をサンプリングするステップを含み、全てのイオンm/z種ごとにマルチプレット信号を発生させ、
前記サンプリングされたイオンの部分の値が、マルチプレット内のm/z独立性強度分布を与えるように設定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記イオンパケット入射ステップのデューティサイクルを高めるために、
(i)単一イオン振動周期あたりZ方向に移動する平均シフトZ1より長い前記入射されたイオンパケットのZ長さを設定するステップ、
(ii)単一イオン振動周期あたりの前記平均シフトZ1より長い前記検出器または前記変換器のZ長さを設定するステップ、
(iii)複数の入射パルスの列に対応する長い信号を取得しつつ、前記静電場内の最も大きいm/zイオン種の前記飛行時間より短い期間でイオン入射を設定するステップ、
(iv)事前のイオン集積装置を用いるステップ、
で構成される群から選択される少なくとも1つのステップを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
(i)親イオンの質量電荷の分離およびフラグメンテーションのステップ、
(ii)イオンの移動度またはイオンの微分移動度に従うイオン分離、
(iii)静電トラップ内のイオン移動度分離、それに続く相関m/zフィルタリングのステップ、および
(iv)イオントラッピングおよび生飛行時間分離、それに続く、最も大きいm/zイオン種の前記静電トラップの前記飛行時間より少ない周期でのイオン入射のステップ、
で構成される群から選択されるイオンの事前の分離の1つのステップをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
静電場を形成する電極を同じセット内に複数並べて配置して多重の静電場を形成するステップと、
並列および独立した質量分析のために、単一または複数のイオン源からイオンパケットを前記静電場の体積に分配するステップと、
をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
前記イオンパケット射ステップが、連続または準連続イオンビームからX方向にパルス直交加速するステップを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記直交加速するステップが、
(i)前記連続イオンビームのエネルギーを調整することによって前記静電トラップのイオン振動周期数を制御するステップ、
(ii)単一イオン振動周期あたりZ方向に移動する平均シフトZ1に対する前記直交加速器のより大きい長さを設定するステップ、
(iii)Y方向に前記直交加速器を変位させ、前記静電トラップのX−Z平面へイオンパケットを戻すステップ、
(iv)最も重いイオン種の飛行時間に対する加速パルス間のより短い周期を構成するステップ、
(v)イオンおよびパルスを蓄積し、準連続イオン流、それに続く頻繁な加速パルスの列を入射するステップ、ならびに
(vi)周期的静電場により横方向に前記加速器内で前記イオンビームを閉じ込めるステップ、
で構成される群から選択される少なくとも1つのステップによって強化される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記静電トラップにおけるイオン飛行時間に匹敵する時間スケールで変わるパルスイオン源内のイオンパケットを形成するステップと、
前記信号のマルチプレット内の時間パターンによってイオンがパルス発生させる時間が認識されるステップと、
をさらに含み、
前記イオンパケットを形成するステップが、
(i)粒子または光のパルスによって分析されたスキャン表面のボンバードメント、
(ii)エアロゾル粒子をランダムにイオン化すること、
(iii)超高速分離装置の試料出口をイオン化すること、および
(iv)迅速に多重化されたイオン源内の試料をイオン化すること、
で構成される群から選択される1つのステップを含み、
前記イオンがパルス発生させる時間が認識されるステップが、
(i)マルチプレットのピークの同時発生、
(ii)マルチプレット内の較正された強度分布、
(iii)全ての開始パルスの知られたタイミング、
(iv)元素分析の場合、正確なイオン質量の限られた選択、
で構成される群から選択される1つに基づいて実行され、
前記イオンパケットを入射するステップで、前記イオンパケットが認識されたパルス発生させる時間で入射される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項13】
オープン等時性イオントラップにおけるマルチプレットを含むスペクトルをデコードする方法において
基準試料のスペクトルにおいてマルチプレット内の強度分布を較正し保持するステップと、
分析された試料について、マルチプレットを有する生(符号化された)スペクトルを記録するステップと、
前記分析された試料のスペクトルのピークを検出し、スペクトルの中心TOF、強度I、およびピーク幅dTに関するデータを有するピークリストを構成するステップと、
生ピークのTOF値、および反射Nの推測数に対応する単一反射ごとの候補の飛行時間t=TOF/Nのマトリックスを構築するステップと、
複数のヒットに対応する見込みのあるtの値を選び、対応するTOF値、すなわち仮定マルチプレットのグループを集めるステップと、
前記基準試料の前記較正された強度分布を使用して前記仮定マルチプレット内のTOFおよび強度の分布を分析することによってグループ内のピークの有効性を検証するステップと、
グループ同士の間のTOFの重なりを確認し、重複するピークを廃棄するステップと、
前記グループの有効なピークを用いて記録された前記生スペクトルからT(正規化飛行時間)および強度の正しい仮定を復元するステップと、
予期される強度を復元するために廃棄された位置の個数を明らかにするステップと、
を含む方法
【請求項14】
オープン静電トラップ質量分析計であって、
イオンからイオンパケットを形成するためのパルスイオン源または、イオンをイオンパケットに変換するためのパルス変換器と、
直交X−Y平面内の2次元の静電場を形成するためにZ方向に延ばされた静電トラップ電極のセットと、
を備え、
前記静電トラップ電極の形状、および当該静電トラップ電極の電位は、周期性イオン振動、および前記X−Y平面内の前記イオンパケットの空間閉じ込め、ならびに中央のイオン軌道に沿った等時性イオン運動を実現するように調整され、
前記パルスイオン源または前記パルス変換器が、前記X−Y平面内の多重振動、および単一のイオン振動周期あたり前記Z方向に平均シフトZ1を形成しつつ前記静電場を通じたイオン通過のためにX軸に対して傾斜角度αでイオンパケットを入射するように構成され、
多数の飛行経路を有するイオンの整数Nのイオン振動後にイオンパケットの飛行時間を測定し、したがって任意のm/zイオン種について信号「マルチプレット」を形成する、X=XD平面に位置する検出器と、
マルチプレットを含む検出器信号から質量スペクトルを再構成する手段と、
をさらに備えるオープン静電トラップ質量分析計。
【請求項15】
前記静電トラップ電極のセットが、
(i)少なくとも2つの静電イオンミラー、
(ii)少なくとも2つの静電セクタ、および
(iii)少なくとも1つのイオンミラーおよび少なくとも1つの静電セクタ、
で構成される群から選択される一電極セットを備える、請求項14に記載のオープン静電トラップ質量分析計。
【請求項16】
前記X軸、Y軸またはZ軸が、曲がっており、
前記軸の湾曲の平面が、前記中央のイオン軌道に対して傾斜させられ、
前記電極セットが、
(i)静電トラップの電極同士が平行であり、Z方向に直線的に延ばされる平面対称、および
(ii)静電トラップの電極が円形であり、前記場が前記円形Z軸に沿って延びて、トロイダル場体積を形成する円筒形対称、で構成される群から選択される1つの対称を有する、請求項14に記載のオープン静電トラップ質量分析計。
【請求項17】
前記オープン静電トラップ質量分析計の感度が、
(i)前記検出器のZ長さが、単一イオン振動周期あたりの前記平均シフトZ1より大きく設定され、
(ii)前記パルス変換器のZ長さが、単一イオン振動周期あたりの前記平均シフトZ1より大きく設定され、
(iii)前記パルス変換器が、最も重いm/zイオン種の前記検出器までの飛行時間より短い期間で通電され、
(iv)前記パルス変換器が、蓄積イオンガイドによって先行されている、
で構成される群から選択される少なくとも1つの手段によって改善される、請求項14に記載のオープン静電トラップ質量分析計。
【請求項18】
単一イオン振動周期あたりのイオンパケットの一部をサンプリングするイオン−電子変換器をさらに備え、
二次電子が、前記イオン−電子変換器の両側からサンプリングされ、
前記イオン−電子変換器が、時間−焦点面を変換器表面の平面と整合させる減速器を備える、請求項14に記載のオープン静電トラップ質量分析計。
【請求項19】
前記パルス変換器が直交加速器を備え、
前記直交加速器が、中央のイオン軌道のX−Z平面に比べてY方向に変位させられ、
前記直交加速器が、
(i)パルスイオン抽出用の窓を有する平行板、
(ii)真空の条件で上流気体RFイオンガイドと連通しているRFイオンガイド、
(iii)気体状態にある直線RFイオントラップ、
(iv)静電イオンガイド、
で構成される群から選択される1つの装置を含む、請求項14に記載のオープン静電トラップ質量分析計。
【請求項20】
(i)質量電荷イオンセパレータ、
(ii)イオン移動度セパレータ、
(iii)微分イオン移動度セパレータ、
(iv)フラグメンテーションセルが続く質量電荷イオンセパレータ
(v)フラグメンテーションセルが続くイオン移動度セパレータ、
(vi)フラグメンテーションセルが続く微分イオン移動度セパレータ、
で構成される群から選択される少なくとも1つのイオンセパレータをさらに備える、請求項14に記載のオープン静電トラップ質量分析計。
【請求項21】
直交加速器の前に、高周波イオントラップと、生飛行時間セパレータまたはイオン移動度セパレータとを備え、
前記イオンパケットの入射間の周期は、最も重いm/zイオン種の検出器までの前記飛行時間より速い構成である、請求項19に記載のオープン静電トラップ質量分析計。
【請求項22】
一対の平面グリッドレスイオンミラーと、
前記一対の平面グリッドレスイオンミラーの間のドリフト空間と、
前記一対の平面グリッドレスイオンミラーの間にあり前記ドリフト空間の第1端部に近接し、イオンパケットを当該ドリフト空間内に放出するように配置されたパルスイオン源であって、当該イオンパケットのイオンが当該ドリフト空間内の2以上の経路に従い、当該2以上の経路の第1経路に従うイオンが当該2以上の経路の第2経路に従うイオンより当該ドリフト空間内でより多くの振動を受ける、パルスイオン源と、
前記一対の平面グリッドレスイオンミラーの間にあり前記ドリフト空間の第2端部に近接する高速応答検出器と、
イオンパケットのピークを抽出し、イオンパケットごとに開始パルスの正確なタイミングを認識して分析スペクトルをデコーディングする復号手段と、を備える質量分析計。
【請求項23】
前記高速応答検出器と前記パルスイオン源との間の前記ドリフト空間に誘導手段を更に備える、請求項22に記載の質量分析計。
【請求項24】
前記高速応答検出器と前記パルスイオン源との間の前記ドリフト空間に長焦点レンズを更に備え、
前記長焦点レンズは、前記イオンパケットのイオンの方向を変えて当該イオンパケットのイオンが受ける振動範囲を制御する、請求項22に記載の質量分析計。
【請求項25】
質量分析計を配置する方法であって、
イオンパケットをパルスイオン源からドリフト空間内に放出するステップであって、当該イオンパケットのイオンが一対のイオンミラーの間で当該ドリフト空間の振動を受ける、ステップと、
前記イオンパケットのイオンがイオン振動を受けた後に、高速応答検出器で当該イオンを検出するステップと、
前記検出されたイオンに基づいて、分析スペクトルを生成するステップと、
を備え、
前記パルスイオン源は、単一のイオンパケットのイオンが前記ドリフト空間を通って2以上の飛行経路に従う方法で各イオンパケットを放出し、
前記2以上の飛行経路の第1経路に従うイオンが、当該2以上の飛行経路の第2経路に従うイオンより前記ドリフト空間内で多くの振動を受ける、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、質量分光分析、静電トラップ、および多経路飛行時間型質量分析計の分野に関し、より詳細には、一定でない飛行経路を有するオープン静電トラップを含む装置、および使用方法に関係している。
【背景技術】
【0002】
定義
本出願は、本明細書において「オープン静電トラップ」と名付けられた新規な装置および方法を提案する。これは、従来の静電トラップ(E−トラップ)と多経路飛行時間(M−TOF:multi−pass time−of−flight)質量分析計の両方の特徴に似ている。3つの場合すべてにおいて、パルス状イオンパケットは、静電分析器内の多重等時性振動(反射または折返し)にあう。これらの技法の間の違いは、静電場の配置、イオン軌道、および検出原理によって定義される。従来のE−トラップでは、静電場は、3つの方向全てにおいてイオンをトラップし、イオンは、不定数的にトラップされ得る。M−TOFでは、イオンパケットは、検出器への一定の飛行経路に沿って静電分析器を通じて伝播する。オープンE−トラップでは、イオンは、少なくとも一方向に閉じ込められつつ分析器を通じてやはり伝播するが、飛行経路は一定ではなく、すなわちそれは、イオンが検出器に到達するまで、いくつかのスパンΔN内で整数N個の振動を含み得る。このように形成された単一m/z種についての多重信号のセットは、本明細書では、「マルチプレット」と名付けられている。次いで、このように形成された部分的に重なっているスペクトルは、マルチプレット内質量非依存振幅分布およびピークタイミングに頼りつつ再構成される。
【0003】
背景
TOFおよびM−TOF:飛行時間質量分析計(TOF MS)は、様々な混合物の同定および定量解析のために分析化学で幅広く使用されている。そのような解析の感度および分解能は、実用に関して重要な関心事である。TOF MSの分解能を向上させるために、Mamyrinらによる米国特許第4,072,862号(参照により本明細書に組み込まれる)は、イオンのエネルギーに関して飛行時間フォーカシングを改善するイオンミラーを開示する。TOF MSの感度を向上させるために、参照により本明細書に組み込まれる、DodonovらによるWO9103071は、連続イオン流をパルス状イオンパケットに効率的変換することを実現する直交パルス入射方式を開示する。TOF MSの分解能は、飛行経路に対応することは長く認識されている。
【0004】
適度な物理的長さを維持しつつ飛行経路を向上させるために、(MR−TOF)および多重周回(MT−TOF)質量分析計を含む多経路飛行時間型質量分析計(M−TOF MS)が提案されている。NazarenkoらによるSU1725289(参照により本明細書に組み込まれる)は、2次元グリッドレス平面イオンミラー(図1)を用いる折り畳み経路のMR−TOF MSの方式を導入する。ミラーの幾何形状および電位は、等時性イオン振動を実現するように配置される。イオンは、いわゆるシフト方向(ここではZ軸)に検出器に向けて徐々にドリフトしながら、平面ミラー同士の間で多重反射を受ける。周期数および分解能は、イオン入射角度を変えることによって調整される。しかし、飛行時間検出の原理により、この技法は、一定の飛行経路を想定しており、イオン反射回数は、隣り合う反射の間の重なりを避けるために少数に制限される。
【0005】
GB2403063および米国特許第5017780号(参照により本明細書に組み込まれる)は、メインの糸鋸状軌道に沿ってイオンパケットを閉じ込めるための2次元MR−TOF内の周期的レンズのセットを開示する。この方式は、一定のイオン経路を与え、空間的に重なることなく何十回ものイオン反射を用いることを可能にする。しかし、周期的レンズの使用は、必然的に飛行時間の逸脱を引き起こし、この飛行時間の逸脱はイオンパケットの空間サイズの制限を強制する。WO2007044696(参照により本明細書に組み込まれる)は、平面MR−TOFの中へのイオンパルス入射の効率を向上させるためにダブル直交入射を用いる方式を示唆する。改善にも関わらず、パルス変換のデューティサイクルは、いまだに1%未満のままである。直交加速前の気体高周波(RF)イオンガイド内の速度変調は、5〜10倍だけデューティサイクルを改善する。
【0006】
論文「Space Charge Effects in Multi−reflecting Time−of−flight Mass Spectrometer」、Proc. of 54th ASMS Conference on Mass Spectrometry、2006年5月、シアトル(参照により本明細書に組み込まれる)においてKozlovらは、イオン蓄積のための軸方向トラップ、およびMR−TOFの中へのパルス入射の使用を説明する。この方式は、ほぼ1にデューティサイクルを改善し、コンパクトなイオンパケットをMR−TOF分析器に通すことを可能にする。しかし、空間変化の影響により、トラップとMR−TOF分析器は共に、1×106から1×107個のイオン/秒(i/秒)を超えるイオン束で急速に飽和状態になる。これは、ESI、PI、およびAPCIの源の場合に1×109i/秒まで、EI源の場合に1×1010i/秒まで、およびICPイオン源の場合に1×1011i/秒までを与える最新のイオン源によって供給できるものよりずっと小さい。空間電荷飽和は、特に高速のデータ取得(>10スペクトル毎秒)が必要されるときに、LC−MSおよびLC−MS−MS分析のダイナミックレンジを制限する。
【0007】
以上をまとめると、従来技術のMR−TOF質量分析計は、分析器パラメータを劣化させることなく、最新のイオン源から1×107i/秒を上回る大量のイオン流を受け入れることができないので、分解能を高めるが、制限されたデューティサイクル(およびしたがって感度)、および制限されたダイナミックレンジを有する。
【0008】
E−トラップMSとTOF検出器:このハイブリッド、すなわち、E−トラップ/TOF技法では、イオンは、トラッピング静電場にパルス状入射され、同じイオン経路に沿って反復振動を受ける。大きい周期数に対応するいくらかの遅延の後、イオンパケットは、TOF検出器へパルス状放出される。GB2080021の図5および米国特許第5017780号(参照により本明細書に組み込まれる)において、イオンパケットは、同軸グリッドレスミラー同士の間で反射される。イオンは、同じ軸方向起軌道を反復するので、この方式は、I−path M−TOFと呼ばれる。別のタイプのハイブリッドM−TOF/E−トラップは、静電セクタを有する多重周回MT−TOF内で実施される。静電セクタ同士の間のイオン軌道をループすることは、米国特許第6300625号および「A Compact Sector−Type Multi−Turn Time−of−Flight Mass Spectrometer MULTUM−2」、Nuclear Instruments and Methods Phys. Res.,A519(2004)331〜337(参照により本明細書に組み込まれる)においてIshiharaらによって説明されている。全てのハイブリッドE−トラップ/TOF法では、スペクトルの重なりを避けるために、分析される質量範囲は、周期数に反比例して縮小される。
【0009】
周波数検出器を伴うE−トラップMS:質量範囲の制限を克服するために、I−path M−TOFは、I−path静電トラップに転換されており、イオンパケットは検出器に放出されず、米国特許第6013913A号、米国特許第5880466号、および米国特許第6744042号(参照により本明細書に組み込まれる)に示唆されるように、イメージ電流検出器が、イオン振動の周波数を感知するために用いられる。そのようなシステムは、I−path E−トラップ、またはフーリエ変換(FT)I−path E−トラップと呼ばれる。I−path E−トラップは、遅い振動周波数、および非常に限られた空間電荷容量に苦しんだ。低い振動周波数(1000amuのイオンに対して100kHz未満)と少ない空間電荷容量(1回の入射あたり1×104個のイオン)の組み合わせは、イオンパケットのセルフバンチング(self−bunching)、およびピーク合体(peaks coalescence)など、受け入れ可能なイオン束を極度に制限し、または強い空間電荷効果をもたらす。
【0010】
米国特許第5886346号(参照により本明細書に組み込まれる)では、Makarovは、イメージ電荷検出器(商標「Orbitrap」)を伴う静電オービタルトラップを示唆した。このオービタルトラップは、超対数場(hyper−logarithmic field)を有する円筒静電トラップである。パルス状入射されるイオンパケットは、半径方向にイオンを閉じ込め、ほぼ理想的な線形場中で振動するために(2次電位分布)、中央スピンドル電極の周りを回転し、これは、周期がイオンのエネルギーから独立している調和軸方向イオン振動を与える。イメージ電荷検出器は、イオンの軸方向振動の周波数を感知する。OrbitrapといわゆるCトラップ(曲がった軸を有すると共に、半径方向イオン放出を伴うRF線形トラップ)の組み合わせは、単一イオン入射あたりより大きい空間電荷容量(SCC:space charge capacity):SCC=3×106個のイオン/入射をもたらす(Makarovら、「Performance Evaluation of a High−Field Orbitrap Mass Analyzer」JASMS.、v.20 (2009)#8、pp 1391〜1396(参照により本明細書に組み込まれる))。しかし、オービタルトラップは、遅い信号取得に苦しむ。イメージ検出器を用いた信号取得は、m/z=1000で100,000の分解能であるスペクトルを得るのに約1秒かかる。遅い取得速度は、Cトラップの空間電荷制限との組み合わせで、最も好ましくない場合に質量分析計のデューティサイクルを0.3%に制限する。
【0011】
したがって、高分解能に到達しようとする試みにおいて、従来技術の多経路飛行時間型質量分析計およびイメージ電荷検出を用いる静電トラップは、受け入れられるイオン束が1×107i/秒未満に制限され、これは最も好ましくない場合に0.3〜1%の下で有効デューティサイクルを制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO9103071
【特許文献2】WO2007044696
【特許文献3】WO2008,087,389
【特許文献4】WO2009001909
【特許文献5】DE102007024858
【特許文献6】GB2080021
【特許文献7】GB2403063
【特許文献8】SU1725289
【特許文献9】SU19853840525
【特許文献10】米国特許第4,072,862号
【特許文献11】米国特許第5017780号
【特許文献12】米国特許第5880466号
【特許文献13】米国特許第5886346号
【特許文献14】米国特許第6013913A号
【特許文献15】米国特許第6300625号
【特許文献16】米国特許第6,300,626号
【特許文献17】米国特許第6744042号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】論文「Space Charge Effects in Multi−reflecting Time−of−flight Mass Spectrometer」、Proc. of 54th ASMS Conference on Mass Spectrometry、2006年5月、シアトル
【非特許文献2】「A Compact Sector−Type Multi−Turn Time−of−Flight Mass Spectrometer MULTUM−2」、Nuclear Instruments and Methods Phys. Res.,A519(2004)331〜337
【非特許文献3】Makarovら、「Performance Evaluation of a High−Field Orbitrap Mass Analyzer」JASMS.、v.20 (2009)#8、pp 1391〜1396
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の少なくとも一態様の目的は、前述の課題のうちの少なくとも1つまたは複数を未然回避または軽減することである。
【0015】
本発明の少なくとも一態様のさらなる目的は、約100,000の範囲内で高解像力を有する質量分析計のイオン束スループットおよびデューティサイクルを向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、本明細書において「オープン静電トラップ」と呼ばれる新規なタイプの質量分析計が、従来技術のE−トラップおよびM−TOFに比べて、質量分析計のパラメータ、すなわち分解能、感度、およびダイナミックレンジの組み合わせを改善することを実現した。多経路TOFと同様に、オープン静電トラップ(E−トラップ)は、同じタイプの分析器の静電場を用い、イオンパケットは、パルス源から検出器へ移動する間に多重振動(イオンミラー同士の間の反射、または静電セクタ内のループサイクル)を受ける。多経路TOFとは対照的に、E−トラップは、いわゆるドリフト方向(本出願では常にZ方向)にイオンパケットを閉じ込める手段を用いない。パルスイオン源とイオン検出器の間のイオン経路は、整数Nのイオン振動で構成されことになり、ただし、数字Nは一定ではなく、むしろいくらかのスパンΔN内で変動する。スペクトルデコーディングは、放出タイミングに関する、および各マルチプレットグループ内の測定される強度分布に関する従来知られている情報を用いる。
【0017】
多様なm/z種を考えると、オープンE−トラップにおける信号は、本明細書では「マルチプレット」と名付けられた反射N±ΔN/2の整数範囲の部分的に重なっている信号で構成され、これにより追加の複雑さがスペクトルデコーディングであることをもたらす。一方、ドリフトのZ方向のイオンパケットの広がりは、分析器の空間電荷容量、および検出器のダイナミックレンジを拡大する。この方法は、パルス変換器の長さおよび放出周波数の拡大を可能にし、このようにしてパルス変換のデューティサイクル、およびしたがって非一定の飛行経路を有するオープン静電トラップの感度を実質的に向上させる。
【0018】
この方法は、主としてタンデム質量分析に適用可能であり、MS分析前のイオン分離との様々な形態のタンデムに適用できる。このとき、スペクトル成分は、希薄(通常、スペクトル空間の1%未満)であるが、このスペクトル成分が、多重オーバーラッピング信号からのスペクトルの再構成を可能にする。MSのみの分析の場合、信号デコーディングは、補助検出器での非重なり信号の記録によって、事前の時間分離によって、または相関移動度−m/zフィルタリングのような化学的ノイズ抑制によって助けられる。
【0019】
この方法は、直交加速器、高周波および静電パルス式イオンガイド、および高周波イオントラップのようないくつかの特定のパルスイオン源およびパルス変換器について説明される。
【0020】
本発明は、静電場中でも、高周波場中でも、磁場中でもないオープントラップ分析の原理を用いる従来技術のいずれも意識していない。このため、本発明は、オープン等時性トラップを用いて記録するマルチプレットの方法として最も広い意味で表現され得る。短い表現は、オープンイオントラップおよびマルチプレット信号の先に与えた定義に基づいている。
【0021】
本発明の第1の態様によれば、質量スペクトル分析の方法であって、
(a)等時性イオン振動を与える静電場、高周波場、または磁場にイオンパケットを通過させるステップと、
(b)整数のイオン振動周期(マルチプレット)のスパンに対応する飛行時間スペクトルを記録するステップと、
(c)マルチプレット含有信号から質量スペクトルを再構成するステップと
を含み、
再構成された前記質量スペクトルが、質量スペクトル分析に使用することができる方法が提供される。
【0022】
本発明の第2の態様によれば、
質量スペクトル分析の方法であって、
(a)分析された試料から多重種のイオンパケットを形成するステップと、
(b)少なくとも2つの方向で空間イオントラッピングを行うと共に中央のイオン軌道に沿って等時性イオン運動を与える静電場を配置するステップと、
(c)前記静電場を通じたイオン通過のために前記イオンパケットを入射するステップであって、前記イオンパケットが、多重イオン振動を形成できる、前記イオンパケットを入射するステップと、
(d)イオンを検出し、スパンΔN内で整数N個のイオン周期について検出平面でイオンパケットの飛行時間(マルチプレット)を測定するステップと、
(e)マルチプレットを含む前記検出された信号から質量スペクトルを再構成するステップと
を含み、
再構成された前記質量スペクトルが、質量スペクトル分析に使用することができる方法が提供される。第2の態様は、静電トラップが最も実用的であることを認める。
【0023】
好ましくは、前記静電場は、局所的に直交するZ方向に延ばされたX−Y平面で実質的に2次元(2D)の静電場を含んでもよい。好ましくは、前記静電場の中への前記イオン入射は、Xに対して傾斜角度αで配置されてもよく、単一振動周期あたりZ方向に平均シフトを形成する。代替として、前記静電場は、3次元の場を備えてもよい。好ましくは、この方法の解像力を改善するために、前記イオン入射ステップは、検出器平面X=XDでイオンパケットの時間フォーカシングを与えるように調整されてもよい。さらに好ましくは、前記静電場は、検出器平面X=XDで時間フォーカシングを持続するように調整されてもよい。
【0024】
前記2D静電場の複数の可能な構造がある。好ましくは、前記静電場は、(i)静電イオンミラーの反射および空間的フォーカシングの場、(ii)静電セクタの偏向場、といった群の少なくとも1つの場を備えることができる。好ましくは、前記実質的に2次元の静電場は、(i)E−トラップ電極が平行であり、方向に直線的に延ばされる平面対称、および(ii)E−トラップ電極が円形であり、トロイダル場体積を形成するように場が円形のZ軸にそって延びる円筒形対称、といった群のうちの1つの対称を有することができる。様々な可能な場の構造は、本発明者による同時係属の特許出願「Electrostatic Trap」に説明されるように、X軸、Y軸またはZ軸の可能な湾曲によって延在されてもよく、軸の湾曲の平面は、全体的に、中央のイオン軌道に対して傾けられてもよい。
【0025】
スペクトルデコーディングは、マルチプレット内のピークの個数ΔNに強く依存する。好ましくは、マルチプレットスパンは、イオン入射ステップでの角度の広がりおよび空間のイオンパケットの広がりによって、または前記イオントラップ内のZ方向の追加の誘導およびフォーカシングによって制御することができる。好ましくは、これらのラメータは、検出器領域において、Z方向のイオンパケットの空間の広がり単一イオン周期ごとのZ1シフトより大きくなるように調整することができる。好ましくは、イオン入射ステップで角度の広がりおよび空間のイオンパケットの広がりは、マルチプレット内のm/z独立性強度分布を与えるようにイオンm/zに独立に設定されてもよく、マルチプレット内の前記強度分布は、質量スペクトルの再構成のステップを助けるように較正試験で決定される。代替として、時間依存性Z集束は、スパンΔN対イオンm/zを変えるのに用いることができ、これによって重なったピークの個数を減少させる。好ましくは、前記フォーカシングは、少なくとも2つの設定の間で交互にすることができ、データは、マルチプレットデコーディングを助けるために、少なくとも2つの同期したセットの中に記録することができる。
【0026】
複数の他のパラメータ、例えばオープントラップの長さ、検出器の長さ、および静電トラップのチューニングなどは、マルチプレット内の信号の振動数NおよびスパンΔNを制御することによって調整することができる。好ましくは、イオン入射とイオン検出の間のイオン周期数Nは、(i)3〜10、(ii)10〜30、(iii)30〜100、および(iv)100を超える、といった群のうちの1つであってもよい。好ましくは、マルチプレット内の記録された信号の数字ΔNは、(i)1、(ii)2〜3、(iii)3〜5、(iv)5〜10、(v)10〜20、(vi)20〜50、および(vii)100を超える、といった群の1つであればよい。好ましくは、(i)0.1〜1%(ii)1〜5%、(iii)5〜10%、(iv)10〜25%、および(v)25〜50%、といった群の1つである検出器信号の相対固体数を調整するために、分析されたm/z種の数字に応じて、イオン入射の傾斜角度αは、マルチプレットのスパンΔNを制御するように調整されてもよい。
【0027】
好ましくは、マルチプレット内のピークの個数を制御するため、および検出器のダイナミックレンジを拡大するために、前記検出ステップは、単一イオン振動周期ごとにイオンパケットの一部をサンプリングするステップを含んでもよく、それによって任意のm/z種ごとに多重マルチプレット信号を発生させる。好ましくは、マルチプレット間のm/z独立性強度分布を与え、質量スペクトルの再構成のステップを助けるために、検出器へサンプリングされたイオンの前記一部が、イオンm/zに独立して設定されてもよく、前記マルチプレット分布は、較正試験で決定される。
【0028】
全ての入射されたイオンを損失することなく検出するために、単一イオン周期ごとの平均シフトZ1より大きい検出器のZ長さZDを維持することが有利である。好ましくは、検出器は、両面性であってもよい。さらに好ましくは、イオンパケットの時間−焦点面は、検出器の前で場を減速させることによって、検出器表面に整合するように調整され得る。好ましくは、検出器へのイオン収集を助けるために、検出器の周辺部および減速器の周辺部をバイパスしつつ、有効な検出器表面へイオンの大部分を向けるために、検出の前に追加の誘導ステップおよび弱いフォーカシングステップが導入されてもよい。好ましくは、イオン検出ステップは、表面上のイオン−電子変換によって助けられてもよく、そのような表面は無視して構わない周辺部を有し得る。
【0029】
信号の多様性(マルチプレット)および信号デコーディングは、すでにこの方法に組み込まれているので、この方法は、この方法の様々な強化を手に入れつつ、マルチプレット内のピークの個数を増加させる他のステップを可能にする。好ましくは、放出されるイオンパケットのZ長さは、単一イオン周期ごとの平均シフトZ1より長く設定されてもよい。これによりパルス変換器のデューティサイクルを改善することを可能にし、したがってこの方法の感度を改善することになる。感度をさらに改善するために、イオン入射ステップが、最も大きいm/zイオン種の検出器への飛行時間より短い期間で設けられてもよい。好ましくは、入射イオン流は、入射パルス列の継続期間に対応する時区間を用いて準連続流に変調されてもよい。一例として、イオン流の変調は、イオンをトラップするステップおよび気体高周波イオンガイドからパルス放出するステップを含み得る。
【0030】
方法の一グループでは、追加の信号が、マルチプレットを含むスペクトルのデコーディングについての任意の追加の情報を与えるために使用されてもよい。好ましくは、スペクトルは、マルチプレットをデコードし、重なりを時間移動するために、様々なシーケンスの入射パルスを用いる少なくとも2つの交互に行われる設定において取得されてもよい。強く重なっているスペクトルをコードするために、この方法は、マルチプレットを避けつつ、ずっと少ない振動回数でイオンパケットの一部についての飛行時間を中間検出器において記録する追加のステップをさらに含んでもよい。好ましくは、イオンパケットは、2つの検出器に向かって反対のZ方向に移動する2つのセットに分割されてもよい。好ましくは、イオンパケットのスプリッティングは、双極ワイヤのセットの間に配置されてもよい。さらに好ましくは、この分割は、イオンの質量と電荷の比の関数としてイオンパケットの傾斜角度を調整するように時間依存性であってもよい。好ましくは、イオンパケットの分割は、イオンパケットの一部についてのZシフト方向の逆戻りについて、例えば上昇飛行経路について、またはスペクトルフィルタリングについて構成されてもよい。
【0031】
信号のデコーディングの成功は、スペクトル複雑さに強く依存し、この方法は、主に、イオン移動度および微分イオン移動度(differential ion mobility)のようなタンデム質量分析および他のイオン分離法と共に使用するために示唆される。好ましくは、この方法は、前記静電場の中へのイオンパルス入射のステップの前に、イオンの移動度または微分移動度に従ってイオンを時間分離する追加のステップを含んでもよい。適宜、移動度分離ステップは、それに続くイオンフラグメンテーションであってもよい。代替として、この方法は、タンデムMS−MS分析のための親m/z分離のステップ、およびイオンフラグメンテーションのステップを含んでもよい。さらなる代替形態では、この方法は、前記静電場へのイオン入射のステップの前に、イオントラッピングの追加のステップ、および生飛行時間分離の追加のステップを含んでもよい。そのような分離は、マルチプレットのグループを広げ、スペクトルデコーディングのステップを改善する。好ましくは、上記のタンデムにおける静電トラップの応答時間を改善するために、前記静電場へのイオン入射は、最も重いm/zイオン種の検出器への飛行時間より速く構成されてもよい。IMS−CID−MS法およびMS−MS法の実施については、高分解能検出器によるフラグメントスペクトルの取得は、マルチプレットを避けつつ補助検出器による親スペクトルの取得によって補完することができる。
【0032】
好ましくは、オープンE−トラップ分析を加速するために、この方法は、並べたスリットのセットを作製することによって、同じセットの電極内で前記静電場の体積を多重化するステップをさらに含み、および、並列および独立の質量分析のために単一または複数のイオン源からイオンパケットを前記静電場の体積に分配するステップをさらに含む。
【0033】
方法の好ましい一グループでは、前記静電場の中への前記イオン入射のステップが、Z方向に伝播する連続または準連続イオンビームのパルス直交加速を含む。好ましくは、パルス直交場は、検出器平面X=XDで時間的フォーカシングを与えるように調整されてもよい。好ましくは、反射回数は、前記直交加速パルス場の入口で前記イオンビームのエネルギーを変えることによって制御されてもよい。好ましくは、前記直交加速場領域は、Y方向に変位させられ、イオンパケットが、パルス式Y偏向により中央のイオン軌道のX−Z平面へ戻される。代替として、加速器と反射されたイオンパケットの干渉を避けるために、加速場は傾斜させられてもよく、イオンパケットは第1の反射後に誘導され、両傾斜誘導角度は、飛行時間歪みを相互補償するように選ばれる。
【0034】
好ましくは、この方法の感度を高めるために、前記直交加速場の長さは、単一イオン周期ごとのシフトZ1より大きくすることができる。さらに好ましくは、分析の感度を高めるために、直交加速パルス間の周期は、最も重いイオン種の検出器への飛行時間より短いものであってもよい。好ましくは、直交加速の前記ステップは、一方の板の窓を通じて平行版の間に配置される。好ましくは、前記板は、表面に非伝導膜の形成を防ぐように加熱されてもよい。イオンビームのフォーカスをぼかすことなく長い加速領域を保持するために、前記直交加速の中へのイオン送達は、高周波場によって助けられる。代替として、加速領域中へのイオンの送達を助けるために、前記直交加速は、静電イオンガイドの静電周期的フォーカシング場の間に配置されてもよい。
【0035】
好ましくは、感度を高めるために、この方法は、直交パルス加速のステップの前に気体高周波(RF)イオンガイド内でイオン流を調整するステップをさらに含む。好ましくは、この方法は、イオン蓄積、および前記RFイオンガイドからのパルス式イオン抽出のステップをさらに含んでもよく、前記抽出は、前記直交加速パルスと同期する。
【0036】
あるグループの方法では、前記イオン入射のステップは、気体の存在中でイオントラップの高周波場内のイオントラッピングのステップを含む。好ましくは、前記イオントラッピングのステップは、約10から1000Paまでのガス圧で行われてもよい。さらに好ましくは、トラッピング時間は、イオン振動の制動を構成するために、ガス圧の生成および約0.1Pa*秒を超えるトラップ時間を維持するように選択されてもよい。
【0037】
好ましくは、トラッピング高周波場の領域は、実質的にZ軸またはY軸に沿って延在されてもよく、イオン放出は、トラップピング電極のうちの1つにおける窓を通じて構成される。代替として、イオントラッピングは、X方向に並べられたRFイオンガイドのアレイ内で構成され、補助電極で形成される静電井戸によって助けられてもよい。好ましくは、トラップからイオンをパルス放出する方法は、第1の時間−焦点面に位置する双極ワイヤの場によるイオンパケットの分割および誘導のステップをさらに含んでもよい。
【0038】
本発明は、幅広い様々なイオン化方法に適用可能である。あるグループの方法では、前記イオンパケット形成のステップは、(i)MALDIイオン化、(ii)DE MALDIイオン化、および(iii)SIMSイオン化、(iii)フラグメンテーションセルからのパルス抽出、および(iv)パルス抽出を用いた電子衝撃イオン化、といった群のうちの1つのステップを含んでもよい。オープンイオントラップ分析の方法は、イオン源の条件が急速に変換する場合でも、開始パルスの正確なタイミングを決定する機会を与える。
【0039】
一方法は、E−トラップにおけるイオン飛行時間に匹敵する時間スケールで変わるパルスイオン源内のイオンパケット形成のステップをさらに含む。この群は、信号のマルチプレット内の時間パターンによってイオンがパルスを発生させる時間を認識するステップをさらに含み、前記イオンパケット形成のステップは、(i)粒子または光のパルスによって分析されたスキャン表面のボンバードメント、(ii)エアロゾル粒子をランダムにイオン化すること、(iii)超高速分離装置の試料出口をイオン化すること、および(iv)迅速に多重化されたイオン源内の試料をイオン化すること、といった群のうちの1つのステップを含む。
【0040】
本発明の第3の態様によれば、オープン等時性イオントラップにおけるマルチプレットのスペクトルをデコードするアルゴリズムであって、
(a)基準スペクトルにおいてマルチプレット内の強度分布I(N)を較正するステップと、
(b)生スペクトルのピークを検出し、スペクトルの中心TOF、強度I、およびピーク幅dTに関するデータを有するピークリストを構成するステップと、
(c)生ピークのTOF値、および反射Nの推測数に対応する単一反射ごとの候補の飛行時間t=TOF/Nのマトリックスを構築するステップと、
(d)複数のヒットに対応する見込みのあるt値を選び、対応するTOF値、すなわち仮定マルチプレットのグループを集めるステップと、
(e)仮定マルチプレット内のTOFおよび強度I(N)の分布を分析することによって前記グループ内のピークの有効性を検証するステップと、
(f)グループ同士の間のTOFの重なりを確認し、重複するピークを廃棄するステップと、
(g)前記グループの有効なピークを用いてT(正規化飛行時間)および強度I(T)の正しい仮定を復元するステップと、
(h)予期される前記強度I(T)を復元するために廃棄された位置の個数を明らかにするステップと
を含むアルゴリズムが提供される。
【0041】
振動数NおよびそのスパンΔNは、オープンE−トラップにおける設定試験状態の段階で変えられてもよく、したがってマルチプレット信号内のパラメータNおよびΔNを調整する。好ましくは、イオン振動数Nは、(i)3〜10、(ii)10〜30、(iii)30〜100、および(iv)100を超える、といった群のうちの1つであってもよい。好ましくは、マルチプレット信号内のスパンΔNは、(i)1、(ii)2〜3、(iii)3〜5、(iv)5〜10、(v)10〜20、(vi)20〜50、および(vii)100を超える、といった群の1つであればよい。好ましくは、(i)0.1〜1%、(ii)1〜5%、(iii)5〜10%、(iv)10〜25%、および(V)25〜50%、といった群の1つである信号の相対固体数を調整するために、分析されたm/z種の数字に応じて、マルチプレットのスパンΔNは調整される。
【0042】
本発明の第4の態様によれば、マルチプレットスペクトル取得に関する等時性オープンイオントラップ質量分析計が提供される。
【0043】
明確な記述は、オープンイオントラップおよびマルチプレットスペクトルの先に与えた定義に頼る。イオントラップは、静電、高周波または磁気であってもよい。しかし、静電トラップが最も実用的であることが認識されている。
【0044】
本発明の第5の態様によれば、静電オープントラップ質量分析計(E−トラップ)であって、
(a)分析された試料の中性種からイオン種を形成するイオン化手段と、
(b)前記イオンからイオンパケットを形成するためのパルスイオン源またはパルス変換器と、
(c)局所的に直交X−Y平面内の実質的に2次元の静電場を形成するためにZ方向に沿って実質的に延ばされた静電トラップ電極のセットと
を備え、
(d)前記トラップ電極の形状、および前記トラップ電極の電位は、周期性イオン振動、および前記X−Y平面内の前記イオンパケットの空間閉じ込め、ならびに中央のイオン軌道に沿った等時性イオン運動を実現するように調整され、
(e)前記パルス源またはパルス変換器が、前記X−Y平面内の多重振動、および単一のイオン振動ごとに前記Z方向に沿った平均シフトZ1を形成しつつ前記静電場を通じたイオン通過のためにX軸に対して傾斜角度αでイオンパケットを入射するように構成され、
(f)あるスパンΔN内で変動する整数Nのイオン振動後にイオンパケットの飛行時間を測定し、したがって任意のm/zイオン種について信号「マルチプレット」を形成する、X=XD平面に位置する検出器と
(g)マルチプレットを含む検出器信号から質量スペクトルを再構成する手段と
をさらに備えるE−トラップが提供される。
【0045】
開示されたオープン静電トラップは、様々な電極セットを用いて実施することができる。好ましくは、前記静電トラップ電極は、(i)少なくとも2つの静電イオンミラー、(ii)少なくとも2つの静電偏向セクタ、および(iii)少なくとも1つのイオンミラーおよび少なくとも1つの静電セクタ、といった群の一電極セットを備える。好ましくは、前記実質的に2次元の静電場は、(i)E−トラップの電極同士が平行であり、Z方向に直線的に延ばされる平面対称、および(ii)E−トラップ電極が円形であり、前記場が前記円形Z軸に沿って延びて、トロイダル場体積を形成する円筒形対称、といった群のうちの1つの対称を有してもよい。好ましくは、前記X軸、Y軸またはZ軸が、全体的に曲がってもよい。特定の一実施形態では、前記E−トラップは、無電場空間によって間隔をおいて配置された2つの平行イオンミラーで形成されてもよく、前記ミラーは、円形のZ軸に沿ってトロイドに巻かれる。別の特定の実施形態では、前記E−トラップは、円形のZ軸に沿ってトロイドに巻かれている少なくとも1つの静電セクタをさらに含む。最も好ましい分析器の実施形態は、無電場空間によって隔てられた2つの平行なトロイダルイオンミラーを備える。トロイダル実施形態は、大きいZ外周を維持しつつ、コンパクトな分析器空間フォールディングを実現する。好ましくは、前記各イオンミラーは、少なくとも1つの加速レンズ、および空間的なイオンの集束を実現するための少なくとも4つの電極、少なくとも2次の空間および角度等時性、および少なくとも3次エネルギー等時性を含んでもよい。
【0046】
一実施形態は、イオンパケットのZ発散およびマルチプレット内のピークの個数ΔNを制御するために前記パルス変換器と前記検出器の間に位置する空間フォーカシング手段を備える。好ましくは、前記空間フォーカシング手段は、イオンm/zに対するマルチプレット数を制御するために、時間変化信号で発生器に接続されてもよい。代替として、一定の静電フォーカシングが、マルチプレット内にm/z独立性強度分布を与えるのに使用されてもよい。好ましくは、本実施形態は、前記パルス変換器と前記イオン検出の間に位置するイオンパケット誘導手段をさらに備えてもよい。この誘導は、傾斜角度を制御すること、およびしたがってマルチプレット内の数字NおよびΔNを制御することを可能にする。
【0047】
実施形態の一グループは、検出器を最適化することによって感度の向上を目的とする。一実施形態では、検出器のZ長さは、単一イオン周期ごとの前記平均シフトZ1より大きくてもよい。好ましくは、検出器は、両面性であってもよく、時間−焦点面は、検出器の前で場を減速させることによって、検出器表面に整合するように調整される。好ましくは、実施形態は、検出器の周辺部および適宜の減速器の周辺部をバイパスしつつ、有効な検出器表面へイオンの大部分を向けるために、前記検出器の前に誘導手段およびフォーカシング手段をさらに備えてもよい。好ましくは、一実施形態は、単一イオン周期ごとにイオンパケットの一部をサンプリングするイオン−電子変換器をさらに備えてもよく、二次電子が、前記イオン変換器の両側へ/からサンプリングされ、変換器は、時間−焦点面を変換器表面の平面と整合させる減速器を備える。
【0048】
複数の実施形態が、様々なパルスイオン源またはパルス変換器を開示する。実施形態の一グループでは、前記パルスイオン源は、(i)MALDI源、(ii)DE MALDI源、および(iii)SIMS源、(iii)パルス抽出を用いたフラグメンテーションセル、(iv)パルス抽出を用いた電子衝撃源の群のうちの1つを含む。一実施形態では、迅速な表面分析のために、前記パルスイオン源は、粒子または光のパルスによる分析表面のボンバードメントを含み、衝撃を与えられた箇所が、分析表面上でスキャンされる。好ましくは、衝撃パルスの間の期間は、最も重いイオン種の飛行時間よりもずっと短く設定され得る。好ましくは、パルスを発生させるイオンの時間は、次いで、信号のマルチプレット内の時間パターンを用いて認識される。
【0049】
実施形態の別のグループでは、前記パルス変換器は、Z方向にほぼ沿って伝播する連続または準連続イオンビームを、X方向にほぼ沿って加速されたイオンパケットに変換する直交加速器を含む。好ましくは、前記直交加速器は、イオン抽出のためのスリットを備える平行版電極を備えてもよい。代替として、前記変換器は、イオンの制動のため、および適宜イオン蓄積のために気体状態でRFイオンガイドを備える。さらに代替として、前記パルス変換器は、事前の気体RFイオンガイドを用いてイオンを伝達する真空の条件にあるRFイオンガイドを備えてもよい。さらに代替として、直交加速器は、イオンの半径方向閉じ込めのための静電イオンガイドを備えてもよい。好ましくは、前記連続または準連続イオンビームのイオンのエネルギーは、前記E−トラップにおけるイオン反射回数を調整するように制御されてもよい。好ましくは、前記直交加速器は、中央のイオン軌道のX−Z平面に比べてY方向に変位させられてもよく、次いで、パルス状そらせ板が、イオンパケットを中央平面に戻す。この配置により、E−トラップ内で反射された後に、イオンが加速器にぶつからないようにする。代替として、直交加速器は、Z軸に対して小さい傾斜角度αで設定されてもよく、イオンは、E−トラップ分析器における第1の反射の後に、傾斜および誘導によって引き起こされる飛行時間の逸脱の相互補償を与えるように誘導される。好ましくは、傾斜角および誘導は、プレート加速器もしくは静電イオンガイド加速器の場合には連続イオンビームの有限エネルギー、または気体RFイオントラップの場合にはほぼゼロのイオンエネルギーによって引き起こされるイオン軌道の傾斜角度を考える。この配置は、直交加速器と誘導装置の間により広いZの間隔を与え、一方、コンパクトな軌道フォールディングのためにE−トラップ分析器内のイオン軌道の傾斜角度を下げる。
【0050】
実施形態の一グループは、E−トラップの感度を増加させるための直交加速器の改善を開示する。好ましくは、前記イオン源またはパルス変換器のZ長さは、単一イオン周期ごとの平均シフトZ1より長くてもよい。補足としては、前記パルス源またはパルス変換器は、最も重いm/zイオン種の検出器までの飛行時間より短い時間で通電される。好ましくは、直交加速器は、事前のRF気体イオンガイドと結合されてもよい。さらに好ましくは、前記ガイドは、準連続イオンビームの形態でイオンを蓄積および放出してもよい。さらに好ましくは、記準連続イオンビームの推進は、E−トラップにおいて最も重いm/zイオンの飛行時間よりもずっと短い周期で頻繁な直交パルスと同期してもよい。さらに好ましくは、スペクトルは、前記パルス列によって入射されるイオンの収集を検出するのに十分に長い継続期間取得され得る。
【0051】
本発明は、質量スペクトルが元々少ない、主にタンデム質量分析に適用可能である。一実施形態は、(i)質量電荷セパレータ、(ii)イオン移動度セパレータ、(iii)微分イオン移動度セパレータ、および(iv)上記イオンセパレータのいずれか、それに続くフラグメンテーションセル、といった群のうちの少なくとも1つの親イオンセパレータをさらに備える。代替として、スペクトルデコーディングを改善するために、本実施形態は、直交加速器の前に、RFイオントラップと、生飛行時間セパレータまたはイオン移動度セパレータとをさらに備えてもよい。セパレータは、オープンE−トラップスペクトルにおけるマルチプレットの分離を改善する。好ましくは、E−トラップ感度およびスペクトルデコーディングを向上させるために、前記E−トラップへのイオン入射間の周期は、最も重いm/zイオン種の検出器までの飛行時間より速い構成であってもよい。
【0052】
次に、本発明の様々な実施形態を、例示の目的だけで与える構成と共に、以下の添付図面を参照して例だけによって説明する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】イオン源と検出器の間に一定の飛行経路を有する従来技術の平面多重反射質量分析計(MR−TOF)を示す図である。
図2】イオンパケットを発散させるための長くて一定のイオン経路を確実にするために周期的レンズのセットを備える従来技術の平面MR−TOFを示す図である。
図3】イオンパケットがオープンE−トラップを通過し、イオン振動周期のスパンにより信号のマルチプレットを形成する本発明の方法を示す図である。
図4A】計算の例におけるマルチプレットの飛行時間を示し、マルチプレット信号のデコーディングの原理を説明し、表の太字フォントが反復計算した単一反射(あるグループのヒット)ごとの飛行時間を示す図である。
図4B】計算の例におけるマルチプレットの飛行時間を示し、マルチプレット信号のデコーディングの原理を説明し、表の太字フォントが反復計算した単一反射(あるグループのヒット)ごとの飛行時間を示す図である。
図4C】計算の例におけるマルチプレットの飛行時間を示し、マルチプレット信号のデコーディングの原理を説明し、表の太字フォントが反復計算した単一反射(あるグループのヒット)ごとの飛行時間を示す図である。
図5A】検出器の近くのイオン軌道を示すと共に、空間的なイオンの集束、およびイオン減速を含む検出器の実施形態を示す図である。
図5B】検出器の近くのイオン軌道を示すと共に、空間的なイオンの集束、およびイオン減速を含む検出器の実施形態を示す図である。
図5C】検出器の近くのイオン軌道を示すと共に、空間的なイオンの集束、およびイオン減速を含む検出器の実施形態を示す図である。
図5D】検出器の近くのイオン軌道を示すと共に、空間的なイオンの集束、およびイオン減速を含む検出器の実施形態を示す図である。
図6A】直交加速器を有するE−トラップのX−Z断面を示し、加速器の傾斜、それに続くイオン誘導によってイオン経路を通り抜ける方法を示す図である。
図6B】直交加速器を有するE−トラップのX−Z断面を示し、加速器の傾斜、それに続くイオン誘導によってイオン経路を通り抜ける方法を示す図である。
図7】直交加速器を有するE−トラップのX−Y断面を示し、加速器のY変位、それに続くパルス式誘導によってイオン経路を通り抜ける方法を示す図である。
図8A】マルチプレット形成による、および加速器の頻繁なパルス発信による複数の信号ピークの出現を示す図である。
図8B】マルチプレット形成による、および加速器の頻繁なパルス発信による複数の信号ピークの出現を示す図である。
図9】準連続イオンビームによる直交加速を用いるE−トラップの一実施形態を示す図である。
図10A】ミニ秒時間スケールでの上流イオントラッピングおよびイオン分離のあるE−トラップの一実施形態を示し、事前のイオン分離がピークの重なりを減少させるやり方、およびしたがってスペクトルデコーディングを向上させるやり方を説明する図である。
図10B】ミニ秒時間スケールでの上流イオントラッピングおよびイオン分離のあるE−トラップの一実施形態を示し、事前のイオン分離がピークの重なりを減少させるやり方、およびしたがってスペクトルデコーディングを向上させるやり方を説明する図である。
図11】時間変化パルスイオン源を備えるE−トラップの一実施形態を示す図である。
図12】RFイオントラップおよびB−Nスプリッタを有する一実施形態を示す図である。
図13】RFイオントラップを有する別のE−トラップの実施形態を示す図である。
図14】オープンE−トラップの典型の幾何形状を示す図である。
図15】磁場および高周波場を用いるオープンイオントラップの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
試作品
図1を参照すると、参照により本明細書に組み込まれる従来技術SU1,725,289の平面MR−TOF11は、パルスイオン源12と、高速応答検出器13と、2つの平行平面グリッドレスイオンミラーが構成されるバー電極14から19とを備える。
【0055】
動作時、静電グリッドレスイオンミラーは、イオンパケットをX方向に反射し、一方、Y方向に空間的なイオンの集束を行うと共に、X方向に等時性イオン振動を与える。パルスイオン源12は、とても低い発散でイオンパケットを発生させ、X軸に対してある傾斜角でイオンパケットを向ける。イオンパケットは、Z方向にシフトしつつイオンミラー同士の間で反射されることになり、このようにしてイオンパケットが検出器13にぶつかるまで糸鋸状のイオン軌道を形成する。糸鋸状の軌道に沿った飛行経路は、解像力(分解能)を向上させるためにただ1回反射するTOF分析計に比べて延長される。イオンパケットがZ方向に広がるのを防ぎ、一定数の反射を確実にするために、低い発散および少ない反射回数となるイオンパケットが、非常に少量に限定されると予想されることを、従来技術は想定する。
【0056】
図2を参照すると、参照により本明細書に組み込まれる従来技術GB2,403,063および米国特許第5,017,780号の平面MR−TOF21は、パルスイオン源22と、高速応答(TOFタイプ)検出器23と、無電場空間24によって隔てられた2つの平行平面グリッドレスイオンミラー25と、周期的レンズのセット27とを備える。各イオンミラーは、Z方向に実質的に細長い少なくとも4つの長方形の電極で構成される。
【0057】
動作時、パルスイオン源(またはパルス変換器)22は、イオンパケットを発生させ、検出器23に向けて糸鋸状の軌道26に沿ってイオンパケットを送出する。イオンは、Z方向に徐々にドリフトしながらイオンミラー25によってX方向に反射される。イオンミラーは、Y方向に空間的な集束、ならびに初期空間の広がり、角度の広がり、およびエネルギーの広がりに関する高次等時性特性を与えるように最適化される。周期的レンズのセット27は、Z方向に広がるパケットを閉じ込め、所定の糸鋸状のイオン経路に沿ってイオン閉じ込めを実現する。反射回数は、小さいパケット発散で数十回まで増加できる。反射回数は、計器サイズ、およびMR−TOFの角度アクセプタンスによって制限される。
【0058】
図2の従来技術の好ましくない点は、パルス変換器の効率を制限する分析器の小さい空間および角度アクセプタンスにある。例えば、よく知られた直交イオン入射を用いる場合、直交加速器の長さは10mm未満とすべきであり、一方、典型的なパルス周期は1m秒である。その際、加速器のデューティサイクルは1%未満であり、これは計器感度を制限する。1ショットごとに1000個のイオンを上回るイオンパケットを含むと、数mmサイズ以内のイオンパケットの閉じ込めは、スペクトルにおける空間電荷の歪みをもたらす。したがって、取扱われる最大のイオン束は、質量種ごとに毎秒1×106個のイオン未満である。これは、最新のイオン源によって発生できるものより実質的に低く、エレクトロスプレー(ESI)、APPIおよびAPCIの場合には1×109個のイオン/秒、Elおよびグロー放電(GD)の場合には1×1010、およびICPイオン源の場合には1×1011である。
【0059】
本発明の目的は、質量分光分析のアクセプタンスおよび空間電荷スループットを向上させることである。この目的は、様々な幅広いオーバーラッピング周期性軌道からイオンを検出するように分析器および検出器を配置することによって、ならびにマルチプレットと呼ばれる反射の変数に由来する信号から質量スペクトルを回収する方法を提供することによって達成される。
【0060】
マルチプレットを用いるオープンE−トラップ
本発明のオープン静電トラップは、図15中下方に示されるように、多種多様な分析器トポロジー、およびイオンミラー、静電セクタ、無電場空間、そらせ板などの様々なタイプの分析器サブユニットを用いて形成され得る。明確化のために、説明の核心は、平面多重反射分析器の一例を用いてオープントラップ方法およびオープントラップ装置を教示することにする。
【0061】
図3を参照すると、本発明のオープン静電トラップ(E−トラップ)質量分析計の好ましい一実施形態31は、パルスイオン源32と、復号手段37を有する高速応答検出器33と、ドリフト空間34によって隔てられた一対の平面グリッドレスイオンミラー35とを備える。適宜、好ましい実施形態は、パルス源32と検出器33の間にフォーカシング手段および誘導手段38を備える。適宜、好ましい実施形態は、イオン源32と検出器33の間に経路内に単一の長焦点レンズ39を備える。
【0062】
動作時、本発明の一般的な方法を例示するために、イオンミラーは、従来技術のMR−TOFと同様に配置される。2つの平面グリッドレスイオンミラーは、平行に並べられ、無電場領域によって間隔を置いて配置される。ミラーは、対称のX軸、Y軸およびZ軸に対して対称的に設定される。各ミラーは、長方形の形状の窓を有し、実質的に2次元の静電場を形成するようにZ方向に実質的に細長い少なくとも4つの電極で構成される。好ましくは、各ミラーは、引力レンズ(attracting lens)を備える。従来技術と同様に、イオンミラーにおける場は、Y方向に空間的なイオンフォーカシング、およびX方向にイオンエネルギー、Y方向に空間および角度のビーム発散に関連した等時性特性、ならびにテイラー展開の少なくとも二次に対してクロスターム収差の補償、そして少なくとも三次に対して時間−エネルギーフォーカシングを与えるように調整される。
【0063】
イオンパケット32’は、X軸に対して平均角度でパルス源32からドリフト空間34に入射させられ、X−Y中部平面内にある特性軌道36、36’および36”によって示される糸鋸状の軌道に従うパルス状である。いくつかの反射の後、イオンは、高速応答(TOFタイプ)検出器33、典型的にはマイクロチャネルプレート(MCP)または二次電子増倍管(SEM)に達する。パルス源32は、対称のZ軸で中間時間フォーカシングを与えるように配置され、イオンが対称のZ軸を横切る度に、ミラー35は、時間フォーカシングを与えるように回転させられるようになっている。シフティング検出器の無電場空間内のどこでもX=XDであるX−Z平面が実行可能であり、一方、方法または装置には何らの追加の制限を及ぼさないことに留意されたい。この源の発射度dZ* dα、すなわち初期空間dZおよび角度dαの広がりの積は、パルス源32と検出器33の間のイオンの反射回数Nの不確実性ΔNをもたらすのに十分大きい。イオン源の想定される大きい発射度は、パルス源32のZサイズ、ならびにイオン入射ベクトル36、36’および36”を示すアイコン39によってやはり例示される。結果として、イオンは、平均反射回数Nを有すると共に、ΔNスパン、すなわち反射回数の広がりを有する軌道に従う。全ての可能な軌道は、ここでは4回、5回および6回の反射からなる反射の整数のシーケンスを構成することが明らかであるが、この図は、4回および6回のミラー反射を有する典型の軌道36、36’および36”を示す。分析器は、任意の特定の回数の反射を分け隔てない。任意の単一イオン種は、任意のm/zイオン種ごとにピークのΔNの数字を含むマルチプレット信号を生じさせる。単一イオンm/z種ごとのそのようなピークの集合は、「マルチプレット」と名付けられている。N回のイオン反射のあるイオン軌道に沿った全てのイオン種の飛行時間は、TOF=Ts+NTとして示すことができ、ただし、Tsは、イオン源から中間フォーカシング平面32’までの飛行時間であり、Tは、単一反射ごとの飛行時間である。明らかに、様々な軌道からの信号は、反射の整数の集合(マルチプレット)をもたらし、後述する通り、一定数の反射に対応する周波数スペクトルまたは飛行時間スペクトルを復元するように潜在的にデコードでき、次いで質量スペクトルとして較正することができる。マルチプレット内のピークの個数ΔNは、例えば、源32のパラメータの調整、またはレンズ39の焦点合わせによって制御することができる。
【0064】
反復信号を分析するあるよく説明された手法は、フーリエ変換を用いる。しかし、直線フォワードフーリエ解析は、低精度をもたらし、周波数スペクトルにより高い高調波を発生させることになる。
【0065】
図4に参照すると、本発明のある典型のスペクトルデコーディングの方策は、モデル計算を用いて表される。図4A中の表は、(列に)40、44および50μ秒に等しい単一反射ごとの3つの典型の飛行時間T、および(行に)20回から25回の反射回数Nに対応するモデル飛行時間TOF=T*Nを示す。TOF値を有するピークリストは、生のマルチプレットスペクトルを表す。Nに対するTの関数としての飛行時間TOFは、図4B中のグラフにやはりプロットされる。
【0066】
図4Cを参照すると、典型のデコーディングマトリックスが表されている。セルは、(行にある)全てのスペクトルのTOF値に相当する1回の反射ごとの飛行時間のtの仮定、および(列にある)反射の推測数Nに対応する。一致しているtの仮定を集めることによって、t=40、44および50は、表に6回登場するとともに、他の仮定は、1回のヒットを得ることが分かる。これによって誤った仮定を取り除くことを可能にする。TOF=880、1000および1100μ秒は、2回のヒットを得るが、マルチプレットにおける予期されるΔN(ここでは6)より少ないヒットを得ることにも留意されたい。これにより重複するピーク、すなわち様々なTに関連するTOF値を取り除くことを可能にする。追加のフィルタリングは、マルチプレット内の強度および中心の分布を分析することによって助けることができる(グループの有効性のステップ)。
【0067】
典型の計算を一般化すると、本発明のあるスペクトルデコーディングアルゴリズムは、(a)基準試料を入射し、マルチプレット内の強度分布I(N)を較正するステップと、(b)分析された試料について、マルチプレットを有する生(符号化された)スペクトルを記録するステップと、(c)生スペクトルのピークを検出し、スペクトルの中心TOF、強度I、およびピーク幅dTに関するデータを有するピークリストを構成するステップと、(d)行にある生ピークのTOF値、および列にある反射Nの推測数に対応する単一反射ごとの候補の飛行時間t=TOF/Nのマトリックスを構築するステップと、(e)複数のヒットに対応する見込みのあるtを選び、対応するTOF値、すなわち仮定マルチプレットのグループを集めるステップと、(f)仮定マルチプレット内のTOFおよび強度I(N)の分布を分析することによってグループ内のピークの有効性を検証するステップと、(g)グループ同士の間のTOFの重なりを確認し、最も単純なアルゴリズムにおいて重複するピークを廃棄するステップと、(g)このグループの有効なピークを用いてT(正規化飛行時間)および強度I(T)の正しい仮定を復元するステップと、(h)予期される強度I(T)を復元するために廃棄された位置の個数を明らかにするステップとを含む。
【0068】
明らかに、上記の典型のアルゴリズムは、多くのやり方で、すなわち、異常に幅広い、異常に変位した、または異常に強力なピークを分析し、部分的に分解された重複するピークの逆重畳積分を用い、確率的にグループを処理するなどによって修正することができる。この原理のポイントは、(a)質量スペクトルを復元するための情報が存在し、(b)デコーディングアルゴリズムが、生マルチプレットスペクトル中の相対ピークも固体数が比較的小さく、デコーディングについての評価される上限が30〜50%である限りうまくいくことである。
【0069】
好ましくは、非一定のイオン軌道を考えると、検出器は、従来のTOF MSに対して改良される。図5Aを参照すると、E−トラップの感度を高めるために、本発明のE−トラップ質量分析計の好ましい一実施形態は、単一のイオン反射ごとの平均イオンシフトZ1より長い検出器を備える。好ましくは、検出器は、E−トラップ分析器のX−Z対称軸上に配置される。好ましくは、検出器は、両側からもたらされるイオンを検出するように両面性である。
【0070】
図5Bを参照すると、ある特定の検出器は、コレクタの両側に2セットの山形模様に構成されたマイクロチャネルプレート(MCP)を備える。代替として、二次電子を収集する側面検出器を備える検出器は、イオン−電子変換表面を含む。変換器は、単一振動ごとにイオンパケットの一部を収集するために一部透明であってもよい。そのような手法は、高速(数ナノ秒)TOF検出器のダイナミックレンジを拡大するのに役立つ。
【0071】
動作時、イオンパケットの適度な角度発散にも関わらず、到着イオンの軌道は、検出器の近くでほとんど平行とみなされてもよい。イオンは、両側から検出器または変換器にぶつかることができる。パルス源およびE−トラップの適切なチューニングを仮定することによって、イオンパケットは、Z軸で焦点合わせされる飛行時間である。MR−TOF技法は、いくつかのクロスターム収差が、1回転おきに補償されることが知られている。次いで、検出器の一面は、より高い分解能でスペクトルを与えていることになり、このことはスペクトルデコーディングで考えられるべきである。
【0072】
例示は、(a)イオンが検出器の周辺部で失われる、および(b)検出器の有限の厚さが、表面位置と時間−焦点面の不整合を引き起こすという、検出の2つの問題を強調する。典型の計算では、検出器の厚さ=3mmおよびイオンのエネルギーの広がり=3%である。焦点面と検出器平面の間の不整合は、約0.1mmのイオンパケットの広がりを引き起こすことになる。E−トラップにおける典型的な20mの飛行経路の場合、これは、時間分解能を200,000に制限し、質量分解能を100,000に制限する。より高い分解能については、そのような時間の広がりを補償することが好ましい。
【0073】
図5Cを参照すると、平面不整合の問題は、検出器または変換器の前でイオンビーム減速器53を用いることによって解決することができる。一例として、20%のエネルギーが低下する長さ30mmの減速は、有効飛行経路を3mmだけ長くし、このことは検出器の厚さを補償するのに十分である。不整合は、薄板の変換器を用いる場合に低減することもできる。検出器の周辺部でのイオン損失を避けるために、イオン源と検出器の間の経路内のフォーカシングまたは誘導手段52が示唆される。特に示した例は、さもなければ検出器の周辺部をヒットすることになるイオンを変位させる偏向セットを示す。代替として、長焦点レンズは、Z1の幅を有し、すなわち単一の周期変位に等しい。そのようなレンズは、検出器の上流に数周期、位置する。長焦点レンズは、飛行時間分解能に対する効果が小さいが、小さい検出器を用いることを可能にし、周辺部でのイオン損失を減少させる。イオンは、反射回数のいくらかの広がりΔNを伴ってレンズに到達することが予期され、すなわち弱いレンズは、信号記録に関するマルチプレットの原理に悪影響を及ぼさないことに留意されたい。
【0074】
直交加速器を用いるオープンE−トラップ
図6Aを参照すると、E−トラップ質量分析計の好ましい一実施形態61は、単一のイオン反射ごとの平均イオン変位Z1より長い長さZsを有する細長いパルス変換器を備える。ある特定のパルス変換器は、直交加速器であり、直交加速器は、静電加速段65と、パルス発生器67に接続された一対の電極63および64とを備える。
【0075】
動作時、連続または準連続イオンビームが、Z軸にほぼ沿って供給される。このビームは、電位UZまで加速される。ビームが、平行電極63および64の間の間隙を満たすと、抽出パルスが印加されて、イオンを直角に(すなわちX方向に)電極64のメッシュまたはスリットを通じて加速する。静電加速段65を通過した後、イオンは、電位Uxによって加速される。イオン軌道66は、傾斜角度α=√(UZ/Ux)で傾斜させられ、すなわち傾斜角度は、例えば、後のイオンパケットが加速器を通り過ぎて誘導されている状態で、連続イオンビームのエネルギーを変えることによって、またはZ軸に対して直交加速器を傾斜させることによって調整することができる。そのような組み合わせは、イオンパケットの時間の広がりに対する傾斜および誘導の効果の相互補償を実現する。
【0076】
直交加速器のデューティサイクル、すなわち連続イオンビーム62からイオンパケットへの変換効率は、加速器の長さs、イオンのエネルギーUZ、およびパルス周期TSに依存する。従来技術のMR−TOFでは、長さ10mmの加速器のデューティサイクルは、1%未満である。本発明では、加速器の長さは、デューティサイクルの比例増加に伴って少なくとも5〜10倍長いものであり得る。
【0077】
源の伸びは、源と検出器の間のZ距離の変化をもたらし、したがって反射回数Nの追加の広がりΔNを引き起こす(すなわち、そのままでマルチプレットを形成する)。しかし、マルチプレットのそのような追加の広がりは、検出器が(イオンパケットの角度の広がりにより)幅広いマルチプレットをすでに記録しているので、もはや障害ではなく、源の伸びによるマルチプレット分布の追加の広がりは、オープン静電トラップ動作原理に悪影響を及ぼさないが、それは、パルス源の効率の向上および空間電荷容量の改善、空間中のイオンパケットの広がり、およびしたがって分析器の空間電荷容量の増加などの複数の利点を得、強い信号をマルチプレットに分割することにより、検出器のダイナミックレンジを改善するようになっている。
【0078】
同時係属の出願「Ion Trap Mass Spectrometer」に記載されるように、直交加速器は、RFイオンガイドのRF場、または静電イオンガイドの周期的静電フォーカシングによって、加速器内のZ方向およびY方向の空間横断イオン閉じ込めを使用してもよい。好ましくは、横断閉じ込め場は、イオン直交加速前にスイッチオフされる。横断イオン閉じ込めは、連続イオンビームの発散または空間の広がりを追加することなく加速器のZ長さの拡大を可能にする。横断イオン閉じ込めは、Z方向のイオンのエネルギーの減少、およびこれによる加速器のデューティサイクルの改善も可能にする。
【0079】
図7を参照すると、パルスイオン源72とイオン軌道の間の空間的干渉を避けるために、パルス源72は、Y方向に変位させられ、イオンパケット中部平面X−Z(すなわち、図面中の対称軸X)に戻すために2セットの偏向板73および74を備える。パルス状そらせ板は、最も重いイオン種がそらせ板74を通過するまであり続ける。イオンは、傾斜した軌道76’に従うようにそらせ板73によって誘導され、次いで軌道76に従うようにそらせ板74によってパルス的に誘導されて戻される。最も軽いイオン種は、ミラー75によって反射することができ、極めて早期にそらせ板74に戻り到着する。(80:1を超える)十分なm/zの範囲を確実にするために、イオン経路76’は、単一のイオン反射ごとの経路より8〜10倍短くてもよく、例えば、長さ1mの分析器については、経路76’は、10〜12cmの範囲に留まるべきである。次いで、軌道77は、15mmのY変位を与えるために約8〜10度だけ傾けさせられるべきである。そのようなダブル誘導の時間歪みは、一次まで補償され、dY=1mmのビーム径の場合、ビームの空間の広がりは0.01mmと評価され、このことは20mの飛行経路で1×106まで計器の分解能を制限することにならない。
【0080】
図6Bを参照すると、代替として、加速器と反射したイオンパケットの干渉を避けるために、加速器67は、角度
【数1】
でZ軸に対して傾斜させられ、第1のイオンの反射後、パケットは、角度
【数2】
のためにそらせ板によって誘導される。等しい角度傾斜および誘導は、時間歪みを相互に補う。(破線によって示される)タイムフロントは、Z軸に平行に並べられることになると理解できる。結果として生じる軌道角度は、
【数3】
になり、ただし、αは、加速器の軸α=√(Ez/Ex)に対するイオンパケットの傾斜角度である。好ましくは、そらせ板68の中板は、空間フォーカシングの強さを調整するようにバイアスされる。従来の傾斜していない直交加速器に比べて、図6Bの配置は、E−トラップのイオン軌道の小さい傾斜角度を維持しつつ、加速器に利用できる空間を拡大しない。この配置は、イオン発散角度Δα=ΔEz/2α*Exが、加速器を過ぎた所でより大きい軸方向エネルギーEzおよび対応するより大きい傾斜角度α=√(Ez/Ex)で低下するので、連続イオンビームの軸方向のエネルギーの広がりによって引き起こされるZ方向のイオンパケットの角度発散も減少させる。だが、図7の構成に比べて、図6Bの構成は、加速器のZ長さを制限するが、質量範囲および加速器67のパルス発信周波数にいずれの制限ももたらさない。
【0081】
頻繁なパルス発信を用いるオープンE−トラップ
好ましくは、この源は、最も重いイオン種の飛行時間に対してよりずっと短いパルス周期で動作させられる。パルス周波数を高めることによって、パルス変換器の効率(デューティサイクル)、変換器およびオープンE−トラップ分析器の空間電荷容量、検出器のダイナミックレンジ、ならびにオープンE−トラップの応答速度を比例して増大させることになる。しかし、そのような頻繁なソースパルス発信は、生スペクトルのより高い複雑さをもたらす。単一のマルチプレットスペクトルは、所定の時間内にシフトされることになり、生スペクトルは、時間シフトしたマルチプレットの合計を含む。明確化のために、高速パルス発信およびマルチプレット形成の効果を分けさせていただきたい。
【0082】
図8Aを参照すると、頻繁な開始パルス発信の原理が、従来の飛行時間(TOF)質量分析計の場合について例示されている。左のセットのグラフ81〜83は、波形取得がデータ取得(DAS)パルス82によって引き起こされるごとに、単一の開始パルス81に対応する。次いで、TOF信号83は、m/z成分ごとに1つのピークを有することになる。マルチ開始TOFの場合は、右のセットのグラフ84〜86によって示されており、そこにはダイアグラム84中に8つの開始信号がただ1つの波形取得85ごとに印加される。各開始信号は、イオンをTOF分析計に入射し、8つの対応するピークが、TOFスペクトル86に登場する。図示の時間周期の周期的反復のため、後の2つの信号は、開始およびピークの番号によって例示されている次の周期に登場する。複数の周期の合計後、典型の合計したスペクトル86は、スペクトルの初めにピーク#7および#8を有する。
【0083】
図8Bを参照すると、スペクトル図およびピークのタイミングが、頻繁なソースパルス発信を用いるオープンE−トラップの場合について示されている。明確化のために、マルチプレットおよび頻繁なパルス発信の効果は分けられており、3つの仮定スペクトルが、TOFスペクトル87、頻繁な開始パルス88を用いるTOFスペクトル、およびマルチプレットを用いるE−トラップスペクトル89の場合を例示する。全てのスペクトルにおいて、これらのピークは、2つのm/z成分を区別するために実線および破線によってコード化されている。TOFスペクトル87では、飛行経路は一定であり、すなわち反射回数は一定(N=一定)である。飛行時間は、TOF=N*T(m/z)として定義され、ただし、N=一定、およびTは単一反射ごとのm/z依存性飛行時間である。頻繁なソースパルス発信の場合、TOFスペクトル88は、飛行時間TOF=N*T(m/z)+ΔT*sで複数のピークを含み、ただし、N=一定、ΔT=開始パルス同士の間の間隔であり、sは、0から5まで変わるパルス列のパルス番号である。E−トラップスペクトル89では、各質量成分は、6つのピーク、すなわちΔN=6で形成される典型のマルチプレットによって示される。m/z独立性のマルチプレットシリーズ内の強度分布が示される。飛行時間は、TOF=N*T(mz)として定義され、ただし、Nは20から25まで変化する。
【0084】
頻繁なパルス発信を用いるオープンE−トラップでは、ピークの多様性が、マルチプレット形成と高速パルス発信の両方によってもたらされる。グラフ90は、TOF=N*T(m/z)+ΔT*sとして説明される反射回数Nに対する飛行時間を示しており、ただし、Nは20から25まで変化し、2つのm/z成分についてT=44μ秒(実線および暗いダイヤ)およびT=50μ秒(破線および明るい正方形)、ΔT=100μ秒、およびsは0から5まで変化する。グラフ90では、2つのm/z成分は、異なる傾斜角を有するスポットパターンを形成する。結果として、ピークの重なりは、いくつかのランダムな飛行時間で起こり得るが、他の飛行時間で避けられることになる。したがって、そのようなスペクトルは、両質量成分についてのTに関する情報を抽出するようにコードすることができる。
【0085】
高速パルス発信は、従来技術のTOF MSにおいて知られている。従来技術に比べての本発明のコーディング/デコーディング法の違いを示させていただく。アダマール変換を用いるTOF MSの米国特許第6,300,626号(参照により本明細書に組み込まれる)では、パルスイオン源は、疑似ランダムシーケンスで、高い繰り返し率で動作させられる。この方法は、バイナリコード化した省略と共に、規則的なシーケンスの開始パルスを用い、したがって形成された重なったスペクトルが、知られているパルスシーケンスに関する情報を用いて再構成される。この方法は、誤った位置に出現するピークの自動的な(数学的に定義される)減算を用いる。ピーク強度は、必然的に終始変動するので、減算は、追加のノイズを発生させることになる。アダマールTOF MSとは対照的に、本発明の方法は、重複するピークが廃棄されないので、追加のノイズを発生させない。WO2008,087,389(参照により本明細書に組み込まれる)では、TOF分析器における最も重いイオン種の飛行時間より速く直交加速器にパルスを流し、開始パルス間の周期に対応する短いスペクトルを記録することが示唆されている。重複するピークを見つけるために、パルス周期は、設定間で変化させられる。パルス周波数の加速は、シフト数の比例増加を必要とする。WO2008,087,389とは対照的に、本発明では、周波数変動の必要はない。また、開始パルス列に対応する長いスペクトルの記録は、スペクトルデコーディングを改善する。
【0086】
マルチプレットと頻繁なパルス発信の組み合わせは、90のようによりずっと複雑な生スペクトルをもたらすが、MS分析の多重強化を可能にする。
(1)直交加速器の伸びと高速パルス発信は共に、デューティサイクル、E−トラップのダイナミックレンジ、E−トラップの空間電荷容量、および検出器のダイナミックレンジを向上させ、全ては、利得係数G=ΔN*sに比例しており、すなわちピーク数の乗算に比例している。
(2)オープンE−トラップは、イオンパケットのより幅広い角度発散を受け入れ、このやり方は、係数ΔNに比例してパルス変換器の効率を改善する。
(3)オープンE−トラップは、周期的レンズを用いず、従来技術のMR−TOFに比べて飛行時間の逸脱を向上させ、この利点は、飛行経路の削減、およびしたがってより速いパルス発信およびより高い感度に変換され得る。
(4)頻繁なパルス発信の使用によって、E−トラップ応答時間を促進し、このことはMS−MSまたはIMS−MSのためにE−トラップを用いるときに有利である。
(5)マルチプレットの形成は、開始時間の正確なデコーディングを可能にし、この利点は、後述の時間変化イオン源を用いるMS分析に用いることができる。
【0087】
この方法には目に見える2つの欠点がある。
(1)追加のスペクトルデコーディングステップは、質量分光分析を遅くし得る。
(2)コーディングおよびデコーディングは、分析される混合物の複雑さまたは分析のダイナミックレンジを制限し得る
遅いスペクトルデコーディングは、数千(multiple thousand)のファクタによって大量の計算を加速することができる(ビデオボードのような)マルチコア計算ボードによって解決することができる。好ましくは、そのようなマルチコア処理は、データ取得ボードに組み込まれ、バス転送速度に対する要求を緩くし、より速いスペクトル取得を可能にすることになる。第2の制約は、モデルのシミュレーションで評価されており、これは、生E−トラップスペクトルが、ピークオーバーラッピングの程度(生スペクトルの固体数)が約30%未満となるまでデコードすることができることを示している。E−トラップ直交加速器のデューティサイクルを完全にリカバーするために、感度利得G=ΔN*sは、約30であるべきです。したがって、(マルチプレットおよび高速パルス発信前の)この程度の質量スペクトルの複雑さは、質量スペクトル復元を可能にするように1%未満に留まるべきである。
【0088】
実際には、質量スペクトルの複雑さの1%制限は、膨大な数の化学的背景のピークのために、例えばLC−MS分析に影響し得る。しかし、予期される100,000分解能レベルは、主要ピークに対して約1×10-5レベルで生じる化学的ノイズが知られている。したがって、提案したコーディングデコーディング法は、Orbitrapまたは高分解能LC−TOFにおけるものに対応し得る1×105ダイナミックレンジを可能にし得る。これらの計器に比べて、E−トラップは、例えば、迅速なスペクトル取得のために利用できる感度と速度のより良い組み合わせを与えるために評価される。さらに、FAIMS、イオン移動度−質量相関フィルタリング、多価イオンを取得するための単一の電荷抑制、熱およびイオン貯蔵などによる化学的ノイズクラスタの分解などの化学的ノイズ抑制でオープンE−トラップ分析を補うことが望ましい。オープンE−トラップ分析と、オープンE−トラップにおいてエンコード化スペクトルの複雑さを共に減少させる事前のイオン分離、またはイオン流圧縮に関する後述の方法との組み合わせがやはり望ましい。
【0089】
質量スペクトルの複雑さの1%の制限は、(a)元素分析、(b)GC−MSを用いる環境解析、(c)MSまたはIMSが第1段セパレータ、およびオープンE−トラップが第2段MSであるタンデム質量分析のような質量スペクトル分析に影響を及ぼすことが予期されない。
【0090】
複数のステージが、例えば、(a)2つの設定の間でパルス源の周波数を交互にし、2つの独立したセットのデータを取得し、(b)傾斜角度αを調整し、このやり方によりマルチプレット内の反射回数のスパンΔNを調整し、データの2つの設定を取得し、(c)1つの検出器が、マルチプレット形成を最小にするまたは避けるために著しくより小さいZ距離で位置する、2つの検出器の間でイオンパケットを分割し、(d)短いZ距離で、イオン−電子変換表面上へのイオンの一部をサンプリングし、(e)後述のストラテジが、事前のイオン分離または時間圧縮を用いるストラテジによって、デコーディングステップを高めるのに使用され得る。
【0091】
上流イオン流圧縮の使用
図9を参照すると、E−トラップ質量分析計の実施形態の一グループは、準連続イオン流93を発生させる変調素子92と、直交加速器94と、一対の平面グリッドレスイオンミラー95と、補助検出器99と、主検出器97と、スペクトルデコーディング手段98とを備える。
【0092】
特定の一実施形態では、時間変調素子92は、イオン貯蔵およびパルス状放出を用いる気体高周波(RF)イオンガイドを備える。代替として、変調素子92は、軸方向直流場または進行波によってガイド内の軸方向速度を制御するために補助電極を有する気体RFイオンガイドを備える。さらに代替として、素子92は、RF障壁によって質量依存性イオン放出を用いて、幅広いスパンのイオンm/zについてイオン到達時間をOA94に縮める。
【0093】
動作時、変調素子は、入射連続イオン流(図示せず)を、変調周期をより短い時区間を用いる準連続イオン流93に変換する。イオンは、直交加速器94に入り、鋸状の軌道96に従うように高い繰り返し率でイオンミラー95同士の間で入射されることになる。加速器は、開始パルス列によって駆動される。この列の継続期間は、加速器内の準連続バーストの継続期間に対応する。個々の開始パルス同士の間の周期は、直交加速器のほぼ単位デューティサイクルを与えるのに十分短く調整される。この列における開始パルスの個数が小さいほど、バーストがより小さくなる。最終的に、従来のMR−TOFに比べて直交加速器の拡大したZ長さを説明すると、ほぼ単位デューティサイクルは、単一の開始パルスを用いて得ることができる。この方法は、頻繁なパルス発信によりイオンピークの個数を減少させつつ、オープンE−トラップの感度を改善する。
【0094】
一実施形態では、加速器内の準連続流を圧縮するために、イオンm/zの逆シーケンスでイオンを放出するように変調器が配置される。そのような変調器は、DC推進によって反対される質量依存性RF障壁、またはRFイオントラップ内の質量依存性共鳴励起を用いるDC障壁を用いてもよく、両者は、MS場として知られている。変調器から加速器までの送達時間は、イオンm/zの平方根に比例するので、この方法は、幅広いm/zスパンのイオンをZを拡大した加速器に同時に送達することを可能にする。次いで、単一の開始パルスは、E−トラップにイオンを入射することができ、E−トラップは、加速器のほぼ単位デューティサイクルに到達しつつ、エンコード化スペクトル複雑さおよび重複するピークの個数を減少させる。
【0095】
適宜、補助検出器99は、マルチプレットおよび隣り合う入射パルスによる重なりを防ぐのに十分近い位置でイオンパケットのごく一部をサンプリングする。主検出器は、スペクトル分解能を改善するために、直交加速器からずっともっと遠くに配置され、幅広く広がったマルチプレットに対応する、多重時間シフトパルスからのイオンパケットを受け取る。補助検出器99からの信号は、主信号のデコーディングを助けるために使用される。
【0096】
上流時間分離装置(UPSTREAM TIME SEPARATING DEVICES)の使用
図10Aを参照すると、E−トラップの実施形態101の一グループは、イオントラップ102と、第1の分離装置103と、直交加速器104と、平面イオンミラーを有する静電E−トラップ分析器105と、適宜の時間ゲート106と、主検出器107と、復号手段108と、適宜の補助検出器109とを備える。装置103は、1〜10m秒周期の範囲内でイオンを連続的に放出し、m/zに従って、またはm/z値と相関するイオン移動度に従ってイオンをグループ化するようにイオン流を分離する。
【0097】
代替の実施形態では、事前分離装置103は、リスト、すなわち、(i)イオン移動度に従ってイオンパケットを分けるイオン移動度分析計(IMS)、(ii)分離時間を数ミリ秒まで延ばすために、真空RFイオンガイド内に配置され、低い(数十eV)のイオンのエネルギーで動作するリニアTOF質量分析計、(iii)静電遅延電圧と反対の移動高周波を用いるイオンRFチャンネル、(iv)質量選択イオン放出を用いるRFイオントラップのうちの一セパレータを備える。全ての実施形態において、第1の分離装置は、おおよそイオンのm/zの程度でイオンの時間シーケンスを発生させる。数十の分解能は、後述の方法には十分であり得る。
【0098】
動作時、イオンは、m/z値またはイオン移動度値に従って時間シーケンスで直交加速器104に入る。いつでも、狭い質量または移動度分率のイオンだけが、ミラー105の間に入射されることになる。加速器は、高い周波数で動作させられ、幅広いマルチプレットが、主検出器107で記録される。データは、分離装置103における分離周期全体に対応する長いスペクトルの形態で記録される。好ましくは、複数の長い波形が合計される。好ましくは、イオンパケットの一部は、検出器107での主信号のデコーディングを助けるためにピークが重なることなく補助検出器109で記録される。
【0099】
図10Bを参照すると、分離装置103の全長に対応する長いスペクトルが、取得される。結果として、かなり異なる質量の種同士の間の重なりは回避される。このデータデコーディングは、分離装置103の開始時間に関する情報を用いるべきである。時間分離を用いる場合、分離周期の始めからの合計ピーク時間は、TOF=T(m/z)*N+T0(m/z)であり、ただし、T(m/z)は単一反射ごとのm/z依存性時間、NはE−トラップにおける反射回数、およびT0(m/z)は、分離装置103を通じたイオン通過のm/z依存性時間である。時間分離を用いない場合、T0=0である。式によって示されるグラフ上の2つの場合を比較すると、事前の分離を用いた長いスペクトル中の瞬間的なピークの重なりの程度は、前の分離を用いない他の場合よりずっと少ないことが明らかである。これによって、より良いスペクトルデコーディング、またはパルス周波数のより大きい利得の使用が可能になる。
【0100】
スペクトルデコーディング後、装置103における分離を特徴付けるために用いることができる各特定のm/zの時間分布が現れる。一例として、そのような情報は、全ての種についてのイオン移動度を決定するために得ることができる。迅速な時間分離および迅速な応答のこの特徴は、高速パルス発信のオープンE−トラップを用いた迅速な表面スキャニングおよび短い事象を追跡することを必要とする他の試験のために、タンデムMS、IMS−CID−MSの複数の他の方法に用いることができる。
【0101】
別の特定の実施形態では、適宜の時間ゲート106は、相関イオン移動度−m/zフィルタリングに関連して配置された電荷状態フィルタリングに基づく化学的ノイズフィルタリングに用いられる。この場合、事前の分離装置103は、イオン移動度分析計であり、イオンは、イオン移動度Kに従って時間シーケンスで加速器に到着する。K≒q/σ(ただし、σは、質量mおよび電荷qに依存したイオン断面積である)なので、瞬間移動度分率は、異なる電荷qを有する、異なるm/qのイオンを含む。移動度分率内で、より低い電荷状態は、より低いm/qの値を有する。移動度に相関したより低いm/qを取り除くことによって、例えば、化学的ノイズの大きな塊を構成する個々に帯電したイオンを除去することができる。好ましくは、イオン時間ゲート106は、例えばイオンミラー105による単一反射後の加速器104に接近したところに設けられ、ゲート106へのイオン飛行時間は、開始パルス間の期間より短いようになっている。次いで、時間ゲートは、隣り合う開始パルスからイオンを区別する。そして、主検出器107は、強く抑制された化学的バックグラウンドと共に、プロテオーム解析時のペプチドイオンのような何倍も帯電した分析物のイオンを検出中となる。これによってスペクトルデコーディングを強化し、LC−MS分析のダイナミックレンジを改善することになる。
【0102】
時間依存性イオン源
図11を参照すると、E−トラップの実施形態111の一グループは、分析された試料プレート112の一例によってここでは示されている時間変化イオン源と、空間スキャニング装置113と、高速イオンパケット、パルス状グロー放電、または光パルスのような衝撃粒子のパルス源114とを備える。本実施形態は、平面イオンミラー115、適宜の時間ゲート116、主検出器117、復号手段118、および適宜の補助検出器119を有する静電E−トラップ分析器をさらに備える。空間スキャニングに関する情報および衝撃パルスの時間に関する情報は、復号手段108に供給される。本実施形態は、迅速な表面分析のためにセットアップされる。
【0103】
動作時、イオンは、予め設定された時間シーケンスで発生させられ、E−トラップに入射させられる。イオン化パルス間の周期が、最も重いm/zイオンのE−トラップを通じての飛行よりも実質的に短いことが原理上重要である。長いスペクトルは、完全な表面スキャニング試験ごとに取得される。好ましくは、スペクトルは、データログ記録レジュームに記録され、オンザフライのデータシステムは、信号の中心を決定し、積分を求め、次いで中断またはスペクトル加算をすることなく、データフローをPCのメモリに記録する。E−トラップは、マルチプレット、すなわち単一の開始パルスごとおよび単一イオンのm/z成分ごとの様々なイオン反射回数に対応する信号を形成するようにセットアップされる。マルチプレットのピークは、スペクトルデコーディング段階で抽出され、マルチプレットごとに、開始パルスの正確なタイミングが、(a)マルチプレットのピークの同時発生、(b)マルチプレット内の較正された強度分布、()全ての開始パルスの知られたタイミング、()元素分析の場合、正確なイオン質量の限られた選択に基づいて認識される。
【0104】
別の実施形態では、この方法は、レイヤーバイレイヤー表面分析に用いられ、信号の時間変化は、試料の深さに対応する。さらに、別の実施形態では、この方法は、エアロゾル分析に使用される。単一のエアロゾル粒子は、ランダムに発生するイオン化事象内でイオン化されることが予期される。複数の方法の変形例では、エアロゾルが、高周波場の分極力によって、または局所的に集束された光ビームによって閉じ込められてもよい。イオン化パルスは、所定のシーケンスで配置されてもよく、または粒子散乱光によって引き起こされてもよい。全ての変形例において、マルチプレット信号の測定タイミングに基づいた開始パルスの正確なタイミングの自動決定に関して同じ原理が用いられる。
【0105】
イオントラップ変換器
イオントラップ変換器は、ほぼ1デューティサイクルを与えることが予期される。様々な実施形態は、様々なタイプのトラップ変換器、それらの配列、および様々な方式のイオンパケットの誘導および分割に対応する。
【0106】
図12を参照すると、E−トラップの好ましい一実施形態121は、Z方向に延びた直線イオントラップ変換器123を用いる。変換器は、高周波(RF)信号に接続された窓付きの上部電極T、中間部M、およびパルス電圧に接続された底部電極Bを備える。この実施形態は、上流気体イオンガイド122と、二重そらせ板124と、双極ワイヤ(B−N)のセットまたは多セグメントそらせ板のセットである適宜のスプリッタ125とをさらに備える。E−トラップは、平面イオンミラー127と、主検出器128と、補助検出器129とを備える。イオンの経路を通り抜けさせるために、イオントラップ変換器123は、Y方向に変位させられており、イオンは、パルスを受けたダブルそらせ板124によってE−トラップのX−Z対称平面に戻される。
【0107】
動作時、トラッピングイオンガイド122は、準連続イオン流をトラップ変換器123に通す。イオンは、RF場によって半径方向に閉じ込められ、静電プラグ(図示せず)によってトラップ123の遠くの端部で反発されることになる。好ましくは、漏れ場が、側窓Wを通じて通り抜け、軸方向静電井戸を与える。イオンは、衝突により制動されることになり、約1〜3m秒の時間後に約100Paのガス圧でトラップの中央部内に閉じ込められる。周期的に、中央電極MでのRF信号は、スイッチオフされ、小さな遅延(数百ナノ秒)後、抽出パルスが、側電極NおよびBに印加されて、パケットをX方向に抽出する。中間時間フォーカシングの平面(ここではZ対称軸)では、B−Nスプリッタ125は、イオンパケットを2つの部分126’および126に分割し、それぞれは、X軸に対して小さい傾斜角度で傾斜させられ、補助検出器129および主検出器128にそれぞれ向けられる。検出器129は、マルチプレットを避けるために加速器の近くに設定される。検出器129からの中程度の分解能の信号は、豊富な内容を有するスペクトルを分析し、高分解能主検出器128でのスペクトルデコーディングのためにピークのリストも与えるのに使用される。
【0108】
動作の一モードでは、トラップ123は、0.1Pa未満のガス圧の真空RFトラップである。イオンは、数電子ボルト(eV)のエネルギーでトラップに入射されることになり、トラップ123の遠くの端部で反発手段によって反射されることになる。トラップを満たした後、中央電極MでのRF信号は、スイッチオフされ、抽出パルスが、側電極TおよびBに印加される。抽出されたイオンパケットは、Z方向に沿って小さいエネルギーを保持し、X方向の静電加速後、パケットは、X軸に対して小さい傾斜角度で傾いて出現する。遠くの端部から反射されたイオンは、Z軸に沿って相対する方向を保持することになることに留意されたい。トラップは、B−Nスプリッタ125を用いなくとも、イオンパケットの2つの分割セット126’および126を必然的に形成する。この動作モードは、気体イオンの制動が数ミリ秒かかる前述のモードに比べてトラップのより速いパルス発信を可能にする。その上、低エネルギー(数eV)のイオンは、真空トラップを通じて伝播でき、従来の直交加速器に比べてデューティサイクルを改善し、より小さい傾斜角度も可能にし、このようしてイオン反射回数、したがってコンパクトな分析器内の分解能を引き上げる。
【0109】
図13を参照すると、別の実施形態131は、イオントラップ変換器132と、誘導手段133と、誘導手段134と、Z方向に細長い2つの平行平面グリッドレスイオンミラー135と、主検出器137と、補助検出器138とを備える。
【0110】
特定の一実施形態132Aでは、トラップ132は、図示されるようにX方向の半径方向イオン放出を伴い、RF電極がY方向に並べられる直線RFイオンガイドを備える。中央電極は、「RF」信号に接続され、一方、外側電極は、供給源139Aのパルス状の「プッシュ」および「プル」電圧に接続される。適宜、本実施形態は、Z方向に多重化されるそのような半径方向放出トラップのアレイを用いる。
【0111】
別の特定の実施形態132Bでは、図示されるように、トラップ132は、単一の軸方向放出トラップまたは軸方向放出トラップの直線アレイである。このアレイは、ほぼX方向に並べられる少なくとも2列のRF電極(例えばEDM技術によってブロックとして作製されることが好ましい)と、直交して並べられた補助電極のセットとを備え、補助電極のセットは、供給源139Bの静的な「トラップ」電位、および切り換え「プッシュ」および「プル」パルスに接続されている。トラップアレイは、Z方向に並べられることが好ましい。トラップアレイがY方向に並べられるのは、あまり好ましくない。
【0112】
動作時、準連続イオン流は、変調手段を有するイオンガイド(共に図示せず)から供給される。イオンは、約100Paのガス圧の半径方向RF場の存在下で制動させられ、F井戸と静電井戸の組み合わせの中に閉じ込められることになる。周期的に、気体の制動のために十分な1〜3m秒おきに、トラップは、X方向に沿ってイオンパケットを放出する。イオン経路を通り抜けるために、イオンは、E−トラップ分析器内のイオンのZドリフトのためにいくらかの傾斜角度を残しつつ、そらせ板133によって誘導され、そらせ板134によって戻すように誘導される。説明されるダブル偏向は、タイムフロントの傾斜を部分的に補償する。代替として、トラップ132は、イオンをZ方向に変位させるために角度αでZ軸に対して傾斜させられ、いくつかのイオン反射のうちのただ1つの後、イオンパケットは、わずかにより小さい角度でそらせ板134によって戻すように誘導させられる。イオントラップ132Aおよび132Bが、適度なZ幅を有するので、この誘導は、イオンパケットの時間の広がりに与える影響は限定的であることが予期される。
【0113】
好ましくは、そらせ板134は、いくつかのイオンの反射に対応する長い焦点距離を有する広い穴の「アインツェル」レンズを備える。補助検出器138によるサンプリングを回避したイオンは、主検出器137に到達することになる。イオンは、反射回数Nの後に到着する。スパンΔNは、初期発散、およびイオンパケットのエネルギーの広がりに依存し、適宜のフォーカシング手段134の調整に応じて変わる。ある特定の動作モードでは、フォーカシング手段134は、マルチプレット内の広がりΔNを最小にするように調整される。別の動作モードでは、分析器の空間電荷容量を増加させるために、フォーカシング手段134は、スペクトル中に少なくとも3〜4のマルチプレットを維持するように調整される。ある動作方法では、フォーカシング手段134は、上記の2つのモードの間で切り換えられ、2セットのスペクトルが、信号デコーディングを助けるために取得される。さらに別の動作方法では、そらせ板133の偏向角度が時間で変化させられ、よい重い質量種のために偏向を減少させ、このようにしてマルチプレット信号間の信号の重なりを減少させるようになっている。
【0114】
オープンE−トラップ幾何形状
オープンE−トラップは、同時係属の出願「Ion Trap Mass Spectrometer(イオントラップ質量分析計)」(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、様々な電極幾何形状、および様々なトポロジーの分析器静電場を用いることができる。図14を参照すると、2次元の静電場を形成するために、電極の部分セットは、実施形態141および144にあるようにイオンミラー、または静電セクタ142および145、あるいは2つの組み合わせ143および146であってもよい。これらの場は、実施形態141〜143について示されるようにZ軸に沿って直線的に延在されてもよく、または実施形態144〜146にあるように円形のZ軸の周りにトロイドに巻かれてもよい。イオンミラーは、反射軸Xに沿ってイオンを閉じ込め、空間フォーカシングにより、Y軸に沿って不定のイオンの閉じ込めを可能にする。このセクタは、曲がった軌道に沿って空間フォーカシングによりX−Y平面内に主要なイオン軌道に沿ってイオンを閉じ込める。静電セクタは、全ての一次飛行時間の逸脱を補償することができ、一方、イオンミラー(セクタとの組み合わせにおいても)は、二次までの全ての逸脱および三次の逸脱の一部を補償することが可能である。
【0115】
より幅広い様々な純粋に2次元のフィールドであり、これはX軸、Y軸またはZ軸のいずれかを円に曲げ、主要なイオン軌道の平面に対して円平面を傾斜させることによって形成できる。そのようなトラップは、通常、円形またはトロイダル電極表面を形成する。上記実施形態141〜146では、純粋に2次元のフィールドは、ドリフトのZ方向にいずれのフィールドも与えず、すなわちイオン速度のZ成分は、不変のままである。したがって、そのようなフィールドは、Z方向の自由なイオンの伝播を可能にし、すなわちトラップをオープンさせる。
【0116】
開示した方法は、完全にトラップする静電トラップ、すなわちオービタルトラップのように3つの方向全てにおいて不定数的にイオンを閉じ込めることに適用可能でもある。イオンの漏れは、半透明のセットのイオン−電子変換表面を用いることによってイオンパケットの一部を排出することによって提案される。そのような表面は、3−Dトラップにおいて等電位線の曲率に従うように曲げられてもよい。
【0117】
説明されたトラップ幾何形状は、多重化、すなわち、同じセットの電極内で複数セットの並んだスリットを作製し、このようにして複数の分析器として動作する複数のトラップ用体積を形成することを可能にする。この多重化は、直線アレイのスリットまたはトロイダルアレイによって形成することができる。多様な分析器が、単一のイオン源またはパルス変換器に接続されてもよい。次いで、同じイオン流の断片または時間スライスが、複数の分析器内で並列に分析され得る。代替として、複数のイオン源またはパルス変換器が、全ての分析器ごとの個々の入射に使用される。これらの複数の源は、分析の応答時間またはスループットを改善するために同様のものであってもよい。一例として、表面分析では、複数箇所が、同時にスキャンされてもよく、複数箇所のグリッドが、予め用意されてもよい。代替として、異なるタイプの源が、補足的情報を得るのに使用される。一例として、チャンネルは、親質量の平行分析、およびイオンフラグメンテーションの複数のチャンネルを調査するのに用いられ得る。チャンネルは、較正の目的などに使用されてもよい。
【0118】
他のタイプのオープントラップ
マルチプレットの記録を用いるオープントラップ分析の一般的な方法は、他のタイプの静電イオントラップに用いられてもよい。一例として、SU19853840525(参照により本明細書に組み込まれる)の超対数場を用いるオービタル飛行時間質量分析計は、螺旋軌道に沿った周期性イオン運動を配置する。イオンパケットは、角度方向に変位し、広がり、それによって所定のイオン経路を配置することを困難にさせる。しかし、イオン経路上でイオン変換表面を使用する場合、イオンは、マルチプレットを形成するように全ての周期ごとに検出できる。別の例では、WO2009001909(参照により本明細書に組み込まれる)の3次元の静電イオントラップは、限られた安定性で一方向にイオン周期運動を与える。トラップを通過した後イオンを検出することによって、マルチプレット信号が形成され得る。同様に、DE102007024858(参照により本明細書に組み込まれる)の3次元の静電トラップでは、イオンは、十分に大きい傾斜角度で入射されてもよく、それによってマルチプレット信号を形成するために一部スパン内で大きいイオン反射回数でトラップを通じたイオン通過を形成する。これらの典型の高い等時性トラップでは、イオンパケットは、イオン振動のより大きい振幅に選択的に励起されてもよく、このようにして、イオンm/zの限られたスパンについて連続的に信号を記録し、これによって信号デコーディングを単純化する。
【0119】
図15を参照すると、マルチプレットの記録を用いるオープントラップ分析の一般的な方法は、磁気トラップ151および高周波イオントラップ152のような他のタイプの非静電イオントラップに用いられ得る。どちらの場合も、イオンは、直交平面X−Y内で等時性イオン振動を受けつつ、トラップを通じてあるZ方向に伝搬する。イオンが、遠くのZ端にある検出器領域に到達すると、イオンは、整数の振動Nに対応する鋭い信号を形成する。軸方向速度VZの自然に発生する広がりは、反射Nの数の広がりをもたらし、したがってマルチプレット信号を引き起こすと考えられる。磁場トラップ151では、イオンは、質量から独立した回転半径を与えるように一定の運動量でのイオン入射によって(例えば、短い加速パルスによって)励起されることが好ましい。RFリニアトラップ152では、イオンは、全てのm/z成分について同じ運動量をやはり与える単一の双極性パルスによってより大きいオービットへ励起されることが好ましい。このことは、RF井戸が1/(m/z)に比例するにも関わらず、より重いイオンをより大きい振幅へ励起するのを助ける。
【0120】
最も好ましい実施形態
静電オープントラップ質量分析計の最も好ましい実施形態は、図14中のような、2つの平行イオンミラーで構築されるトロイダル静電オープントラップ144を備える。好ましくは、イオンミラーは、半径方向偏向電極を備える。トロイダルE−トラップは、パッケージサイズあたりひと際長いドリフト寸法を与える。一例として、コンパクトな直径300mmのE−トラップ分析器は、ほぼ1mの外周を有する。典型的な3度の傾斜角度のイオン軌道、および約700mmのキャップ間距離で、有効飛行経路は、約20mに達する。イオンミラーは、少なくとも三次の時間的な等時性、および少なくとも二次の空間的な等時性に対して、少なくとも4つの電極、および引力レンズを含むことが好ましい。好ましい実施形態は、図9に示されるような上流蓄積イオンガイドと、図6にあるような拡大したZ長さを有し、図7において半径(Y)方向に変位させられる直交加速器61とをさらに備える。好ましくは、加速器は、パルス変換についてほぼ単位デューティサイクルを与えるように、図8に例示されるように高速パルス式である。
【0121】
従来技術のTOF MSに比べて、オープンE−トラップは、(10万を超える)分解能、ほぼ単位デューティサイクル、分析の拡大された空間電荷容量(1×108個までのイオン/秒)、およびTOFタイプ検出器の改善されたダイナミックレンジのより良い組み合わせを実現する。本実施形態は、MSのみ、IMS−MS、およびMS−MS分析によく適している。好ましくない点は、頻繁な開始パルスおよびマルチプレット形成を考えている間の追加のスペクトルデコーディングにある。デコーディングは、好ましくはデータ取得ボードに組み込まれている、マルチコアプロセッサを用いて加速することができる。
【0122】
本発明は、好ましい実施形態を参照して説明されてきたが、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲から逸脱することなく様々な形態および細部の修正がなされ得ることは、当業者には明らかであろう。
〔態様1〕
質量スペクトル分析の方法であって、
(a)等時性イオン振動を与える静電場、高周波場、または磁場にイオンパケットを通過させるステップと、
(b)整数のイオン振動周期(マルチプレット)のスパンに対応する飛行時間スペクトルを記録するステップと、
(c)マルチプレット含有信号から質量スペクトルを再構成するステップと
を含み、
再構成された前記質量スペクトルが、質量スペクトル分析に使用することができる方法。
〔態様2〕
質量スペクトル分析の方法であって、
(a)分析された試料から多重種のイオンパケットを形成するステップと、
(b)少なくとも2つの方向で空間イオントラッピングを行うと共に中央のイオン軌道に沿って等時性イオン運動を与える静電場を配置するステップと、
(c)前記静電場を通じたイオン通過のために前記イオンパケットを入射するステップであって、前記イオンパケットが多重イオン振動を形成できる、前記イオンパケットを入射するステップと、
(d)イオンを検出し、スパンΔN内で整数N個のイオン振動周期について検出器においてイオンパケットの飛行時間(マルチプレット)を測定するステップと、
(e)マルチプレットを含む前記検出された信号から質量スペクトルを再構成するステップと
を含み、
再構成された前記質量スペクトルが、質量スペクトル分析に使用することができる方法。
〔態様3〕
前記静電場が、局所的に直交するZ方向に延在した、X−Y平面内で実質的に2次元の静電場を含み、前記イオン入射が、軸Xに対して傾斜角度αで配置されて、単一イオン振動周期あたり前記Z方向に平均シフトZ1を形成する、態様2に記載の方法。
〔態様4〕
Z方向に空間的なイオンが集束するステップをさらに含み、前記入射ステップで入射されたイオンパケットの角度の広がりおよび空間の広がりを調整するステップをさらに含み、前記Z集束とイオンパケット調整が共に、重なった信号ピークの個数を減少させるためにm/z独立性であり較正試験で決定されるまたはm/z依存性である前記マルチプレット内のスパンおよび強度分布を制御するように構成される、態様2または3に記載の方法。
〔態様5〕
前記方法のパラメータが、(i)1、(ii)2〜3、(iii)3〜5、(iv)5〜10、(v)10〜20、(vi)20〜50、および(vii)100を超える、といった群の1つとして、マルチプレット内のピークの前記スパンΔNを維持するように調整される、態様4に記載の方法。
〔態様6〕
前記検出ステップが、単一振動ごとにイオンパケットの一部をサンプリングするステップを含み、全てのイオンm/z種ごとにマルチプレット信号を発生させ、前記サンプリングされたイオンの部分の値が、マルチプレット内のm/z独立性強度分布を与えるように設定される、態様2から5のいずれかに記載の方法。
〔態様7〕
前記イオン入射ステップのデューティサイクルを高めるために、(i)単一イオン周期ごとの前記平均シフトZ1より長い前記入射されたイオンパケットのZ長さを設定するステップ、(ii)単一イオン周期ごとの前記平均シフトZ1より長い前記検出器または前記変換器のZ長さを設定するステップ、(iii)前記頻繁な入射パルスの列に対応する長い信号を取得しつつ、前記静電場内の最も大きいm/zイオン種の前記飛行時間より短い期間でイオン入射を設定するステップ、(iv)事前のイオン集積装置を用いるステップ、といった群のうち少なくとも1つのステップを含む、態様2から6のいずれかに記載の方法。
〔態様8〕
(i)親イオンの質量電荷の分離およびフラグメンテーションのステップ、(ii)イオンの移動度またはイオンの微分移動度に従うイオン分離、(iii)静電トラップ内のイオン移動度分離、それに続く相関m/zフィルタリングのステップ、および(iv)イオントラッピングおよび生飛行時間分離、それに続く、最も大きいm/zイオン種の前記E−トラップの前記飛行時間より少ない周期でのイオン入射のステップ、といった群のうちのイオンの事前の分離のうちの1つのステップをさらに含む、態様2から7のいずれかに記載の方法。
〔態様9〕
同じセットの電極内で前記静電場の体積を多重化するステップをさらに備え、および、並列および独立した質量分析のために、単一または複数のイオン源からイオンパケットを前記静電場の体積に分配するステップをさらに含む、態様2から8のいずれかに記載の方法。
〔態様10〕
前記イオン入射のステップが、連続または準連続イオンビームからX方向にパルス直交加速するステップを含む、態様2から9のいずれかに記載の方法。
〔態様11〕
前記直交加速するステップが、(i)前記連続イオンビームのエネルギーを調整することによって前記E−トラップのイオン周期数を制御するステップ、(ii)単一イオン周期ごとのシフトZ1に対する前記直交加速器のより大きい長さを設定するステップ、(iii)Y方向に前記直交加速器を変位させ、前記E−トラップのX−Z平面へイオンパケットを戻すステップ、(iv)最も重いイオン種の飛行時間に対する加速パルス間のより短い周期を構成するステップ、(v)イオンおよびパルスを蓄積し、準連続イオン流、それに続く頻繁な加速パルスの列を入射するステップ、ならびに(vi)周期的静電場または高周波場により横方向に前記加速器内で前記イオンビームを閉じ込めるステップ、といった群のうち少なくとも1つのステップによって強化される、態様10に記載の方法。
〔態様12〕
E−トラップにおけるイオン飛行時間に匹敵する時間スケールで変わるパルスイオン源内のイオンパケット形成のステップをさらに含み、前記信号のマルチプレット内の時間パターンによってイオンがパルス発生させる時間を認識するステップをさらに含み、前記イオンパケット形成のステップが、(i)粒子または光のパルスによって分析されたスキャン表面のボンバードメント、(ii)エアロゾル粒子をランダムにイオン化すること、(iii)超高速分離装置の試料出口をイオン化すること、および(iv)迅速に多重化されたイオン源内の試料をイオン化すること、といった群のうちの1つのステップを含む、態様2から8のいずれかに記載の方法。
〔態様13〕
オープン等時性イオントラップにおけるマルチプレットを含むスペクトルをデコードするアルゴリズムであって、
(a)基準スペクトルにおいてマルチプレット内の強度分布I(N)を較正するステップと、
(b)生スペクトルのピークを検出し、スペクトルの中心TOF、強度I、およびピーク幅dTに関するデータを有するピークリストを構成するステップと、
(c)生ピークのTOF値、および反射Nの推測数に対応する単一反射ごとの候補の飛行時間t=TOF/Nのマトリックスを構築するステップと、
(d)複数のヒットに対応する見込みのあるt値を選び、対応するTOF値、すなわち仮定マルチプレットのグループを集めるステップと、
(e)仮定マルチプレット内のTOFおよび強度I(N)の分布を分析することによって前記グループ内のピークの有効性を検証するステップと、
(f)グループ同士の間のTOFの重なりを確認し、重複するピークを廃棄するステップと、
(g)前記グループの有効なピークを用いてT(正規化飛行時間)および強度I(T)の正しい仮定を復元するステップと、
(h)予期される前記強度I(T)を復元するために廃棄された位置の個数を明らかにするステップと
を含むアルゴリズム。
〔態様14〕
マルチプレットスペクトル記録のために検出器を有する等時性オープンイオントラップ質量分析計。
〔態様15〕
オープン静電トラップ質量分析計(E−トラップ)であって、
(a)前記イオンからイオンパケットを形成するためのパルスイオン源またはパルス変換器と、
(b)直交X−Y平面内の実質的に2次元の静電場を形成するためにZ方向に実質的に延ばされた静電トラップ電極のセットと
を備え、
(c)前記トラップ電極の形状、および前記トラップ電極の電位は、周期性イオン振動、および前記X−Y平面内の前記イオンパケットの空間閉じ込め、ならびに中央のイオン軌道に沿った等時性イオン運動を実現するように調整され、
(d)前記パルス源またはパルス変換器が、前記X−Y平面内の多重振動、および単一のイオン振動ごとに前記Z方向に平均シフトZ1を形成しつつ前記静電場を通じたイオン通過のためにX軸に対して傾斜角度αでイオンパケットを入射するように構成され、
(e)あるスパンΔN内で変動する整数Nのイオン振動後にイオンパケットの飛行時間を測定し、したがって任意のm/zイオン種について信号「マルチプレット」を形成する、X=XD平面に位置する検出器と
(f)マルチプレットを含む検出器信号から質量スペクトルを再構成する手段と
をさらに備えるE−トラップ。
〔態様16〕
前記静電トラップ電極のセットが、(i)少なくとも2つの静電イオンミラー、(ii)少なくとも2つの静電セクタ、および(iii)少なくとも1つのイオンミラーおよび少なくとも1つの静電セクタ、といった群の一電極セットを備える、態様15に記載のE−トラップ。
〔態様17〕
前記X軸、Y軸またはZ軸が、全体的に曲がっており、前記軸の湾曲の平面が、前記中央のイオン軌道に対して全体的に傾斜させられ、前記電極セットが、(i)E−トラップの電極同士が平行であり、Z方向に直線的に延ばされる平面対称、および(ii)E−トラップ電極が円形であり、前記場が前記円形Z軸に沿って延びて、トロイダル場体積を形成する円筒形対称、といった群のうちの1つの対称を有する、態様15または16に記載のE−トラップ。
〔態様18〕
前記E−トラップの前記感度が、(i)前記検出器のZ長さが、単一イオン周期ごとの前記平均シフトZ1より大きく設定され、(ii)前記パルス変換器のZ長さが、単一イオン周期ごとの前記平均シフトZ1より大きく設定され、(iii)前記パルス変換器が、最も重いm/zイオン種の前記検出器までの飛行時間より短い期間で通電され、(iv)前記パルス変換器が、蓄積イオンガイドによって先行されている、といった群の少なくとも1つの手段によって改善される、態様14から17のいずれかに記載のE−トラップ。
〔態様19〕
単一イオン周期ごとにイオンパケットの一部をサンプリングするイオン−電子変換器をさらに備え、二次電子が、前記イオン変換器の両側からサンプリングされ、前記変換器が、時間−焦点面を変換器表面の平面と整合させる減速器を備える、態様14から18のいずれかに記載のE−トラップ。
〔態様20〕
前記パルス変換器が直交加速器を備え、前記直交加速器が、中央のイオン軌道のX−Z平面に比べてY方向に変位させられ、前記直交加速器が、(i)パルスイオン抽出用の窓を有する平行版、(ii)実質的に真空の条件で上流気体RFイオンガイドと連通しているRFイオンガイト、(iii)気体状態にある直線RFイオントラップ、(iv)静電イオンガイド、といった群のうちの1つの装置を含む、態様15から19のいずれかに記載のE−トラップ。
〔態様21〕
(i)質量電荷セパレータ、(ii)イオン移動度または微分イオン移動度セパレータ、および(iii)前記イオンセパレータ、それに続くフラグメンテーションセルのいずれか、といった群のうちの少なくとも1つのイオンセパレータをさらに備える、態様14から20のいずれかに記載のE−トラップ。
〔態様22〕
直交加速器の前に、高周波イオントラップと、生飛行時間セパレータまたはイオン移動度セパレータとをさらに備え、頻繁なパルス抽出が、最も重いm/zイオン種の検出器までの前記飛行時間に対してずっと短い期間で配置される、態様14から21に記載のE−トラップ。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15