特許第6223423号(P6223423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223423
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】ベルト及びプーリ型の無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 9/12 20060101AFI20171023BHJP
   F16H 55/49 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   F16H9/12 B
   F16H55/49
【請求項の数】19
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-507413(P2015-507413)
(86)(22)【出願日】2013年4月23日
(65)【公表番号】特表2015-514948(P2015-514948A)
(43)【公表日】2015年5月21日
(86)【国際出願番号】EP2013001216
(87)【国際公開番号】WO2013159910
(87)【国際公開日】20131031
【審査請求日】2016年4月20日
(31)【優先権主張番号】1039559
(32)【優先日】2012年4月23日
(33)【優先権主張国】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ロナルト エデュアルト ヘンリ ファン デル ヘイデ
【審査官】 瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−118535(JP,A)
【文献】 特開2000−130527(JP,A)
【文献】 実開昭60−061556(JP,U)
【文献】 国際公開第2009/136515(WO,A1)
【文献】 特開2005−321090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 9/12
F16H 55/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動ベルト(3)と、2つのプーリ(1,2)とを備える無段変速機であって、各プーリ(1,2)には、前記駆動ベルト(3)の横方向側面(35)と摩擦接触する摺動面(8)を備えた2つのプーリディスク(4,5)が設けられており、前記プーリ(1,2)の前記摺動面(8)と、前記駆動ベルト(3)の前記横方向側面(35)とは、鋼から成っており、当該変速機の作動中に、摩擦接触箇所は潤滑油により冷却されるものにおいて、
前記摺動面(8)の少なくとも1つに、当該変速機の作動中に潤滑油を収容しておくいくつかのくぼみ(11)が設けられており、
少なくとも前記くぼみ(11)の間において、少なくとも1つの前記摺動面(8)は、実質的に平滑な表面であり、且つ0.1マイクロメートル未満のRa表面粗さ値(ISO規格)を有していることを特徴とする、無段変速機。
【請求項2】
前記くぼみ(11)は、前記摺動面(8)の、少なくとも40平方マイクロメートル、最大500平方マイクロメートルの表面積にわたって設けられている、請求項1記載の無段変速機。
【請求項3】
駆動ベルト(3)と、2つのプーリ(1,2)とを備える無段変速機であって、各プーリ(1,2)には、前記駆動ベルト(3)の横方向側面(35)と摩擦接触する摺動面(8)を備えた2つのプーリディスク(4,5)が設けられており、前記プーリ(1,2)の前記摺動面(8)と、前記駆動ベルト(3)の前記横方向側面(35)とは、鋼から成っており、当該変速機の作動中に、摩擦接触箇所は潤滑油により冷却されるものにおいて、
前記摺動面(8)の少なくとも1つに、当該変速機の作動中に潤滑油を収容しておくいくつかの溝(12)と、くぼみ(13)の列とが設けられており、これらの溝(12)と、くぼみ(13)の列とは交互に設けられていて、各プーリディスク(4,5)の半径方向(R)に少なくとも部分的に延びていることを特徴とする、無段変速機。
【請求項4】
前記溝(12)と、前記くぼみ(13)の列とは、専ら前記半径方向(R)にのみ延びている、請求項3記載の無段変速機。
【請求項5】
前記溝(12)と、前記くぼみ(13)の列とは、前記半径方向(R)に対して75度又は75度未満の角度で延びている、請求項3記載の無段変速機。
【請求項6】
前記溝(12)と、前記くぼみ(13)の列と、前記半径方向(R)との間の角度は、前記摺動面(8)にわたり、半径方向外側に向かって増大している、請求項3記載の無段変速機。
【請求項7】
駆動ベルト(3)と、2つのプーリ(1,2)とを備える無段変速機であって、各プーリ(1,2)には、前記駆動ベルト(3)の横方向側面(35)と摩擦接触する摺動面(8)を備えた2つのプーリディスク(4,5)が設けられており、前記プーリ(1,2)の前記摺動面(8)と、前記駆動ベルト(3)の前記横方向側面(35)とは、鋼から成っており、当該変速機の作動中に、摩擦接触箇所は潤滑油により冷却されるものにおいて、
前記摺動面(8)の少なくとも1つに、当該変速機の作動中に潤滑油を収容しておく2組の溝(14,15)が設けられており、各組の該溝(14;15)は、それぞれ互いに平行に方向付けられており、第1の組の該溝(14;15)は、他方の、即ち第2の組の該溝(15;14)と交差しており、
少なくとも前記溝(14,15)の間において、前記少なくとも1つの摺動面(8)は、実質的に平滑な表面であり、且つ0.1マイクロメートル未満のRa表面粗さ値(ISO規格)を有していることを特徴とする、無段変速機。
【請求項8】
前記第1の組の該溝(14;15)は、各プーリディスク(4,5)の周方向(C)に延びており、前記第1の組の該溝(14;15)は、各プーリディスク(4,5)の半径方向(R)に延びている、請求項7記載の無段変速機。
【請求項9】
前記第1の組の該溝(14;15)は、前記第2の組の溝(15;14)との結合部において開始し且つ終了している、請求項7又は8記載の無段変速機。
【請求項10】
前記第1の組の該溝(14;15)は、各プーリディスク(4,5)の全周にわたって延びている、請求項7又は8記載の無段変速機。
【請求項11】
前記第2の組の該溝(15;14)は、前記第1の組の該溝(14;15)との結合部において開始し且つ終了している、請求項7、8、9又は10記載の無段変速機。
【請求項12】
前記第2の組の該溝(15;14)は、各プーリディスク(4,5)の半径方向の寸法全体にわたって延びている、請求項7、8、9又は10記載の無段変速機。
【請求項13】
前記くぼみ(11,13)及び/又は溝(12,14,15)のそれぞれの横方向の寸法は、最大150マイクロメートルであり、好適には10〜75マイクロメートルの範囲の値を有している、請求項1から12までのいずれか1項記載の無段変速機。
【請求項14】
前記くぼみ(11,13)及び/又は溝(12,14,15)のそれぞれの深さは、前記摺動面(8)の包囲部分に対して垂直に測定した場合に、少なくとも3マイクロメートル、最大10マイクロメートルである、請求項1から13までのいずれか1項記載の無段変速機。
【請求項15】
前記くぼみ(11,13)及び/又は前記溝(12,14,15)は、互いに少なくとも20マイクロメートル、最大250マイクロメートル隔てられて、前記摺動面(8)に設けられている、請求項1から14までのいずれか1項記載の無段変速機。
【請求項16】
少なくとも前記くぼみ(13)の間において、前記少なくとも1つの摺動面(8)は、実質的に平滑な表面であり、且つ0.1マイクロメートル未満のRa表面粗さ値(ISO規格)を有している、請求項からまでのいずれか1項記載の無段変速機。
【請求項17】
前記プーリ(1,2)の前記摺動面(8)と、前記駆動ベルト(3)の前記横方向側面(35)とは、55〜65HRCの表面硬さを有している、請求項1から16までのいずれか1項記載の無段変速機。
【請求項18】
前記駆動ベルト(3)は、エンドレスキャリヤ(30)と、多数の横方向セグメント(32)とを有しており、これらの横方向セグメント(32)は、前記エンドレスキャリヤ(30)の周面に沿って滑動可能に取り付けられており、前記横方向セグメント(32)にはそれぞれ、その各側面に、前記プーリディスク(4,5)と摩擦接触するための横方向側面(35)が設けられている、請求項1から17までのいずれか1項記載の無段変速機。
【請求項19】
前記横方向セグメント(32)の前記横方向側面(35)に、交互に設けられた多数の隆起部(36)と溝(37)の形態の成形部(36,37)が設けられており、隣接して配置された一対の隆起部(36)と溝(37)の横方向寸法は、200〜160マイクロメートルの範囲の値を有している、請求項18記載の無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念において規定された無段変速機に関する。
【0002】
このような「ベルト及びプーリ」型の変速機は、当該技術分野において広く知られており、例えばEP0777069B1から公知であり、且つ自動車における機械的な力を、エンジンから所定の負荷部、即ち被動輪へ、連続的に可変の速度比又はトルク比で伝達するために用いられる。このように無段変速機を自動車に適用する場合、変速機の駆動ベルトは、いくつかの横方向セグメントを有していて、これらの横方向セグメントは、環状のキャリヤに取り付けられている。各セグメントのどちらの横方向側面にも、プーリ接触面が設けられており、このプーリ接触面が、変速機のプーリと接触する。更に、各変速機プーリは2つのプーリディスクを有しており、両プーリディスクは、それぞれ駆動ベルト用の円錐形の摺動面を規定しており、これらの円錐形の摺動面は、互いに向かい合っていて、これにより、主としてV字形の周方向の溝を規定しており、この溝に、駆動ベルトが収容される。少なくとも変速機の作動中は、両プーリの2つのプーリディスクは、液圧式に操作されるピストン及びシリンダアセンブリのような作動手段により、互いに向かって移動させられ、これにより、駆動ベルトと、各プーリのプーリディスクとの間の周方向の摩擦によって、プーリ間のトルク伝達が可能になる。
【0003】
プーリと駆動ベルトが摩擦接触することによる過熱を防ぐために、公知の変速機内では冷却液又は潤滑油が循環している。プーリの摺動面は、潤滑油を収容するためのポケットを、比較的低く位置する摺動面部分の形態で有していると同時に、摺動面の表面積の大部分は、より高く位置する摺動面部分の形態で、摩擦接触、即ち耐負荷に関して有効である。よって、このような表面粗さの輪郭は、摩擦接触に関係する表面の結合部、即ちより高い位置の摺動面部分の間に潤滑油が蓄積されることを防止し、延いては、潤滑油が蓄積された場合に生じる恐れのある、プーリと駆動ベルトとの間でのトラクションのロスを防止するものである。
【0004】
変速機による効率的な力伝達のために、プーリと駆動ベルトとの間の摩擦接触において働く摩擦の係数は、好適にはできるだけ高く選択される。更に、変速機の最適な耐久性のためには、プーリと駆動ベルトの摩耗率が、好適にはできるだけ低く選択される。これらの好適な条件、つまり高い摩擦と低い摩耗率とは、実際には互いに矛盾している。むしろ、新たな技術的手段に訴えることなしには、一般に摩擦の増大に有効な技術は、通常、副作用として摩耗をも増大させる。例えば、摩擦を増大させる添加剤が添加された潤滑油は通常、より多くの摩耗をも生ぜしめる。即ち、このような摩擦増大添加剤を含まない類似の潤滑油に対して相対的に、摩耗率を高める。当該技術分野において公知の別の例として、摩擦接触に関係する表面の粗さを増大することにより、一般にはこのような摩擦接触における摩擦(の係数)のみならず、摩耗率も増大することになる。
【0005】
何年にもわたり、ベルト及びプーリ型の無段変速機の設計の技術分野では、駆動ベルトとプーリの摩耗率を不都合に高めることなく、つまり変速機の従来の耐久性を維持しつつ、駆動ベルトとプーリとの間の摩擦を増大させることが全般的な要求であり、その開発を目指してきた。例えばこれに関して、EP0997670A2及びDE102004051360A1には、よく知られている算術平均粗さパラメータ:Raのような、1つ又はそれ以上の表面粗さパラメータ(規格)の所定の値により特徴付けられた、不規則な表面構造を適用することが記載されている。択一的に、JP2005−273866Aに記載のプーリディスク摺動面には、少なくとも実質的に円形の同心的な溝が設けられていると共に、これらの溝の間で、摺動面は平坦化されている。よって、後者の当該刊行物にはある意味、不規則又はランダムな表面粗さの定義よりもむしろ、摺動面の、自己反復(self-repeating)する輪郭又は成形部が記載されている。
【0006】
注意されたいのは、前掲のJP2005−273866Aの公知の表面仕様は、変速機プーリの製造に関して通常適用される製造技術か、又は旋削、ショットピーニング、ラッピング及び研削のような、よく知られた製造技術によって実現される点である。このような手法は、前掲のJP2005−273866A記載の表面仕様を実現する費用を最小限にすることができるが、結果、即ち前記手法によって実現され得る特別な表面仕様の点からみると、限定的でもある。
【0007】
本発明の課題は、ベルト及びプーリ型の無段変速機において、駆動ベルトとの接触箇所における高い摩擦と低い摩耗とが組み合わされた、プーリディスク摺動面のための新たな表面仕様を提供することにある。本発明に基づき、このような表面仕様は以下の独立請求項1、5及び12のいずれか1つの特徴部に記載されている。
【0008】
請求項1に関して注意されたいのは、公知の連続的な溝を設ける代わりに、複数のくぼみを備えたプーリディスク摺動面を設けたことによって、少なくともプーリディスクの周方向に見てより多くの表面積が、駆動ベルトとの摩擦接触のために有効になっている。この特徴は、駆動ベルトの‐特に‐プーリとの接触面の摩耗率を好適に低下させるために見出された。本発明では、前記くぼみはプーリディスクにミクロンスケールで設けられていて、好適にはプーリディスク全体により規定される円錐面において、少なくとも40〜約500平方ミクロンの表面積を占めている。
【0009】
くぼみの3D形状は不安定なものではなく、例えば主に半球状、(切頭)円錐状、円筒状、又は角錐状に形成されていてよい。更に、くぼみは好適には、短く連続して、即ち小さな間隔で設けられることにより、公知の溝の容積に匹敵する容積を備えて設けられている。このような匹敵する容積は、少なくとも駆動ベルトとプーリディスクとの間の摩擦係数に関して慣例の潤滑条件を好適に提供するために見出された。これに関する好適な値は、プーリディスク摺動面において隣り合う2つのくぼみの間の、20〜250ミクロンの隔たりである。更に、くぼみは好適には、3ミクロン〜10ミクロン、好適には約5〜8ミクロンの深さを備えて、即ち、前掲のJP2005−273866A記載の0.5〜2.5ミクロンの公知の溝深さよりも、やや深く設けられている。
【0010】
請求項5に関して述べておくと、少なくとも部分的に、半径方向に延びる溝又はくぼみの列を備えたプーリディスク摺動面を設けることにより、公知の実質的に同心的な、連続した溝の配列に対して相対的に、摩擦係数の顕著な向上が実現された。このような向上は、駆動ベルト横方向セグメントのプーリ接触面に、ベルトの周方向に延びる溝が設けられていて、摺動面の溝又はくぼみ列は、横方向セグメントのプーリ接触面の溝に対して、所定の角度で方向付けられている、という特徴に結びつくと考えられる。直立して、即ち実質的に半径方向に方向付けられた、摺動面の溝及び/又はくぼみ列は、最も高い摩擦係数を提供するために見出されたものであるが、いくつかのケースでは、作動中にプーリディスクが回転すると、潤滑油が、駆動ベルトとの摩擦接触箇所から、このように半径方向に方向付けられた摺動面の溝又はくぼみ列を通って、あまりにも簡単に流出してしまう。よって、摺動面の溝又はくぼみ列は、半径方向に対して所定の角度で延在していることが好適であってよい。好適には、このような角度は75度であるか、又は75度未満である。択一的に、摺動面の溝又はくぼみ列が半径方向に対して延在する角度は、半径方向外側に向かって増大してよく、このような溝又はくぼみ列は、それぞれ円弧形状である。この場合、前記角度は、摺動面の半径方向内側の縁部における僅か0度程度から、摺動面の半径方向外側の縁部における75度又はそれ以上までに増大してよい。よって、摺動面のこのような形状の溝又はくぼみ列は、これによりプーリディスクと駆動ベルトとの間の摩擦係数が、摩擦接触の半径方向位置の高まりに関連して低下させられる、という点において好適であると考えられ、このことは、WO2005/083304に記載されているように、変速機の効率の向上に役立つことができる。
【0011】
本発明では、摺動面の溝のスケール又は幅及びくぼみの直径は、駆動ベルト横方向セグメントのプーリ接触面に設けられた溝の幅よりも、実質的に小さいことが望ましい。これは実際には、このような溝幅又はくぼみ直径が150ミクロン未満であり、少なくともくぼみ直径の場合は、好適には10〜75ミクロンの値を有していることが望ましい、ということを意味する。摺動面の溝又はくぼみ列に関して、特に隣合った2つのこのような溝又はくぼみ列の間の隔たりが小さな場合は、数ミクロンの最小深さで、理論的には十分である。しかしながら、この点において実際には3〜10ミクロンの深さが、製造においてより確実に達成可能である。前記隔たりは、好適には20〜250ミクロンのオーダ内にある。くぼみ列の場合、このような列において続く2つのくぼみの間の隔たりは、少なくとも2の因数であり、好適には隣合う2つのくぼみ列の間の隔たりの3分の1〜5分の1である。
【0012】
請求項12に関して述べておくと、互いに交差する溝、即ち、摺動面上にチェッカーボードパターン又はキーボードパターンのようなクロスハッチパターンで設けられた溝を備えたプーリディスク摺動面を設けることにより、実質的に同心的に配列された公知の連続的な溝に対して相対的に、摩擦係数の顕著な増大が実現された。好適には、第1の組の複数の平行な溝は、少なくとも主に、好適には実質的に、各プーリディスクの半径方向に方向付けられており、第2の組の複数の平行な溝は、少なくとも主に、好適には実質的に、各プーリディスクの周方向に方向付けられている。
【0013】
摩擦の増大は、半径方向に方向付けられた前記第1の組の溝と、周方向の前記第2の組の同心的な溝とによって規定される動作特徴の組み合わせの結果として生ぜしめられる、ということが考えられる。
【0014】
本発明では、摺動面の交差する溝のスケール又は幅は、駆動ベルト横方向セグメントのプーリ接触面の溝の幅よりも実質的に小さいことが望ましい。これは実際には、このような交差する溝の幅が150ミクロン未満であり、好適には25〜100ミクロンの値を有することが望ましい、ということを意味する。特に、第1の組と第2の組の、交差する溝の間の隔たりが小さい場合は、交差している溝について、理論的には数ミクロンの最小深さで十分である。しかしながら、3〜10ミクロンの深さが、製造においてより確実に達成可能である。前記隔たりは、好適には20〜250ミクロンのオーダ内にある。
【0015】
本発明は更に、変速機及び特にプーリディスクの製造プロセスにおける、プロセスステップに関する。このプロセスステップは、プーリディスク摺動面に、上述したくぼみ及び/又は溝を設けるために含まれている。本発明では、前記プロセスステップは、(集束された)マイクロ波又はレーザビームをプーリディスクに局所的に照射して、プーリディスク材料を蒸発させるか、或いはエッチング又は電気化学的な機械加工により、プーリディスクを局所的に化学処理して、プーリディスク材料を溶解させることを必要とする。いずれの場合も、溝及び/又はくぼみを、本発明で要求されるミクロンスケールで形成することができる。
【0016】
本発明では、照射処理に対して化学処理が、プーリディスクの摺動面全体を同時に処理することができる、という利点を有している。
【0017】
エッチングのプロセスステップの場合は、プーリディスク摺動面を、不活性層により部分的にマスクする。この不活性層は、溝及び/又はくぼみになるプーリディスク摺動面の表面領域は被覆していない。次いで摺動面を、管理された時間の間、エッチング剤に浸して、プーリディスク摺動面の前記表面領域の所定量の材料を溶解し、前記溝及び/又はくぼみを形成する。最後に、例えば石鹸水のような、化学的に不活性の洗浄剤を用いてエッチング剤を洗い落とすことにより、摺動面を洗浄し、且つ一般にはマスキング層も除去する。
【0018】
電気化学的な機械加工のプロセスステップの場合は、プーリディスク摺動面を、電解液に浸す。電極を、プーリディスク摺動面に面して極めて近接するように位置決めする。電極を、プーリディスクに対して負に荷電させることにより、管理された時間の間、電極とプーリディスクとの間に電流を印加し、局所的にプーリディスクの材料を電解液中に溶出させて、前記溝及び/又はくぼみを形成する。より具体的には、エッチングのプロセスステップの場合と同様に、プーリディスク摺動面を、不活性層で部分的にマスクするか、又は、電極に、摺動面上に形成されるべき溝及び/くぼみの位置及び高さに相応する隆起部及び/又は尖端部を設ける。このような実際の電気化学処理を施した後で、プーリディスクを電解液から取り出して洗浄する。
【0019】
本発明では、「負」に形成された電極を用いる後者の電気化学的な機械加工のプロセスステップは、意外にも、上述した他の全てのプロセスステップとの比較において、(最小の)駆動ベルト摩耗に関して得られる利点を提供するために見出された。このようなポジティブな結果は予期されていなかったが、分析では、好適には上述した電気化学的な機械加工のプロセスステップにおいて生じる溝及び/又はくぼみの間の摺動面の表面部分の平滑化によるボーナス効果であると考えられる。特に、負に形成された前記電極を用いた電気化学的な機械加工によって、溝及び/又はくぼみを除いた摺動面の表面粗さは、0.1ミクロンRa以下である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に関する、2つのプーリと1つの駆動ベルトが設けられた無段変速機の概略図である。
図2】駆動ベルトの1区分を示す斜視図である。
図3】コルゲート加工された、駆動ベルトの横方向側面の概略図である。
図4】公知の形式の、駆動ベルトの横方向側面と、プーリの円錐形ディスクの摺動面との間の接触箇所の断面を拡大して概略的に示した図である。
図5】本発明の第1の実施形態によるプーリディスクの一部の断面を拡大して概略的に示した図である。
図6】本発明の第1の実施形態によるプーリディスクの摺動面の一部を拡大して示す概略正面図である。
図7】本発明の第2の実施形態によるプーリディスクの摺動面の一部を拡大して示す概略正面図である。
図8】本発明の第3の実施形態によるプーリディスクの一部の断面を拡大して概略的に示した図である。
図9】本発明の第3の実施形態によるプーリディスクの摺動面の一部を拡大して示す概略正面図である。
図10】本発明の第4の実施形態によるプーリディスクの摺動面の一部を拡大して示す概略正面図である。
【0021】
以下に、本発明の実施形態を図面につき詳しく説明する。
【0022】
図1には、ベルト及びプーリ型の無段変速機(CVT)の中心部分が概略的に示されている。この変速機は2つのプーリ1,2と、一方のプーリ1,2から他方のプーリ2,1へ、回転運動ωin,ωoutとこれに伴うトルクTin,Toutとを可変のトルク比Tout/Tin及び速度比ωin/ωoutで伝達するための駆動ベルト3とを有している。この目的のために、プーリ1,2は両方とも2つのプーリディスク4,5を有しており、これらのプーリディスク4,5はそれぞれ、一般に円錐形の摺動面8を、駆動ベルト3の横方向側面35を支持するために提供している。各プーリ1,2の一方のプーリディスク4は、該プーリディスク4が配置されたそれぞれのプーリ軸6,7に沿って軸方向に可動に、変速機に組み込まれている。
【0023】
変速機は作動システム(図示せず)も有しており、この作動システムは、各プーリ1,2の前記少なくとも一方のディスク4に、軸方向に向けられた締め付け力Fax1,Fax2を加え、この締め付け力Fax1,Fax2は、各プーリ1,2の他方のプーリディスク5に向かって方向付けられており、これにより、駆動ベルト3がプーリディスク4,5の対の間で締め付けられて、その間で摩擦により、プーリディスク4,5に対して接線方向又は周方向に、所定の力が伝達され得る。更に、このような締め付け力Fax1,Fax2の結果として、駆動ベルト3には、その周方向に張力がかけられており、締め付け力の比Fax1/Fax2に応じて、局所的な曲率半径、即ちプーリ1,2のプーリディスク4,5間における駆動ベルト3の摺動半径R1,R2が決められる。本発明に関して、少なくとも駆動ベルト3の部分とプーリディスク4,5の部分とは物理的に接触している、即ち前記摺動面8と横方向側面35とは鋼から成っている。典型的には、少なくとも駆動ベルト3とプーリディスク4,5の後者の部分は、55HRCを上回る硬度を示す焼入れによって硬化されている。
【0024】
図2には、駆動ベルト3がより詳細に、小区間の斜視図で示されている。この技術分野ではいくつかのタイプの駆動ベルト3が知られているが、本発明を支援するために行われた調査では、いわゆる圧縮式ベルトが使用された。この圧縮式ベルトは駆動ベルト3の特殊なタイプであって、環状のエンドレスキャリヤ30と、1列の横方向セグメント32とを有しており、これらの横方向セグメント32は個別に且つ滑動可能に、エンドレスキャリヤ30の周面に沿って取り付けられている。駆動ベルト3の図示の構成例では、エンドレスキャリヤ30は2セットの、半径方向に重ね入れられた平らでフレキシブルなリング31から構成されている。この公知の駆動ベルト3において、プーリディスク4,5の摺動面8と接触する前記横方向側面35は、個々の横方向セグメント32の軸方向端部によって提供されている。これらの横方向側面35は、互いに(半径方向)外側に開いていて、その間に典型的には22度のベルト角を成している。このベルト角は実質的に、少なくともプーリ1,2のプーリディスク4,5の接線方向の断面において、円錐形の摺動面8の間に形成されるV面角度に一致する。
【0025】
変速機において横方向セグメント32は、プーリ1,2により駆動ベルト3の前記横方向側面35を介して横方向セグメント32に加えられた力を受け取り、これにより‐プーリ1,2が例えば内燃機関により回転駆動される場合は‐プーリディスク4,5の摺動面8と駆動ベルト3との間に生ぜしめられる摩擦が、横方向セグメント32を、回転駆動されるプーリ1,2から、それ自体は駆動ベルト3により回転される、それぞれ他方のプーリ2,1の方へ押しやる。この公知の変速機、特に変速機におけるプーリ1,2と駆動ベルト3との間の摩擦接触箇所は、潤滑油の(強制)循環により、積極的に冷却及び潤滑される。
【0026】
駆動ベルト3の横方向セグメント32の横方向側面35に関しては、微視的なスケールの不規則な表面構造を備える平らな表面と、巨視的なレベル(即ち肉眼で認識可能なスケール)の、規則的にコルゲート加工された表面輪郭の両方を適用することが知られている。後者の場合、横方向側面35には、プーリディスク4,5に接触するためにより高く位置する隆起部36と、例えば図3に示すように潤滑油を収容するためにより低く位置する溝37とが設けられている。図3の例では、隆起部36と溝37とは、それぞれ横方向セグメント32の厚さ方向に対して平行に方向付けられた長手方向軸線を備えて、即ち、駆動ベルト3の周方向又は長手方向に対して実質的に平行に設けられている。プーリディスク4,5の摺動面8との摩擦接触箇所では、垂直力と摩擦力とが実質的に隆起部36によって伝えられる。それというのも、溝37には潤滑油が収容されるからである。ここで述べておくと、典型的には全高寸法が4〜8ミリメートルの横方向側面35が、20〜50又はそれ以上の別個の溝を有していることは、当該技術分野において慣例である。駆動ベルト3を使用する間に、隆起部36の先端部は、隆起部36が側面35の(突出した)表面積の20〜70%を占めるまでに比較的急速に摩耗し、これにより、このような摩耗は最小になる。この点において明らかなのは、前記摩耗が最初から最小限に少なくなるように、平らな(平坦化された)先端部を有する隆起部36を備えた横方向セグメント32を製造することも可能である、ということである。
【0027】
上述した公知の変速機は、何年にもわたって乗用車にうまく適用されてきた。これらの車両の(燃料)効率の向上が、工業界にとって目下最も重要であり、CVTのような、乗用車に適用される自動変速機の効率もまた、主要な研究開発事項となってきている。これに関しては、トラクション、即ち駆動ベルトとプーリとの間の摩擦係数の増大により、変速機効率が高められる、ということが知られている。例えばJP2005−273866Aには、円形の、即ち同心的なマイクロメートルスケールの溝9のパターンが、同じく同心的な隆起部10の間に配置されているプーリディスク4,5の摺動面8を設けることにより、前記のようなトラクションが増大される、ということが記載されている。摺動面のこの公知の表面成形部は、前掲のJP2005−273866Aから写した本願明細書の図4に示されており、図4は、駆動ベルト3の横方向セグメント32の横方向側面35と、プーリディスク4,5の摺動面8との間の接触箇所の断面を拡大して概略的に示したものである。この公知の摺動面8には、実質的に円形の、同心的な溝9が、やはり円形の同心的な隆起部10の間に配置されて設けられている。摺動面8の公知の溝9及び隆起部10は、横方向側面35の溝37及び隆起部36に対して平行に方向付けられるべきである、ということが示されている。
【0028】
本発明では、変速機プーリ1,2のプーリディスク4,5の摺動面8に所定の表面成形部が設けられていて、この表面成形部は、種々様々な公知の表面構造及び表面成形部仕様に対して、少なくとも1つの代替を成している。特に本発明は、特に駆動ベルトの摩耗率及び/又は変速機全体の耐久性に悪影響を与えることなしに、公知のCVTにおいてトラクションを最大化することを目的としている。
【0029】
図5には本発明の第1の実施形態が、プーリディスク4;5の摺動面8の一部を断面されて概略的に示されている。図5に示したように、いくつかのキャビティ又はくぼみ11が、摺動面8に二次元パターンで設けられている。くぼみ11は、主に(逆)円錐状に形成されている。しかしながら、(逆)ドーム形のような他の形状も同様に働く。なぜならば、くぼみ11の役目は、CVTの作動中に潤滑油を保持するためのポケットを形成することだからである。くぼみ11は、好適にはそれぞれが摺動面8の平面上におよそ75平方ミクロンの表面積を占め、且つ前記平面より下に、約5ミクロンの深さの延在部を有しているように寸法決めされている。
【0030】
図5において2つの隣合ったくぼみ11は、摺動面8の平面上で、くぼみ11の前記深さよりも少しだけ大きな間隔を置いて隔てられているが、本発明の実際の実施形態では、このような隔たりは通常、より大きくなっている。後者の点において、図6にくぼみ11の好適な相互配置が、摺動面8(の一部)の拡大正面図で概略的に示されている。
【0031】
図6では、くぼみ11が摺動面8に、半径方向Rでは比較的短い間隔で連続して(RS)、且つ周方向Cでは比較的大きく隔てられて(CS)、設けられている。特に、図6においてくぼみ11は、約20ミクロンの直径Dを備えて設けられており、隣合ったくぼみ11は、周方向に約75ミクロンの間隔CSをあけて隔てられている。このように周方向に配置されたくぼみ11の2つの列の間の隔たりRSは、半径方向Rに見て約25ミクロンである。
【0032】
注意しておくと、本発明では、半径方向Rでの前記隔たりRSと、周方向Cでの前記隔たりCSとは、好適には、速度比ωin/ωoutが減少すると、半径方向の隔たりが増大し且つ周方向の隔たりが減少するように、速度比ωin/ωoutに応じて変化させられる。
【0033】
本発明の第2の実施形態が、図7に摺動面8(の一部)を拡大した正面図で概略的に示されている。本発明により、潤滑油を収容するためにプーリディスク4,5の摺動面8に設けられたキャビティは、この場合、互いに交互に配置されたくぼみ13の列と、溝12の形態で設けられており、両者は主に、半径方向Rに延在している。図7の実施形態において、くぼみ13の列と溝12とは、半径方向に対して所定の角度で延在しており、この角度は、各プーリディスク4,5に関して半径方向外側に向かって増大している。注意すべき点は、図7におけるくぼみ13の列と溝12の湾曲は、本発明のこの特別な観点を図示可能にするために、極端に誇張されている、という点である。更に、このような湾曲は、本発明の主要な特徴ではなく、むしろ任意の特徴である。更に、本発明の範囲内で、図7に示された、くぼみ13の列と溝12とが互いに交互に配置されたパターンを適用することは必須ではない。その代わりに、くぼみ13の列だけを適用すること、溝12だけを適用すること、或いは別のパターンのくぼみ13の列と溝12の両方を適用することも、可能である。
【0034】
本発明の第2の実施形態のくぼみ13の列は、上述した本発明の第1の実施形態のくぼみ11に相当しない場合は、これらのくぼみ11に類似して寸法決めされ且つ間隔をあけられている。第2の実施形態の溝12も、ミクロンスケールで設けられており、好適には3〜10ミクロンのオーダの溝深さと、25〜100ミクロンのオーダの溝幅とを備えている。1つの溝12と、隣合った溝12又はくぼみ13の列との間の隔たりは、好適には20〜250ミクロンのオーダ内にある。
【0035】
本発明の第3の実施形態が、図8ではプーリディスク4;5の摺動面8の一部の概略断面図で示されており、且つ図9では摺動面8(の一部)の拡大正面図で示されている。図8及び図9に示したように、摺動面8には、複数の平行な溝14と、複数の平行な溝15の2つの組が、互いに交差するパターンの表面成形部が設けられている。第1の組の溝である、複数の平行な溝14は、周方向Cに方向付けられていて、各プーリディスク4,5の周に沿って連続的な通路を形成している。第2の組の溝である、複数の平行な溝15は、半径方向に方向付けられていて、第1の組の複数の平行な溝14の、2つの隣合った溝の間にのみ、延在している。このようにして、潤滑油収容通路のクロスハッチパターンが、平行な複数の溝14と、平行な複数の溝15の2つの組によって、摺動面8に形成されている。
【0036】
本発明では、第2の組の平行な複数の溝も、各プーリディスク4,5の半径方向延在部に沿って連続的な通路を形成するように配置され得る。このケースは、図10に概略的に示す、本発明の第4の実施形態であり、図9に示したキーボードのようなパターンの代わりに、チェッカーボードのようなパターンで、潤滑油収容通路が摺動面8に形成されている。
【0037】
本発明の第3の実施形態及び第4の実施形態の、複数の平行な溝14と複数の平行な溝15の2つの組は、上述した本発明の第2の実施形態の溝12に相当しない場合は、これらの溝12に類似して寸法決めされ且つ間隔をあけられている。
【0038】
本発明は、前記説明の全体に関するのみならず、付属の図面の詳細全てに関するものであり、更に、以下の請求項の全ての特徴に関するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10