(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱発泡剤の熱発泡温度をT1とし、前記接着層の硬化開始温度をT2とし、前記コート層のガラス転移温度をT3としたとき、T3<T1≦T2の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の接着シート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る接着シートは、接着層の上にコート層を配置することで構成される。ここで、コート層は、常温でタックを示さず、接着シートを、接着層の硬化開始温度以上に加熱することにより、前記コート層の少なくとも一部が、接着層とコート層の界面からコート層表面に至る範囲で消失することを特徴とする。このような構成とすることにより、本発明の接着シートでは、接着性を維持しつつ、タック等に起因する作業性の低下を防止することができる。
本発明者は、従来の構成で、接着層の樹脂成分が常温でタックを生じないようにするため、接着層に含有される熱硬化型樹脂の重量平均分子量を大きくしていくと、一定の重量平均分子量(800)を超えると、(1)接着層の常温で示すタックは減少し、作業性の低下は抑制されるが、接着シートを折り曲げた場合に、接着層に割れが生じて脱落し、一度折り曲げたものは使用できなくなることを確認した。また(2)必要に応じて配合する硬化剤との反応性が低くなるため、硬化温度を上昇させる必要があり、経済性に欠けるものとなることがわかった。
本発明では、上記コート層を採用することにより、常温でのタックによる作業性の低下を抑制することができる。さらに、本発明では、従来の構成で熱硬化型樹脂の重量平均分子量を大きくすることにより生じていた割れや硬化温度の上昇による高コスト化を抑えることができる。
【0017】
本発明において、「常温でタックを示す」とは、以下の方法で、密着が確認されることをいう。
基材上に接着層及びコート層を積層したシートを、5cm×5cmの大きさに切って6枚の接着シートを用意する。該接着シートのコート層同士が向かい合うようにを6枚重ねてからガラス板に挟む。上記積層体上に100gの荷重をかけて常温(25℃)で24時間静置した後、荷重を解除してガラス板を上下に広げた際、各接着シートのコート層同士が密着した状態で接着シートの基材と接着層間で剥離が生じることを密着している、すなわちコート層が常温でタックを示すという。一方、ガラス板を上下に広げた際、接触していたコート層間で剥離する場合は、コート層は、常温でタックを示さないという。
「割れが生じる」とは、接着シートを180度に折り曲げた際に、接着層に亀裂が生じ、少なくとも接着層の一部が脱落すること、あるいは脱落しうる状態にあることをいう。
【0018】
本発明の接着シートを、接着層の硬化開始温度以上に加熱することにより、コート層の少なくとも一部が、接着層とコート層の界面からコート層表面に至る範囲で消失する。「コート層が消失する」とは、原則として、本発明の接着シートに、コート層を形成する樹脂のガラス転移温度を超える熱が加わることによってコート層が軟化し、これによりコート層の樹脂が接着層を形成する(硬化前の)熱硬化型樹脂と混ざり合うことによって接着層と一体化し、接着層上に存在していたコート層が見掛け上、存在しなくなることをいう。具体的には、後述する方法で接着シートを切断し、その断面をマイクロスコープで観察し、コート層の少なくとも一部が、接着層とコート層の界面からコート層表面に至る範囲で消失している場合をコート層が消失していると判断する。すなわち、本発明では、加熱により接着層が硬化した後の接着シートの、被着体と接する部分に、加熱硬化後の接着層の少なくとも一部が露出した状態になっている場合も、「コート層は消失している」と判断するものとする。つまり、本発明において「コート層が消失する」を解釈するにあたり、接着層を形成する(硬化前の)熱硬化型樹脂に対する、コート層を形成する樹脂の混ざり合う度合いは完全でなくてもよく、加熱硬化後、シート表面に接着層としての機能を発現すればよい。少なくとも、加熱により接着層が硬化した後の接着シートの、被着体と接する部分に、加熱硬化後の接着層の一部がシート表面に露出していればよい。加熱硬化後の接着層の全部がシート表面に露出している場合、それは接着層上に存在していたコート層が完全に存在しなくなっていることを意味する。
なお、ここで接着層の硬化開始温度は、後述する方法で算出され、上記温度より100℃〜250℃高い温度で5〜60分間加熱した後の接着シートの状態を観察することにより、接着層の消失の有無を判断することができる。一般には、160〜220℃で20〜30分加熱後の接着シートの状態で判断することができる。
【0019】
本発明の一実施形態では、接着剤組成物は熱発泡剤を含有することが好ましい。これにより、接着層は、所定の温度以上に加熱した場合に、体積が増大し、かつ硬化反応が進行して接着力が増大するため、空隙の充填用に好適に用いることができる。上記熱発泡剤を含有する場合は、良好な発泡特性を得るため、接着剤組成物は、軟化温度が105℃以下の熱硬化型樹脂を含有することが好ましい。
従来の構成では、優れた発泡特性を得ようとすると、接着層が常温でタックを示すことが問題となっていた。接着層の樹脂成分が常温でタックを生じないようにするため、接着層に含有される熱硬化型樹脂の重量平均分子量を大きくする場合、一定の重量平均分子量(800)を超えると、(1)接着層の常温で示すタックは減少し、作業性の低下は抑制されるが、接着シートを折り曲げた場合に、接着層に割れが生じて脱落し、一度折り曲げたものは使用できなくなる。また(2)硬化剤との反応性が低くなるため、硬化温度を上昇させる必要があり、経済性に欠けるものとなる。さらに、一定の重量平均分子量(1650)を超えると、(3)軟化温度が高くなって樹脂が柔らかくなりにくくなるため、加熱した際に熱発泡剤がうまく発泡しない。また、一定の重量平均分子量(3000)を超えると、(4)成膜性が高くなるため割れの発生は抑えられるが、軟化温度が高くなり樹脂が柔らかくなり難くなるため、加熱した際に熱発泡剤が良好に発泡しない。
これに対して、本発明のコート層を採用することにより、十分な発泡性能を維持しながら優れた作業性を実現することができる。
また、本発明では、熱発泡剤の熱発泡温度をT1とし、接着層の硬化開始温度をT2とし、コート層のガラス転移温度をT3としたとき、T3<T1≦T2の関係を満足することが好ましい。以下、詳述する。
【0020】
[接着層]
接着層を形成する接着剤組成物に必須成分として含有させる、熱硬化型樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、シリコーン樹脂、オキセタン樹脂、フェノール樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、ポリエステル樹脂(不飽和ポリエステル樹脂)、ジアリルフタレート樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド酸樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ビスマレイミド−トリアジン樹脂等が挙げられる。特に、エポキシ樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド酸樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミド−トリアジン樹脂等が好ましく、これらの樹脂を単独又は複数を組み合わせて用いることができる。なかでも、硬化性と保存性、硬化物の耐熱性、耐湿性、耐薬品性に優れるという観点からエポキシ樹脂が好ましい。
【0021】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ヒンダトイン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン/フェノールエポキシ樹脂、脂環式アミンエポキシ樹脂、脂肪族アミンエポキシ樹脂及びこれらにCTBN変性やハロゲン化等といった各種変性を行ったエポキシ樹脂が挙げられ、なかでもビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。これらは単独又は複数を混合して用いることができる。
【0022】
エポキシ樹脂は、190℃での粘度が、通常0.05Pa・s以上が好ましく、0.1Pa・s以上であることがさらに好ましい。また、通常3.0Pa・s以下が好ましく、1.8Pa・s以下であることがさらに好ましい。粘度が低すぎると熱発泡剤の発泡状態を維持することができず、連泡化や破泡が発生するおそれがある。粘度が高すぎると発泡内圧よりも発泡外圧が高くなるので熱発泡剤が発泡しないおそれがある。ここにおける粘度は、動的粘弾性測定装置(Malvern Instruments社製、Bohlin C−VOR)を用いて測定した値である。
【0023】
エポキシ樹脂は、エポキシ当量(WPE)が、通常150以上、好ましくは180以上であって、通常1000以下、好ましくは700以下である。WPEが低すぎると架橋点が多く耐熱性の高い硬化物が得られるが靱性が低く脆くなるおそれがある。WPEが高すぎると架橋点が少ないため耐熱性が低下するほか硬化反応の反応性が低下することにより発泡状態を維持することができず、破泡、連泡化が進むおそれがある。「エポキシ当量」とは、エポキシ基1個あたりのエポキシ樹脂の分子量で定義される。ここで「エポキシ基」とは、3員環のエーテルであるオキサシクロプロパン(オキシラン環)を含むものであり、狭義のエポキシ基の他、グリシジル基(グリシジルエーテル基及びグリシジルエステル基を含む。)を含むものである。WPEは、JIS K7236、エポキシ樹脂のエポキシ当量の求め方(2001)に記載されている方法(過塩素酸−臭化テトラエチルアンモニウム法)等により決定される。
【0024】
エポキシ樹脂は、常温で半固形又は固体であって、固体の場合には軟化温度が、105℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましい。また、通常40℃以上が好ましく、45℃以上がより好ましい。常温で液状であると硬化発泡時における粘度低下が顕著となりエポキシ樹脂の発泡状態を維持できなくなることから破泡、連泡化が進む可能性がある。また、接着層の形状を保てないおそれがある。
【0025】
軟化温度が105℃以下の熱硬化型樹脂(好ましくはエポキシ樹脂)を含有させて接着層を構成することで、加熱により樹脂が柔らかくなり、これにより熱発泡剤を接着層中でより良好に発泡させることができる。軟化温度が105℃以下でも60℃を超えると、接着層に割れを生じることもある。しかしながら本実施形態ではコート層で接着層を被覆するため、接着層に割れが生じても脱落するおそれはなく、使用に支障を来すことはない。
【0026】
軟化温度が60℃以下の熱硬化型樹脂(好ましくはエポキシ樹脂)を含有させて接着層を構成することで、上記作用(加熱により接着層中の熱発泡剤を良好に発泡させることが可能なこと)に加え、接着層に割れを生じることがなく、これにより接着層の脱落防止に寄与しうる。なお、軟化温度が130℃を超える熱硬化型樹脂を含有させて接着層を構成すると、成膜性が高くなるため割れは生じないが、加熱によっても樹脂が柔らかくなりにくく、熱発泡剤が十分に発泡しない場合がある。
ここでの軟化温度は、JIS K7234(環球法)で定められた方法により測定される値である。
【0027】
本実施形態では、熱硬化型樹脂として、重量平均分子量が好ましくは1650以下、より好ましくは800以下のものを用いることが望ましい。
重量平均分子量が1650以下の熱硬化型樹脂を含有させて接着層を構成することで、加熱により樹脂をより柔らかく調整し、これにより熱発泡剤を接着層中でより良好に発泡させることができる。さらに、重量平均分子量を800以下の熱硬化型樹脂を含有させて接着層を構成することにより、上記作用(加熱により接着層中の熱発泡剤を良好に発泡させることが可能なこと)に加え、より接着層に割れを生じにくくすることができる。
【0028】
なお、重量平均分子量が3000を超える熱硬化型樹脂を含有させて接着層を構成すると、成膜性が高くなるため割れは生じにくくなるが、加熱によっても樹脂が柔らかくなりにくく、熱発泡剤が十分に発泡しない場合がある。
本実施形態では、シート状に形成しやすくするため、接着剤組成物に含有させる熱硬化型樹脂は、重量平均分子量が450以上であることが好ましい。分子量が450未満であると常温で液状に近い樹脂となるため、接着層の形状が保てない場合がある。
【0029】
接着層を形成する接着剤組成物に含有させる熱発泡剤は、特に制限されず、例えば公知の熱発泡剤(熱分解型のもの、膨張黒鉛、マイクロカプセル化されたもの等)を適宜選択して用いることができるが、中でもマイクロカプセル化されたもの(以下「熱膨張性微小球」と称する。)を好適に用いることができる。
熱膨張性微小球としては、弾性を有する外殻の内部に発泡剤が封入された構造を有し、全体として熱膨張性(加熱により全体が膨らむ性質)を示す微小球を好適例として挙げることができる。
弾性を有する外殻としては、熱溶融性物質や熱膨張により破壊する物質等、例えば、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスルホン等で形成されたものを好適例として挙げることができる。
発泡剤としては、加熱により容易にガス化して膨張する物質、例えばイソブタン、プロパン、ペンタン等の炭化水素を主として挙げることができる。熱膨張性微小球の市販品としては、例えば、商品名「マツモトマイクロスフェアー」シリーズ(松本油脂製薬社製)、アドバンセルEMシリーズ(積水化学工業社製)、エクスパンセル(日本フェライト社製)等を挙げることができる。
【0030】
熱膨張性微小球の大きさは、接着シートの用途により適宜選択すればよく、具体的には、質量平均粒径で10〜20μm程度にするとよい。熱膨張性微小球は、その粒度分布を調整してから使用してもよい。粒度分布の調整は、使用する熱膨張性微小球に含まれる比較的大きな粒径のものを、遠心力型風力分級機、乾式分級機、篩過機等で分級して除去すればよい。具体的には、熱膨張性微小球の粒度分布の標準偏差が5.0μm以下となるようにするとよい。
【0031】
熱膨張性微小球の膨張倍率は、5倍以上であることが好ましく、7倍以上であることがさらに好ましい。その一方で15倍以下であることが好ましく、12倍以下であることがさらに好ましい。熱膨張性微小球の膨張倍率が、好ましくは5倍以上15倍以下の範囲にあると、膨張倍率のコントロールが容易となる。なお、熱膨張性微小球の外殻は、該熱膨張性微小球が前記所定の膨張倍率となるまで膨張した場合であっても破裂しない、適度な強度を有するものであることが好ましい。
【0032】
熱膨張性微小球の配合量は、熱硬化型樹脂100質量部に対し、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上であって、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下とされる。熱膨張性微小球の配合量が少なすぎると、接着層全体での発泡倍率が低下し、接着層が必要十分に膨らまない可能性がある。その一方で配合量が多すぎると、過度に発泡するために接着剤として十分な強度を維持できない可能性がある。
【0033】
熱発泡剤は、その熱発泡温度(T1)が、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上であって、好ましくは200℃以下、より好ましくは190℃以下であることが望ましい。T1は、熱発泡剤として、熱膨張性微小球を用いる場合は熱膨張温度に相当し、熱分解型発泡剤を用いる場合は熱分解温度に相当する。「熱膨張温度」とは発泡開始温度と同義であり、本実施形態では熱膨張測定装置(TMA)で求められる熱膨張開始温度のことをいい、体積が最大限に膨張する最大熱膨張温度の意味ではない。
【0034】
また、その他の熱発泡剤としては、熱分解型発泡剤や膨張黒鉛等が挙げられる。熱分解型発泡剤は、無機系と有機系に分類される。
無機系発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、アジド類等が挙げられる。有機系発泡剤としては、例えば、水、塩フッ化アルカン(例えば、トリクロロモノフルオロメタン、ジクロロモノフルオロメタン等)、アゾ系化合物(例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボンアミド(ADCA)、バリウムアゾジカルボキシレート等)、ヒドラジン系化合物(例えば、パラトルエンスルホニルヒドラジドやジフェニルスルホン−3,3'−ジスルホニルヒドラジド、4,4'−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、アリルビス(スルホニルヒドラジド)等)、セミカルバジド系化合物(例えば、ρ−トルイレンスルホニルセミカルバジド、4,4'−オキシビス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)等)、トリアゾール系化合物(例えば、5−モルホリル−1,2,3,4−チアトリアゾール等)、N−ニトロソ系化合物(例えば、N,N'−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N'−ジメチル−N,N'−ジニトロソテレフタルアミド等)等が挙げられる。
これらの熱発泡剤は、単独又は複数を混合して用いることができる。
【0035】
このような熱分解型発泡剤の配合量は、熱硬化型樹脂100質量部に対し、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上であって、好ましくは30質量部以下、より好ましくは25質量部以下とされる。熱分解型発泡剤の配合量が少なすぎると、接着層全体での発泡倍率が低下し、接着層を必要十分に膨らませない可能性がある。その一方で配合量が多すぎると、過度に発泡するために接着剤として十分な強度を維持できない可能性がある。
【0036】
接着層を形成する接着剤組成物には、上述した熱硬化型樹脂及び熱膨張性微小球の他に、硬化剤等の任意成分を含有させてもよい。硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド(DICY)、脂肪族ポリアミド等のアミド系硬化剤;ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、アンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン、等のアミン系硬化剤;ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、p−キシレンノボラック樹脂等のフェノール系硬化剤;無水メチルナジック酸等の酸無水物系硬化剤等が挙げられる。
これらの硬化剤は、単独又は複数を混合して用いることができる。
【0037】
硬化剤の配合量は、使用する熱硬化型樹脂との当量比から算出され、当量比の好適な範囲は0.8〜3.0である。例えば、硬化剤がジシアンジアミドの場合は、熱硬化型樹脂100質量部に対し、下限としては3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、上限としては30質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。また、例えば無水メチルナジックの場合は、熱硬化型樹脂100質量部に対し、下限としては60質量部以上が好ましく、80質量部以上がより好ましく、上限としては240質量部以下が好ましく、200質量部以下がより好ましい。硬化剤の配合量が上記下限値未満では、十分に硬化しにくく、耐熱性、耐薬品性等熱硬化性樹脂としての特徴を十分に発揮できない可能性がある。その一方で配合量が上記上限値を超えると、硬化時に過剰な発熱反応を伴い、硬化中の樹脂組成物粘度が必要以上に低下し、最終的に十分な発泡状態を維持することが難しくなる可能性がある。
【0038】
硬化剤とともに、硬化促進剤を併用することもできる。硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−メチル−4−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等の3級アミン類;トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;等が挙げられる。これらは単独又は複数を混合して用いることができる。硬化促進剤の配合量は、熱硬化型樹脂100質量部に対し、例えば5質量部以下とするのが好ましい。5質量部を超えると貯蔵安定性が低下する可能性がある。
【0039】
接着剤組成物に任意成分として配合可能なその他の添加剤としては、例えば、エラストマー成分として天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等の固形あるいは液状のゴム類やポリウレタン、ウレタンプレポリマー等が挙げられる。その配合量としては、熱硬化型樹脂100質量部に対し、20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。また、発泡助剤、各種充填剤、整泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤を配合してもよい。
【0040】
本実施形態の接着剤組成物は、上述した熱硬化型樹脂に必要に応じて、熱発泡剤、硬化剤、硬化促進剤、発泡助剤、各種添加剤等を任意の順序で混合させることにより得ることができる。上記原材料の混合は、ミキシングロール、プラネタリーミキサー、バタフライミキサー、ニーダ、単軸もしくは二軸押出機等の混合機あるいは混練機を用いて行うことができる。混合温度は、組成により異なるが、熱発泡剤の熱発泡温度(T1)以下で行うことが好ましい。
本実施形態の接着剤組成物は、これをシート状に形成した接着層の状態における硬化開始温度(T2)が好ましくは110℃以上250℃以下となるよう、各成分を配合することが望ましい。
【0041】
接着層は、上述した接着剤組成物を後述する基材の片面又は両面に塗布し、必要に応じて乾燥させることにより得られる。なお、接着層は、上述した接着剤組成物を、別途用意した離型フィルムに形成した、後述するコート層上に塗布し、必要に応じて乾燥させることにより得ることもできる。
発泡前の接着層の厚み(t1)は接着シートの用途に応じて適宜選択すればよいが、下限としては20μm以上が好ましく、30μm以上とすることがさらに好ましく、上限としては1000μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましく、200μm以下とすることがさらに好ましい。接着層の厚みを20μm以上とすることにより、発泡反応によって生成された気泡を接着層内に保持させやすい。接着層の厚み(t1)を1000μm以下とすることにより、例えば、1mm以下の狭い空隙を充填させることが可能となる。
【0042】
基材としては、特に制約されるものではなく、適宜選択すればよく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド等の合成樹脂フィルムや、アラミド繊維等のシートが挙げられる。基材は接着シートの用途によって選択される。特に絶縁性、耐熱性を求める用途においては、ポリイミドフィルムやアラミド繊維シート等を使用することが好ましい。
【0043】
基材の厚みは、適用する用途に応じて適宜選択することができる。適用用途が例えば、後述の絶縁シートである場合、基材の厚みは25〜250μmであることが好ましい。
【0044】
[コート層]
コート層を形成する樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、シロキサン変性ポリイミド樹脂、ポリブタジエン、ポリプロピレン、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体、ポリアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ブチルゴム、クロロプレンゴム、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、ナイロン等の熱可塑性樹脂が使用可能である。これらは、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。なかでも、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂等を用いるのが好ましい。
ポリエステル樹脂としては、例えば、商品名バイロン200(東洋紡績社製)、商品名ポリエスターTP220(日本合成化学社製)、商品名エリーテルKAシリーズ(ユニチカ社製)等が挙げられる。
【0045】
フェノキシ樹脂とは、ビスフェノールAやビスフェノールF等のジフェノールと、エピクロロヒドリン等のエピハロヒドリンに基づく高分子量熱可塑性ポリエーテル樹脂(※ビスフェノール型エポキシ樹脂)をいう。フェノキシ樹脂は、重量平均分子量が、20,000〜100,000であることが好ましい。重量平均分子量が低すぎると割れが生じやすく、一方、重量平均分子量が高すぎると塗布膜形成時の粘度が高くなりすぎて平滑、一様な塗布膜を得ることが困難となりやすい。
【0046】
フェノキシ樹脂としては、特に限定されるものではなく、ビスフェノールA骨格、ビスフェノールF骨格、ビスフェノールS骨格、ビスフェノールアセトフェノン骨格、ノボラック骨格、ビフェニル骨格、フルオレン骨格、ジシクロペンタジエン骨格、ノルボルネン骨格、ナフタレン骨格、アントラセン骨格、アダマンタン骨格、テルペン骨格、トリメチルシクロヘキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有するものが挙げられる。
【0047】
フェノキシ樹脂の市販品としては、例えば、商品名PKHB、PKHC、PKHH、PKHJ(いずれもInChem社製)、jER 1256、jER 4250、jER 4275、(いずれも三菱化学社製)、YP−50、YP−50S、YP−70、ZX−1356−2、FX−316、(いずれも新日鉄住金化学社製)等が挙げられる。
また、フェノキシ樹脂を溶剤を用いて溶解したものも市販されており、こちらも同様に使用される。例えば、jER 1256B40、jER 1255HX30、jER YX6954BH30、YX8100BH30、jER YL7174BH40(いずれも三菱化学社製)、YP−40ASM40、YP−50EK35、YPB−40PXM40、ERF−001M30、YPS−007A30、FX−293AT40(いずれも新日鉄住金化学社製)等が挙げられる。
【0048】
これらのフェノキシ樹脂は単独又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0049】
本実施形態では、上記熱可塑性樹脂に、必要に応じて、イソシアネートや有機過酸化物等の硬化剤をさらに配合してもよい。硬化剤の種類や分子量等を適宜選択し配合することにより接着層との親和性を微調整することが容易となる。配合する場合の、硬化剤(イソシアネート等)の配合量は、100質量部のポリエステル樹脂やフェノキシ樹脂等に対して、3〜30質量部程度とすることができる。
【0050】
コート層は、上述した樹脂(硬化剤が配合される場合はこれを含む)を溶媒に溶解又は分散させたコート層形成塗工液を作製し、これを接着層に塗布し、乾燥させることにより得られる。なお、コート層は、上述したコート層形成塗工液を、別途用意した離型フィルムに塗布し、乾燥させることにより得ることもできる。
【0051】
コート層の厚み(t2)は、加熱前(又は加熱発泡前)の接着層の厚み(t1)の60%以下であることが好ましい。t2をt1の60%以下とするとにより
、熱(例えば60℃以上140℃以下程度の加熱)によってコート層は軟化し、かつこれを良好に消失させることができる。
コート層が消失するメカニズムは次のとおりである。コート層を形成する樹脂のガラス転移温度を超える熱が加わることによってコート層が軟化する。これによりコート層の樹脂が接着層を形成する(硬化前の)熱硬化型樹脂と混ざり合い、接着層と一体化する(接着層内に取り込まれる)。その結果、接着層上に存在していたコート層が見掛け上、存在しなくなる。
【0052】
コート層が厚すぎると、十分に接着層内に取り込まれなく、その結果、コート層の消失が良好に進まない可能性がある。また、熱発泡剤を含有する場合には、接着層内の熱発泡剤が十分発泡できない場合があり、発泡性が損なわれる可能性もある。
なお、本発明では、上述したように、加熱により接着層が硬化した後の接着シートの、被着体と接する部分に、加熱硬化後の接着層の少なくとも一部が露出(接触)していれば、「コート層は消失している」ものと判断する。
本実施形態において、t2は、例えば、0.5μm以上600μm以下が好ましい。
【0053】
コート層は、そのガラス転移温度(T3)が好ましくは60℃以上140℃以下となるように、コート層を形成する樹脂を決定することが望ましい。コート層のガラス転移温度(T3)が低すぎると、コート層表面のべたつき(タック)が多くなって、本発明の効果が得られにくくなる可能性がある。一方、T3が高すぎると、接着層の加熱硬化温度域でコート層が十分に軟化しないため、接着層による接着力を十分に発揮できないおそれがある。
【0054】
本実施形態では
、例えば、接着層を形成する接着剤組成物に含有させる、重量平均分子量が800未満のエポキシ樹脂として、商品名NC2000L(ノボラック型エポキシ樹脂、日本化薬、エポキシ当量229〜244、軟化温度47〜57℃)を用いる場合(接触角86.4度)、コート層を形成する樹脂として、ビスフェノールAタイプの商品名PKHH(接触角83.3度)を用いることが望ましい。
【0055】
本発明の一実施形態に係る接着シートは、上述したように、基材上に接着層とコート層を順次形成することで作製してもよい。また上述したように、別途用意した離型フィルム上にコート層と接着層を順次形成した後、これに基材を貼り合わせる(ラミネートする)ことで作製してもよい。さらに、離型フィルムにコート層を形成したものと、基材に接着層を形成したものを貼り合わせる(ラミネートする)ことで作製することもできる。
【0056】
以上のような本発明の接着シートは、例えば、画像表示装置(液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ等)に固定された画像表示部材や、携帯電子機器(携帯電話や携帯情報端末等)に固定された光学部材(カメラやレンズ等)と、筐体(窓部)との間に生ずる隙充填材としての用途のほか、モータやジェネレータに用いられるステータのコイルエンド部において隣接する相の異なるコイル間の間隙や、ステータコアのスロット溝内の間隙等に介装させる用途として、電気・電子業界において広く用いることができる。
特に、モータやジェネレータのステータコアの両端部からコイルを突出させたコイルエンド部において異なるコイルがその巻線束を交差させている箇所で、相間の絶縁性を確保すべく、隣接する相の異なるコイル間に介装させる用途に適している(特開2010−103162号公報、特開2012−170248号公報)。
【0057】
モータやジェネレータに用いられるステータは、ステータコアと、細い銅線に樹脂組成物によって絶縁被覆が施された巻線を巻き束ねたコイルとによって構成されている。ステータコアは、通常、円筒状に形成されており、その内周側には長さ方向に沿って延在する複数条のスロット溝が設けられており、コイルはそれぞれ別のスロット溝に収容させてステータコアに装着されている。このようなコイルは十分な絶縁性を確保する必要があるため、ステータコアのスロット溝内の間隙に絶縁シートが挿入され、これらの絶縁シートが脱落しないよう、液状(ペースト状)の樹脂組成物シール材(例えば、特開2003−33785号公報で開示)で固化し、コイル、絶縁シート及び樹脂組成物が一体化されて使用される。
【0058】
しかしながら、このようなシール材を用いてコイルと絶縁シートを一体化させ、ステータコアのスロット溝内の間隙を埋めようとする場合、ステータコア外層からシール材を回しかける必要があり、本来必要なシール材量よりも多く使用しなければならず、シール材のロスが多くなる。また、シール材を用いる場合、必要箇所以外への付着を生じやすいことから、これを防止するために煩雑な作業を伴うおそれもある。さらに近年、電気・電子機器には小型化、薄型化が求められるとともに、スロットへの導体コイルの占積率向上が求められている。このため、スロット内壁と導体コイルとの間の間隙が1mm以下と狭くなる傾向にあり、この狭い間隙への充填作業を、粘度調整が困難なシール材で賄うのは困難であった。
【0059】
本発明の接着シートは、1mm以下の狭い間隙への充填作業、より具体的には、絶縁シートとシール材を別々に使用していた上記固化用途への代替使用に、特に有益である。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実験例(実施例および比較例を含む)に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、実施例中、特に記載がない場合には、「%」及び「部」は質量%及び質量部を示す。
【0061】
[実施例1〜23及び比較例1〜3]
1.接着層形成塗工液の調製
下記構成成分を表1記載の固形分比(質量換算)で均一に混合して接着層形成塗工液(a〜k)を調製した。各塗工液中の全固形分は30質量%〜50質量%とした。各塗工液に含まれる熱硬化型樹脂(A1〜A11)の詳細を表2に示す。なお、表5に示す実施例1、2、比較例1〜3は、接着層形成塗工液中に熱発泡剤である熱膨張性微小球を含有しない組成とし、その他の実施例は全て熱発泡剤を含有する組成とした。
【0062】
《接着層形成塗工液a〜kの構成成分》
・熱硬化型樹脂(エポキシ樹脂): 表2記載の種類と表1記載の質量部
・硬化剤(固形分100%): 表1記載の質量部
(ジシアンジアミド(DICY)、ジャパンエポキシレジン社製)
・硬化促進剤(固形分100%): 表1記載の質量部
(キュアゾール2MZ−A、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル− (1’)]−エチル−s−トリアジン、四国化成社製)
・熱膨張性微小球(熱発泡剤): 表1記載の質量部
(マツモトマイクロスフェアー、F100M、熱膨張性微小球、質量平均粒径:17〜23μm、熱膨張温度(熱発泡温度T1と同義):120℃、最大熱膨張温度:160℃、膨張倍率:10倍、松本油脂製薬社製)
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
2.コート層形成塗工液の調製
下記構成成分を表3に記載の固形分比(質量換算)で均一に混合してコート層形成塗工液(A〜G)を調製した。各塗工液中の全固形分は30質量%〜50質量%とした。各塗工液に含まれる熱可塑性樹脂(B1〜B7)の詳細を表4に示す。
【0066】
《コート層形成塗工液A〜Gの構成成分》
・熱可塑性樹脂: 表4記載の種類と表3記載の質量部
・硬化剤(固形分75%): 表3記載の質量部
(タケネート600、三井武田ケミカル社製、NCO含有量:43.3%)
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
3.接着シートの作製
表5〜8に示すコート層形成塗工液と接着層形成塗工液を用い、離型フィルム(厚み38μm、バイナNo.23:藤森工業社製)の離型処理面上に、所定のコート層形成塗工液をベーカー式アプリケーターにて塗布した。その後、140℃で1分、乾燥することによって所定厚み(実施例1〜17及び比較例1〜3では5μm、実施例18〜23では、表8「コート層膜厚」欄に記載の値である)のコート層を形成した。次に、コート層表面に、所定の接着層形成塗工液を上記と同様に塗布した。その後、120℃で1〜2分、乾燥することによって所定厚み(実施例1〜17及び比較例1〜3では、50μm、実施例18〜23では、表8「加熱前膜厚」欄に記載の値である)の接着層を形成した。その後、当該接着層表面と基材(厚み25μm、ポリイミドフィルム:カプトン100H、東レデュポン社製)とを80℃の熱を加えながらラミネートした後、離型フィルムを剥離し、実施例1〜23及び比較例1〜3の接着シートを得た。
【0070】
4.評価
得られた各実施例及び比較例の接着シートに対し、下記項目について以下の方法により測定又は評価した。結果を表5〜8に併せて示す。
【0071】
[熱発泡温度(T1)]
測定装置として動的粘弾性測定装置(DMA Q800型、TA instruments社製)を使用し、熱膨張性微小球0.5mgを直径6.0mm(内径5.65mm)、深さ4.8mmのアルミカップに入れ、熱膨張性微小球層の上部にアルミ蓋(5.6mm、厚み0.1mm)をのせて試料を準備した。その試料に上から加圧子により0.01Nの力を加えた状態でサンプル高さを測定した。加圧0.01Nの力を加えた状態で、20℃から300℃まで10℃/minの昇温速度で加熱し、加圧子の垂直方向における変位量を測定する。正方向への変位開始温度を熱発泡温度(T1)とした。
【0072】
[接着層の硬化開始温度(T2)]
測定装置として示差走査熱量計(DSC3200、Mac Science社製)を使用した。作製したシート状の接着層樹脂を、常温から300℃まで10℃/分で昇温したときの、定常範囲におけるDSCベースラインと硬化反応時のDSC上昇線の交わる点を硬化開始温度(T2)とした。
【0073】
[コート層のガラス転移温度(T3)]
測定装置として示差走査熱量計(DSC3200、Mac Science社製)を使用した。作製したシート状のコート層樹脂を、常温から300℃まで10℃/分で昇温したときのDSCベースライン変化点をガラス転移点(T3)とした。
【0074】
[コート層の膜厚(t2)]
各実施例及び比較例で得られた接着シートにつき、接着層を形成する前の積層品2(離型フィルム及びコート層の積層品)について、マイクロメーターを使用して、離型フィルムとコート層の全厚を測定し、得られた測定値から離型フィルムの厚みを減ずることにより算出した。なお、離型フィルムの厚みはマイクロメーターを使用して測定した測定値を用いた。
【0075】
[接着層の膜厚(加熱前)(t1)]
各実施例及び比較例で得られた接着シートにつき、基材をラミネートする前の積層品1(離型フィルム、コート層及び接着層の積層品)について、マイクロメーターを使用して、離型フィルム、コート層及び接着層の全厚を測定し、得られた測定値から接着層を形成する前の積層品2(離型フィルム及びコート層の積層品)の厚みを減ずることにより算出した。
【0076】
[接着層の膜厚(加熱後)]
各実施例及び比較例で得られた接着シートにつき、基材(ポリイミドフィルム)をラミネートする前の積層品1(離型フィルム、コート層及び接着層の積層品)について、それらを5cm×5cmサイズに切り出し、厚み1mmのSPCC鋼板上に接着層が接するように置き、積層品1から離型フィルムを剥離した。次いで190℃に加熱したオーブンに30分間放置した後、取り出した。その後、SPCC鋼板、接着層(及びコート層)の全厚を測定し、得られた測定値から離型フィルムの厚みを減ずることにより算出した。
【0077】
[接着層の割れ(割れ1、2)]
各実施例及び比較例について、コート層のない状態及びコート層のある状態で、それぞれ、加熱発泡前に、接着層側の任意箇所を180度に折り曲げた後、接着層の状態を目視により確認した。その結果、接着層自体の割れ(基材からの接着層の脱落も含む。以下同じ。)が認められなかったものを良好として「〇」、割れが認められた若しくは180度に折り曲げることができなかったものを不良として「×」とした。コート層がないときを「割れ1」として、またコート層があるときを「割れ2」とした。
【0078】
[接着層のタック(タック1、2)]
各実施例及び比較例の加熱又は加熱発泡前の接着シートを、5cm×5cmの大きさに切って、コート層同士が向い合うように6枚重ねて厚み1mmのガラス板に挟んだ。その上に100gの荷重をかけて、常温(25℃)と30℃の両環境下でそれぞれ24時間放置した後、荷重を解除してから常温で30分以上放置した。その後、ガラス板を上下に広げた際の剥離状態を確認することにより、コート層同士が密着しているかどうかを評価した。なお、ここで、コート層のない場合は、接着層同士を向かい合わせて積層し、同様の方法で、接着層同士が密着しているか評価した。
ここで、各接着シートのコート層同士が密着した状態で接着シートの基材と接着層間で剥離が生じることを密着あり、すなわちコート層が常温でタックを示すと判断した。一方、ガラス板を上下に広げた際、接触していたコート層間で剥離する場合は、密着なし、すなわちコート層は、タックを示さないと判断した。両環境下で密着なしであったものを「〇」、30℃環境下でのみ密着ありであったものを「△」、両環境下で密着ありであったものを「×」とした。なお、コート層がないときは「タック1」として、コート層があるときは「タック2」とした。
【0079】
[コート層の消失性]
各実施例及び比較例で得られた接着シートにつき、基材をラミネートする前の積層品1(離型フィルム、コート層及び接着層の積層品)を、厚み1mmのSPCC鋼板上に接着層が接するように置き、離型フィルムを剥離した。さらに厚み1mmのSPCC鋼板を接着層の厚みとコート層の厚みの合計の2倍の間隙を形成するようにして重ねて固定した。次いで190℃に加熱したオーブンに30分間放置した後、取り出した。これをSPCC鋼板上および接着層(及びコート層)の断面が確認できるように垂直に切断し、断面をマイクロスコープにて観察しコート層の有無を確認した。その結果、コート層が無くなりSPCC鋼板に貼着していたものを「◎」、コート層が一部残っていたがSPCC鋼板に貼着していたもの「○」、コート層が残りSPCC鋼板に貼着しなかったものを「×」とした。
【0080】
[接着シートの発泡倍率及び発泡性]
上記「接着層の膜厚(加熱後)」を、上記「コート層の膜厚(t2)」と「接着層の膜厚(加熱前)(t1)」の和で除することにより各例で得られた接着シートの発泡倍率を算出した。その結果、3倍以上であったものを良好として「◎」、2倍以上3倍未満であったものを良好として「○」、粘度上昇により発泡不能であったものを不良として「×」とした。
【0081】
[接着シートの接着強度の測定]
各実施例及び比較例の接着シートのうち基材をラミネートする前の積層品1(離型フィルム、コート層及び接着層の積層品)を厚み1mmのSPCC鋼板(鋼板A)上に接着層が接するように置き、離型フィルムを剥離した。さらに厚み1mmのSPCC鋼板(鋼板B)をコート層側へ重ねて固定した(鋼板A、接着層、コート層及び鋼板Bの積層品)。次いで、この積層品を190℃に加熱したオーブンに30分間放置した後、取り出した。テンシロン万能材料試験機 UTM−5T(エー・アンド・デイ社製)を用いて、加熱後積層品の鋼板Aと鋼板Bを、接着面と平行で、かつ互いに反対の方向(せん断方向)に引張ることにより、せん断接着強度を測定した(単位:MPa)。
なお、前述のとおり、コート層の消失性は、接着シートの断面をマイクロスコープで観察することにより判断するが、試料によっては接着層及びコート層とも透明で上記方法での判断が困難な場合がある。このような場合には、以下の方法で、コート層の消失性を判断することができる。コート層が消失し、接着層が鋼板A及び鋼板Bに接着すると、コート層のみが鋼板に接着するより、せん断接着強度が大きくなる。そのため、離型フィルムにコート層を設けた積層品を上記と同様にして、鋼板Aと鋼板Bとの間に設け、コート層単独のせん断接着強度(Pc)を測定する。
なお、表3に示すコート層形成塗工液A、B、C、D、E、F及びGから作製されたコート層のPcの値は、それぞれ、11MPa、16MPa、16MPa、15MPa、13MPa、7MPa及び8MPaであった。
そして、コート層単独のせん断接着強度(Pc)と加熱後積層品の鋼板Aと鋼板Bのせん断接着強度の測定値(Pm)との比(Pm/Pc)により、コート層の消失性を評価した。ここで、(Pm/Pc)の値が110%を超えたものを「◎」、100%を超え110%以下であったのものを「○」、100以下であったのものを「×」とした。なお、接着層の形状が保てず測定ができなかったものを「−」とした。
【0082】
【表5】
表5に示すように、接着層に軟化温度47℃〜57℃のノボラックを用いた比較例1、2及び実施例1、2は、接着層単独でタックを示した。ここで、コート層として、ガラス転移温度−23℃のエチレン−酢酸ビニル共重合体及びガラス転移温度が15℃のフェノキシ樹脂を用いた比較例1及び比較例2では、コート層が常温でタックを示し、接触層にコート層を積層した接着シートのタックを抑制できなかった。一方、コート層として、ガラス転移温度92℃のフェノキシ樹脂及びガラス転移温度が67℃のポリエステル樹脂を用いた実施例1及び実施例2では、コート層は常温でタックを示さず、接触層にコート層を積層した接着シートではタックが抑制され、作業性が向上することがわかった。
また、接着層として、軟化温度112℃の固体ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた比較例3では、接着層単独で、常温でタックを示さなかったが、割れが生じた。この接着層にコート層として、ガラス転移温度92℃のフェノキシ樹脂を積層した接着シートでは、タックもなく、割れの発生も抑制されたが、加熱後のコート層の消失が認められず、接着強度が低いことがわかった。
以上の結果より、コート層が常温でタックを示さず、接着シートを、接着層の硬化開始温度以上に加熱することにより、コート層の少なくとも一部が、接着層とコート層の界面からコート層表面に至る範囲で消失する本発明の構成による効果が確認された。
【0083】
【表6】
【0084】
実施例3〜7では、接着層として、いずれも軟化温度47〜57℃のノボラック型エポキシ樹脂を用い、異なる種類のコート層を積層して、接着シートを作製した。接着層単独では、タックを示したが、ガラス転移温度60℃〜150℃で、常温でタックを示さないコート層を用いた実施例3〜7のいずれにおいても接着シートでは、タックが抑制できることがわかった。また、実施例3〜7のいずれにおいても優れた発泡性が得られた。
一方、コート層のガラス転移温度が60℃〜130℃の実施例3〜6では、コート層が完全に消失したのに対して、コート層のガラス転移温度が150℃の実施例7では、コート層の消失が一部しか認められず、接着強度も低下する傾向が認められた。
上記結果より、コート層のガラス転移温度は、60℃以上140℃以下であることが好ましいといえる。
【0085】
【表7】
【0086】
表7に示すように、『接着層単独』の場合、割れ1、タック1及び発泡性のすべてが良好なものは存在しなかった(全例において少なくとも1つの×がある)。そうであるにもかかわらず、コート層を加えた『コート層を含む』では、タック2を改善することができた。これにより、割れ2、タック2及び発泡性のすべてが良好なものが存在することとなった(実施例4、5、9〜15)。
なお、表には記載していないが、接着剤組成物の熱硬化型樹脂として、A1を用いた接着層形成塗工液aを使用した場合、良好な発泡性等を得るのが難しいことがわかった。このことから、接着剤組成物に添加する熱硬化型樹脂としては、半固形又は固形樹脂が好ましいと考えられる。
【0087】
実施例4、5及び8より、『接着層単独』ではべたついていても、コート層があることによって、べたついた膜をカバーするため、セパレータを用いなくても作業性の低下抑制に寄与しうることが確認できた(タック2が〇)。また、実施例9〜15より、『接着層単独』では割れても、コート層があることによって、割れた膜が保持されているため、加熱した際にコート層が消失(接着層中に取り込まれる)し、使用に支障を来すことがないことが確認できた(割れ2が〇、コート層消失性が◎)。
【0088】
【表8】
【0089】
表8に示すように、コート層の膜厚t2が接着層の膜厚t1の60%以下のもの(実施例4、18、19、21、5、22、23)は、コート層の膜厚t2が接着層の膜厚t1の83%のもの(実施例20)と比較して、コート層の消失性が良好なものとなった。ただし、実施例20のものも実用に十分耐えうるものである。