【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、腫瘍に伴って発現する抗原およびそれをコードする核酸を同定し提供する方法を追及した。この方法の根拠は、特定の遺伝子は器官特異的に、たとえば、大腸、肺または腎臓の組織で専ら発現するが、それぞれの各器官の腫瘍細胞でばかりでなく、他の組織の腫瘍細胞においても転移的な許しがたい様式で再活性化するという事実である。最初に、データを探査して、公知の器官特異的遺伝子全てのできるだけ完全なリストを作り、次いで、それらが異なる腫瘍で異常に活性化するのを評価するために特定のRTPCRによって発現を解析する。データ探査は、腫瘍関連遺伝子を同定する公知の方法である。しかし、従来の方法では、一般に正常組織ライブラリーのトランスクリプトームが腫瘍組織ライブラリーから電子的に欠失される。これはそれ以外の遺伝子が腫瘍特異的なのであろうという仮定による(Schmittら, Nucleics Res. 27:4251-60, 1999;Vasmatzisら, Proc.Natl. Acad. Sci. USA. 95:300-4, 1998;Scheurleら, Cancer Res. 60:4037-43, 2000)。
【0008】
しかし、本発明の考え方の基本は、データ探査を利用して器官特異的遺伝子を電子的に抽出し、次いでこれら遺伝子の腫瘍中での発現を評価することであり、これは非常に成功だったことが判っている。
【0009】
すなわち、一態様において、本発明は、腫瘍中で別異の発現をした組織特異的遺伝子を同定する方法に関する。この方法によって、一般の配列ライブラリー(「インシリコ」)をデータ探査することと、続いて研究室実験(「ウェットベンチ」)の研究成果を評価することとが組合わされる。
【0010】
2つの異なる生命情報科学スクリプトに基づいて組み合わせた本発明方法により、腫瘍遺伝子が新規に同定可能になった。これら遺伝子は、純粋に器官特異的なものとして予め分類されている。これらの遺伝子は腫瘍細胞中で異常に活性化するという知見によれば、機能的な意味合いのある実質的に新しい特質をこれら遺伝子に付与することが可能になる。これらの腫瘍関連遺伝子およびそれによってコードされる遺伝子産物が、免疫抗原性作用とは別個に本発明により同定され提供された。
【0011】
本発明によれば、同定された腫瘍関連抗原は、(a)SEQ ID NO:1〜8、41〜44、51〜59、84、117、119および138からなる群から選択される核酸配列、またはその一部あるいは誘導体を含む核酸、(b)ストリンジェントな条件下で(a)の核酸とハイブリッド形成する核酸、(c)(a)または(b)の核酸に関して変性した核酸、および(d)(a)、(b)または(c)の核酸に対して相補的である核酸、からなる群から選択される、核酸によってコードされたアミノ酸配列を有する。好ましい実施形態では、本発明により同定された腫瘍関連抗原は、SEQ ID NO:1〜8、41〜44、51〜59、84、117、119および138からなる群から選択される核酸によってコードされたアミノ酸配列を有する。さらに好ましい実施形態では、本発明により同定された腫瘍関連抗原は、SEQ ID NO:9〜19、45〜48、60〜66、85、90〜97、100〜102、105、106、111〜116、118、120、123、124、135〜137、139および142〜150からなる群から選択されるアミノ酸配列、またはその一部あるいは誘導体を含む。
【0012】
本発明は、本発明により同定された腫瘍関連抗原またはその一部あるいは誘導体、それらをコードする核酸、前記コードする核酸に対する核酸、または本発明により同定された腫瘍関連抗原に対する抗体またはその一部あるいは誘導体を、治療および診断に使用することに関する。これらの抗原、機能的断片、核酸、抗体等は、それぞれ個別に、あるいは2以上を組み合わせて、あるいは実施形態によっては他の腫瘍関連遺伝子および抗原と組み合わせて、診断、治療および進行制御に利用してよい。
【0013】
治療および/または診断に適した疾患は、本発明により同定される腫瘍関連抗原の1以上が選択的に発現するまたは異常に発現する疾患である。
【0014】
本発明は、また、腫瘍細胞に伴って発現する核酸および遺伝子産物に関する。
【0015】
さらに、本発明は、公知の遺伝子が選択的スプライシングを受けて(スプライス変異体)または別のオープン・リーディング・フレームを使用したために変化した翻訳を受けて生成した核酸およびタンパク質またはペプチドの遺伝子産物に関する。この態様では、本発明は、配列表のSEQ ID NO:3〜5による配列からなる群から選択される核酸配列を含む核酸に関する。さらに、この態様では、本発明は、配列表のSEQ ID NO:10および12〜14による配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むタンパク質またはペプチドに関する。本発明によれば、本発明のスプライス変異体は、腫瘍疾患の診断および治療のための標的物質として使用することができる。
【0016】
特に、本発明は、配列表のSEQ ID NO:10によるアミノ酸配列に関し、この配列は本発明によって同定された別のオープン・リーディング・フレームによってコードされており、予め記載したタンパク質配列(SEQ ID NO:9)と異なる点はこのタンパク質のN末端に85個のアミノ酸が追加されていることである。
【0017】
スプライス変異体は、極めて異なるメカニズムによって産生されると推測される。例えば、
− 利用する転写開始部位が変動する。
− 利用するエクソンが追加される。
− 1個あるいは2以上のエクソンのスプライスアウトが完全であったり不完全であったりする。
− 突然変異(新しい供与体/受容体配列の欠失または生成)を介してスプライス調整因子の配列が変化する。
− イントロン配列の除去が不完全である。
【0018】
遺伝子が選択的スプライシングを受けると転写産物の配列が変化する(スプライス変異体)。その変化した配列の領域でスプライス変異体が翻訳されると、元のタンパク質とは構造および機能において明確に異なる別のタンパク質になる。腫瘍関連スプライス変異体により、腫瘍関連転写産物および腫瘍関連タンパク質/抗原が産生すると推測される。これらは、腫瘍細胞を検出するためおよび腫瘍の治療的標的物質用の分子マーカーとして使用可能である。本発明により、たとえば、血液、血清、骨髄、痰、気管支洗浄液、分泌液および生体組織切片において腫瘍細胞を検出するためには、たとえば、核酸を抽出した後にスプライス変異体に特異的なオリゴヌクレオチドでPCR増幅を行えばよい。特に、そのオリゴヌクレオチドとして適切なプライマー対では、その少なくとも1種はスプライス変異体の腫瘍関連領域にストリンジェントな条件下で結合する。本発明によれば、実施例に記載のオリゴヌクレオチド、特に、配列表のSEQ ID NO:34〜36、39、40および107〜110から選択される配列を有するあるいは含むオリゴヌクレオチドはこの目的のために適切である。本発明によれば、配列に依存する検出システムは全て検出に適切である。これらは、PCRとは別に、たとえば、遺伝子チップ/マイクロアレーシステム、ノーザンブロット、リボヌクレアーゼ保護アッセイ(RDA)などである。全ての検出システムに共通する点は、スプライス変異体に特異的な少なくとも1個の核酸配列と特異的にハイブリッド形成することを検出の基礎とすることである。しかし、腫瘍細胞を本発明により検出するために、スプライス変異体がコードする特異的抗原決定基を認識する抗体を使用してもよい。該抗体を調製するために、前記スプライス変異体に対して特異的なペプチドを免疫化に使用してもよい。この態様では、本発明は、特に、配列表のSEQ ID NO:17〜19、111〜115、120および137から選択される配列を有するまたは含むペプチドおよびこれに対する特異的抗体に関する。
【0019】
また、腫瘍細胞を検出するために、腫瘍特異的に修飾されたグリコシル化変異体を認識する抗体を使用してもよい。そのような抗体の産生のためには、腫瘍細胞と正常細胞との間で異なるグリコシル化をするペプチド領域があれば適切である。この態様では、本発明は、特に、配列表のSEQ ID NO:17〜19、111〜115、120、137および142〜145から選択される配列を有するまたは含むペプチドおよびそれに対する特異的抗体に関する。N結合糖残基が内因的に脱グリコシル化すると、アスパラギンがアスパラギン酸に変換する。本発明によれば、本明細書に記載のタンパク質は配列を腫瘍特異的に変更させ、その結果生物学的および抗体結合的特性を変化させることができる。この態様では、本発明は、特に、配列表のSEQ ID NO:146〜150から選択される配列を有するまたは含むペプチドおよびそれに対する特異的抗体に関する。
【0020】
好ましくは正常細胞で産生した遺伝子産物の変異体とは明らかに相違する抗原決定基を持つアミノ酸は、免疫化にとって特に適する。腫瘍細胞の検出は、患者から単離した試料に抗体を使用して、あるいは静脈内投与した抗体で画像化して行ってもよい。新しいまたは変化した抗原決定基を有するスプライス変異体は、診断的に有用であるばかりか、免疫治療の標的物質として魅力的である。本発明の抗原決定基を利用して、治療上活性なモノクローナル抗体またはTリンパ球を標的としてもよい。受動的免疫治療では、スプライス変異体に特異的な抗原決定基を認識する抗体またはTリンパ球を養子免疫移入する。また、他の抗原の場合と同様に、標準技術(動物の免疫化、遺伝子組換え抗体の単離のためのパンイング方法)を使用して抗体を産生するに当たり、これら抗原決定基を含むポリペプチドを利用する。あるいは、前記抗原決定基を含むオリゴ−またはポリペプチドをコードする核酸を免疫化に利用することも可能である。抗原決定基特異的Tリンパ球のインビトロまたはインビボ生産のための種々の技術は、公知であり、詳細に記載されている(たとえば、Kessler JHら, 2001, Sahinら, 1997)。これらの技術は、同様に、スプライス変異体特異的抗原決定基を含むオリゴ−またはポリペプチドの利用または該オリゴ−またはポリペプチドをコードする核酸の利用に基礎を置く。また、このスプライス変異体特異的抗原決定基を含むオリゴ−あるいはポリペプチド、または該ポリペプチドをコードする核酸は、能動的免疫治療(ワクチン接種、ワクチン治療)において、医薬的に活性な物質として使用してもよい。
【0021】
また、本発明は、正常組織および腫瘍組織において、性質および2次修飾の程度が異なるタンパク質に関する(たとえば、Durand & Seta, 2000; Clin. Chem. 46: 795-805; Hakomori, 1996;Cancer Res. 56: 5309-18)。
【0022】
タンパク質修飾の分析は、ウェスタンブロット法で行うことができる。特に、一般的に数kDaのグリコシル化体があると、SDS−PAGEで分離可能な標的タンパク質の全質量は高くなる。特異的O−およびN−グリコシド結合を検出するには、タンパク質溶解物をO−またはN−グリコシラーゼ(それぞれ作製者の説明によれば、たとえば、PNGアーゼ、エンドグリコシターゼF、エンドグリコシターゼH、ロッシェ診断剤)と共にインキュベートし、次にSDSを使用して変性させる。その後、ウェスタンブロット法を行う。標的タンパク質のサイズを縮小した場合は、特異的グリコシル化体をグリコシダーゼと共にインキュベートしてから同上の方法で検出することができ、したがって、修飾の腫瘍特異性も分析することができる。腫瘍細胞および正常細胞においてグリコシル化が異なっているタンパク質の領域は、特に興味深い。しかし、グリコシル化におけるこのような相違がこれまでに記述されているのは、数種の細胞表面タンパク質だけである(たとえば、Muc1)。
【0023】
本発明により、腫瘍におけるクローディン−18の種々異なるグリコシル化を検出することが可能であった。消化器癌、膵臓癌、食道腫瘍、前立腺腫瘍および肺腫瘍では、クローディン−18のグリコシル化のレベルが低い。クローディン−18タンパク質の抗原決定基は正常組織ではグリコシル化によりマスクされるが、腫瘍細胞ではグリコシル化が欠如しているので覆われていない。したがって、本発明によれば、それらのドメインに結合するリガンドおよび抗体を選択することが可能である。本発明によるそのようなリガンドおよび抗体は健常細胞上のクローディン−18には結合しない。理由はグリコシル化により抗原決定基が覆われているからである。
【0024】
したがって、腫瘍関連スプライス変異体から誘導したタンパク質抗原決定基に関して前記したように、種々異なるグリコシル化を利用して診断および治療の目的で正常細胞と腫瘍細胞とを識別することができる。
【0025】
一態様において、本発明は、本発明により同定される腫瘍関連抗原を認識する薬剤を含む医薬組成物に関し、その薬剤は、本発明により同定される腫瘍関連抗原の発現または異常発現を示す細胞に選択的であるものが好ましい。特定の実施形態では、前記薬剤は、細胞死の誘導、細胞増殖の低減、細胞膜への損傷またはサイトカイン分泌を起こしてもよく、腫瘍阻害活性であるのが好ましい。一実施形態では、薬剤は、腫瘍関連抗原をコードする核酸と選択的にハイブリッド形成するアンチセンス核酸である。さらなる実施形態では、薬剤は、腫瘍関連抗原に選択的に結合する抗体であり、特に、補体により活性化されまたは毒素が結合した抗体であって、腫瘍関連抗原に選択的に結合する抗体である。さらなる実施形態では、薬剤が2以上の薬剤を含み、それら薬剤はそれぞれに別異の腫瘍関連抗原を選択的に認識し、ただしそれら抗原の少なくとも1種は本発明により同定される腫瘍関連抗原である。認識には、抗原の活性または発現の抑制を直接伴う必要はない。本発明のこの態様では、抗原を腫瘍に選択的に限定した場合には、この抗原は腫瘍の特定位置にエフェクターを動員するメカニズムのための標識として機能させるのが好ましい。好ましい実施形態では、薬剤は細胞障害性Tリンパ球であり、HLA分子上の抗原を認識して、このように標識した細胞を溶解する。さらなる実施形態では、薬剤は、腫瘍関連抗原に選択的に結合する抗体であり、前記細胞に天然または人工のエフェクターを動員する。さらなる実施形態では、薬剤は、ヘルパーTリンパ球であり、前記抗原を特異的に認識する他の細胞のエフェクター機能を強化する。
【0026】
一態様において、本発明は、本発明により同定される腫瘍関連抗原の発現または活性を抑制する薬剤を含む医薬組成物に関する。好ましい実施形態では、薬剤は、腫瘍関連抗原をコードする核酸と選択的にハイブリッド形成するアンチセンス核酸である。さらなる実施形態では、薬剤は腫瘍関連抗原に選択的に結合する抗体である。さらなる実施形態では、薬剤が2以上の薬剤を含み、それら薬剤はそれぞれ別異の腫瘍関連抗原の発現または活性を選択的に抑制し、ただしそれら抗原の少なくとも1種は本発明により同定される腫瘍関連抗原である。
【0027】
さらに、本発明は、投与した時、HLA分子と本発明により同定された腫瘍関連抗原由来のペプチド抗原決定基との複合体の量を選択的に増加する薬剤を含む医薬組成物に関する。一実施形態では、薬剤は、(i)腫瘍関連抗原またはその一部、(ii)前記腫瘍関連抗原またはその一部をコードする核酸、(iii)前記腫瘍関連抗原またはその一部を発現する宿主細胞、および(iv)前記腫瘍関連抗原由来のペプチド抗原決定基とMHC分子との単離した複合体からなる群から選択される1以上の成分を含む。一実施形態では、薬剤が2以上の薬剤を含み、それら薬剤はそれぞれ別異の腫瘍関連抗原由来のペプチド抗原決定基とMHC分子との複合体の量を選択的に増加し、ただしそれら抗原の少なくとも1種は本発明により同定される腫瘍関連抗原である。
【0028】
さらに、本発明は、(i)本発明により同定される腫瘍関連抗原またはその一部、(ii)本発明により同定される腫瘍関連抗原をコードする核酸またはその一部、(iii)本発明により同定される腫瘍関連抗原に結合する抗体、またはその一部、(iv)本発明により同定される腫瘍関連抗原をコードする核酸と特異的にハイブリッド形成するアンチセンス核酸、(v)本発明により同定される腫瘍関連抗原を発現する宿主細胞またはその一部、および(vi)本発明により同定される腫瘍関連抗原またはその一部とHLA分子との単離複合体、からなる群から選択される1以上の成分を含む医薬組成物に関する。
【0029】
本発明により同定される腫瘍関連抗原またはその一部をコードする核酸が医薬組成物において発現ベクター中に存在し、プロモーターに機能的に結合してもよい。
【0030】
本発明の医薬組成物中に存在する宿主細胞は、腫瘍関連抗原またはその一部を分泌し、それを表面で発現してもよく、あるいは、前記腫瘍関連抗原またはその一部に結合するHLA分子を追加的に発現してもよい。一実施形態では、宿主細胞は内因性的にHLA分子を発現する。さらなる実施形態では、宿主細胞は、遺伝子組換え方法によりHLA分子および/または腫瘍関連抗原またはその一部を発現する。宿主細胞は、非増殖性が好ましい。好ましい実施形態では、宿主細胞は抗原提示細胞であり、特に樹状細胞、単核細胞またはマクロファージである。
【0031】
本発明の医薬組成物中に存在する抗体は、モノクローナル抗体であってもよい。さらなる実施形態では、抗体は、キメラまたはヒト化抗体、天然抗体または合成抗体の断片であって、その全てをコンビナトリー技術によって生成してもよい。抗体は、治療または診断的に有益な薬剤と合わさっていてもよい。
【0032】
本発明の医薬組成物中に存在するアンチセンス核酸は、6〜50個、特に、10〜30個、15〜30個および20〜30個の本発明により同定された腫瘍関連抗原をコードする核酸の連続するヌクレオチドを含んでもよい。
【0033】
さらなる実施形態では、本発明の医薬組成物が提供する腫瘍関連抗原は、直接にまたは核酸またはその一部の発現を介して、細胞の表面上のMHC分子に結合し、該結合によって細胞溶解性応答が生起されおよび/またはサイトカイン放出が誘発されるのが好ましい。
【0034】
本発明の医薬組成物は、医薬的に適合性のある担体および/またはアジュバントを含んでもよい。アジュバントは、サポニン、GM−CSF、CpGヌクレオチド、RNA、サイトカインまたはケモカインから選択されてもよい。本発明の医薬組成物は、腫瘍関連抗原の選択的発現または異常発現を特徴とする疾患の治療のために使用されるのが好ましい。好ましい実施形態では、疾患は癌である。
【0035】
さらに、本発明は、1種以上の腫瘍関連抗原の発現または異常発現を特徴とする疾患を治療、診断および/またはモニタリングする方法に関する。実施形態では、治療は、本発明の医薬組成物を投与することを含む。
【0036】
好ましくは、疾患は癌であり、語句「癌」は、白血病、セミノーマ、メラノーマ、奇形腫、グリオーマ、腎臓、副腎、甲状腺、腸、肝臓、大腸、胃、胃腸、リンパ腺、食道、結腸直腸、膵臓、耳、鼻および喉(耳鼻咽喉)、胸、前立腺、子宮、卵巣および肺の癌、およびその転移が含まれるが、これらに限定されない。
【0037】
一態様において、本発明は、本発明により同定される腫瘍関連抗原の発現または異常発現を特徴とする疾患を診断する方法に関する。該方法は、患者から単離された生物試料における(i)腫瘍関連抗原をコードする核酸またはその一部の検出および/または(ii)腫瘍関連抗原またはその一部の検出および/または(iii)腫瘍関連抗原に対する抗体またはその一部の検出および/または(iv)腫瘍関連抗原またはその一部に特異的な細胞障害性リンパ球またはヘルパーTリンパ球の検出、を含む。特定の実施形態では、検出は、(i)生物試料を、腫瘍関連抗原をコードする核酸あるいはその一部、前記腫瘍関連抗原あるいはその一部、抗体、または腫瘍関連抗原またはその一部に特異的な細胞障害性リンパ球あるいはヘルパーTリンパ球に、特異的に結合する薬剤に接触させることと、(ii)薬剤と、核酸あるいはその一部、腫瘍関連抗原あるいはその一部、抗体、または細胞障害性あるいはヘルパーTリンパ球との複合体の形成を検出すること、とを含む。一実施形態では、疾患は、複数の異なる腫瘍関連抗原の発現または異常発現を特徴とし、検出は、前記複数の異なる腫瘍関連抗原をコードする複数の核酸またはそれらの一部の検出、複数の異なる腫瘍関連抗原またはそれらの一部の検出、前記複数の異なる腫瘍関連抗原に結合する複数の抗体またはそれらの一部の検出、または前記複数の異なる腫瘍関連抗原に特異的な複数の細胞障害性またはヘルパーTリンパ球の検出を含む。さらなる実施形態では、患者から単離された生物試料を、対応する正常な生物試料と比較する。
【0038】
さらなる態様では、本発明は、本発明により同定される腫瘍関連抗原の発現または異常発現を特徴とする、疾患の後退、進行または発病を決定する方法であって、前記疾患を患うまたは前記疾患であることが疑われる患者からの試料を、(i)腫瘍関連抗原をコードする核酸またはその一部の量、(ii)腫瘍関連抗原またはその一部の量、(iii)腫瘍関連抗原またはその一部に結合する抗体の量、および(iv)腫瘍関連抗原またはその一部とMHC分子との複合体に特異的な細胞溶解性T細胞またはヘルパーT細胞の量からなる群から選択される1以上のパラメーターについて、モニタリングすることを含む。該方法は、第一時点で第一試料において、第二時点で更なる試料においてパラメーター(複数を含む)を測定し、疾患の進行を2つの試料を比較することによって決定することを含むのが好ましい。特定の実施形態では、疾患は、複数の異なる腫瘍関連抗原の発現または異常発現を特徴とし、モニタリングが、(i)前記複数の異なる腫瘍関連抗原をコードする複数の核酸またはそれらの一部の量および/または(ii)前記複数の異なる腫瘍関連抗原またはそれらの一部の量および/または(iii)前記複数の腫瘍関連抗原またはそれらの一部に結合する複数の抗体の量および/または(iv)前記複数の異なる腫瘍関連抗原またはそれらの一部とMHC分子との複合体に特異的である複数の細胞溶解性T細胞またはヘルパーT細胞の量をモニタリングすることを含む。
【0039】
本発明によれば、核酸またはその一部の検出、または核酸またはその一部の量のモニタリングは、前記核酸またはその一部と特異的にハイブリッド形成するポリヌクレオチドプローブを使用して行ってもよく、または前記核酸またはその一部の選択的増幅によって行ってもよい。一実施形態では、ポリヌクレオチドプローブは、6〜50個の配列、特に、10〜30個、15〜30個および20〜30個の前記核酸の連続するヌクレオチドを含む。
【0040】
特定の実施形態では、検出すべき腫瘍関連抗原またはその一部は、細胞内にあるいは細胞表面上に存在する。本発明によれば、腫瘍関連抗原またはその一部の検出、または腫瘍関連抗原またはその一部の量のモニタリングは、前記腫瘍関連抗原またはその一部に特異的に結合する抗体を使用して行ってもよい。
【0041】
さらなる実施形態では、検出すべき腫瘍関連抗原またはその一部は、MHC分子、特にHLA分子との複合体の中に存在する。
【0042】
本発明によれば、抗体の検出、または抗体の量のモニタリングは、前記抗体に特異的に結合するタンパク質またはペプチドを使用して行ってもよい。
【0043】
本発明によれば、抗原またはその一部とMHC分子との間の複合体に特異的な、細胞溶解性T細胞またはヘルパーT細胞の検出、または細胞溶解性T細胞またはヘルパーT細胞の量のモニタリングは、前記抗原またはその一部とMHC分子との間に複合体を提供する細胞を使用して行ってもよい。
【0044】
検出またはモニタリングのために使用されるポリヌクレオチドプローブ、抗体、タンパク質あるいはペプチド、または細胞は、検出可能に標識を付されるのが好ましい。特定の実施形態では、検出可能なマーカーは、放射活性マーカーまたは酵素的マーカーである。リンパ球をさらに検出するために、それらの増殖、サイトカイン生成、およびMHCと腫瘍関連抗原またはそれらの一部との複合体による特異的な刺激によって誘発した細胞障害活性、を検出してもよい。また、Tリンパ球は、遺伝子組換えMHC分子、もしくは1以上の腫瘍関連抗原の特定の免疫抗原性断片を有する2以上のMHC分子の複合体によって検出してもよい。これらの特異的T細胞受容体に接触せしめれば特異的Tリンパ球の同定が可能である。
【0045】
さらなる態様では、本発明は、本発明により同定される腫瘍関連抗原の発現または異常発現を特徴とする疾患の治療、診断、またはモニタリングする方法に関し、該方法は、前記腫瘍関連抗原またはその一部に結合する抗体であって、治療剤または診断剤と結合している抗体を投与することを含む。抗体は、モノクローナル抗体であってもよい。さらなる実施形態では、抗体は、キメラあるいはヒト化抗体、または天然抗体の断片である。
【0046】
ある実施形態では、本発明により同定される腫瘍関連抗原の発現または異常発現を特徴とする疾患を診断するまたはモニタリングする方法を実施するために、それの補助または手段として拡散する腫瘍細胞または腫瘍転移を検出する。拡散する腫瘍細胞は、たとえば、血液、血清、骨髄、痰、気管支吸引液および/または気管支洗浄液中で検出することができる。
【0047】
また、本発明は、本発明により同定される腫瘍関連抗原の発現または異常発現を特徴とする疾患を患う患者を治療する方法に関し、該方法は、(i)前記患者から反応性細胞を含む試料を取り出すことと(ii)該試料を、前記腫瘍関連抗原またはその一部に対して、細胞溶解性またはサイトカイン放出性T細胞の産生を支持する条件下で、前記腫瘍関連抗原またはその一部を発現する宿主細胞と接触させることと、(iii)細胞溶解性T細胞を、腫瘍関連抗原またはその一部を発現する細胞を溶解するのに適した量、患者に導入することとを含む。同様に、本発明は、腫瘍関連抗原に対する細胞溶解性T細胞のT細胞受容体のクローニングに関する。該受容体は、所望の特異性を受理する他のT細胞に移行させてもよく、また(iii)のように患者に導入してもよい。
【0048】
一実施形態では、宿主細胞は、HLA分子を内因的に発現する。さらなる実施形態では、宿主細胞は、HLA分子および/または腫瘍関連抗原またはその一部を、組換え遺伝子により発現する。宿主細胞は、非増殖性であるのが好ましい。好ましい実施形態では、宿主細胞は、抗原提示細胞、特に、樹状細胞、単核細胞またはマクロファージである。
【0049】
さらなる態様では、本発明は、腫瘍関連抗原の発現または異常発現を特徴とする疾患を患う患者を治療する方法に関し、該方法は、(i)本発明により同定される腫瘍関連抗原をコードし、前記疾患に伴う細胞によって発現する核酸を同定することと、(ii)宿主細胞を前記核酸またはその一部でトランスフェクションすることと、(iii)前記核酸の発現のためにトランスフェクションされた宿主細胞を培養すること(トランスフェクション効率が高い場合、これは必須ではない)と、(iv)宿主細胞またはその抽出物を、疾患に伴う患者の細胞に対する免疫応答を増加させるのに適切な量、患者に導入すること、を含む。該方法には、さらに、腫瘍関連抗原またはその一部を提供するMHC分子の同定、ならびに同定したMHC分子を発現し腫瘍関連抗原またはその一部を提供する宿主細胞の同定が含まれてよい。免疫応答は、B細胞応答またはT細胞応答を含んでもよい。さらに、T細胞応答は、腫瘍関連抗原またはその一部を提供する宿主細胞に特異的な、または前記腫瘍関連抗原またはその一部を発現する患者の細胞に特異的な、細胞溶解性T細胞および/またはヘルパーT細胞の産生を含んでもよい。
【0050】
また、本発明は、本発明により同定される腫瘍関連抗原の発現または異常発現を特徴とする疾患を治療する方法に関し、該方法は、(i)腫瘍関連抗原の異常量を発現する患者から細胞を同定することと、(ii)該細胞の試料を単離することと、(iii)該細胞を培養することと、(iv)該細胞を、細胞に対する免疫応答を誘発するのに適切な量、患者に導入することとを含む。
【0051】
本発明で使用される宿主細胞は、非増殖性または非増殖性にされたものが好ましい。腫瘍関連抗原の発現または異常発現を特徴とする疾患は、特に、癌である。
【0052】
さらに、本発明は、
(a)SEQ ID NO:3〜5からなる群から選択される核酸配列、その一部または誘導体を含む核酸であって、(b)ストリンジェントな条件下で、(a)の核酸とハイブリッド形成する核酸、(c)(a)または(b)の核酸に関して変性した核酸、および(d)(a)、(b)または(c)の核酸に対して相補的である核酸からなる群から選択される核酸に関する。さらに、本発明は、SEQ ID NO:10、12〜14および146〜150からなる群から選択されるアミノ酸配列、その一部または誘導体を含むタンパク質またはポリペプチドをコードする核酸に関する。
【0053】
さらなる態様では、本発明は、本発明の核酸のプロモーター配列に関する。これらの配列は、好ましくは発現ベクター中で別の遺伝子に機能的に結合してもよく、これにより、適正な細胞中での前記遺伝子の選択的発現が確保される。
【0054】
さらなる態様では、本発明は、本発明の核酸を含む、遺伝子組換え核酸分子、特にDNAまたはRNA分子に関する。
【0055】
また、本発明は、本発明の核酸、または本発明の核酸を含む遺伝子組換え核酸分子を含む宿主細胞に関する。
【0056】
また、宿主細胞は、HLA分子をコードする核酸を含んでもよい。一実施形態では、宿主細胞は、HLA分子を内因適に発現する。さらなる実施形態では、宿主細胞は、HLA分子および/または本発明の核酸またはその一部を、遺伝子組換え的に発現する。宿主細胞は非増殖性であるのが好ましい。好ましい実施形態では、宿主細胞は、抗原提示細胞、特に、樹状細胞、単核細胞またはマクロファージである。
【0057】
さらなる実施形態では、本発明は、本発明により同定される核酸とハイブリッド形成するオリゴヌクレオチドに関し、これを、遺伝子プローブまたは「アンチセンス」分子として使用してもよい。本発明により同定された核酸またはその一部とハイブリッド形成する核酸分子は、それがオリゴヌクレオチドプライマーまたは適格なプローブの形態であれば、前記本発明により同定した核酸に相同な核酸を見つけるのに使用してもよい。PCR増幅、サザンおよびノーサンハイブリッド形成を、相同な核酸を見つけるために使用してもよい。ハイブリッド形成を行う条件のストリンジェント程度は、低くてもよいが、さらに好ましくは中程度、最も好ましくは高程度である。本発明によれば、語句「ストリンジェントな条件」は、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリッド形成を可能にする条件を言う。
【0058】
さらなる態様では、本発明は、(a)SEQ ID NO:3〜5からなる群から選択される核酸配列、またはその一部あるいは誘導体を含む核酸、(b)ストリンジェントな条件下で(a)の核酸とハイブリッド形成する核酸、(c)(a)または(b)の核酸に関して変性した核酸、および(d)(a)、(b)または(c)の核酸に対して相補的である核酸からなる群から選択される核酸によって、コードされたタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関する。好ましい実施形態では、本発明は、SEQ ID NO:10、12〜14および146〜150からなる群から選択されるアミノ酸配列、その一部または誘導体を含むタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関する。
【0059】
さらなる態様では、本発明は、本発明により同定される腫瘍関連抗原の免疫抗原性断片に関する。該断片は、ヒトHLA受容体またはヒト抗体に結合するのが好ましい。本発明の断片は、少なくとも6個、特に少なくとも8個、少なくとも10個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個または少なくとも50個のアミノ酸配列を含むのが好ましい。
【0060】
この態様では、本発明は、特に、SEQ ID NO:17〜19、90〜97、100〜102、105、106、111〜116、120、123、124、135〜137、139および142〜150からなる群から選択される配列、またはその一部あるいは誘導体を有するまたは含むペプチドに関する。
【0061】
さらなる態様では、本発明は、本発明により同定される腫瘍関連抗原、またはその一部に結合する薬剤に関する。好ましい実施形態では、薬剤は抗体である。さらなる実施形態では、抗体は、キメラあるいはヒト化抗体またはコンビナトリーな技法により生成される抗体であり、または抗体の断片である。さらに、本発明は、(i)本発明により同定される腫瘍関連抗原またはその一部と(ii)本発明により同定された腫瘍関連抗原が結合するMHC分子との複合体には選択的に結合するが、(i)または(ii)の単独には結合しない抗体に関する。本発明の抗体は、モノクローナル抗体でもよい。さらなる実施形態では、抗体は、キメラあるいはヒト化抗体、または天然抗体の断片である。
【0062】
特に、本発明は、SEQ ID NO:17〜19、90〜97、100〜102、105、106、111〜116、120、123、124、135〜137、139および142〜150からなる群から選択される配列、またはその一部あるいは誘導体を有するまたは含むペプチドに特異的に結合する薬剤、特に抗体に関する。
【0063】
クローディン−18に関して、本発明は、また、薬剤、特にクローディン−18の1変異体に特異的に結合する抗体に関する。一実施形態では、薬剤、特に抗体は、変異体クローディン−18A1(SEQ ID NO:118)に特異的に結合する。別の実施形態では、薬剤、特に抗体は、変異体クローディン−18A2(SEQ ID NO:16)に結合する。そのような特異的抗体を得るには、たとえば、実施例4に記載するペプチドを使用して免疫化すればよい。
【0064】
さらに、クローディン−18に関し、本発明は、特定のグリコシル化パターンを有する、クローディン−18A2の形態に特異的に結合する薬剤、特に抗体に関する。一実施形態では、薬剤、特に抗体は、1以上のグリコシル化する筈の部位でグリコシル化していないクローディン−18A2の形態に特異的に結合する。別の実施形態では、薬剤、特に抗体は、1以上のグリコシル化する筈の部位でグリコシル化しているクローディン−18A2の形態に特異的に結合する。好ましくは、そのようなグリコシル化する筈の部位は、クローディン−18A2のアミノ酸位置、37、38、45、116、141、146および205からなる群から選択される1以上の位置に関する。さらに、そのような潜在的グリコシル化は、Nグリコシル化に関するのが好ましい。
【0065】
この点に関し、クローディン−18の変異体または形態に特異的な薬剤、特にクローディン−18の変異体または形態に特異的な抗体とは、その薬剤または抗体がその特異的な変異体または形態に対して、他の変異体や形態に対するよりもより強く結合することを言う。薬剤、特に抗体が第一変異体、形態または第一抗原決定基に結合したときの解離定数(K
D)が、第二変異体、形態または第二抗原決定基に結合したときの解離定数よりも低い場合には、その薬剤、特に抗体は、第二変異体、形状または第二抗原決定基への結合よりも、第一変異体、形態または第一抗原決定基により強く結合する。薬剤、特に抗体が特異的に結合する変異体、形態または抗原決定基との解離定数(K
D)は、抗体が特異的に結合しない変異体、形態または抗原決定基との解離定数(K
D)よりも10倍を超え、好ましくは20倍を超え、より好ましくは50倍を超え、さらにより好ましくは100倍を超え、特に200倍を超え、500倍を超え、または1000倍を超える値で低いのが好ましい。薬剤、特に抗体は、その薬剤、特に抗体が特異的でない変異体、形態または抗原決定基には結合しない、または本質的に結合しないのが好ましい。
【0066】
また、クローディン−18の変異体または形態に特異的に結合する、前記薬剤、特に本明細書に記載の抗体およびその誘導体を本発明の組成物および方法において使用してもよい。
【0067】
さらに、本発明は、本発明により同定される腫瘍関連抗原、その一部または本発明の抗体に結合する本発明の薬剤と治療剤または診断剤との間の結合体に関する。一実施形態では、その治療剤または診断剤は毒素である。
【0068】
さらなる態様では、本発明は、本発明により同定される腫瘍関連抗原の発現または異常発現を検出するためのキットに関し、(i)腫瘍関連抗原をコードかする核酸またはその一部の、(ii)腫瘍関連抗原またはその一部の(iii)腫瘍関連抗原に結合する抗体またはその一部の、および/または(iv)腫瘍関連抗原またはその一部とMHC分子との間の複合体に特異的なT細胞の検出のための薬剤を含む。一実施形態では、核酸またはその一部の検出のための薬剤は、前記核酸の選択的増幅用の核酸分子であり、特に、6〜50個、特に10〜30個、15〜30個および20〜30個の核酸の連続するヌクレオチドの配列を含む。
【0069】
本発明により、腫瘍細胞において選択的にまたは異常に発現され、腫瘍関連抗原である遺伝子が説明される。
【0070】
本発明によれば、これらの遺伝子および/またはその遺伝子産物および/またはそれらの誘導体および/または一部は、治療的アプローチのための好ましい標的構造体である。したがって、前記治療的アプローチは、選択的に発現される腫瘍関連遺伝子産物の活性を抑制することを目的にしてもよい。もし、前記異常な個々の選択的発現が、腫瘍病原性において機能的に重要であり、かつその連結反応が、対応細胞の選択的損傷と同時に起こるなら、これは有用である。他の治療的概念は、腫瘍細胞に対して選択的に細胞障害作用の潜在能力を持つエフェクターメカニズムを動員するラベルとしての腫瘍関連抗原を想定する。ここでは、標的物質分子それ自身の機能と、その腫瘍進行におけるその役割とは、全く無関係である。
【0071】
本発明によれば、核酸の「誘導体」は、単一または複数のヌクレオチドの置換、欠失および/または付加が、前記核酸内に存在することを意味する。さらに、語句「誘導体」は、ヌクレオチド塩基上の、糖上のまたはリン酸塩上の核酸の化学的誘導体も含む。語句「誘導体」は、また、天然では発生しないヌクレオチドおよびヌクレオチド類縁体を含有する核酸も含む
【0072】
本発明によれば、核酸としては、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)が好ましい。本発明によれば、核酸は、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、遺伝子組換えで生成され化学的に合成された分子を含む。本発明によれば、核酸は、1本鎖または2本鎖で、直鎖または共有結合で閉環した分子として存在してもよい。
【0073】
本発明で記載される核酸は、単離されているのが好ましい。語句「単離された核酸」は、本発明によれば、核酸が、(i)たとえば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、インビトロで増幅された、(ii)クローニングによって、遺伝子組換えで生成された、(iii)開裂とゲル電気泳動分画によって精製された、または(iv)たとえば化学的合成法で合成されたことを意味する。単離された核酸は、遺伝子組換えDNA技術の操作のために入手可能である。
【0074】
2つの配列が、ハイブリッド形成可能で、互いに安定な二重鎖が形成可能である場合、核酸は、他の核酸に「相補的」である。ハイブリッド形成は、ポリヌクレオチド間で特異的ハイブリッド形成可能な条件(ストリンジェントな条件)下で行うのが好ましい。ストリンジェントな条件は、たとえば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J.Sambrookら、編集者、第2編、Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York,1989またはCurrent Protocols in Molecular Biology, F.M.Ausubel et al., Editors, John Wiley & Sons, Inc., New Yorkに記載され、たとえば、ハイブリッド形成緩衝液(3.5×SSC、0.02%Ficoll、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%ウシ血清アルブミン、2.5mMのNaH
2PO
4 (pH7)、0.5%SDS、2mMのEDTA)中、65℃でのハイブリッド形成がある。SSCは、0.15Mの塩化ナトリウム/0.15Mのクエン酸ナトリウム、pH7である。ハイブリッド形成後、DNAが転移した膜を、たとえば室温で2×SSC中、次いで68℃までの温度で0.1〜0.5×SSC/0.1×SDS中で洗浄する。
【0075】
本発明によれば、相補的な核酸は、少なくとも40%、特に少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、好ましくは、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%、ヌクレオチドと同一である。
【0076】
本発明によれば、腫瘍関連抗原をコードする核酸は、単独で、または他の核酸、特に異種の核酸との組み合わせで存在する。好ましい実施形態では、核酸は、前記核酸に関して相同性であっても異種性であってもよい、発現制御配列または調節配列に機能的に結合する。コード配列および調節配列が、互いに共有結合で結合する場合は、コード配列の発現または転写が前記調節配列の制御下あるいは影響下にある状態で、「機能的に」互いに結合する。コード配列を機能タンパク質に翻訳するにあたり、そのコード配列に機能的に結合する調節配列が必要な場合には、その調節配列を誘発すれば、コード配列が転写されるので、コード配列内にフレームシフトが生起し、あるいは前記コード配列が所望のタンパク質またはペプチドに翻訳不可能になることはない。
【0077】
本発明によれば、語句「発現制御配列」または「調節配列」は、プロモーター、エンハンサーおよび遺伝子の発現を調整する他の制御要素を含む。本発明特定の実施形態では、発現制御配列は、調整可能である。調節配列の正確な構造は、種または細胞タイプの機能として、異なってもよいが、一般的に、TATAボックス、キャップ配列、CAAT配列などのような、それぞれ転写および翻訳に関わる、5'非転写および5'非翻訳配列を含む。より具体的には、5'非転写調節配列は、機能的に結合した遺伝子の転写の転写制御のためのプロモーター配列を含有するプロモーター領域を含む。また、調節配列は、エンハンサー配列または上流活性化因子配列を含んでもよい。
【0078】
したがって、一方では、本明細書の腫瘍関連抗原は、任意の発現制御配列およびプロモーターと組み合わされてもよい。しかしもう一方では、本発明によれば、ここで記載される腫瘍関連遺伝子産物のプロモーターは、任意の他の遺伝子と組み合わされてもよい。これにより、これらのプロモーターの選択的活性を利用することが可能になる。
【0079】
本発明によれば、核酸は、宿主細胞から前記核酸によってコードされたタンパク質またはポリペプチドの分泌を制御するポリペプチドをコードする、他の核酸との組合わせ中に存在してもよい。本発明によれば、核酸は、コードしたタンパク質またはポリペプチドを宿主細胞の細胞膜上に定着させまたは細胞の特定の細胞器官内に送達するポリペプチドをコードする他の核酸との組み合わせで存在してもよい。同様に、リポーター遺伝子または何かの「タグ」を表現する核酸との組み合わせが可能である。
【0080】
本発明によれば、好ましい実施形態では、遺伝子組換えDNA分子はベクターであり、プロモーターが適正である場合には、核酸、たとえば本発明の腫瘍関連抗原をコードする核酸の発現を制御する。語句「ベクター」は、本明細書ではその最も一般的な意味において使用され、核酸のための何か媒介的な乗り物の意味を含み、これによって該核酸は例えば原核生物および/または真核生物細胞に導入可能となり、適正な場合には、ゲノム中に取り込まれる。この種のベクターは、細胞中で複製および/または発現されるのが好ましい。この媒介的な乗り物は、たとえば、電気穿孔法、微小発射砲撃、リポソーム投与、アグノバクテリウムの活用による転移、DNAまたはRNAウィルスを介する挿入での使用に適用してもよい。ベクターには、プラスミド、ファージミドまたはウィルスゲノムが挙げられる。
【0081】
本発明により同定される腫瘍関連抗原をコードする核酸は、宿主細胞にトランスフェクションのために使用されてもよい。本明細書における核酸は、遺伝子組換えDNAおよびRNAの両方を意味する。遺伝子組換えRNAは、DNAテンプレートのインビトロ転写によって生成してもよい。さらに、使用の前に、配列を安定化する、キャッピングする、およびポリアデニル化するによって修飾してもよい。
【0082】
本発明によれば、語句「宿主細胞」は、外来の核酸によって変換されるまたはトランスフェクションされる任意の細胞を言う。本発明によれば、語句「宿主細胞」は、原核生物(たとえば、大腸菌)または真核生物細胞(たとえば、樹状細胞、B細胞、CHO細胞、COS細胞、K562細胞、酵母細胞および昆虫細胞)を含む。ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギ、霊長類からの細胞のような哺乳動物細胞が特に好ましい。複数の組織タイプから誘導されてもよく、一次細胞および細胞株を含む。具体例として、角質細胞、末梢血白血球、骨髄の幹細胞および胎児の幹細胞を含む。さらなる実施形態では、宿主細胞は抗原提示細胞であり、特に、樹状細胞、単核細胞またはマクロファージである。核酸は、単数のコピーまたは複数のコピーの形で宿主細胞中に存在してもよく、一実施形態では、宿主細胞中で発現する。
【0083】
本発明によれば、語句「発現」は、最も一般的な意味で使用され、RNAまたはRNA、およびタンパク質の産生を含む。また、核酸の部分的な発現も含む。さらに、発現は、一過性にあるいは安定的に行われてもよい。哺乳動物細胞における好ましい発現システムは、G418に抵抗を付与する(したがってトランスフェクション細胞株を選択することが安定的に行うことができる)遺伝子、およびサイトメガロウィルス(CMV)のエンハンサー・プロモーター配列のような、選択性マーカーを含む、pcDNA3.1およびpRc/CMV(Invitrogen, Carlsbad, CA)を含んでもよい。
【0084】
HLA分子が腫瘍関連抗原またはその一部を提供する本発明の場合、発現ベクターは、前記HLA分子をコードする核酸配列も含んでもよい。HLA分子をコードする核酸配列は、同じ発現ベクター上に、腫瘍関連抗原またはその一部をコードする核酸として存在してもよく、両核酸は、異なる発現ベクター上に存在してもよい。後者の場合、2つの発現ベクターは、細胞に同時にトランスフェクションされていてもよい。宿主細胞が、腫瘍関連抗原またはその一部もHLA分子も発現しない場合、それらをコードする核酸は、同じ発現ベクター上かまたは異なる発現ベクター上で細胞にトランスフェクションされる。もし細胞がすでにHLA分子を発現している場合は、腫瘍関連抗原またはその一部をコードする核酸配列だけを細胞にトランスフェクションすることができる。
【0085】
また、本発明は、腫瘍関連抗原をコードする核酸の増幅のためのキットを含む。そのようなキットは、たとえば、腫瘍関連抗原をコードする核酸にハイブリッド形成する、ペアの増幅プライマーを含む。該プライマーは、6〜50個、特に10〜30個、15〜30個、20〜30個の核酸配列の連続するヌクレオチドを含み、プライマー二量体の形成を避けるため、重複していないのが好ましい。プライマーの1つは、腫瘍関連抗原をコードする核酸の1本鎖にハイブリッド形成し、他のプライマーは、腫瘍関連抗原をコードする核酸の増幅を可能にする配列にて相補鎖にハイブリッド形成する。
【0086】
「アンチセンス」分子または「アンチセンス」核酸は、核酸の発現を調整する、特に低減するために使用してもよい。本発明によれば、語句「アンチセンス分子」または「アンチセンス核酸」は、オリゴリボヌクレオチド、オリゴデオキシリボヌクレオチド、修飾オリゴリボヌクレオチドまたは修飾オリゴデオキシリボヌクレオチドであるオリゴヌクレオチドを言い、生理学的条件で、特定の遺伝子を含むDNA、または前記遺伝子のmRNAとハイブリッド形成し、それによって、前記遺伝子の転写および/または前記mRNAの翻訳を抑制する。本発明によれば、「アンチセンス分子」には、天然のプロモーターとは逆方向を向いている核酸またはその一部を含む構造体が挙げられる。核酸またはその一部のアンチセンス転写産物は、酵素を特定している天然由来のmRNAと二本鎖を形成する可能性があるので、その活性酵素中へのmRNAの蓄積または翻訳が阻害される。他の可能性として、核酸を不活性化するリボザイムの用途がある。本発明で好ましいアンチセンス・オリゴヌクレオチドは、6〜50個、特に10〜30個、15〜30個、20〜30個の配列の、標的物質核酸の連続するヌクレオチドを有し、好ましくは標的物質核酸またはその一部に対して十分に相補的である。
【0087】
好ましい実施形態では、アンチセンス・オリゴヌクレオチドは、翻訳開始部位、転写開始部位またはプロモーター部位のようなN−末端または5'上流部位で、ハイブリッド形成する。さらなる実施形態では、アンチセンス・オリゴヌクレオチドは、3'非翻訳領域またはmRNAスプライシング部位でハイブリッド形成する。
【0088】
一実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドは、1つのヌクレオチドの5'末端と他のヌクレオチドの3'末端がリン酸ジエステル結合によって互いに結合しているリボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドまたはこれらの組み合わせからなる。
これらのオリゴヌクレオチドは、従来の方法で合成されてもよいし、遺伝子組換え的に生成してもよい。
【0089】
好ましい実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドは、「修飾」オリゴヌクレオチドである。ここでは、たとえば、その安定性または治療効能を高めるために、オリゴヌクレオチドを、その標的物質に結合する能力に悪影響を及ぼさない限り、非常に異なる方法で修飾してもよい。本発明によれば、語句「修飾オリゴヌクレオチド」は、(i)そのヌクレオチドの少なくとも2つが、合成ヌクレオチド間結合(すなわち、リン酸ジエステル結合ではない、ヌクレオチド間結合)によって互いに結合している、および/または(ii)普通核酸中には見出されない化学基が、オリゴヌクレオチドに共役結合で結合しているオリゴヌクレオチドを意味する。好ましい合成ヌクレオチド間結合は、チオリン酸エステル、ホスホン酸アルキルエステル、ホスホロチオエート、リン酸エステル、ホスホンチオ酸アルキルエステル、アミド亜リン酸エステル、カルバミン酸エステル、炭酸エステル、リン酸トリエステル、アセトアミデート、カルボキシメチルエステル、およびペプチドである。
【0090】
語句「修飾オリゴヌクレオチド」は、共有結合で修飾された塩基および/または糖を有するオリゴヌクレオチドも含む。「修飾オリゴヌクレオチド」は、たとえば、3'位で水酸基以外の低分子量有機基と5'位でリン酸エステル基に共有結合で結合する糖残基を持つオリゴヌクレオチドを含む。修飾オリゴヌクレオチドは、たとえば、2'−O−アルキル化リボース残基またはリボースの代わりにアラビノースのような他の糖を含んでもよい。
【0091】
本発明で記載されるタンパク質およびポリペプチドは単離されているのが好ましい。語句「単離されたタンパク質」または「単離されたポリペプチド」は、タンパク質またはポリペプチドが、その自然環境から分離されていることを意味する。単離されたタンパク質またはポリペプチドは、本質的に精製されている状態であってもよい。語句「本質的に精製された」は、タンパク質またはポリペプチドが、本質的に、自然界でまたはインビボで関連のある他の物質を含まないことを意味する。
【0092】
このようなタンパク質およびポリペプチドは、たとえば、抗体生成および免疫学的または診断的アッセイ中で使用され、または治療として使用されてもよい。本発明で記載されるタンパク質およびポリペプチドは、組織または細胞ホモジネートのような生物試料から単離されてもよく、また、様々な原核または真核生物発現システム中で、遺伝子組換えによって発現してもよい。
【0093】
本発明の目的のため、タンパク質あるいはポリペプチド、またはアミノ酸配列の「誘導体」は、アミノ酸挿入変異体、アミノ酸欠失変異体および/またはアミノ酸置換変異体を含む。
【0094】
アミノ酸挿入変異体は、アミノ−および/またはカルボキシ−末端融合および、単一のあるいは複数のアミノ酸、特にアミノ酸配列の挿入も含む。挿入を持つアミノ酸配列変異体の場合、得られた生成物の適正なスクリーニングを含むランダム挿入も可能であるが、1以上のアミノ酸残基がアミノ酸配列中の特別な部位に挿入されるのも可能である。アミノ酸欠失変異体は、配列からの1以上のアミノ酸の除去を特徴とする。アミノ酸置換変異体は、配列が除去されそこに他の残基が挿入された、少なくとも1の残基を特徴とする。相同なタンパク質またはポリペプチドの間で保存されないアミノ酸配列中の位置に修飾があるのが好ましい。アミノ酸は、疎水性、親水性、電気陰性度、側鎖の容積などの特性が類似する他のアミノ酸によって置換(保存的置換)されるのが好ましい。保存的置換は、たとえば、1個のアミノ酸を、置換すべきアミノ酸として、以下の同じ群に挙げられた他のアミノ酸と交換することを言う。
【0095】
1.小さな脂肪族、非極性あるいは僅かに極性の残基:Ala、Ser、Thr(Pro、Gly)
2.負電荷残基およびそのアミド類:Asn、Asp、Glu、Gln
3.正電荷残基:His、Arg、Lys
4.大きな脂肪族、非極性残基:Met、Leu、Ile、Val(Cys)
5.大きな芳香族残基:Phe、Tyr、Trp.
【0096】
タンパク質構造における特定の部分のために、3つの残基が、括弧書きで表されている。Glyは、前記鎖のない残基だけであり、したがって、鎖に柔軟性を与える。Proは、鎖を大きく制限する異常な幾何学配置を持つ。ジスルフィド架橋を形成することができる。
【0097】
前記アミノ酸変異体は、たとえば、固相合成(Merrifield, 1964)および類似の方法または遺伝子組換えDNA操作など、公知のペプチド合成技術を活用して、簡単に生成してもよい。配列が知られているまたは部分的に知られているDNAの所定の部位へ置換突然変異を導入する技術は周知であり、たとえば、M13突然変異生成を含む。置換基を有するタンパク質の生成、挿入または欠失のためのDNA配列の操作は、たとえば、Sambrookら(1989)に詳細に説明されている。
【0098】
本発明によれば、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの「誘導体」も、炭水化物、脂質および/またはタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドのような、酵素に伴う任意の分子の、単一または複数の置換、欠失および/または付加を含む。語句「誘導体」は、また、前記タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの機能的化学的等価物質の全てまで拡張される。
【0099】
本発明によれば、腫瘍関連抗原の一部または断片は、誘導されたポリペプチドの機能的特性を有する。そのような機能的特性として、抗体との相互作用、他のポリペプチドまたはタンパク質との相互作用、核酸の選択的結合および酵素活性が含まれる。特定の特性は、HLAとの複合体を形成する能力であり、適正であれば、免疫応答を発生する。この免疫応答は、刺激細胞障害性またはTヘルパー細胞に基づく。本発明の腫瘍関連抗原の一部または断片は、少なくとも6、特に少なくとも8個、少なくとも10個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個または、少なくとも50個の配列の腫瘍関連抗原のアミノ酸を含むのが好ましい。
【0100】
本発明によれば、腫瘍関連抗原をコードする核酸の一部または断片は、先に記載したように、少なくとも腫瘍関連抗原および/または該腫瘍関連抗原の一部または断片をコードする核酸の一部に関する。
【0101】
腫瘍関連抗原をコードする遺伝子の単離および同定は、1以上の腫瘍関連抗原の発現を特徴とする疾患の診断を可能にする。これらの方法は、腫瘍関連抗原をコードする1以上の核酸を測定することおよび/またはコードされた腫瘍関連抗原および/またはそれから誘導されたペプチドを測定することを含む。核酸は、ポリメラーゼ連鎖反応または標識付けされたプローブを使用するハイブリッド形成を始めとする、従来の方法で測定してもよい。腫瘍関連抗原またはそれから誘導されたペプチドは、抗原および/またはペプチドの認識に関して患者の抗血清をスクリーニングすることによって測定してもよい。また、それらは、対応腫瘍関連抗原に特異的な患者のT細胞をスクリーニングすることによって測定してもよい。
【0102】
また、本発明によれば、本明細書に記載の腫瘍関連抗原に結合するタンパク質、例えば抗体および前記腫瘍関連抗原の細胞性結合パートナーを単離することが可能でなる。
【0103】
本発明によれば、特定の実施形態は、腫瘍関連抗原から誘導される「ドミナントネガティブ」ポリペプチドを提供することを含む。ドミナントネガティブポリペプチドは、非活性なタンパク質変異体であって、自分が細胞機構と相互作用することにより、活性タンパク質がその細胞機構と相互作用するのを排斥し、あるいは活性タンパク質と競合することによってその活性タンパク質の効果を減少させる。たとえば、ドミナントネガティブ受容体は、リガンドに結合するが、結合の応答としてのシグナルを何もリガンドに対して発生しないので、そのリガンドの生物学的効果が減殺される可能性がある。同様に、ドミナントネガティブで触媒的に不活性なキナーゼは、標的タンパク質と通常通り相互作用するが、この標的タンパク質をリン酸化しないので、細胞シグナルへの応答としてこの標的タンパク質がリン酸化されることは減少する可能性がある。同様に、ドミナントネガティブな転写因子は、遺伝子の制御領域中のプロモーター部位に結合するが、この遺伝子の転写を増大しないので、このプロモーターの結合部位は占拠され転写が増加しないままに正常な転写因子の効果が減殺される可能性がある。
【0104】
細胞内でのドミナントネガティブポリペプチドの発現の結果、活性タンパク質の機能が減少する。当業者がタンパク質のドミナントネガティブ変異体を作製するためには、たとえば、従来の突然変異生成方法および変異体ポリペプチドのドミナントネガティブ効果の評価によればよい。
【0105】
また、本発明は、腫瘍関連抗原に結合するポリペプチドのような物質も含む。そのような結合性物質は、たとえば、腫瘍関連抗原および腫瘍関連抗原とその結合相手との複合体を検出するスクリーニングアッセイにおいて、および該腫瘍関連抗原および腫瘍関連抗原とその結合相手との複合体の精製において、使用してもよい。また、そのような物質は、腫瘍関連抗原の活性を抑制するために、たとえば、その抗原への結合に使用してもよい。
【0106】
したがって、本発明には、腫瘍関連抗原に選択的に結合できる結合性物質、例えば抗体または抗体断片を含む。抗体は、従来の方法で生成されるポリクローナルおよびモノクローナル抗体を含む。
【0107】
そのような抗体は、天然のおよび/または変性された状態のタンパク質を認識することができる(Andersonら, J.Immunol. 143: 1899-1904, 1989; Gardsvoll, J.Immunol. Methods234: 107-116, 2000; Kayyemら, Eur. J. Biochem. 208: 1-8,1992; Spillerら, J.Immunol. Methods 224: 51-60, 1999)。
【0108】
標的タンパク質に特異的に結合する特異的抗体を含む抗血清は、種々の標準方法によって生成することができる。たとえば、Philip Shepherdによる「Monoclonal Antibodies:APractical Approach」, Christopher Dean ISBN0-19-963722-9; Ed Harlow, David Laneによる「Antibodies: ALaboratory Manual, ISBN: 0879693142およびEdwardHarlow,David Lane,Ed Harlowによる「Using Antibodies:ALaboratory Manual: Portable Protocol NO」 ISBN0879695447。これによって、複合体膜タンパク質を天然の形態のままで認識する、親和性抗体および特異的抗体を作成することが可能である(Azorsaら、J.Immunol. Methods 229: 35-48, 1999;Andersonら、J. Immunol. 143: 1899-1904, 1989; Gardsvoll,J.Immunol. Methods 234: 107-116, 2000)。これは、特に、治療上で、しかしまた多くの診断用にも使用される抗体の生成に関与する。この点に関して、免疫化のために、全タンパク質、細胞外の部分的配列、および生理学的に折りたたまれた形態に標的物質を発現する細胞を使用することが可能である。
【0109】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術を使用して従来の方法で生成する(技術の詳細は、PhilipShepherd, Christopher Deanによる「Monoclonal Antibodies: APractical Approach」ISBN 0-19-963722-9; Ed Harlow, DavidLaneによる「Antibodies: A Laboratory Manual」ISBN: 0879693142; Edward Harlow, David Lane, Ed Harlowによる「Using Antibodies: A Laboratory Manual: Portable Protocol NO」ISBN: 0879695447を参照のこと)。
【0110】
抗体分子の小部分、パラトープのみが抗体のその抗原決定基への結合に関わることは公知である(Clark,W.R. (1986),「The Experimental Foundations of ModernImmunology」、Wiley & Sons, Inc., New York; Roitt, I.(1991),「Essential Immunology」、第7編、Blackwell Scientific Publications, Oxford参照)。たとえば、pFc'およびFc領域は、補体カスケードのエフェクターであるが、抗原結合には関わらない。pFc'領域が酵素的に除去された抗体、またはpFc'領域なしで生成された抗体(F(ab')
2断片と言う)は、完全な抗体の両抗原結合部位を持つ。同様に、Fc領域が酵素的に除去された抗体またはFc領域なしで生成された抗体(Fab断片と言う)は、無傷の抗体分子の抗原結合部位を1個持つ。さらに、Fab断片は、抗体の共有結合した軽鎖と、前記抗体の重鎖の部分とからなる(Fdと言う)。Fd断片は、抗体特異性の主要な決定因子であり(単一Fd断片は、抗体の特異性を変えることなく、異なる軽鎖を10個まで伴うことができる。)、単離された時、Fd断片は、抗原決定基に結合する能力を保持する。
【0111】
相補性決定領域(CDR)は、抗体の抗原結合部内に位置し、抗原決定基およびパラトープの3次構造を維持するフレームワーク領域(FRs)と直接相互作用する。重鎖のFd断片もIgG免疫グロブリンの軽鎖もどちらも、4箇所のフレームワーク領域(FR1〜FR4)を含み、どちらの場合も3箇所の相補的決定領域(CDR1〜CDR3)によって分離される。CDR、特に、CDR3領域、更に特に重鎖のCDR3領域は、抗体特異性に対してかなりな程度に応答可能である。
【0112】
哺乳動物抗体のNon−CDR領域は、同一または異なる特異性を持つ抗体の類似の領域によって置換しても、抗原決定基に対する元の抗体の特異性は保持されることが知られている。これにより、非ヒトCDRをヒトFRおよび/またはFc/pFc'領域に共有結合して機能性抗体が生産される「ヒト化」抗体の開発が可能となった。
【0113】
これは所謂「SLAM」技術において利用されており、B細胞を全血から単離し、該細胞をモノクローン化する、次いで、単一なB細胞の上澄液をその抗体特異性に関して分析する。ハイブリドーマ技術とは対照的に、抗体遺伝子の可変領域を、単一細胞PCRを使用して増幅し、適切なベクター中にクローン化する。このようにして、モノクローナル抗体の供給は加速されている(de Wildt et al., J. Immunol. Methods 207: 61-67, 1997)。
【0114】
別の例として、国際公開第92/04381号公報には、マウスFR領域の少なくとも部分がヒト由来のFR領域で置換された、ヒト化マウスRSV抗体の産生および用途が記載されている。抗原結合能力を持つ無傷の抗体の断片を始めとするこの種の抗体は、しばしば、「キメラ」抗体と言われる。
【0115】
また、本発明は、Fcおよび/またはFRおよび/またはCDR1および/またはCDR2および/または軽鎖−CDR3領域が、相同性ヒトまたは非ヒト配列、キメラF(ab')
2−断片抗体で置換されており、FRおよび/またはCDR1および/またはCDR2および/または軽鎖−CDR3領域が、相同性ヒトまたは非ヒト配列、キメラFab−断片抗体で置換されており、FRおよび/またはCDR1および/またはCDR2および/または軽鎖−CDR3領域が、相同性ヒトまたは非ヒト配列で置換された、抗体、キメラ抗体のF(ab')
2、Fab、FvおよびFd断片、およびFRおよび/またはCDR1および/またはCDR2領域が、相同性ヒトまたは非ヒト配列で置換された、キメラFd−断片抗体を提供する。また、本発明は「一本鎖」抗体も含む。
【0116】
また、本発明は、腫瘍関連抗原に特異的に結合するポリペプチドも含む。この種の物質に結合するポリペプチドは、たとえば、固定化した形態にまたはファージ提示ライブラリーとして溶液中で簡易的に調製したペプチドライブラリーを変性することにより得られる。同様に、1個以上のアミノ酸を持つペプチドのコンビナトリアルなライブラリーを調製することも可能である。ペプトイド(peptoid)および非ペプチド性合成残基のライブラリーを調製してもよい。
【0117】
ファージ提示は、本発明の結合性ペプチドの同定において、特に効果的である。これに関し、たとえば、ファージライブラリーを調製(たとえば、M13、fdまたはλファージを使用して)すれば、これは長さ約4〜約80個のアミノ酸残基の挿入を可能にする。次いで、腫瘍関連抗原に結合する挿入物を担持するファージを選択する。この方法は、腫瘍関連抗原に結合するファージの再選択を複数回繰り返えせばよい。複数回の繰返しによって、特定の配列を持つファージが濃縮される。発現したポリペプチドの配列を同定するために、DNA配列の分析を行えばよい。腫瘍関連抗原に結合する配列の最も小さな直線部が測定される。酵母の「ツーハイブリッド・システム」を、腫瘍関連抗原に結合するポリペプチドを同定するために使用してもよい。本発明に記載される腫瘍関連抗原またはその断片を使用してペプチド・ライブラリー、例えばファージ提示ライブラリーをスクリーニングすれば、腫瘍関連抗原のパートナーに結合するペプチドを同定および選択することができる。そのような分子は、たとえば、スクリーニングアッセイ、精製プロトコル、腫瘍関連抗原の機能への干渉、および当業者に公知の目的のために使用してよい。
【0118】
前記抗体および他の結合分子を使用して、たとえば、腫瘍関連抗原を発現する組織を同定してもよい。また、抗体を特定の診断物質に結合して、腫瘍関連抗原を発現する細胞および組織を表示させてもよい。これら抗体は、また、治療上有益な物質と結合してもよい。診断物質には、硫酸バリウム、ヨーセタム酸、イオパノ酸、イオパノ酸カルシウム、ジアトリゾ酸ナトリウム、ジアトリゾ酸メグルミン、メトリザミド、チロパノ酸ナトリウム、およびフッ素−18および炭素−11のようなポジトロン放射体、ヨウ素−123、テクネチウム−99m、ヨウ素−131およびインジウム−111のようなγ放射体を含む放射性診断剤、フッ素およびガドリニウムのような核磁気共鳴用原子核種が挙げられるが、これらに限定されない。本発明によれば、語句「治療上有益な物質」とは、記載したように、1以上の腫瘍関連抗原を発現する細胞へと選択的に誘導される任意の治療分子を意味し、抗癌剤、放射性ヨウ素で標識付けされた化合物、毒素、細胞増殖抑制または細胞溶解性薬剤などが挙げられる。抗癌剤としては、たとえば、アミノグルテチミド、アザチオプリン、硫酸ブレオマシン、ブスルファン、カルムスチン、クロランブシル、シスプラチン、シクロフォスファミド、シクロスポリン、シタラビジン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビン、ドキソルビシン、タキソール、エトポシド、フルオロウラシル、インターフェロン−、ロムスチン、メルカプトプリン、メトトレキセート、ミトタン、プロカルバシンHCl、チオグアニン、硫酸ビンブラスチンおよび硫酸ビンクリスチンが挙げられる。他の抗癌剤は、たとえば、GoodmanおよびGilman,「ThePharmacological Basis of Therapeutics」、第8編、1990,McGraw-Hill, Inc.、特に第52章(Antineoplastic Agents (PaulCalabresiおよびBruce A. Chabner)に記載されている。毒素は、ポークウィード抗ウィルスタンパク質、クロレラ毒素、咳毒素、リシン、ゲロニン、アブリン、ジフテリアエクソトキシンまたはシュードモナスエクソトキシンのようなタンパク質でよい。また、毒素残基は、コバルト−60のような高エネルギー放射性核種であってよい。
【0119】
本発明によれば、語句「患者」は、人間、非人類霊長類、または他の動物、特に、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、またはマウスやラットのようなげっ歯類のような哺乳類、を意味する。特に好ましい実施形態では、患者は人間である。
【0120】
本発明によれば、語句「疾患」は、腫瘍関連抗原を発現したまたは異常発現した、任意の病的症状を言う。本発明によれば、「異常発現」は、発現が変更された、好ましくは、健常な個体の状態と比べて、増加したことを意味する。発現における増加は、少なくとも10%までの、特に少なくとも20%までの、少なくとも50%までのまたは少なくとも100%までの増加を言う。一実施形態では、腫瘍関連抗原が疾患のある個体の組織においてのみ発現し、健常な個体での発現は抑制される。そのような疾患の一例は癌であり、本発明による語句「癌」には、白血病、セミノーマ、メラノーマ、奇形腫、グリオーマ、腎臓癌、副腎癌、甲状腺癌、腸癌、肝臓癌、大腸癌、胃癌、胃腸癌、リンパ腺癌、食道癌、結腸直腸癌、膵臓癌、耳、鼻および喉(耳鼻咽喉)癌、胸癌、前立腺癌、子宮癌、卵巣癌および肺癌、およびこれらの転移癌をが挙げられる。
【0121】
本発明によれば、生物試料は、組織試料および/または細胞試料であり、本明細書に記載される種々の方法における用途のために、パンチ生検を含む生体組織切片による、または血液、気管支吸引液、痰、尿、便、その他の体液の採取による従来の方法で得ればよい。
【0122】
本発明によれば、語句「免疫反応性細胞」は、適切な刺激により免疫細胞(たとえば、B細胞、ヘルパーT細胞または細胞溶解性T細胞)に成熟することができる細胞を意味する。反応性細胞には、CD34
+造血性幹細胞、未熟および成熟T細胞および未熟および成熟B細胞が挙げられる。腫瘍関連抗原を認識する細胞溶解性またはヘルパーT細胞の産生を所望の場合は、細胞溶解性T細胞およびヘルパーT細胞の産生、細胞分化および/または選択に好ましい条件下で、反応性細胞を、腫瘍関連抗原を発現する細胞に接触させる。抗原に曝露された時のT細胞前駆体の細胞溶解性T細胞への細胞分化は、免疫システムのクローン選択に類似している。
【0123】
患者の免疫システムの反応に基づく治療方法もあり、この反応の結果、抗原提示細胞、例えば1以上の腫瘍関連抗原を提供する癌細胞が溶解する。この点に関し、たとえば、腫瘍関連抗原およびMHC分子の複合体に特異的な自己由来の細胞障害性Tリンパ球を、細胞異常のある患者に投与する。このような細胞障害性Tリンパ球のインビトロでの産生は公知である。T細胞分化の方法の1つが、国際公開第9633265号にある。一般的に、細胞、例えば血液細胞を含む試料を患者から採取し、該細胞を、上記複合体を提供しかつ細胞障害性Tリンパ球の増殖を惹起する細胞(たとえば、樹状細胞)と接触させる。標的細胞は、トランスフェクションされた細胞、例えばCOS細胞でよい。これらのトランスフェクションされた細胞は、所望の複合体をその表面に提供し、細胞障害性Tリンパ球と接触すると後者の増殖を刺激する。次いで、クローン増殖した自己由来の細胞障害性Tリンパ球を患者に投与する。
【0124】
抗原特異的細胞障害性Tリンパ球を選択する他の方法では、MHCクラスI分子/ペプチド複合体の蛍光性4量体を使用して、細胞障害性Tリンパ球の特異的クローンを検出する(Altmanら、Science 274: 94-96, 1996; Dunbarら、Curr. Biol. 8:413-416, 1998)。溶解性MHCクラスI分子を、β
2ミクロブロブリンおよび前記クラスI分子に結合するペプチド抗原の存在下で、インビトロで折畳む。MHC/ペプチド複合体を精製し、次いで、ビオチンで標識する。4量体を形成するためにビオチン化ペプチド−MHC複合体と標識したアビジン(たとえば、フェコエリスリン)とを、モル比4:1で混合する。次いで、4量体を細胞障害性Tリンパ球、例えば末梢血やリンパ腺に接触させる。4量体は、ペプチド抗原/MHCクラスI複合体を認識する細胞障害性Tリンパ球に結合する。4量体に結合した細胞を、蛍光で制御する細胞層別法によって選別し、反応性細胞障害性Tリンパ球を単離する。次いで、単離された細胞障害性Tリンパ球をインビトロで増殖すればよい。
【0125】
養子免疫伝達(Greenberg, J. Immunol. 136(5):1917, 1986;Riddelら、Science 257:238, 1992; Lynchら、 Eur. J.Immunol. 21:1403-1410, 1991; Kastら、Cell59:603-614, 1989)と言われる治療方法では、所望の複合体(たとえば、樹状細胞)を提供する細胞を、治療対象の患者の細胞障害性Tリンパ球と組み合わせると、特異的細胞障害性Tリンパ球が増殖する。次いで、増殖した細胞障害性Tリンパ球を細胞異常のある患者、すなわち特定の異常細胞が特異的複合体を特徴的に提供している患者に投与する。すると細胞障害性Tリンパ球が異常細胞を溶解し、所望の治療効果が達成される。
【0126】
しばしば、患者のT細胞レパートリーのうち、この種の特異的複合体に親和性の低いT細胞のみが増殖していることがある。この理由は、耐性が生じたために親和性の高いT細胞は既に消滅しているからである。これの解決には、T細胞受容体それ自体を伝達することを選択してもよい。これには、所望の複合体を提供する細胞(たとえば、樹状細胞)を健常な個人または他の種(たとえば、マウス)の細胞障害性Tリンパ球と組み合わせる。ただし、そのTリンパ球は、以前に上記特異的複合体と接触したことのないドナー生物から取得する。すると親和性の高い特異的細胞障害性Tリンパ球が増殖する。増殖されたこれら特異的Tリンパ球の高親和性T細胞受容体を、クローン化する。高親和性T細胞受容体を別の種から誘導した場合には、いろいろな程度にそれらをヒト化することができる。次いで、そのようなT細胞受容体を、遺伝子の伝達により、たとえば、レトロウィルスベクターを使用して、所望の患者T細胞にトランスフェクションする。次いで、これらの遺伝子的に変更したTリンパ球を使用して養子免疫伝達を行う。(Stanislawskiら, Nat Immunol. 2:962-70, 2001;Kesselsら、Nat Immunol. 2:957-61, 2001).
【0127】
上記の治療態様は、患者の異常細胞の少なくともいくつかは、腫瘍関連抗原とHLA分子との複合体を提供するという事実から出発している。そのような細胞は、自体既知の方法で同定してもよい。複合体を提供する細胞が同定されたら直ちに、細胞障害性Tリンパ球を含む患者からの試料と組み合わせるのがよい。細胞障害性Tリンパ球が、複合体を提供する細胞を溶解したならば、腫瘍関連抗原が提供されていると推測することができる。
【0128】
養子免疫伝達は、本発明が適用可能な唯一の治療形態ではない。細胞障害性Tリンパ球は、自体既知の方法でインビボ産生してもよい。一つの方法では、複合体を発現する非増殖性細胞の使用である。ここで使用される細胞は、複合体を普通に発現するものであって、たとえば、放射線照射された腫瘍細胞あるいは複合体(すなわち、抗原性ペプチドと提供HLA分子)の提供に必要な1個または両方の遺伝子をトランスフェクションした細胞である。種々の細胞型を使用してよい。さらに、挿入遺伝子の1個または両方を持つベクターを使用することも可能である。ウィルスまたはバクテリアのベクターが特に好ましい。たとえば、腫瘍関連抗原またはその一部をコードする核酸にプロモーターおよびエンハンサー配列を機能的に結合することによって、前記腫瘍関連抗原またはその断片は特定の組織または細胞型において発現が制御される。核酸は、発現ベクター中に導入してもよい。発現ベクターは、非修飾の染色体外核酸、プラスミドまたはウィルスゲノムであり、これに外来の核酸を挿入してもよい。また、腫瘍関連抗原をコードする核酸をレトロウィルスゲノムに挿入すると、標的物質組織または標的物質細胞のゲノムの中に核酸が集積可能になる。これらの系では、微生物、例えばワクシニアウィルス、ポックスウィルス、ヘルペスシンプレックスウイルス、レトロウィルスまたはアデノウィルスが問題の遺伝子を担持して、宿主細胞に「感染する」。他の好ましい形態は、腫瘍関連抗原を遺伝子組換えRNAの形態で導入することであり、それを細胞中に導入するためには、たとえば、リポソーム運搬または電気穿孔法による。得られた細胞は、問題の複合体を提供し、自己由来の細胞障害性Tリンパ球はこれを認識して次に増殖する。
【0129】
類似の効果を達成可能にするためには、腫瘍関連抗原またはその断片とアジュバントとを組み合わせ、抗原提示細胞への移入をインビボで可能にする。腫瘍関連抗原またはその断片は、タンパク質、DNA(たとえば、ベクター内)またはRNAとして提示してもよい。腫瘍関連抗原は、HLA分子に対するペプチドパートナーにするための処理をするが、抗原断片の方はそのまま提示させてよく、更なる処理をする必要はない。これらがHLA分子に結合できる場合に、後者は特別に可能である。完全抗原が樹状細胞によってインビボで処理される投与形態が好ましい。その理由は、それによってヘルパーT細胞の応答が生じ、これは効果的な免疫応答にとって必要だからである(Ossendorpら、Immunol Lett. 74:75-9, 2000;Ossendorpら、J. Exp. Med. 187:693-702, 1998)。一般に、たとえば皮膚内注射によって患者に腫瘍関連抗原の有効量を投与することが可能である。しかし、リンパ腺へのリンパ腺注射をおこなってもよい(Maloyら、Proc Natl Acad Sci USA 98:3299-303,2001)。注射は、樹状細胞中への取り込みを容易にする薬剤と組み合わせて行ってもよい。腫瘍関連抗原として好ましいものには、多くの癌患者の異質遺伝子型癌の抗血清またはT細胞と反応するものが挙げられる。しかし、特に重要な抗原は、最初から自発的免疫応答が存在しないものである。これらの抗原に対して免疫応答を誘導し、それによって腫瘍を溶解することは明らかに可能である(Keoghら、J. Immunol. 167:787-96, 2001; Appellaら、Biomed Pept Proteins Nucleic Acids 1:177-84, 1995; Wentworthら、Mol Immunol. 32:603-12, 1995).
【0130】
また、本発明に記載される医薬組成物は、免疫化のためのワクチンとして使用してもよい。本発明によれば、語句「免疫化」または「ワクチン接種」は、抗原に対する免疫応答の増加または活性化を意味する。動物モデルを使用して癌に対する免疫化効果を試験するために、腫瘍関連抗原またはそれをコードする核酸を使用することが可能である。たとえば、ヒト癌細胞をマウスに移入して腫瘍を産生し、腫瘍関連抗原をコードする核酸を1種以上投与すればよい。癌細胞における効果(たとえば腫瘍サイズの減少)は、核酸による免疫化の効果の測定値として測定すればよい。
【0131】
免疫化のための組成物の一部分として、1種以上の腫瘍関連抗原またはその刺激断片を、免疫応答を誘発するためまたは免疫応答を増加させるためのアジュバント1種以上とともに投与される。アジュバントは、抗原虫に配合されるまたは抗原とともに投与される物質であり、免疫応答を強化する。アジュバントによって免疫応答を強化するためには、抗原の貯留部(細胞外またはマクロファージ内に)を用意し、マクロファージを活性化しおよび/または特定のリンパ球を刺激すればよい。アジュバントは公知であり、モノホスポリルリピドA(MPL, SmithKline Beecham)、QS21(SmithKlineBeecham)、DQS21(SmithKline Beecham;国際公開第96/33739公報)、QS7、QS17、QS18およびQS−L1(Soら、Mol. Cells 7:178-186, 1997)のようなサポニン、不完全フロイントアジュバント、完全フロイントアジュバント、ビタミンE、モンタニド、ミュバン、CpGオリゴヌクレオチド(Kreigら、Nature 374:546-9, 1995参照)、および生物学的に分解可能な油、例えばスクアレンおよび/またはトコフェロールから調製した種々の油中水型エマルジョンが挙げられるが、これらに限定されない。ペプチドは、DQS21/MPLとの混合物として投与するのが好ましい。MPLに対するDQS21の比は、通常、約1:10〜10:1、好ましくは約1:5〜5:1、特に約1:1である。ヒトへの投与のためのワクチン製剤には、普通、DQS21およびMPLが約1μgから約100μgの範囲で含まれている。
【0132】
患者の免疫応答を刺激する他の物質を投与してもよい。たとえば、サイトカインにはリンパ球上での調節特性があるので、ワクチン製剤においてを使用することが可能である。そのようなサイトカインとして、例えば、インターロイキン−12(IL−12)(これは、ワクチンの保護活性を増すことが示されている(Science 268:1432-1434, 1995参照))、GM−CSFおよびIL−18が挙げられる。
【0133】
免疫応答を強化し、そのためワクチン製剤において使用される数多くの化合物が存在する。該化合物には、タンパク質または核酸の形態で提供される同時刺激分子が挙げられる。そのような同時刺激分子の例は、B7−1およびB7−2(それぞれCD80およびCD86)であり、これらは樹状細胞(DC)上で発現し、かつT細胞上に発現したCD28分子と相互作用する。この相互作用によって、抗原/MHC/TCRによって刺激された(シグナル1)T細胞に共刺激(シグナル2)が与えられ、それによって、このT細胞の増殖とエフェクター機能が強化される。また、B7は、T細胞上のCTLA4(CD152)と相互作用し、かつCTLA4およびB7リガンドに関する研究によれば、B7−CTLA4相互作用によって抗腫瘍免疫およびCTL増殖が強化可能である(Zheng, P.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA95(11):6284-6289 (1998))。
【0134】
B7は、普通、腫瘍細胞には発現されないので、T細胞にとっては効果のない抗原提示細胞(APC)である。B7の発現が誘発されると、細胞障害性Tリンパ球の増殖およびエフェクター機能が腫瘍細胞によってより効果的に刺激されると思われる。B7/IL−6/IL−12の組み合わせによる共刺激を加えると、IFN−γとTh1−サイトカインのプロフィールがT細胞集団において誘発されるのが露わになり、その結果、T細胞活性がさらに強化される(Gajewskiら、J. Immunol. 154:5637-5648 (1995)).
【0135】
細胞障害性Tリンパ球が完全に活性化しエフェクターが完全に機能するためには、前記ヘルパーT細胞上のCD40リガンドと樹状細胞が発現したCD40分子との間の相互作用を介してTヘルパー細胞が関与することが必要である(Ridgeら、Nature 393:474 (1998)、Bennettら、Nature 393:478 (1998), Schoenbergerら、Nature 393:480 (1998))。同時刺激シグナルのメカニズムは、たぶん、前記樹状細胞(抗原提示細胞)による、B7産生と関連IL−6/IL−12産生の増加に関係している。したがって、CD40−CD40L相互作用が、シグナル1(抗原/MHC−TCR)およびシグナル2(B7−CD28)の相互作用を補足する。
【0136】
樹状細胞を刺激する抗−CD40抗体を使用すれば、普通は炎症応答の対象外にあるまたは未熟な抗原提示細胞(腫瘍細胞)が提示する腫瘍抗原に対する応答が直接に強化されると期待される。これらの状況では、TヘルパーおよびB7同時刺激シグナルは提供されない。このメカニズムは、抗原パルス樹状細胞に基づく治療と連結して使用することが可能であろう。
【0137】
また、本発明は、核酸、ポリペプチドまたはペプチドの投与を提供する。ポリペプチドおよびペプチドは、自体既知の方法で投与してよい。一実施形態では、核酸がエクスビボな方法、すなわち、患者から細胞を取り出し、腫瘍関連抗原を導入するためにこの細胞に遺伝的改変を加え、改変された細胞を患者に再導入する方法によって投与される。この方法では、一般的に、遺伝子の機能的コピーを患者の細胞にインビトロで導入すること、および遺伝的に改変された細胞を患者に再導入することが含まれる。遺伝子の機能的コピーは調整因子の機能的制御下にあるので、遺伝子は遺伝的に改変した細胞内で発現可能となる。トランスフェクションおよび形質導入の方法は当業者に公知である。また、本発明は、核酸をインビボで投与するために、ベクター、例えばウィルスおよび標的制御リポソームの使用を提供する。
【0138】
好ましい実施形態では、腫瘍関連抗原をコードする核酸を投与するためのウィルスベクターは、アデノウィルス、アデノ関連ウィルス、ワクシニアウィルスおよび弱毒化水痘ウィルスを始めとする水痘ウィルス、Semliki Forestウィルス、レトロウィルス、SindbisウィルスおよびTyウィルス様粒子からなる群から選択される。アデノウィルスおよびレトロウィルスが特に好ましい。レトロウィルスは、普通、複製不全(すなわち、これらは感染性粒子を産生することができない)である。
【0139】
インビトロまたはインビボで核酸を細胞に本発明により導入するために、種々の方法を使用してもよい。この種の方法には、核酸CaPO4沈殿物のトランスフェクション、DEAEに結合した核酸のトランスフェクション、問題の核酸を担持した前記ウィルスでのトランスフェクションまたは感染、リポソーム介在トランスフェクションなどが挙げられる。特定の実施形態では、特定の細胞へ核酸を注入することが好ましい。そのような実施形態では、核酸を細胞(たとえば、レトロウィルスまたはリポソーム)へ投与するために使用される担体は、結合した標的制御分子を有する。たとえば、分子、例えば標的物質細胞上の表面膜タンパク質に特異的な抗体、あるいは標的細胞上の受容体のためのリガンドを、核酸担体に編入または付着させる。好ましい抗体には、腫瘍関連抗原に選択的に結合する抗体が挙げられる。リポソームを介した核酸の投与を所望の場合は、細胞の飲食作用に関与する表面膜タンパク質に結合するタンパク質をリポソーム製剤中に編入すれば、標的の制御および/または取り込みが可能になる。そのようなタンパク質には、特定の細胞型に特異的なカプシドタンパク質またはその断片、内在化したタンパク質に対する抗体、ある細胞内部位を指向するタンパク質等が挙げられる。
【0140】
本発明の治療組成物は、医薬的に適合性のある製剤で投与してよい。そのような製剤は、普通、医薬的に適合性のある濃度の塩、緩衝物質、担体、アジュバント、CpGおよびサイトカインのような補助的免疫活性物質、および適正な場合、他の治療上活性な化合物を含む。
【0141】
本発明の治療上活性な化合物は、注射または輸液による方法を含む任意の従来の経路で投与してよい。投与は、たとえば、経口、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下的、または経皮的投与がある。抗体を肺噴霧の方法で治療的に投与するのが好ましい。好ましくは、アンチセンス核酸をゆっくり静脈内投与する。
【0142】
本発明の組成物を有効量投与する。「有効量」は、所望の反応または所望の効果を、単独であるいは別の用量と合わせて、達成する量を言う。1以上の腫瘍関連抗原の発現を特徴とする特別の疾患または特別の状態を治療する場合は、所望の反応は疾患の進行の抑制に関連する。これには、疾患の進行の減速および、特に、疾患の進行の遮断が挙げられる。疾患または症状の治療における望ましい反応には、発病の遅延または前記疾患または前記症状の発病の阻止が挙げられる。
【0143】
本発明の組成物の有効量は、治療すべき状態、疾患の深刻さ、患者の個人的パラメーター、例えば年齢、生理学的状態、身長体重、治療の継続時間、同時並行の治療のタイプ(もしあれば)、投与の特異的経路、および類似の要因に依存する。
【0144】
本発明の医薬組成物は、無菌であるのが好ましく、有効量の治療活性物質を含み、所望の反応または所望の効果を招来する。
【0145】
本発明の組成物の投与量は、投与のタイプ、患者の状態、所望の投与期間など、種々のパラメーターに依存する。患者における反応が初期用量では不十分な場合、より高い用量(または異なる、より局在化した投与経路により達成される効果的により高い用量)を使用してもよい。
【0146】
一般的には、1ng〜1mg、好ましくは10ng〜100μgの腫瘍関連抗原用量が配合され、治療のために、または免疫応答を作り出しまたは増加させるために投与される。腫瘍関連抗原をコードする核酸(DNAおよびRNA)の投与が望ましい場合は、1ng〜0.1mgの用量を配合し、投与する。
【0147】
本発明の医薬組成物は、一般的に、医薬的に適合性のある量、医薬的に適合性のある組成で投与される。語句「医薬的に適合性のある」は、医薬組成物の活性成分の作用と相互反応しない、毒性のない材料を言う。この種の製剤は、普通には塩、緩衝物質、防腐剤、担体および、適正な場合、他の治療上活性な化合物を含む。医薬において使用される場合、塩は、医薬的に適合性のあるものである。しかし、医薬的に適合性のない塩を、医薬的に適合性のある塩を生成するために使用してもよく、それらも本発明に含まれる。この種の薬理学的におよび医薬的に適合性のある塩は、以下の酸から生成されるものが含まれるが、これらに限定されない。塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸など。また、医薬的に適合性のある塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、またはカルシウム塩のようなアルカリ金属塩あるいはアルカリ土塁金属塩として生成してもよい。
【0148】
本発明の医薬組成物は、医薬的に適合性のある担体を含んでもよい。本発明によれば、語句「医薬的に適合性のある担体」は、ヒトへの投与に適する、1種以上の適合性のある固体または液体の充填剤、希釈剤、またはカプセル化物質を言う。語句「担体」は、適用を容易にするために活性成分と組み合わせる、天然または合成の有機または無機成分をいう。本発明の医薬組成物の成分は、普通は相互作用を起こさない、実質的に所望の薬理学的効能を与えるものである。
【0149】
本発明の医薬組成物は、適切な緩衝物質、例えば酢酸とその塩、クエン酸とその塩、ホウ酸とその塩、リン酸とその塩を含んでもよい。
【0150】
医薬組成物は、適正な場合は、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールのような適切な防腐剤も含んでよい。
【0151】
医薬組成物は、普通、均一な投与形態で提供され、自体既知の方法で生成される。本発明の医薬組成物は、たとえば、カプセル、錠剤、トローチ剤、懸濁液、シロップ、エリキシル剤の形態、または乳剤の形態でもよい。
【0152】
非経口投与に適切な組成物は、普通、活性化合物の無菌の水性または非水性の製剤を含み、服用者の血液に等張であるのが好ましい。適合性のある担体および溶剤の例として、リンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液が挙げられる。さらに、普通、無菌の不揮発油を溶液または懸濁液の媒体として使用する。
【0153】
以下、本発明を図面と実施例によって、詳しく説明するが、図面および実施例は、説明の目的のためだけに使用するものであり、限定の意味を持つものではない。この説明および実施例により、本発明に同様に含まれる更なる実施形態は当業者に理解し易くなる。