(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1では、消臭機能の制御が困難であり、トイレットロールが実際に使用されるまで消臭効果を維持し難いという問題があった。また、上記特許文献2は、上記課題を解決するため、マイクロカプセルに消臭剤を封じたものであるが、製造工程においてマイクロカプセルの崩壊が起こり易く、やはり、トイレットロールが実際に使用される際に所望の効果を得難いという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、消臭効果を長期間維持することのできる紙管の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、ロール状シートの芯となる紙管の製造方法において、
ポリフェノールと、シクロデキストリンとを、水および低級アルコールからなる溶媒に混合して塗工液を作成する工程と、
坪量130〜200g/m
2の紙管原紙に対して、前記塗工液をグラビア印刷および/またはフレキソ印刷により6〜18g/m
2塗布した後、管状に成形する工程と、
を有し、
前記塗工液は、前記ポリフェノールを
0.0625〜1.25%の含有率で含み、前記シクロデキストリンを
3.75〜12.50%の含有率で含むとともに、前記低級アルコールを前記塗工液の全体積に対し3〜15%の体積比で含み、
前記シクロデキストリンの平均粒径は、100μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、消臭効果を長期間維持することができる、ロール状シートの紙管を効率よく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。但し、発明の範囲は図示例に限定されない。以下の説明においては、本発明の実施の形態における紙管を使用したロール状シートとして、紙管にシートとしてのトイレットペーパーを捲回してなるロール状トイレットペーパーを例示して説明することとする。
【0012】
<トイレットペーパー>
ロール状トイレットペーパー10は、例えば、
図1に示されるように、略中空円筒形状をなす紙管30と、一定幅に形成されて紙管30を芯として捲回されたトイレットペーパー20と、を備えて構成される。ロール状トイレットペーパー10は、ペーパーホルダーに取り付けて、トイレットペーパー20を引き出して使用するのが一般的である。
ロール状トイレットペーパー10の大きさは特に限定されないが、直径90〜120mm、幅100〜120mm、紙管径35〜50mmのものが一般的であり、本発明においても好適である。
【0013】
トイレットペーパー20を構成する原紙は、原料パルプを主原料とする薄葉紙用抄紙原料により製造できる。その原料パルプは、特に限定されるものではなく、トイレットペーパー20の具体的な用途に応じて適宜原料パルプを選択し、また配合して使用することができる。
トイレットペーパー20のプライ数及び坪量は、その用途によって適宜調整することができるが、プライ数が1プライから3プライ、全体での紙厚90〜270μm、1プライの坪量は10〜30g/m
2の範囲内にあるものを使用するのが望ましい。
坪量が10g/m
2未満では、柔らかさの向上の観点からは好ましいものの、使用に耐えうる十分な強度を適正に確保することが困難となる。逆に、坪量が30g/m
2を超えると紙全体が硬くなるとともに、ゴワ付き感が生じてしまい肌触りが悪くなる。なお、坪量の測定方法としては、例えばJIS P8124:2011に準じた方法等が挙げられる。
【0014】
<紙管>
紙管30は、例えば、
図2に示されるように、紙管30の内周面に面した内側原紙31と、紙管30の外周面に面した外側原紙32の、2枚の紙管原紙から形成される。
【0015】
内側原紙31と外側原紙32は、例えば、紙管原紙が螺旋状に巻かれたスパイラル紙管、平巻き紙管として形成される。スパイラル紙管では一方の紙管原紙の一方面に接着剤を付与し、前記一方の紙管原紙の糊付けされた面に他方の紙管原紙を幅方向に一部重ね、前記他方の紙管原紙の糊付け面と接しない面を螺旋状に巻き付けて連続的に筒状の紙管を形成する。内側原紙31及び外側原紙32を構成する紙管原紙は、強度維持の観点から、米坪130〜200g/m
2、剛度300〜600の原紙を用いることが好ましい。なお、剛度の測定方法としては、例えばJIS P8143:2009に準じた方法等が挙げられる。上記の剛度であれば、紙管としたときに潰れのない紙管が得られる。
【0016】
内側原紙31と外側原紙32は、必要に応じて接着剤等を用いて互いに接着されている。
内側原紙31と外側原紙32とを接着剤を用いて固定する場合、その接着方法は任意であり、既知の紙管接着剤(例えば、CMC、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール)の他、ホットメルト、ラテックス等を用いて接着することができる。接着剤の付与量は特に限定されないが、1〜25.0g/m
2程度である。
【0017】
本実施形態の紙管30の内側原紙31と外側原紙32の少なくとも一方には、ポリフェノールとシクロデキストリンを混合した液体(塗工液)が塗布されている。
【0018】
ポリフェノールは、紙管30に消臭性能を付与するために使用した消臭剤である。消臭剤としてのポリフェノールには、植物から抽出されたタンニン、カテキンなどを用いることができる。
塗工液の組成におけるポリフェノールの
含有率は
0.0625〜1.25%である。ポリフェノールの
含有率をこの
0.0625〜1.25%とすることで、所望の消臭効果を発揮する紙管を得ることができる。
【0019】
シクロデキストリンは、カップ状の環状構造を有し、内部に疎水性分子をゲスト分子として包接する性質を有する。また、シクロデキストリンは、水分存在下で包接したゲスト分子を放出する。本発明では、シクロデキストリンは、ゲスト分子としてポリフェノールを包接し、紙管30の保管期間中に大気中の水分によってポリフェノールを徐放させるようにすることで、ポリフェノールの消臭性能を長時間持続させるために使用している。
また、シクロデキストリンは、ゲスト分子の包接後は粉体となり、塗工工程の効率が著しく損なわれるため、ポリフェノールとシクロデキストリンとを予め混合して溶解した塗工液の状態にて塗布することで、良好な塗工性が得られる。
【0020】
さらに、ポリフェノールは金属イオンと錯体を形成するため、塗工工程中における金属部品等と反応して黒ずみ等を生じさせるが、ポリフェノールをシクロデキストリンに包接することで、ポリフェノールと金属が直接的に接しなくなると考えられるため、黒ずみ等が生じず、以て良好な操業性が得られる。
【0021】
シクロデキストリンの平均粒径は、100μm以下である。シクロデキストリンの平均粒径が100μmを超えると、ポリフェノールを包接し難くなり、長時間消臭効果を維持することが困難となる。さらに、水溶性が悪化するため、塗工液を調整する際に、シクロデキストリンが溶解し難くなる。なお、平均粒径は、メジアン径で測定したものである。
また、塗工液の組成におけるシクロデキストリンの
含有率は
3.75〜12.50%である。シクロデキストリンの
含有率が
3.75%未満では、長期間消臭効果を維持することが困難になることに加え、変色が見られることから、操業性が悪化する。逆に、シクロデキストリンの
含有率が
12.50%を超えると、塗工液の粘性が高まり紙管30への塗工性が悪化する。
【0022】
内側原紙31および外側原紙32に塗工液を付与するには、長尺に紙管原紙が巻かれたロール状の原反から当該内側原紙31および外側原紙32を繰り出し、塗工機でその内側原紙31または外側原紙32の一方面もしくは両方面の一部又は全体に塗工することにより行う。内側原紙31および外側原紙32に塗工液を付与する塗工機としては、フレキソ印刷機および/またはグラビア印刷機から所望の塗工量、操業性より選択することができる。塗工機による塗工液の付与態様としては、ベタ印刷のほか網点状、円状、ブロック状など適宜のパターン印刷、図形などの模様印刷や文字の印刷として付与することができる。
【0023】
ポリフェノールおよびシクロデキストリンを含む塗工液の溶媒としては、水と低級アルコールとを混合したものを用いることが出来る。低級アルコールとしては、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、メタノールを例示できる。また低級アルコールは塗工液の全体積に対し、3〜15%の体積比で含むようにするのが望ましい。前記割合とすることで、紙管原紙のパルプ繊維と馴染みがよく、効率よい塗布が可能となる。
【0024】
次に、本発明に係る紙管の実施例と比較例を作製し、その性能評価を行った結果を示す。
【0025】
先ず、坪量が160g/m
2の原紙に対し、ポリフェノールとシクロデキストリンを含む塗工液をグラビア印刷の手法で塗布し、内側原紙31とする紙管原紙を作製した。
また、塗工液を塗布しない坪量160g/m
2の原紙を外側原紙32用の紙管原紙とした。
ここで、塗工液に用いたポリフェノールは、茶由来のカテキンであり、シクロデキストリンは、平均粒径50μmのもの(日新化学研究所)である。
また、塗工液におけるポリフェノールとシクロデキストリンの量が、下記の表1の実施例1〜6、比較例1〜9に示す値になるように、ポリフェノールとシクロデキストリンの濃度を調整した。この塗工液の溶媒は水およびイソプロピルアルコールであり、いずれの塗工液にもイソプロピルアルコールが塗工液の全量に対して体積比5%で含まれるようにした。
また、下記の表1の比較例7では、シクロデキストリンの代わりに粒径10μmのメラミン樹脂からなるマイクロカプセルを用いた。なお、メラミン樹脂カプセルの粒径はメジアン径で測定したものである。
【0026】
そして、塗工液の塗布後に乾燥した内側原紙31用の紙管原紙と、外側原紙32用の紙管原紙とをポリビニルアルコールを主成分とする接着剤で接着し、内側原紙31用の紙管原紙を内側にして内径41mmとなるように螺旋状に巻いた紙管を形成し、その紙管を長さ114mmにカットしてなる紙管30を作製した。
【0027】
(消臭効果試験)
容量が10Lの密閉容器に尿臭を模擬したアンモニアを100ppmの濃度で発生させ、その容器内に、上記実施例1〜6、比較例1〜9の塗工液を付与した紙管30を、それぞれ1本投入してから1時間後にアンモニアの濃度を検知管法にて測定した。アンモニアの濃度検知には、ガステック社製の検知器(GV−100S)および検知管(3Lおよび3La)を用いた。
また、50℃RH90%の環境に調整した恒温槽内に紙管30を4日間放置した劣化後のサンプルについても、同様の消臭効果試験を行った。
【0028】
(変色試験)
容量が50mLの容器に塗工液を満たし、前記液中に長さ5cm、幅2cmの鉄板を1時間浸漬した後、水洗および風乾した。24時間経過後に、鉄板の変色が見られるものを「×」、変色が無いものを「○」とした。
【0029】
(塗工性)
塗工液の粘性増加により、印刷機での塗工時に、塗工液の泡立ちあるいは塗工面の塗布むらが生じたものを「×」、生じなかったものを「○」とした。
【0030】
消臭効果試験の結果として、検知したアンモニア濃度が10ppm以下(消臭率90%以上)となった場合、消臭効果があると判定した。
また、塗工性、変色試験に問題なく、アンモニアの消臭効果試験、及び4日間放置した後のサンプルについて消臭効果試験結果が何れも消臭効果があると判定された場合、総合評価を「○」とした。
【0032】
表1に示した結果から、
0.0625〜1.25%のポリフェノールと、平均粒径が100μm以下の
3.75〜12.50%のシクロデキストリンを含有した塗工液を塗布した場合(実施例1〜6)、紙管30が、長時間、好適な消臭性能を有していることがわかる。これは、シクロデキストリン中に包接された消臭剤としてのポリフェノールである茶由来のカテキンが、湿度の影響を受けて徐々に放出されたことで、効果が長期間維持したものと考えられる。
【0033】
一方、表1に示した比較例1〜3のように、シクロデキストリンの量が少なすぎる、又はシクロデキストリンを加えないと、経時後に消臭効果が得られないことがわかる。即ち、長時間の消臭性能を得られないことがわかる。同様に、比較例5、8、9のようにポリフェノールが少なすぎる、又はポリフェノールを加えない場合には、消臭効果を得られないことがわかる。
他方、比較例6に示すように、ポリフェノールが多すぎると、シクロデキストリンを配合しても変色が生じることがわかる。
また、比較例4のように、シクロデキストリンの量が多すぎると、シクロデキストリンの濃度に起因すると思われる粘性により、塗工性が低下した。
また、比較例7のように、シクロデキストリンの代わりにメラミン樹脂からなるマイクロカプセルを用いた場合、経時後も消臭剤としてのポリフェノールである茶由来のカテキンの徐放性が得られず、消臭効果が得られないことがわかる。また、塗工ムラが生じ、塗工適正も悪化する。
【0034】
以上のように、本実施形態の紙管30であれば、アンモニア臭に対する消臭効果を長期間維持できる。
つまり、本実施形態の紙管30を使用したロール状トイレットペーパー10であれば、保管中にトイレ空間の消臭を行い、悪臭緩和することができる。
【0035】
なお、以上の実施の形態においては、内側原紙31と外側原紙32とで構成される紙管30において、内側原紙31にポリフェノールとシクロデキストリンが付与された紙管30を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、外側原紙32にポリフェノールとシクロデキストリンを付与してもよく、また、内側原紙31と外側原紙32の両方にポリフェノールとシクロデキストリンを付与するようにしてもよい。
【0036】
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。