特許第6223562号(P6223562)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6223562トレランスリング、トレランスリングを備える組立体、およびトルク伝達を分割する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223562
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】トレランスリング、トレランスリングを備える組立体、およびトルク伝達を分割する方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 7/02 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
   F16D7/02 F
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-522541(P2016-522541)
(86)(22)【出願日】2014年6月27日
(65)【公表番号】特表2016-524104(P2016-524104A)
(43)【公表日】2016年8月12日
(86)【国際出願番号】EP2014063737
(87)【国際公開番号】WO2014207219
(87)【国際公開日】20141231
【審査請求日】2016年2月16日
(31)【優先権主張番号】61/840,451
(32)【優先日】2013年6月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】310004529
【氏名又は名称】サン−ゴバン パフォーマンス プラスティックス レンコール リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100188857
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 智文
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・ロバート・スレイン
(72)【発明者】
【氏名】ルウェリン・ピッカリング
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2002/0039461(US,A1)
【文献】 特開2006−038039(JP,A)
【文献】 特開2008−032193(JP,A)
【文献】 特開2005−114025(JP,A)
【文献】 特開2002−106554(JP,A)
【文献】 米国特許第04981390(US,A)
【文献】 米国特許第03353639(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部構成要素と外部構成要素との間で展開されるよう構成されるトレランスリングであって、
中心軸と、第1の軸方向端部及び第2の軸方向端部を定める側壁とを有する略円筒形の本体を備え、
前記側壁は、
未変形部分、及び、
前記未変形部分から径方向に突出する複数の波構造、を含み、少なくとも1つの波構造は、前記中心軸に対して垂直な平面において見ると、非対称な断面を有する非対称的なプロフィールを有し、前記非対称な断面を二等分する放射線状の線は、前記断面を第1の弧と第2の弧とに分割し、前記第1の弧は中点MPにおいて第1の接線の傾きsの絶対値を有し、前記第2の弧は中点MPにおいて第2の接線の傾きsの絶対値を有し、|s|≠|s|であり、
前記トレランスリングは、第1の回転方向において第1のトルク分断点Tを有するように構成され、前記第1の回転方向と反対の第2の回転方向において第2のトルク分断点Tを有するように構成され、T/T>1である、トレランスリング。
【請求項2】
ボアを含む外部構成要素と、
前記ボア内に配置される内部構成要素と、
前記内部構成要素と前記外部構成要素との間に取り付けられるトレランスリングと、を備える組立体であって、
前記トレランスリングは、
中心軸と、第1の軸方向端部及び第2の軸方向端部を定める側壁とを有する略円筒形の本体を備え、
前記側壁は、
未変形部分、及び、
前記未変形部分から径方向に突出する複数の波構造、を含み、少なくとも1つの波構造は、前記中心軸に対して垂直な平面において見ると、非対称な断面を有する非対称的なプロフィールを有し、前記非対称な断面を二等分する放射線状の線は、前記断面を第1の弧と第2の弧とに分割し、前記第1の弧は中点MPにおいて第1の接線の傾きsの絶対値を有し、前記第2の弧は中点MPにおいて第2の接線の傾きsの絶対値を有し、|s|≠|s|であり、
前記トレランスリングは、第1の回転方向において第1のトルク分断点Tを有するように構成され、前記第1の回転方向と反対の第2の回転方向において第2のトルク分断点Tを有するように構成され、T/T>1である、組立体。
【請求項3】
前記本体の軸方向の長さ全体に沿って延在する隙間であって、前記本体にスプリットを形成する隙間を更に備える、請求項1又は2記載のトレランスリング又は組立体。
【請求項4】
各波構造は、前記中心軸に対して垂直な平面において見ると、非対称な断面を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のトレランスリング又は組立体。
【請求項5】
前記非対称な断面を二等分する放射線状の線は前記断面を第1の弧と第2の弧とに分割する、請求項4記載のトレランスリング又は組立体。
【請求項6】
前記第1の弧は中点MPにおいて第1の接線の傾きsの絶対値を有し、前記第2の弧は中点MPにおいて第2の接線の傾きsの絶対値を有し、|s|≠|s|である、請求項5記載のトレランスリング又は組立体。
【請求項7】
各波構造は第1の半径方向に突出し、前記トレランスリングは複数の延長部を更に有し、各延長部は前記第1の半径方向と反対の第2の半径方向に突出する、請求項1乃至6のうちいずれか一項に記載のトレランスリング又は組立体。
【請求項8】
前記延長部は、終端エッジを更に有し、前記終端エッジは前記側壁から切断される、請求項7記載のトレランスリング又は組立体。
【請求項9】
前記終端エッジは、T/Tの増加を得るよう前記内部構成要素又は前記外部構成要素と摩擦で係合されるよう構成される、請求項8記載のトレランスリング又は組立体。
【請求項10】
各延長部は、対応する波構造の側面から延在し、前記延長部及び対応する波構造の前記側面は前記側壁から切断されている、請求項7記載のトレランスリング又は組立体。
【請求項11】
前記内部構成要素又は前記外部構成要素は、前記延長部を受容するよう構成される構造化された表面を更に含む、請求項7記載のトレランスリング又は組立体。
【請求項12】
前記トレランスリングは炭素鋼、ステンレス鋼、ばね鋼、インコネル、モネル、インカロイ、フィノックス、又は、銅ベリリウムを含む、請求項1乃至11のうちいずれか一項に記載のトレランスリング又は組立体。
【請求項13】
前記トレランスリングは、ビッカーズ硬度HVTRを有し、前記内部構成要素はビッカーズ硬度HVICを有し、HVTR/HVIC>1である、請求項1乃至12のうちいずれか一項に記載のトレランスリング又は組立体。
【請求項14】
前記トレランスリングは、ビッカーズ硬度HVTRを有し、前記外部構成要素はビッカーズ硬度HVOCを有し、HVTR/HVOC>1である、請求項1乃至13のうちいずれか一項に記載のトレランスリング又は組立体。
【請求項15】
トルク伝達を分割する方法であって、
組立体を提供するステップであって、前記組立体がボアを含む外部構成要素と、前記ボア内に配置される内部構成要素と、前記内部構成要素と前記外部構成要素との間に取り付けられるトレランスリングと、を備え、前記トレランスリングが中心軸と、第1の軸方向端部及び第2の軸方向端部を定める側壁とを有する略円筒形の本体を備え、前記側壁が未変形部分、及び、前記未変形部分から径方向に突出する複数の波構造を含み、少なくとも1つの波構造は、前記中心軸に対して垂直な平面において見ると、非対称な断面を有する非対称的なプロフィールを有し、前記非対称な断面を二等分する放射線状の線は、前記断面を第1の弧と第2の弧とに分割し、前記第1の弧は中点MPにおいて第1の接線の傾きsの絶対値を有し、前記第2の弧は中点MPにおいて第2の接線の傾きsの絶対値を有し、|s|≠|s|である、ステップと、
第1の回転方向において前記内部構成要素又は前記外部構成要素に対して前記中心軸の周りでトルクを印可するステップであって、前記第1の回転方向におけるトルク分断点Tは前記第1の回転方向と反対の第2の回転方向におけるトルク分断点Tと異なる、ステップとを備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、公差リングに係わり、特に、構成要素間にトルク結合作用を提供する公差リングに関わる。
【背景技術】
【0002】
本開示は、公差リングや組立体に係わり、公差リングは組立体の構成要素間に締まりばめを提供する。
【0003】
エンジニアリング技術が改善された結果、機械部品のより高い精度が必要となり、製造コストが上昇した。プーリ、フライホイール、ロータ、又は、駆動軸等の用途においてトルクを伝達するため、又は、ステータ、主フレーム、下フレーム、及び、コンプレッサ筐体等の部品間の相対運動を防止するために、圧入、スプライン、ピン、又は、キー溝が使用される場合には非常に近い公差が必要である。
【0004】
公差リングは、トルクを伝達するに必要な部品間に締まりばめを提供するために使用されてもよい。公差リングは、正確な寸法に機械加工されない場合もある部品間に締まりばめを提供する効率的な手段を提供する。公差リングは、部品間の異なる線膨張係数を補償する、迅速な装置の組立てを可能にする、及び、耐久性といった幾つかの他の潜在的な利点を有する。
【0005】
公差リングは、一般的に、弾力材、例えば、ばね鋼のような金属の片を有し、ばね鋼の両端部は一緒に合さってリングを形成する。リングからは径方向外方、及び/又は、リングの中心に向かって径方向内方に突出部の帯が延在される。突出部は、うねり、隆起、又は、波等の構造、可能性としては、規則正しい構造を通常有する。
【0006】
リングが例えば、軸受と、軸受が位置する筐体におけるボアとの間の環状空間にリングが位置する場合、突出部は、圧縮される。各突出部はばねとして機能し、軸受やボアの表面に対して径方向の力を与えることで軸受と筐体との間に締まりばめを提供する。摺動軸が軸受中を軸方向に自由に移動することができる一方で、軸受は筐体内にしっかりと設置されたままである。
【0007】
公差リングは、通常、湾曲されている弾力材の片を有し、片の端部を重ね合わせることでリングを簡単に形成することができるが、公差リングは環状の帯として製造されてもよい。以下で使用する「公差リング」といった用語は、両タイプの公差リングを含む。
【0008】
従って、産業界では公差リング、特に、ステアリング組立体内に設置される公差リングの改善が引き続き必要である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
添付の図面を参照することで当業者には本開示がより良く理解され、多数の特徴や利点が明らかとなるであろう。
図1A図1Aは、第1の実施形態による公差リングの斜視図を示す。
図1B図1Bは、第1の実施形態による公差リングの断面図を示す。
図2図2は、第1の実施形態による公差リングの波構造の部分断面図を示す。
図3A図3Aは、第1の実施形態による公差リングの内構造の注釈付きの部分断面図を示す。
図3B図3Bは、第1の実施形態による公差リングの内構造の注釈付きの部分断面図を示す。
図4A図4Aは、第2の実施形態による公差リングの斜視図を示す。
図4B図4Bは、第2の実施形態による公差リングの断面図を示す。
図5図5は、第2の実施形態による公差リングの波構造の部分断面図を示す。
図6A図6Aは、第3の実施形態による公差リングの斜視図を示す。
図6B図6Bは、第3の実施形態による公差リングの断面図を示す。
図7図7は、第3の実施形態による公差リングの波構造の部分断面図を示す。
【0010】
異なる図面において、同様の或いは同一のアイテムには同じ参照記号が用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の説明は、公差リングに係わり、ある場合には、摺動軸に対するブッシングと筐体との間のステアリング組立体内に設置され得る公差リングに関わる。一態様では、公差リングは、内部構成要素と外部構成要素との間で展開されるよう適応される。公差リングは、略円筒形の本体を有する。円筒形の本体は中心軸を有する。円筒形の本体は、更に、第1の軸方向端部と第2の軸方向端部とを定める側壁を含む。側壁は、未変形部分を含む。側壁の未変形部分は、突出部、波、延長部、ノッチ、開口部、及び、他の表面上の変形がない領域である。しかしながら、未変形領域により、該部分は円筒形の本体の屈曲と整列することができる。
【0012】
側壁は、複数の波構造を更に含む。波構造は、未変形部分から径方向に突出し得る。幾つかの又は全ての波構造は内方に突出し得、即ち、波構造の頂部は未変位部分よりも中心軸に近くなる。別の実施形態では、幾つかの又は全ての波構造は外方に突出し得、即ち、波構造の頂部は未変形部分よりも中心軸から遠い。
【0013】
更に、内部構成要素と外部構成要素を有する組立体に配置された場合、公差リングは第1の回転方向において第1のトルク分断点Tを有する。内部構成要素、外部構成要素、及び、公差リングを有する組立体に対するトルク分断点は、滑りが生ずるトルクである。
【0014】
トルク滑りは、自動車95/56/ECに対するEuropean Commission Directive(1995年11月8日)においてステアリング装置と同様にして、或いは、それについて説明したように測定され得る。一般的に、トルク分断点は、中心軸を含む内部構成要素や外部構成要素を有する試験組立体を用いて決定され、このとき、外部構成要素は静的に保持され、即ち、中心軸について回転不能であり、内部構成要素は中心軸について回転可能である。公差リングは、内部構成要素と外部構成要素との間に配置され、内部構成要素と中心軸を共有するよう整列される。内部構成要素に対してトルクが印可され、トルク分断点が内部構成要素の滑りが生ずるための必要なトルクとして定義される。トルク分断点は、時計回り並びに反時計周りに決定され得る。
【0015】
実施形態によると、組立体に配置されると、公差リングは第1の回転方向と反対の第2の回転方向に第2のトルク分断点Tを有し得る。第1の態様によると、T/T>1の比、即ち、時計回りに必要なトルクは、反時計周りに必要なトルクと異なる。
【0016】
第2の態様によると、組立体は外部構成要素を含み得る。外部構成要素は、ボアを含み得る。組立体は、ボア内に配置される内部構成要素を更に含む。外部構成要素と内部構成要素は、共通の中心軸を共有し得る。組立体は、更に、内部構成要素と外部構成要素との間に取り付けられる公差リングを含み得る。公差リングは、略円筒形の本体を含む。略円筒形の本体は中心軸を有し、該中心軸は内部構成要素と外部構成要素の中心軸と整列される。公差リングは、更に、第1の軸方向端部と第2の軸方向端部を定める側壁を含み得る。側壁は、未変形部分を含み得る。側壁は、未変形部分から径方向に突出する複数の波構造を更に含む。波構造は、径方向内方に又は外方に、或いは、交互に、即ち、内方の後に幾らか外方に突出し得る。組立体は、第1の回転方向において内部構成要素と外部構成要素との間第1のトルク分断点Tを有し得る。組立体は、第1の回転方向と反対の第2の回転方向において第2のトルク分断点Tを更に有する。T/T>1の比、即ち、時計回りに必要なねじりモーメントは、反時計回りに対するねじりモーメントと異なる。
【0017】
図1A及び図1Bを参照するに、模範的な公差リング100が例示される。図1に示されるように、公差リング100は、略円筒形の未変形側壁104を有する略円筒形の本体102を含み得る。側壁104は、第1の軸方向端部に位置する上部106、及び、第1の軸方向端部の反対にある第2の軸方向端部に位置する底部108を含み得る。更に、側壁104は、第1の端部110及び第2の端部112を含む。側壁104の第1の端部110と第2の端部112との間には隙間114が設けられてもよい。隙間114は、公差リング100の側壁104にスプリットを形成するために、側壁104中を完全に延在してもよい。図1Aに示すように、公差リング100は中心軸116を含み得る。
【0018】
公差リング100の側壁104は、側壁104の上部106の近傍に或いは隣接して上未変形帯120を含み得る。側壁104は、更に、上未形成帯120と反対の側壁104の底部108の近傍に或いは隣接して下未変形帯122を含み得る。未変形部124は、未変形帯120、122から該未変形帯120、122間で側壁104の長さに沿って軸方向に延在し得る。
【0019】
図1A及び図1Bに例示されるように、公差リング100は、側壁104に形成される複数の波構造130を含み得る。波構造130は、公差リング100の中心軸116から離れるように又は中心軸116に向かうように側壁104から径方向外方に又は内方に(図示せず)突出し得る。
【0020】
各波構造130は、波構造130の未変形帯120及び122の近くの部分が開くよう未変形部124だけに接続されてもよい。別の実施形態では、波構造130は未変形部124及び未変形帯120及び122に接続されてもよい。図1Bに示されるように、各未変形部124は隣接する波構造130の間に位置し、各波構造130は側壁104の周囲に波構造130と未形成部124が交互に設けられるよう隣接する未形成部124の間に位置する。
【0021】
図1Aに示すように、公差リング100は、一行又は帯の波構造を含み得る。他の実施形態(図示せず)では、公差リングは二行又は帯の波構造、三行又は帯の波構造等を含み得る。更に、各行における波構造の合計数NWSは、≧3、例えば、≧4、≧5、≧6、≧7、≧8、又は、≧9である。更に、NWSは、≦30、≦25、≦20、又は、≦15である。NWSは、上述のNWS値を含むその間の範囲にある。図1A及び図1Bに示すように、特定の実施形態では、NWSは15でもよい。
【0022】
図2を参照するに、一つの波構造130の公差リング100の部分断面図が表示される。波構造130は非対称的なプロフィールを含み得る。図3Aに示すように、波構造130は未変形部|AB|、即ち、公差リングの図3Aにおける未変形帯に沿って点Aと点Bによって限定される部にわたる。部|AB|は、中点MABを含む。図3Aに示すように、中心軸116から延在し、中点MABを通る平面rは、波構造130を二つの部分p及びpに二等分する。部分pは、点Aから点Dまで延在し、部分pは点Dから点Bまで延在する。
【0023】
図3Bを参照するに、部分pは、|AD|間の中間に位置する中点MPを有し、部分pは、|DB|間の中間に位置する中点MPを有する。図3Bは、MPと接する、部分pの接線の傾きsを示す。傾きsは、sとrとの間の角度αによって決定され得る。絶対傾き値|s|=tan(α−90°)である。同様にして、部分pは、角度βでrを切断する中点MPで接線の傾きsを有する。したがって、絶対傾き値|s|=tan(β−90°)である。実施形態では、|s|は|s|と異なる。
【0024】
図3Bに示すように、一実施形態では、|s|>|s|である。更なる実施形態では、|s|/|s|の比は、1より大きく、例えば、1.1より大きく、1.2より大きく、1.4より大きく、1.8より大きく、2.0より大きく、2.5より大きく、3.0より大きく、4.0より大きく、5.0より大きく、又は、10より大きい。別の実施形態では、比|s|/|s|は10.5未満であり、例えば、5.5未満であり、4.5未満であり、3.5未満であり、2.8未満であり、2.3未満であり、2.1未満であり、1.9未満であり、1.7未満であり、1.5未満であり、又は、1.3未満である。更なる別の実施形態では、|s|/|s|の比は、1.1乃至3.5、例えば、1.4乃至3.0の範囲にある。
【0025】
図4A及び図4Bをここで参照するに、模範的な公差リングは、一点を除いて、図1A乃至図3Bに示す素子と同じ素子を含んで例示される。図4Aに示すように、延長部402は、波構造130の間に位置される。延長部402は、隣接する波構造の方向と反対の方向に半径方向に突出する。図4Aに示すように、波構造130は未変形領域424によって延長部402から分離され得る。
【0026】
更なる別の実施形態では、図5に示すように、延長部402は終端エッジ404を有し得る。エッジ404は、未変形部分424から切断されている。或いは(図5に示さない)、エッジ404は部分424に接続され得る。
【0027】
更なる別の実施形態では、図6に示すように、延長部は、未変形領域によって隣接する波構造130から分離されていない。ここでは、延長部602は、隣接する波構造130に接続されている。図7に示すように、延長部602は、終端エッジ604を含み、終端エッジ604は未変形部分624から切断されている。或いは(図示せず)、終端エッジは、未変形側壁部分624から接続されたままでもよい。
【0028】
公差リング100は、ボアが形成される外部構成要素及びボア内に配置される内部構成要素を有する組立体において利用され得る。外部構成要素はボアが形成された筐体でもよく、内部構成要素はラック軸受でもよい。更に、公差リング100は、内部構成要素と外部構成要素との間に取り付けられ得る。
【0029】
一実施形態では、内部構成要素は、延長部402又は602と係合する表面構造を有し得る。特定の実施形態では、このような表面構造は、組み立てられると公差リングの内面と合致し得る。例えば、内部構成要素は、溝、ノッチ、又は、窪みを有し得る。一つの特定の実施形態では、窪みはV字形状の断面を有し得る。別の実施形態では、内部構成要素の断面はU字形状の窪み、L字形状の窪み、J字形状の窪み、又は、全てのその組み合わせを有し得る。
【0030】
特定の態様では、本願記載の公差リング100は金属、金属合金、又は、その組み合わせから形成される。金属は、鉄金属を含み得る。更に、金属は鋼を含み得る。鋼は、ステンレス鋼、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼を含む。更に、鋼は、クロム。ニッケル、又は、その組み合わせを有するステンレス鋼を含み得る。例えば、鋼は、X10CrNi18−8 1.4310ステンレス鋼である。更に、公差リングは、ビッカーズ・ピラミッド硬度数(VPN)を含み、VPNは≧350、例えば、≧375、≧400、≧425、又は、≧450である。VPNは、≦600、≦500、≦475、又は、≦450でもよい。VPNは、本願記載の全てのVPN値を含み、その間の範囲内にある。別の態様では、公差リングは、耐食性を向上させるよう処理されてもよい。特に、公差リングは不動態化されてもよい。例えば、公差リングは、ASTM標準A967に従って不動態化されてもよい。
【0031】
一つの特定の実施形態では、内部構成要素は公差リングのVPNTRよりも小さいVPNICを有する材料よりなり、即ち、VPNIC<VPNTRである。したがって、公差リングは内部構成要素よりも硬い材料よりなる。その結果、内方の延長部402又は602を有する公差リングについて、終端エッジ404又は604は組み立ての際に内部構成要素の合わせ面に窪みを浮き出させてもよい。
【0032】
別の態様では、公差リング100を形成するストック材料は厚さTを有し、Tは≧0.1mm、例えば、≧0.2mm、≧0.3mm、≧0.4mm、≧0.5mm、又は、≧0.6mmである。別の態様では、Tは≦1.0mm、≦0.9mm、又は、≦0.8mmでもよい。更に、Tは上述の全てのTの値を含み、その間の範囲内にある。
【0033】
公差リング100は、全体的な外径ODを有し、ODは≧37.5mm、例えば、≧40mm、≧45mm、≧50mm、≧55mm、又は、≧60mmである。ODは、≦37.5mm、例えば、≦35mm、又は、≦30mmでもよい。更に、ODは上述の全てのODの値を含み、その間の範囲内にある。
【0034】
別の態様では、公差リングは、全体的な長さLを有し、Lは≧233mm、例えば、≧235mm、≧240mm、≧250mm、又は、≧260mmである。Lは、≦233mm、例えば、≦230mm、≦225mm、≦220mm、又は、≦210mmでもよい。更に、Lは上述の全てのLの値を含み、その間の範囲内にある。
【0035】
本開示を要約すると、以下の付記を含むが、それに内容が制限されることではない。
【0036】
付記1
内部構成要素と外部構成要素との間で展開されるよう適応される公差リングであって、
中心軸と、第1の軸方向端部及び第2の軸方向端部を定める側壁とを有する略円筒形の本体を備え、
該側壁は、
未変形部分、及び、
該未変形部分から径方向に突出する複数の波構造、を含み、
第1の回転方向において第1のトルク分断点Tを有し、該第1の回転方向と反対の第2の回転方向において第2のトルク分断点Tを有し、T/T>1である、公差リング。
【0037】
付記2
ボアを含む外部構成要素と、
該ボア内に配置される内部構成要素と、
該内部構成要素と該外部構成要素との間に取り付けられる公差リングと、を備える組立体であって、
該公差リングは、
中心軸と、第1の軸方向端部及び第2の軸方向端部を定める側壁とを有する略円筒形の本体を備え、
該側壁は、
未変形部分、及び、
該未変形部分から径方向に突出する複数の波構造、を含み、
該公差リングは、第1の回転方向において第1のトルク分断点Tを有し、該第1の回転方向と反対の第2の回転方向において第2のトルク分断点Tを有し、T/T>1である、組立体。
【0038】
付記3
トルク伝達を分割する方法であって、
組立体を提供するステップであって、該組立体がボアを含む外部構成要素と、該ボア内に配置される内部構成要素と、該内部構成要素と該外部構成要素との間に取り付けられる公差リングと、を備え、該公差リングが中心軸と、第1の軸方向端部及び第2の軸方向端部を定める側壁とを有する略円筒形の本体を備え、該側壁が未変形部分、及び、該未変形部分から径方向に突出する複数の波構造を含む、ステップと、
第1の回転方向において該内部構成要素又は該外部構成要素に対して該中心軸の周りでトルクを印可するステップであって、該第1の回転方向におけるトルク分断点Tが異なるステップと、を備える方法。当業者は、本願記載の特徴を一つ以上有する公差リングを利用する他の適用法を認識するであろう。
【0039】
付記4
該本体の軸方向の長さ全体に沿って延在する隙間であって、該本体にスプリットを形成する隙間を更に備える、付記1乃至3のうちいずれかに記載の公差リング、組立体、又は、方法。
【0040】
付記5
各波構造は、該中心軸に対して垂直な平面において見ると、非対称な断面を有する、付記1乃至4のうちいずれかに記載の公差リング、組立体、又は、方法。
【0041】
付記6
該非対称な断面を二等分する放射線状の線は該断面を第1の弧と第2の弧とに分割する、付記5記載の公差リング、組立体、又は、方法。
【0042】
付記7
該第1の弧は中点MPにおいて第1の接線の傾きsの絶対値を有し、該第2の弧は中点MPにおいて第2の接線の傾きsの絶対値を有し、|s|≠|s|である、付記6記載の公差リング、組立体、又は、方法。
【0043】
付記8
|s|/|s|の比は、1より大きく、例えば、1.1より大きく、1.2より大きく、1.4より大きく、1.8より大きく、2.0より大きく、2.5より大きく、又は、3.0より大きいが、20以下である、付記7記載の公差リング、組立体、又は、方法。
【0044】
付記9
各波構造は第1の半径方向に突出し、該公差リングは複数の延長部を更に有し、各延長部は該第1の半径方向と反対の第2の半径方向に突出する、付記1乃至8のうちいずれかに記載の公差リング、組立体、又は、方法。
【0045】
付記10
該延長部は、終端エッジを更に有し、該終端エッジは該側壁から切断される、付記9記載の公差リング、組立体、又は、方法。
【0046】
付記11
該終端エッジは、T/Tの増加を得るよう該内部構成要素又は該外部構成要素と摩擦で係合されるよう適応される、付記10記載の公差リング、組立体、又は、方法。
【0047】
付記12
/Tの増加は少なくとも0.05、例えば、少なくとも0.1、少なくとも0.2、少なくとも0.5、少なくとも0.7、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも30、又は、少なくとも50であるが1000以下である、付記11記載の公差リング、組立体、又は、方法。
【0048】
付記13
各延長部は、対応する波構造の側面から延在し、該延長部及び対応する波構造の該側面は該側壁から切断されている、付記9記載の公差リング、組立体、又は、方法。
【0049】
付記14
該内部構成要素又は該外部構成要素は、該延長部を受容するよう適応される構造化された表面を更に含む、付記9記載の公差リング、組立体、又は、方法。
【0050】
付記15
該内部構成要素又は該外部構成要素の該構造化された表面の断面は、該中心軸に対して垂直な平面で見ると、V字形状の窪み、U字形状の窪み、L字形状の窪み、J字形状の窪み、又は、全てのその組み合わせを含む、付記14記載の公差リング、組立体、又は、方法。
【0051】
付記16
/Tの比は1.05より大きく、例えば、1.1より大きく、1.2より大きく、1.5より大きく、2より大きく、5より大きく、10より大きく、15より大きく、20より大きく、30より大きく、50より大きく、70より大きく、100より大きいが、1000以下である、付記1乃至15のうちいずれかに記載の公差リング、組立体、又は、方法。
【0052】
付記17
該公差リングは炭素鋼、ステンレス鋼、ばね鋼、インコネル、モネル、インカロイ、フィノックス、又は、銅ベリリウムを含む、付記1乃至16のうちいずれかに記載の公差リング、組立体、又は、方法。
【0053】
付記18
該公差リングは、少なくとも50、例えば、少なくとも55、少なくとも60、少なくとも65、少なくとも70、少なくとも75、少なくとも80、少なくとも85、少なくとも90、少なくとも95、少なくとも100、少なくとも110、少なくとも115、少なくとも120、少なくとも125、少なくとも130、少なくとも135、少なくとも140、少なくとも145、少なくとも150、少なくとも160、少なくとも170、少なくとも180、少なくとも190、又は、少なくとも200のビッカーズ硬度HVを有する、付記1乃至17のうちいずれかに記載の公差リング、組立体、又は、方法。
【0054】
付記19
該公差リングは、600以下、例えば、550以下、500以下、450以下、400以下、350以下、300以下、又は、250以下のビッカーズ硬度HVを有する、付記1乃至18のうちいずれかに記載の公差リング、組立体、又は、方法。
【0055】
付記20
該公差リングは、ビッカーズ硬度HVTRを有し、該内部構成要素はビッカーズ硬度HVICを有し、HVTR/HVIC>1である、付記1乃至19のうちいずれかに記載の公差リング、組立体、又は、方法。
【0056】
付記21
HVTR/HVICは、1.05より大きく、例えば、1.1より大きく、1.2より大きく、1.3より大きく、1.4より大きく、1.5より大きく、1.6より大きく、1.7より大きく、1.8より大きく、1.9より大きく、2.0より大きく、2.5より大きく、又は、3より大きいが、30以下である、付記20記載の公差リング、組立体、又は方法。
【0057】
付記22
該公差リングは、ビッカーズ硬度HVTRを有し、該外部構成要素はビッカーズ硬度HVOCを有し、HVTR/HVOC>1である、付記1乃至21のうちいずれかに記載の公差リング、組立体、又は、方法。
【0058】
付記23
HVTR/HVOCは、1.05より大きく、例えば、1.1より大きく、1.2より大きく、1.3より大きく、1.4より大きく、1.5より大きく、1.6より大きく、1.7より大きく、1.8より大きく、1.9より大きく、2.0より大きく、2.5より大きく、又は、3より大きいが、30以下である、付記22記載の公差リング、組立体、又は方法。
【0059】
上述した技術的内容は、例示的であり限定的と考えられてはならない。添付の特許請求の範囲は、本発明の真の範囲内にある全ての変更態様、改善、及び、他の実施形態を網羅することを意図している。そのため、法律によって許される最大限の程度で、本発明は、以下の請求及びその等価物の最も広い許容できる解釈によって決定され、前述の詳細な説明によって制約されたり制限されてはならない。
【0060】
更に、[発明を実施するための形態]において、本開示を合理化する目的で様々な特徴がグループ化されるか単一の実施形態において説明されてもよい。本開示は、請求される実施形態が各請求項において明確に記載される以上の特徴を必要とするといった意図を反映すると解釈されてはならない。以下の請求項が反映するように、本発明の技術的内容は、開示する実施形態いずれかの全ての特徴に関わり得る。そのため、以下の請求項は、[発明を実施するための形態]に組み込まれ、各請求項は単独で別個に請求される技術的内容を定めるものである。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7