(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223656
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】小流物接近防止方法および小流物接近防止装置
(51)【国際特許分類】
B63B 43/18 20060101AFI20171023BHJP
B63H 11/02 20060101ALI20171023BHJP
E02B 5/08 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
B63B43/18
B63H11/02
E02B5/08 101Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-263612(P2011-263612)
(22)【出願日】2011年12月1日
(65)【公開番号】特開2013-116640(P2013-116640A)
(43)【公開日】2013年6月13日
【審査請求日】2014年11月28日
【審判番号】不服2016-7657(P2016-7657/J1)
【審判請求日】2016年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】一瀬 泰啓
【合議体】
【審判長】
島田 信一
【審判官】
氏原 康宏
【審判官】
尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭54−598(JP,B1)
【文献】
米国特許第6394015(US,B1)
【文献】
特開平10−280369(JP,A)
【文献】
英国特許出願公開第951076(GB,A)
【文献】
特開昭62−17213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 43/18
B63H 11/02
E02B 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小型船や流木を含む小流物が、大型船を含む非接近設備に接近するのを防止する小流物接近防止方法であって、
水を汲み上げ、汲み上げた前記水に気泡を発生させ、気泡を含む前記水を前記非接近設備の喫水部から水面側に向けて噴射して、水面近傍における前記非接近設備から前記小流物側への水流を発生させる、ことを特徴とする小流物接近防止方法。
【請求項2】
小型船や流木を含む小流物が、大型船を含む非接近設備に接近するのを防止するための小流物接近防止装置であって、
水を汲み上げ、汲み上げた前記水に気泡を発生させる気泡発生手段と、
前記非接近設備の喫水部に配設され、気泡を含む前記水を水面側に向けて噴射して、水面近傍における前記非接近設備から前記小流物側への水流を発生させる気泡放出手段と、
を備えることを特徴とする小流物接近防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、小型船や流木等の漂流物などの小流物が、大型船等に接近、さらには衝突して大型船等を損傷させるのを防止する小流物接近防止方法および小流物接近防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、発電所関連設備の建設に伴って海上で工事を行う場合、環境への負荷・影響や建設費用を軽減したり、あるいは建設期間の短縮化などを図るために、大型船舶重機が使用されている。ところが、大型船舶重機による航行中や工事中に、誤って、あるいは何らかの要因により、小型船や流木等の漂流物などが大型船に危険接近してしまう場合がある。そして、小型船や漂流物などが大型船に危険接近すると、大型船の航行や工事に支障が生じるばかりでなく、小型船の安定・安全な航行が損なわれるおそれがある。
【0003】
一方、火力発電所の取水口などに海洋生物が流入するのを防止するために、プロペラで水流を発生させるとともに、水流に気泡を混入させて小魚等を驚かす、という技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−298964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、大型船舶重機に小型船が危険接近しようとした場合に、大型船から小型船に対して放水などを行うと、小型船が転覆したり、小型船の乗員に損傷・傷害を与えたりするおそれがある。また、特許文献1の技術では、海洋生物が取水口などに流入するのを防止することは可能であるが、大型船への小型船の危険接近を防止することはできない。
【0006】
そこでこの発明は、小型船の安全を確保しつつ、小型船や流木等の漂流物などの小流物が、大型船等に接近するのを防止することができる、小流物接近防止方法および小流物接近防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明は、小型船や流木を含む小流物が、大型船を含む非接近設備に接近するのを防止する小流物接近防止方法であって、
水を汲み上げ、汲み上げた前記水に気泡を発生させ、気泡を含む前記水を前記非接近設備の喫水部から水面側に向け
て噴射して
、水面近傍における前記非接近設備から前記小流物側への水流を発生させる、ことを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、小型船や流木を含む小流物が、大型船を含む非接近設備に接近するのを防止するための小流物接近防止装置であって、
水を汲み上げ、汲み上げた前記水に気泡を発生させる気泡発生手段と、前記非接近設備の喫水部に配設され、
気泡を含む前記水を水面側に向けて
噴射して
、水面近傍における前記非接近設備から前記小流物側への水流を発生させる気泡放出手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
これらの発明によれば、水面近傍において反非接近設備側への水流、つまり非接近設備から外側・小流物側への水の流れが形成されるため、小流物が非接近設備に接近することが困難となる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1および2の発明によれば、水面近傍における非接近設備から小流物側への水流によって、小型船や流木等の小流物が非接近設備に接近することが困難となる。しかも、
汲み上げた水に気泡を発生させ、この気泡を含む水を非接近設備の喫水部から水面側に向け
て噴射するだけで、小型船に直接放水などを行うものではないため、小型船を転覆させたり、小型船の乗員に損傷を与えたりすることがない。このように、小型船の安全を確保しつつ、小型船や流木等の小流物が非接近設備に接近するのを防止することができる。この結果、非接近設備による航行や工事などを支障、遅滞なく行うことができるとともに、小型船の安定・安全な航行を確保、維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の実施の形態に係る小流物接近防止装置を示す概略斜視図である。
【
図2】
図1の小流物接近防止装置による小流物接近防止方法を示す概略図である。
【
図3】
図2の小流物接近防止方法による作用を示す図である。
【
図4】この発明において、気泡の粒径が比較的小さい場合の表面水流影響範囲と表面水流層厚とを示す図である。
【
図5】この発明において、気泡の粒径が比較的大きい場合の表面水流影響範囲と表面水流層厚とを示す図である。
【
図6】この発明における第2の気泡発生手段を示す概略構成図である。
【
図7】この発明における第3の気泡発生手段を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0017】
図1は、この発明の実施の形態に係る小流物接近防止装置1を示す概略斜視図であり、
図2は、この小流物接近防止装置1による小流物接近防止方法を示す概略図である。この小流物接近防止装置1は、小型船101や流木等の漂流物などの小流物が、大型船(非接近設備)100に危険接近するのを防止するための装置であり、主として、エアーコンプレッサ(気泡発生手段)2と、ノズル体(気泡放出手段)3と、制御コンピュータ(制御手段、図示せず)とを備えている。
【0018】
ここで、大型船100が大型船舶重機、小流物が小型船101で、小型船101が大型船100に危険接近する場合について説明するが、非接近設備がその他の船舶や、海上フェンス等の施工区域を明示する設備であってもよく、また、海以外の湖や川などであってもよいことは勿論である。さらに、小流物が流木等の漂流物であってもよく、また、小型船101は、一人または二人乗り程度の大きさで、例えば、平常時の喫水が20cm程度であり、エンジン等の駆動機関を有しない船舶を想定する。
【0019】
エアーコンプレッサ2は、海水W中(水中)で気泡を発生させるための空気圧縮機であり、圧縮空気を生成して、エアーパイプ21を介して圧縮空気をノズル体3に送る。このようなエアーコンプレッサ2は、大型船舶重機100に設置されている。
【0020】
ノズル体3は、大型船舶重機100の喫水部100aに配設され、気泡Bを海水面(水面)W1側に向けて放出するものである。すなわち、大型船舶重機100の船底近くの側面に、水平方向に延びるノズル管31が配設され、このノズル管31は、エアーパイプ21と連結されている。また、ノズル管31には、海水面W1側に向って気泡Bを噴射・放出するノズル32が複数配設され、エアーパイプ21を介して送られた圧縮空気が、ノズル管31を通って各ノズル32から気泡Bとして噴射されるようになっている。
【0021】
また、各ノズル32から噴射された気泡Bによって、
図2に示すように、海水面W1近傍における反大型船舶重機100側(大型船舶重機100から離れる方向)への水流F1が形成されるとともに、大型船舶重機100寄りの海水面W1近傍に、気泡Bの塊である残泡B1が形成されるように、ノズル管31の位置・深さや、各ノズル32の噴射方向が設定されている。具体的には、
図3に示すように、各ノズル32から気泡Bが噴射されることで、海水面W1近傍で水流F1が形成され、さらに水流F1によって、水深部・海中部では大型船舶重機100側に向かう(連行される)水流F2が発生する。つまり、大型船舶重機100近傍において深さ方向の還流が発生し、このような水流F1、F2によって、大型船舶重機100寄りの海水面W1上に、乾舷100b側に上昇した水面上昇部W2が形成され、この水面上昇部W2内および水面上昇部W2上に、残泡B1が形成されるようになっている。
【0022】
また、ノズル32から所定の大きさの気泡Bが噴射されるように、ノズル32の口径などが設定されている。すなわち、気泡Bの粒径の違いによって、気泡Bが流れたり留まったりする範囲(表面水流影響範囲)や、気泡Bの層の厚み(表面水流層厚)が異なる。例えば、気泡Bの粒径が比較的小さい場合には、
図4に示すように、表面水流影響範囲R1が大きく、かつ、表面水流層厚R2も大きい。一方、気泡Bの粒径が比較的大きい場合には、
図5に示すように、表面水流影響範囲R1が小さく、かつ、表面水流層厚R2も小さい。従って、所定の大きさの表面水流影響範囲R1および表面水流層厚R2が形成され、小型船101が大型船舶重機100に危険接近するのをより確実に防止できるような、粒径の気泡Bが好まく、このような粒径になるように、ノズル32の構造や口径などが設定されている。
【0023】
同様に、後述するようにして、小型船101が大型船舶重機100に危険接近するのをより確実に防止できるように、気泡Bの量(空気混入量)やノズル管31の深さ(気泡発生水深)が設定されている。
【0024】
このようなノズル体3が大型船舶重機100のほぼ全周囲に沿うように複数配設され、気泡Bがノズル体3ごとに供給されるようになっている。すなわち、各ノズル体3は、制御弁(図示せず)を介してエアーパイプ21に接続され、各制御弁は、制御コンピューによって制御されるようになっている。例えば、大型船舶重機100の全方位から小型船101が危険接近する可能性がある場合には、すべての制御弁を開弁し、全ノズル体3から気泡Bを噴射させる。また、大型船舶重機100が前進中で、大型船舶重機100の船尾側から小型船101が危険接近する可能性がある場合には、船尾(進行方向の反対側)に配設されたノズル体3の制御弁を開弁し、このノズル体3から気泡Bを噴射させる。
【0025】
このように、小型船101の接近方向に応じて、大型船舶重機100の進行方向の反対側から気泡Bを噴射することで、後述するように、大型船舶重機100に進行方向への推進力が作用するものである。また、制御コンピューによる制御弁の制御は、開閉する制御弁を手動で選択・入力してもよいし、大型船舶重機100の進行方向や小型船101の接近方向などに応じて、自動で行うようにしてもよい。
【0026】
次に、このような構成の小流物接近防止装置1による小流物接近防止方法などについて説明する。
【0027】
まず、大型船舶重機100による航行中や工事中に、小型船101が大型船舶重機100に危険接近した場合、あるいは危険接近する可能性がある場合に、エアーコンプレッサ2を起動させるとともに、接近方向に配設されたノズル体3の制御弁を制御コンピューによって開弁する。これにより、ノズル体3の各ノズル32から気泡Bが噴射され、
図2に示すように、海水面W1近傍において反大型船舶重機100側への水流F1が形成される。つまり、大型船舶重機100から小型船101側への水の流れが形成されるため、小型船101が大型船舶重機100に接近することが困難となる。
【0028】
さらに、上記のように、大型船舶重機100寄りの海水面W1近傍に、気泡Bの塊である残泡B1が形成される。このため、大型船舶重機100近傍、つまり水面上昇部W2および残泡B1における海水(気泡Bが混在した海水)の比重・密度が低くなり、浮力が低下する。この結果、
図2中の矢印Dに示すように、小型船101の喫水が増加し、小型船101が海水面W1近傍の流れ(水平流)の影響を受けやすくなり、小型船101が大型船舶重機100に接近することが困難となる。
【0029】
ただし、大型船舶重機100から小型船101側への水の流れF1や残泡Bにより浮力の低下が発生する範囲、および水面上昇部W2の範囲は、気泡が海面上ではじけ水塊内に存在しなくなる範囲には及ばないため、大型船舶重機100の航行により危険な影響(衝突)を受ける範囲より外側では、小型船101の航行に支障を与える横方向水流や浮力の低下などは発生しないことから、本方法によって小型船101の安全性は低下しない。
【0030】
一方、ノズル体3から気泡Bを噴射することによって発生する水面部の水流により、
図3に示すように、噴射方向とは逆方向の、つまり小型船101から離れる方向の推進力Pが、大型船舶重機100に作用する。さらに、上記のように、水深部では大型船舶重機100側に向かう水流F2が発生するため、この水流F2によって、小型船101から離れる方向の推進力Pが、大型船舶重機100に作用する。
【0031】
以上のように、この小流物接近防止装置1および小流物接近防止方法によれば、海水面W1近傍における反大型船舶重機100側への水流F1と、大型船舶重機100寄りの海水面W1近傍に形成された残泡B1とによって、小型船101が大型船舶重機100に接近することが困難となる。しかも、大型船舶重機100の喫水部100aから海水面W1側に向けて気泡Bを噴射するだけで、小型船101には直接放水などを行うものではないため、小型船101を転覆させたり、小型船101の乗員に損傷を与えたりすることがない。
【0032】
このように、小型船101の安全を確保しつつ、小型船101が大型船舶重機100に危険接近するのを効果的に防止することができる。この結果、大型船舶重機100による航行や工事などを支障、遅滞なく行うことができるとともに、小型船101の安定・安全な航行を確保、維持することができる。
【0033】
さらに、上記のように、気泡Bの噴射による反力・反作用や、水深部での水流F2などによって、大型船舶重機100に推進力Pが作用する。このため、この推進力Pが大型船舶重機100の進行方向と一致する場合には、大型船舶重機100の推進に要する動力・エネルギーを軽減することが可能となる。
【0034】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、エアーコンプレッサ2から圧縮空気を送ることで、ノズル体3から気泡Bを生成、噴射させているが、他の気泡発生手段によって気泡を生成してもよい。例えば、
図6に示すように、海水Wを汲み上げ、気泡発生装置51によって海水W中に気泡を発生させ、気泡を含む海水W3を水槽52に貯留する。そして、必要に応じて、水槽52中の海水W3をノズル体3に送ることで、気泡を噴射させるものである。この方法によれば、気泡を含む海水W3を噴射するため、空気自体を噴射する場合に比べて海水Wからの水圧に対抗でき、エネルギー効率が高く、均等かつ安定して気泡を噴射することができる。
【0035】
また、電気分解によって気泡を生成してもよい。すなわち、
図7に示すように、燃料電池(発電機)61を大型船舶重機100に設置し、喫水部100aに配設した複数の電極(電極群62)による電気分解によって、気泡を生成するものである。この方法によれば、高いエネルギー効率で気泡を生成することができる。なお、この方法では、気泡発生手段と気泡放出手段とが、一体的に構成されている。
【0036】
一方、上記の実施の形態では、ノズル体3を深さ方向に一段・一層のみ設けているが、必要な気泡Bの量などに応じて、二段以上設けてもよい。また、エアーコンプレッサ2を大型船舶重機100に設置しているが、大型船舶重機100とは異なる船や岸にエアーコンプレッサ2を設置してもよい。さらに、気泡放出手段がノズル体3の場合について説明したが、その他の手段・機構であってもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0037】
1 小流物接近防止装置
2 エアーコンプレッサ(気泡発生手段)
3 ノズル体(気泡放出手段)
31 ノズル管
32 ノズル
100 大型船舶重機(非接近設備)
100a 喫水部
101 小型船(小流物)
W 海水
W1 海水面(水面)
W2 水面上昇部
B 気泡
B1 残泡(気泡の塊)