特許第6223658号(P6223658)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223658
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】重金属を含む液体廃棄物の処理
(51)【国際特許分類】
   A62D 3/33 20070101AFI20171023BHJP
   C01B 33/152 20060101ALI20171023BHJP
   C02F 1/62 20060101ALI20171023BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20171023BHJP
   G21F 9/16 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   A62D3/33ZAB
   C01B33/152 A
   C02F1/62
   C02F11/00 C
   C02F11/00 M
   C02F11/00 101Z
   G21F9/16 511A
【請求項の数】27
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-531499(P2011-531499)
(86)(22)【出願日】2009年10月16日
(65)【公表番号】特表2012-505677(P2012-505677A)
(43)【公表日】2012年3月8日
(86)【国際出願番号】EP2009063547
(87)【国際公開番号】WO2010043698
(87)【国際公開日】20100422
【審査請求日】2012年10月10日
【審判番号】不服2016-349(P2016-349/J1)
【審判請求日】2016年1月7日
(31)【優先権主張番号】08166749.5
(32)【優先日】2008年10月16日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/105,860
(32)【優先日】2008年10月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511028733
【氏名又は名称】オリオン テック アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビグリノ, マルコ
【合議体】
【審判長】 川端 修
【審判官】 原 賢一
【審判官】 豊永 茂弘
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−510532(JP,A)
【文献】 特開昭59−92924(JP,A)
【文献】 作花済夫,ゾル−ゲル法の科学,アグネ承風社,1994年,第8〜13,28〜31,41〜49,154〜163頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62D1/00-9/00
G21F9/00-9/36
C02F1/58-1/64,11/00-11/20
C01B33/00-33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも重金属を含む溶液又は分散液を得るステップと、
前記溶液又は分散液に、粒子径100μm未満のシリカ粉末を、ゾル中のシリカ含有率が10重量%〜90重量%の間に含まれるような量で、ゾルのpHが4より高くならないように調節しながら添加してゾルを形成するステップと、
前記ゾルに、シリカのアルコキシシランに対するモル比が6より大きくなる量で、少なくとも1種のアルコキシシランを添加するステップと、
ゾルのpHを4より高い値に上昇させるステップと、
ゾルを型に注ぎ込むステップと、
前記ゾルをゲル化させて、ヒドロゲルを得るステップと、
ヒドロゲルを乾燥して、乾燥ゲルを得るステップと、
乾燥ゲルを焼結して、ガラス状のシリカ生成物を得るステップと
を含み、
少なくとも重金属を含む前記溶液又は分散液が廃棄物産出活動からの廃棄物であり、乾燥のステップにおいて溶媒交換を伴う超臨界乾燥を行わないことを特徴とする、重金属を含む廃棄物の処理のためのゾルゲル法。
【請求項2】
溶液又は分散液を得る前記ステップが、所与の液体廃棄物産出活動からの液体廃棄物をそのまま受け入れることにある請求項1に記載のゾルゲル法。
【請求項3】
液体廃棄物が、灰、スラリー又は泥の形態であるとき、溶液又は分散液を得る前記ステップが、前記廃棄物の湿潤化又は希釈にある請求項1に記載のゾルゲル法。
【請求項4】
液体廃棄物が希釈された液体廃棄物であるとき、溶液又は分散液を得る前記ステップが前記廃棄物の前濃縮操作である、請求項1に記載のゾルゲル法。
【請求項5】
前記シリカ粉末が10μm未満の粒子径を有する、請求項1に記載のゾルゲル法。
【請求項6】
前記粉末が5μm未満の粒子径を有する、請求項5に記載のゾルゲル法。
【請求項7】
前記シリカが焼成シリカである、請求項1に記載のゾルゲル法。
【請求項8】
ゾル中のシリカの前記含有率が30重量%〜65重量%に含まれる請求項1に記載のゾルゲル法。
【請求項9】
ゾル中のシリカの前記含有率が50重量%〜60重量%に含まれる請求項8に記載のゾルゲル法。
【請求項10】
シリカを添加する間、pHが1.5〜3である、請求項1に記載のゾルゲル法。
【請求項11】
シリカのアルコキシシランに対する前記モル比が30未満である、請求項1に記載のゾルゲル法。
【請求項12】
前記アルコキシシランが、各アルコキシ基が1〜6個の炭素原子を有するテトラアルコキシシランである、請求項1に記載のゾルゲル法。
【請求項13】
前記テトラアルコキシシランが、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン及びメトキシトリエトキシシランから選択される、請求項12に記載のゾルゲル法。
【請求項14】
アルコキシシランを、アルコキシシランに対する水のモル比が40〜200となる量で添加する、請求項1に記載のゾルゲル法。
【請求項15】
アルコキシシランに対する水の前記モル比が50〜160である、請求項14に記載のゾルゲル法。
【請求項16】
前記比が60〜120である、請求項15に記載のゾルゲル法。
【請求項17】
pH上昇の前記ステップにおいて、pHを、4.7〜5.2の範囲に上昇させる、請求項1に記載のゾルゲル法。
【請求項18】
前記pHの上昇が、水溶性の無機又は有機塩基性化合物を添加することによって達成される、請求項1に記載のゾルゲル法。
【請求項19】
前記塩基性化合物が、水酸化アンモニウム又はアミンである、請求項18に記載のゾルゲル法。
【請求項20】
前記塩基性化合物が、アミノアルキル−アルコキシシランである、請求項18に記載のゾルゲル法。
【請求項21】
前記アミノアルキル−アルコキシシランが、3−アミノプロピル−トリメトキシシラン、3−アミノプロピル−トリエトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピル−ジメトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピル−ジエトキシシラン、[3−(2−アミノエチル)アミノプロピル]−トリメトキシシラン、[3−(2−アミノエチル)アミノプロピル]−トリエトキシシラン、又はそれらの混合物から選択される、請求項20に記載のゾルゲル法。
【請求項22】
乾燥前に、前記ヒドロゲルを水、無機酸の水溶液、又は金属錯化剤の溶液から選択される溶媒で一定時間洗浄することにより、最外部から重金属を抽出する追加のステップに供する、請求項1に記載のゾルゲル法。
【請求項23】
ヒドロゲルから抽出された金属を含む溶媒を、この方法の新たな運転サイクルの出発溶液又は分散液に添加することにより、リサイクルする、請求項22に記載のゾルゲル法。
【請求項24】
前記乾燥ステップが、温湿度サイクルオーブン中で行われ、プロセス中に温度を15℃〜120℃で変化させ、湿度を30%〜100%で変化させる、請求項1に記載のゾルゲル法。
【請求項25】
オーブン中でのヒドロゲル乾燥中に生じる粉末を、この方法の新たな運転サイクルの出発溶液又は分散液に添加することによりリサイクルする、請求項1に記載のゾルゲル法。
【請求項26】
前記焼結ステップが、乾燥ゲルを1200〜1400℃で加熱することにより行われる、請求項1に記載のゾルゲル法。
【請求項27】
前記焼結ステップが、乾燥ゲルの焼成ステップを含む、請求項1に記載のゾルゲル法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は重金属を含む廃棄物の処理方法に関する。
【0002】
「重金属」は厳密な定義ではないが、本明細書及び付属の特許請求の範囲においては、一般に第一遷移系列の金属及びそれより重い金属を含むすべての金属を包含して使用し、またこの定義に加えて本明細書では、前記金属が元素形態又はイオン、塩若しくは錯体の形態である場合を包含するものとする。
【0003】
多くの金属、特に重金属は、環境に対して有害であることが知られている。さらに、これらの金属は環境中に遊離して存在すると、植物に取り込まれ、それによって動物又はヒトの食物連鎖に入り込み、そのため、その健康に深刻な問題を引き起こす可能性がある。少しだけ例を挙げると、クロムイオン(特に六価クロムイオン、Cr(VI))は発癌性であることが知られており、鉛イオンは神経接合を損傷し、血液及び脳の障害を引き起こす可能性があり、水銀は、震え、認知技能低下及び睡眠障害の原因であると考えられており、さらに重い金属は、放射性を有する場合があり、一般にそれらの金属から放出される強いイオン化放射線によって引き起こされる遺伝子コードの改変又は細胞分裂プロセスの障害によって、いくつかの疾患をもたらす。
【0004】
しかし、これらの金属は、多くの工業プロセスや民生用途で使用する必要がある。例えば、クロムはステンレス鋼の生産、クロムめっきや革なめしにおいて、又は染料及び塗料の生産に使用され、鉛は鉛電池及び陶磁器の釉薬や鉛ガラスの生産に使用され、水銀は蛍光灯に広く使用されており、放射性金属は電気エネルギーを産出するための原子力発電所の運転に必要である。廃棄物を産出する工業プロセスや民生用途のことを、下記明細書及び付属の特許請求の範囲では、廃棄物産出活動と呼ぶこととする。
【0005】
前述の活動の多くは、廃棄物を、金属イオンを含む灰、スラリー、泥又は溶液若しくは分散液の形態で産出し、それらは安全な方法で廃棄しなければならない。プールや空地やタンク中で長期間貯蔵することは、特に、洗浄プロセスステップから生じるものなどの希釈された溶液の場合、広い面積や体積を必要とするので容易ではない。これらの問題の記述については、特に原子力プラントからの廃棄物の処分の問題に関連して、論文「Nuclear Fuel Recycling:More Trouble Than It’s Worth」、Frank N.von Hippel,Scientific American,April 2008を参照することができる。
【0006】
したがって、本発明の目的は、重金属の自然放出を起こすことなく、重金属を長期安定性を有する固形物中に固定することを可能にする、重金属を含む廃棄物を処理する方法を提供することである。
【0007】
これらの目的は以下のステップ、すなわち、
少なくとも重金属を含む溶液又は分散液を得るステップと、
前記溶液又は分散液に、シリカ粉末を、ゾル中のシリカ含有率が10重量%〜90重量%の間に含まれるような量で、ゾルのpHが4より高くならないように調節しながら添加してゾルを形成するステップと、
前記ゾルに、シリカ:アルコキシシランのモル比が6より大きくなるような量で、少なくとも1種のアルコキシシランを添加するステップと、
ゾルのpHを4より高い値に上昇させるステップと、
ゾルを型に注ぎ込むステップと、
前記ゾルをゲル化させて、ヒドロゲルを得るステップと、
ヒドロゲルを乾燥して、乾燥ゲルを得るステップと、
乾燥ゲルを焼結して、ガラス状のシリカ生成物を得るステップと
を含むゾルゲル法を伴う本発明によって達成され、
少なくとも重金属を含む前記溶液又は分散液が廃棄物産出活動からの廃棄物であることを特徴とする。
【0008】
ゾルゲル技術はよく知られており、従来技術では、ゾルゲル法のいくつかの変形形態と具体的な実施形態が記述されている。また、混合酸化物のガラス若しくはセラミックスを生産するためのゾルゲル法がよく知られており、それらは一般に他金属のイオンを含むシリカマトリックスをベースとしており、主として機械分野や光学分野や電気光学分野で使用するためのものである。しかし、既知のゾルゲル法は一般に、特定の用途用を意図したガラス又はセラミックス組成物の生産に対処しており、したがって、得られる生成物の化学・物理的特性が特定のよく調節されたもの(例えば、光学用途用にスペクトルのよく定義された領域で透明性が良好)であることが要求される。その方法のパラメータは、出発溶液又はゾルの厳密なフォーミュレーションに特に関連して、よく定義された制約が課されることとなる。すなわち、ケイ素以外の金属の溶液は、従来技術法で使用する場合、きちんと設計された処方に従って調製し、使用する必要がある。
【0009】
他方、定義された特性を有する生成物を得ることは、重金属の保持能力を除けば、本発明の目的ではない。すなわち、本発明の場合、前記生成物が、重金属を保持することができ、表面に浸出する重金属ができるだけ少なく、好ましくはゼロであり、固体の塊又はかけらの形態である限り、最終生成物の特性は重要ではない。
【0010】
本発明の方法の第1ステップは、少なくとも重金属を含む溶液又は分散液を得ることにある。本明細書では「得ること」は、重金属の溶液又は分散液に関して、所与の液体廃棄物産出活動から出る液体廃棄物をそのまま受け入れることを意味することもある(例えば、原子力発電所で行われるエネルギー生産プロセスの副生成物としての微量のウラン及びプルトニウムを含む溶液)。或いは、「得ること」は、前記活動によって生じる実廃棄物のある程度の調製又は前処理を含む場合もある。これは液体廃棄物が灰、スラリー又は泥の形態の場合に起こることであり、本発明の方法においては使用前に湿らせたり、希釈したりする必要がある場合がある。或いは、逆に、希釈され過ぎた液体廃棄物の場合、「得ること」は、処理する液体の体積を減らしそれによって、装置の大きさを減らすために、本発明の方法で使用する前に行う前濃縮操作を意味することもある。
【0011】
液体廃棄物の場合、その溶媒は原則として何であってもよい。水でも、アルコールやケトンなどの有機溶媒でも、水と他の溶媒との混合物でもよい。溶媒が水のみでない場合、本方法の次のステップにかけるときにその特定の溶媒に関連するリスクを、その廃棄物を使用する前に評価しなければならない。例えば、エーテルは、空気存在の下に加熱すると危険なことがある。かかる事前評価に必要な知識及び能力は、広範な温度又は圧力条件における実質的にあらゆる溶媒の安全性データや、その他の化学材料との混和性が化学文献から入手可能であることを考慮すると、化学技術者の通常のバックグラウンドのものである。水は、液体廃棄物産出活動に用いられる最も一般的な溶媒であり、また、灰、スラリー又は泥の形態の廃棄物に添加するのにも最も好ましいものである。したがって、下記説明は、水をベースとした溶液又は分散液に関してなされるが、本発明は他の溶媒をベースとした溶液又は分散液にも一般的に適用可能である。
【0012】
この方法の第2のステップは、前記溶液又は分散液にシリカ粉末を加えることによるゾルの形成である。シリカは、100μm未満の粒子径を有する任意の形態のシリカ粉末であってもよく、前記シリカ粉末は10μm未満の粒子径が好ましく、5μm未満がさらに好ましい。好ましいシリカのタイプは、焼成シリカ、すなわち、SiClの酸素との燃焼によって得られる高分散形態のシリカであり、焼成シリカは例えば、アエロジル(Aerosil)(登録商標)EG50の名称でデグッサ社(Degussa AG)から販売されている。シリカは、その生成ゾル中の含有率が、10重量%〜90重量%となるような量で出発溶液又は分散液に添加され、その含有率が30重量%〜65重量%となるのが好ましく、50重量%〜60重量%となるのがさらに好ましい。出発溶液又は分散液へのシリカの添加は一般的に、機械的に、例えば、ウルトラツラックス(Ultra−Turrax)(登録商標)タイプの混合機或いは同様の装置で、撹拌しながら行う。
【0013】
前記ゾルを形成するためにシリカを添加する間、系のpHは確実に4を超えないように調節しなければならない。この段階ではpHは1.5〜3の範囲であるのが好ましく、2〜2.5がさらに好ましい。必要とされる酸性度は、出発廃棄物の特性から系に予め付与されていることもある。例えば、原子力プラントから出る液体廃棄物は通常約1.5のpH値である。そうでない場合、ゾルの酸性度は、酸(特に、塩酸、リン酸、硫酸などの無機酸又は酢酸などの有機酸)を加えることによって調節することができる。
【0014】
次いでこのゾルに、少なくとも1種のアルコキシシランを、シリカ:アルコキシシランのモル比が6より大きくなるような量で加える。前記比が6未満の場合、この方法における後ステップで得られるヒドロゲルが、細かいかけらに壊れることなく乾燥に耐えられるほど機械的強度が十分でないことは、以下でさらに詳しく説明するように、要求される重金属保持特性の観点から好ましくない。前記比率は、値が大き過ぎると実用上の利点がないにも関わらずシリカの消費量が大きくなるので、30未満が好ましい。
【0015】
前記アルコキシシランは、各アルコキシ基が1〜6個、好ましくは1〜4個の炭素原子を有するテトラアルコキシシランであるのが好ましい。テトラアルコキシシランは、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、メトキシトリエトキシシラン(MTEOS)から選択するのがさらに好ましい。具体的適用として好ましいのはテトラエトキシシラン(TEOS)である。好ましい実施形態によれば、このアルコキシシランを、アルコキシシランに対する水のモル比が40〜200、好ましくは50〜160、さらに好ましくは60〜120となるような量で加える。アルコキシシランの添加は、分散液の均一性をよくするために、撹拌しながら(又は撹拌した後で)行うのが好ましい。
【0016】
アルコキシシランを加えた後で、ゾルの温度を6〜18時間の可変時間の間に、30〜50℃の値に上げるのが好ましい。次いでゾルのpHを一般に、4〜6、好ましくは4.7〜5.2の値に上げる。このpHの変更は、例えば、水溶性の無機又は有機の塩基性化合物、例えば水酸化アンモニウム又はアミン、特にシクロヘキシルアミンを加えることによって達成することができる。
【0017】
或いは、アミノアルキルアルコキシシランを塩基性化合物として使用することもできる。適当な化合物の例としては、3−アミノプロピル−トリメトキシシラン、3−アミノプロピル−トリエトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピル−ジメトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピル−ジエトキシシラン、[3−(2−アミノエチル)アミノプロピル]−トリメトキシシラン、[3−(2−アミノエチル)アミノプロピル]−トリエトキシシラン、又はそれらの混合物がある。局部的なpHの過剰上昇によって、ゾルの一部で未熟なゲル化が起こり、その結果最終生成物が不均一となるのを防ぐために、塩基性化合物は撹拌しながら添加するのが好ましい。
【0018】
次いで、このゾルを容器に注ぎ込み、ゲル化させてヒドロゲルを得る。重金属をガラス状のマトリックス中に封じ込めるという本発明の目的の観点からは、容器の形状は重要ではないが、好ましい形状は平行六面体である。そうすればこの方法の結果としてれんが状生成物が得られ、これは運搬及び貯蔵に最も便利な物体である。容器は、最終的なゲル容器に付着しない特性である限り、例えばプラスチック材料、金属、グラスファイバー、炭素繊維、セラミックスなど様々な材料で作製されてよい。型は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、フッ素化ポリマー(ポリテトラフルオロエチレン、PTFEなど)又はシリコーンなどのプラスチック材料を含むのが好ましい。ゲル化は室温で行うのが好ましいが、必須ではない。
【0019】
ゲル化は、本発明の方法の最も重要なステップであり、重金属をシリカマトリックス中に、その結果として最終のガラス状の生成物中に、組み込むすなわちともかく封じ込めるステップである。特定の金属の化学的性質に応じて、前記マトリックスへの組み込みには2種類の可能なメカニズムがある。
【0020】
第1のメカニズムは化学型のものであり、原子価数が少なくとも3、好ましくは4又は5の金属の場合に有効であり、その金属がマトリックスの一部となることとなり、次の反応によって表すことができる。
【0021】
【化1】
【0022】
この反応は、上記では、シリカを形成している結合の三次元ネットワークに、金属(M、ここでは例として三価元素としている)を結びつける「酸素架橋」の形成を示すことのみを意図して、非常に概略的に示しており、反応物のケイ素又は(反応の左側の)金属を含む化合物の原子価を飽和させる原子又は基は示しておらず、反応の他の生成物も示していない。
【0023】
第2のメカニズムは物理型のものであり、原子価が1又は2であり、酸素と安定な分子を形成する可能性のある金属で有効である。ゾルゲル技術分野においては、原子価1又は2の元素は、酸素架橋でシリカマトリックスに組み込むのに適していないことがよく知られており、その理由は、原子価が1又は2の元素は、それぞれ1個又は2個の酸素原子としか結合することができず、せいぜい鎖状構造になるだけであり、その配置は熱力学的に十分安定ではなく、したがって、その金属−酸素結合が切れ、溶媒によって切断された金属がシリカゲルの孔の中に存在する可能性があるからである。しかし、本発明者らは、本方法を通して安定な分子を形成するある種の金属原子を、シリカネットワークによって形成された籠の中にはめ込むことができることを見出した。このメカニズムは、以下の反応によって概略的に表すことができ、ここでは、酸素原子で架橋した4個のケイ素原子が、使用済核燃料のリサイクルプロセスの液体廃棄物中に通常見出されるウラン化合物である硝酸ウラニル(UO(NO)をはめ込んでいる状況を例として示している。
【0024】
【化2】
【0025】
本方法によって固定しようとする金属が、タリウム、クロム(VI)イオン、又は放射性金属のように特に危険な場合、このヒドロゲルを、適当な溶媒による表面洗浄という追加のステップに供し、例えばその溶媒に浸漬することにより行ってもよい。前記溶媒は、ヒドロゲルから金属を抽出できるものでなければならず、例えば水や、塩酸、硝酸などの無機酸の水溶液や、金属錯化剤溶液でもよい。金属をゲルの最外部からのみ除去するべく、ヒドロゲルを一定時間その溶媒に接触させておく。ゲルの表面層から金属を選択的に除去する技術は、ゾルゲル技術分野において知られており、例えば特開平5−9036号及び米国特許第5,182,236号に記載されているように、屈折率勾配を有する光学部品の生産に使われている。この追加のステップによって得られたゲルを引き続き乾燥及び焼結することによって、重金属が閉じこめられた部分を囲ったシリカの外殻を有するガラス状の塊ができる。こうした塊は、いかなる条件においても本質的に重金属を放出しない。ヒドロゲルから抽出した金属を含む使用済みの溶媒は、この方法の新たな運転サイクルの出発溶液又は分散液に添加してリサイクルすることができる。
【0026】
ゲル化が完了したら、そのヒドロゲルを乾燥して、ゲル化構造の内部にある水を可能な限り多く除去する。採用したこの方法の特長並びに特にシリカの量及びシリカ:アルコキシシランの高いモル比により、このヒドロゲルは、オーブン中での簡単な処理によって、破壊されることなく乾燥することができ、従来技術の多くの方法における超臨界乾燥(一般に前もってゲルの孔の中の溶媒を交換する)などの時間とコストのかかる処理に頼る必要はない。ゲルの乾燥は、ヒドロゲルを温湿度サイクルオーブンに入れて行うのが好ましい。この方法によれば、乾燥する温度と湿度を両方とも調節して、乾燥プロセスにおける不均一性によるガラス状材料内部の内部応力の発生を抑制することができる。関係する様々なプロセスパラメータ、特に、作製しようとするガラス状の塊の体積及び/又は外部表面に応じて、乾燥時間は広い範囲で変えることができる。通常は、乾燥は最低数時間〜1200時間、好ましくは600〜900時間続ける。プロセス中、乾燥ステップを行う温度は、一般には15℃〜120℃、好ましくは20℃〜100℃で変えるのが好ましい。湿度も乾燥プロセス中、一般には30%〜100%で変化させるのが好ましい。湿度を、全乾燥時間の少なくとも最初の半分は、平均70%を越える値で保持し、次いで徐々に60%〜30%の平均値に低下させるのが好ましい。ヒドロゲルをオーブン中で乾燥中に粉末が生成したら、その粉末をこの方法の新しい運転サイクルの出発溶液又は分散液に添加してリサイクルすることができる。
【0027】
乾燥ゲル焼結プロセスに関しては、大部分の従来技術のゾルゲル法の条件とは異なる条件下で行われる。事実、既知の方法においては、焼結は、酸素(純酸素、空気、酸素−窒素混合物など)を含む雰囲気中で、一般に約300〜600℃の範囲の温度で行われる焼成という第1段階、少なくとも1種のCClなどの塩素化化合物の存在下で、一般に約600〜800℃の範囲の温度で行われる完全脱水と精製という第2段階、及び温度を少なくとも1200℃、最高1400℃の値に上げることによって得られる不活性雰囲気中での圧密という最終段階を一般に含んでいる。
【0028】
大部分の従来技術の方法の焼結ステップの第2段階は、塩素化化合物の存在下で行われるが、それは、マトリックス(通常はシリカ)から微量の金属原子を除去することを意図しており、金属原子を揮発性の塩化物に変換してガス流によりゲルのまだ開口している孔を通して除去する。この処理を行う理由は、これらの金属が一般に、最終的な物品の最終的な特性、特に光学特性を変化させることのある不純物であると見なされているからである。逆に、最終生成物に重金属原子を保持することは、まさに本発明の目的なので、塩素化化合物と共に処理するという操作は絶対に避けるべきである。
【0029】
大部分の従来技術の方法の焼結ステップの第1段階である焼成は、本発明の方法においては厳密に必須ではない。この操作は、従来のゾルゲル法においては、乾燥ゲル中の、その方法において使用した、又はアルコキシシランの加水分解によって生成した、アルコールの残りなどの有機分子及び有機部分を焼き去るために必要である。これらの種がゲル中に残留していると、例えば不活性雰囲気下、高温での焼結の最終段階において炭素質の種を生成したり、又は最終的なガラス状の物品中に泡を形成して、最終生成物の特性を損なう可能性があるからである。しかし、炭素質の種(物品に黒い色を付ける)や泡が存在しても、本発明の目的には有害ではない。したがって、処理しようとする実廃棄物に対する試行テストによって、焼成段階を省略しても最終的なガラス状の塊の重金属の保持特性を損なわないということが確認できれば、この段階を省略することができる。本発明の方法では、焼成段階は、重金属をシリカマトリックス中に物理的に包み込む(上記反応(II)を参照)場合に、採用するのが好ましい。それは、一般に不揮発性の、対応する酸化物に転化することによって、重金属分子の蒸発の可能性を回避するためである。硝酸ウラニルやリン酸ウラニル、UOHPOなどのウラニル化合物の場合、この反応は概略的に(すなわち厳密な化学量論的バランスはとっていない)、以下のように表すことができる。
UO(NO+O→UO(又はUO)+NO (III)
UOHPO+O→UO(又はUO)+P+HO (IV)
【0030】
焼結ステップの最後の段階は、不活性雰囲気下で1200〜1400℃に加熱することであり、開口している孔を残さず、それによって重金属を内部に保持できるようなガラス状の塊を得るために必要である。この段階は、窒素又はなんらかの非反応性ガス中で行うことができる。
【0031】
焼結ステップの生成物は、重金属を含むガラス状の塊であり、例えば倉庫に廃棄し、又は埋め立てることができる。
【0032】
本発明の方法によって得られる塊の利点は、その密度、すなわちコンパクトさ及び規則正しい形状(例えば、平行六面体)により、そのまま若しくは容器に入れて、従来技術の廃棄物よりも少ない体積で、容易に積み重ねることができ、それによって廃棄場所を節約でき、また、(例えば、耐核放射線性の壁によって)保護する必要がある廃棄物の場合、封止に必要な材料を節約できることである。
【0033】
また、コンパクトさ及び規則正しい形状により、前記塊は、危険な種が重金属であっても放射線であっても、保持することのできる材料製の適当なケースに入れて1個ずつ又は小さなグループにしてさらに防護することもできる。封止材料は例えば、核放射線を保持する場合の例えば鉛のように、封じ込める種に耐える必要特性を有する金属とすることができる。この封止は、防御材料のシートから出発して、シートを形状に切断し塊の周りで曲げ、又は1つ若しくはグループの前記塊の周りで、融かした金属を鋳込んで固化させて、前記塊の周りに形成することができる。これらの「防御された」塊は、次いで、そのまま又はさらに容器に封入して、特殊な特性及び構成の容器(例えば、今回の場合には必要とされないような密封容器)を必要とする他の形態の危険廃棄物よりも容易に、輸送又は廃棄することができる。
【0034】
しかし、その重金属が価値の高いものであって、この方法の経済性があるのであれば、この焼結ステップ生成物をその原鉱石と同様にして、重金属生産用に再利用するのが好ましい。
【0035】
その場合、最終的なガラス状の塊をリサイクルするという目標の観点で、この方法のステップのいくつかを適応させなければならない。
【0036】
特に、最終的な塊中の金属の重量含有率を高くするために、重金属を含む分散液の出発溶液はできるだけ濃縮する。この濃縮は、出発溶液又は分散液を加熱及び/又は減圧し、或いは単に十分長期間雰囲気中に曝して溶媒を抜き出すことによって達成できる。
【0037】
本発明の一般的方法の、金属リサイクルの観点からの別の変更点は、焼結ステップにある。この場合、焼結ステップの少なくとも1つの段階を、重金属がシリカの融点よりも高い融点又は昇華点を有する酸化物に転換するように、処理室中で調節された酸素分圧に維持して行う。このようにして、焼結プロセスの最終生成物を溶融させて、対象金属の酸化物を固体形状で回収することができる。例として、UO(NOを含む乾燥ゲルを、(ゲルの孔への混合ガスの侵入を改善するために、処理室内を0.7〜0.8バールの減圧にした後で)約800℃の温度で、約1.5〜3リットル/分の流量の、酸素33体積%とヘリウム66体積%の混合ガス下で処理することにより、UOが得られることが見出された。この酸化物は昇華温度が2,878℃、すなわち、シリカの融点よりも約1,000℃高い温度であり、この融点の差のために、本発明の方法によって得られたガラス状の塊のリサイクルを容易にする余裕が生まれる。
【0038】
以下に、本発明の範囲の非制限的な例として提供されたいくつかの実施形態によって、本発明をさらに例示する。
【実施例】
【0039】
元素Co、Ni、Sb、Cs、Er及びCrを含む6種類の一連の水溶液を調製する。各溶液は、100ccの水に当該金属の可溶性塩100gを溶解して調製し、金属のオキソ−ヒドロキソ化合物が沈殿する可能性を避けるために、そこに硝酸を加えてpHの値を約2に維持する。使用した塩及び生じた溶液のmol/lで表した濃度を下記表1に示す。次いで、各溶液に、ウルトラ−トゥラックス(登録商標)でかき混ぜながら500gのアエロジル(登録商標)EG50を加える。このようにして得られた各ゾルに、撹拌しながらTEOSをシリカ:TEOSのモル比が10に等しくなるような量で添加する。このゾルを50℃に加熱し、かき混ぜながら各ゾルに、pHの値が6に上がるように水酸化アンモニウムを滴下する(NHOHを加えている間、pHをモニターする)。このようにして得られたゾルをPTFE製ビーカーに注ぎ、一晩放置してゲル化させる。生成したヒドロゲルをビーカーから取り出し雰囲気調節オーブン中で、8時間かけて室温から100℃まで温度を上げ、最終温度で400時間維持し、最初の208時間(加熱段階を含む)は相対湿度70%の空気雰囲気とし、続く200時間は徐々に30%に下げて、乾燥する。次いで、この乾燥ゲルをオーブンに入れたまま大気中に保ち、この間室温まで冷ます。
【0040】
次いで、乾燥ゲルを焼成炉に入れ、純酸素中で温度を600℃に上げ、次いで、流通ガスを窒素に切り替え、温度を1400℃にする。焼成炉を冷まし、6種類のガラス状の塊を得る。規格ASTM C1285−02の手順に従って6個のサンプルの重金属の浸出を測定する。この手順は、具体的にはガラス状の系の放射性元素保持適性を評価するため、すなわち核分野で使用するために設計されたものであるが、一般的に適用可能である。測定は、サンプルをPTFEビーカーに入れ、10重量%濃度の硝酸水溶液を加え、系を90℃に加熱し、硝酸サンプルを回収して、前記規格に従い原子吸光で重金属含有率を測定し、結果をサンプル1平方メートルあたりの酸中に浸出した金属のグラム数で表す。これらの試験結果を下記表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
規格ASTM C1285−02は、浸出金属が0.001g/m未満であれば、ガラス状の塊は放射性(重)金属の廃棄に使用するのに適合するとしている。表のデータから分かるように、本発明の方法によれば、この規格によって課される要求される低い浸出値に達することができる。