【実施例】
【0030】
<試料>
本発明の実施例、比較例では、各試料を以下の<試料>に示されるものと同様に調製した試料を使用した。
1.海藻
1)コンブ
(1)日高コンブ(乾燥)
市販の日高コンブ(乾燥物)(縦8cm×横8cm等)を試料とした。
(2)真コンブ(乾燥)
市販の真コンブ(乾燥物)(縦8cm×横8cm等)を試料とした。
(3)日高コンブ(生)
市販の生の日高コンブ(縦10cm×横2cm等)を試料とした。
(4)日高コンブ(湿潤)
市販の日高コンブ(乾燥物)(縦8cm×横8cm等)を水で戻し、沸騰した湯で30分茹でた後、冷ましたものを試料とした。
【0031】
2)ワカメ
市販のワカメ(乾燥物)(縦3cm×横1cm等)を試料とした。
3)ヒジキ
(1)ヒジキ(乾燥)
市販のヒジキ(乾燥物)を試料とした。
(2)ヒジキ(冷凍)
市販のヒジキ(乾燥物)を水で戻し、冷凍したものを試料とした。
4)モズク
市販の調味済みのモズクをザルにいれ、5分置いて調味液を除いた後、ザル内に残ったモズクを試料とした。
5)メカブ
市販の調味済みのメカブをザルにいれ、5分置いて調味液を除いた後、ザル内に残ったメカブを試料とした。
6)フノリ
市販のフノリ(乾燥物)を試料とした。
【0032】
2.水溶液
1)リン酸塩水溶液
(1)リン酸ナトリウム水溶液(pH9.3)
0.1Mリン酸水素二ナトリウム水溶液に対してpHを測定しながら少量の0.1Mリン酸二水素ナトリウム水溶液を混合して、最終的に室温(約20℃)でpH9.3に調整した水溶液を試料とした。
(2)リン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)
0.1Mリン酸水素二ナトリウム水溶液と0.1Mリン酸二水素ナトリウム水溶液を重量比で約18:1になるように混合して、pHを測定しながら最終的に室温(約20℃)でpH8.0に調整した水溶液を試料とした。
(3)リン酸ナトリウム水溶液(pH6.3)
0.1Mリン酸水素二ナトリウム水溶液と0.1Mリン酸二水素ナトリウム水溶液を重量比で約9:2になるように混合して、pHを測定しながら最終的に室温(約20℃)でpH6.3に調整した水溶液を試料とした。
(4)ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液(pH6.4)
ヘキサメタリン酸ナトリウムを0.01Mの濃度で溶解させた水溶液を試料とした。この水溶液は室温(約20℃)で測定した際に、pH6.4であった。
(5)リン酸カリウム水溶液(pH9.3)
0.1Mリン酸水素二カリウム水溶液に対してpHを測定しながら少量の0.1Mリン酸二水素カリウム水溶液を混合して、最終的に室温(約20℃)でpH9.3に調整した水溶液を試料とした。
(6)リン酸カリウム水溶液(pH8.0)
0.1Mリン酸水素二カリウム水溶液と0.1Mリン酸二水素カリウム水溶液を重量比で約18:1になるように混合して、pHを測定しながら最終的に室温(約20℃)でpH8.0に調整した水溶液を試料とした。
(7)リン酸カリウム水溶液(pH6.3)
0.1Mリン酸水素二カリウム水溶液と0.1Mリン酸二水素カリウム水溶液を重量比で約9:2になるように混合して、pHを測定しながら最終的に室温(約20℃)でpH6.3に調整した水溶液を試料とした。
【0033】
2)有機酸塩水溶液
(1)クエン酸ナトリウム水溶液(pH8.4)
0.05Mクエン酸三ナトリウム水溶液に対してpHを測定しながら少量の0.05Mクエン酸水溶液を混合して、pHを測定しながら最終的に室温(約20℃)でpH8.4に調整した水溶液を試料とした。
(2)クエン酸ナトリウム水溶液(pH5.8)
0.05Mクエン酸三ナトリウム水溶液と0.05Mクエン酸水溶液を重量比で約6:1になるように混合して、pHを測定しながら最終的に室温(約20℃)でpH5.8に調整した水溶液を試料とした。
【0034】
3)リン酸−有機酸−塩混合水溶液
(1)リン酸−クエン酸−ナトリウム混合水溶液(pH6.4)
上記2.1)(2)のリン酸ナトリウム水溶液に0.05Mクエン酸水溶液を混合して、pHを測定しながら最終的に室温(約20℃)でpH6.4に調整した水溶液を試料とした。
(2)リン酸−クエン酸−ナトリウム混合水溶液(pH4.0)
上記2.1)(3)のリン酸ナトリウム水溶液に0.05Mクエン酸水溶液を混合して、pHを測定しながら最終的に室温(約20℃)でpH4.0に調整した水溶液を試料とした。
【0035】
3.酵素
1)Bacillus属由来のプロテアーゼ(至適温度;70℃)
2)パパイン(至適温度;80℃)
3)Trichoderma属由来のヘミセルラーゼ(至適温度;60℃)
4)Bacillus属由来のペクチナーゼ(至適温度;60℃)
5)Trichoderma属由来のセルラーゼ(至適温度;45℃)
【0036】
4.増粘剤
1)キサンタンガム
2)ペクチン
【0037】
5.糖類
1)トレハロース
2)砂糖
3)水あめ
4)果糖
5)ソルビトール
6)デキストリン
【0038】
<軟化された海藻の製造方法>
本発明の実施例では、次の1.および2.の工程により、軟化された海藻を製造した。工程2.の後、処理液を除去し、軟化された海藻のみを容器に入れて封をして、品温85℃5分を達するように殺菌加熱した。これを以下のように評価した。
工程1.リン酸塩または有機酸塩をいずれか一種以上含む水溶液を処理液として調製する工程
工程2.上記<試料>のように調製した海藻を、上記工程1.の処理液に接触させ、海藻が処理液に接触している状態で一定時間置く工程
【0039】
<評価>
本発明の実施例では、本発明の製造方法によって製造された、それぞれの軟化された海藻について、下記1.〜3.により評価した。下記1.2.の評価はいずれも専門のトレーニングを受けているパネラー10名により行った。
1.保形性
本発明の実施例において得られた軟化された海藻の外観・形状が、素材そのものの外観・形状と比較してどのように変化したかを、次の5段階の基準に従って評価した。
◎を5点、○を4点、△を3点、×を2点、××を1点として10名の平均値を算出して、平均値が5.0〜4.5点を◎、4.4〜3.5点を○、3.4〜2.5点を△、2.4〜1.5点を×、1.4〜1.0点を××とすることで評価結果を算出した。この評価結果の算出方法は2.の官能試験においても同様である。
なお、比較の基準となる「素材そのもの」とは、海藻がコンブ、ワカメ、またはヒジキである場合は、生のもの、または乾燥したものを水戻ししたものを素材そのものとした。海藻がモズクまたはメカブである場合は、市販されている調味済みのものから調味液を除いて試料としたものを素材そのものとした。
【0040】
<評価基準>
◎ :素材そのものの外観・形状と比較して、特に外観・形状に変化は認められない
○ :素材そのものの外観・形状と比較して、外観に僅かな変化は認められるものの、海藻として自然な形状を維持している
△ :素材そのものの外観・形状と比較して、外観にやや変化が認められるものの、海藻として自然な形状の範囲内とみなすことができる
× :素材そのものの外観・形状と比較して、外観に変化が見られるとともに、海藻の形状が明らかに崩壊している
××:素材そのものの外観・形状と比較して、外観に顕著な変化が認められるとともに、海藻の形状がひどく崩壊している
【0041】
2.官能試験
本発明の実施例において得られた軟化された海藻について、「舌で潰せるか」、「食感」、「味」の3点について官能試験を行った。
1)舌で潰せるか
「舌で潰せるか」は、軟化された海藻のかたさを官能的に評価するものである。
本発明の実施例において得られた軟化された海藻を口腔内に入れ、歯で噛まずに舌のみで潰し、その際に感じられたかたさを、それぞれ、以下の5段階の評価基準に従って評価した。
<評価基準>
◎ :舌に力を入れなくても容易に潰せる
○ :舌に軽く力を入れると潰せる
△ :舌に力を入れると潰せる
× :舌に力を入れても潰せない箇所がある
××:舌では全く潰せない
【0042】
2)食感
「食感」は、軟化された海藻のなめらかさやべたつき等の食感を官能的に評価するものである。
本発明の実施例において得られた軟化された海藻を口腔内に入れ、歯で噛まずに舌のみで潰し、その際に感じられた食感を、それぞれ、以下の6段階の評価基準に従って評価した。
<評価基準>
◎ :とてもなめらかで、口腔内に残留しない
○ :なめらかで、口腔内への残留が少ない
△ :口腔内への残留が多少あるが、咀嚼・嚥下を問題なくこなせる
× :べたつきがあり、口腔内に残留する
××:非常にべたつき、口腔内に貼りついて嚥下し辛い
― :舌で潰せないため、評価できない
【0043】
3)味
「味」は、軟化された海藻が、素材そのものと比較して、海藻の風味を維持しているかを官能的に評価するものである。
本発明の実施例において得られた軟化された海藻を舌または歯を用いて食し、その際に感じられた味を、それぞれ、以下の5段階の評価基準に従って評価した。
なお、本発明の実施例において、比較の基準となる「素材そのもの」とは、海藻がコンブ、ワカメ、またはヒジキである場合は、生のもの、または乾燥したものを水戻ししたものを素材そのものとした。海藻がモズクまたはメカブである場合は、市販されている調味済みのものから調味液を除いて試料としたものを素材そのものとした。
<評価基準>
◎ :海藻の素材そのものの風味とほとんど変化しておらず、海藻であると認識できる
○ :海藻の素材そのものの風味に対して僅かな風味の変化があるが、海藻であると認識できる
△ :海藻の素材そのものの風味に対して、やや変化を感じるが、海藻であると認識できる
× :海藻の素材そのものの風味に対して、変化を強く感じ、海藻であると認識しにくい
××:海藻の素材そのものの風味が全く感じられず、海藻であると認識できない
【0044】
3.かたさ(圧縮応力)
クリープメータ(山電株式会社製、「RE2−33005B」)を用いて、直径20mmの円筒形プランジャーを圧縮速度10mm/秒で、各海藻(試料)の厚みに対し、上端から厚さの66.67%まで押し込み、下端の部分が33.33%残存するようにクリアランスを設定して、測定温度を20±2℃として、圧縮応力(N/m
2)を測定した。5つ以上の同じ処理をした試料をそれぞれ測定し、測定結果の平均値を求めた。
コンブは各1枚(厚さ1〜5mm程度)を試料とし、ワカメ、ヒジキ、モズク、メカブ、フノリは、厚さが2mm程度になるように重ねて平らにならしたものを試料とした。
【0045】
[実施例1]
実施例1では、処理液の組成を変えて、次のA.〜K.の11例を行った。上記<試料>1.1)(1)のコンブを次の工程1.および工程2.により軟化し、軟化されたコンブA.〜K.(以下、本実施例において、単にA、B、C、D、E、F、G、H、I、J、Kと示す場合がある)を得た。
【0046】
工程1.実施例1のA.〜K.(11例)において、それぞれの例で使用する以下の各処理液を調製した。
A.上記<試料>2.1)(1)のリン酸ナトリウム水溶液(pH9.3)を処理液とした。
B.上記<試料>2.1)(2)のリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)を処理液とした。
C.上記<試料>2.1)(3)のリン酸ナトリウム水溶液(pH6.3)を処理液とした。
D.上記<試料>2.1)(4)のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液(pH6.4)を処理液とした。
E.上記<試料>2.2)(1)のクエン酸ナトリウム水溶液(pH8.4)を処理液とした。
F.上記<試料>2.2)(2)のクエン酸ナトリウム水溶液(pH5.8)を処理液とした。
G.上記<試料>2.3)(1)のリン酸−クエン酸−ナトリウム混合水溶液(pH6.4)を処理液とした。
H.上記<試料>2.3)(2)のリン酸−クエン酸−ナトリウム混合水溶液(pH4.0)を処理液とした。
I.上記<試料>2.1)(5)のリン酸カリウム水溶液(pH9.3)を処理液とした。
J.上記<試料>2.1)(6)のリン酸カリウム水溶液(pH8.0)を処理液とした。
K.上記<試料>2.1)(7)のリン酸カリウム水溶液(pH6.3)を処理液とした。
【0047】
工程2.工程1.にて調製した処理液に室温(約20℃)で、<試料>1.1)(1)のコンブをそれぞれ浸漬して接触させた後、ただちに冷蔵し、コンブが各処理液に浸漬した状態で一晩おいて、各処理液における軟化されたコンブA.〜K.を得た。各処理液は、コンブの乾燥重量に対して約100倍の重量を使用した。
【0048】
工程2.の後、各処理液を除去し、軟化されたコンブのみをスチームコンベクション(ラショナル社製、セルフクッキングセンター61型)により、相対湿度100%RH、芯温85℃、加熱時間5分の条件で殺菌加熱した。これを、それぞれ上記<評価>に示した方法で評価し、その結果を表1−1、1−2に示した。各表の上段は処理液の組成(水溶液の種類・pH)、下段は評価結果を示している。
【0049】
【表1-1】
【0050】
【表1-2】
【0051】
表1−1、1−2に示されるように、軟化されたコンブA.〜K.は、いずれも外観・形状にやや変化が認められるものの、コンブそのものの自然な外観・形状を有すると認識できる範囲内のものであった。
また、いずれも舌に軽く力を入れると潰せるような軟らかさを有するものであり、かたさが50,000N/m
2以下であった。
これらの軟化されたコンブA.〜K.は口腔内への残留が多少あるが、咀嚼・嚥下を問題なくこなせる食感を示し、軟化前のコンブの風味に対してやや変化を感じる、または僅かな風味の変化を感じるが、コンブであると認識できる味を示すものであった。
特に軟化されたコンブA.〜D.G.は、通常のコンブと比べて僅かな変化はあるものの、コンブらしい風味を有しているものであったことから、本発明の軟化された海藻の製造方法においては、リン酸ナトリウム水溶液やリン酸−クエン酸−ナトリウム混合水溶液を処理液とすることが特に好ましいことが確認できた。
【0052】
[比較例]
比較例として、次のA.〜F.の6例の試験を行った。各試験によって処理されたコンブA.〜F.(以下、本比較例において、単にA、B、C、D、E、Fと示す場合がある)は、それぞれ上記<評価>に示した方法で評価し、その結果を表2に示した。
【0053】
[比較例A]
処理液を水として、実施例1と同様の方法により、上記<試料>1.1)(1)のコンブの軟化を試みた。
【0054】
[比較例B]
特許文献1(特開2006−254899号公報)に開示されている技術を参考として、次の1)〜4)の手順でコンブの軟化を試みた。
1)上記<試料>1.1)(1)のコンブを水戻しした後、ザルにとって水を除いた。
2)水戻ししたコンブの重量に対して3倍量の真水に3wt%の炭酸水素ナトリウムを溶解し処理液とした。これに上記1)のコンブを入れて、鍋で10分煮沸を行った。
3)その後、自然放熱で60℃まで冷却し、酵素を入れた。
酵素は、「ペクチナーゼXP−534 NEO」(ナガセケムテックス株式会社製)を質量の約10倍の水に溶解させたものを、真水と原料に対して0.3wt%となるように入れた。
4)これを40℃〜60℃に保ち、定期的に撹拌しながら6時間反応させた。その後、鍋を90℃〜100℃に加熱して、酵素を失活させた。
【0055】
[比較例C]
特許文献2(特開2009−278883号公報)に開示されている技術を参考として、上記<試料>1.1)(1)のコンブの軟化を試みた。
1)上記<試料>1.1)(1)のコンブを水戻しした後、ザルにとって水を除いた。
2)上記1)のコンブを、エタノールを50wt%溶解した処理液(20℃)に1時間どぶ漬けした後、ザルにとって処理液を除いた。
3)上記2)のコンブを冷蔵庫で1日寝かせて熟成させた。
【0056】
[比較例D]
特許文献3(特開2011−229502号公報)に開示されている技術を参考として、コンブの軟化を試みた。
すなわち、<試料>1.1)(3)の生のコンブを水道水で洗浄した後、醤油および甘味料を含む調味液に浸漬し、調味液が95℃となる状態で100分間加熱した。
【0057】
[比較例E、F]
特許文献4(特開2002−315541号公報)に開示されている技術を参考として、コンブの軟化を試みた。但し、特許文献4に記されている実施例に沿って乾燥工程まで行うと、コンブが硬くなり、コンブを軟化させるという本発明の趣旨にそぐわないため、乾燥工程を行わない比較例Eと、乾燥工程を行う比較例Fのいずれも比較例とした。
【0058】
比較例E
1)上記<試料>1.1)(1)のコンブを適度な大きさにカットして鍋に入れ、アルカリイオン水に3時間浸漬して吸水させた。その後、さらに水道水を追加して3時間吸水させた。
2)上記1)のコンブをボイルして、残液が無くなるまで炊きつめた。
3)上記2)のコンブを水洗いし、ザルに取って水を切った。
4)コンブに調味液を絡めて混合し、ザルに取って水を切った。
5)コンブを容器に入れて蓋をし、実施例1と同様にスチームコンベクションにて殺菌加熱を行った。
【0059】
比較例F
1)上記<試料>1.1)(1)のコンブを適度な大きさにカットして鍋に入れ、アルカリイオン水に3時間浸漬して吸水させた。その後、さらに水道水を追加して3時間吸水させた。
2)上記1)のコンブをボイルして、残液が無くなるまで炊きつめた。
3)上記2)のコンブを水洗いし、ザルに取って水を切った。
4)コンブに調味液を絡めて混合し、ザルに取って水を切った。
5)コンブをスチームコンベクションのドライヒートモードにて、風温110℃で温風乾燥させた。
【0060】
【表2】
【0061】
その結果、表2に示されるように、比較例A、D、Eで処理されたコンブは、通常のコンブと同様の外観・形状を保っているが、舌で潰せるような軟らかさは有しておらず喫食にあたり、咀嚼する必要のある硬いものであった。また比較例C、Fは外観にやや変化が見られる上、舌では全く潰せず、喫食にあたり歯による咀嚼が必須なほど硬かった。
比較例Bで処理されたコンブは舌だけで食せるコンブであったが、手順2の鍋による煮沸を行った時点でコンブは粘り成分が溶出してドロドロの液状になっており、最終的に作製したコンブも、コンブの外観・形状が完全に失われており、コンブを喫食しているという十分な認識を持てるものではなかった。
【0062】
[実施例2]
実施例2では、試料と工程2.の処理条件(海藻と処理液の接触時間・温度)を変えた以外は、実施例1と同様に、次のA.B.の2例を行った。
上記<試料>1.1)(1)のコンブと、1.2)のワカメを軟化し、軟化された海藻A.B.(以下、本実施例において、単にA、Bと示す場合がある)を得た。
<工程2.の処理条件>
A.上記<試料>1.1)(1)のコンブを上記<試料>2.1)(2)の処理液に室温(約20℃)で浸漬して接触させた後、ただちに冷蔵し、5時間おいた。
B.上記<試料>1.2)のワカメを上記<試料>2.1)(2)の処理液に室温(約20℃)で浸漬して、そのまま5分間おいた。
いずれも処理液は、海藻の乾燥重量に対して約100倍の重量を使用した。
【0063】
工程2.の後、各処理液を除去し、軟化された海藻のみをスチームコンベクション(ラショナル社製、セルフクッキングセンター61型)により、相対湿度100%RH、芯温85℃、加熱時間5分の条件で加熱殺菌した。これを、それぞれ上記<評価>に示した方法で評価し、その結果を表3に示した。表3の上段は試料・処理条件、下段は評価結果を示している。
【0064】
【表3】
【0065】
その結果、表3に示されるように、海藻と処理液の接触時間・温度を冷蔵5時間、室温5分とした場合においても、いずれも概観・形状・味を保持したまま充分に軟化されることが確認できた。この結果より、海藻と処理液の接触時間を短縮した場合や、接触させる温度を変えた場合でも、本発明の軟化された海藻が得られることが確認できた。
【0066】
[実施例3]
実施例3では、処理液の組成を変えた以外は、実施例1と同様に、次のA.〜K.の11例を行った。上記<試料>1.1)(1)のコンブを軟化し、軟化されたコンブA.〜K.(以下、本実施例において、単にA、B、C、D、E、F、G、H、I、J、Kと示す場合がある)を得た。
【0067】
<処理液>
A.Bacillus属由来のプロテアーゼ(至適温度;70℃)を、その含有量が1wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解したものを処理液とした。
B.パパイン(至適温度;80℃)を、その含有量が1wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解したものを処理液とした。
C.Trichoderma属由来のヘミセルラーゼ(至適温度;60℃)を、その含有量が1wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解したものを処理液とした。
D.Bacillus属由来のペクチナーゼ(至適温度;60℃)を、その含有量が1wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解したものを処理液とした。
E.Trichoderma属由来のセルラーゼ(至適温度;45℃)を、その含有量が1wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解したものを処理液とした。
F.Bacillus属由来のプロテアーゼ(至適温度;70℃)とBacillus属由来のペクチナーゼ(至適温度;60℃)を、その含有量がそれぞれ1wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解したものを処理液とした。
G.パパイン(至適温度;80℃)を、その含有量が1wt%となるようにリン酸−クエン酸−ナトリウム混合水溶液(pH6.4)に溶解したものを処理液とした。
H.Trichoderma属由来のヘミセルラーゼ(至適温度;60℃)を、その含有量が1wt%となるようにクエン酸ナトリウム水溶液(pH8.4)に溶解したものを処理液とした。
I.キサンタンガムを、その含有量が0.1wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解したものを処理液とした。
J.ペクチンを、その含有量が0.2wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解したものを処理液とした。
K.Bacillus属由来のプロテアーゼ(至適温度;70℃)をその含有量が1wt%となるように、キサンタンガムをその含有量が0.1%になるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解したものを処理液とした。
【0068】
実施例1と同様の工程を経て軟化されたコンブは、工程2.の後、各処理液を除去し、軟化された海藻のみをスチームコンベクション(ラショナル社製、セルフクッキングセンター61型)により、相対湿度100%RH、芯温85℃、加熱時間5分の条件で殺菌加熱した。これを、それぞれ上記<評価>に示した方法で評価し、その結果を表4−1、4−2に示した。表4−1、4−2の上段は処理液の組成(水溶液の種類・pH、酵素・増粘剤の種類)、下段は評価結果を示している。
【0069】
【表4-1】
【0070】
【表4-2】
【0071】
表4−1、4−2に示されるように、軟化されたコンブA.〜K.は、いずれも外観・形状にやや変化が認められるものの、コンブそのものの自然な外観・形状を有すると認識できる範囲内のものであった。また、いずれも舌に軽く力を入れると潰せるような軟らかさを有するものであり、かたさが50,000N/m
2以下であった。
これらの軟化されたコンブはなめらかで、口腔内への残留が少ない、または、とてもなめらかで、口腔内に残留しない、と感じる食感を示し、軟化前のコンブの風味に対して僅かな風味の変化あり、または、やや風味の変化あり、と感じるが、コンブであると認識できる味を示すものであった。
実施例3において、軟化されたコンブは実施例1において軟化されたコンブよりもなめらかで、さらに食べやすい食感になったことから、本発明の軟化された海藻の製造方法においては、酵素または増粘剤を少なくとも一種類以上加えた処理液を使用することがより好ましいことが確認できた。
【0072】
[実施例4]
実施例4では、処理液の組成を変えた以外は、実施例1と同様に、次のA.〜J.の10例を行った。上記<試料>1.1)(1)のコンブを軟化し、軟化されたコンブA.〜J.(以下、本実施例において、単にA、B、C、D、E、F、G、H、I、Jと示す場合がある)を得た。
コンブの軟化は、工程1.でそれぞれの例で使用する以下の各処理液を調製した以外は、実施例1と同様に行った。
【0073】
<処理液>
A.Bacillus属由来のプロテアーゼ(至適温度;70℃)を、その含有量が1wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解し、さらにトレハロースをその含有量が3wt%となるように溶解したものを処理液とした。
B.Bacillus属由来のプロテアーゼ(至適温度;70℃)を、その含有量が1wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解し、さらにトレハロースをその含有量が5wt%となるように溶解したものを処理液とした。
C.Bacillus属由来のプロテアーゼ(至適温度;70℃)を、その含有量が1wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解し、さらにトレハロースをその含有量が10wt%となるように溶解したものを処理液とした。
D.Bacillus属由来のプロテアーゼ(至適温度;70℃)を、その含有量が1wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解し、さらに砂糖をその含有量が5wt%となるように溶解したものを処理液とした。
E.Bacillus属由来のプロテアーゼ(至適温度;70℃)を、その含有量が1wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解し、さらに水あめをその含有量が5wt%となるように溶解したものを処理液とした。
F.Bacillus属由来のプロテアーゼ(至適温度;70℃)を、その含有量が1wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解し、さらに果糖をその含有量が1wt%となるように溶解したものを処理液とした。
G.Bacillus属由来のプロテアーゼ(至適温度;70℃)を、その含有量が1wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解し、さらにソルビトールをその含有量が5wt%となるように溶解したものを処理液とした。
H.Bacillus属由来のプロテアーゼ(至適温度;70℃)を、その含有量が1wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解し、さらにデキストリンをその含有量が0.5wt%となるように溶解したものを処理液とした。
I.キサンタンガムを、その含有量が0.1wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解し、さらにトレハロースをその含有量が5wt%となるように溶解したものを処理液とした。
J.Bacillus属由来のプロテアーゼ(至適温度;70℃)を、その含有量が1wt%となるように、キサンタンガムを、その含有量が0.1wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解し、さらにトレハロースをその含有量が5wt%となるように溶解したものを処理液とした。
【0074】
実施例1と同様の工程を経て軟化されたコンブは、工程2.の後、各処理液を除去し、軟化された海藻のみをスチームコンベクション(ラショナル社製、セルフクッキングセンター61型)により、相対湿度100%RH、芯温85℃、加熱時間5分の条件で殺菌加熱した。これを、それぞれ上記<評価>に示した方法で評価し、その結果を表5−1、5−2に示した。表5−1、5−2の上段は処理液の組成(酵素・増粘剤・糖類の種類)、下段は評価結果を示している。
【0075】
【表5-1】
【0076】
【表5-2】
【0077】
表5−1、5−2に示されるように、実施例4のA.〜J.において、軟化されたコンブは、いずれも外観・形状に僅かな変化は認められるものの、コンブそのものの自然な外観・形状を有すると認識できる範囲内のもの、または、外観・形状に変化は認められないものであった。
また、いずれも舌に軽く力を入れると潰せるような軟らかさを有するものであり、かたさが50,000N/m
2以下であった。
これらの軟化されたコンブはとてもなめらかで、口腔内に残留しない、と感じる食感を示し、軟化前のコンブの風味に対して僅かな風味の変化を感じる、または、軟化前のコンブの風味に対してやや変化を感じるが、海藻であると認識できる味を示すものであった。D、Fに関してはコンブに対して甘い着味が確認されたため△となったが、その他の糖類に関しては、コンブ本来の味を大きく損ねるものではなかった。
実施例4において、軟化されたコンブは実施例3において軟化されたコンブよりも全体として保形性が高まり、より通常のコンブらしい外観・形状、食感を示すものであった。また、トレハロースを処理液に添加した場合、コンブの味がほとんど損なわれていない状態で保形性を向上できたことから、本発明の軟化された海藻の製造方法においては、酵素、増粘剤に加えて、さらに、糖類、特にトレハロースを加えた処理液を使用することが好ましいことが確認できた。
【0078】
[試験例1]
実施例1、3、4と同様の工程を経て軟化されたコンブ(実施例1のB、G、実施例3のA、G、I、実施例4のC、E)と比較例と同様に処理されたコンブ(比較例A、B、C、D、E)を、喫食することを想定して、次の調味液Aを掛けて調味した状態でのかたさ(圧縮応力)を測定した。各コンブ5枚のかたさ(圧縮応力)を測定し、測定結果の平均値を表6に示した。
<調味液A>
「追いがつおつゆ(2倍濃縮)」(株式会社ミツカン)と水を、重量で1:1の割合で混合した。そこに、介護食として喫食されることを想定してネオハイトロミールIII(株式会社フードケア)を1.2wt%溶解し、とんかつソース状のとろみを付与して調製した。(調味液Aは、室温(約20℃)で測定した際に、pH5.1であった。)
【0079】
【表6】
【0080】
表6に示されるように、比較例A、C、D、Eと同様に処理されたコンブはコンブの外観・形状を保っているが、かたさ50,000N/m
2以下を達成せず、舌で潰せるような軟らかいものではなかった。また比較例Bと同様に処理されたコンブはかたさが50,000N/m
2以下である、舌で潰せるものであったが、コンブの外観・形状は完全に失われており、コンブの軟化と外観・形状の保持を両立できていなかった。
これに対して、実施例1、3、4と同様の工程を経て軟化されたコンブ(実施例1のB、G、実施例3のA、G、I、実施例4のC、E)は、いずれも、調味した状態であっても、かたさが50,000N/m
2以下であり、舌で潰せる軟らかさを有するものであり、かつ、コンブらしい外観・形状を保持したままであった。従って、この結果からも、実施例1、3、4と同様の工程を経て軟化されたコンブは、コンブの軟化と外観・形状の保持を両立したものであることが確認できた。
【0081】
[試験例2]
軟化されたコンブを調味液によって調味し、調味後のコンブが軟化された状態等を維持しているかを確認した。試験例としては、次のA.B.(以下、本実施例において、単にA、Bと示す場合がある)の2例を行った。
コンブの軟化には、上記<試料>1.1)(1)のコンブと、工程1.で以下の処理液を調製した以外は、実施例1と同様に行った。
<処理液>
Bacillus属由来のプロテアーゼ(至適温度;70℃)を、その含有量が1wt%となるように上記<試料>2.3)(1)のリン酸−クエン酸−ナトリウム混合水溶液(pH6.4)に溶解し、さらにトレハロースをその含有量が10wt%となるように溶解したものを処理液とした。
【0082】
試験例1と同様に調製した調味液Aと、次の調味液Bを使用した。
<調味液B>
「追いがつおつゆ(2倍濃縮)」(株式会社ミツカン)と水と「すし酢」(株式会社ミツカン)を重量で1:1:1の割合で混合した。そこに、介護食として喫食されることを想定してネオハイトロミールIII(株式会社フードケア)を1.2%溶解し、とんかつソース状のとろみを付与して調製した。(調味液Bは、室温(約20℃)で測定した際にpH3.6であった。)
上記で製造した軟化されたコンブに調味液A(pH5.1)または調味液B(pH3.6)をまんべんなく掛け、室温で30分静置したものについて、それぞれ上記<評価>に示した方法で評価し、その結果を表7に示した。表7の上段は処理液の組成(水溶液の種類)、中段は調味液のpH、下段は評価結果を示している。
【0083】
【表7】
【0084】
表7に示されるように、軟化されたコンブは、調味液Aまたは調味液Bによって調味した場合でも、外観・形状に変化は認められないものであった。
また、いずれも舌に軽く力を入れると潰せるような軟らかさを有するものであり、かたさが50,000N/m
2以下であった。
これらの軟化されたコンブはとてもなめらかで、口腔内に残留しない、と感じる食感を示し、軟化前のコンブの風味に対して僅かな風味の変化ありと感じるが、共にコンブであると認識できる味を示すものであった。
したがって、これらの結果から、本発明によって得られる軟化された海藻は、異なるpHの調味液で調味した後も軟化された状態等を維持していることから、ヒトや動物が摂取できる様々なpHの調味液を使用して調味することが可能であることが確認できた。
【0085】
[実施例5]
実施例5では、実施例1と同様に、上記<試料>1.のうち、1)(2)の真コンブ、(乾燥)、(3)の日高コンブ(生)、(4)の日高昆布(湿潤)、2)のワカメ(乾燥)、3)(1)のヒジキ(乾燥)、(2)のヒジキ(冷凍)、4)のモズク(調味済み)、または5)のメカブ(調味済み)の各海藻を軟化し、軟化された海藻A.〜H.(以下、本実施例において、単にA、B、C、D、E、F、G、Hと示す場合がある)を得た。
<処理液>
Bacillus属由来のプロテアーゼ(至適温度;70℃)を、その含有量が1wt%となるようにリン酸ナトリウム水溶液(pH8.0)に溶解し、さらにトレハロースをその含有量が10wt%となるように溶解したものを処理液とした。
【0086】
上記で製造した軟化された各海藻について、それぞれ上記<評価>に示した方法で評価し、その結果を表8に示した。表8の上段は各海藻の種類、下段は評価結果を示している。
【0087】
【表8】
【0088】
その結果、表8に示されるように、実施例5のA.〜H.において軟化された海藻はいずれも、外観・形状にやや変化が認められるものの、各海藻そのものの自然な外観・形状を有すると認識できる範囲内のもの、または、外観・形状に変化は認められないものであった。
また、舌に軽く力を入れると潰せるような軟らかさを有するものであり、かたさが50,000N/m
2以下であった。
これらの軟化された海藻は、なめらかで、口腔内への残留が少ない、または、とてもなめらかで、口腔内に残留しない、と感じる食感を示し、軟化前の各海藻の風味に対してほとんど変化していない、または僅かな風味の変化を感じるが、海藻であると認識できる味を示すものであった。
なお、フノリ(乾燥)を同様に処理した場合も軟化され、舌に軽く力を入れると潰せるような軟らかさを有する軟化されたフノリが得られた。